「キャスター?セイバーじゃなくて?」

自らの召喚したサーヴァントのクラス名を聞いて、つい間の抜けた声を出してしまった。

「はい、私はキャスターのサーヴァントです。それより現状はどうなっているのですか?」

現状とは、ランサーの事だと思う。
本来ならばサーヴァント召喚は、聖杯戦争前に行うもの、少なくとも他のサーヴァントがいる前で行うものではない。
しかし………キャスター?

「あれ?……………そういう事か……」

オレが持っていた剣を見て悟った。
少し前に、死徒を殺した時に得た『剣』。それを触媒に召喚するつもりが、どうやら間違えて使い慣れた剣を持ってきてしまったようだ。オレの使う剣は、名剣と呼んで差し支えない一品だけど、英霊の触媒にはなりえない。全く自分の『うっかり』にも困ったものだ。まさか聖杯戦争という大一番でポカをやらかすとは…………

「もういいか?しかしキャスターとはな」

ランサーのほうが待ち疲れたと言うと、槍を構えなおす。
状況は悪い。もしもアレの召喚に成功していたら躊躇いなく交戦を選択したが、オレが呼んだサーヴァントはキャスター。
キャスターが全サーヴァント中で最弱といわれるのにも理由がある。キャスターとは魔術師だ。そして聖杯戦争に呼び出される三騎士と騎乗兵のクラスには、対魔力が備わっており、高い物となると如何なる魔術も受け付けないほど強力なものとなる。それでも上手く戦えば勝機がない訳でもないが、キャスターというクラスの真骨頂は、拠点を構えての迎撃戦。自らが敵陣に特攻するのは魔術師の戦い方じゃない。
おまけに相手は三騎士の一角であるランサー。対魔力はCと低いが、それでも不利は否めない。

「キャスター。細かい話は後だ。この場から効率よく撤退する手段はあるか」

魔術師の英霊ならば転移魔術くらい使えるかもしれない。もしも使用不可能ならば別の手段を考える。

「分かりました。事情は把握していませんが離脱するのが先決でしょう――――――――――『Τροψα』」

最初は何が起きたか理解出来なかった。
驚愕に歪むランサーの表情が見えた後、
オレの体は何処かへ消え去っていた。




 「まさか本当に空間転移……しかも一言でやるって、お前どんだけだよ」

あれからオレは、適当に離れた場所に転移した後、キャスターに間桐邸の場所を教えて、間桐邸へと戻ってきていた。しかし魔法に近い魔術とされる空間転移を、あっさりとやる辺りサーヴァントがどれだけ規格外の存在なのかが分かる。

「誉め言葉として受け取っておきます。ところで話を戻しますが、マスターは何故あのような場所で召喚を?それにランサーのサーヴァントが近くに居たのはどういう事ですか?」

「あぁ、その事か。サーヴァントは過去の英雄だろ。だからさ、英雄を殺したくなった。それで近くに居たランサーと戦って、だけど勝てそうに無かったから、仕方なくサーヴァントを召喚した。まぁこんなとこだろ」

「英雄を殺す!?何を考えているのですか!?魔術師がサーヴァント相手に戦いを挑むなど正気の沙汰じゃありません」

「別にいいだろ。聖杯戦争に参加したのもそれが目的なんだし……」

「は?どういう事です。貴方は聖杯を求めて参加したのではないのですか?」

「まぁそうだな。聖杯ってのには興味あるけど、絶対欲しいって訳じゃない。昔から待っていたんだよ。今まで死徒とか異端の魔術師とか殺してきたけど、渇きは癒えなかった。英雄との殺し合いなんて普通じゃ体験出来ない極上の殺し合いじゃないか」

