魔 法先生ネギま!
〜ある兄妹の乱入〜
28時間目 「ネギの弟子入り」
引き続きエヴァの家。
騒ぎが落ち着いたところで、アスナがこんなことを言った。
「そーいえばネギ。あんたも何か話があったんじゃないの?」
「あ、そ、そうでした!」
忘れていたネギ。
ハッと思い出して、表情を引き締める。
いったい誰に、どんな話があるというのだろうか?
「勇磨さん環さん!」
「は?」
「え?」
すると、ネギは突然ひざをついた。
もちろん、いきなりそんなことをされた勇磨と環は、目を丸くする。
「僕を弟子にしてください!」
「・・・・・・弟子?」
「はい! お願いします!」
「・・・・・・」
驚きの表情を浮かべている勇磨。
彼から困ったような視線を向けられた環も、どう反応していいかわからない、
そんな顔である。
「い、いきなり何を?」
「その・・・・・・今回の一件で、僕、自分の力不足を実感しました」
ネギ以外、皆が唖然としている中、ネギ本人は、真剣な顔で言う。
京都への修学旅行、結果的には全員が無事に帰ってこられたが。
それはあくまで結果論であり、危ない場面には何度も遭遇した。
もちろん、刹那や御門兄妹の活躍もあって、辛くも勝利できたから良かったものの。
自分が、その勝利に貢献できたと言えるだろうか?
いや、そもそも、もっと自分が強ければ、しっかりしていれば、始めからピンチなど来ていなかったかもしれない。
「ですから僕、もっと強くなって、今度は僕が皆さんを守ってあげたいんです!」
「ネギ先生・・・」
「ネギ君・・・」
感動しているのは、刹那やこのか。
この決意はたいしたものだし、なにより、自分たちを真剣に守ろうとしてくれていることが伝わってきた。
「僕は、攻撃魔法こそ覚えましたけど、まだ、戦いの感覚というか、そういうものがよくわからないんです。
お願いします、僕に戦い方を教えてください!」
「あー・・・」
直接、頼み込まれる格好になった御門兄妹。
本当に困ったかのような顔で、返答に窮していた。
「お願いします勇磨さん環さん! この通り!」
「いや、あの、そんな頭なんか下げられても・・・」
「とりあえず、頭を上げてくださいネギ先生」
土下座までされてしまって、困惑、ここに極まれり。
勇磨は頭をポリポリと掻いて。
「あのですね、ネギ先生」
「はい!」
顔を上げたネギに話しかけるが、そのあまりの気合に、一瞬うっとたじろいで。
「そもそも、人選ミスだと思うのは俺だけですか?」
「え? 人選ミス?」
「そうでしょ? だってネギ先生と俺たちとじゃ、スタイルが違いすぎますもん」
「前提として申し上げますが」
勇磨に続き、環もこう話す。
「ネギ先生は魔法使いですよね? 対して、私たちは剣士です。
まあ私は、格闘のほうもやりますけど、根本的に戦い方があなたとは違います。
魔法使いの戦い方を学びたいというのなら、明らかな人選ミスですよ」
「ま、そりゃそうよね」
「そうですね・・・。私も、環さんと同意見です」
アスナと刹那も同意した。
確かに、魔法使いとは、戦い方に相違がありすぎる。
「ネギ先生。あなたは、剣や格闘を学びたいのですか? 魔法を学びたいのですか?
どちらです?」
「え、あ・・・」
今度は、ネギが答えに詰まる番だった。
「考えていなかった、という顔ですね?」
「・・・はい」
手段など二の次。とにかく強くなりたい。
強くなれさえすれば、なんでも良かった。
「すみません・・・・・・僕また、拙速すぎたみたいです・・・・・・」
「まあお気持ちはわかりますが、焦りすぎてもいけませんよ」
「そうだよネギ先生。先生はまだ10歳だ。修行さえ怠らなければ、強さは自然と手に入るよ」
「はい・・・」
環と勇磨からこう言われて、シュンと俯いてしまうネギ。
なんだか、こちらのほうが悪いことをしているみたいで、気が引けてしまう。
「ねぇ勇磨君、環。それだけじゃあんまりよ。何かしてあげられないの?」
「そうや。ネギ君こんなに真剣なんやから」
アスナやこのかからも、こんなことを言われた。
が、こればかりはどうしようもない。
「うぅ、そうは言われてもな・・・」
「剣を学びたいというなら、教えて差し上げても構わないんですけどね・・・」
御門兄妹も反応に困ってしまう。
剣なら剣で良く、教えてもあげられるが、それでは、ネギの希望とは違ってしまうだろう。
ネギの目指しているものは、あくまで父親、サウザントマスターである。
魔法を使えなければ、上手く扱えなければしょうがない。
「ほらネギ。あんたからも、もっと言いなさいよ」
「で、でも・・・」
「あーもう。あんたの決意ってのは、少し言われたからって挫けちゃう、そんな薄っぺらいもんなわけ?」
「・・・・・・。あの、勇磨さん環さん」
アスナから発破をかけられて、それでも少し迷ったが。
