私の名前はオモイカネダッシュ。
今日マスターがルリとの交渉の末に折れて、1週間の期限付きではあるけれどもマスターはナデシコCに帰って行くことになった。
ラピスもマスターに着いて行くので、私は一人で待っている事になった。少し寂しい。
この寂しさを少しでも紛らわすために、オモイカネに頼んでナデシコCでのマスターたちの日常を見せてもらう事にした。
ただ見るだけではつまらいので、観察日記なるものをつけてみることにした。
12月21日
今日がマスター達がナデシコに行く初日。
マスターが言うには『ラピスの情操教育にいいかもしれない』とのこと。
確かに、ラピスはあまり感情が発達しているとはいえない。
それが改善されるのであれば、私もうれしい。
どうやら、ナデシコCに到着したようなので、ここからはオモイカネと一体化しながら見ていくことにする。
2人がブラックサレナから降りたとたんに手厚い歓迎を受けていた。
「てめぇ、アキト。心配かけさせやがって。ちったぁ連絡ぐらいよこせ」
「ウリバタケさん……。すいませんでした」
隣に居るラピスは、ウリバタケのことを知らないわけではないが、いかんせんその周りの整備班員達に怯えている。
つまりは、こういうことである。
「「ラ、ラピスたん萌へ〜〜〜!」」
「あの無口で、小動物っぽくアキトの後ろに隠れているのがイイッ!」
「いや、それよりも無言でマントの端を握り締めているのがなんとも……」
「「ラピスたん。ハァハァ」」
中には、既に
「おいこらテメーらなにやってんだ!そんな事は後にして、まずはこのエステの整備だ」
撮影会を中止させず、後回しにしただけなのがいかにも彼らしいと言えば彼らしい。
(アキト……ここ、怖い)
リンクで必死に訴えているようである。
「そうだな。じゃあ、ブリッジに行こうか」
その言葉と共に、マスター達はその場からそそくさと逃げるように去っていった。
12月22日
ブリッジに2人がいる時、《メグミ・レイナード》の不用意な発言からそれが引き起こされた。
「そういえばラピスちゃんて、いつもアキトさんと一緒にいるよね」
そのときは、これがその後に結びつくとは誰も予想していなかったに違いない。
「うん。わたしとアキトはいつも一緒」
これだけなら、可愛いものである。だが、その後が一味違った。
「でも、最近は一緒に居てくれない。アキトは私が嫌いになったの?」
だれともなく問いかけられた言葉、これに反応したのが《ハルカ・ミナト》だった。
「大丈夫よラピラピ。アキト君はあなたのことを嫌いになんかなったりして無いわよ」
「じゃあ、何でアキトは最近一緒のベッドで
ラピスの爆弾発言に、場が凍りつく。
いち早く再起動を果たしたのはミナトだった。
「アキトくん。ちょ〜っとお話があるんだけど、
ヤバイ。どうやら何やらの
ルリはルリで、
「ふふっ。私でさえ川の字が精々だと言うのに、一緒のベッドで寝ていたなんて」
「えっと、ラピスちゃん。それは倫理というものがあってね……」
現実空間に復帰したメグミがラピスに解説していた。
「そうなんだ……じゃあ、一緒にお風呂に入ってくれなくなったのはナゼ?」
更なる爆弾が追加投入された。
「後で、いいわね?」
ミナトにっこりと、それはもうイイ笑顔で微笑みながら言ってくれました。
どうやら、罰のランクアップが確定したようです。
「アキトさん。私からも
拒否したい。とっても拒否したいですけど、そんな事絶対に許さないようなオーラが出ているのではないでしょう
か?
