其は、存在せぬ者の存在を語る繰言であると知れ――――

“虚言舞踏”





























  ――――彼の意識が戻ったとき、最初に目に入ったのは石畳だった。
  次に、随分と高い天井。
  どこかくすんだ色をしたそれらが、ずっと続いているような錯覚。
  暗い暗澹とした闇が続く、迷宮にいる感覚。

  目を覚ました彼がまず最初に抱いたのは、そんなものだった。


 「……ぁ」

  体中が、重い。
  這い蹲ったまま、なんとか顔を動かすと、自分の上によくわからない音機関が乗っているのが見える。
  ぐちゃぐちゃに壊れたそれは、配線等の柔らかい部分が体の上に来ているのが救いではあるが……。
  これは――――重いはずだ。

  体も容易には動かせそうに無い。
  音機関の重みのせい以外にも、妙に体が動かしにくい―――というより、自分の意思下にないような感覚。
  身動きもロクに取れず、体中がずきずきと痛む。
  それでもなんとか首を巡らせ、周囲を見回す。


 「こ…ここ……は…?」


  石畳と、どこかで見たような音機関。
  目に映るのはそれのみ。

  ―――どこかで見たような風景。


 「俺は………一体――――?」


  呆然と呟く。



  なんで、自分がこんなところにいるのかという感覚で。











 「――――?」

  どれだけ、ぼぅっ、としていたのか。

  ふと、淀んでいた空気が動いたのに気づき、意識が戻った。




  ――――誰か、いる。



  ざわざわと。
  淀んでいた空気は、先ほどまでが静かだった分騒然さを伝えてくる。


 「……くっ」

  なにはともあれ、このままではいけないと思い、体を必死に動かし、不恰好な匍匐前進の要領で進み、音機関から這い出る。

     がこんっっ

  自分という支えを失った音機関が崩れるが、気にかけてはいられない。
  痛みを堪え、なんとか立ち――――

     がくんっ

  ―――あがろうとして。
  足に力が入らず倒れてしまう。
  ……というより、左右の足のバランスが悪い人形のように、といった方が適切か。

 「〜〜〜〜〜〜」

  床に倒れるときに顔面から落ちてしまい、鼻をぶつけたせいか、生理現象で涙がにじむ。
  しばし悶え、痛みがひくまで蹲る。

 「…くそっ」

  今度は慎重に、壁に手をつきながら立ち上がる。
  そして、そのままもたれかかりながら歩き始める。


 「こっち……だよな」


  先ほどの、ざわついた空気の発生源へ。
  雰囲気が流れて来る場所へ。
  一歩一歩が重く、辛い。
  階段も、数分かけてようやく一段ずつ上っていく。


  一段一段、一歩一歩、足を進めるごとに目的地が近づく。
  石畳を踏みしめ。
  壁を支えにして。



  ――――そして。



  視界が、開けた。














  まず目に入ったのは、天井からぶら下がったシャンデリア。
  そして変わらぬ、どこか寂れた石畳。



  ―――見覚えのある、場所。




  そう、ここは確か――――




  記憶にひっかかったものを思い出すために、周囲を見回す。
  高さからして、ここはどうやら二階らしい。
  階段の端へと足を進め――――


 「――――――!!」



  手すり越しの眼下に広がるは、くすんだ赤色の絨毯が敷かれたホール。
  そして――――



 「な……」



  ――――多くの騎士達が、『誰か』を中心にして集まっている。



 「な……んで……」



  ――――やがてその誰かは、騎士達に連れられ、ホールを出て行く。












「なんで――――ガキの俺があそこにいるんだよ・・・・・・・・・・・・・・………?!」















  ――――その『誰か』と同じく、燃える炎のような髪の少年は。












  そう、かすれた声をあげた――――。


























  Tales of The Abyss
ゲシュタルトの祈り
〜Re:Start for Replica〜
Re:Act-00 NEXT→RUNNING
折沢崎 椎名
























 「………い、いや、落ち着け、俺………。
  俺はルーク=フォン=ファブレで、ファブレ家の一人息子……の、レプリカで……。
  エルドラントに乗り込んで、師匠せんせいを倒して、ローレライを解放して、それか ら……」


