魔 法先生ネギま!
〜ある兄妹の乱入〜
13時間目 「嵐の修学旅行! そのさん」
「ひゃああああ〜〜〜っ!?」
「・・・! こ、この悲鳴は」
「このかお嬢様!?」
突然、このかの悲鳴が轟いた。
「まさか奴ら、このかお嬢様に手を出す気か・・・!?」
「それはいけません。行きましょう!」
「はい!」
身体にバスタオルを巻いて、刹那と環が、悲鳴の方向へ向かおうとするも
「何があったんですか!?」
「ネ、ネギ先生!?」
逃げたはずのネギが飛び出してきた。
逃げる隙を窺っているうちに、このかの悲鳴を聞いた、というところだろうか。
「ネギ先生もいたんですか・・・」
「あ、はい。す、すいません環さん」
「それよりもっ! 今はこのかお嬢様ですっ!」
事態は1秒の猶予も無い。
一刻も早く駆けつけなければ。
「勇磨さんは、こちらを見張っていてください!」
「イエッサー!」
向こうを向いたまま、勇磨は刹那の指示に敬礼した。
風呂場を後にし、脱衣所へと戻る。
すると・・・
「いやぁ〜〜〜ん!」
「ちょっ・・・ネギ!? なんかおサルが下着をーーーー!?」
「・・・・・・」
そこには、アホづらを晒すサルの群れ。
そのサルたちが、ちょうど居合わせたのであろうこのかとアスナに襲い掛かり、
彼女たちの下着を取り去ろうとしていた。
「あ、せっちゃん、ネギ君!? あーん見んといて〜!」
「えうっ。コレは一体・・・」
「この小猿ども・・・」
あまりの惨状に、ネギは己の目を疑い。
刹那は怒りに打ち震えた。
「このかお嬢様に何をするか〜〜〜!? 斬る!」
「きゃっ桜咲さん、何やってるの!? その剣ホンモノ!?」
「ダメですよ。おサル切っちゃかわいそうですよ〜っ!」
「あっ、何するんですか先生!」
サルに斬りかかろうとする刹那を、ネギが必死に止める。
「・・・・・・」
環は額に手を当てて、見ていられない、とばかりに目を逸らす。
そして、逸らした先。
「戯れるのはそこまでにしなさい」
「・・・え?」
「このかさんが攫われてしまいます」
「ひゃあああ〜〜〜〜!?」
皆も我に返り、見つめたその先。
サルたちに担がれ、今にも連れ去られそうになっているこのかの姿。
「お嬢様!!」
誰より早く、刹那が動いた。
「神鳴流奥義・百烈桜華斬!!」
奥義発動。
サルたちを撫で斬りにし、このかを救い出す。
「・・・・・・」
その瞬間、風呂場の外。
たった今、鳥が飛び立っていった方向を見やる、刹那と環。
(チッ、逃がしたか・・・)
(逃げられましたか)
刺客の存在を、2人は確かに捉えていた。
「せ、せっちゃん」
「・・・!」
刹那の腕の中で、このかが言う。
「なんかよーわからんけど、助けてくれたん? あ、ありがとう」
「あ・・・・・・いや・・・・・・」
礼を言われ、即座に赤くなる刹那。
パッと手を離し、このかを湯の中に落としてしまう。
「あっ、せっちゃん!」
その後は止める間もなく、走り去っていってしまった。
悲しそうな顔で見送るこのか。
「???」
「ちょっ、何よー、今のは・・・」
ネギとアスナにもワケがわからない。
「あのー?」
「・・・兄さん?」
「あ、勇磨君もいたの!?」
そこへ、湯の中のほうからかかる声。
反対側を向いたままの勇磨である。
「あんたそんなところで何やってるの? このかが攫われそうになったのよ!?」
アスナは激昂した。
大の親友が攫われそうになったのだ。それを防ぐのが彼の役割ではないのか?
