とある魔術の未元物質
人気第四位 タケノコの筋肉
―――絶えず力を新たにして新しい道を求める事、これこそが、いつの世にも進歩の秘訣だ。
人間というのは人間である限り新しいものを求めずにはいられない生き物だ。世界最速で飛ぶ飛行機を開発したのなら、もっと速い飛行機を開発せざるにはいられない。最新機器が出たのならそれを手に入れずにはいられない。年が若い者ほどこれが顕著であり、そういった「新しいもの」を求める心こそが世界を進ませていく。
「な、なんだ……」
学園都市にある廃ビルの一つで、銃火器で武装した一人の男は目の前で起きている惨劇に呆然とした。彼の所属している暗部組織は学園都市の支配から脱却するため、資金をやりくりし力を蓄えてきたのだが、その目論見はたった一人の馬鹿によって消え去ろうとしていた。
「ふんッ! このスヴャトポルク=コンスタンティン=ボグダノフ=ベレゾフスキーの前に軟弱なる弾丸が通用するかぁぁああああああおんどりゃああああああああああああああああああああああああああッッ!!!
手榴弾が、ライフルが、対戦車ミサイルが、あらゆる武器による弾幕がただの『筋肉の鎧』によって弾かれ無為と化していく。
悪夢だ。
銃弾含めた人類の知恵が生み出した武器の数々が、ただの人間の肉肌に防がれるなど悪夢以外のなにものでもなかった。
そんな彼等の絶望など全く思考に入れず、理不尽と筋肉の塊であるタケノコ頭の男――――――スヴャトポルク=コンスタンティン=ボグダノフ=ベレゾフスキーは進軍する。
「畜生ぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉお!」
最後の抵抗とばかりに男はスヴャトポルク=コンスタンティン=ボグダノフ=ベレゾフスキーに手榴弾を投げつけた。しかし信管を抜いた手榴弾が炸裂するよりも早く、スヴャトポルク=コンスタンティン=ボグダノフ=ベレゾフスキーの強烈なパンチが男の頭を吹き飛ばしていた。
そして炸裂する手榴弾。爆風を背中に浴びながらもスヴャトポルク=コンスタンティン=ボグダノフ=ベレゾフスキーには傷一つない。彼の筋肉の鎧はもはや戦車の装甲を倍にしたものよりも上回る。たかだか手榴弾如きでやられる筈がなかった。
「ふぅん!! 軟弱者共がッ! 歯ごたえのない奴等ッ!!!」
スヴャトポルク=コンスタンティン=ボグダノフ=ベレゾフスキーは死者となった元反逆者を見下ろすとつまらなそうに鼻を鳴らす。
元々はスキルアウトの一匹狼でしかなかったスヴャトポルク=コンスタンティン=ボグダノフ=ベレゾフスキーがこうして学園都市の反逆者を始末しているのには理由がある。以前、スヴャトポルク=コンスタンティン=ボグダノフ=ベレゾフスキーはとある事情から学園都市外への脱走を図り、それを邪魔しにきた『アイテム』と交戦し、イレギュラーな援軍がいたこともあり敗北したことがあった。その一件で学園都市に捕えられたスヴャトポルク=コンスタンティン=ボグダノフ=ベレゾフスキーは懲役刑を免除する代償として学園都市暗部に堕ちることとなったのだ。
しかしスヴャトポルク=コンスタンティン=ボグダノフ=ベレゾフスキーは別に暗部組織に堕ちたことを後悔してはいない。常に筋肉を傷めつけ筋肉を鍛えあげ、筋肉と語らい、筋肉を強化し、筋肉と共に戦うことを至上の悦びとするスヴャトポルク=コンスタンティン=ボグダノフ=ベレゾフスキーからしたら、多くの強者と戦う事が出来る暗部組織に堕ちるのは寧ろメリットのあることだった。そういう意味では自分を倒した能力者に感謝すらしているくらいだ。無論、次に会えば相応のお礼はする算段であるが。
だが悲しいかな。
暗部組織に堕ちても中々スヴャトポルク=コンスタンティン=ボグダノフ=ベレゾフスキーを満足させる強者とは巡り合うことが出来なかった。どいつもこいつも中途半端な能力者や徒党を組んで何かするしか出来ない軟弱者で、スヴャトポルク=コンスタンティン=ボグダノフ=ベレゾフスキーと一対一で勝負しようという根性のある奴はいなかった。
