魔 法先生ネギま!
〜ある兄妹の乱入〜
外伝 助っ人参上!
「お願いしますっ!」
「へっ?」
とりあえず、状況を説明しよう。
場所は3−A教室。時刻は、4時間目が終了して昼休みに入った頃。
やれやれ午前の授業が終わった〜と、あくびと伸びを同時にこなしていた勇磨に向けて、
授業の後片付けもせずに一目散に歩み寄った刹那が、勢いよく頭を下げている。
チャイムが鳴り、教員が出て行った直後であったため、室内はまだそれほど、
喧騒に包まれているというわけではなかった。
よって、室内に居合わせたクラスメイト全員が目撃、あるいは刹那の声を聞きつけて、
何事かと視線を向けている状態である。
無論、勇磨は何のことだかわからずに、オロオロと周りを見回すばかり。
頭を下げている刹那は彼の様子が見えないから、続けて判然としないことを語る。
「ちょっと困ったことになってしまいまして・・・。
こんなことを頼めるのは勇磨さんしかいないんです。この通り、お願いします!」
「いや、そのー・・・・・・そんな頭なんか下げられてもさ・・・・・・」
何かを頼もうとしていることはわかる。
それはわかるが、その頼みごとの内容自体がすっぽり抜け落ちていた。
これでは彼でなくとも、なんのことだかわからないだろう。
「仰られる意味がよくわかりませんが」
見かねた環が、助け舟を出してくれた。
「ちょうどお昼休みになったことですし、場所を変えませんか?」
「え? あっ・・・」
教科書などをしまい終え、カバンから自分と勇磨の分の弁当箱を取り出し。
すっくと立ち上がって、刹那に向けてそう提案した。
刹那のほうは、ようやく、自分が注目を浴びていることに気づいたようで。
「そっ・・・・・・そうですね」
真っ赤になりながら頷くのだった。
その後、3人は学食へと移動したが、彼らが教室から出て行った後、
クラスメイトたちの間で色々な噂が飛び交ったことは、言うまでも無い。
さて、学食へとやってきた勇磨たち。
刹那が自分の分の食事を注文し終えるのを待って、片隅の席へと着いた。
「食事をしながらでよろしければ、お話を伺います」
「はい、お願いします」
食べながらではあるが、刹那の話を聞くことにする。
ちなみに、勇磨はすでに弁当箱の蓋を開け、早くもがっついていた。
「非常に唐突な話ではありますが、是非とも、勇磨さんに引き受けていただきたいことがありまして・・・」
「あいおーふぁ?」
「・・・は?」
「・・・たぶん、『内容は?』と尋ねられたんだとは思いますが」
が、話だけは聞いていた勇磨。
口の中がいっぱいな状態で聞き返したため、刹那には聞き取れなかった。
環は思わず額に手を当てて補足し、ため息をつきつつ、兄に向かって言う。
「とりあえず、お話は私のほうで伺いますので、兄さんは食べるほうに集中していてくれればいいです」
「ん♪」
「まったく、お行儀の悪い・・・」
「あはは・・・」
環からそう言われると、勇磨はうれしそうに、再びがっつき始める。
呆れる環と、苦笑するしかない刹那。
「刹那さん、それで?」
「あ、はい」
気を取り直して、刹那の話を聞く。
「実は、次の週末に、私たちの剣道部も出場する地区大会があるんですが・・・
いろいろ不幸が続きまして、出場できるメンバーが足りなくなってしまったんです」
「それはまたお気の毒。
復帰のメドは立たないんですか?」
「はあ・・・。交通事故やら、食中毒やら・・・・・・
少なくとも、1日や2日で回復が見込めるような状態でないことは、確かです・・・」
「そ、それはまたなんとも・・・。
それでは、復帰しようが無いですね」
「そうなんです・・・」
はあ、と息をつきつつ、どこか遠い目の刹那。
その顔つきだけで同情できてしまう。無理も無い。
「もともと人気の無い競技ですし、部員数自体が少なくて・・・
私が出られるのなら代わりますが、男子の大会なので、そうもいきません。
ですから、剣術をやってらっしゃる勇磨さんに、助っ人として加わっていただけないものかと」
