「うー、まずった…」
自分のミスとは言っても、やはり少々きつい。
あそこまで初歩的なものだと、特に。
愚にもつかない思考にとらわれそうになりながらも、ラピスは現状と現実からの逃避を実現するために、ひたすら走る。
路地を右、左。
上上下下右斜め下左上。
取りあえずランダムな機動で逃走しながら行く先のルートを読ませないように、慎重に大胆に逃走ルートを構築し、走り続ける。
「はっ…はっ、はっはっ」
息が切れる。
しかしそのスピードは少しも落ちない。
全力疾走ではないにしても、きっちりペース配分を考え 走り続けることのできる体力を維持する。
周囲を警戒しながらコミュニケ
機動戦艦Nadesico IF STORY
524−4.@Ryki
Written Byサム
「…と、言うわけでして。」
「はあ。」
突然呼び出されたラピスは、ネルガルシークレットサービス統括執務室にいた。
怪しいめがねのチョビ髭男。
プロスペクター(本名不明)は何時も通りの営業スマイルを全開でラピスを歓迎(?)していた。
わけではなく、仕事の話だ。
最近 アキト絡みの仕事がなくなってからは、こうして依頼主や事前の情報や目的の判らない仕事の以来が増えた。
アキトはそのことに苛立ちながらも社員なわけで、まだ()悪態をつきながらもお勤めを果たしている。
執務室にいるのはプロスペクターとラピスの二人。
彼女の保護者(自称)であるアキトは、現在風邪で高熱を発しダウン中。
ラピスとしては、アキトをベッドに縛り付けるやk いや、病床のアキトを看護する役のほうがよかったのだが。
しかし、アキトの受け持つはずだった仕事、ということであれば話は変わる。
「で、うち()絡みの企業から物資の横流しが見られるって言うのは判ったけど。具体的には何するの?」
「物資の奪取です」
さらり、とプロスは言った。
ラピスはさして感慨ももたず、「ふーん」と軽く受け流す。
「時間と場所は?」
「明朝04:00時、○国の×市、△地区にある廃病院になりますな」
そこまでわかっているなら、私に頼むことないじゃん。
ラピスは憮然とした面持ちでそう思考するが、明朝4時とは。
「あと8時間くらいしかないの?」
「そうなりますな。本来なら天河さんに行ってもらう事になっていたわけでして、各地の支部には一切通達も行っておりません。情報漏洩の可能性もありますし。
なるべくこの事を知っている人間は少ないほうがいいのですよ。」
「アカツキは知ってるの?」
プロスはゆっくりと首を横に振った。
つまり、通常対応業務ということになる。
ネルガル・シークレットサービスとしての、通常業務。
会社の不利になる情報漏洩や事案、不祥事が発生した場合、迅速に適切で完全な隠蔽を施す。
それには物資や情報、さらには人的資源の消去も含まれる。
そして、ラピスにはまだその経験がない。
「今回は資材の奪取がメインのお仕事となります。天河さんだったら"ジャンプ"ですぐ終了となったのですが…」
「高熱でイメージングが乱れたら洒落にならないもんね」
然様です、とプロスは頷いた。
「そこで、ラピスさんにお願いしたいわけなんですが…」
「うん、いいよ。」
ふむ、とプロスは嘆息した。
「いやはや、本当に申し訳ありません。本当はラピスさんをこのような仕事に巻き込みたくはなかったんですが…」
「んーん。篠崎やエールオンス・ロイだっておんなじだし。それに私はアキトの相棒。
アキトが動けないときは私がフォローするって決めてるもん。」
「ありがとうございます…天河さんには、私からお話させていただきます。」
割と深刻なのはそっちだ。
アキトは、ラピスが出ると知った場合…何が何でも止めるために全力を尽くすことだろう。
だから、まずは何も知らせずにアキトをベッドにくくりつけ、CCを手の届かない場所に隠すことが先決だ。
ラピスとプロスは無言で頷き、それぞれの準備を始めることにした。
◇
