魔 法先生ネギま!
〜ある兄妹の乱入〜
外伝 トラブルトラベル 2話目A
どすんっ
「うわっ」
「ぐえっ・・・」
気が付くと、彼らは地面に横たわっていた。
いや、空中から落下して、地面へと激突した。
幸い、それほどの高さからではなかったため、怪我などは無いものの。
「まったく貴様というヤツは!」
「ご、ごめん・・・」
勇磨が振るった『アメノムラクモノツルギ』のおかげで、開いた時空の割れ目に飲み込まれて。
ここはいったいどこだろう?
「まあいい・・・。早いところ、元の場所へ帰る算段を・・・」
「あ、あのーエヴァちゃん?」
「なんだ?」
下からかかった声に反応し、ん?と見下ろすエヴァ。
そう。勇磨の顔、身体が自分の下にある。
「お、降りてくれないかな〜?」
「・・・む?」
「の、乗っかってる乗っかってる」
「・・・おお」
ようやく合点がいった。
つまりエヴァは、仰向けに横たわっている勇磨の上に、馬乗りになっていたのだ。
「あのね・・・・・・早くどいてくれよ」
「『重い』とかほざいたら、殺すぞ。レディに向かって失礼なヤツだ」
「そ、そうじゃなくて・・・」
ムッとして言い返すエヴァだが、勇磨の言いたいことはそうではない。
小柄なエヴァだ。
色々な意味で心地よいと感じはしても、重いなどと感じることは無かろう。
むしろ・・・
その『色々な意味』の中に、含まれているのだが・・・
「こ、この格好はね? その、なんだ・・・」
「・・・ふむ」
エヴァは、右を見て、左を見て、下を見て、勇磨を見下ろして。
ニタぁ・・・と、妖しげな笑みを浮かべた。
「
「わーわーわー!」
乗っている位置が、ちょうど、勇磨の腰の辺りで・・・
色々と想像できてしまうのである。
「なんてことを言うかな!? せっかく遠回しに言ってたのに!」
「ククク。相変わらず耐性の無いヤツだ。ほれ」
「うぅ・・・」
勇磨が真っ赤になって慌てるのを見たエヴァは、満足したのか、ひょいっと降りた。
唸りながら勇磨も立ち上がる。
(ただでさえ密着してたのに、あの位置じゃもう・・・)
ほこりをはたきながら、勇磨はため息。
学校帰りに寄ったエヴァ邸だったから、2人は共に麻帆良学園の制服姿だ。
馬乗りになっていたエヴァ。落ちてきた拍子にめくれてしまったのだろうか。
スカートがまくれ上がって、勇磨とは、わずか薄布1枚だけで隔たれていたに過ぎないのだ。
お年頃の健全な男子にとっては、たったそれだけでも、充分な刺激である。
「・・・はぁぁ」
「何をため息などついている」
「はいはい」
当の本人が、わざとなのか気付いていなかったのか、この調子だから余計に困る。
いや、たぶん前者なのだろう。
「ここはどこだ?」
「さあ・・・」
さて、改めて周りを見てみよう。
どうやら小さな路地のようで、左右は高さ2メートルほどの塀になっており、
正面により大きな道、といっても舗装されていない道が見える。
そういえば、この路地も土のままだ。
「舗装されていないということは、よほどの田舎か、あるいは・・・」
「いずれにせよ、麻帆良ではない場所に飛ばされてしまったことは、確かなようだな」
現代日本において、都市部で舗装されていない道路というのは、ほとんど無かろう。
田舎に行けばあるだろうが、少なくとも、麻帆良近辺ではないことは確か。
空間の裂け目に落っこちて、どこか別の場所に飛ばされてしまったようだ。
「貴様のせいだぞ」
「うぅ・・・」
勇磨が、危険なアーティファクトを、力いっぱい振るってしまったのが原因である。