「なるほど、そういうことでしたか」
「お願いします。このままでは、出場することすら叶わず、不名誉極まりない不戦敗なんてことに・・・。
この通りです、お願いしますっ!」
「衆人環境ですから、そう簡単に頭を下げられるものではありませんよ。
わかりましたから、頭をお上げになってください」
「すいません・・・」
再び頭を下げる刹那に、そこまですることは無いと言い。
環は勇磨に話を降る。
「だそうですが、いかがですか兄さん?」
「ん・・・・・・ごっくん。ごちそうさま」
「も、もう食べてしまわれたんですか・・・」
すると、勇磨はちょうど、綺麗に食べ終えたところだった。
数分と経ってない見事な早食いに、刹那は驚くというか、呆れる。
「お願いします勇磨さん。もう、あなたしか、頼める人がいないんです」
「ん〜」
が、ハッとして我に返ると、再度、勇磨に要請する。
彼の実力のほどは、修学旅行のときなどに見ているから、白羽の矢を立てたのだろう。
「俺が入れば、一応、メンバーは揃うの?」
「はい。大会は団体戦でして、幸い無事な部員3名と、もう1人は確保が出来ています。
最悪、控えは無しで臨みますから、あとは、勇磨さんに入っていただければ・・・」
「そっか。ん〜」
「お願いします! なんとしても、不戦敗だけは避けたいんです!」
「ああ、わかったら、頭なんか下げなくてもいいってば」
いまいち煮え切らない勇磨の態度に、刹那はもう何度目だかの土下座だ。
頼まれているほうが恐縮してしまう。
「でも俺たちって、家は確かに道場なんだけど、習ってたのは主に”剣術”のほうだから・・・
純粋な”剣道”となると、あんまり経験が無いんだよね。それでもいい?」
「全然構いません。それを言うなら、私も似たようなものですし。
当日は、勇磨さんには大将に座っていただきますから、悠然と構えているだけで結構ですので」
「た、大将か・・・」
団体戦の大将。
よそ者の、しかもパッと入った輩が、そんな位置に座ってしまっていいものなのかどうか。
少なからず抵抗を覚えるが、正規の部員にしてみても、なりふり構ってはいられないのだろう。
「うーん・・・・・・。どうするよ環?」
「ここでなぜ、私に振られるのかイマイチ理解できませんが。
私の意見を言わせていただけるのであれば、賛成です。
助っ人、大いに結構。がんばってきてください兄さん」
「・・・あれ?」
正直、そこまでの賛意を示すとは意外だった。
てっきり、今回もあまり乗り気ではなかろうと思っていたのだが、当てが外れた。
そんな思考が顔に出てしまい、環はムッとしたが、
あえてそのことには触れず、刹那に頼み込む。
「というわけですので、むしろこちらからお願いしますよ、刹那さん」
「え? あ、あの・・・・・・いいんですか? まだご本人が・・・」
「そういうことなら是非とも」
その理由とは。
有無を言わせず続ける環。
「兄さんはこちらに来てから、いえ以前からそういう傾向がありましたが、
両親がいないと、総じて稽古をサボりがちなんです。今もほとんどやってませんし」
「う・・・」
刺すような責める視線を向けられ、たじろぐ勇磨である。
「良い機会ですから、たるみきっている性根を叩き直して欲しいと思います。
ビシバシやっちゃってください」
「は、はあ・・・」
「俺の意志は?」
とまあ、こんなわけで。
半ばなし崩し的にではあるが、勇磨は、剣道の大会に助っ人として出場することになった。
放課後。
「というわけで、助っ人で入ってくれる、御門勇磨さんです」
「ど、どうもよろしく」
刹那によって剣道場に連れて行かれ、部員の前で説明された。
戸惑い気味ながらも、勇磨は頭を下げる。
対する、部員たちの反応は、やや微妙である。
「まあ、オレたちは入ってもらう立場だから、あまり強くは言えないけど・・・」
「大丈夫なのか?」
彼らとは初対面だから、そう思うのも当然だ。
パッと見では、何か武道をやっていそうな、精悍な顔つきや体型には見えないのである。
