魔 法先生ネギま!
〜ある兄妹の乱入〜
16時間目 「嵐の修学旅行! そのろく」
「はいはい皆さん」
修学旅行3日目の朝。
朝食を済ませると、生徒たちに向けて、しずなが手を叩きながら言う。
「今日3日目は完全自由行動日よ。部屋に戻って準備してねー」
はーい、と元気よく返事を返す3−A一同。
その頃、ネギたち魔法を知るものは、素早くロビーに出て会話していた。
「ちょっとどーすんのよネギ! こーんなにいっぱいカード作っちゃって」
「えうっ」
アスナが手にしたカードを示しながら、強い口調で問い詰める。
のどかとの仮契約カードと、その他、失敗作のスカ・カードが5枚。
スカ・カードは、もちろん失敗作。
偽物とのキスでも生じるようで、この数になっていた。
「まあまあ姐さん」
「そーだよアスナ。もーかったってことでいいじゃん」
「朝倉とエロガモは黙ってて!」
口を挟むカモと朝倉だが、一発で黙らされた。
半分以上は、この2人の責任によるところだろう。
「なるほど。夕べの騒ぎは、仮契約を取るためのものだったわけだ。ふわ〜・・・」
「・・・・・・・・・」
傍らに控えながら納得し、大きなあくびを漏らす勇磨。
何も悪くないのに正座を喰らって、ほとんど寝ていないのだから無理もない。
環も、軽薄なゲームに首を突っ込み、踊らされた挙句、同じように正座させられている。
自業自得とはいえ、この怒りをどこにぶつけていいのかわからない様子で、むす〜っとしていた。
「本屋ちゃんは一般人なんだから、厄介事には巻き込めないでしょ」
「魔法使いということも、バラさないほうがいいでしょうね」
「わ、わかりました」
カードの使用も禁止。
アスナと刹那からきつく言い渡され、ネギは頷いた。
そののち、カモが仮契約カードの使い方をアスナに説明。
アスナは嫌々ながら、教えられた召喚の呪文を口にしてみる。
「アデアット」
パァッ
「わっ・・・ホントに出た」
すると、カードが光り輝いて、一瞬にしてハリセンへと姿を変えた。
形状には大いに疑問符が付くが、使い方とその威力は示されたわけだ。
「へー」
「ほぉ・・・」
刹那や朝倉、そして勇磨も感嘆の声を上げる。
このときは、環も素直に声を漏らしていた。
陰で、のどかが話を聞いていたことを、一同は知らない。
なんだかんだで時間は過ぎ、自由行動開始の時刻になる。
「今日こそ親書を渡しに行くぞー」
ネギは決意を胸に、生徒たちに見つからないよう、コソコソと旅館を裏口から脱出。
朝方にアスナたちと打ち合わせていた場所へと向かった。
しかし・・・
「あれ・・・?」
到着したものの、そこにアスナらの姿は無く。
「ネーギ先生♪」
「え?」
逆に背後から呼び止められた。
振り返ってみると
「へへー」
「あ・・・」
そう言って微笑むハルナを筆頭に、のどかに夕映、このかの姿。
もちろん、落ち合っていたアスナや刹那、御門兄妹もいたわけだが。
(なな、なんでアスナさんたち以外の人がいるんですか〜〜〜っ!?)
(ゴメン。パルに見つかっちゃったのよー)
「ネギ先生、そんな地図持ってどこかに行くんでしょー。私たちも連れてってよー」
憤慨するネギ。小声で、すまなそうに謝るアスナ。
2人の後ろでは、パルことハルナが、のんきに声を上げていた。
(ししし、しかもっ! エヴァンジェリンさんまでっ!)
