◇ 3年後 ◇





白さに囲まれた部屋。
開け放たれた窓。部屋に入る僅かな風。揺らめくカーテン。
その全てが清潔な光の色で統一されていて――それゆえに,そこが病室だという事実を端的に表している。


窓の傍。
そんな場所に設置されたベッドに横たわっているのは,一見どこにでも居そうな青年だ。
黒目に少し癖のある黒髪,だが瞳に宿る光ははどこかぼんやりとしている。

眺める先は,光の溢れる――空。
空の彼方。

何を思い,どこを見ているのだろうか――?




コンコン


唐突に響いたノックに,青年――天河アキトの瞳が つい とそちらに向けられた。
のろのろと体を起こして,「どうぞ」と告げる。
入ってきた人影を見て――いや,察して心なしか彼の表情が穏やかになる。

「――ラピス」
「こんにちは,アキト。」

淡々とした態度のラピスだが,アキトには唯一感じられる感覚の拠所で。
ベッド脇の椅子に座ると,ラピスは視線を,もうバイザーを掛けていない素顔のアキトにあわせて,

「具合,どう?」
「うん,悪くない。」

投げかける言葉と,応える言葉。
そのどちらも短くて・・・でもそれ以上必要ではなくて。

心地よい沈黙と,穏やかな日差し。
ラピスは大きめの手提げからリンゴと果物ナイフを取り出して,しゃりしゃりと皮をむき始めた。

しゃりしゃり 

 しゃりしゃり
 
リンゴの球状の表面をなぞる様に,慣れた様子のその手際。
穏やかな"日常"と題するに相応しい,そんな非日常がそこには広がっていて。


自然と笑みを浮かべるアキトは・・・
ただただ,束の間の幸せを甘受する。











機動戦艦ナデシコ 外伝


 grief will lessen with the lapse of time


Written by サム













◆ 告知から2週間後のある夜 ◆


一連の出来事は,当事者達がそれを理解するまでもなく終わっていた。
全てには流れがあり,その中でもがき苦しんだ者達が――当事者に相当する人間だった。

誰もが。
その"歴史"とただ一言,そう呼ばれるためだけに起こったその事件の中で,なにも理解することなく状況に流され。
――結果として多くの人間が死に。
多くの人間が傷つき。
そして,その事件の重要性と,犠牲者の数故に残された(・・・・)『記録』――それが"人類の 起こす最初の惑星間戦闘行動"から連なる連続事象。



戦争。
人と人との争いが起こった。

人同士で禍根を持ち。
生きる為に,守る為に。積もる怨念。過去の記録は忘却の彼方へ。
利権。
闘争。
人間の未来は?
人類の未来は。

遺産。
太古から眠っていた秘宝。

――争いは争いを呼び。
・・・・憎しみは憎悪と怨念を引き寄せる。

力は代償を求め,ただ奪われるだけに終わらない――そんな強烈な意思によって,男は両足まではまっていた地獄から,苦しみの続く現世へと舞い戻った。


怒り。
憎しみ。

そしてほんの少しの未練と,それより僅かに小さな過去の幸せ。


万華鏡のように千変するセカイ。

(・・・て)

散り散りになる過去の景観。

(・・・まて!)

俺の元から離れてゆく,在りし日の幸せの象徴(・・・・・・・・・・・・・・・・)――

(行くな!)

去り行く人影。
大切だった幼い頃の思い出。

(俺を一人に,)

こちらに背を向けて,光に向かって歩み去る背中。
宝石のような充実していたあの日々。

(一人にしないでくれよ!)


――光。
先ほどまでとは違ってそれほど強くはないけれど・・・
確かに自身を示してくれる。
そんな仄かで小さな――でも,確かなその灯火すら俺の元を去り行き――

悲しげな笑顔が。
薄い赤色と共に。


(――!)