「大丈夫です」
だが、刹那は少し表情を険しくして、毅然と断言した。
「勇磨さんは実家が道場を営んでおられるそうですよ。
私は実際に、勇磨さんが戦っている場面を見たことがありますが、
私が本気でかかったとしても、勝てるかどうか、いや、勝てないだろうという腕前です」
「いやー刹那さん。それはちょっと言い過ぎ・・・」
「そんなことないです! ・・・あ」
刹那が下した自分の評価に、勇磨は照れながら謙遜する。
が、それを聞いた刹那は、過剰とも思える反応を見せ、大声で否定した。
直後、自分のしたことを後悔したようで、真っ赤になる。
「とっ・・・とにかく!」
あたふたと焦る刹那だったが、コホンとわざとらしく咳払い。
自分でなんとか落ち着きを取り戻すと、ピシャッと言い放った。
「彼の腕は私が保証します。私の保証では不足ですか!?」
「い、いや・・・」
「桜咲がそこまで言うんなら・・・」
ついに承知する部員たち。
論破されたというより、刹那の様子に驚かされたというほうが正しいだろう。
なにせ、他人のことをここまで認める、擁護するこのような刹那を見るのは、初めてなのだから。
「そ、それに、無理言って来てもらったのに、失礼じゃないですか!」
「わ、わかったわかった」
「先輩たちは何もわかってません!」
居合わせた中には、高校生の先輩も数人が混ざっていたが、
刹那は一向に収まらず、大声で次々と言葉を紡いでいった。
普段の刹那、寡黙でおとなしいという印象とは正反対な様子に、
驚き戸惑い、これが本当にあの桜咲かと、のちのち伝説化したくらいである。
「・・・・・・はっ!?」
そんな状態が続くこと数分。
勇磨の良さを、剣のことだけではなく、性格のことまで言及し始めていた刹那は、
ようやくにして正気に戻った。
「わ、私は、いったい何を・・・」
再び真っ赤になって、慌てふためく様子は、3−Aの面々には絶対に見せられない。
見せたが最後。普段とのギャップに幻滅するか、いい笑いものになるかのどちらかだ。
・・・もしかすると、そのギャップがいいなどと言い出す、物好きが現れるかもしれないが。
すぐに弱冠1名ほど、候補が思い当たる。
「え、や、その、あの・・・・・・」
「刹那、さん・・・?」
「あ、あ、えと、ちっ、違うんです! 私は何も、別に、そのあのっ・・・・・・!」
「いいから落ち着いて! ね?」
「は・・・・・・はい・・・・・・」
これではパニックだ。
勇磨がなだめに入って、ついに終止符が打たれた。
冷静になったというより、思考回路がダウンしてしまった、と言うほうが相応しいのかもしれない。
その証拠に、ぷしゅ〜っとでも言いそうな勢いで、刹那からは湯気が上がり、ボケ〜ッとしてしまっているのだから。
「落ち着いた?」
「な、なんとか・・・・・・」
「本当かな?」
「わーっ! 落ち着きましたから、顔を近づけないでっ・・・!」
勇磨は確認しようと刹那の顔を覗きこむが、当の刹那はそれを拒否するように嫌がる。
せっかく元に戻りかけた顔色も、また赤くなってしまった。
「御門・・・といったか? そこまでにしておいてやれ」
「はい?」
「わかっていないのなら尚更だ。離れろ」
「はあ」
中学高校、全体を含めた部長だという男の言葉により、勇磨が刹那と距離をとったことで、
刹那もやっと落ち着くことが出来た。
それでもなお、大きく肩を揺らして、荒い呼吸を繰り返している状態ではあるのだが。
「まあ、なんだ。桜咲がここまで言うんだ。間違いは無かろう。
よろしく頼む、御門君」
「はい、お願いします」
兎にも角にも、勇磨の助っ人参入は認められた。
大会までの間、勇磨は刹那のはからいで、部員たちに混ざって稽古をすることが出来た。
剣道とは、あくまで競技。正々堂々を常とするスポーツである。
一方、勇磨が修めてきたのは、いかに効率よく相手を倒すか、即ち殺すかという剣術だ。
このあたりの違いは小さいようで大きく、慣らす必要があったためである。
稽古も意外と厳しかった。