キャスターが呆然としている。
当たり前か………キャスターにも言ったが、別に聖杯なんて欲しくない。精々が貰えるなら貰っとこう程度の存在だ。それは凛も同じだと思う。

「そうだ。キャスターの目的はなんなんだ?」

ふとした疑問からそう尋ねた。

「私の目的ですか…?」

「そうだよ。キャスターも英霊の座から出張ってきたんだから、聖杯が欲しいんだろ?少し興味があるじゃねえか」

僅かに躊躇った後。

「私の望みは………第二の生です」

「そうか……………それじゃ今後の指針でも考えようぜ。無策で聖杯戦争やるほど馬鹿なことはないし」

万能の願望器に願うのが第二の生だけというのも、簡単すぎる気もしないでもないが、人の夢なんて人其々だ。他人がとやかく言う事じゃない。

「っとまたうっかりするとこだった。キャスターの真名と宝具ってなに?それが分かんないと何も始まらない」

キャスターが、真名のところで、僅かに顔を強張らせたように見えた。しかし黙って入られないと考えたのか、ゆっくりと口を開くと………

「私の真名は『メディア』といいます」

そう呟いた。






「キャスターってマスメディアだったのか?」

「違いますッ!!」

何故か猛烈な勢いで、否定された。

「違うのか、そういえば昔の国名にメディアっていうのがあったような……」

「それも違いますッ!!私はギリシャ神話の英霊です!!」

「ギリシャ神話?………悪い。前にギリシャ人の男に、酷い目に合わされてからギリシャに関わるものに関して食わず嫌いなんだ」

思い起こすのは、オレがまだ遠坂だった頃………自称ギリシャ人の男が、オレの前で●●●を晒した挙句に●●●●踊りをして、仕舞いには●●●をして逃げていったのだ。幼い頃のオレには酷く衝撃的で、それ以来ギリシャという言葉にトラウマを持ってしまった。
その後、その不審者は竹刀を持った女子学生にボコボコにされて警察に捕まったそうだが、オレのトラウマは中々癒える事は無かった。

「じゃっ調べるか」

「調べるって何をです?」

「決まってるだろ。メディアという名前に関してだよ。知ってる?この時代にはインターネットっている便利なツールがあるんだぜ」

適当にインターネットを開き、メディアでくぐる。その中から適当に選んで、メディアに関する逸話を確認した。

「裏切りの魔女………か」

気のせいかもしれないけど、部屋中の温度が急速に冷えていく感覚を覚える。
いや気のせいじゃない。キャスターから上手く隠しているようだが、殺気が漏れている。裏切りの魔女と言われた事が癇に障ったのだろうか?

「マスター。もし出来るのならその名で、私を呼ばないでくれますか?」

―――――――――でないと殺してしまうかもしれません。
キャスターが暗にそう言っているのは、手に取るように分かった。

「気に障ったならごめんなキャスター。悪気はなかった」

自分に非があるのは明白だったので謝罪する。

「いえ分かってくれたなら良いのです」

ふぅ、キャスターもそれほど怒っていなくて幸いだ。
聖杯戦争序盤で自分のサーヴァントと仲間割れするなんて最悪だしな。

「キャスターの基本的な能力はステータスを視たから分かった。後はオレの事だな。キャスター。直死の魔眼って知っている?」





「まさかマスターが、それほどのイレギュラーだったとは……」

「驚いたか?」

「はい。まさかバロールの魔眼を所持した魔術師が、マスターだとは夢にも思いませんでした」

サーヴァント相手に戦いを挑んだと聞いたときはハズレクジを引いたと思ったけれど、もしかしたら私はトンでもない当たりを引いたのかもしれない。英霊の座にいた私は、ケルト神話の神であるバロールに関してもある程度は知っている。
万物の死を視ることが出来る『直死の魔眼』それ程のモノならばサーヴァントに対してもジョーカーになるだろう。それに供給される魔力量からも“彼女”が、この時代において優秀な魔術師であるのは想像に難しくない。許可を貰ってマスターの記憶を見せて貰ったが、その戦闘力は中々のものだった。
裏切りの魔女と言われた時は、怒りを覚えたけれど直ぐに誤ってくれたので、彼女の言うとおり悪気はないのだろう。