エヴァから睨まれ、小さくなるしかない勇磨。
「まったく、くだらん見栄など張りおって。どうしてくれるんだ」
「うぅぅ・・・・・・ごめんよー・・・・・・」
「貴様、カネは持ってるんだろうな? 近場ならまだいいが、無いと帰るに帰れないぞ」
「・・・・・・」
固まる勇磨である。
もし遠くまで飛ばされてしまったとしたら、麻帆良まで帰るのに、どうしても交通費が・・・
「・・・察してくれ」
「・・・そうだったな」
肩を落とす勇磨を見て、エヴァは思い出した。
財布の紐を握っているのはあの妹で、掴んで離さないため、持っているわけが無いと。
「しょうがない。私はいくらか持っているから、貸してやる」
「あ、ありがとーエヴァちゃん!」
「帰ったら返せよ」
「うっ! む、難しいけど、善処しますです・・・」
勇磨がお金を得るには、どうしても、環の承諾を得るしかない。
こんなことが元で借りたことなどバレたら、大目玉を喰らうことは必定。
だがしかし、致し方なし。
もっともらしい理由、言い訳を考えておかねば・・・
ガックリと脱力して頷く勇磨だった。
「ところで、まずはここがどこなのか、確かめねばな」
「ソウデスネ・・・」
「ショックなのはわかるが、片言はやめろ」
エヴァが言ったとおり、現在地を確かめねば始まらない。
出来るだけ近場であることを願うばかりだ。
「大通りに出てみるか」
「はいー・・・」
正面の大きな通りへ出てみることにする。
舗装されていないから、あまり期待は出来ないが、手がかりくらいは掴めよう。
「・・・ん?」
「うわー・・・」
通りに出てみて、驚いた。
まず、道幅の広さ。
数十メートルはあるだろうか。そんな道が、前後にず〜っと続いている。
もちろん未舗装のままだ。
第二に、周りの街並み。
見慣れた景色はまるで無く、なんということか、古代の宮殿か何かのような屋根が見えるではないか。
ここはどこかのテーマパークか何かか? そう思ってしまうくらいである。
そして・・・
「う、馬?」
「あれは・・・・・・・・・もしかしてー・・・・・・牛車、ってヤツかな・・・?」
向こうから、人を乗せて堂々と歩いてくる馬。
そして、教科書でしか見たことが無い、馬車ならぬ牛が車を引く牛車。
なにより、道行く人々の格好も・・・
全員が着物。しかも、非常に独特な、時代がかった衣装である。
あえて言うと、「貴族?」みたいな。
洋服を着ているものなど、誰1人としていなかった。
「アハハハ。エヴァちゃん。
ここはどうやら、旧き良き時代をテーマにした、大掛かりなアトラクションみたいだよ。アハハハ」
「勇磨・・・。無論、私も信じられんが、現実逃避はやめろ」
もう、笑うしかない。
これらの状況証拠は、揃いも揃って、ある可能性を導いてきているではないか。
「な、なんやあいつらは・・・」
「見慣れない服やな?」
「あ、あっちのちっこい女の髪!」
「金色・・・」
極めつけは、自分たちを見る人々の反応。
制服を見て、エヴァの金髪を見て、まるで初めて目にしたかのような言い草ではないか。
もちろん、冗談を言っているような雰囲気ではない。
「・・・・・・えっと」
「信じたくはないが、信じざるを得ないようだな・・・」
勇磨もエヴァも、半ば混乱しながらではあるが、状況を理解する。
すなわち・・・
「「
それ以外に考えられない。
「過去に来ちゃったってのか!?」
「それも、かなり昔にだ・・・」
最低でも、江戸時代よりは古い。
下手をすると、もっと前か・・・?
空間だけではなく、時間すらも移動する力が、天叢雲にはあるのだろうか?