「やはりこの俺の筋肉を充足させてくれる漢は、あの第七位くらいしかおらんのか!! まったく近頃の若いもんは!! なにがインドアだ!! なにがゲームだ!! なにがネトゲだ!! 男の遊びといえば相撲と筋トレと相場が決まっているだろうに!!!」
スヴャトポルク=コンスタンティン=ボグダノフ=ベレゾフスキーはそう豪語するが、それは大いに間違った認識である。日本でメジャーなアウトドアな遊びといえば鬼ごっこ、ドッチボール、サッカーなどであり断じて相撲と筋トレではない。
とはいえスヴャトポルク=コンスタンティン=ボグダノフ=ベレゾフスキーと一対一で勝負するような人間が少ないというのは事実だ。暗部組織に堕ち、その肉体を改造され強化されたこともありスヴャトポルク=コンスタンティン=ボグダノフ=ベレゾフスキーは平均的LEVEL4の範疇を大きく超えている。それこそ学園都市に七人しかいないLEVEL5にも匹敵するほどに。だからこそ敵対者も作戦を考え、大人数でスヴャトポルク=コンスタンティン=ボグダノフ=ベレゾフスキーを袋叩きにしようとしてくるのだが、スヴャトポルク=コンスタンティン=ボグダノフ=ベレゾフスキーはそれが気に喰わない。
男ならタイマン。タイマンこそ至上。
スヴャトポルク=コンスタンティン=ボグダノフ=ベレゾフスキーはロシア出身の癖して、古き日本の番長みたいな感性の持ち主だった。
「……科学の街ならば、さぞかし熱い筋肉の持ち主がいるのだろうと思いロシアから留学してきたが、目ぼしい筋肉は第七位だけ。選択を誤ったかもしれんな」
学園都市から脱走しようとしたのも、新しい筋肉の持ち主が外の世界にいるような予感がしたからだ。ちなみにスヴャトポルク=コンスタンティン=ボグダノフ=ベレゾフスキーの脳細胞に至るまでが筋肉な頭には許可を取り学園都市から出る、という選択肢は存在しなかった。
「ジャッジメントですの!」
そんなスヴャトポルク=コンスタンティン=ボグダノフ=ベレゾフスキーの下に一人の少女が現れる。筋肉という観点では非常にひ弱と言わざるをえないものの、並みの成人男性を三倍したよりもタフな精神をもつ風紀委員が。
「……んぅ〜〜? 誰が小娘!!」
「見てお分かりにならないかしら、筋肉達磨さん? ジャッジメントの白井黒子ですの」
そう言うとツインテールの少女は腕にある腕章を見せつけてくる。緑色の淵に盾のマーク、これは学園都市の治安維持組織の一つ『風紀委員』に所属していることを示すものだった。
「偶然通りかかった場所で不自然な交通封鎖。気になって来てみれば…………随分とデカいヤマに遭遇してしまいましたの。まさか殺人とは」
白井は無残な死体となり転がっている反逆者に目をやると、キッとスヴャトポルク=コンスタンティン=ボグダノフ=ベレゾフスキーを睨んだ。
「小娘ぇ! このスヴャトポルク=コンスタンティン=ボグダノフ=ベレゾフスキー、命を懸けたタイマン勝負は大好物だが、一番嫌いなのは弱い者苛めだ!! 失せろがきんちょ!! 俺はお前の様に筋肉のない餓鬼を甚振る趣味はない!!」
もっと言えば暗部組織に属するスヴャトポルク=コンスタンティン=ボグダノフ=ベレゾフスキーが表側の治安維持組織に属する人間を殺す訳にもいかないという理由もあるのだが、そういう理屈は彼の頭にはない。あるのは筋肉があるかないか、強いか弱いかくらいだ。
「弱い、とは籔から棒に失礼なことを言いますわね。この学園都市では腕力=強さでないことを教育して差し上げますの! スヴャトポ……ええぃ、長すぎますの! 頭の形がタケノコなのでタケノコでいいですもう! タケノコ、貴方を殺人の現行犯で逮捕しますの!」
「馬鹿な小娘がぁ!! このスヴャトポルク=コンスタンティン=ボグダノフ=ベレゾフスキー、弱い者いじめは嫌いだが、挑まれたタイマンを拒否するのは大嫌いだッ!! いいだろう白井黒子!! この俺の筋肉ってやつを、お前の小っこいおっぱいに刻み付けぇぇぇいいぃぃいいぃ!!」
「セクハラを罪状に追加しますの!」
