注意:この話は珍しくアキラピではありません。甘い表現とかラヴバカップルな表記は一切ありませんのであしからず。ラピストの皆様申し訳ない。またの機会
に。
――もともと、理由なぞ無かった。
与えられるものであり、一度与えられたならばただそれを実行するのみ。
行動には成果を求められ、その成果すら常に成功を収めねばならない。
しかしそれは精神的重圧ではない。
出来て当然の確定事項に過ぎず、また、例え失敗したとして結果は変わらない。
成功すれば、死への距離が一定より近寄らず。
失敗すれば、死までの距離は零になる。ただそれだけのことだからだ。
命。
既に、この"道"を選んだときに捨て去った物に過ぎない。
また、即捨て去る事が出来なければそれは己の首をただただ無為に切り離すだけの意味しかもたない。
心。
ただ、闇色の闇に染まることだけを己に許した。
血で磨き上げた技は死を運び、血で塗り固めた意思は死へ誘う。
人道を外れたモノ。
人外のモノ。
――人、それを外道の者と呼ぶ。
機動戦艦ナデシコ 外典
殺闇
Written By サム
無針注射器を使ったときのような音――それは発射音だったのだが、プシュ、というあっけない音と同じくらいのあっけなさで、その銃口の先に居た研究所員は
倒れた。
余りにも唐突だったのか、周りに居たほかの研究員たちは唖然とし、直後恐慌をきたした。
やれ、とだけ命じ、次いで重なるプシュプシュプシュという間の抜けた銃声――サイレンサーの作用だ――を背に、時代錯誤の編み笠と比較的高い背の足元まで
届くような道中合羽を羽織った男は歩みを進める。
その格好とは裏腹に無骨な銃
殺したく、ない。
銃口が勝手に人間の急所に向く。
引き金は軽い。
殺したく、ないのに。
目標以外の全ての人間を、殺すことに躊躇いはない。
躊躇う暇もなく、ただ殺戮を行うだけなのだから。
殺したくない・・・。
悪鬼の通った後には、華麗な血の華が咲き乱れていた。
◆
どん、どん、と二回爆発音が聞こえた。
ほくそ笑む北辰は、それが悪鬼の仕掛けたモノだと瞬時に悟る。
この二年で"悪鬼"の全てに刻み込んだ反射殺戮は、その脆弱な"弱さ"を露呈する前に全てを終わらせる反射行動そのものだ。
今の爆発音は、いわば沈没前の船のような状況にすることで、屋敷内部に残っている人間をねこそぎにする手段の1つに過ぎない。
と言うことは、この二回の爆発は、悪鬼が行動を起こした、起こしている、と言うことに他ならない。
(貴様のその行動こそ、全ての始まりとも知らずに・・・愚かな事よ)
つりあがる唇は喜悦の笑みの証。
面白い。
この状況こそ、次なる楽しみへと至る階梯だからだ。
走る速度を上げ、ついに"そこ"へ到達した。
脇差を抜き、旧式の木製のドアを蹴破った。
◇
自身を浸す保護溶液を通して、衝撃を2回感じた。
ぼんやりとしていた瞳を開けると、目の前には――大いに戸惑った様子の研究員。名前は知らない。
この部屋には、私と彼以外にも6人の職員がいて、蹴破られた? ドアの近くに立っていた研究員が、慌てて離れようとして――血が吹く――倒れた。
目の前にいるこの研究員も逃げようとして――吹き飛んだ? 血が床に広がる――撃たれた。
撃った相手は? 殺した、犯人は誰・・・?
凶眼。
両目は黒い。でも、比率として左目が引き攣ったようにつりあがっている。
狂喜。
どんどん、どんどん近づいてくる怖い、怖い来ないで!