 ◇



「行かないでくれ!」

叫んで飛び起きた。
全身を冷や汗が流れている。

真っ暗な病室――外は相変わらず吹雪。
荒く息を吐く影は,やがてその呼吸を整えて・・・どさりと背中からベッドに倒れこむ。


「――なん,だったんだ・・・」

心底参った。


――あれから一体どれくらいの時間が経ったのだろうか。
気だるい体に霞掛かったような意識でもってアキトは先ほどの事を思い出していた。



夢。
・・・夢だったんだろうか,とアキトは思う。
今この時点で,既に十二分に後戻りは出来ない状況にあるのだが――

過去は過去のまま,人間の記憶に埋もれ。
記憶は記録として残り,時に人はソレを歴史という大層な言葉で呼び。
悲しみの繰り返しでしかないそれを,後生大事に何時までも抱え続けるのだ。

記憶とはつまり,悲しみであり。
歴史とはつまり,人類という種の慟哭なのではないか。

一人一人の悲しみが,歴史という嘆きを作る。
嘆きはやがて人々に帰り,愚かと解りつつも――またそれを繰り返す。

幾ら過去に輝きがあっても。

今は過去ではない。
それはわかっている。

――自分は,すでに過去になっているという事を。


自分の元を去ってゆく影は,皆懐かしい人たちばかり。

それは自身の光で照らしてくれた。
それは共に在る中で本当の幸福を分かち合えた。

そして――それは真の絶望という嵐の中で・・・常にその行く先を照らし,支えてくれた。

もうじき,そのか細い灯火すら――アキトの元を去ろうとしている。
この希薄な体感覚を補助してくれている,ラピスラズリも,皆と同じように。

そして"過去"と成った自分は死蔵され。
思い出となって永遠を彷徨うに違いない――


「・・・・いやだ」

かたかた,と肩が震える。
カチカチ,と歯をうまくかみ合わせる事が出来ない――それは恐怖。

「いやだ,・・・一人はいやだ・・・!」

小さく呟く。
そして意識を内側へ――今はまだ"繋がっている"灯火の方向へと延ばし,

(********)

戸惑うように伝播する驚きの感情の色に,激しくなりかけた動悸が静まる。
胸の前で拳を握り,そっと心臓へと押し当て・・・

どくん どくん どくん・・・

自らの鼓動を感じ。
再び,意識の深奥から"あちら"へ手を伸ばして,"感じる"

もう一つの鼓動。
共に伝わってくる,戸惑いと喜色。

延ばした意識の手を握り返す,そんな"人らしい"温もりと共に。


(ありがとう,ごめんな)
(**********)

微笑のイメージ。
そっと離れてゆく感覚。
名残惜しいけれど,もう今夜は甘えるわけにも行かない。
それは,すこしだけ意地っ張りな男として。

スピリチュアル・リンケージ。
それがアキトとラピスラズリの――不確かであやふやな・・・でも今は確実に存在する"絆"と呼べる繋がりそのものだった。




 ◆ 告知日 ◆



「リンクを,解除する?」
「そう。」

その話は唐突だった。
イネス・フレサンジュは厳しい表情でもってアキトに相対している。
場所はネルガル重工総合研究室・室長執務室。
一般にはをラボと言うらしい。

「ラピスと貴方のリンケージは本来好ましいものではないと以前から伝えいたでしょう?」
「ああ。それは知ってる。たしか」

続けようとしたアキトの言葉を右手で遮り,

「ラピスの精神の成長へと与える影響が思った以上に大きいの。仮にこのままアキト君とリンクした状態でい続ければ――そんなに時間の経たない内に,ラピス はアキト君無しには精神活動の出来ないコになってしまうわ。」
「あ・・・」

その事実に思い当たらなかったのが不思議でならなかった。
なぜその危険性に思い至らなかったのか?

「そう,だな。俺も目的は果たした。ラピスを何時までも拘束することもないだろうさ」

・・・ちがう,そうじゃない。
俺は――

「わかった。ラピスとのリンク状態を解除してくれ。」
「…ほんとに,解ってる?」
「・・・? 何がだ?」

痛ましそうにイネスはアキトを見ている。
訝しげに聞き返すアキトに,イネスは。




「リンクの解除。それは――貴方の自由の喪失に他ならない,という事なのよ?」




 ◆



そもそも,ラピスラズリとの感覚共有措置というものは偶然の積み重なった産物に過ぎなかった。
と言うか,天文学的確率の織り成すまさに――奇跡だったのだろう。

原因は不明。
現象はきわめて単純。
全感覚を喪失した状態に置かれたアキトが,唯一その五感復帰の兆しを見せた全ての状況で――ラピスラズリが傍に居たというただそれだけの事実。