ネギは改めて、こんなお願いをした。
「修行を怠るつもりはありませんし、本気で強くなりたいと思っています。
でも、修行の方法というか、修行のやり方というか・・・
僕いままで、魔法学校で基本的なことを習っただけで、誰かに教わったことが無いんです。
覚えた攻撃魔法も、ほとんど独学だったもので・・・」
独学でここまでなった、というのも充分に凄いことであるが。
いつまでも独学では、限界もあろう。
その限界に、今、来ているのかもしれない。
「ですから、その・・・・・・方針と言いますか、どんな修行をどういうふうにしたらいいのか、
それだけでも、教えていただけると助かります・・・」
「ほらっ、子供がここまで言ってるのよ。なんとかしてやりなさいよ!」
「そやそや〜」
「だから、そうは言われても・・・」
本当に、どうしたものか。
アスナとこのかばかりか、刹那からも、批判的な目を向けられてしまう。
「俺たち、魔法のことなんて、これっぽっちもわからないしなあ。
どんな修行をしたらいいのかもわからないし・・・・・・ごめんネギ先生」
「すいません。この件では、私たちはお力にはなれません」
「あ、あ、無理に頼んでいるのはこちらですから! そんな謝らないでください!」
なんと言われても、無理なものは無理。
逆に謝られてしまったネギも、あたふたと恐縮するしかない。
「・・・・・・そうだっ!」
「え?」
と、唐突に勇磨が声を上げる。
「いいこと思いついた」
「いいこと?」
「問題なのは、俺たちに弟子入りを志願したということ。戦い方が違うから当然だ。
なら、スタイルの合った、別な人の頼めばいいってことでしょ?」
「それは、まあ、確かに・・・」
単純なことだった。
戦法の合う、魔法使いの実力者に師事すればいいだけの話だ。
「だけど、そんな人・・・・・・・・・タカミチ?」
「いいや。そのタカミチって人がどんなものなのかわからないけど、適任者がここにいるじゃないか!」
「ええっ?」
「こちらのっ!」
ババーン、とでも効果音が鳴りそうな勢いで、勇磨はその人物を紹介した。
「こちらにおわすお方をどなたと心得る! 畏れ多くも先の副将・・・じゃない。
真祖の吸血鬼にして魔法使い、エヴァンジェリン様であらせられるぞ!」
「ええええっ!?」
「なにっ!?」
仰天するネギとエヴァ。
芝居がかった勇磨のセリフにでは、当然ない。
「ゆ、勇磨、貴様! どういうつもりだ!?」
「どうもこうも、エヴァちゃんって強いんでしょ?
今は結界内で力は弱まってるけど、それさえなければ、魔法使いとしては超一流だって聞いた」
「う、むぅ・・・・・・まあ、それはその通りだが・・・」
実力を認め、褒められたも同然の物言い。
エヴァは驚きながらも、どこか満更でもなさそうだ。
「だったら、魔法使いとして、戦い方を学ぶのにこれ以上の師匠はいないよ。どうネギ先生?」
「あ・・・」
またしても失念していた、という表情を見せるネギ。
そうだ。どうして気付かなかったのだろう?
「エヴァンジェリンさんッ!!」
気付いた途端、ネギはエヴァの前に跪いた。
「どうか、この僕を弟子にしてくださいっ!」
「アホか貴様」
対するエヴァの返答は、恐ろしいほど辛辣である。
それもそのはず。ネギの父には恨みがあるし、ネギ自身とも敵対したのだ。
「だいたい私は弟子など取らん!
戦い方なら、貴様が自分で言ったとおり、タカミチにでも習えばよかろう」
「それは承知です! なにより、この前の戦いを通して、魔法使いとしての戦い方を学ぶなら、
エヴァンジェリンさんしかいないと!」
「忘れていたのだろう?」
「えう・・・」
修学旅行の前、直接対決した際の印象は、その通りであった。
しかし、そのエヴァの存在を、丸ごと失念していたという事実は大きい。
実際、エヴァから指摘されて、ネギは小さくなるしかない。
「だがまあ・・・」
不機嫌になるのも当然だった。
が、エヴァはそうなるどころか、得意げになって問う。
「つまり、私の強さに感動した・・・と」
「ハ、ハイ!」
「本気か?」
「ハイ!!」
ニィ、と微笑むエヴァ。
案外、持ち上げられると弱い性格なのだろうか。
「フン・・・よかろう。勇磨の取り成しでもあるし、そこまで言うのならな」
「本当ですか!?」
「ただし!」
喜びを爆発させそうになるネギを、エヴァはこう言って制した。
「ぼーやは忘れているようだが、私は悪い魔法使いだ。それなりの代償が要る」
「え・・・」
「まずは足を舐めろ。我が下僕として、永遠の忠誠を誓え。話はそれからだ」
「アホかーッ!!」
久々に悪のオーラを纏ったエヴァ。
そんな要求を出すものの、アスナのハリセンにより吹っ飛ばされる。
あーだこーだと議論になるが。
「エヴァちゃん。俺からも頼むよ」