「勇磨、貴様ァ・・・」
「お、おおおお落ち着けエヴァちゃん! 落ち着いてよく話し合おう!」
「こんな状況で落ち着いていられるかっ!」
勇磨の責任で間違いない。
途端に言い争いが始まるが・・・
「怪しいヤツラだ・・・」
「あの金色の髪の女は、妖怪変化ではあらへんか?」
「ち、近づいたらアカン!」
「誰か! 検非違使を呼んでくれなはれ!」
「・・・!!」
周囲がさらに騒がしくなった。
特に、初めて目にした金髪には恐れおののいたようで、役所に通報しろというのだ。
『検非違使(けびいし)』とは、現代でいう警察のようなもので、犯罪などを取り締まる役人である。
・・・なんて、冷静に解説している場合ではない。
単語を知らなかったとしても、人を呼んだということくらいはわかる。
ここにやってこられ、捕まったりしたら非常に厄介だ。
「マズイ。逃げるぞエヴァちゃん」
「あ、ああ」
2人は即座に、その場から逃げ出した。
安全な場所を探した結果、2人は、どこかに身を隠したほうがいいと判断。
とある邸宅の塀を飛び越えて、勝手ながら庭先を拝借することにした。
塀を越える際、この世界でも、魔力が充分ではないことが判明したエヴァ。
本当なら空を飛べる彼女、それくらい造作も無い、と自信たっぷりに言い放ったのだが、ダメだった。
仕方なく勇磨が抱え上げて飛び越えたのだが、この格好を巡っては、ひと悶着あった。
「こ、これ以外には認めんからなっ!」
と、横に抱えてくれるように言って譲らなかったのだ。
俗に言う”お姫様だっこ”である。
いざ抱き上げられたエヴァは、そっぽを向いて赤くなりつつも、
非常に満足げであったという。
さて、飛び越えた先の庭は、広くて非常にすばらしい庭だった。
プールならぬ池がある。緑も多く、身を隠すにはちょうどいい。
奥に見える建物も大きく、どうやら、それなりに地位のある人物の屋敷のようだ。
「・・・これからどうするんだ」
「それなんだよね」
ひとまず安心して、会話を交わす。
「また天叢雲をも振るっても、確実に元の世界、時代に帰れるとは限らな――ぐえっ」
「何を言っている! 貴様にかかってるんだぞ、なんとかしろっ!」
「ぐぐぐ・・・・・・そんなこと言われても・・・・・・く、苦しい・・・・・・」
能天気なことを言う勇磨に、エヴァがキレた。
胸倉を掴み上げて、罵声を浴びせた。
これがいけなかったか。
「あっ」
「・・・え?」
「う」
女性の声。
もちろん、エヴァのものではない。
「あ・・・・・・あ・・・・・・」
「しまった」
このお屋敷で働く女性か。
自分たちの姿を見てしまい、わなわなと震えている。
無理もない。
彼女からしてみれば、見たことも無い服装の、怪しくてたまらない人物だろう。
「勇磨!」
「くっ」
このまま悲鳴を上げられてはまずい。
勇磨はすぐに動いた。
「静かに」
「・・・・・・」
不本意ではあるが、女性の口を塞ぎ、身体を押さえつけた。
女性は恐怖のあまり涙ぐみ、コクコクと首肯することしか出来ない。
「静かにしてくれれば、何もしない」
「・・・・・・」
「ただし」
「エヴァちゃん?」
あとからやってきたエヴァが、追加条件を付けた。
意図を計りかねた勇磨は首を傾げるが、黙っていろとばかりに視線を送ると。
「いくつか質問に答えろ。いいな?」
「っ・・・っ・・・」
こんなことを申し出る。
女性は再び、頭を上下させた。
「まず、今は何時代だ?」
「じだい・・・?」
エヴァから促された勇磨が口を抑えていた手を離すと、女性はか細い声で聞き返した。
なんのことだかわからないらしい。
質問を変える。
「ここはどこだ?」
「みやこ・・・。京の、都・・・」
京都だという。
彼女は答えるのが精一杯らしく、細い身体はガタガタ震えをきたしていた。
勇磨は申し訳なさでいっぱいになりつつも、彼女は貴重な情報源。
エヴァはなおも質問を続ける。
「今の天皇、帝は誰だ?」
「す・・・・・・崇徳帝様・・・・・・」
「すうとくてい? 勇磨、わかるか?」
「いや」
「ふむ・・・」
有名どころであれば、年代を特定できると踏んだが。
残念ながら、そうではなかったようだ。
