魔 法先生ネギま!
〜ある兄妹の乱入〜
24時間目 「嵐の修学旅行! そのじゅうよん」
祭壇。
儀式は進んでおり、真上に向かって伸びる光の帯と、
目の前に横たわる大岩を包み込む光が、段々と強くなっていっている。
「まだですか?」
「もう少しや!」
白髪少年の問いかけに、千草はうるさいとばかり、少し苛立ちげに答えた。
その直後、少年は気付く。
「彼らが来るよ」
「なに!? まさか、あのガキどもか」
横に目を移すと、池の上をものすごい猛スピードで、盛大な水しぶきを上げて迫ってくる何者かの姿。
無論、杖に乗ったネギである。勇磨と環の姿もある。
「ちっ、しぶといガキやな」
「あなたは儀式を続けて」
そう言った少年は、呪符を取り出し、式神を召喚。
いつぞやの翼を持った鬼。彼の式神だったのか。
「ルビカンテ、あの子たちを止めて」
命令されると、ルビカンテと呼ばれた式神は、
ネギたちへ向けて一直線に飛んでいく。
「何か来たぞ!」
「任せてください!」
迎え撃つネギ側は。
「契約執行1秒間、ネギ・スプリングフィールド!!」
再び自らに魔力を通し。
「最大加速!!」
杖ごと一気に加速。
式神と激突する。
ドンッ!!
そのまま突き抜けた。
胴体を貫かれた式神は、消えていなくなる。
「おお、やるな!」
「スゲェぜ兄貴!」
賞賛の声が上がる。
いい加減、ネギの魔力も限界が近いはずなのに、気合の力か。
「ラス・テル・マ・スキル・・・」
ネギの魔法はさらに続く。
「吹け一陣の風、風花・風塵乱舞!!」
「ぷわっ。な、なんや?」
「風で、大量の水を霧状に・・・」
祭壇全体が、濃い水煙で覆われる。
が、少年は意にも介さない。
「水煙にまぎれて近づく気か? 無駄なコトを・・・。そこか」
ネギの意図を読み、迎え撃つ態勢を整える。
しかし、ネギの発想は、少年の上を行っていた。
「!? 杖・・・?」
真っ先に水煙を突き出てきたのは、ネギではなかった。
彼が乗っていた杖。
「わああああっ!!」
「・・・!」
そして、ネギ自身は彼の後方から現れ。
ありったけの魔力を込めた拳を、少年へと叩き込んだ。
しかし・・・
ガギィィッ!
「・・・!」
「だから、やめたほうがいいと言ったのに・・・」
少年にヒットする直前で、何か硬いものに阻まれてしまう。
魔法障壁。
「バ、バカなぁ!? あれだけの威力の魔力パンチを、ピクリとも動かず障壁だけで・・・!?」
カモも仰天。
信じられない強度だった。
「つまらないね」
「ぐっ」
ネギの腕を掴む少年。
小柄で華奢な体格からは想像もつかないほどの、ものすごい力だ。
「明らかな実力差のある相手に、何故わざわざ慣れない接近戦を選択したの?
サウザントマスターの息子が・・・・・・やはりただの子供か」
期待はずれだと、とどめを刺そうとするも。
「ひっかかったね?」
追い詰められたはずのネギが、ニヤリと笑う。
「解放。魔法の射手・戒めの風矢!!」
詠唱なしで魔法を発動。
魔法の光の帯が、彼を拘束するように巻きついていく。
少年も最初は驚いたが、タネに気付く。
「・・・そうか! これは遅延呪文」
詠唱がないわけではなかった。
あらかじめ済ませておき、発動を遅らせたのである。
どんなに強力な魔法障壁でも、ゼロ距離では効力は最小になる。
上手く裏を掻いて、弱点をも突いた頭脳的な作戦。
戒めの風矢は基本呪文だが、まともに食らった以上、脱出には数十秒はかかるはず。
「・・・なるほど。わずかな実戦経験で驚くほどの成長だね。
認識を改めるよ、ネギ・スプリングフィールド」
ガッチリ拘束されつつも、少年は顔色ひとつ変えない。
「俺たちのことも・・・」
「忘れないでください!」
「・・・!」
そこへ飛び込む、御門兄妹。
「大火焔・鬼火!!」
まずは環。最大出力の、特大の炎を撃ち込む。
動けない少年は、なす術なく、大火炎に包まれた。
「今度はどうだっ! 紅蓮ッ!!」
さらに勇磨が迫って、彼の弱点だと思われる炎を纏った刀で一閃。
上から下へ、真っ二つに叩き斬った。
「・・・・・・・・・」