その不自然さに気付いたただ一人のドクターがイネスであり,二人が"ヤツラに囚われている間に体内に注入されたナノマシン"が同種もので,それらが共鳴す る事によって,感覚の異常なアキトが得た情報が感覚の正常なラピスラズリへと伝わり。
ラピスラズリの正常な感覚が補正処理した情報を,アキトが"体感"している,という理屈だ。
ラピスラズリは,アキト専用の感覚情報のアンプ,とも言えた。

その"性能"を引き出し,志向性を強め,アキトが日常生活どころか戦闘行動まで行えるようになったのは,単にイネスの知性の御かげに他ならない。
しかし,それは同時に。

冷徹なまでに,ラピスラズリを"部品"としてしか見なかった,という事になる。

無論その事に気付かないアキトではないし,当然のように激怒した。
ヒトとしての尊厳まで根こそぎにされたとは言え,彼の本質は悪ではない。
また,ラピスラズリが"思い出"の中に居る誰かを想起させることも,ファクターの一因には違いなかった。


"必ず元に戻す"

そう,ドクター・イネス・フレサンジュと物言わぬ孤独なラピスラズリにそう約束したのは,一時的ではあるが感覚の復帰した天河アキトだった。

精力的に動けるようになった天河アキトは,しかし基本的にラピスラズリの傍を離れる事は出来ない。
量子通信システムによる中継は可能だったが,アキトは――実の所ラピスを感じられるすぐ傍に居なければ,心穏やかで在れることは少なかった。

静かに目を伏せるラピスラズリ。
一見すれば彼女はアキトの言いなりのように見えるが――しかし実際にそんな事はなかった。
彼女は言葉では語らない。

彼女は,その瞳で多くの感情を表すからだ。
悲しみも,苦しみも,喜びも。


二人の時はとても多かった。
アキトはラピスラズリに様々な事を話して聞かせ,アキトの"楽しかった過去"に瞳を輝かせるものの・・・その話の終わりには,深い労りの感情でアキトを包 んでいた。

なぜなら,アキトは過去を話す際に必ず――泣くからだ。

そんな時は,ラピスラズリは必ず大粒の涙を静かに流すアキトの頭を優しく胸に抱き。
静かに撫でる。

言葉には何の意味もない事を知っているから。
ただ,行動によってのみ・・・癒せるものもある事を。

多分知っていたのだろう。


◆ 決断 ◆


迷いがなかった,わけではない。
でも,それは確かな約束で・・・違える事はできない大切なものだった。
少なくとも,アキトにとってはそういうものである。

「もともと俺の体はあの時・・・使い物になんか,ならなくなってた。でも今まで・・・ラピスと繋がってここまで歩いてくる事が出来たって,ただそれだけだ が――もう十分だ。」
「いいのね?」
「・・・迷いも悔いも残ってるさ。でも,俺はあの時,約束した。」

諦めたように,そうね。とイネスは零した。
事後承諾になるような形で二人の接続手術を行ったのは他でもない,イネス自身だった。
ラピスに関しての負い目もある。

この場では,口を挟める権利そのものがない。


「私は,いいよ。」

唐突にラピスが口を開いた。
意味が,取れない。

「私はアキトと繋がったままでいいって,言ったの。」
「何言ってるんだ,ラピス・・・?」

す、と上げた顔に浮かぶ表情は。
色白の肌,金色の瞳。長い長い薄紅色の髪の毛という異質な――しかし紛れもない美貌はの中に浮かぶ,虚ろという感情。

「私はアキトの目。アキトの耳。・・・私は,アキト・・・」

ふ、と瞳の焦点を失い,ラピスは床に崩れ落ち――
倒れこむ寸前にアキトに抱きかかえられた。

「ラピス・・・!」

ぐったりとして動かないラピス。
だが,呼吸は確りとしてる。これは・・・

「リンケージの副作用ね。もう意識を混濁させるまでに進行してるなんて・・・」
「どういうことだ」

ち、とイネスは舌打ちし,こんな事もわからないの、とばかりに睨みつける。

「隠してたんでしょ,その娘は。どんな理由があったのかなんて知らないけど!」
「そ、んな・・・」

今の今まで気付けなかった。
呆然と眠るラピスの顔をみて,ぎり,と歯を噛み締める。


「・・・だめだ。ラピスが消えるなんて許さない・・・!」
「アキト君・・・」
「・・・オペは今からできるか?」
「無茶よ! 正常に貴方達のリンクを切断するにはいろんな検査を通らないと「じゃぁ今からソレを始めろ!すぐにだ!」アキト君・・・!」