「いや、出て行きたいのは山々だったんだけどね」
「なによ」
「あー・・・。君たち、自分の格好を自覚してください」
「・・・・・・あ゛」
指摘されて初めて気がついた。
自分はバスタオル1枚という姿。刹那とこのかに至っては、全裸だ。
「納得してもらえたかい?」
「・・・そ、そうね」
赤くなりながら、勇磨が向こうを向いている理由も、今さらながらに理解した。
思わず、バッと自分の身体を抱いてしまう。
「まあ、環と刹那さんがいれば充分だと思ったし」
「1度、本格的に対策を練る必要がありますね。このままでは無防備すぎます」
「ですね・・・」
環と刹那はこう言って。
いったん風呂から上がり、対策会議を持つことにする。
会議の前に、ネギとアスナは、このかから刹那との関係を聞いた。
「何かウチ、悪いコトしたんかなあ・・・。せっちゃん、昔みたく、話してくれへんよーになってて・・・」
涙すら見せながら、このかは悲しそうに語った。
2人は幼馴染なのだそうだが、こちらに来て以降に再会したものの、
昔の一時期のように、親しくはしてくれなくなってしまったそうなのだ。
「このか・・・」
「このかさん・・・」
実際に、刹那がこのかを避ける場面を何度も目にしている。
先ほどもそうだった。
このかの気持ちが痛いほどわかるだけに、2人も辛い。
その後、このかはアスナが慰めながら部屋に送っていき。
戻ってきたところで、刹那や御門兄妹との邂逅を目指した。
ロビーにいるという話なのだが。
「このかさん、淋しそうでしたね」
「うん・・・。普段のこのかなら、絶対あんな顔しないもん」
話しつつ、向かう。
「水臭いなあ。何にも話してくれなかったなんて・・・」
「・・・・・・」
現状では、刹那が何を考えているのか、まるでわからない。
まあとりあえず、これから話し合いを持つので、そこで聞いてみるのがいいかもしれない。
このかをあのままにしてくことは、絶対に出来ないのだ。
「あ、いたいた」
途中、クラスの長瀬楓になにやら耳打ちされたりして、ロビーに到着。
「な、何やってるんですか? 桜咲さん」
「環たちも一緒になって」
真っ先に、刹那と御門兄妹が一緒になって、入口のドアへ何かを貼り付けている様子が目に入ってきた。
刹那は小柄なので、高い場所へと貼るのに、わざわざ台を用意しているくらいである。
「これは式神返しの結界です・・・」
問われた刹那は、手にした呪符を示しながら、そう答えた。
「俺たちは、そのお手伝い」
「というわけです」
「へえ・・・」
御門兄妹もこう言うので、納得するのと同時に、感心する。
さて、ロビーの椅子と机を使い、飲み物も用意して、作戦会議である。
「それにしても、様になってるわねぇあんたたち」
「ん?」
「そうですか?」
御門兄妹の浴衣姿を見て、そんなことを漏らすアスナ。
「特に勇磨君よ。その・・・なんていうか。そうやって袖に手を入れてる姿、ハマりすぎ」
「そうかな?」
勇磨は、羽織っている上着の袖の中に、腕を組むようにして両手を入れ込んでいる。
アスナには、絵になる姿だと映ったようだ。
「まあ家では、和服を着ている時間のほうが長かったから。そのせいかな?」
「鍛錬の間も、当然、和装でしたからね」
「へえ・・・」
いたく感心。
自分は、浴衣に”着られている”と思うのに。
育ちの差というのはよく出るものなんだ、と認識した。
前置きはさて置き、会議が始まる。
「桜咲さんも、その、日本の魔法を使えるんですか」
「ええ。剣術の補助程度ですが」
「なるほど。ちょっとした魔法剣士ってわけだな、つまり」
(そーか。オコジョが喋っても驚かない世界の人か・・・)
ネギと刹那、そしてカモの会話を聞いて、アスナは悟ったかのような気持ちになる。
「魔法剣士などと・・・。その称号は、私などよりも、勇磨さんや環さんのほうが相応しい」
「いやいや」
「私たちのものは、魔法とは呼べませんよ」
(環と勇磨君もねえ・・・)
糸目になっているアスナ。
驚きの連続なので無理もあるまい。
「あ・・・。神楽坂さんには話しても?」
「ハ、ハイ、大丈夫です」
「もう思いっ切り巻き込まれてるわよ」
逆に刹那から問われ、ネギはドキッとして頷き、アスナは肩をすくめる。
刹那はひとつ頷いて、話を続けた。
「敵の嫌がらせがかなりエスカレートしてきました。
このままでは、このかお嬢様にも被害が及びかねません」
「さっきみたい・・・・・・に?」
「ええ。それなりの対策を講じなくては・・・」
言いつつ、刹那は、持っている呪符を広げて見せる。
そして、ふぅ、と大きなため息をついて、ネギをジト目で睨んだ。
「ネギ先生は優秀な西洋魔術師と聞いていましたので、うまく対処してくれると思ったのですが・・・
意外と対応が不甲斐なかったので、敵も調子に乗ったようです」
「あうっ・・・。ス、スミマセン! まだ未熟なもので・・・」
優秀といえども、まだ10歳。
あまり過度な期待をするのも、酷というものではないか。
「まあですから、敵がこの旅館内に侵入できないよう、結界を張ったわけですけどね」
助け舟を出すというほどでもないが、環がフォローするように言う。
「過ぎたことは言っても仕方のないこと。重要なのは、これからどうするかですよ」
「あ、ありがとうございます環さん」
「で、その作戦やいかに?」
「その前にさ」
ネギが頭を下げて、勇磨が尋ねたところで、話に割って入るアスナ。
「敵・・・のことについて、桜咲さんが知ってることがあったら教えてくれない?
