魔 法先生ネギま!
〜ある兄妹の乱入〜
18時間目 「嵐の修学旅行! そのはち」
「あーもー何よ、あの生意気なガキ。あったま来るわねー!」
なんとか離脱できたネギたち。
竹林の中、ちょうど見つけた窪地に身を潜めているが、アスナは声を張り上げる。
「変な耳なんかくっつけて、バッカじゃないの!」
「あの子は狗族ですね」
「ク、クゾク? ・・・って何よ?」
少年が被っていた帽子はいつのまにか脱げていた。
そこには獣の耳のようなものが付いていたので、アスナは文字通り馬鹿にするが、
環の説明に虚を衝かれる。
「狼や狐の変化。つまりは、妖怪の類です」
「狼男みたいなもんか。そら強いわな」
「何よ、また化け物の敵ってワケ?」
納得するカモ。アスナは呆れながら息を吐いた。
「ホント迷惑よねーまったく・・・」
「そう・・・ですね」
息と共に吐き出された言葉に、ほんの少しだけ、環の表情に影が差す。
自分も彼と似たようなもの、いや、同じなのだから。
「ネギもネギよ!」
そのうち、アスナの怒りは、座って何かを考え込んでいたネギへと向く。
「あんな同い年くらいのガキ、パーッとやっつけちゃいなさいよ!」
「姐さん、そんなムチャクチャな」
今度はカモが呆れる。
そう事がうまく運べば、今、こんなことにはなっていないのだ。
「あれ、あんた・・・。血が出てんじゃない。痛くないの!?」
「あっ、いえ」
「ホラ動かないで」
「いいですよ自分でやりますー」
「いいからホラ、ちゃんと冷やして!」
ネギの負傷に気付いたアスナ。手当てをしてやる。
なんだかんだ言いつつも、あれこれ世話を焼くアスナである。
「ネギ先生」
そこへ、環が声をかける。
「大丈夫ですか? なんでしたら、私が」
「いえ、環さん」
言い切られないうちに、ネギは断った。
決意を秘めた眼差しで。
「アスナさんも聞いてください。僕・・・・・・父さんを捜すために、戦い方を勉強したんです」
「う、うん?」
急な話で呆気にとられたアスナ。
マジメな話? とビックリした。
「父さんを捜すうちに必ず、戦う力が必要になると思ったからです」
「ほう・・・」
タカミチにも1ヶ月だけ教わった、と言われ、暴走しかかったアスナ。
話を元に戻す。
エヴァとの戦いに勝てたのも、彼女がなぜか凄く手加減してくれたため。
・・・即ち。
「・・・僕は未熟です」
その一言に集約される。
だが・・・
いつまでもそれではいけない。
”未熟”なことを理由に、逃げてはいけない。
「でも強くならなくちゃ、父さんを捜し続けることなんて出来ない。
だから、僕はここで、あいつに勝たなきゃ!」
もちろん、ネギは逃げなかった。
「ネギ・・・」
「・・・・・・」
正直、ネギの意外な一面を見たような気がする。
アスナも環も、意地になる子供らしい面があると思った反面、
言葉の裏に秘められた、強い志しを感じられずにはいられなかった。
「で、でもよ兄貴。だからって、どうやってヤツに勝つんだ!?」
「大丈夫だよカモ君」
どうしようもない、とカモが尋ねるが。
ネギは自信たっぷりに頷き、親指を立てて見せた。
「僕に勝算がある」
そうと決まれば迷いは不要。
「アスナさん! 広い場所で迎え撃ちます!」
「OKネギ!」
「兄貴考え直せ! その作戦、危険すぎるぜ!」
カモの制止も聞かず、ネギとアスナは、元の通路へと飛び出した。
前方から向かってくる気配。身を硬くする。
(私も、カモさんとほぼ同意見ですが・・・)
環も一緒に戻ってきたが、後方に構えて、とりあえずは関与しない。
ネギの決意にほだされたこともあるし、何より。
(上手くいくかどうかは五分五分。さてネギ先生。
あなたは自分の力で、その半分の確率を呼び込むことが出来ますか?)
ネギの考えた作戦、事の顛末を見届けたい。
(父さん、見ててください・・・!)