  騎士達も、己のそっくりさんも、皆、ホールからいなくなって。

  『彼』――――ルーク=フォン=ファブレは、手すりに背中を預け、力なく座り込んだまま頭を抱えていた。


 「それから――――どうなったんだっけ?
  なんかローレライに…驚嘆した? ……とか言われて………。
  やべぇ、そっからの記憶がさっぱりだぞ!?」


  なんだか頭の弱い子みたいな発言をして、ぶんぶん、と頭を振る。
  それなりに長さのある髪が、それにあわせて揺れ――――


 「……って、髪?」



  呆然と。
  自分の腰近くまである髪を見やる。



  ――――変わると決めたときに、それまでの自分と決別するために切ったはずの、髪を。



 「そんな……なんで……って、そういや――――」



  ふと、気づいて。
  改めて、自分の体を見下ろす。



  伸びきっていない手足。
  以前より近い地面。
  遠い天井。
  これまで来たことのないボロボロの服。


  ――――小さくなっている。格好も、自分が記憶している最後の姿とは、程遠いもので。




 「なんだよ――――これっ!?」

  己が姿に愕然とする。

  自分は―――そう、己は、生を受けて創られてまだ七年だが―――躰そのものは、 17,8歳のものだったはずだ。
  なのに。


  これでは、これでは――――本当に歳相応ではないか・・・・・・・・・・・




 「なんで俺がこんなガキの姿に―――ワケ分かんねぇ…!」



  頭を抱え、座り込む。
  髪が地面につき、這う。

 「くそっ…どーいうことだ?
  そもそも俺、消えるはずだったのに……音素フォニムが乖離して、小さくなったとか…?
  いや、いくらなんでもそりゃねぇよな…」

  分からないなりに考えようとしているのだろう。
  難しい顔でブツブツ言いつつ、ない頭を捻っている。

 「なんでガキになっちまってるんだ? しかもここ、どう見てもエルドラントじゃないし……。
  ……ん、場所?」

  そこで。
  何かに気づいたのだろうか。
  立ち上がると、ある場所――――中央にある場所へと足を向ける。


  ペタペタと、ひんやりした石畳の廊下を歩き。

  そして――――その場所へたどり着くと。




 「間違いない……この三歳児が描いたような絵……ここ、コーラル城だ!」




  この城の中央と目される玉座に飾られた絵を見て。
  彼は、そう叫んだ。


  それは、この城にかつて住んでいたといわれる貴族の息子が描いた絵。
  父親と母親を描き、この城の玉座にて飾られた、家族の絵。

  ……まぁ、芸術的価値は、かなり低いだろうが。


 「どっかで見たことがあると思ったら……けどなんで俺、こんなとこいるんだ?」

  場所は分かった。
  しかし、何故自分がここにいるのか、という新たな疑問に、彼は腕を組んで考え込む。


  が――――


 「っだー! 全然わかんねぇ……ジェイド辺りならさくっと説明してくれそうなもんなのに…」

  目を閉じて考えても答えが出ず、そう叫ぶと、舌打ちしてキョロキョロと周囲を見回す。

  しばらくそうしていたが、彼にとってのヒントとなりそうなものは見つからず、脱力して玉座にもたれかかる。


 「くそ……」

  舌打ちし、天井を仰ぎ――――

 「…あれ?」

  何かに、気づいた。
  その一点―――ただの壁しかない場所を凝視して、


 「……俺、確かにもう一枚の絵もココに飾って、開いた隠し通路の中にもはいったよな……」


  小さく呟く。
  そう、確かに―――シバから貰った絵を飾り、玉座の間にある壁から通じる隠し通路へと入ったはずだ。

 「…けど、ないな……。
  誰かが持って行った……ワケもないだろうな、あんな絵……しかも片方だけなんて」

  呟き、ひらひら、と本来なら絵が飾ってある場所で手を振る。


 「――――ちょっと待て」


  と。
  急にその手が止まり、彼の顔が引きつる。
  そして、おそるおそる――――階下のロビーへと視線を向ける。

  そこには、当然何もない――――


 「ま、まさか………」


  が。
  彼には思い当たることがあるのだろうか。
  掠れた言葉を口にしながら、ふらり、と立ち上がる。
  そして、おぼつかない足取りで、壁を杖代わりにロビーへと降り、一階の奥へと進む。

