魔 法先生ネギま!
〜ある兄妹の乱入〜
27時間目 「正体、バレちゃった(バラした?)」
修学旅行明けの日曜日。
「それで、お話ってなんやカモ君?」
周囲に人の気配が無いことを確認して、このかはそう問いかけた。
アスナはまだ部屋で就寝中。
ネギも、修学旅行で得られた父の手がかりを解析することで忙しそうなので、
寮を出て、外の広場へとやって来ている。
ちょうど買い物にも行こうかと思っていたところだったので、そのついでだった。
「おう、他でもない」
このかの肩に乗っていたカモは、そう言ってこのかから降りると。
「実は、これなんだがよ・・・」
近くのベンチの上に飛び乗って、1枚のカードを取り出すのだった。
その頃。
「兄さん、兄さん」
「うぅ〜ん・・・」
御門兄妹の部屋では。
環が勇磨に声をかけていた。
「もうお昼ですよ。いい加減に起きてください」
「んん〜っ・・・」
二段ベッドの上。勇磨はまだ布団の中。
もう正午だというのに、一行に起きる気配が無いので、業を煮やして起こしにかかっていた。
「うるさいな・・・」
勇磨はしばらく唸り声を上げていたが、それでは振り払えないと思ったのか、
薄目を開けて妹を睨み、今度は抗議の声を上げる。
「修学旅行から帰ってきたばっかりで疲れてるんだ・・・。
もうちょっと寝かせてくれよ・・・」
「ですから、もうお昼なんですよ」
やれやれ、とため息。
「いったい、いつまで寝ているつもりです?」
「目が覚めるまで・・・」
「さっさと起きてください。ここまで譲歩したんですから、感謝して欲しいくらいですがね」
それは確かに、前日に京都から帰ってきたばかりだから、多少の疲れはあるだろう。
”あんなこと”もあったわけだ。
少しくらいは大目に見て、今まで黙ってきたが、限界であった。
いくらなんでも、これはちょっと度を過ぎている。
「食事を用意する身にもなってくださいよ。気が気じゃないんですから」
「適当に外で済ませるからいいよ・・・」
「いけません! 外食はダメだと、何回言えばわかっていただけるんですか」
「あーもうっ・・・」
付き合いきれないという感じで、勇磨はガバッと毛布を被った。
再び嘆息する環。
「まったく・・・・・・。鍛錬もしなければいけないというのに。
父さん母さんがいないと、すぐサボるんですから・・・」
昔から、この兄君はそうだった。
厳格な両親が健在な頃(今も別世界で健在だが)は、朝の稽古があるので、嫌々ながらも早起きをしていたが。
何かの用事で両親が留守にしたり、成長して親元を離れるようになると、生来の怠け癖が一気に発現。
朝の稽古などそっちのけで、放っておけば夕食時まで寝ているようなことがしばしばであった。
勇磨曰く、「眠いときにだらだらと鍛錬しても身にならない」と言うのだ。
それはそれで正しいのかもしれないが、習慣として身につけねばならないもの。
到底、受け入れることなど出来ない。
「兄さんっ!」
「・・・・・・・・・」
ついには手を伸ばし、兄の身体を揺すり始めるのだが、その兄からの反応は無くなってしまった。
「はぁぁ・・・」
そんな様子に、環も諦めてしまった。
長いため息をつきながら、二段ベッドの階段を下りる。
「おむすびでも作っておきますか・・・」
普段はこんな感じでだらしなく、勉学も一切ダメという愚かな兄であるわけだけれども。
長年、思い慕っている感情は、こんなことでは曲がらない。
そんなことを呟いて、朝に炊いたごはんの量を思い返す。
結局は、いつも自分のほうが妥協しているわけで。
ものすごく不幸な気がしないわけでもない。
・・・だが。
「本当に・・・・・・・・・仕方の無い人なんですから」
私がついていないと、この人はもっとダメになってしまう。
そんな兄の世話ができるのは自分だけ。
そう考えると、不幸だのなんだのという思いは、自然と吹っ切れてしまうわけで。
くすりと笑みすら漏らして、いまだベッド上の兄に視線を移す。
と、そのとき――
キラキラキラ・・・
「・・・!?」
何か光るものを見た。
急いで階段を昇ると
「これは・・・」
その光は、勇磨の身体を包み込むようにして存在していた。
光は徐々に強くなっていき、何かが起こるような予感を感じるには充分。
「兄さ――!」
環は、勇磨がどこかに行ってしまうような気配を感じて。
なぜだか、もう2度と会えなくなってしまうような、そんな気がして、手を伸ばしたが。
シュンッ!