グロテスクに、黒焦げになった少年は。
・・・パシャンッ
半分になった身体は、そのまま水へと還り。
祭壇の上に広がったが、それはもはや、ただの水。
「く、これでもダメか」
「なんという・・・」
あまりのしぶとさに舌を巻く御門兄妹。
いったいどうすれば倒せるのか。
「・・・今はそれより」
「ええ。ネギ先生! このかさんをっ!」
「はいっ!」
が、今は彼にかまけている場合ではない。
再び襲い掛かってくるであろう少年のことは勇磨たちに任せて、ネギは祭壇の中央へと走った。
だが・・・
「!?」
ネギとカモは目を疑う。
「なに!? 姉さんがいねえっ!?」
「そんな!? 確かにここに!」
祭壇の中央、周囲よりも1段高くなった寝台。
そこにこのかがいたはずなのだが、影も形も無い。
驚き戸惑っていると、不吉な、低音の音が響き渡る。
「オ、オイ。兄貴、アレ!!」
「こ、これは!?」
カモが示した先には・・・
”それ”は、他の面々の目にも捉えられた。
「結局、本気を出さなかったなコタローとやら。勝った気がせぬでござる」
「いや・・・言い訳はせん。負けは負けや。・・・強いな姉ちゃん」
勝利した楓。
小太郎の上にどんと腰を下ろし、勝利を宣言した。
「か・・・・・・勝ったのですか・・・?」
この勝負を見守っていた夕映。
終戦の様子に、隠れていた木の陰から出てきたのだが
「か、楓さん、アレを!!」
「む?」
桜並木の向こうにそびえる、巨大な・・・
「ちょ、ちょっと刹那さん! アレは・・・!?」
「えっ・・・。な、なんだあれは!」
鬼と戦いながらも、まずアスナが気付いた異変。
刹那も声を張り上げる。
「!?」
「?」
その声に反応した龍宮と古菲も、それを目にした。
「ふふ・・・一足遅かったようですなあ。儀式はたった今、終わりましたえ」
妖しげな笑みを浮かべて、このかと共に空中に浮かんだ天ヶ崎千草。
勝ち誇ったかのように告げた。
それもそのはずである。
彼女の後ろにそびえるは、とてもこの世のものとは思えない、天にも届くような勢いの、
大きな大きな・・・・・・
「二面四手の巨躯の大鬼『リョウメンスクナノカミ』。千六百年前に討ち倒された、飛騨の大鬼神や」
さらに告げる千草。
「伝承では、身の丈18丈もあったというけど・・・・・・こいつはそれ以上ありそうやな」
自分で呼び出しておいてなんだが、少し驚いた。
想像以上である。
「こ、こここんなの相手にどうしろっつんだよ。兄貴!?」
カモも怯んだが、ネギはそうではなかった。
「完全に出ちゃう前にやっつけるしかないよ! ラス・テル・マ・スキル・・・」
自身に出来る最大の魔法で倒そうとするが、それでも倒せるという保証は無く。
カモは慌てて叫ぶ。
「待てよ兄貴! 確かに効きそーなのはそれしかねぇが、兄貴の魔力はさすがにもう限界だろ!?」
ぶっ続けで魔力を消費してきている。
いくらネギの魔力が多かろうと、無尽蔵というわけではないのだ。
「そんな大技、今もう1度使っちまったら、倒れちまうよ!」
「雷を間といて吹きすさべ、南洋の嵐」
しかし、ネギは聞く耳を持たない。
「雷の暴風!!」
渾身の力を込めて、魔法を撃った。
結果は・・・
「アハハハ、それが精一杯か!? まるで効かへんなぁ!」
轟く千草の高笑い。
ネギ最大の魔法も、大鬼神にあっけなく跳ね飛ばされてしまった。
「このかお嬢様の力で、こいつを完全に制御可能な今、もう何もコワいモンはありまへんえ。
明日、到着するとかいう応援も、蹴散らしたるわ。そして、この力があれば、いよいよ、
東に巣食う西洋魔術師に、一泡吹かせてやれますわ。アハハハハハ!」
「く・・・・・くそぉっ・・・・・・」
そんな高笑いの中、ネギは限界。
がっくりと膝をついてしまい、荒い呼吸を繰り返すしかなかった。
「御門の兄さん姉さんは・・・・・・、っ! ヤベぇ!」
この場で頼れるのはあの2人だけ。
呼び寄せようと、その姿を捜したカモだったが、その手は使えないことがわかった。
御門兄妹は、戻ってきたと見られる白髪の少年と、再びの激戦を交え始めていたからである。