「ん? なんだぼーや。私がいてはいけないのか?」
「そうじゃありませんけどーっ」
ネギがさらに驚いたことに、5班の面々だけでなく、エヴァや茶々丸といった、
6班の面子が揃っていたことである。
「ごめんネギ先生。エヴァちゃんがどうしてもと言うものでー」
「5班6班、合同での散策ということになってしまいました」
「えー・・・」
「御門勇磨。その言い分はいささか間違っている」
「いえマスター。的確な表現・・・ああ、巻きすぎです・・・」
5班、6班ともに、自由行動の予定が無かったことは事実。
ハルナや夕映は、のぞかがネギと一緒に回れるように画策し、エヴァは本人は頑なに否定するだろうが、
前々から主張していたように、自由行動に勇磨を付き合わせんとしていたのだ。
いわば、自然の成り行きでこうなった。
(ア、アスナさーん)
(ま、まあ、途中で抜け出せばいいでしょ)
色々なものが渦巻く中、自由行動は幕を開けるのだった。
まずは宿の近く、嵐山周辺を当てもなく歩く。
「宿の近くも、すごくいいところなんですねー♪」
「嵐山・嵯峨野は紅葉の名所が多いので、秋に来るのもいいですよ」
はしゃいだ様子で言うネギに、夕映が軽く説明する。
その後ろでは、このかとハルナが、環にこう言っていた。
「たまちゃん、ゆうくんもやけど、私服姿はじめてやなー」
「そうでしたか?」
「うんうん。御門さんたち、寮でもなかなか部屋から出てこないからねー」
それは事実。
食事や入浴なども部屋で済ませているので、下校以降は、皆と顔を合わせることが無かった。
「うんうん。パンツルックもなかなか似合ってるわよ♪」
「そ、そうでしょうか?」
ハルナから言われ、気恥ずかしそうに、自らの服装に視線を落とす環。
制服はスカートだし、そういえば今までも、洋服を着るときはロングスカートが多かったか、と自分で思う。
今日はただ単に、いつ戦闘になってもいいようにと、機能性を重視して選んだだけなのだが。
「たまちゃんスタイルえーし、足細うてえらく長いから、お似合いや〜♪」
「羨ましいくらいよ♪」
「あ、ありがとうございます・・・」
そこまでのことはないと思うのだが。
褒められて悪い気はしないので、少し赤くなりながら礼を言った。
「でもね。強いて言えば、もうちょっと派手目の色でも良かったんじゃないかな〜、とは思うけど」
「私は、このような色がいいんです・・・」
確かに、環が穿いているズボンの色は、お世辞にもおしゃれとは言いがたい。
そう指摘を受けても、環本人はそう言って譲らなかった。
(んー、環がこんな反応をするとは)
話を聞いていた勇磨。
なにやらう〜むと唸っている。
以前の、麻帆良に通う以前の環ならば、こんなことを言われても「そうですか」の一言で済ませていたはず。
もちろん流行なんてものに興味は無く、動きやすければいい、丈夫で長持ちすればいい、という発想だった。
間違っても、服を褒められて礼を言ったり、好みな色の主張などは一切しなかった。
(良い傾向だな、うん)
一人心地にうんうんと頷く。
昔から、他人とは一定以上の接触はしない、他者からすると、とっつきにくい性格の妹だった。
このとおり愛想もあまり良くないし、言いたいことをはっきり言うから、正直に言って友人は少ない。
環本人にしてみても、自分から避ける傾向ですらあった。
「これがいいんですよ・・・」
それがどうだ、この反応。
「なんでーもったいない。御門さん素材はピカイチなんだから、活用しない手は無いよ〜」
「せやせや〜。帰ったら、ウチと一緒に服屋さん行こうな〜♪」
「あ、う・・・。よ、よくわかりません・・・」
麻帆良に編入して、女の子の輪の中に入ったことで、良い意味でこなれていっているのかもしれない。
兄としては、もちろん歓迎すべきことで。
おしゃれやファッションについてわいわいやっている様子を、微笑ましく見つめた。
「妹ではないが、貴様も地味な格好だな」
「え? そうかな?」
不意に自分にも声がかけられた。
エヴァである。
「Tシャツにジーパン。地味以外の何者だというんだ」