スヴャトポルク=コンスタ…………もといタケノコはその巨体に似合わぬトラックのような速度で白井との距離を詰めると、その岩石のような腕を軽く一閃する。ただの人間がやれば単なるスキンシップの一貫のような力しかならないそれも、身長260cm体重330kgの筋肉の塊であるタケノコがやれば人一人の意識を刈り取る一撃にも化ける。白井もそのことはタケノコの巨体を見ていて察しているのだろう。タケノコの腕が直撃する前にその体をいずこかへと飛ばした。
白井が唐突に消えた事によりタケノコの腕は空しく空を切る。
「……ジャッジメントというのは伊達じゃあないようだな!! 筋肉こそないが、能力だけはちょいとあるようだ。知ってるぞ!! 空間移動! 自分を移動させたり、コソコソ物体を転移させるしかできない軟弱な能力!!」
「軟弱で悪かったですわね!」
タケノコの背後20mに空間移動した白井は、スカートの下に潜ませた針をタケノコの足に空間移動させた。白井の空間移動は元からある物体を押しのけるように物体を転移させるため、紙切れでもダイヤモンドを切断することが可能なのだ。ただの針を幾ら飛ばそうとタケノコの筋肉の鎧は突破できないが、空間移動による転移なら防御力なんてものは無視できる。
本当はジャッジメントである白井は犯罪者といえど出来る限り傷つけず、壁に貼り付けるなどという方法で拘束したかったのであるが、タケノコが壁に貼り付けられたくらいで止まるような男とは思えなかったが故の選択だった。
「ぬぅ! アシに針を転移させたかッ!! だが、ぬぅぅぅぅぅうん!!」
あろうことかタケノコは自分の足に手を突っ込むと、足の中に転移した針を抜きだした。
「なっ! 正気ですの!?」
流石にタケノコがそんな蛮行に出るとまでは予想できなかったらしく、白井は驚愕で顔を歪める。しかしタケノコはどこ吹く風だ。
「自分を傷つけるのを怖がるとでも思ったかぁぁああ!! 否ぁぁあああ! 真のタイマンとは相手を傷つけることだけに非ず! 己が筋肉を傷めつけることでもあるんじゃああああああああああああああああああああああああ!!」
片足を損傷したタケノコだったが、そんなものを全く感じさせない俊敏さで再び白井との距離をつめる。驚きで思考が空白になっていた白井は対応するのが遅れる。既にタケノコは白井が空間移動に必要とする演算を完了させるよりも速い速度で攻撃を叩き込める場所まで近づいていた。
「ふん、ぬらぁ!!」
とはいえタケノコも一般人で年端もいかぬ少女である黒子をグロイ肉の塊にするのは抵抗があったのか、その拳を直接叩き込むことはせず拳圧で吹き飛ばすに留まった。
「うっ!」
それでも中学一年生である白井にとっては十分すぎるほど攻撃力となった。拳により生み出された風圧で廃ビルの壁に背中を撃ちつけた白井はゴホッと咳き込みながら床に崩れる。
「そういや旦那が事後処理が面倒だから一般人には極力手を出すなとか言っていたからなぁ〜。餓鬼、お前は見逃してやる!!」
「ま、待ちなさい! この私が貴方のような腐った犯罪者を、このまま行かせるとでも思いましたの! まだ勝負は終わってませんわ! まだ私は生きている! 足も手もまだ動く! 生憎、貴方如きの軟弱な拳でやられるほど軟な鍛え方はしてませんわよ」
ボロボロの体で、それでも白井は立ち上がって見せた。それを見たタケノコから侮りの色が消失する。
「フン。中々どうして、根性がある!! 小娘ぇ! 白井黒子とか言ったな。いいだろう俺の筋肉の力、地獄への土産話に持って行け!!」
タケノコが今度は本気で拳を握りしめる。タケノコはフェミニストではないが、ある程度女性を労わるような気持ちは持ち合わせていた。だがそれも真剣勝負のタイマンと比べれば、鼻息で吹き飛ぶほどの申し訳程度のものでしかない。
タイマンとは己が全てを出して行う神聖なる行為。そこで手を抜くのは自らの筋肉を穢す行為だとタケノコは考えている。