(マズイマズイマズイマズイ! 何か打つ手は・・・・・・何か・・・・・・)
必死に考えたカモが思いついたのは。
(そ、そうか! 仮契約カードの、まだ使ってない機能――)
場面は移って、アスナと刹那。
「ネギたち間に合わなかったの!?」
「わかりません。でも、助けに行かなければ・・・!」
異変を確認した。それも、飛び切り特大の奴を。
助けに向かいたいのは当然なのだが
「そ、そうは言っても・・・・・・こいつらがっ・・・・・・!」
鬼たちが許してくれそうにない。
「センパイ。逃げるんですかぁ〜〜〜」
さらには、便乗して現れた月詠もいる。
この状況で助けに向かうのは、不可能かと思われた。
が・・・
「あや」
月詠の突進を止める、弾丸の嵐。
「行け刹那!」
龍宮だ。
「あの可愛らしい先生を助けに!」
「ここは私たちに任せるアルよ!」
古菲もそう申し出る。
迷っている時間は無い。
「すまない! 行きましょうアスナさん!」
「う、うん!」
龍宮たちが作ってくれた間により、アスナと刹那はこの場より離脱。
一路、巨大な光が立ち昇っている方向へと走る。
その途中、森の中での出来事だ。
「姐さん! 刹那の姉さん! そっちは大丈夫か?」
「カモ!?」
「カモさん!?」
2人の脳裏に響いてきた声。
間違いなく、カモのものだ。
「力を貸してくれ。こっちは今、大ピンチだ」
「今そっちへ向かってるわよ!」
「それじゃ間に合わねえ! カードの力で喚ばせてもらうぜ!」
「よぶ!?」
・・・次の瞬間。
全身が魔力で覆われた。
「な・・・」
大鬼神の登場には、御門兄妹も目を丸くしていた。
まさか、こんな大物を呼び出せるとは。
「まずい・・・・・・伝説の大妖クラスだ」
「なんてものを呼び出してくれますかね・・・」
何もせずとも、ビリビリと伝わってくるプレッシャー。
強力な妖気。ものすごい迫力。
「ははは・・・。見ろ、鳥肌が立ってる」
「・・・私も、足が震えています」
血筋上、こういう、本能に訴えかける強さというのか。
野生動物が、自分よりも目上、強いものには向かっていかないことと同じ。
そういうものには敏感である。
つまり、あの大鬼神は、この御門兄妹でも思わず身がすくんでしまうほどの、
恐ろしい力を持っているということである。
「・・・な〜んて、怯んでる場合じゃないな」
「ええ。ネギ先生だけでは荷が重い。早く行かな――」
即座に駆けつけようと、足に力を込めたが・・・
バシャッ!
「――兄さんッ!!」
「・・・!」
突如として、周囲に立った水柱。
「おかえしだよ」
「・・・・・・」
その中から、勇磨の背後に現れる白髪の少年。
「くっ――」
ドォンッ!
魔力が込められたパンチ。
勇磨は反応したものの、避けるまでには至らず、顔面に受けて吹き飛ばされてしまう。
刹那がやられたものと同じ現象だ。
2度3度と水面を叩き、彼の身体は水中へと消えた。
「兄さんっ!」
「君にもおかえしをしないとね。熱かったんだから」
「よくも兄さんを・・・」
少年の視線は環へと移る。
その環は、勇磨がやられたことで、コメコミに浮かび上がる血管。
「死をもって報いていただきます!」
自ら挑みかかった。
「せぇっ!」
得意の体術。
絶対の自信を持って、少年へと拳や足を出す。
「・・・・・・」
少年は無言のまま、ひょいひょいとかわしていく。
パシッ
その最中で、少年が無造作に、環の手首を掴んだ。
環はすぐに振り解こうとするが、解けない。
「・・・!」
「つまらないね。君もこんなもの?」
彼女にとっては、屈辱的なセリフ。
「・・・・・・体術の心得があるようですね」
「少しね」
これで”少し”か。
冗談ではない。達人クラスではないか。
「離しなさい下郎」
込み上げてくる怒りを必死に抑えながら。
いや、抑える必要など無い。
怒りを力に換えればいいだけの話だ。
「私に触れてもいい男性は、兄さんのみ・・・!」
「・・・!」
手を振り解くことに成功した。
逆に少年の腕を取って、一瞬の隙を突き、肘を極める。
「天狐流!