色々ありつつ、ラピスはA4サイズのアタッシュ・ケースを奪取することには成功したが、いざ逃げようとしたその矢先、
不覚にも足元に転がっていた空き缶を蹴っ飛ばしてしまったと言うわけだ。
私服で来たのは良かったのか悪かったのか。
逃げ始めてからすでに4時間、土曜なので割りと人ごみも多かったから多少は助かっているはずなのだけれど。
「…せめてウィッグだけでもつけてこればよかった…」
この髪の色はいろいろ目立ちすぎた。
かといって、これから変装用にウィッグを購入しに行くという手は無し。
黒系で統一している服装も、目立つ要因の一つだろうか。
アキト病が移ってしまったかと思うと、ラピスは女の子としてかなり凹んだ。
黒のレザージャケットの内側から、愛用のオートマチックを取り出して弾丸をロードする。
もう一つ、レディース仕様の小型拳銃も取り出して、ジーンズホットパンツの腰にはさんだ。
予め容易しておいた志向性手榴弾(非致死性)をセットし、ラピス自身は上を目指した。
◇
最初の爆破を確認してからすでに2時間。
建設途中とはいえ、屋上まではきっちりとできている。
下層フロアは綺麗に仕上がっているところも多かったのだが、この2時間であらかた破壊されているはずだ。
ごめんなさい。
心の中で取りあえず謝ったラピスは、状況を確かめた。
大量に設置した志向性手榴弾はまだ残っている。
弾丸も一発も使っていない。
下階層で足止めしている敵の追手は何とかなる。
問題は、これから来るであろう上空からの降下部隊か。
2時間という猶予を、ラピスは細工に使っていた。
具体的には、各階層に取り付けられている監視カメラをはずし、その通信機能をハックしてコミュニケに接続。
屋上からの敵に対しての検索手段を構築した。無論、屋上から降りる階段に志向性手榴弾を設置することも忘れない。
タイムリミットはあと30分。
これさえ乗り切れば――、回収部隊が来る。
◇
「うう…」
ごほがはがへ。
ありえない咳をしたのはベッドごと拘束されている天河アキトだ。
発熱で微妙に頬を染めたような感じのアキトに萌える女性は多いだろう(死
本人は地獄だが。
ベッドのすぐ脇の椅子に座っているのは篠崎・サトミというNSSの一人。
短く揃えた黒髪と、知的なツーポイント。切れ長の瞳によく似合うと評判らしい。
服装は、NSSで統一されたネイビーのスーツ。
そんなCoolな彼女は、現在アキトの隣で心配そうに様子を見ている。
「しのざき…」
さっきから3時間も同じ姿のまま、止まったままで声もかけてこない様子の篠崎に、アキトは思い切ってたずねてみた。
「は、はいなんでショウカッアキト先輩!」
びしぃ!という感じでいきなりテンパったのは彼女の性分としか言いようがない。
流石に椅子を蹴倒して立ち上がる、とかいう奇行はしなかったものの、なんだかよくわからないが朦朧とした意識でも、彼女が極度に緊張していることはよくわかる。
「らぴすは…ぶじなんだろうか…」
「ラピスさんなら心配要らないでしょう、あの娘、以外と根性とかあってしぶといですし」
「うう…心配だ…」
そんなことをぼそぼそ呟くアキトに漸く安心したのか(謎)、
「せ、僭越ながら私でよければ看護をさせて頂きたいんですけれど…」
と、頬を染めながら(アキト視点:なぜだ)そう申請してくる篠崎に、アキトは苦笑しながら。
「いや…おれはだいじょうぶだから。…篠崎は仕事に戻るといい…」
「そ、そんなっ 私、アキト先輩が心配で仕事なんて手につきません…!」
普段超Coolな篠崎を知っているだけあって、なんだか自分を心配してくれているらしい篠崎がなんだかちょっと幼く感じた。
まあ、なんというか。
「…しのざきも、ずいぶん、」
「え、なんですか、何か飲みたいものでもありますか?」
「かわいい(ところがある)じゃないか」
↑あきと、絶賛意識朦朧中。
◇
0
ぞくり、とラピスはなんだか嫌な予感がしたが、今は任務達成が先決だ。