「う、動きやすいのになあ」
ジト目で睨まれて、うぐぅ、と苦笑する勇磨。
そう言うエヴァであるが、明るい色でフリフリの、いわゆるゴスロリファッションだった。
「まあいい。ところで、どこに行くつもりなんだ?」
「あっ、そうだ」
エヴァの言葉に、忘れてた、とばかりにハルナが声を上げ。
「ネギ先生、目的地はどこなの?」
「案内するですよ?」
「え、えっと・・・」
ネギに尋ねる。
便乗して夕映もそう言う。
困惑するネギ。
当然のことながら、彼女たちを連れて行くわけにはいかない。
「お、ゲーセンがあるじゃん。ちょーどいいや。記念に京都のプリクラ撮ろうよ」
「あ、えーなーそれ♪ せっちゃん、ウチらも撮ろー」
「あ、いえ、私は・・・」
とか何とか言っていると、道端に見つけたゲーセンに一直線。
ハルナはのどかを引きつれ真っ先に入っていき、このかも刹那の手を引っ張っていく。
考えようによってはちょうどいいか。
人ごみと喧騒の中に紛れて、抜け出すにはピッタリかもしれない。
適当に付き合って、機を見て、親書を渡しに行こう。
考えをそう改めて、勧められるままに魔法使いのゲームを始めるネギ。
「となり入ってええか?」
「あ、うん、いーよ」
途中、黒い学生服に白い帽子を被った男の子が乱入してきた。
対戦である。
「あー負けたー」
結果はネギの負け。
だが、初めてにしては上出来だと、ハルナからお墨付きをもらう。
「そやなぁ。なかなかやるなあんた」
相手の少年からも認められる。
ネギと同い年くらいだろうか。
「ほなな。ネギ・スプリングフィールド君」
「えっ! ど、どうして僕の名前を!?」
「ゲームに自分で入れたやろ?」
「あ、そか」
「ほな!」
ネギと二言三言会話を交わして、少年は笑顔で走り去る。
途中、のどかとぶつかるが、謝ってそのまま行ってしまった。
ネギたちが見た、見えた光景はここまで。
だが、これには続きがあった。
「おおっと待ったぁ」
「そこ行く少年。お待ちなさい」
「・・・なんや?」
店を出て行く直前、御門兄妹が呼び止めた。
むっとして振り向く少年。
「にーちゃんねーちゃん、こんな人目のあるところで誘拐か?」
「違う違う。そんなことするか」
「ちょっと、お尋ねしたいことがありましてね」
勇磨は苦笑し、環は表情を変えぬまま、いきなり本題に入った。
「首尾は上がりましたか? かわいいお
「!!」
そう問われた途端。
少年は即座に距離を取り、殺気を膨れ上がらせた。
「・・・何モンや、あんたら」
「さあ? 答える義務はありませんね」
「義理も無いな」
「・・・そーかい。なら俺も答えられへんなっ!」
「あ」
そう叫ぶなり、少年はあっというまに店から出て行った。
あまりに早すぎて、自動ドアが追いつかず、ぶつかりそうになったほどである。
残った勇磨と環は。
「むーん。ヤツラも動き始めた、ってことか」
「きな臭くなりそうですね」
向こう側の動きを察し、気を引き締める。
おととい以上の襲撃があると見るのが自然だろう。
(ちょっと環、勇磨君!)
「・・・え?」
そんな彼らを、物陰から小声で呼ぶ声。
アスナだった。ネギもいる。
兄妹はすぐに状況を理解して、ゲームに興じている面子に気付かれないよう、
同様の物陰に入る。
「私たちはこれから、ネギが持ってる親書を渡しに、西の総本山ってところまで行ってくる」
「わかった。気をつけて」
「ええ」
「いってきます、勇磨さん環さん」
「ああ、待った」
押し留めるように声をかける。
気付かれないうちにこの場を早く離れたいアスナとネギは、怪訝そうに動きを止めた。
「環。おまえもついてってやれ」
「そうですね」
「え・・・」
「環も来るの?」
ネギとアスナには意外な申し出だった。
「でも、あんたたたちの仕事は、このかの護衛でしょ?」
「一応、ネギ先生の補佐も頼まれてる」
「アスナさんの力を疑うわけではありませんが、大規模な襲撃があった場合を考えて、
私も同行することにします。構いませんね?」
「う、うん。それは構わないけど」