「あ・・・」
その手が届く前に、勇磨は消えてしまった。
跡形も無く、まるで最初から、
場面は、再びこのかとカモ。
「あーっ!」
カモが取り出したカードを見て、大声を上げるこのか。
目を輝かせる。
「それって、ネギ君が持ってたカード?」
「そう、同じものだぜ」
「やーん、見せて見せて〜♪」
こういった類のものには、このかは目が無い。
必死な様子で見せてくれるよう頼み込む。
「ああいいぜ。ほらよ」
「やった〜♪」
カモは気前よく応じて、このかに渡す。
喜色満面な、さらに大きな声が上がった。
「そのカードは、このか姉さんのもんだしな」
「やっぱカワエエなぁこれ〜♪ って、え? ウチの?」
「ああ」
自分のものだと聞かされ、このかは戸惑ったが。
それも一瞬だけ。
「ついにウチもカードげっとや♪」
すぐに喜びを爆発させる。
以前から欲しいと思っていたものの、手に入らなかった。
それはうれしいだろう。
「え、でもこれ、ウチとちゃうよ?」
しかし、カードに描かれているのは、自分ではなかった。
そのことに気付いて、再び戸惑った声を上げるこのか。
前に、アスナのカードだといって見せてもらったものには、アスナの絵が描いてあった。
自分のものだというのなら、自分が描かれているものではないのだろうか?
「そりゃそうだ。仮契約したのは、このかの姉さんじゃないからな」
「え?」
カモの答えは、単純なものだった。
つまり、仮契約カードには、仮契約をした”従者”の姿が描かれるのであって、魔法使いのほうではないのである。
「忘れたのか? あの戦いの最後で、姉さん、御門の兄さんと仮契約しただろ?」
「あ・・・」
カモから言われて、その場面を思い出し、ポッと赤くなるこのか。
(そ、そやった。ウチ・・・・・・・ゆう君とキスしたんやった)
仕方の無い行為だったといえども、恥ずかしいものは恥ずかしい。
「じゃあ、これは・・・・・・ゆう君なん?」
「そういうこった」
ということは、このカードの描かれている人物は、仮契約をした相手、勇磨になるわけだが。
カモも頷いたが、このかは怪訝そうな顔、声である。
それもそのはず。
「これ・・・・・・ホンマにゆう君なん?」
「そのはずだ。まあ、俺っちも見てるから、そう思う気持ちもわかるけどな」
描かれている人物は、とても、”勇磨”だとは思えない容姿なのだ。
わざわざ確認したのはそのためであり、カモのほうも戸惑っているらしい。
「なんやのこれ・・・。しっぽ? しっぽが生えとる。ひい、ふう・・・・・・9本?