「貴族、荘園、武士(もののふ)、平氏、源氏、院政、幕府、将軍。知っているか?」
「も、もののふまでは、なんとか・・・」
「そうか」
「エヴァちゃん? 何を聞いて・・・」
勇磨はわかっていないようだが、エヴァにはこの質問で、大雑把な年代は特定できた。
院政を知らないというのだから、最低でも、直後か始まる前。
そして、まだ武士がそれほど台頭せず、人々に知られていない頃。
つまり、平安時代末期、というところくらいだろう。
西暦にすると、1100年くらいから1150年くらいまでの間と思われる。
それを説明してやると、勇磨はいたく感心したようだ。
「へえー。エヴァちゃん歴史に詳しいなあ」
「5度も中学生を繰り返していれば、嫌でも頭に入るさ」
ふふん、と胸を張るエヴァ。
もう間もなく源平合戦の時代だなと、独り心地に頷く。
「あ、あの・・・」
「ん? ああ、悪かったな。勇磨、離してやれ」
「あ、うん」
震えながら女性が言うと、エヴァはもういいよとばかりに解放を指示。
勇磨も彼女を拘束していた手を離した。
「わかっているとは思うが、私たちのことは、今後一切、他言無用だぞ。いいな?」
「っ・・・!! っ、っ・・・」
「よし、行ってよし」
一目散に逃げようとした女性だったが、釘を刺しておくのを忘れない。
悪の一面を前面に押し出した恐ろしい顔で睨みつけると、女性はビクッとひときわ大きく身体を震わせ、
大きく首肯し、涙を溢れさせると、脱兎の如く駆け出していった。
「あーあ、泣いてたよ。悪いことしちゃったなぁ・・・」
「仕方あるまい」
まあ、彼女のおかげで、年代の特定は出来たのだ。
運が悪かったと思ってもらうしかあるまい。
「とにかく、元の時代に戻るためにも・・・」
その瞬間である。
「何やら声がするのう。だれぞおるのかえ?」
「「・・・!!」」
第2弾。
正面の障子がススッと開いて、中から、十二単も美しい女性が顔を出したのだ。
目が合ってしまう。
「そなたらは・・・」
「「・・・・・・」」
大ピンチ到来。
続く
<あとがき>
こちらはAパターン。
Bパターンとはパラレルですので、それぞれ独立した物語だということです。
なんと時間を逆行(バレバレだw)し、平安時代に来てしまいました!
最後に出てきた女性は、いったい誰でしょうね?
以下、Web拍手返信です。
拍手していただいている皆様、本当にありがとうございます!
>エヴァちゃん、断ろうよ! どう考えてもあの別荘は空間いじってるのに、(続く)
(続き)そんなところで空間断裂なんかやったら、暴走するに決まってるじゃんか!
いや、断ったらお話が成立しないので・・・(爆)
他の人間を巻き込まないための策ですので、そのあたりはスルーしてください。
環に対してのアドバンテージで、理性が本能に負けちゃったw
>トラブルトラベルってタイムトラベルと同じみたいな感じで過去に行くのかな?
ギックゥ!? 読まれてる!!
ふ、ふんだ、いいもんね! 私にはまだ、Bパターンという切り札がある!
>勇磨とこのかにもっと出番を!
勇磨はたぶん出ずっぱりです。
というか、仰りたいことは、勇磨とこのかをセットで出して絡ませろ、ということですよね?
うーん、外伝だと厳しいかな・・・
このかメインのお話も、出来れば創りたいと思っていますが・・・
>この場合はこの作品のTS世界に行くのか?
TSというのは、性別が逆転するという、アレですか?
いやいやアレは苦手なので、そういうことではありません。
>殿、外伝をお頼みもうしますぞ
おお、任せておくのじゃ。
そう遠くない未来に実現するぞよ。心して待つが良い(爆)
>ああ心が勇磨をハーレムを求めているこの調子で勇磨をそしてハーレムを!by烙印
準備段階、準備段階・・・
人数を増やすため・・・(邪)
>この際、刹那もくっつけちゃいましょうよ!!
刹那も!?
一応、外伝の中にも、彼女メインの話を考えてはおりますが・・・
>異世界でもぜひフラグをたてて下さい親方ァ!
オウ、異世界ではそんなに長い滞在時間じゃねえぜ。
だから、フラグが立つというところまではいかねぇなぁ。
元より、そんな人物と会う予定じゃないんだな、これが。(爆)