なにかマスターの
「い、いや……ルリちゃん、ミナトさんも。話せば分かる。ね?だから、そんなものはいらなギャーーー!!」
何やらマスターの断末魔っぽいものが聞こえてきた気もしますが、きっと空耳で
す。そうです、そうに違い無いです。
スーパーAIにもなると空耳が聞こえるようになるんですね。一つ賢くなったダッシュでしたマル。
12月23日
今日、ナデシコの中はクリスマスパーティーの準備で大童のようだった。当然、アキトとラピスの2人も戦力として駆り出されている。
ラピスは女性陣と一緒に艦内の飾りつけを手伝っていた。心なしかいつもと比べて顔の表情が明るく思える。
やはりマスターの言うとおり、ナデシコに来てからいい傾向が出ている。
マスターは、整備班員と一緒に重いものの配置や、資材の運搬などの裏方をしていた。
マスターの表情もいつもと違い、何かうれしそうなものを感じた。マスターがうれしいと私もうれしい。
12月24日
今日は、クリスマスイブというものらしいです。ネットワークを通じて調べたところによると、クリスマス前日の夕方頃からをそう呼ぶらしいです。
マスターは何とかラピスにも普通の食事をさせるために、毎日食堂に通っていますがそこにルリがやってきました。
「アキトさん。今日の夜に
そういえば調べた資料には
《二十世紀後半頃より、カプッルがクリスマスイブを共に過ごす事が一般的となり、それに伴い
とありましたね。つまり、ルリはマスターとカップルとしてクリスマスイブを過ごしたいようです。
「ごめん。今日の夜は外せない用事があるんだ」
あ。マスターにあっさりと断られました。なぜか心なし背景にに
「じゃあ、私とも一緒に居てくれないの?」
今度はラピスですか。でも積極的になりましたね、ラピス。いい傾向です。
「ああ、すまないな。でも、ラピスが寝付くまでぐらいは一緒に居てやれるから」
「ほんと!」
「ああ、本当さ」
あ、ラピスが喜んでます。まぁ、確かにラピスは寝るのが結構早いですから。マスターもそう判断したんでしょうね。
ルリは……今の一連の会話を聞いて、益々固まっちゃったようです。とりあえず
そして夜、マスターはラピスが寝付くのを見届けるとマスターは私と一緒にある調べものを始めました。
全く、マスターは素直じゃありませんね。皆のほしそうなプレゼントを調べるだなんて。
12月25日
今日がクリスマスという日のようです。今日はお昼頃から艦内で《クリスマスパーティー》なるものが開催されるよ
うです。
ちなみにマスターは、午前中に街に出て皆さんのプレゼントを買いに出かけていました。
というか、プレゼントを買いに行くのにボソンジャンプ使ってどうするんですか、マスター。
そういえばラピスには可愛い服を選んでいたようです。ちなみに
必要経費として請求するから問題ないとの弁です。というか、
ナデシコに帰ると整備班がその能力を(無駄に)発揮して作り上げたセットで、『一番星は誰だ!〜INクリスマススペシャル〜』と銘打ったイベントが
開催されていました。
艦内で大々的にクリスマスパーティーをやったり、本当に戦艦なんでしょう
か?ココ。
私の疑問を他所にコンテストの参加者が発表されていきます。ラピスも出るみたいです。
1番 ホシノ・ルリ
2番 メグミ・レイナード
3番 ホウメイガールズ
4番 ラピス・ラズリ
5番 白鳥 雪菜(飛び入り)
あ、なんか影が薄い人が頭抱えてます。見たことが無い方ですね。オモイカネによると《アオイ・ジュン》と言う人
らしいです。
ナデシコAでは副長だったらしいですけど、ほとんど出番ナシですね。これはもう一種の才能と
いってもいいんじゃないんでしょうか。
それにしてもオモイカネを
ラピス、支援してあげますからね!!