確率のことは、無論、作戦を立てたネギ自身が1番よくわかっている。
が、今はそんなことはさて置いて、行方不明の父にもこの思いが届くよう、ベストを尽くすのみ。
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル」
詠唱開始。
「風精召喚・剣を執る戦友! 迎え撃て!!」
ネギから複数の、ネギをかたどった剣を持つ分身が出現。
向かってくる少年、狗族・犬上小太郎へと襲い掛かる。
「よーやく本気か、チビ助!」
しかし、小太郎のほうは余裕である。
「こんなもん!」
拳と蹴りを駆使して、逆に迎撃してしまう。
が、ネギは攻撃の手を休めない。
「魔法の射手・連弾・雷の17矢!!」
「うおっ」
「闇夜切り裂く一条の光・我が手に宿りて敵を喰らえ! 白き雷!!」
「うがああっ!?」
今度は直撃。
小太郎は吹き飛ばされ、鳥居の向こうに叩きつけられる。
「ちょっと何よスゴイじゃん! 勝っちゃった!?」
「やったぜ! さすが兄貴!」
盛り上がるアスナとカモ。
「いえ、まだです」
1人冷静に戦況を見つめている環。
その言葉もまた冷静だった。
「なかなかやるやないかチビ助!」
その通りに、小太郎は再び突進してくる。
「同じ戦士同士、相手になるわよ!」
ネギの前に躍り出て、迎え撃とうとするアスナだったが。
彼女の一撃は見事に空振り。
アスナの視界から消えた小太郎は、一瞬にしてネギの横へと回り込み
「そらそら!」
「あうっ」
最初にボディ。
続けて連打連打と、ネギへ打撃を打ち込んでいく。
「姉ちゃん、俺は戦士とちゃうで。『狗神使い』言うんや」
「げっ」
助けに入ろうとするアスナだったが、小太郎から出現した、何匹もの黒い犬に仰天。
「おまえら、あの姉ちゃんと遊んでやり」
「きゃはははは、いやーっ!」
途端に囲まれてしまうアスナ。
恐怖の舐め・くすぐり攻撃を喰らってしまい、動けなくなってしまう。
その間にも、小太郎のラッシュは続く。
「ま、まずいぜこりゃ・・・」
式神の犬に踏みつけられているカモ。
呆然と呟く。
「ヤツのパンチは『気』のこもった一撃だ! 下手すりゃ大怪我どころじゃすまねえぜ! つーか死ぬ!」
「そ、そんな・・・。環! 見てないで助けて!」
「そうだぜ御門の姉さん! というか、なんで黙って見てんだ!?」
「・・・・・・・・・」
ここまでは傍観者だった環。
アスナたちから懇願されて、戦闘態勢への移行へ移る。
――潮時か・・・
むしろ、ここまでよくやったほうだろう。
グッと腰を落とし、割って入ろうとすると
(・・・! ネギ先生)
ネギからの視線を感じた。
殴られ続けている間にも、こちらを窺うだけの精神的な余裕がある。
・・・まだ、何か策があると見た。
動きを止める環。
「ちょっと環!?」
「姉さん!」
2人の声は無視して、もう少し様子を見ることにする。
さて、戦況。
「護衛のパートナーが戦闘不能なら、西洋魔術師なんてカスみたいなもんや」
小太郎の手は止まらない。
「遠距離攻撃を凌ぎ、呪文を唱える間をやらんかったら、怖くもなんともない。どおやチビ助!?」
「ぐっ・・・」
もはや、ネギは息も絶え絶え。
小太郎の攻撃を防ごうとする格好すら取れなかった。
「勝ったで!!」
勝利を確信した小太郎。
絶対の自信を持ってとどめを刺しに行く。
(ここだ!)
ところが。
この瞬間こそ、ネギが待っていたもの。
「契約執行0.5秒間、ネギ・スプリングフィールド」
「な・・・」
呪文を唱え、小太郎の拳を押さえつけた。
驚きに染まる小太郎。
ゴンッ!!
反対の拳で殴り飛ばした。
さらに、その後方へと回り込んで
「闇夜切り裂く一条の光・我が手に宿りて敵を喰らえ! 白き雷!!」
必殺の一撃。
小太郎は地にひれ伏した。
(か、体が動かん・・・! アホな、この俺が・・・!)