今、タケノコは白井黒子の根性を認め対等な敵と認識した。ならばもはやタケノコが手を抜くことは有り得ない。相手が中学一年生の女子生徒であることなど関係なく、タケノコは全力をもって白井黒子を殺しにいくだろう。それを白井も何となく察したのか、悲愴な表情で無数の針を握りしめる。とはいえ実力差が有り過ぎる。白井が弱い訳ではない。しかし白井は風紀委員であるため、どうしてもタケノコを殺すための戦術はとれないのだ。故にタケノコのような脳天を吹っ飛ばさない限りは匍匐前進してでも戦いを続行するようなタフさをもち尚且つ殺しにかかってくる相手は不利だ。
敗北は必至。
このままでは白井の命の灯が消えるのは覆せない運命にあった。
「――――――――――たっく、またアンタは私に黙って一人で頑張って」
しかし新たなる第三者の登場がその運命を覆す。
廃ビルの壁がバラバラに破壊され、電撃の槍がタケノコの背中を襲った。
「ぬ、ばばばっばばばば!!」
筋肉の鎧は単純な打撃には滅法強いが、電撃にはやや弱い。根性と筋肉で地面に倒れることこそはしなかったが、タケノコの動きが痺れにより一瞬停止する。その間、白井と同じ学校の制服をきた茶色いショートヘアの少女が白井を守るようにタケノコの前に立ち塞がっていた。
「私の後輩が世話になったようね、このタケノコ頭」
パチパチと頭のくせっ毛に電撃を帯電させながら少女―――――――学園都市に七人しかいない怪物の一人が威嚇する。
「この落とし前、付けて貰おうかしら!」
言うと少女は電撃の槍を三つ、タケノコ目掛けて投擲した。並みの電撃使いが三人がかりでも出せないような出力の電撃を前にしたタケノコは、しかし恐れる事はなく躱してみせた。タケノコの持つ能力『最強筋肉』は肉体操作系の亜種で、自分の筋肉をパワーアップさせることしか出来ない単純な力である。だが単純だからこそ、弱点らしい弱点は殆どといっていいほどない。
タケノコが元々かなり強靭な肉体の持ち主であったこと、暗部組織により肉体改造を施されたことにより、その速度に目を向けても第七位にも引けを取らないくらいには仕上がっていた。
「その力!! その顔!! 知ってるぞ!! 貴様ぁ!! 学園都市の第三位、トキワシティだかトキワノモリだとかのLEVEL5!! 御坂美琴だなこのアマがぁああああああああああああああああああああああああああああ!! これは幸先が良い!!」
「常盤台よこの筋肉馬鹿! 真っ黒焦げになりなさいッ!」
強烈なる電撃がタケノコの体を襲った。普通なら御坂がこの出力で電撃を放てばLEVEL4だろうとLEVEL0だろうと一人の例外を覗けば昏倒するものなのだが、タケノコはその人間離れしたタフネスさで耐えきっていた。
「く、ぐははははははははははははははははははははははは!!! こんなものか学園都市の第三位ってのはぁああああああああああ! こんなもん戦闘の電気風呂にも劣る痺れ具合だぁああああああああああああああああああああ!!! 貴様の『超電磁砲』とか言う二つ名は飾りかぁああああああああ! 第三位の名が泣くぞぉぉぉおぉぉおぉぉ!!」
「……ッ! そう、お望みなら喰らわせてあげるわよ!」
このまま電撃を放出し続けても効果は薄い。そう悟った御坂は懐からゲームセンターのコインを取り出す。学園都市の第三位、御坂美琴の代名詞。威力を抑えてもプールの水を根こそぎ吹き飛ばすほどのエネルギー。
「喰らいなさいッ!」
御坂がコインを弾く。電磁加速を与えられたコインは指から弾かれると、音速の三倍を軽く超える速度でタケノコ目掛けて殺到した。
「ぬぅぅううぅぅうぅん!! 筋肉エネルギー500万%ぉぉぉお!!!」
そのパワーを前にしタケノコもまた自分の能力を限界まで使い、自らの筋肉を最大限まで強化する。
ぶつかり合う筋肉とコイン。バチバチと一肌を焼く音がする中、タケノコは驚くべきことに超電磁砲の直撃を受け止めていた。
「ぬぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
廃ビルに轟くタケノコの雄叫び。
超電磁砲と筋肉、二つの激突は廃ビルの床を弾き飛ばしながらも続く。
「ぬぉぉおおおおおおおおおおおおお!!!」