◇
男の振り上げた右拳が、打ち払うようにシールドを殴りつけた。
大量の銀食器を派手に散らかしたような音が響いた。
同時に保護溶液が全て流れ出し、"少女"は裸のままその身を外気に晒す。
「かはは、これは傑作。」
「ひ」
両肩を抱いて寒さと怖気を堪え、少女はソレを恐怖とともに見上げた。
膝を付いた男が、少女の顎に指を這わせ、つい、と顔を上げさせた。
「金色の瞳か、美しいな」
「ひ、・・・・や」
憐れなほど怯える少女から視線を外し、北辰は周囲を見回す。
保護溶液と死体の血液が混ざり、血臭が漂うこの部屋にもう用はない。
多少床の血で汚れているとは思ったが、自分の合羽で憐れに怯える薄紅色の少女を包み、持ち上げた。
「いや、いや!」
「黙れ」
どんな風に扱っても構いはしないと思ったが、抱きかかえたほうが早かったからそのまま持ち上げた。
悪鬼の仕掛けた爆薬の作動時刻に間違いはない。
一分一秒の狂いもない。
北辰が遅れたところで何のためらいもなくボタンを押し込むことだろう。
地下室から駆け上がり、屋敷内部を通り裏庭へ。
予め仕掛けておいた爆薬で裏門を吹き飛ばすとそこから合流地点へと向かって全力で駆ける。
直後、
どん、どん、どん、どんどんどどどど!!!!
屋敷(秘密研究所)の各所が、これでもか、と言うくらいに爆発に飲み込まれていく。
爆光は周辺を飲みつくし、爆圧と爆風が北辰を追って迫る。
瞬間、その爆風に吹き飛ばされた。
「く・・・あの馬鹿が」
完膚なきまでに"あの場"を消滅させるに足る威力、もし後数秒でも長く居たら間に合わなかっただろう。
爆風に吹き飛ばされながらも、しかし"目標"を死なせるわけには行かない。
編み笠が飛ばされたが、気にしている暇はない。
少女を包んだ合羽を抱え、なるべく傷つけないように衝撃を受け流し、地面を転がる。
爆発は一瞬で収まり、爆風は数秒で沈静化し、爆圧はその周囲を根こそぎにしていった。
ようやく身を起こした北辰は、合羽で包んだ少女が気絶しているだけだけなのを確かめると、ようやく一息つく。
「・・・なんだ、生きてたのか」
「貴様如きに殺される我ではない」
頭から流れる血を拭いつつ、横に視線を向ける。
木陰から半身をずらして呟く悪鬼の存在は、とっくに気づいていた。
駆け寄ってくる残りの6人も健在なのは当然、任務に置いて1つのミスもあってはならない。
「帰還する」
「その娘は跳躍耐性、ついてるのか?」
口を挟む悪鬼に、北辰は山崎から聞いていた説明を短く言う。
「強化体質の子供は、成功例からデータをフィードバックしている。優人部隊と言う成功例がある以上、そのデータを適用されていないはずもあるまい」
「そうか」
悪鬼は呟くと、掌の宝石? を握り締め――
30万kmと言う距離を一気に跳躍した。
◆
「いやー、すっごい性能ですよあの子! 僕も助かっちゃってますよ。もうね、研究所の女の子たちが大喜びでして」
「ふん、我には関係ないことだ」
つまらなそうに山崎の話を聞き流す北辰は、その話題を断ち切って自身の質問を切り出す。
「進行度はどうなのだ?」
「まぁまぁ、ですかね。ジャンプ技術に関するデータ収集はほぼ終わってますし、となると例のヒサゴプランが邪魔になってくる時期です。
ま、そのあたりは多分作戦部から"機密保持"か何かの命令が下ると思いますよ」
「そうすると・・・局面が動くのは」
「早くて後1年と少し、ですかね」
そうか、と呟き、北辰はまた怪しく笑う。
「ちょっと北辰さん、なに考えてるんです? 面倒くさいことはもうイヤですよ?」
「ふん、我らは死を懸けて裏方に徹している・・・その退屈しのぎに少しくらいリスクを上げても文句はあるまい?」