小さなラピスの体をそっと・・・だが強く抱きしめ。

「もう嫌なんだ・・・俺の周りで誰かが不幸になるのは・・・」
「でも貴方が,」

そのイネスの言葉に,アキトはゆっくりと頭を振った。

「俺はいい。もういいんだ。・・・いい加減,前に進む時が来てるんだよ。俺も,ラピスも,イネスも。ナデシコの皆も、だ。」

そんなモラトリアムを今こそ。

「確かに俺は昔とは変わっただろう。でも俺の中にあるあの過去は確かに俺のもので・・・皆と共有した思い出だ。過去は過去に消える、でも記憶は残る。だか ら俺は多分大丈夫だ。俺はいた。そして――」

再びラピスをそっと抱きしめる。

「それからの俺を知っている,ラピスも居る。この娘が俺を証明してくれた。だから明日を思える。・・・死なせたくない。死んで欲しくない・・・! イネ ス・・・・・・・頼む!」


















長い長い沈黙の後。
イネスは一つ溜息を吐いて,ぽつりと呟いた。

「わかったわ」



 
 
 
 
 
 
 
 







 
◆ 夕暮れ ◆




「はい、どうぞ」
「いつもすまないな」

綺麗に切られたリンゴが皿に並べられ,ラピスはアキトに差し出した。
受け取ろうとアキトは腕を伸ばし――空を切る。

「・・・?」

ひょい、と皿を上に上げたのはラピスだ。
澄まし顔で一考し,リンゴを一切れフォークに刺した。

「あーん」

ぴしり,とアキトが固まる。
次いで苦笑し。

「・・・まじで?」
「うん。はい,あーん?」

こうなるとラピスは意地でもスタイルを崩す事はしない。
手ずから食べさせるまでは絶対に後に引く事はないだろう。
数年来の付き合いでもあり,ずっと共に居てくれる大事なパートナーだ。

アキトは苦笑を崩さず,仕方無しに口を開けてリンゴを銜えた。

「おいし?」
「うん。」



しゃり、しゃり、

しゃりん。



口内薄く広がる甘酸っぱさ。
堪える事の出来ない笑みを浮かべ,アキトは呟く。

「本当に,うまいよ」

その呟きに,ラピスは頷く。
静かに伏せる瞳と,口元の微笑を残して。



 
 ◇



ラピスラズリとの感覚増幅リンク解除手術から既に3年の月日が経過している。

解除後のアキトは,救出されたときと同じ状態――つまり感覚機能の大よそ9割を欠損した状態に戻った。
ラピスラズリは順調に回復し,1年が過ぎる頃には通常の少女としての情緒を正常に復帰。
エリナ・ウォンの保護の元で平穏な暮らしを送っていた。

アキトの病状に関する研究は進められ,情報の蓄積とそれなりに長い月日をかける事でなんとか感覚神経を復活させる兆しが見え始めたのが2年前。
それから更に1年が経過する頃に行われた,負荷ナノマシン除去手術とその後のリハビリによって…天河アキトの五感は以前には及ばずとも大部分を取り戻す事 が出来た。

完全ではないにしろ,彼の取り戻せたものは大きい。
さすがに,"以前の夢"を追えるほどには回復する事は出来なかったが。

それでも。
全身を通して世界を感じられる事の嬉しさは,彼にとってとてもとても大事なものだった。


幾ら感覚が戻ったからと言っても,すぐに日常生活に戻れるわけでもない。
依然として様々な検査・調査が残っており,また体力も十分に回復しきっていない。
例え日常生活に戻れる体力が戻ったとしても,まだ日常生活そのものを送れるかどうかの予測も立っていない。

しかしここ1年でそれらの検査も漸く目処が立ち,ようやく日常生活に戻る為のリハビリが開始された事は喜ばしい事だ。
アキトは苦しみながらも,精力的にリハビリに取り組んでいる。


さて。
そんな3年間を送ってきた天河アキトだが,実は彼は一人ではなかった。
ほとんど毎日彼の元を訪れる少女――今はもう大人の女性になってしまったが――が居た。

ラピスラズリ・アズライト。
アズライトと言う姓を得たラピスは,普通の留学生として日本の高等教育機関を順調に上がりながら現在では理工系の大学に通う身だ。
天性の高い知性からか,はたまた既に知っていた事柄なのかはわからないが,彼女は"学校"という場での課題を楽々とクリアしつつその場所での青春を楽し み…
しかし彼女は天河アキトの傍を離れる事はなかった。