というのも、環が刹那を通じてわざわざ部長に会いに行き、厳しく頼むと願い出たためだ。
おかげで勇磨はヘロヘロになったとか。
肝心の大会当日。
予定通り、1回戦2回戦と勇磨は大将の位置に座っていたが、出番が無かった。
せっかく出場したのだから、1回くらいは実際に戦ってみたい。
そう思って懇願し、3回戦は、先鋒として試合に臨むことになる。
結果・・・
「面アリ、一本! それまで、麻帆良学園の勝利!」
審判の判定が高らかに響き渡った。
無論、勇磨の一本勝ちであり、これにより麻帆良学園の勝利も決定した。
「あいつ、強すぎっすよ・・・」
「バケモノか・・・」
この様子に、他のメンバーでさえ、こんなことを呟いている。
勝ったというのに、なぜこうかといえば。
まず、1人で5人抜きという快挙を演じられたから。
しかも、いずれの試合も開始十数秒以内に決着をつけており、
その上、相手には1本も取られないという完全勝利だったからだ。
「まあ、こんなものっすかね」
「・・・・・・」
さらに、本人がケロッとした顔で、さらりとこう言われてしまっては、
正規の部員たる立つ瀬が無い。
「お、おまえ、次からはまた大将だからな!」
「あとはオレたちに任せておけ!」
「えー?」
その圧倒的強さゆえ、再び大将に戻されてしまう。
不満そうな勇磨ではあったが、もともと助っ人だし、試合できたからいいかと引き下がった。
「お見事です、兄さん」
「あはは・・・」
そんな折、観客席で、1人満足そうに頷いているのは環。
隣で苦笑しているのは刹那だ。
「地区レベルの大会とはいえ、手加減をされては、相手の方も不本意でしょうからね。
常に全力。厳しい稽古をお願いした甲斐がありました」
「あ、あはは・・・」
環は勇磨の活躍にご満悦。
刹那はといえば、複雑な思いに囚われていた。
(もしかして私は、とんでもない人を引っ張り出しちゃったのでは・・・?)
明らかに地区レベル、中学生レベルではないという実力に、
なにやら冷たいものを感じてしまうのだ。
実際、大会運営者や関係者の間では、あれは誰だ、日本剣道会に彗星の如く現れた救世主だ、
などという評判がにわかに立ち始め、ひと騒動になるのだが、それはまた別の話。
ちなみに大会の結果であるが、勇磨の恐ろしいまでの強さに震撼した他のメンバーが、
もう2度とあいつには回さないと奮起して、その通りに勇磨まで回すことなく、
見事に優勝を飾るのである。
終わり
<あとがき>
外伝、刹那の巻。
このちゃんと来れば、せっちゃんを出さないわけにはいかぬ!w
以前、刹那もハーレムに入れちゃえなんてご意見があったので、こんなん出来ました。
参加理由がちと強引ですが、そのあたりは、ビバご都合主義!(マテ
フラグが立ちかけている状態? もう一押しだ!(爆)
以下、Web拍手返信です。
拍手していただいている皆様、本当にありがとうございます!
>勇磨は大人の階段ならぬ漢(ハーレム)の階段を登ってるのですね!! by烙印
登ってるんだが急降下してるんだかわかりませんが、確実に包囲網は狭まっております・・・
せッちゃんも参戦か!?(爆)
>このか分補充ありがとうございましたーー!!次は誰が来るか楽しみにしてます。個人的には亜子を…
亜子は難しい・・・
麻帆良祭でどうか、ですね・・・(まったくもって未定ですが・・・)
>このかキターーー!!!もはやこれでこのかフラグは鉄壁ですねw
鉄壁も鉄壁、120%充分でしょう。
あとは、勇磨がその気になれば・・・というだけですからね。
>このか分補給完了。次は誰ですかな〜
せっちゃんでした〜♪
刹那分を補給してくだされ〜。
>とても楽しみに読ませてもらっています、執筆頑張ってください!
恐縮でありまする。
引き続き、ご愛顧のほどよろしくお願いします。
>とても面白いです!ネギまの作品は少ないんで頑張ってください、応援しています!!
応援ありがとうございます! がんばります!
>サイコーです!頑張ってください!!!
はーいがんばります〜♪