それに、なんや頭の上に三角形の耳があるし・・・・・・顔も・・・・・・なんだか怖い・・・・・・」
まず目に付くのが、人間には無いものが存在することである。
カードの中の勇磨は、足は向こうを向き、上半身だけがこちらに振り返っている状態。
右手には、なにやらへんてこな形の両刃剣を持ち、このかが言ったとおり、殺気を剥き出しにしたような、
相手をひと睨みするだけで殺してしまえそうな、恐ろしげな目と表情をしている。
臀部からは、ふさふさした感じの、例えるなら狐の尻尾だというものが、9本出ている。
頭の頂部にも、明らかに人間のものではない、三角耳が生えていた。
「しかも、ゆう君、髪も目も金色や・・・」
そして、普段は黒いはずの目と髪の毛も、黄金として描かれているのだ。
思わず確かめてしまうのも、無理ないだろう。
「なあ、このか姉さんよ」
驚いている様子のこのかへ、カモは言い聞かせるような口調。
「俺っちはさ、少しだが、実際に見てるんだよな。こんな姿の御門の兄さんをよ」
「え・・・」
「あ、いや、さすがに耳と尻尾は無かったが。
あの戦いのとき、御門の兄さんと姉さんは、何かを解放するように力を込めると、
次の瞬間には、黄金の輝きを放ってたんだ」
「・・・・・・」
仮契約カードには、アーティファクトを始めとして、従者自身の”本来の姿”を映し出すことが多い。
では、勇磨と環は、本当はこんな姿なのだと、そういうことなのだろうか。
「タダモンじゃねえとは最初から思ってたがよ。どうやらあの兄妹、何か隠してやがるぜ」
「ゆう君・・・・・・たまちゃん・・・・・・」
呆然と呟くこのか。
驚きばかりで、思考がついていっていない状態か。
「まあ、味方であることには違いねえんだ。御門の兄さんはこのか姉さんの従者になったことだし、
あんまり深く考えちゃいけねえぜ。外見だけじゃわからねえし、いずれ話してくれるだろ」
「うん・・・・・・そやね」
察したカモがこう言うと、このかも少しは吹っ切ったようで。
微笑みながら頷いた。
「あんな、カモ君」
「なんだい?」
そして、こう尋ねる。
「そもそも、仮契約とか従者とか、なんなん? 少しせっちゃんから聞いたけど、ようわからへん」
「そ、そいつを説明してなかったか・・・」
根本的なことを理解していなかったらしい。
詳しく話していなかった自分のい落ち度でもあるが、今までのシリアスはなんだったのかと、
カモはガックリとなってしまう。
「いいか、姉さん。仮契約ってのはな・・・」
改めて説明。
「ってことだ」
「えー。じゃあウチも、ネギ君みたいに出来るってことなん?」
「まあ、基本的にはな」
修行は必要だが、と注釈はつけたが、頷くカモ。
「西の長さんの話じゃ、このか姉さんも魔法使いだってことだしな。
どうやら兄貴以上の膨大な魔力を持ってるみたいだし、素質は充分あるだろうよ」
「そうなんや〜」
「修行、してみるか?」
「うん!」
尋ねられたこのかは、当然だとばかり、力強く頷く。
「ウチのために、みんな闘って、傷ついて・・・・・・もうあんなことはたくさんや。
もうあんなことにはなって欲しくないもん」
「そうか・・・。まあ、ネギの兄貴に相談だな」
こう言って、カモはピカーンと閃く。
「このか姉さんも、兄貴と仮契約するか?」
「え?」
「そうすりゃ、もっと潜在能力の開花させられるし。
このか姉さんのは回復に特化した力みてえだからな。必要だぜ」
兄貴は回復魔法下手だし、御門の姉さんも仮契約してくれそうにねえしな・・・
カモの本音が垣間見える提案だ。
「ネギ君と仮契約すると、ウチが描かれたカード手に入るん?」
「ああ」
「する!」
即答だった。
ウハッ、とカモの顔が満足そうに歪む。
「ま、それはさて置き、カードの使い方も説明しとかないとな」
「うん、教えて教えて♪」
カードの機能と使い方を、一通り説明していく。
「ホンマに、ウチにも出来るんかな?」
「やってみりゃいいんじゃないか? 手っ取り早いのは、そうだな、念話・・・は無理だ。
御門の兄さんにコピーカードを渡してねえ」
と、なると・・・
「じゃあ、召喚だな」
「しょうかん?」
「おうよ。従者を即座に、この場に呼び出せるって寸法さ。やってみな」
「どうすればええの?」
「こう唱えればいいのさ」