一般にLEVEL4とLEVEL5の間には絶対的な壁があるとされる。LEVEL4は学園都市においてエリートとされるものの、エリート校には相当数のLEVEL4が在籍しているし、そこいらの学校にも一人か二人はいたりする。それに対しLEVEL5は230万人の学園都市の中にたった七人しかいない。だがタケノコはその壁を超える。この世界には超能力を超える筋肉があるのだとタケノコは信じていた。
「ぐぉおあおああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
そして奇跡は起きる。御坂美琴が誇る超電磁砲が、タケノコの筋肉を貫くことが出来ないままに地面に落ちたのだ。
カラン、と焼け焦げたコインが転がる音が無慈悲に廃ビルに響く。
「う、うそ」
自分の必殺と信じる攻撃が単なる筋肉により防がれたという事実に、御坂は一瞬呆然気質となる。だがそれも一瞬のことだった。
「……フ、見事だ………これが、第三位の御坂美琴………学園都市…広いな。まだ…俺の知らぬ漢がいたか…まだ、棄てたものじゃ…な」
力尽きたタケノコがバタンと倒れた。
タケノコの体は能力の限界までの酷使と超電磁砲を受け止めたことにより既に限界だったのだ。寧ろ超電磁砲を受け止め、言葉を交わす余力があったというだけでも驚愕に値する。
「……褒め言葉は嬉しいんだけどさ、誰が漢よ馬鹿!」
意識のないタケノコに怒りで頬を僅かに染めながら怒鳴る。
御坂美琴、十四歳。花も恥じらう乙女である。
タケノコとの激闘から数日後。
学園都市第三位のLEVEL5である御坂美琴と後輩である白井黒子は、風紀委員の詰め所で黒子と同じ風紀委員でもある少女、初春飾利を交えてパソコンと睨めっこしていた。
「やはり不自然ですの。あのスヴャトポルク=コンスタンティン=ボグダノフ=ベレゾフスキーという男。私とお姉様で逮捕したあの男を警備員に引き渡し豚箱に連行した所までは良いですの」
しかしその後、タケノコを連行していた警備員達が何者かに襲撃されタケノコは強奪。そのまま行方は依然として知れない。
それだけならタケノコの仲間である犯罪者組織が仲間を救出して来たのだと推理できる。問題なのはその後だ。
「うーん、警備員のバンクをハッキングして調べましたけど、やっぱりそのスヴャトポルク=コンスタンティン=ボグダノフ=ベレゾフスキーとかいう人を警備員が行方を捜索してるって情報はありません」
「……そう」
初春の言った言葉に御坂が嘆息する。
LEVEL5としてそれなりに学園都市のことを知る御坂には何となくの想像はついた。あのタケノコは学園都市上層部となんらかの関係があったのだろう。
絶対能力進化実験。自分のクローン二万体を二万通りの方法で、第一位のLEVEL5に殺させることにより第一位をLEVEL6へシフトさせる計画。その時も統括理事会は実験が非合法なものであることを知って放置していた。
「しかもあのタケノコ頭に殺された被害者の方々の情報も一向に出てきませんし、あれだけの大事件なのにニュースにすらなってませんの。固法先輩を通じて警備員にも訴えていますが」
警備員が動く気配は一向にない。現場の人間は動く気でいるというのに、何故か知らないが上がGOサインを出さないそうだ。
「ですが逃がしませんの。あのタケノコ頭を必ず捉えて豚箱に叩き込んでやりますの!」
黒子は覚えている。あの廃ビルに無残に殺されていた人々のことを。腕がもげていた死体もあったし頭が丸ごと握りつぶされたようなものもあった。
TVで連日放映されている凶悪犯罪が軽犯罪だと錯覚してしまうような規模の残虐なる殺しの後。風紀委員としても一人の人間としても、あんなことを平然とやってのける人間を野放しには出来ない。それが黒子の正義である。
「すみません。風紀委員の第177支部というのはここで良かったかな。」
しかしそんな必死の捜索は急な来訪者によって中断することとなった。
風紀委員の詰所のドアの前にいるのは若いブロンドの男。年の頃は二十歳……いや、それ以下。高校生というのは大人びているものの大人というには若すぎる。入学したての大学生、というのが一番しっくりくる。