  開け放たれたドアを潜り、書斎と思しき部屋へと入り――――


 「………マジかよ」


  呆然と、呟く。

  ――――彼の視線の先には、奇妙な文様が描かれた、他とは毛色が違う壁。
  上方に紫色の音素フォニムが輝いている、そんな壁。

 「この仕掛けも、解いたはずだ…!」

  青の音素フォニムと、赤の音素フォニムを 使って、確かに解いたはずだった。
  この先でフォンスロットを開かれ、アッシュと交信できるようになり。





  そして、七年前に――――ここで、創られた。






 「そう…俺は、七年前に……創られたハズだ……!」


  ならば――――


 「けど――――」





先程、大勢の騎士に連れられていった子供は何なのだ?






「あれはまるで―――俺が発見されたときみたいじゃねぇか……」




















  答えに至り、地面に座り込む。

 「…まさか…本当に七年前、なのか?
  けど、なんで……?」


  小さく呟き、それが分かれば苦労しない、と頭を振る。

 「ありえねぇ……そもそも、俺はあの瞬間に消えるはずだったよな…?」



  ローレライが音譜帯へと飛び立ち。
  その瞬間、確かに『自分』という存在が薄くなるのを感じた。




  ―――あぁ、消えるのかと。

  ―――確かに自分は、思ったはずだった。




  それなのに――――






 「………本当に……ワケのわかんねぇことばっかだ………」


  呟いて、蹲る。

  分からないことだらけで、拠るべきしるべもなく。
  理解不能の情報だらけで、現状把握もままならず。


  ある種の絶望が身を蝕み―――。

   ぐぅぅぅぅ〜〜


 「………」

  どうやら。
  絶望していても、腹は減るらしい。
  というより、無い頭を捻っていた分、カロリーの消費は常より激しかった可能性すらある。
  普段から頭を使っていないからこういう目に――――否、それはともかく。


 「……どーしよう」


  力なく呟き、周囲を見回す。
  もっとも、先程から辺りは調べとおしていたので、何もないことは先刻承知なのだが。

  さて、どうしたものか、と腕を組んで考え込み――――



 「………ここにいても、らちが開かないよな…」



  …結局、出た結論はそれだけだったようで。
  彼は――――ようやく、支えなしで立ち上がると。

 「……確か、ここから近いのは、カイツールぐらいだよな……」

  さしあたっての目標を決めて。


  ―――彼は、二度目の始まりの地を後にした。


































  ―――――で。




 「………も…もうだめだ………」


  出発して、半日。
  場所は、カイツール港、カイツーツの関所、そしてコーラル城の丁度真ん中。

  ―――空腹と。
  そして、今の自分の体が『10歳の、それもロクに運動などしていないレプリカの子供』であることを忘れていた彼は。




  ――――見事に行き倒れていた。






 「……死ぬ………マジで……」

  見渡す限り何もなく、三方向にかろうじて、揺らめくような建物の影が見える草原。
  そんな場所に仰向けに倒れ、力なく空を見やる。

 「うぅぅ……アニスは……大丈夫だったのに……」

  仰向けのまま、ぼやく。
  というか、それは比べる相手が間違っている。
  時々トクナガをでかくしたり、さりげなく男衆の背中などに乗って楽をしているのだから、彼女は。
  ……あぁ、後、一応『導師守護役フォンマスター・ガーディアン』でもある。

