エグゼ劇場也也(ロックマンエグゼ3)


 強者の波動を感じる……

 今尚科学省の人たちを苦しめているフレイムマンを倒すため、裏インターネットまで来た僕だけど、奴がいるだろうエリアに入った瞬間から、まるで心臓を鷲掴みにされたような感覚を僕は覚えていた。
 もしこれがフレイムマンの放つ威圧感だとしたら……そんな考えがふと頭をよぎった。
 しかし、僕はその考えを即座に切り捨てた。なぜなら、この感覚を遠い昔に感じた事があったような気がするからだ。
 それが何時、何処で、誰に対して覚えた事だったかまでは覚えてないけど……何か、予感めいた事を感じていたんだ。



「くっ……これだけ喰らわせても倒れないのか!?」
「ヴォオォォオオオ!!」
『ロックマンは疲れてる! 今うちにファイアブレスで倒しちまぇっ!!』
『今ファイアブレスを喰らったらやばいっ! ロックマン、避けるんだ!』
「くっ……」

 奴の放つ炎を避けながら多くのバトルチップを使っての戦いは、電脳世界の存在である僕とは言え、かなりの疲労を感じさせていた。
 と言う言い方をするのも中々おかしいような気がするけど、元々人間だった僕の精神が元にロックマンになってるから、さながら電脳世界に迷い込んだ子羊ってことになるのかな?
 せめて……せめて、目の前にいるこいつを倒したい。
 そんな気持ちが湧き上がってくるが、体はいう事をきかない。あの戦いの中でどこかにバグが入り込んでしまったのかもしれない。
 すぐ傍から熱斗君の声が聞こえてきてるはずなのに、今やそれが途轍もなく遠いところから囁き掛けられているような感じだ。
 ふと、口角が上がっているのに気付いた。
 熱斗君が言っていた通り、ファイアブレスを喰らったら一撃でやられてしまうだろう。
 やられる。僕ら電脳世界ではデリート、現実世界で言えば「死」に直結する定義だ。
 それなのに僕は笑っていた。

『ロックマン!!』

 せめて最後に、熱斗君の……熱斗の力になりたい。
 熱斗君もこれ以上のバトルチップの使用は僕の稼働率に触れることを理解しているのだろう。まだ小学生だって言うのに、ネットバトルに関することになると類稀な才能を発揮するんだから。

 僕は右手に力を篭める。
 最後の力を振り絞ってでもフレイムマンを倒す。そして、科学省にいる人たちを救う。それが熱斗君と僕の望み。

 ――ごめんね、熱斗君――



「「っ!?」」

 突然のプレッシャーに、僕は慌ててその方向を見つめた。
 チラッとフレイムマンの方も窺うが、奴も同じ方向を見ていた。
 このエリアに入った最初に感じた威圧感が、これ以上ないぐらいに発せられていた。
 確かにフレイムマンも強敵だったけど、やはりこれ(・・)は奴から感じていた物じゃ無かった。疲れもあるんだろう。今感じているプレッシャーを身に受けて左手が震えていた。
 右手に溜めたバスターの存在も霞むほどのプレッシャー。遠い昔のことだと思っていた、この威圧感……まさか……っ!

『おい、どっちを向いてる! フレイムマン! 早くロックマンをやっちまえぇ!!』
『ど、どうしたんだ、ロックマン?』
「ヴォ……ヴォオォォォォッ」
「この感覚は……! 熱斗君、何かが来る!」

 そして、奴は現れた。
 何度と無く合間見え戦ったことのある、紛れもない『強者』。
 闇の力を身に纏ったその姿。

 ――フォルテ。

 間違いなく最強の一角に存在するネットナビの一人。
 前回は帯広シュンが生み出したバグの融合体だったけど、今、目の前にいるフォルテは紛れもなく本物。電脳世界だというのに肌を刺すような強いプレッシャーは、見るもの全てを屈服させるような暴力さを持っていた。
 とてもフレイムマンとは比べ物にならない存在感。今、こうして疲労に苛まれている身でフォルテに敵うのだろうか?

 ――いや、ここで退くわけにはいかない。
 熱斗君、科学省の皆のためにも、ここで退いてしまったらいけない! 皆を助けるんだ!
 疲れた体に鞭を打ち、右手のバスターに力を篭めていく。そして、フォルテを睨み付けた。

「戦おう……強者の波動を放つも、の……よ……」

 ……?
 何か、違和感を感じる。

 確かにフォルテの放っている威圧感は本物だし、その場にいるだけで実力も理解できる。
 なのに、違和感を感じてしまう。
 一体この違和感は何を僕に知らせようとしているのだろうか。
 しかし……マント越しで見えにくいその表情が、僕を見て固まっているようにも思えるのは、何故なんだろうか?