ラピスの舞台が始まると、回りから「可愛い〜」と言う声援がいくつも上がりました。
ふふっ、計算どおりです。ラピスに
でも、一部の人の目がヤバイかもです。整備班がヤバイのはいつものことです
が、一番ヤバ目なのは《ゴート・ホーリ》ですね。
目が血走ってます。鼻息も荒いです。あ、なんかゴートを筆頭としてなぜか前屈みにな
る人がちらほらと見受けられます。
てか、いくらなんでもそこで前屈みになるのはヤバイでしょう。ほらなんていうか人
として、ねぇ。
でもまぁ掴みはOKと言う事にしておきましょう。
ちなみに、結果は……雪菜が1位になりましたとさ。
その夜、マスターは皆の枕元にそっとプレゼントを置いてまわりました。
その後にボソンジャンプをして向かった先は、イネスとエリナの元。全く、マスターは分かってるんでしょうか。
まぁ、マスターはいつも世話になってるからとしか思ってないんでしょうけど。全く
2人の下にプレゼントを配り終わると、再びボソンジャンプ。何処に行くんでしょうか?
そして、マスターが現れた先は……
「ユリカ……」
マスターの妻であるミスマル・ユリカの病室でした。
マスターはどこか酷く苦しそうな、それでいてその溢れんばかりの歓喜を必死になって押し殺しているような、複雑な表情をしていました。
すると、その気配に気がついたのか横になっていたユリカが薄らと目をあけました。そして、自らの目の前にあるその姿を認めるとその目を大きく見開き
ました。
「アキト……アキトなの?」
「ああ。ユリカ、俺だよ」
その答えを聞いたからでしょうか、その瞳の端に見る見るうちに涙が溜まり始め……
「うわああああぁぁぁぁん。アキト、アキトアキトアキトアキトアキトアキトアキトアキトアキトアキ
ト。
バカバカバカバカバカバカバカバカ!! 私が助かっても、アキトが居なかったら意味ないじゃない。
ずっと、ずっとずっと来てくれるのを待ってたんだから!!」
「済まない。お前やルリちゃんを狙う
マスターがそう心の内を明かします。
「でも、なにもアキトがやらなくったっていいじゃない。
ユリカが珍しく正論を述べる。だが、マスターは軽く首を横に振ってこう言った。
「妻と娘を守るのは
その言葉に、ユリカは頬を赤く染めた。
「でも、なんでこんな夜に会いに来たの。昼間に来ればいいのに」
最もな疑問である。私も、なぜマスターが夜にこんな行動を取ったのか理解に苦しむんですが。
「ユリカ。今日は一体何の日だ?」
「え?今日は12月25日で
ええ。今日はクリスマスですね。あの方はなにやら
「聖夜には、こんな
そう言うと、マスターはユリカを抱きしめて口付けさ
れました。
とと、ココから先は覗き見するのは野暮ってもんですね。それくらいAIの私にも分かります。
と言うわけで、今日はここまで。
12月26日
今日は、マスターからのプレゼントを発見した人たちが大騒ぎしてました。
当のマスター本人はなぜか
そんな状態ながらも、プレゼントについては知らぬ存ぜぬで通したマスターをある意味尊敬し
ます。
そういえば、今日はマスターがルリたちからのプレゼントについての問い詰めを、知らぬ存ぜぬで通していたときにちょっとした事件が
ありました。
要はハーリーにとってルリの関心を一心に集めるマスターが気に食わなかったんでしょう。マスターの陰口をブツク
サ言っていたんです。
それをラピスが聞いてしまったんですね。ラピスは基本的にアキト至上主義者ですから、マスターに敵
対するものは許しません。
そこで、ハーリーにおしおきするためにシュミレーターに放り込んで、私とラピスが以前暇潰しに
作ったシュミレーションプログラムを流しました。
クリアーしないと筐体から出られないようにして。
そこに放り込んでから1分ほどでなぜかハーリーの
ラピスの顔には満足そうな笑みが浮かんでいました。ちょっと気になったのでラピスに尋ねてみると、「あ
るゲームと融合させてみた」との弁が帰ってきました。