「わかりました。お願いします環さん!」
承諾を受けると、互いに目を合わせた御門兄妹。
――先ほどのこともある。気をつけろ。
――わかっています。兄さんのほうこそ、お気をつけて。
一瞬にして、意志の疎通は完了。
「では」
ネギ、アスナ、環の3人は、密かにゲーセンから出て行った。
勇磨は人知れず、その背中を見送る。
「おい勇磨」
「っ!?」
・・・人知れず、ではなかった。
突然に背後から声がかかり、飛び上がる勇磨である。
「何を驚いている」
「な、なんだエヴァちゃんか・・・。気配を殺しながら近づくのはやめてくれよ」
「ふん、気付かぬほうが悪い」
意地悪な笑みを浮かべるのはエヴァ。
それを見て、あ〜、と苦笑する勇磨だ。
「動き出したのか」
「・・・まあね」
だがその表情は、瞬時に締まった。
「1回防がれているし、俺と環の存在も知れたはず。
次の襲撃は、もっと考えて、派手にやってくるだろうね」
「だろうな」
「・・・場合によっては」
心苦しそうに、勇磨がエヴァを見る。
「エヴァちゃん。君にも助力を仰ぐことになるかもしれない」
「ふん、馬鹿か? 私が力を封じられたままだということ、忘れているだろう?」
「あ・・・」
「本当に忘れていたのか・・・」
呆れるエヴァ。
貴様の記憶力はどうなっている、と呆れを通り越して怒りすら覚える。
「じゃあ、どこか安全なところに退避を。危険だ」
「無論そうさせてもらう。せっかく外に出られるようになったというのに、それがアダになるのはイヤだからな」
エヴァはそう言って、茶々丸を呼び寄せる。
そのまま立ち去っていくのかと思ったが
「・・・? エヴァちゃん」
「いや、その・・・・・・なんだ・・・・・・」
2、3歩進んだところで立ち止まり、なにやらモジモジと。
勇磨のほうを向いたり目を逸らしたり、口の中でもごもご何かを言ったり。
(・・・あー)
鈍い勇磨でも、これは察した。
「わかってるよ、エヴァちゃん」
「・・・な?」
「仕事が終わったら、いくらでも付き合うから。またあとで」
「・・・・・・・・・」
ボンッ、とまるで瞬間湯沸かし器。
エヴァの顔は真っ赤に染まった。
「だっ、だだだだだ誰が貴様などとっ!」
「ははは。じゃあね」
「う、うるさい! 行くぞ茶々丸っ!」
「はい」
赤くなったまま、エヴァはずんずんと店から出て行く。
一礼し、あるじを追う茶々丸。
「素直じゃないな」
勇磨は彼女たちの姿が見えなくなっても、笑っていた。
これから起こるであろう
「・・・やっぱ名字、スプリングフィールドやて」
「やはり、あのサウザントマスターの息子やったか・・・」
逃げ去った少年は、仲間のもとに合流していた。
確認したネギの名字を伝える。
だが、任務を立派に果たしたというのに、少年の表情は優れない。
「どないしたん?」
そのことに女が気付く。
おとといこのかを攫おうとした、あのサル女。
「いや・・・」
少年はいくらか迷ったが、正直に白状した。
「俺の正体・・・・・・見破られてしもうた」
「なっ・・・! サウザントマスターの息子に!?」
「ちゃう。・・・・・・側にいた、髪の長い女と、その連れっぽい男にや。そんなに年はいってへんかった」
「さよか、なるほどな・・・。おととい、ウチの邪魔をしてくれたヤツラどすな・・・」
女の脳裏に、忌々しい記憶が蘇る。
あの2人がいなければ、作戦は成功していたのに。
「・・・そいつらは、強いの?」
すると、女の隣にいた少年がそう尋ねた。
白い髪の、狗族の少年と同じくらいの背丈で、同じように学生風の制服を着ている。
「強いなんてものじゃあらへん・・・」
吐き捨てるように女が言った。
少年は一言、ふーん、とだけ感想を漏らして。
「・・・・・・・・・」
無口な性格なのだろうか。
その後は、何も喋らない。
「・・・まあええわ。ウチらがやることに変わりはないんや」
嫌な記憶を吹っ切り、不敵に笑うサル女。
「おとといのカリは、キッチリ返させてもらうえ」
17時間目へ続く
<あとがき>
はい、そのろくでした。
お話を次回以降へ繋げるためのお話。