Dr.イネス・フレサンジュの分析では,過去のリンケージによる天河アキトからの精神侵食の可能性が3割。
天河アキトへの精神的依存の可能性が3割。
天河アキトへの興味関心の可能性が3割。

『残り1割? さぁ・・・自分で考えなさいな。』

アキトの疑問にそう答えたそうだ。
首を捻るアキトだが,その後のラピスラズリへの精神鑑定とメンタルケアによってなんら精神的な異常は見当たらなかった事で一安心していた。

ラピスは毎日夕方5時に病院を訪れる。
面会するにはギリギリの時間帯だけれど,病院側の配慮かはたまたネルガルが働きかけているのかは解らないが、実質彼女の訪れる時間帯に制限はなかった。

訪れる知り合いの少ないアキトにとって。
また,感覚の希薄な2年近い時間を孤独に過ごすはずだったアキトにとって。
ラピスラズリという少女の存在は,とても大切なものだったと言える。

次第に戻る感覚。
それをずっと見守っていてくれたラピス。
苦しく辛いリハビリ。
傍に居てくれたのはラピスだ。

嬉しいときも,悲しいときも。
いつの間にか傍に居て,感覚が希薄な右手を握り・・・彼女の体温が伝わるまでずっと傍に居てくれたのは,ラピスだ。

なぜ,と聞いたことがある。

・・・その答えはとてもシンプルなものだった。


『なぜ・・・って。ふふ,ずっと傍にいたいのは,アキトだけだからだよ――』


すこし照れた様子で。
自分の言葉を確認するように,そう告げたのだ。



 ◇


「今日はもう帰るね」

その言葉に,アキトは思索から復帰した。
じっと微笑みで見つめていたらしいラピスは,二十歳前後とは思えないような落ち着いた光を瞳に浮かべている。
包まれるような感覚。
完全に復帰しないことがわかっているこの体の感覚――そんなポンコツですら感じることの出来る,この 熱 。

こくん、とラピスは頷くと,ゆっくりとサイドチェアから立ち上がった。
アキトはゆっくりとベッドに横たわり,ラピスはそんな彼に優しく毛布をかける。

ぽんぽん、とアキトの胸元辺りを軽く叩くと,よし,と腰に手を当てて満足そうに笑った。
なぜだかはっきりと見えるその笑みに,アキトも思わず微笑して。

「また明日,アキト。」
「うん,またな」

病室の入り口で一度振り返ったラピスは,ちょっと振り返って。


「おやすみなさい」


そう言うと右手を振って――病室から出て行った。


 ◇


『私はいいよ』

と,かつてラピスは言った。
多分あれは,きっと・・・どっちでもいいよ,と。
そんな意味だったんだと思う。

リンクを切ろうが切るまいが,自分の道には変わりはないと。
きっとそんな意思表示だったんだろうと・・・俺はそう思う。
ラピスは皆が思うより感情に富む女の子だ。
きっと俺の知る,誰よりも明るい少女なんだと思う。

そんな彼女がずっと傍に居てくれる――そんな幸運。
本音を言えば,もう手放したくないような・・・そんな。

贅沢で我侭で身勝手な思いが,最近芽生えはじめている。


 ◇

横たわるアキトの長める窓に,大きく掛かる三日月。

ぼんやりと視界に移るそれを長めながら,アキトは深く息を吐いた。

明日に,なれば。
また,会える。


微笑を浮かべ,アキトはすう、と眠りに着いた。





 END>>>???



後書き。

どうも,サムです。
中途半端なできだなーなんて自分でも思うわけですが、こんなものでしょうか。
正直アキラピのシチュエーションが, 足 り な い ・・・ ! ! !
低脳でごめんなさい。
ラヴチックに出来ませんでした・・・・orz

というわけで。
なんというかAfterの平凡な一時と言うか。
最初と最後ではなんか違うんじゃね?と言うか。
無理やりまとめたと言うk・・・!

そんな出来ですが,まぁ生暖かい目で見守ってあげてください(笑顔

ではこれにて失礼。


R2さんに代理感想を依頼 しました♪



 

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サ ムさんへの感想はこちらの方に。

掲示板で 下さるのも大歓迎です♪


 
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