ちなみに、そのゲームは《超○貴〜聖なるプ□テイン○説〜》と
いう200年ほど前のゲームらしいです。
それにしてもさっきからハーリーの悲鳴がちょっとうるさいです。気になったので、シュミレーターの中の映像をのぞいてみることにしました。
左右に映るのは、なぜか
また、
それに耐えることが出来ないと……。
「おえええぇぇぇ」
こうなります。というか、AIでもこうなることを、身をもって実感してまた一つ(無駄な方向に)
12月27日
今日はマスターが
ちなみにハーリーは昨日の夜にシュミレーターから出てきてから、ずっと精神が
でも、誰も気にしていませんね。まぁ、これもいつものことですが。
そんな最終日ですが、やっぱり事件が起こりました。始まりはルリの一言でした。
「アキトさん、やっぱり行ってしまわれるんですか」
マスターを引き止めるルリの声。
「1週間というのが約束だったからね」
やっぱり来たかという感じで、それに答えを返すマスター。
「嫌です!お願いですアキトさん、私たちの元へ帰ってきてください」
ルリの必死の説得。だが、それは
「アキト……アキトは
「「「え゛?」」」
前回に続いてのラピスの爆弾発言に、ブリッジの声が重なった。だが、ラピス
はそんなことはお構い無しに言葉を続けます。
「(ルリ達のところに戻るから)私は
マスターへと向けられる視線が凍りついた。なんというか、
ですが、ゴートを筆頭とした一部の視線は
「いやな、ラピスが言っているのは
マスターが必死に弁解していますが、あの目は誰も信じていないみたいですね。
そしてラピスはラピスで、アキトからの反応が無いために益々言葉を重ねま
す。
「お願いアキト。(イネスの検査で)痛いのも、(エリナに抱きしめられて)苦しいのも我慢する
から!だから私を捨てないで!」
痛い。空気が痛すぎます。あ、さすがにマスターもこれには
ゴート達の視線はなんというか
女性陣の視線は既にマスターには向けられておらず、被害者?と思われる少女(ラピス)に向けられています。
「
ルリ達は盛大に勘違いをしたままなので、何とかラピスを励まそうとしています。
ですがラピスもなぜルリがこんな事を言っているのか分かっていないようです。
しかし、どうやら
「(ハッキングとかは)
「もうそこまで調教済みなんですか、アキトさん……」
訂正。ラピス……貴女本当は
それが
その後のことは……覗き見る勇気は残念ながら私にはありませんでし
た。
奥からマスターの悲鳴とか、鈍い物音が
聞こえてきたりとか……幻聴です。そうです、そうに違いありません。
一度システムの再点検を行ったほうが言いかもしれません。そう自分に言い聞かせる私
でした。
あの後すいぶんとぼろぼろになったマスターが、ラピスと一緒にユー
チャリスに戻ってきましたとさ。
おっと。新しいユーチャリスC艦長が着任するまで間があったのでメモリーを整理していたら、
あのときからもう20年が経ったんですねぇ。マスターはあれから3ヶ月後にこの世を去りました。
ラピスはまだ生きていて、現役のこの艦のオペレーターです。これを見せたら
そういえば、マスターが亡くなった同じ年にユリカが子供を産んだみたいです。ルリは弟が出来たと喜んで
いました。
あ、新しい艦長が見えたみたいですね。どんな方でしょうか?
そして、新艦長がブリッジに入ってこられ……
「俺がユーチャリスC艦長の《テンカワ・アキラ》だ。よろしく頼む、オモイカネダッシュ」
その時私は、AIでありながら
その艦長は、あまりにも記憶の中心にある
私は思わずこう答えていました。
「こちらこそよろしくお願いします。マスター!」
あぁ。これからまた楽しくなりそうです。
Fin.
どうも、ししゃもです。
シルフェニア二周年記念作品2本目です。
なんとなく、『AIも日記ってつけるんだろうか?』とふと疑問が思い浮かんだのでネタにしてみました。
そんな事をふと考えるあたりちょっとやばいかもです。
それでは、この辺りでお暇を……