このかは教えられたとおりに、呪文を唱える。
「このかの従者! 『御門勇磨』!!」
すると、すぐ目の前に、魔法陣が現れて。
ついで、召喚された勇磨が・・・
どすんっ
「ぎあっ!?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
・・・落ちた。
受身を取ることも無く、地面にそのまま、直接。
悲鳴が上がった。
このかとカモは唖然としている。
「う、ぐ、ぐ・・・」
そんな中、突如として、空中から落下する羽目になった勇磨は。
予想だに出来なかった痛みに耐え、悶えている。
「カ、カモ君・・・」
「あ、ああ・・・。悪いことしちまったみてえだな」
確認は出来なかったとはいえ、先方の都合を考えなかったツケである。
「あ、あのー・・・・・・ゆう君。ごめ――」
「いきなり何をするかーっ!」
「わあ!」
申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にする。
だがそれは、ガバッと起き上がった勇磨により、中断された。
「いくら言っても起きないからって、二段ベッドの上から落とすなんざ、冗談にも程がある!」
「ゆ、ゆう君?」
「下手したら大怪我だぞ! どれだけ痛かったと思って・・・・・・って、あら?」
「・・・・・・」
がー、とまくし立てるだけまくし立てたところで、彼も異変に気付いたようだ。
目の前にいるのは、怒鳴るべき冷徹な妹ではなくて・・・
「えっと、このか?」
「う、うん」
このか、だったのだから。
「・・・? ??? な、なんでこのかが俺の部屋に?」
「え、えと、あのな、ゆう君・・・」
「御門の兄さん、すまなかった」
「へ?」
まったくワケのわからない勇磨。
このかとカモから説明されて、さらに驚くことになる。
「従者? 俺が、このかの?」
「そういうこった。石化から救うために、な。了解を得なかったことは申し訳ないが、諦めてくれ」
「うーん、そうか」
気を失っている間に、そんなことになっていたとは。
正直、困ってしまう。
「ゆう君・・・・・・迷惑やった?」
「え? ああいや、そうじゃないけど、驚いてはいる」
「・・・・・・」
その空気を敏感に感じ取ったこのか。
不安そうに、悲しそうに尋ねるが、勇磨も困惑が大きい。
「まあ、詳しいことは、またあとでってことで。いいな、兄さん姉さん?」
「あ、ああ、そうだな」
「そやね・・・」
カモの提案を、これ幸いとばかりに受け入れる。
特に勇磨だ。
「あのさ、なるべく早く環に連絡して、服を持ってこさせてくれないかな?」
「え?」
「俺、こんな格好じゃ、部屋にも戻れないから・・・」
「あ・・・」
ここで初めて気付いた、重大な事実。
寝ているところを召喚された勇磨。
当然、服装は就寝中だったときのまま。
その格好というのが、上はシャツ、下は下着のみ。
「きゃっ」
思わず目を逸らすこのか。
女子寮だということもあり、このままでは、国家権力のお世話になってしまう。
「い、急いで行ってくるーーーー!!」
このかは顔を赤くしたまま、走り去っていった。
「御門の兄さん、災難だな」
「誰のせいだよ・・・」
「はあ、はあっ・・・」
一方で、突然、目の前で兄に消えられた環。
普段は、こんな程度の距離を走ったくらいでは息切れなどしないが、それだけ必死になっているということである。
「あんな真似が出来るのは・・・・・・”魔法”に違いありません!」
当初は、勇磨の消えてしまったベッドを前にして、自分たちがこの世界に召喚されたときのことを思い出して、
本当に、もう二度と会えないのではないかと肝を冷やしたが。
冷静になってよく考えてみて、至った結論が以上のことだった。
魔法といえば、真っ先に思い付くのが、ネギの存在。
かくして環は部屋を飛び出し、息をせき切って、ネギたちの部屋へ急いだ。
「ネギ先生ッ!!」
これもまた、普段の彼女のならば絶対にしない行為。
いきなりバーンとドアを開けて、室内へと乗り込む。
「あ、御門さんだー♪」
「あら珍しい。何かご用事ですか?」
「ここは私の部屋だってのいいんちょ。なーによ環、あんたまで来たの?」
「・・・え?」
そこにいたのは、この部屋の住人ではない、クラスメイトの方々。
もちろん、パジャマ姿のアスナもいたが、なぜだか呆れられてしまう。