『俺たちとやろうってのか!? フレイムマン、まずはそいつからやっちまえ!』
「ヴォヴォヴォヴォ!!」

 フレイムマンの口から大量の炎がフォルテに向かって吐き出された。
 周囲に熱という猛威を振るいながら撒き散らされた炎は、真っ直ぐにフォルテへと突き進んでいく。だと言うのに、フォルテは一向にその炎に見向きもせずに僕を見つめてきていた。
 そして、灼熱の炎は無常にもフォルテを包み込んでしまった。

『けっ! 他愛ねぇ! フレイムマン、今度こそロックマンをやっちまえっ!!』
「ヴォヴォヴォ、ヴォ……?」

 気炎立ち込める二人を放って、僕はずっとフォルテの方を向いていた。
 ――僕は知っている。
 あのフォルテがこんな攻撃だけでデリートされる実力なんかじゃないってことを。フレイムマンに力を借りた形になるのが悔しいけど、この炎で少しは体力は回復した。何時でも良い。僕の準備はできたぞ……!

「こんなものか……」
「ヴォッ!?」
『なっ!? なんだとぉ!! お、おいフレイムマン、もう一度ファイアフレアだ!』
「ヴォオオォォォオオオオ!!」
「失せろ……我が道を妨げるものよ」

 フォルテの左手に強大なパワーが篭められていく。
 それはフレイムマンが放ったファイアフレアなんか比べ物にならないほどのエネルギーが篭められていた。実際、こうして直視するのも辛い位だ。

 フレイムマンが再び口から大量の炎を吐き出した。その量は、これまででも最大のエネルギーを持っていた。

「アースブレイカー」

 その全てが、フォルテの左手だけで掻き消された。
 ――裏インターネットの暗闇を一瞬にして掻き消すような真っ白な光が辺りを包んだ。思わず、左手で目を覆った。
 そして、目を開けて状況を確認したときにはフレイムマンは跡形も無く、いたであろう足場は巨大な爪で抉られた様に窪んでいた。

『う、嘘だろ、オイ……お、俺が手塩にかけてカスタマイズしたフレイムマンが、一瞬で消し飛んじまった! な、なな、なんて奴だ……ここは一先ず、戦略的撤退だ、クソッ!』
「ナ、ナビにこんなパワーが出せるはずが……」

 まさに、圧倒的な力、暴虐的な力の権化だった。
 あの時、バグの融合体の時からは考えられないほどの力に、思わず右手が震えだす。
 今このバスターに篭められたエネルギーで、フォルテに敵うのだろうか……?
 そのフォルテが、今目の前に立っていた。

「さぁ……邪魔な者はいなくなった」
「くっ……!」

 フォルテの全身から、何者も受け付けないような強烈なオーラを感じ……あれ?
 感じ、なくなってきてる?
 もしかして、最初にフォルテを見たときに感じた違和感はこれの事だったんだろうか。
 しかし、それにしてもどうしてだろうか?

「私は……」
「何だって……?」

 何か、小さい声で呟いたあと、フォルテはゆっくりと近づいてきた。
 本当だったら僕はここでフォルテに対して何か、アクションを取るべきなんだろうけど、どうしてだろう。今の僕に、フォルテを拒もうと言う気持ちが全く湧いてくる事がなかった。
 そんな自分の気持ちに、バスターを構えたまま困惑していた。
 そしてフォルテは、手を伸ばせばすぐに触れてしまうだろう距離までやって来ていた。

「……初めてだ」
「何?」
「私がこんな気持ちを抱くことになろうとは……」

 幾分か身長が高い設定になっているフォルテが、僕を見下ろしながら呟いた。
 気持ち? 一体何の話をしているのだろうか。僕の心の中は困惑で一杯だ。

 そして、両手を大きく開いたフォルテは、そのまま近づいてくる。
 ――ここに来て僕の体は動きが鈍くなっていた。フレイムマンとの戦い、そのフレイムマンを一撃で屠ったフォルテの力による衝撃波は、少なくとも僕に影響を与えていたのだ。

 せめて一撃だけでも……!
 そう思って突き出した右腕は、既にバスターの形を保ってすらなかった。
 あの時の衝撃波で、今まで溜めていたバスターは散ってしまったのだろう。それは、僕の集中力が切れてしまったと言う事。
(くそっ……!)
 内心悪態を吐く。強大な敵を前にして、僕は何もできずにやられてしまうのか?
 せめて最後に、何か、何でも良いから手をつけておかないと……!
 そう思って突き出していた右手は、フォルテに掴み取られてしまった。

「……」
「うわっ!?」

 掴まれた右手を、勢い良く引っ張られた。
 疲労の溜まっていた僕の体は、フォルテの思い通りになってしまった。
 一見、抱き合っているように見える格好になってしまった。もしもここで、あの力を放出されてしまったら。
 ゾッとするような、氷を背中に放り込まれたような感覚が突き抜ける。
 フォルテの右手が背中に回される。抵抗する事もできず、されるがままにされる。そして顔を耳元に寄せてきた。

「お前に……惚れた……」



「……え?」

 今、僕は何を聞いたんだろうか?
 分からない。理解できない。頭の回転が、まさしく電脳が回ってない。
 ほれた、掘れた、彫れた、ホレタ……惚れた?