「む・・・」
勇磨がこう言うと、アスナと取っ組み合いのケンカになっていたエヴァは、
その行動をピタッと停止させて。
「ネギ先生の修行、見てやってもらえないかな? このとーり!」
「・・・・・・・・・」
手を合わせて、お願いっ、と頭を下げる勇磨。
エヴァはしばらく無言だったが。
「それは、私の強さを見込んだ上で、そう言っているのだな?」
「うん!」
「私の強さを、貴様も認めているということだな?」
「もちろん! 最強なんでしょ?」
二言三言、会話を交わして、頷いた。
「わ、わかったよ」
「おお、ありがとう!」
「・・・フン! 貴様に言われたから考えたわけじゃないぞ! 拒んだのはポーズだ。
真祖たる私が、そう簡単に頷けるか! 最初からそのつもりだったんだからな!」
「はいはい、わかってるわかってる」
「貴様、わかってないだろ!」
「あ、あのー・・・」
再び口論になりかけたところで、ネギが声をかけ、それはストップ。
エヴァは恥ずかしそうに、こんな条件を提示した。
「今度の土曜日、もう1度ここへ来い。弟子に取るかどうかテストしてやる。
それでいいだろ?」
「ありがとうございます!」
ネギは大喜び。
テストされるとしても、それに合格さえすれば、弟子にとってもらえるのだ。
それで充分だった。
「よかったなぁネギ君♪」
「エヴァンジェリンさん・・・・・・勇磨さんのお願いなら、聞いてくれるんですね」
様子を見ていたこのかは、同じように無邪気に喜んで。
隣の刹那は、珍しい、奇跡的とも言える光景に、目を丸くしていた。
「やれやれ、ですよ。本当に・・・」
そして、憂鬱そうにため息をついている環。
こちらは頭が痛そうだ。
結局、ネギはエヴァンジェリンの弟子となることが出来た。
朝の出勤中に見た、挑戦者たちを叩きのめす古菲の姿を見て、彼女にも弟子入りし、
中国拳法をも習うことになったのである。
「さて勇磨」
「なに?」
ネギがテストに合格した翌日の放課後。
勇磨は、エヴァに自宅へと呼び出されていた。
「ぼーやが、私の弟子になったわけだが」
「うん、めでたい。短期間であそこまで強くなるとは思わなかったよ」
ほくほく顔の勇磨。
万事、丸く収まってめでたしめでたし♪という心中であろうが
「私がヤツの弟子入りを認める羽目になったのは、貴様のせいだぞ」
「・・・へ?」
お天道様が許しても、真祖の吸血鬼様は、許してくれなかった。
「な、なぜに?」
「とぼけるな。元はと言えば、貴様が私に話を振ったせいだろうが」
「そ、そうかもしれないけど、認めたのはエヴァちゃんで、
君が出した条件を、ネギ先生は見事にクリアしたわけで・・・」
「ええいうるさい! 貴様も男なら、素直に責任を認めんか!」
「り、理不尽な・・・」
あうう、と勇磨は情けない声を上げる。
一方のエヴァは、満足げに、妖しい笑みを見せるのだ。
「・・・それで、俺にどうしろと?」
「なに、たいしたことではない」
エヴァは、その小さな身体には不釣合いなくらい、妖艶に微笑んで。
「貴様からも代償を貰い受けるのが、筋だと思ってな」
「うぅ、いったい何をすれば・・・?」
「フフフ・・・。だから、たいしたことではないさ・・・」
舌なめずりしながら、エヴァは勇磨ににじり寄っていく。
「あ、あの、エヴァちゃん?」
「逃げるな」
思わず後ずさりする勇磨であるが、きっちり釘を刺されて。
エヴァはそのまま近寄るかと思われたが、くるっと反転し、地下への階段のところまで歩いていく。
「ついてこい」
「うぅ、い、行きたくないなぁ?」
「早くしろ。猛烈な利子をつけても構わんのだぞ」
「いま行きますですハイ」
る〜るる〜、と心の中では泣きながら。
どこからともなく流れてくるドナドナを聞きながら、勇磨はエヴァに従って、階段を下りる。
「な、何をされるんだか・・・」
「心配するな。命まで奪いはしないさ。フフ、多少は頂くがな。フフフ・・・」
「ひぃぃ・・・」
本日の勇磨の日記。
安易に人を頼るのはやめましょう。
文字通り痛い目を見ます。
○月×日 天気:はれ 以上、まる。
29時間目へ続く
<あとがき>
今回はちょっと短め。
まあ前回の続きですし、これくらいで大目に見てください。
ネギがエヴァのことに気付かなかったのは、修学旅行で彼女の大技を見ていないから。
思いだけが先行して、突っ走ってしまったということでしょう。まだ10歳ですから。
全体として、原作ほどの窮地を経験していないからか、原作に比べると、ネギの精神は未熟でしょうか。
これは今後についても言えることで、原作ほどの成長スピードは得られないかも?
弟子入りテストまでの経過と、テスト自体は原作通りなので省略。
さて勇磨君。何をされたんでしょうか?
おわかりだと思いますが、既成事実・・・・・・ではないですよ。(笑)