作戦を立てるのにも、敵のことを知らなきゃ、立てようが無いと思うけど」
「ふむ」
「姐さんの言うとおりだ! 剣士の姐さん、どうなんだよ?」
「敵はおそらく・・・」
もっともだった。
刹那もそう考え、知っている限りの情報を語る。
関西呪術協会。陰陽道。符術使い。式神。京都神鳴流。
「じゃ、じゃあ、神鳴流ってゆーのは、やっぱり敵じゃないですか!」
「はい・・・」
自らも、その流派に身を置くもの。
ネギの指摘に、刹那は少し辛そうに頷いた。
「彼らにとってみれば、西を抜け東についた私は、いわば『裏切り者』。
でも、私の望みは、このかお嬢様をお守りすることです。仕方ありません」
刹那は視線を逸らし、自分を納得させるように言うのだ。
「私は・・・・・・お嬢様を守れれば、満足なんです」
「刹那さん・・・」
「・・・・・・」
感銘を受けたネギとアスナ。
特に、アスナのほうは顕著だった。
「よーしわかったよ桜咲さん!」
ガバッと立ち上がり、ばんっ、とばかりに刹那の背中を叩いた。
「あんたがこのかのこと嫌ってなくてよかった。それがわかれば充分!!」
「え」
「友達の友達は友達だからね。私も協力するわよ!」
「か、神楽坂さん・・・」
うれしいのか、恥ずかしいのか。
後者のほうが勝っているのだろうが、刹那は、戸惑いの声を上げる。
「よし。じゃあ決まりですね」
「・・・? 何がですか?」
突然、わからないことを言い出すネギ。
尋ねた勇磨に笑みを向けて、その手を取り。
アスナと刹那、環の手も取って重ね、自らの手を載せてから
「3−A
声高らかに宣言した。
「えー!? 何よその名前・・・」
「ははは」
「・・・・・・」
「・・・ノーコメントにしておきます」
嫌そうなアスナ。笑っているのは勇磨である。
刹那は恥ずかしそうに無言であり、環も、目を逸らしがちだった。
「関西呪術協会から、クラスのみんなを守りましょう!!」
メンバーを置いてきぼりにして、やけにやる気のネギ。
(よーし。アスナさんと桜咲さん、それに勇磨さんと環さんもいてくれる。百人力、いや千人力だ!
これであとは、この親書を向こうの長さんに渡せば・・・)
同時に、自信もみなぎってきたのだろう。
これだけの面子が揃えば、怖いものは無いと。
「敵は、また今夜も来るかもしれませんね。さっそく僕、外に見回りに行ってきます!」
「あ、ちょっとネギ・・・」
アスナの制止も聞かず、飛び出していってしまった。
「思いついたらすぐ行動、か。このあたりは、まだまだ子供かな」
「無理もありませんよ。10歳ですよ?」
「そりゃそうか」
やれやれ、と苦笑し合っている御門兄妹。
アスナと刹那も肩をすくめた。
「では、私と兄さんは、ネギ先生の補佐に回りますので」
「なんか危なっかしくてね」
「あはは、言えてるわ」
「わかりました。神楽坂さん、私たちは、班部屋の守りにつきましょう」
手分けして、今夜の守備につく。
走り去っていったネギは。
「兄貴兄貴! 杖とカードは持ってるか!?」
「うん、大丈夫!」
走りながら、肩に載っているカモと会話。
「敵は、刹那の姐さんの話を聞く限りじゃ、かなり手強そうだからな。
エヴァンジェリン戦のときには言うヒマの無かった、そのカードの使い方を
きっちり教えておいたほうが良さそうだ!」
「え、使い方って、どういう・・・?」
カモの言葉が気になって、スピードを落とすネギ。
ちょうど自動ドアがあって、反応して扉を開ける。
瞬間。
ガッ!
「きゃあっ!」
「わあーっ!?」
旅館の従業員か。
女性が押していたカートとぶつかってしまい、中身のシーツやらが飛び散ってしまう。
「あああ、すいません!」
「いえ、こちらこそ申し訳ありませんお客様!」
慌てて拾うのを手伝うネギ。
すべてを拾い終え、改めて謝ったネギは、舌を出しつつその場を後にする。
「なにやってんだよ兄貴〜」
「ゴメン。ちょっと張り切りすぎちゃった」
「・・・・・・」
それを見送る女性。
「ふふ・・・。カワイイ魔法使いね」
発せられる、意味深な単語。
彼女の周りに現れる、先ほど出現したサルと同様のおサルたち。
事態は再び、風雲急を告げようとしていた。
14時間目へ続く
<あとがき>
ほぼ原作通りの展開ですね。
このへんはいじりようが無かったりします。
それにしても、このペースで行くと修学旅行編終了まで、どれぐらいかかるんだろうか?(汗)
以下、Web拍手返信です。
拍手していただいている皆様、本当にありがとうございます!
>ネギまの小説は好き嫌い別れるタチなのですが、こちらの作品は毎回楽しみにさせてもらってます。
>頑張って♪
そう言っていただければ本望でございます。
勇気百倍、やる気は千倍。がんばりますね♪