「ええ。ここは第177支部で間違いありませんけど、何か御用ですの?」
黒子の問いに対しにこやかに男は優雅に一礼してみせた。
「それは良かった。この辺りには来た事がないので、間違ってたら恐いですからね。おっと自己紹介が遅れました。ヴァレリー・木原・シャルパンティエと申します。以後お見知りおきを」
「は、はぁ」
見知らぬ男の挨拶に黒子は適当に相槌を打つ。
「訊く所によると……なにやらスヴャトポルク=コンスタンティン=ボグダノフ=ベレゾフスキーを逮捕しようと嗅ぎまわっているようで」
「……ッ!」
御坂、黒子、初春の顔が一斉に強張る。
やたら長くて覚えにくい名前。これが朗々と出てきたということはこの男の正体は二通りしかない。一つは報告した警備員、またはその関係者。もう一つはタケノコと同じ犯罪者である可能性。
「そうハトがライフル突きつけられたような顔をしないで。何も私は貴方達をぶち殺しにきたわけじゃあないんです。ただ……平和的に話し合いをしにきたんですよ」
「話し合い?」
「単刀直入に言うと迷惑なんですよ。一般人がこちら側のことに首を突っ込むのは。警備員や風紀委員に手をまわして捜査をストップさせるにしたって金がかかるんです。死体の処理だけでも面倒だというのに、これ以上私の仕事を増やさないで欲しいんですよ」
「ふ、ふざけてるんですの!? 捜査をストップさせるのに金が掛かる? 死体の処理が面倒? 仕事が増える? そんな下らない理由で殺人犯を見逃せと、そう仰るんですの!」
「…………」
「そもそも貴方、そういう言い方をしたと言う事はあのタケノコ頭の裏で糸を引いている人間ですわね。寧ろ好都合ですの。先ずは貴方を尋問し、あの男の事を――――――」
「ピーチクパーチク五月蠅ぇんだよ、このモルモットの雌共がッ!」
好青年そのものといった風に柔和な笑みを浮かべていた顔が、まるで狂気に侵されでもしたかのように一変した。今までの丁寧な口調とは180度真逆な乱暴な口調に黒子達が固まる。
「低劣で下劣なモルモット共にも分かり易いよう、こっちが丁寧に説明してれば頭に乗りやがる! 貴様等ゴミ共の正義感なんぞ知った事か!」
「な、なんですって!?」
「統括理事長から止められなければ、貴様等全員纏めて地獄の最下層で研究者共の解剖素体にして処理しても良かったのを、こうして私が直々に出向いてやっているんだ。貴様等は私の話に感涙し感動しながらただ唯々諾々と聞けばいい! 私からの命令は二つだ、これ以上我々の事を嗅ぎまわるな。我々の情報をペラペラ喋るな。そして要望は一つだ。死ね!」
「LEVEL5を前にして、そこまで言ったってことは、しっかり事前に遺書を書いてきたんでしょうね」
御坂が会話に入り言った。シャルパンティエという男からは見た限り戦いの気配というものがない。いや、そういう連中特有の物騒さは先程ぶちまけてはいるのだが、自分から戦場にいって戦うという臭いがないのだ。寧ろ自分は安全な場所で安楽椅子に座りシャンパンを楽しみながら虐殺命令を下す、そんなイメージだ。ならばシャルパンティエにLEVEL5の第三位である御坂美琴に抵抗する力はない。
「おやおや誰かと思えばLEVEL5の第三位『超電磁砲』。名前はたしか……御坂美琴。その節はどうも。君の遺伝子のお蔭で我々色々と楽をさせて貰っているよ」
「あんたっ!」
「しかし能力者でもないか弱い一市民である私に、君のようなモンスターを相手する術はないな。だが私にも使える駒というのはある。仕事だ! 劉白起ッ!」
突如、シャルパンティエの立っている床の真ん前になにか魔法陣の様なものが出現する。魔法陣は鈍い光を放ちながら点滅すると、そこから一人の東洋人が湧き上がってきた。
「よう、仕事かい」
その東洋人はシャルパンティエとは別の意味でやばそうな男だった。シャルパンティエには欠片もなかった戦場の臭いというのを劉白起という男は分かり易いほど濃密に発している。
息をするようにあっさりと。