…早く帰らないと。
案の定、屋上へ敵が降下してきた。
アレから20分ほど経過しており、回収部隊が上空を通過するまであと10分もない。
つまり下層の敵は無視して、屋上の敵に集中する必要があるということ。
ぴぴ、とイヤホンにコールがあった。
『私だ、聞こえてる、ラピス?』
「エールオンス・ロイ! 貴方が来たの」
『そういうこと。状況は?』
「現在合流地点で戦闘中…」
イヤホン越しに はあ、というため息が聞こえた。
「なによ」
『なによ、じゃないわよ。どーすんの?』
「何とかするよ…」
と、ついに屋上の武装した敵のチームが突入してきた。
数は3人、ほかに伏兵はなし。
正念場、だ。
◇
屋上から突入した敵の先頭の一人が、すぐ下の階層の索敵を始めるために扉を
どむん。
「ビンゴ…」
死に至るほどの爆破ではないはずだけれど、衝撃による臓器損傷は覚悟してもらわなければ。
物陰に隠れてカメラの映像をディスプレイで確認しつつ、残る二人の動向を確認する。
一人は、最初の一人を回収し、廊下の隅へ引きずっていく姿。
もう一人は、周囲を警戒しつつ二人に合わせて後退していく。
「む、いけそうかな」
『上空通過まで後6分。間に合いそう?』
答えず、走り出す。
ぴたり、と先ほど爆破されて間もない入り口の壁に身を寄せ、カメラを確認。
治療に当たっているのか、負傷した一人と治療しているもう一人の姿は見えないが、最後の一人が廊下の様子を伺っている。
その手には、凶悪なサブマシンガン。
「いち、にーの。」
バン、バン!
ラピスは威嚇射撃を敢行。
直後、一気に廊下に身を躍らせて屋上へ続く通路へ駆け込んだ。
「・・・!・・・・!!」
向こうのほうからなにやら怒鳴り声とか色々聞こえてきた。
タタタタタッ タタタタタタタッ
壁が弾けた。
音自体は軽いのだけれど、廊下のボードを突き抜けた弾丸が兆弾し、無数に火花が散る。
「あぶなっ」
ジャケットの内側から手榴弾をとりだし、ピンを銜えて引き抜いた。
「ばいびー」
直後、通路は激烈な光と音で満たされ――
運のない3人は、悲鳴とともに非致死性のスタン・グレネードで無力化された。
◇
屋上へ駆け上がったラピスは、その陽光の強さに手をかざした。
『どんな感じ?』
「状況はイエロー、すぐ飛ぶね」
『了解、待ってる。』
予めカモフラージュしておいたバックパックを取り出す。
工事の資機材が乱雑につまれているから、隠す場所には事欠かなかった。
アームウォーマーの肘まである装備を装着する。
内蔵されているIFSに直接接触し、システムを起動。
バックパックの中から稼動翼の付いた装置――携帯飛行ユニット()を取りだし、手早く装着する。
小型で強力な推進装置を組み込んでいるこのアイテムは、任務の中で度々使うことが多くなっている。
最大速度は、小型のセスナには匹敵するほどだ。
まあ、現在の装備では単独で最大速力で飛行することはできないけれど。
腰部についているオプションのカラビナに、しっかりとアタッシュケースを組み込んだことを確認して、最終的な全体のバランスを調整した。
「準備完了、同期開始」
『了解、予測ランデブーポイントまで@2分』
ラピスは滑り出した。
アームウォーマーだけでなく、腰部から爪先までもを保護・補助機構でロックしている。
シューズの上から装着したそれにはローラーがついていて、ただ走るだけでは得ることのできない初期加速を生み出すわけだ。
それを、滑りだす、と表現する。
テールノズルに力場が集中する。
ぼひゅ、という風の壁を突き抜ける音。
同時に展開される、稼動翼。
体を地上に対して平行に持っていき――
――ラピスは、飛翔()んだ。
降下し、ランデブーするのに必要最低限の速度まで落とした巡空艦()は、それに比べれば小鳥のようなラピスを下部ハッチから回収し。
空の彼方のほうへと消えていった。
◇
「で、これはどうなってるわけ?」