そんな彼を見下ろすネギ。
「どうだ! これが
「ぐっ・・・」
決まった。
確実に決まった。勝った。
「や、やったネギ!」
「ふう〜、ヒヤヒヤさせやがるぜ兄貴。決定的な反撃チャンスを窺うしかなかったとはいえよぉ・・・」
「肉を切らせて骨を断つ・・・。やりましたね、ネギ先生」
歓喜の声はアスナ。
カモと環は安堵の息をつく。
特に環だ。手を出さないだけの甲斐はあったということか。
(しかしこの作戦、考えてすぐに出来るほど容易ではない。わずか10歳にして、この気力と才気・・・)
内心、ニヤリと微笑む。
やれ子供だ、やれ未熟だとは言っているが、思わぬ大器なのかもしれない。
少なくとも、その片鱗は、大いに見せてくれた。
「もーネギ無茶しちゃって。ボロボロじゃないっ」
「あ、あわっ、アスナさん」
「よおっしゃ。あとはここから脱出するだけだぜ!」
敵は倒した。
あとはどうやって、この空間から抜け出すか。
そう思ったのだが・・・
「お待ちなさい」
「え?」
環から、再度の冷静な声がかかった。
「向こうはどうやら、まだ終わる気は無いようですよ」
「え・・・」
そう言われ、目を移した先。
「そうや・・・・・・まだや・・・」
「な」
「うそ?」
立ち上がろうとしている小太郎。
それだけなら、まだ良かった。
「まだ終わらへんで! こっからが本番やネギ!!」
立ち上がったのと同時に、肉体を獣化。
手足には鋭い爪が伸び、耳もより大きく、長い尻尾が現れる。
そして、一撃で地面に大穴を作ってしまうほどの攻撃力。
「くっ、仕方ない!」
「兄貴、相手するこたねえぜ! 放っといて脱出だ!」
「う、うん」
「そうです」
相手になることは無い。それより、脱出が最優先。
カモや環にはそう言われるのだが、ネギは決着をつけたいのか、再び自らに魔力を通す。
だが・・・
(視界から消えた!?)
小太郎の動きが速すぎる。
動きを、その姿を捉えられなければ、攻撃の、迎撃のしようが無い。
右か左か、迷った瞬間――
「左ですせんせー!!」
「・・・!」
「!?」
突然の、第三者の声。
ネギは咄嗟にしたがってしまうが、結果、回避することに成功した。
何者だ? そう思いつつ視線を向ける。
「の・・・・・・のどかさん!!?」
「ネギせんせー・・・」
なんと、宮崎のどかの姿。
彼女は、ネギが無事だったことにホッとした顔を見せるが、大きく肩で息をしていた。
明らかに、ネギの危機を悟って、急いでやってきたという体裁だ。
いやそれよりも、どうしてここに?
「ほ、ほほほ本屋ちゃん!? なんでここに!?」
「えーとあのそれはそのー・・・・・・この本が・・・・・・あっ!」
驚いているアスナに、のどかは手にしている本を見せて、説明しようとするが。
急に大声を上げる。
「右ですせんせー! 上! み、右後ろ回し蹴りだそうですーっ!」
そして、同じ大声でネギに指令。
その通りに行動したネギは、小太郎の攻撃をすべて回避。
逆に一撃を入れるが、ネギ自体のダメージも大きい。
これ以上の戦闘は危険だ。
「カカカモさん。私、だいたい何が起きてるか理解してます。ここから出られればいいんですよね?」
「そ、そうだけどよ」
カモがそう思っていると、のどかから話しかけられる。
自分のことを知っている様子に驚いた。
「小太郎クーン。ここから出るにはぁ、どうすればいいんですかー?」
さらに驚くことに、敵である小太郎へ向けて、そんな質問を投げかけるのどか。
「アホか姉ちゃん。俺がそんなこと言うわけ・・・・・・ハッ!?」
さすがに小太郎も気付く。
のどかが持っている本・・・
察したとおりで、開いたページには、しっかりと脱出方法が浮かび上がっていた。
「こ、この広場から東へ6番目の鳥居の、上と左右3箇所の隠された印を壊せばいいそうです」
「おおおおお!?」
「すごい本屋ちゃん!!」
