むかしむかし あるところに 一人のおんなのこが いました
おんなのこは 暗い洞穴の奥にある とてもふるい おおきなこおりのなかに とじこめられていました
あるとき くろいおとこ がやってきました
くろいおとこは こおりのなかに とじこめられているおんなのこに
手を。
さしのべたのです
・・・するとどうでしょう
めがみさま と まつられ どれほどのいのりをささげようとも なにもこたえなかった こおりのなかのおんなのこは
くろいおとこ に差し伸べられた手に
じぶんの白くて細い手を かさねたのでした。
くろいおとこ は くろいよろい をもっていました
くろいおとこ は しろいふねを もっていました
くろいおとこ は しろいふねを おんなのこにあたえました
しろいふねは 地に浮き
空を舞い
星の間をただようためのもの
くろいよろい は たちふさがる すべての敵を たおすためのもの
くろいおとこ は なにかもくてきがあるようだ
と こおりのなかにいた おんなのこ は 悟っていました
しかし そのことには なんの疑問もいだきませんでした
おんなのこ に。
せかいを あたえてくれたのが くろいおとこ だったからです
おんなのこ に いのちを還してあげたのが くろいおとこ だったからなのです
おんがえしと いうわけではありませんでした
尽くそう と いうわけでもありませんでした
くろいおとこ の そばにいるのは――― ただ おんなのこ が そこをはなれたくなかった からなのです
あるとき
くらやみ で みたされた 空の上へ のぼるとき
くろいおとこ は しろいふねの舳先で ちょっとだけ ないていました
くろいよろい が こわされたからかな とおもったけれど それはちがったのでした
ちょっとだけ 泣いた くろいおとこは それからちょっとだけ穏やかになりました
◇
少女は今までと違い,物事を良く考えるようになりました。
ある目的があって,そう変わって行ったのです。
それは彼女を知る誰にとっても,好ましいもののようでした。
なぜなら――
彼女を知るだれもが,変わって行く彼女を見て笑顔になるからです。
少女は かれ のために,笑顔を知りました。
少女は かれ のために,泣くことを知りました。その意味を,知りました。
かつて。
戦いを終えた時,彼の流したその涙の意味も。
命を与えられた少女は,強く"生きたい"と願いました。
命を与えた くろいおとこ は 今はもう,ただ流されているだけでした。
◇
ゆめ。
ゆうぐれ の なかに 沈みそうな ちっぽけな くろおとこ を みつけた
こちらに 背をむけているから その表情は うかがうことは できない
かすかに 上を みているのだろうか
彼は腰に両手をあて 不意に 大きな溜息を吐いて 空をみあげた。
いっぽ。
くろいおとこ は 夕暮れのおおきなおおきな たいよう にむかって あしをすすめる
その様子に 女の子は 不意に 言葉では説明できないような 予感を 覚えた。
にほ。
こちらを省みることなく。
男は夕日へと向かって沈んでいく。
逆光のなかに溶けていく。
――少女は駆け出した。
ゆめのなか ではあるのだけれど,今ここで追わなかったらきっと後悔する。
そんな直感が衝動となって少女を衝き動かした。
まって
そんな意味の叫び声。
まってよぅ
そんな響きの泣き声。
どんどん霞んで行くその背を必死に追いながら,乱れる息の中――右手を伸ばす。
零れる涙に視界が狭まり,不意に足を取られて地に倒れこんだ。
蹲ってる暇は無い。
急いで立ち上がり――
あ
夕日は彼方の地平に沈み。
周囲は静寂と夜と闇。
天を仰げば星の河。
右を見て,左を見る。
――誰も居ない。
あ あ
視界が再びぐにゃりと歪んだ。
涙だ。
感情の高ぶりが,少女に衝動を呼び込む。
急激に色褪せる せかい
――待って。
おいてかないで――
「どうしたんだ」
掛けられた声に,不意に背後を振り向いた。
黒いマントに黒いバイザー。
いつも通りの彼が,不思議そうに を見ている。
「なんで泣いてるんだ?」
あなたのせいよ――そう言えれば良いのだけれど,安堵と喜びで心が満たされてしまった。
夢の中でだけ出来る行為。
彼の胸の中に飛び込み――背に手を回してぎゅっとしがみつく。
夢の中なのに,彼はいつもどおりに頭をなでるだけ。
――ほんとはぎゅっと抱きしめ返してほしいのに。
現実も夢もままならないけれど,彼は自分の前から居なくなったりしない。
現実でも,夢の中でも。
――今はそれで満足してあげる。
背に回した手を解き, は男に向かって満面の笑みを浮かべた。
◇
「――はい,今日はお終い」
「えー,続きはぁ?」
膝の上で甘える娘に,母親は嬉しいような困ったような表情を浮かべて,
「続きはまた今度。そろそろパパが帰ってくる頃だし・・・ご飯の準備始めないと,ね?」
「ぜったいだよぅ?」
と娘は言って,リビングから二階の自室へと掛けていった。
多分最近買え与えたコンピュータで遊ぶことにしたのだろう。
「何にしようかな・・・と」
冷蔵庫の中から食材を取り出し,夕食の下ごしらえを始めようとしたところで・・・
「ただいまー」
「あ、帰ってきちゃった・・・おかえりなさーい」
パタパタと廊下を駆けていく彼女と,
「パパおかえりーー」
二階から降りてきた娘。
玄関で抱き合う三人は当たり前な幸せに満たされている。
そういった感情の全てを包み込む,もっと大きな何かで満たされているからだろうか?
それも些細な事なのだろうか。
日常の中の家族の喧騒は,幸せの中に埋もれていく。
そして静かに思い出の中に沈み,安らかになっていくのだろう。
・・・過去を一瞬だけ切り抜いた証――変わっていった少女と黒い男の記録。
リビングのテレビボードの片隅に並べられている決して多くは無い写真たての中に,楽しそうに笑う薄紅色の髪の少女と,仏頂面だけどどこか照れ臭そうにそっ
ぽを向いている黒い男。
二人の間に距離はなく,組んだ腕が微笑ましかった。
それこそが,・・・その全ての答えなのかも知れない。
後書き。
ストレートですが何か?
捻ってますか、そうですかorz
固有名詞は出してませんが何か!
僕はアキラピ推奨委員ですのでお察しください。
ぶらぶら散歩してる30分くらいで方向性は纏めましたが,最後の展開はノリというか勢いです。
眠いのでなんも考えてませんでした。すみませんごめんなさい
というわけで,こんなとこで。
あ,タイトルはナシですが,ファイル名がYoimonogatariになってるので
"宵物語"で。
以上!
私信 to Zadankai
これが罰則規定A-22(寝落ち罰ゲーム)なんですねっ!?
提出したのでお許しください・・・orz
だって、だってなんだもーん;;
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