グギィッ!
そのまま少年の身体を巻き込んで投げ飛ばす。
全体重を乗せて地面へと叩きつけ、嫌な音と共に、少年の肘はありえない方向に曲がっている。
「それで?」
しかし、少年はそれでも涼しい顔。
肘を破壊されても痛がらない。痛覚が無い?
「まだ終わってはいませんよ」
「・・・!」
そんなことはすぐさま思考の外。
マウントポジションを得た今、なすべきことはひとつだけ。
「はあっ!!」
ゴッ!!
渾身の力を込めて、真上から拳を振り下ろした。
障壁を突き破り、直接、少年の顔へと打撃が入る。
「少しは思い知りましたか」
「・・・・・・」
ぴょーんと飛んで、距離を取る環。
少年は、ゆっくりと身体を起こした。
「直接、身体に拳を入れられたのは・・・」
俯き加減の顔も上げる。
「初めてだよ!」
「・・・!」
言い切るのと同時に、環へ向かって突進。
少しは感情があるのか。父さんにもぶたれたことないのに!状態か。
「ふっ・・・」
だが、環は余裕の笑みを浮かべる。
相手の突進こそ、彼女が最も真価を発揮するときなのだから。
目算どおり、少年の拳をはらいのけ・・・
(・・・うっ!?)
最初に攻撃を払った左手が、痺れている。
(こ、これはっ・・・・・・!)
攻撃が重い。
これまで受けたことの無いような、一発一発が非常に威力がある。
「・・・くっ!」
右手も痺れ始め、捌ききれなくなり。
ドンッ!
「がっ・・・!」
少年の一撃を腹部にもらってしまった。
兄と同様、池の中へと突き飛ばされる。
先に吹っ飛ばされた勇磨はどうしていたかというと。
「・・・・・・ぷはっ!」
ようやく水面へと上がってきた。
「いてて・・・・・・にゃろ〜」
殴られた左頬の痛みを堪えながら。
まだこれからだと気を引き締め、祭壇へと戻ろうとする。
ドガンッ!
「――がふっ!?」
そのとき、何かが飛んできて、自分に命中した。
再び水の中へと落ちていく。
「・・・はあっ!」
勇磨に当たってきた何かが、先に水面へと顔を出す。
「私の防御を破るとは・・・」
環である。
吹き飛ばされた環は、図らずも、勇磨と同じ方向へ飛んでいった。
かくして、ちょうど顔を上げたところだった勇磨に、見事命中してしまったというわけだ。
「・・・おそるべし」
そうとは知らない環。
白髪の少年の強さを、改めて認識している。
「がぼがぼっ・・・!」
「・・・? にっ、兄さんっ!?」
水面に立つ泡で、ようやく気付いた環。
ちょうど勇磨の上に乗っかる格好で、勇磨は顔を出せなかったようだ。
「し、しっかり!」
「ぶはあっ! はあっ、はあっ・・・・・・こ、殺す気か・・・・・・」
「す、すいません」
危うく溺れるところだった。
敵にやられるならまだしも、妹の下敷きになって水死など、笑えもしない。
「・・・強いな」
「はい・・・」
今さら語ることも無い。
身を持って感じた、あの少年の強さ。
”今のまま”では、勝てないかもしれない。
「ま、なるようになる」
「相変わらずの楽観思考ですね・・・」
気にしてもしょうがない。
とにかく、このかを取り返さねばならないのだから。
「祭壇に戻・・・・・・見ろ」
「刹那さんに、アスナさん・・・?」
どうやったのかはわからないが。
ネギの近くに刹那とアスナがやってきていて、例の少年と対峙しようとしていた。
「俺たちも行くぞ!」
「はい!」
今が、1番重大な局面。
ここに加わらないわけにはいかないと、御門兄妹、再出陣だ。
25時間目へ続く
<あとがき>
バトル、この1話で終わらなかった。
とりあえず、バトル展開は次で終わるかな?
以下、Web拍手返信です。
拍手していただいている皆様、本当にありがとうございます!
>“あくの魔法使い”エヴァ様の数少ない本領発揮シーンなので、削られるとちょっとサミシイ……
あう、すいません・・・。
しかし、魔力を抑える呪いの効果が生きたままという設定なので、どうしようもありません。
あれほどの大技は撃てないので、ご了承くださいませ・・・