「で、あんたは何用?」
「そ、そうです。ネギ先生は・・・」
「ネギなら、そこにいるけど」
「あ、はいー。なんでしょうか環さん?」
あやかから京都土産の生八つ橋でもてなされていたネギ。
ひょこっと顔を出すが、それがいけなかった。
「兄さんをどこにやったんですっ!? あなたの仕業でしょう!」
「ええっ!?」
よくもいけしゃあしゃあと・・・
そんな感じで、まったく身に覚えの無い、八つ当たりを受けるはめになってしまう。
「ぼ、僕は知りませんよー!」
「だったら、他にどこの誰がやったというんですか!」
「うひゃっ、なんやこの人数は!?」
そこへ、救世主が帰ってきた。
勇磨に言われて、彼らの部屋に行ったものの、環はここにいるので不在。
困ったこのかは、とりあえず誰かに相談しようと思って、自室に戻ってきたところだった。
「あ、たまちゃん! よかったここにおったんかー」
「・・・はい?」
「実はな、ゆう君の服がいるんよ〜」
「兄さんの!? 兄さんの行方を知っているんですかどこにいるんですか無事なんですか教えてくださいッッッ!!」
「ひゃああ〜〜〜、たまちゃん落ち着いて〜」
このかの肩をむんずと掴んで、すごい勢いでぐらぐら揺する環。
無論、こんな状態では、このかもまともに話せるわけもなく。
余計に、騒ぎは大きくなってしまったのかもしれない。
その後・・・
部屋にやってきたきた連中には、やることがあると丁重にお帰りいただいて。
勇磨にも無事に服を届けて。
「ゆう君・・・・・・これ、なんやけど」
「ん? なに?」
落ち着いたところで、このかはそう言いながら、先ほどのカードを勇磨に示した。
「・・・!」
絵柄を見た勇磨は、即座に顔を強張らせる。
「な、なかなかカワエエやろー? 獣耳に尻尾って、なんや、コスプレみたいやもんな〜♪」
「・・・・・・」
このかにもそれがわかったが、紛らわせるように明るく言う。
しかし、勇磨の表情は変わらない。
「これは・・・?」
「えと、その・・・・・・仮契約カードや」
「・・・そうか」
仮契約のことは、事前にカモから聞いていた。
だから、それだけでも理解できた。
「気になる?」
「え!? や、や・・・・・・ウチは、そんなこと全然・・・・・・
ゆう君が何者やろうと、ゆう君はゆう君なんやしー!?」
「ははは、ありがとう。そう言ってくれるだろうと思ってた」
「ゆう君・・・」
このかの返答は、無理している様子がありありと見て取れた。
半ばわかっていた上での質問だ。
一方、勇磨のほうの言動では、カードの姿が正しいと認めているようなもの。
このかは複雑な心境になる。
「そうだな・・・・・・見られちゃった以上は、隠すのも限界かな?」
「え・・・」
「ネギ先生や神楽坂さん、それに刹那さんを呼んでくれる?」
「ええけど・・・・・・なんで?」
「不公平が無いように、ね」
「・・・・・・で」
集まった面々を前に、不機嫌そうに口を開くのはエヴァ。
「なぜ私のところに来るんだ? ・・・くしゅっ!」
ここは彼女のログハウス。
目の前には、御門兄妹、ネギにアスナ、このかと刹那がいる。
来られただけでも億劫なのに、花粉症で言うことを聞かない鼻が、苛立ちに拍車をかけていた。
「ネギ先生の話では、ここが1番安全だということだったんで」
「ぼーや・・・・・・覚えていろ」
「えうー!」
勇磨にここを教えたのはネギ。
エヴァから睨まれたネギは、震えて小さくなった。
「それで、話ってなんなのよ?」
「私が呼ばれた理由も、併せて説明してもらいたいのですが」
呼び出された格好のアスナと刹那。
不機嫌とまではいかないが、怪訝そうな表情をしている。
「急で申し訳ない。みんなに話しておきたいことがある」
勇磨はそう前置きし。
「まずは、これを見てくれ」
「・・・仮契約カード?」
「そう」
テーブルの上に、このかとの仮契約カードを置いた。
はじめに反応したのはネギである。
「俺は覚えてないけど、石化を直すために、このかと仮契約を結んだことは聞いた。
カモ君の話では、これはそのときのものらしい」
「あー」
「あのときの・・・」
納得した声を出すのはアスナと刹那。
あの状況では、それしか、勇磨を助ける方法は無かった。
「ということは、これに描かれているのは勇磨君なのよね?