雑草を踏みつぶすよりも躊躇なく。
自然に人を殺すような男。
御坂の第一印象はそれだった。
「用件は伝えたモルモット共。もしも以後、嗅ぎまわるようならば然るべき制裁が加えられることを忘れるな。例えば……例の実験のクローンを捕まえて犯させ尊厳とかいうものを踏み躙り拷問し解剖しそれを貴様に送りつけるという趣向は良いだろうな。御坂美琴」
「!」
その光景が想像できたのか御坂は傍目にも分かるほど顔を青くした。
「行くぞ劉白起。ここには用はない」
「へいへい」
「待ちなさいッ!」
黒子が呼び止めるが、二人は見向きもしない。劉白起と呼ばれた男がニタニタと黒子達を嘲笑うかのように見下ろすと、どんな能力を使ったのか。床に見た事もない文様が出現したかと思うと二人の姿はその場から消失してしまった。まるで黒子と同じ『空間移動』でも使用したかのように。
「あれが――――――学園都市の闇」
ポツリと黒子が呟く。表側の治安維持組織とは真逆の暗部。裏のゴミ処理屋。
黒子は今まで見えなかった姉と慕う人の悩みが垣間見えたような気がした。
…………タケノコの短編が終了しましたが今はそれよりも重要なビッグニュースがあります。
そう読者の皆様もお分かりでしょう。どうして「ご飯の上に焼肉をのせて食べると美味さが十倍になるか」ということです。私はこれについて長年研究を重ね漸く深淵たる解答の一欠けらに触れることが出来たのでお伝えさせて……………え? 焼肉なんてどうでもいい? にじファン閉鎖の話しをしろって?
うぉっほんっ! それでは気を取り直してにじファン閉鎖についてお話します。2012年7月4日……にじファン閉鎖。この日について私は七十%の暴走と二十パーセントくらいの気紛れ、十パーセントのお茶目でにじファン名無しの日と勝手に命名します。ネームレス・レクイエムです。サラダ記念日の如く今日という日を名無し記念日に………え? 記念日なんざどうでもいいって?
ふぅ。今度こそ真面目は話をしましょう。現実が信じられない余り変な方向に話を脱線させてしまいました。すみません。
思えば「反逆しない軍人」を書き始めてから幾年か。長いような短いような日々でした。
多くの読者の皆様が懸念しておられるのは、恐らく本作品がこれからどうなるかということでしょう。沈みゆく豪華客船と運命を共にするキャプテンのように、にじファンと運命を共にするのか。それとも旧大陸を飛び出し新大陸へと逃れるのか。
一応「とある魔術の未元物質」は一般に地雷要素とされる「オリ主、アンチ、ヘイト、神様、原作蹂躙、主人公劣化、ハーレム、クロス蹂躙、SEKKYOU」は含まれていないので、たぶんそこまで受け入れ拒否とかには……ならないと思います。台本形式は人気投票の結果発表の一部ですしたぶん大丈夫でしょう。
あれ? でもここで消してしまえば私自身の短編を上げずに済むのでは、と思った私を赦して下さい。
移転先の候補としては第一候補に「反逆しない軍人」がお世話になっているシルフェニア様。第二候補で作者が別名で投稿した経験のある理想郷。第三候補は……未定です。
とはいえいきなり引っ越しはしません。
私自身の都合も勿論ありますが、第一候補のシルフェニア様は管理人様が手作業で上げておられるので、いきなり100話を超えるものがお邪魔しては迷惑になると思います。それにシルフェニア様に引っ越すとなると早急に「とある魔術の未元物質」を削除しなくてはいけませんしね。他にシルフェニアに移転しようと思う方もいるでしょうし。実際シルフェニアの方を見てきましたが…………かなり大変な状況のようでした。なので移転するにしても騒ぎがある程度収まって、出来る限り受け入れ先が都合が良いだろうと思う日にすることになります。取り敢えず20日まではここにupするのでそこはご安心を。……クッ、強制削除なら私の短編をあげずに済んだものを!
それでは、皆さん。また会う日までさようなら。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m