病室のドアを開けたすぐ先に、ラピスは静かな様子で佇んでいた。
声色も落ち着いている――場が凍り付いてしまいそうなくらい、Coolだ。
ベッド脇。
椅子に腰掛けお粥を片手にスプーンをアキトに銜えさせている、篠崎・サトミ。
前述のとおり、はい、あーん 状態をキープして汗が止まらない、天河・アキト。
同時にフリーズし、そのまま動かないようだ。
ラピスは笑った。
にっこりと微笑む。
「よかった、アキト。お粥が食べれるまで回復したのね?」
とことこ、と篠崎とは反対側へと移動する。
戸口には、呆れたように頭をかく長身の女性――エールオンス・ロイが、「あちゃー…」と冷や汗を浮かべながら逃走し始めた。
「じゃ、お疲れ様ラピス。私報告に行くわー」
「お疲れ様…ありがとね」
絶対零度の声色で、笑顔は余り見られない満面の笑み。
その笑顔の隙間から、死線がとんだ。
「サトミもお疲れ様。後は私が引き受けるよ」
「(こくこくこくこく)」
壊れた人形のように首を振りたくった篠崎は、お粥をラピスに手渡すと、一瞬だけ何かを覚悟したように――意を決したようにアキトに顔を向け、
「あ、あのっ 早く元気になってくださいね、アキト先輩!」
フリーズ継続中のアキトからは何の応答もなかったけれど、それはこの状況において全くしょうがないことであることは、篠崎には判っていた。
だから、なにか、こう。
過去に決別する主役的な心境で、涙を拭って部屋を出て行った。
「…アキト」
「ひゃい」
いまだにスプーンを銜えたままだったため、変な返事になってしまったがこの際気にするまい。
アキトは、精神的な死を現実世界で目の当たりにしていた。
篠崎とエールオンス・ロイが居たときには浮かべていた(仮)笑顔が悉く消えうせ、絶対零度の視線がアキトの瞳から侵入し、
その精神と肉体を、非接触状態なのに停止状態に追い込んだ。
様々な意見や言いたいことや愚痴や鬱憤や苛々があるのだろう。
感情の色が(暗色に)千変万化し、ふう、とラピスは息を吐いた。
一言。
たった一言ラピスは呟いた。
「さいってー」
終劇。
あとがき
サムです。
なんか最近こんな感じのsssが多い気がしてなりません。実力ないな…orz
完全ラピスオンリーのssで、しかもオリキャラが二人も…
エリナさんとイネスさんは月だし(自己設定)なんかオチを考えるのが面倒になったというか
ごめんなさいorz
NSSラピスって事で、まずはこんな感じになってしまいました以上!
20080622
「最近さ、ラピスが冷たいんだよ…」
「ん〜、聞いてるよ。」
昼の休憩時間、男二人が木陰のベンチに寄りかかってだら〜っとしている図は、なんともよろしくない。
「あれからもう1週間近く経つのに、なぜか許してもらえない…なんでだ…」
「そりゃあ…」
アキトの相談に、アカツキが乗るのは余りない光景だ。
まあヒマつぶしの一環という感覚で、眠い頭でだがアカツキは極めてテキトーに答えた。(不適切なほう。)
「んじゃあデートにでも誘ってあげたら?」
「デートか…」
む、とアカツキは怪しんだ。
普通ならば、論外 的な発言をするアキトのはずなのだが、今回ばかりは様子が違うらしい。
ぶつぶつ、と何か呟きながら、ゆらぁ〜りと立ち上がった。
「お、おい天河君、キミ大丈夫か?」
「アドバイスありがとな、アカツキ。俺いくから…。」
「おい…おいってばー…大丈夫なのか、アレ。」
ゆらゆらゆれるように歩み去っていくアキトを引き止めるように上げていた腕を、所在投げに元に戻してもう一度、だらしなくベンチに寄りかかった。
しょうがない。
仕方がないんだ。
事の顛末は聞いているし、きっとそれなりに堪えているのだろう。
それに。
「夏だしねぇ」
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サ
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