 Why?
 このフォルテは何を言っているんだろうか。
 こいつもあの時みたいにバグの融合体なんだろうか。あの融合体は確かに目の前のフォルテに比べて弱かったが、こいつみたいに感情を出す事は無かった。恐らく、データ状の物でしかなかったからだろうが、あの時のフォルテの方が本物のような気がしてきた。
 いや、恐らくそうなのだろう。そうだと言って欲しい!

 むにゅ。

 ――嗚呼、おかしいなあ。
 そんな訳あらへんがな! なんて口調も狂ってしまいそうだったが、僕はいつからフォルテが男だと勘違いしていたのだろうか。
 強大な力を持っていたから?
 それとも、前に見たときの姿が男性フォルムだったから?
 ……どっちもあるんだろう。しかも、男の口調だったってのもあるだろうけど、これだけの実力を持っていたから……

 しかし、この感覚は恐らく――

「どうだ……男なら、胸の感覚は好きだろう? 私にとっては邪魔でしかない塊なのだがな」
「あ、いや……その……」
「お前、名前は?」

 僕の眼は可笑しくなってしまったのか。
 今まで強大な敵にしか見えなかったフォルテが、今や美形の女性にしか見えなくなってしまった。
 僕も男だ。それも、彩斗としての、人間だった頃の感情も持っている。
 そんな僕にこの感触は凶器と言っても過言じゃない。
 まさか、事を争ったフォルテに、こんな母性の存在があろうとは……

「ロ、ロックマン.exe……です」
「ロックマン、か……ロックマン、ロックマン……嗚呼、なんて良い響きなんだ……こんなにも満たされる気持ちを抱くことも久しく無かった」

 釣り眼がちの表情が和らぎ、頬が紅く染まる。
 これがまさしく光悦とした表情なのだろうか。
 これでは本当にただの女性のようではないか。

「そ、そうですか」
「嗚呼、そんな丁寧語なんて使わないでくれ。いつも通りに話してくれて良い。私が惚れた男なのだからな」
「え、っと……わかった」
「それで良い」

 僕の腕を掴んでいた手で、頬を撫でてきた。
 思った以上に柔らかい肌触り。
 思いもしなかった行動、状態に困惑していたが、思った以上の女性らしさにドキッとしてしまう自分もいた。
 弱っていることも関係してるんだろうか。
 何故だろう……このままフォルテに身を預けても良いと思ってしまう自分がいる。

「私は人間が憎い……しかし、ロックマンの主なら大丈夫かもしれない……私は、君について行こう」
「え!?」
「心配するな……私の力は見ての通りだ。君の信頼を裏切るような実力じゃない。ただ、君には、私の(つがい)になって欲しいだけだ」
「は……つ、番!?」

 頭が沸騰する。
 いきなり女性に番になって欲しいと言われても、しかもついて行くって……そんな簡単に言うなよ……犬猫じゃないんだし。

「ただ、私は胸に大きな傷痕が残ってる……そんな私でも良ければ、貰ってやってくれ」
「そ、いきなりそんな事言われたって!?」
『う、うんっ。あ、あー……二人の世界に入り込むのもなんだけど……俺は別に構わねーぜ』

 ワザとらしい咳払いと一緒に入り込んできた熱斗君は、これ以上無い言葉を掛けてくれた。
 無論、悪い方向で。

「ちょっと!? 熱斗君!」
「ふ……人間にしては話が早い……と、言うわけだ。これから、よろしくお願いする」
「何勝手に納得してるんだフォルテェ!?」
「嗚呼、早速私のことを呼び捨てにしてくれるとは。さすがは私が惚れた男だ」
『あ、うん……それじゃあ、二人でプラグアウトはできないし、道中楽しみながら戻ってきてくれ』

 絶望である。
 しかし、この胸の感触は今まで感じた事のない幸福を感じるが。
 ……ダメだ、疲れで何を考えてるのか分からなくなってきた。

「どうせなら! この場で! 僕を! プラグアウトしてくれよっ!!」
「大丈夫だ……この辺りの雑魚は皆、私のオーラに怯えて出てくることは無いからな」
「そっちの心配をシテルンジャナイ!!」
『その様子じゃ大丈夫そだから、俺、少し離れて休んでるわ』

 オペレーターがPETを手放してどっかに行くなんてそんな愚考を教えた覚えはない!
 お願いだから戻ってきて、熱斗君!

「大分弱ってるみたいだが……安心してくれ。私が、必ず守りきろう」
「なんて、心強いお言葉……」



 その後、フォルテに引っ付かれたまま、ロックマンは無事熱斗のPCまで戻る事ができましたとさ。
 その間、どんないちゃつきがあったかはまた別のお話。




あとがき

 ニコニコ動画でPAのみでって動画を見てたら唐突に思いついてしまっただけのss。
 クーデレっぽい感じのフォルテにしてみたらエロイんじゃないかって煩悩が囁きかけてきたんだ(錯覚)
 R−18を望む人は……まぁ、感想の方に『( ゚∀゚)o彡゜』を投げ込んでくれたらどうにかなるかもね(白目)

 そしてフォルテが好きな目の前の貴方。
 ……おっぱいのあるフォルテが、私のフォルテです(キリッ
 ――正直、すまんかった。



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