「そのリスクで戦局が変わっちゃったらどうするんですか」
「理想を叶えるには力が足りなかったと思えば良かろう」
「・・・忠臣にしては珍しい言葉ですね?」
「確かに閣下には従おう。が、それとこれとはまた別の話だ。」
ふーん、と山崎は面倒くさそうに応じるが、北辰は時に気にも留めずその場を去る。
所で山崎が尋ねた。
「で、具体的に何をするんです?」
「見極めだ」
◆
"悪鬼"の住まう部屋は、記憶を奪われてから(奪われたらしい)初めて目が覚めた"あの場所"だ。
薄暗く汚いのはそのままに、ベッドと椅子と机だけを運び込んだだけの部屋。
ベッドも血に汚れて居る部分の目立つ。机の上には脇差と銃、弾丸。
今は椅子に腰掛けて、銃の分解整備中だ。
自分は誰なのか。
それを思うと途端に意識に靄が掛かったように思考が停滞する。
何故それを思考することを禁止されているのか、理由を思いつけない。
北辰。
記憶を奪った張本人、といっている。定かではないが、しかし自分を散々痛めつけ、"殺し"を刻んだことに置いてはまさしく下手人。
恨んでいる。憎んでいる。
この組織。
時折、向けられる視線に哀れみと嘲りを感じる。
何故だ。
わからない事だらけで、知らないことしかここにはない。
とりあえずの目標は、自身の記憶を取り戻すことと、北辰を殺すこと。
しかし、最近迷いも生じている。
記憶を取り戻せたからといって、どうなんだろう、と。
何かが元に戻る、の、だろうか。
そこに期待している自分と、そこに諦めている自分が居る。
もう戻ることなんてないのではないか、と。
整備する手は休むことはない。
部品の一つ一つが自身の命の境界。劣化した部品を取替え、納得のいくまで調整する。
でなければ、殺される。
俺は。俺は。
俺は。俺は。
殺したいわけじゃない。
でも、殺さないと殺される。
だから、殺してきた。
だから、生きてきた。
記憶を取り戻すために。
それだけの価値が、あると。
そう信じているから。
◆
暗い通路を歩く二人の影は、大きいものと小さいもの。
大人と子供の影が、人気のない通路を歩んでいく。
大人は男で、編み笠に道中合羽と鋭い凶眼の持ち主。
子供は少女で、薄い紅色の髪を持つ無表情の持ち主。
北辰が触れたあのときにはあった恐怖――感情が欠如した少女。
それを見た北辰は、その絶妙さに心を打たれたものだ。
美とは、何かを真剣に考えようとさえ思った。
この少女は、それほどにまで――美しい。
その無機性、その非人間性、その造詣。
そして、破壊の引き金。
どれもが北辰好みで、何時もよりも昂ぶっている自身を感じた。
これからの、展開も含めて。
(反応が楽しみだ・・・)
引き攣りあがる口元の笑みを、止めることなどできはしない。
◆
やがて行き着いた部屋のドアを開けると、粗末なベッドと机と椅子。
気配が――
「ふ」
突き出された刃を半身をずらして避けた。
悪鬼の突き出した攻撃ははずれ、北辰は笑いながら腰を落とす。
「温いわ小僧が! キェイ!」
気合一閃、北辰は居合って脇差を抜き打ち、それを悪鬼は冷静に下がって避ける。
そして、背後に佇む少女の存在に気づいた。
「何のつもりだ? その子は」
「くれてやる」
同時に刃を収めてそうやり取りを交わす二人を、バイザーの奥の底知れない少女の瞳が写した。
「どういう意味だ」
「言葉どおりに受け止めろ、貴様にこの娘をくれてやる、と言っている。」
「何を企んでる・・・?」
くく、と笑う北辰は身体をずらすと、少女が部屋の中に入ってきた。
訝しげにその少女を観察する悪鬼を北辰は眺めながら、言葉を続ける。