  まぁ、ともかく。
  比較対象にするべきではないだろう。

  ……まぁ、その辺、まだオツムの弱い彼では、しょうがない、といえばしょうがないのかもしれないが。


       ぐぅぅぅぅぅ〜

  腹の虫が鳴く。
  だが、当然のことながら、何もない。

 「…やべぇ……死ぬ……」

  かすれた声で―――呟く。
  確かに、このままでは――――死ぬだろう。


  まるで、一人旅に出た夢想家の如く。
  絶対に、確実に。
  当たり前の如く。

  ―――野たれ死ぬだろう。



 「…あー…やべぇ、目が…かすんで……きやがった……。
  こんなの、ネビ…リム……とかの時……以来だぞ……」

  意識が朦朧とする。
  見上げていた空が黒ずむ錯覚。
  気づかぬうちにだんだんと閉じる瞼。
  霧散する思考。


  ―――どれもこれもが、最悪の状況デッドラインとなりつつある。


 「……こんなワケの分かんねぇ状況のまま……死ぬのかよ……」


  小さく。
  怨嗟とも取れる呟きを残して。
  意識は、完全に――――




 「――――お……、………しっか……! …………!!」




  ―――意識が、途絶える瞬間。
  見知らぬ――――少なくとも記憶にない声が聞こえた。



  だが――――残念なことに、覚醒するには至らず。

  結局、彼の意識は――――堕ちた。































――――かくして、物語の幕は開く。

再開と、再会と、そして――――。

紡がれ、絡まった物語の幕が。

――――ただ、そのホコロビが解かれる、その時を心待ちにして――――





























――――This world is never end.

きっとそれは、『彼』の、たった一つの願い故に――――









This world start for ...










  あとがき

   どうも初めまして…じゃなかった、ご無沙汰です。
   通りすがりの椎名@新人です

   オペレッタはどーしたとか、なんかもー自分でツッコミを入れたい気分なんですが…まぁ、うん。


   そういうワケで、アビスです。
   ( )黒い鳩様に「そろそろ投稿して欲しいです」と言われ、オペレッタはもうちょっと時間欲しかったので。
   ほら、プロローグだと短くても文句言われな(ざくっっっ!!!!!



   ……んー、でも別に、連載を増やしたっていう気分じゃないんですよね。
   いや、なにしろこの作品、( )黒い鳩様同様、気まぐれで更新していくというか、鳩っちが更新したら書き始める
   ……これで、即行で( )黒い鳩様が次話あげたらどうしたらいいんだろう、俺(滝汗
   後はオペレッタ以上に反響があった時とか……どうしよう?


   ま、まぁ、いらん心配はともかく。

   そういうコンセプトの本作。
   また逆行モノです。二番煎じもいいとこですね。
   あんまり期待しないほうがいいでしょう。期待しないでください。するな。

   いきなり行き倒れるオツムの弱い彼がどーなっていくのか。
   ま、あんまり気にせず、次が更新されたら思い出してやる、程度の勢いでどうぞ、よろしくお願いします。



弥生16日・桜の蕾を見上げるころ
折沢崎 椎名




感想

折沢崎 椎名さん連載作品第二段!!、

テイルズオブジアビスの逆行物ですね。

というか、椎名さんが逆行なので私が再構成をという話になっていました(爆)

当然、彼は7年間の記憶を元に自分を立たせていると言う事になりますね。

となれば、記憶の中ではアッシュを破るほどの剣術も憶えていると言う事でしょう。

ですが、当然体は出来たてほやほや。

しかも、前回のよりも劣化が激しい体でしょうね。

となる と、生きているのにもハンデを負うんでしょうね。

この先への伏線の一つと言った所でしょうか?

う〜む〜まあ、他にも幾つかあるんだろうけどね。

最後の人はだれでしょうとか(爆)

予想がつく範囲内の人である可能性は五分五分と言っ た所でしょうか。

貴方のようにオリキャラを出してくれば何とでもなりますけどね。

椎名さんはそれほど単純では無いと思いますので。

恐らく大丈夫でしょう。

となれば、多分……死人かなあ?

いや、私ならそうするってだけの事ですが(爆)

彼が関る事で、死ななくなるってキャラじゃ無いけど、

彼女に係るには一番だしねぇ(二ヤリ)

そんな事だから(腹)黒い鳩なんて言われるんです!!

つまりはヒ ロインの人が決まっていると言う事ですか?

うーん、どうだろう……

決まっている可能性もあるけど、ハーレム物の可能性も……?

椎名さんの気分次第でない?

またアバウトな回答ですね、それはつまり分かっていないと言う事じゃないですか!!

まあ、あまり気にせずこの先を待とう。

私も来月ぐらいには続きが出せるかもだし(爆)

どうせその間FF]Uでもやってるんでしょう?

うっ……(汗)

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