「魔法の射手・光の3矢!!」
ネギはすかさずに魔法を発射。
問題の鳥居の破壊に成功する。
すぐさまのどかを杖に乗せ、撤退を図る。
前方に見える光が空間の亀裂。
アスナが思い切り殴りつけて・・・
「脱出ーーーーッ!!」
脱出に成功だ。
「で、でもまだ追ってくるわよ!」
「ご安心を」
小太郎が追ってくる。
それを尻目に、環が言った。
「結界を閉じます。ヴァン・ウーン・タラーク・・・」
「え・・・」
「ちょっ、待って環!」
結界を閉じるのはいい。
いいのだが・・・
「そこはまだ結界の中・・・!」
環がいる場所。
こちらに向いて、結界を閉じようと呪を唱えている場所は。
脱出地点より内部。結界の中だった。
「何してるの!」
「環さん! 早くこっちへ!」
「・・・ネギ先生」
早く出てくるように促すが。
すでに呪は唱え終わったのか、空間の裂け目が閉じていく。
閉じる直前、環は笑みを浮かべて、こんなことを言い残した。
「正直に言って驚きました。あとは私にお任せください」
「ちょっ――」
結界が閉じる――
――完全に、閉じた。
「あ・・・」
「た、環さん・・・」
小太郎ばかりか、環をも、内部に飲み込んだまま。
「・・・さて」
結界内に残った環。
浮かべていた笑みを消すと、打って変わった冷たい表情で振り向く。
「お付き合いしましょうか?」
「・・・意外やな」
対面する小太郎は、驚いた顔を見せながらも。
期待と喜びを隠しきれずに言う。
「一緒に逃げるのかと思ったで」
「まあ、それでもよかったんですけどね」
ふふんと、環の冷たい笑み。
「せっかくですから、かわいいお狗さんのお相手をしてあげようと思いましてね」
「言ってくれるやんけ・・・。いいぜ、そうゆうことなら、女が相手でも全力でやったる!」
ドン、と小太郎の気が膨らむ。
それを受けて、環の長い髪が、後方へとなびいた。
「姉ちゃん剣士やろ? それ、抜かんでええのか?」
望みは全力による戦い。
環が担いでいる竹刀袋の中身を見越し、小太郎は暗に、武装するよう要求する。
「結構です」
だが、環は拒否した。
小太郎にも、下賎な意味の笑みが浮かぶ。
「なんやつまらん。ただでさえ女と戦るのは気が進まんっちゅーに。
弱い相手を倒したところで、なんも面白うないで」
「私は、”ただの女”ではないのでしょう?」
フフっと、彼を上回る冷気の笑みで返す環。
冷笑を通り越して、さげずむ意味すら含まれているように思える。
「それはその通りだと申しておきましょう。それに」
「それに、なんや?」
「フフフ・・・・・・それに」
冷気がさらに下がる。
「子供相手に全力を出すわけにも。ね、かわいい坊や? フフフ」
「ようゆうた! 覚悟せえや!」
「すぐにカッとなるのも、子供の証拠」
「やかましいっ!」
ぶちっと、小太郎の中で何かが切れた。
引き続き冷笑を浮かべている環へ、猛然と飛び掛かる。
「要は勝ちゃあいいんや!」
「同意しますよ」
突っ込む小太郎。
環は、動く素振りすら見せない。
「”どのような手段であれ、勝ちさえすれば”・・・ね」
「・・・っ!!」
自分の拳が、環に触れようとした瞬間。
小太郎は、宙を舞う感覚を味わっていた。
「うぐっ・・・!?」
そのまま、地面に叩きつけられる。
すぐに起き上がったが、何が起きたのか、何をされたのか、まるでわからなかった。
いや・・・
インパクトの瞬間に、一瞬にして力を失うような・・・
「フフフ・・・」
そんな彼に降ってくる、相変わらずの冷笑。
「相手の実力を正しく見積もれないようでは、勝てる戦いにも勝てませんよ」
「くっそー!」
無性に腹が立ち、再び向かっていく小太郎。
しかし、結果は同じ。
何度も何度も、地面を転がされる羽目になった。
(な、なんでや!?)
小太郎は絶望に捉われる。
(攻撃が当たらないばかりか・・・・・・逆に喰らってばっかりや!)