「その娘はナノマシン強化体質の遺伝子操作を受けている。かの"星野ルリ"と同種よ。知っておろう?」
「話には聞いた事がある、それと何の関係が」
「遺伝子細工の人形には一つの特徴がある事もしっているか?」
「・・・・・?」
少女は黙って突っ立っている。
その背後に北辰は回り、そっと顔面を覆うバイザーを上げ、
「瞳が金色になるのだ()、解るか? 貴様も見覚えがあろう!」
「・・・・・・・」
最早真横で狂喜の声が響こうとも、少女は怯え一つ表さない。
なされるがままに、その覆われていたバイザーが外され。
一対の、冷徹にして完全な金色の瞳が、悪鬼を射抜く。
「・・・・・あ」
「カハハッ 解るか!?」
かしゃん、と何かが割れた。
脳で。
感覚で。
全身のどこかで。
心の中で。
靄が。
霧が。
霞が。
一斉に凍り付いて、それはイメージの中で、一斉に砕けた。
「・・・・ああ・・・・」
「解るだろう? 解るだろう! 貴様が何者であるか、何をしてきたのかを!」
火星。
かしゃん。
仲間。
カシャン・・・
夢。
カシャン・・・・
希望。
カシャン・・・・
友情。
願い。
戦い。
恋
変化。
暖かい。
笑顔。
眩しい笑顔。
嬉しそうな。
恥ずかしそうな。
楽しい。
悲しい。
でも乗り越えて。
大切にしたい。
大切にしていきたい。
人であることの意味。
すべての根幹現象。
カシャァン
「ああ、あああああああああああああああああああ・・・」
頭を、抑える。
痛い。
体中が異変を、異常をきたしている。
熱い。
蹲る。
震える肩は、止まらない。
思わず手を、数多の命を手掛けたその手をみて、
「うぁ、あああああああああああああああああああ!!!!???」
「知っているぞ? 貴様を。天河」
「言うな・・・!」
「散々知りたがっていただろう? カハハ。 天河。天河アキト()!」
「言うなぁあああああ!!」
絶叫。
ピクリ、と少女が反応した。
瘧のように打ち震える天河アキトは、絶望でその心を染め上げながら、暗く濁った意思によどむ瞳を床に向け、荒い息を吐く。
呟きが、
「俺は俺は俺は俺は俺は俺は」
「殺したなあ天河アキト」
「俺は俺は俺は俺は俺は俺は」
「罪がなかった・・・かも知れぬ者まで殺したなぁ・・・容赦の欠片もなく一方的な殺戮で」
「俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は・・・俺は・・・」
北辰は、その言葉を口にした。
「お前がやったのだ」
「違う!」
「違わん、貴様がやったのだ、天河アキト!」
「違う違う、俺は、俺は!」
「偽るのか!? 貴様の奪った命を、その重さの所在を! かはは、楽しいな・・・!」
「北辰、貴様が、貴様が・・・!!!」
転化。
その変化こそ
「そうだ、我だ! 貴様にそう仕向けたのはな! かはは! その殺意、心地よいぞ・・・!」
「外道があああああ!!!」
アキトは目の前の少女を払った。
がん、と床に転がった少女は、しかし無表情で顔を上げ、強く頭を打ったのか少し血が流れ出す。
アキトは脇差を抜いて北辰に切りかかった。
狂喜した北辰は、しかし冷静に刀で打ち合い、拮抗状態にする。
鍔迫り合いながら、
「そうよ、我ら()こそ人の道を外れたる外道よ! 解っておろう、天河アキト!」
「その口を、閉じろ・・・!」
「受け止めきれぬか!? かはは、今まで無表情に殺しをしてきた人間とは思えぬ脆弱さだな!」
ギン、と打ち合って離れたアキトは机の上に置いてあった分解整備の終えた銃を取り――弾丸は込められている――入り口の正面に立つ北辰に向けて引き金を引
く。