「そういえばマスターは何故男口調で話されるのですか?」

話が一段落したので素朴な疑問をぶつけてみる。
マスターは少しだけポカンとしたあと、

「キャスターが勘違いするのも分かるけど、オレは性別的には男だよ」

「はい?」

男?つまり男性、MAN?
それでも納得出来ないならと、首にある喉仏を見せてくる。
つまり………

「本当に男性なのですか?」

「イエスだ」

その口調はあっさりとしており、それが逆に彼女が彼であるのが、動かしようの無い真実だと告げている。
後に聞いた話だと、私はその後、数分間の間固まっていたらしい。

それが私と

マスターの………間桐識という少年との出会いだった。




==妄執の蟲==


「アサシンのサーヴァント、召喚に従い参上しました」

暗闇の中に溶け込むような全身の黒。
顔は髑髏の面で覆われている。
アサシンには基本的にハサン・サッバーハという名の者しか呼ばれない。
だが呼ばれるハサン・サッバーハは決して同じハサン・サッバーハではない。
暗殺教団、その歴代のハサンの一人。彼らは皆が誰が最強のハサンなのかを競っており、其々が別の秘奥たる宝具を隠している。

「カッカッカッ、十年前は不覚をとったが、今度はそうはいかせんぞ、遠坂の小僧」

アサシンを呼び出した陰が陰険に笑う。
そうこの者は死んでいなかった。肉体は完全に殺されて尚、間桐鶴野という男の心臓に巣食った本体は死んではいなかった。
だが長くは保たない。それ程に直死の魔眼は強力。
保って残り十数年といったところだろう。
本来ならばこのようなギャンブルはしたくはないが、これが最後の機会なのだ。己の望みは唯一つ『死にたくない』それだけ………
全身を蟲に代えて尚も生きたが、それも限界。死という運命から逃れるには第三魔法の成就、魂の物質化によってなみ成される。

「しかしながら聖杯とは不完全。真に根源に辿り着けるかは怪しいの」

三度目の儀式においてアインツベルンが呼んだサーヴァントにより聖杯は汚染された。その結果が前回の聖杯戦争で呼ばれたキャスターであり冬木大災害だ。

「だが何も根源に辿り着く手段は聖杯だけではない」

そう老人は知っている。
己の肉体を滅ぼした『直死の魔眼』それもまた根源に繋がっていると………


数百年を生きた妖怪、間桐臓硯は好々爺染みた笑顔を浮かべながら、暗殺者と共に夜の闇へと消えていった。




【クラス】キャスター
【マスター】間桐識
【真名】メディア
【性別】女性
【身長・体重】163p 51s
【属性】中立・悪
【能力】筋力E 耐久D 俊敏C 魔力A+ 幸運C 宝具C


【クラス別能力】

陣地作成:A
魔術師として有利な陣地を作り上げる技能。“工房”を越える“神殿”を形成することが可能である。

道具作成:A
魔力を帯びた道具を作成できる。擬似的だが不死を可能にする薬を作ることもできる。


【保有スキル】

高速神言:A

一言で大魔術を発動させる高速詠唱の最上位スキル。
呪文・魔術回路の接続を経ずに魔術を発動する事を可能とする。区分としては一小節に該当するが、発動速度は一工程と同等かそれ以上。しかも威力は五小節以上の大魔術に相当する。
呪文自体が「神言」である為、常識的な詠唱における長さ・威力に比例という法則の適用外。故に本来ならばせめて凛のように相応の触媒を用意しておかねば実現不可能な、「大魔術をただの一言で発動させる」という行為を可能とするわけである。現代人の舌では発音不能、耳にはもはや言語として聞き取れない。

金羊の皮:EX

とっても高価。
龍を召喚する力があるらしいが、キャスターに龍召喚の技能がない為役に立たない。


【宝具】

破戒すべき全ての苻

ランク:C
種別:対魔術宝具
レンジ:1
最大補足:1人
魔術効果の一切を初期化する短剣。
キャスターの「裏切りの魔女」たる象徴。初級魔術から魔法まであらゆる魔術効果を打ち消してしまう、最強の対魔術宝具。しかし、どれほど低いランクであっても宝具の初期化は出来ない。なお、物理的な殺傷力は普通のナイフと同じ程度。



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