これじゃまるっきり別人・・・・・・って、あ・・・」
アスナはそこまで言って、何かを思い出したようだ。
隣のネギ、そして刹那も、合点がいったような仕草を見せる。
「そういえば・・・・・・あの戦いのとき、勇磨君も環も・・・・・・」
「うん」
黄金化していた状況。
ネギとアスナは、チラリとではあるが、実際に見ていた。
唯一、見ていない刹那も
「なるほど・・・。あなたたち兄妹は、”私と同類”だと仰った。その理由が、これ、ですか」
「まあね」
カードの姿を見れば、想像するのはたやすい。
「なんだ勇磨。秘密にしておくのではなかったのか?」
エヴァが唐突に口を挟む。
訊かれた勇磨は、う〜んと考え込んで。
「こうして証拠が挙がったんじゃ、隠し通せないし」
「まあな」
「なんや? エヴァちゃんは知ってたんか?」
「ふふん、羨ましいか? そうだ、真っ先に教えてもらったのは私だな」
「む・・・」
エヴァから挑発的な視線を投げかけられたこのか。
むっとして頬を膨らませる。
(100年早いぞ小娘)
(こ、これからが大事やもん!)
2人の間で、見えない火花が散った。
「・・・はぁ」
知ってか知らずか、人知れずため息をつく環。
今の火花が見えたのは、あるいは彼女のみか。
「兄さん、話を進めてください」
「ああ、そうだな。これを見てもらえればわかるとおり・・・」
ゴクリと、まだ秘密を知らない者が息を飲む。
具体的な名前を挙げるのならば、ネギに、アスナに、このか。
「俺と環は、純粋な人間じゃない」
「・・・・・・・・・」
しばしの沈黙。
「ど、どういうこと!?」
最初に沈黙を破ったのは、アスナである。
「どうもこうも、これが普通の人間であるわけないでしょ? こんな耳に尻尾だよ?」
「だ、だからって・・・」
「仮契約カードには、契約者の内面が出るらしいからね。
ま、悔しいけどその通りだよ。見事に、俺たちの秘密を表現してる」
「・・・・・・」
が、すぐに言葉を返せなくなった。
うぐっと黙らされる。
「そんなわけで、じゃあ俺たちは何者なんだというと・・・」
「刹那さんと同じ、妖怪とのハーフです」
「・・・・・・」
再び、一同は沈黙。
そのことを知っていたエヴァも、腕を組んで目を瞑っている。
「私たちの母親は妖狐・・・・・・狐の妖怪なんです」
「・・・・・・」
勇磨から説明を引き継いだ環。
その言葉に、沈黙は続く。
「だからといって、どうこうというわけではありません。
確かに流れている血は、半分だけ違いますけど、私たち自身は”人間”であるつもりです。
今後ともよろしくお願いいたします。ほら、兄さんも」
「ああ。あー、驚いたとは思うけど、事実だから。そして、環が言ったことも事実。
引き続き仲良くしてもらえると助かる。この通り」
「も、もちろんや!」
頭を下げる御門兄妹。
真っ先にこのかが同意する。
「ゆう君はゆう君、たまちゃんはたまちゃんやもん!」
「そ、そうよね。確かに驚きはしたけど、こうして魔法使いや吸血鬼なんかもいるんだもの」
「そ、そうですよね!」
アスナとネギも、衝撃の中ではあるが、頷いた。
「刹那さんだってそうだしね。刹那さんの翼はカッコイイし、この尻尾も、なんだかカワイーじゃん!」
「ははは」
「そう言っていただけると助かります」
アスナの言動には、本当に救われる。
刹那にしても、随分と助かった面があることだろう。
その刹那は、微笑みを称えているのみだが、ホッとしている様子だ。
「ところで勇磨」
「なにエヴァちゃん?」
ちょっとした騒ぎになっている最中。
他に聞こえないよう、エヴァが勇磨に声をかける。
「肝心なことを話してないだろ」
「肝心なこと? なに?」
「いくら妖狐とのハーフだといえども、それだけであそこまでのパワーは出まい。
貴様らの母親が、特別だからこそ、だろ?」
「あー」
確かに、”ただの妖狐”でないことは間違いない。
だが・・・
「でも、尻尾の数で一目瞭然だと思うけど」
「気付かないヤツが悪い、か。それはそうだ」
くくく、と意地悪そうに笑うエヴァ。
知られたからといって、こうして明らかにした以上は、なんでもないのだが。
それでも、直接、打ち明けてもらったという点では、自分に優位性がある。
「? なんだか上機嫌だね?」
「かもしれんな」
エヴァは続けて笑いながら、素直に頷いた。
28時間目へ続く
<あとがき>
ここで正体をバラしました。
御門兄妹の力の源、おわかりいただけましたでしょうか?