あと少し・・・というところまでは行くのだ、毎回。
だがそこから、あっというまに切り返され、気が付くと宙を舞っている。
「その理由に気付かない限り、あなたに勝ち目はありません」
「・・・!」
敵から指摘されることほど、屈辱的なことは無い。
「うがぁーっ!!」
「ふぅ・・・」
小太郎は起き上がると、怒りで我を忘れ、なりふり構わず突進。
環は短く嘆息して。
「よろしい。ほんの少しですが、指導してあげましょう」
笑みを消し、迎え撃つ態勢を整える。
「うがあああああ!」
「いけませんね」
そこへ突っ込んだ小太郎。
拳を連打するが
ガッ
「ぐあっ!」
「足元への注意が疎かですよ」
防がれているうちに脛への一撃をもらい、思わずうずくまる。
「っの――」
「無闇に飛び上がってはいけません」
瞬時に起き上がって、飛び蹴りに行くが。
そこにはすでに、環がいた。
「があっ!」
無論、迎撃される。
もう何度目だかわからない、地面の感触。
「空中で避けるのは至難の業です」
「な、なんや・・・・・・姉ちゃん・・・・・・まさか・・・・・・?」
「ようやく気付きましたか」
起き上がりつつ、肩で息をしつつ、小太郎が感じたこと。
ため息をつきつつ、環は頷いた。
「私は体術のほうを得手としています。ものの見事に、外見に引っかかってくれましたね」
「くっ・・・・・・そぉ・・・・・・」
ようやく気付いた勘違い。
環は剣士ではなく、自分と同じ、格闘家だったのだ。
しかも、細身の体つきからは予想だに出来ないほどの、凄腕の格闘家。
おそらくは、風にしなる柳のように、相手の技を受けて切り返すタイプ。
もっとも嫌な敵。なるほど、敵わないわけだ。
「よ、ようやくわかったで・・・。姉ちゃん、”キツネ憑き”や・・・。
人を騙すの得意やろ?」
それでもなんとか立ち上がるが。
先にネギから受けていたものもあり、ダメージは明らか。
「ほぼ正解だ、と申しておきます」
頷く環。
「少なくとも現状では、あなたは私には勝てない」
「ぐ・・・」
「ついでにもう一言。猪突猛進なのは結構ですが、もう少し、周りを見ましょう」
「・・・・・・おおきに」
敵わないことを気付かされた上に、敵から助言まで。
小太郎はこれ以上ない屈辱に震えつつ、どうにか礼を返した。
「ネギ先生たちをお待たせするのも忍びないので、そろそろ決着をつけましょうか」
「望むところや」
「その根性に免じて、奥義で迎え撃ってあげます。来なさい」
うおおおっ、と小太郎は最後の突進。
これまでと同様、拳がもう少しで、環に届くかと思われたそのとき。
するりと腕を取られて、一本背負いの要領で宙を舞わされ。
ガッシリと手足を固められ、今度は逆に重力に従わされる。
――
「・・・・・・ぐっ・・・・・・ぁ・・・・・・」
気が付けば、全身に強い衝撃。
立ち上がれないほどのダメージ。
麻痺しているのか、痛みは感じなかった。
「せめてもの情けです。本当なら、脳天から叩き落すのですが・・・
それだけは勘弁してあげました。命があるだけ幸いだと思うことですね」
「・・・・・・」
もはや、声すら出ない。
目も霞んできた。
「なぜあなたが、私たちへの妨害行為に加わっているのかはわかりませんが。
次に私たちの前に立ちはだかったそのときは、今度こそ容赦はしません。肝に銘じておきなさい」
意識が闇に沈む前に聞いたのは、そんなこと。
(あかん・・・・・・上には上がおるもんやなー・・・・・・)
そして、最後の思考は。
(ぜったい・・・・・・こえてやるでー・・・まっとれなー・・・・・・)
小太郎が意識を失うのを確認した環。
獣化していた身体も、元の小さなものへと戻っていった。
「・・・さて」
短くそう声を発すると、環は竹刀袋から刀を取り出し、抜いた。
戦いは終わったというのに、何をする気なのか?
「・・・・・・・・・」
空間の切れ目があった場所へと立ち、刀を構え。
「はあっ!」
ドンッ!!
解放した黄金の輝きと共に、振り下ろした。
19時間目へ続く
<あとがき>
書きたかったのは、環VS小太郎。
強すぎますかね?
ただまあ、小太郎のような突っ込むタイプには、環のような受け流して戦うタイプは天敵でしょう。
以下、Web拍手返信です。
拍手していただいている皆様、本当にありがとうございます!
>面白かったので、いっきに読んでしまいました〜
ありがとうございます。
これからも面白いと言ってもらえるよう、精進します。
>さっそく読みました〜
お待ちいただけているようで光栄であります。
なるべく早い更新を心がけてがんばります。