兆弾の危険性は可能な限り低く抑えている。
避けられても廊下の壁で止まるはずだからだ。
3点射。
予測どおり、引き金を引く前に回避行動を取られていてあっさりと避けられた。
3発撃ち終えたところで、銃口は既に向けても兆弾の危険が高まるばかりでそれでは意味がない。
だから投げつけた。
余りにも意外な行動だったのか、北辰は思わず右手で受け止め――瞬間、行動が止まる。
「・・・づあっ!」
左上段から右下段へかけてのアキトの袈裟切りを、北辰は刀の柄を握る左手だけでは抑えきれず、捌ききれずに体勢を崩した。
「ぬう」
斬り終えた姿勢から、アキトは――
右手の中指と人差し指だけ立てた上体で、北辰の顔面へ渾身の突きを――左目に狙いを定めて、
―――抉った。
「ぐがああああああぁぁぁぁぁあああぁあ貴様ああああああああ!!!!」
すぐさま反撃に移った北辰は、激痛にも手放していなかったその脇差を、密接するアキトの腹部に突き立てる。
一瞬の停滞後、
「ぐふっ・・・・」
「我の、眼をおおおっ殺す! カハハッ 殺すぞ天河アキト!」
壮絶な姿で立ち上がる北辰は、痛苦と喜悦に身体を、心を震わせながら左手で抉られた左目を押さえ、血涙はとどまることなく流れ落ち、そのアキトの腹部を貫
通する刃を力任せに抜き取った。
「ぐは、あ、ああああ」
溢れる血液が床に広がる。
まるで花瓶の水を零したような速度で広がったアキトの血は、
それの様子を呆然と見ていた少女の足まで届き。
少女の脳裏を掠める"研究所"での惨劇。
「いや」
呟きは微かなものだった。
が、その声に気づいたのはアキトで、北辰は頭部・・・それも眼窩からの出血によるショックでふらつきを抑えられていない。
「いやああああああああ!!!!」
絶叫は、少女の口から出た。
アキトの出血量はかなり危険な者であることは解ったが、泣き叫ぶ少女を放置することなどできはしない。
生来の、性格ゆえに。
距離は僅か。
頭を抱えて蹲る少女を抱き寄せた。
「殺す、殺す殺す殺す! 天河アキト、貴様は、殺す! カハハ! 楽しいぞ!?」
「殺す、俺もお前を殺すぞ北辰・・・!」
「その身で何が出来る!? その脆弱な心で何を成す!? かはぁは、笑わせるな!」
少女を抱き寄せたアキトは、自分の血で濡れる少女がより恐慌をきたしつつあることも感じながらだったが、
――イメージが、時間が、血が、足りない…
徐々に狙いを定めつつある北辰に向かって言葉を投げ続ける。
「北辰、アンタが言ったんだ・・・強さは、力は強大だと! 心技体、全てまだアンタには適わないが、俺にはアンタに勝る一点がある・・・!」
「くははは・・・なに?」
「今は引く、だがいずれ殺す・・・! 絶対だ、絶対にだ・・・」
「貴様、跳躍を・・・」
光が、アキトと少女を包み始める。
「俺はアンタを、北辰、貴様を殺すために戻ってくる・・・俺の道を殺した貴様を、必ず殺す! 俺は」
殺意に染めた瞳で、ありったけの力を込めた視線は。
北辰の行動を、たった一瞬だけ拘束した。
「俺は、俺の復讐者だ・・・!」
その一瞬で事足りた。
光弾け、血の跡だけがそこに残っている。
「くふ、かはははははっ!!! 面白い、面白いぞ天河アキト・・・!」
一頻り笑うと、北辰は山崎に連絡を取る。
アキトが記憶を取り戻し、子供をつれて跳躍したと。
医療班を手配し、表面的に出し抜かれた形になったが、それこそが。
「くくく、これで味気ない戦争も面白みが出てくると言うものよ」
「やっぱりわざとだったんですね。しかし厄介なことしてくれたもんですよ。演算マシーン、居なくなっちゃったじゃないですか」
「代用が利くならば安い代償だ。」
「この場合、メリットは北辰さんにだけしかないじゃないですか・・・はぁ、もう良いですよ。」
ぶちぶち文句を言いつつ、あ、そうだ。と山崎は思いついたように尋ねた。
「眼、どうします? 生体義眼でも入れましょうか?」
「・・・そうだな、隻眼もいいが・・・天河と殺しあうならば相応の体勢を取りたいところだな。」
「んじゃ、元データで眼作っときますけど・・・あぁ培養だから元の眼には戻らないので。」
「最低限の機能があれば良い」
「んじゃ問題ないですな。水晶体は人工で、虹彩はナノマシン培養するから紅くなっちゃいますけど機能に支障はないでしょうし。」
そう呟きながら、山崎はカルテを捲りつつ去っていった。
病室のベッドに横たわりながら、北辰は去っていった天敵を思って呟く。
「天河アキト、また会おうぞ」
◆
記憶を取り戻した際に起こった変調は、その時の出欠死ギリギリの状況での跳躍という要因も重なって、身体を廻るナノマシン輝跡の常時反応現象を引き起こし
た。
その状態で定着してしまい、有効な治療法は見つかっていない。
ネルガルに身を寄せたアキトと少女は、その後極秘に建造されていた戦艦ユーチャリスとブラックサレナで北辰を追いながら、嘗ての夢の残滓を助けるべく宇宙
を飛び回る日々を送ることになった。
それから1年と少し後、全ての状況を整えたその舞台の全ての人間は、最終的に火星の最果てで決着をつけた。
万難を排して宿願を果たしたアキトだったが、しかし、仲間たちの下に戻ることはなかったと言う。
過去。
それまで犯した罪。
消し去ることの出来ない、爪痕。
一生死ぬまで抱えて行くしか術はなく、だからこそ――
生きていかなければ、ならない。
たとえ、二度と暖かい過去と触れ合う事が出来ないとしても。
殺し、殺されること。
その輪を断ち切ることは出来ない。
だからこそ。
人の道を外した天河アキトは、その存在を忘れてはならない。
生きる。
死ぬまで、生きる。
殺されるまで、生きて行かねばならない。
End
後書き
まずは管理人こと黒い鳩さま500万HITおめでとうございます。
こないだ400万HITしたばっかりだと思ったのは僕だけでしょうk(ry
何はともあれ、すさまじい早さですな。
今年もがんばってください(笑
北辰列伝。
とかなんとか。ウソです。最後わけわかんないけど、僕もわかんないけど、それっぽいかな、いややっぱり意味不明ですよね。
>解説
アキトのダークさと、マントにバイザーの由来なんかを邪推してみました。
マント=道中合羽 バイザー=編み笠。
道中合羽はもっと裾長いらしいんですが、一番それっぽいからチョイスしました。
Googleイメージで"道中合羽"と入れると出てきます写真とか。
そんなわけで、きっと記憶を失って北辰衆に入ってたからだ!なんて安易な理由からストーリーを捏造。
流石にラスト部分は劇場版の焼き増しとか書くのは不毛だったので端折りました。
今回の目標は、カッコイイ北辰を書くこと。ラピスの出演は当然です。でも最後まで名前出てこなかった・・・本当は出す予定だったんだけど、そこまでは
ちょっと書ききれなかった問い不具合。
しかし、満足したのでこれで良しとすることにします。
北辰好きの皆様、少しでもかっこいいと思ってくだされば幸いですますハイ!
では、またの機会に。
08/01/17 18:05
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
サ
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