魔 法先生ネギま!

〜ある”姉”妹の乱入〜

2時間目 「女子校生活は辛いよ」

 

 

 

 

 

 

「おはようさんや〜♪」
「おはよ」

「・・・おはようございます」

突然に訪ねてきた2人。
面識があるわけも無く、環はどう反応していいかわからずに、
一瞬の間を置いて、とりあえず挨拶を返した。

「ええと・・・・・・どちらさまでしょうか?」
「いきなりでごめんな〜。ウチ、近衛木乃香っていうんやけど」

改めて尋ねると、髪の長い少女のほうがそう名乗った。

『近衛木乃香』・・・
即座に思い出す。

護衛対象の名前だ。
写真で見てはいたが、なるほど、彼女がそうか。

「はじめましてや〜。よろしくな、転校生さん♪」
「え・・・・・・どうしてそれを?」
「ゆうべ、おじいちゃんから言われたんよ〜。
 ウチのクラスに2人、転校生が来るから、仲良くしたってな〜って。
 早速、一緒に学校行こう思うて、迎えに来たんよ〜♪」
「・・・そうでしたか」

学園長から話が行っていた、ということか。
それならば、自分たちを知っていることも、合点が行く。

事情を理解したところで、環の目が、このかの向かって右にいる、
ツインテールの少女のほうに向いた。

「それで、ええと、あなたは?」
「こっちはアスナや〜」
「神楽坂明日菜よ。このかとはルームメイトで、付き添いで来たんだけど、まあよろしくね」
「はあ、こちらこそ」

付き添いで来た、と言うわりにフレンドリーなアスナ。
自分から手を差し出してきて、軽く握手を交わす。

「もう1人は? 双子の姉妹なんでしょ?」
「呼びましょうか? に・・・・・・姉さん」

危ない危ない。
あと一歩で『兄さん』と呼んでしまうところだった。

これだから、普段のクセというものは・・・
環は反省するのと同時に、勇磨にも厳しく言わなければ、と改めて思う。

「聞こえてたよ。・・・あわ、聞こえてた・・・わ」

奥に居ても、会話の内容自体は聞こえていた。
やってきた勇磨であるが、これも普段のクセで、いつも通りに言ってしまうところ。
慌てて言い直してみるが、やはりまだまだ、羞恥心が消えなかった。

「「お〜」」

「な・・・何か?」

彼、いや”彼女”の姿を見るなり、このかとアスナからは声が上がった。
何か、正体がバレるようなヘマをやってしまったか、と勇磨が焦る中。

「綺麗やな〜」
「ホント、女の私でも見惚れちゃうくらい」
「そ、そう? あ・・・・・・ありがとう・・・・・・」

とりあえず、そうではなかったことを安心し。
同時に、とても複雑な気分になっていることを実感する。

「こっちの・・・・・・えっと?」
「あ、申し遅れましたね。御門環といいます」
「ごめんね。環さんもすっごくかわいいし、いいなあ」
「美人姉妹なんやね〜。声もカワエエし、羨ましいわ〜」
「そ、そんなことないですよ」
「あはは・・・」

口々に褒められ、さすがの環も、赤くなって照れた。
勇磨は、引き続き複雑な気持ちで、苦笑するしかない。

「えっと、お・・・・・・わたしは、御門勇(ゆう)。
 妹ともどもよろしく。えっと、近衛さんに、神楽坂さん・・・だっけ?」
「そんな堅苦しいのやめてよ。アスナでいいわ」
「ウチのことも、このか、って呼んだってな〜♪」
「じゃあ、そうする」

お互いの呼び名が決まる。

勇磨の女性名『勇』であるが、これもきのう、女性化作業をしている中で決めたことだ。
勇子や勇美(いさみ)なんて候補も出たのだが、結局は、普段から呼ばれ慣れている、
元の名前を含んだ1番簡単なものということで、決定したものである。

「ウチも2人のこと、ゆうちゃん、たまちゃんって呼ばせてもらうわ♪」
「え・・・」
「はは、OK」

このかが唐突に定めた愛称に、環は絶句し、勇磨は苦笑。
環はその呼ばれ方に抵抗があるらしい。

「じゃ、そろそろ行きましょうか」
「みんなで登校や〜♪」
「うん」
「はい」

というわけで、4人は連れ立って、寮を出た。

 

 

歩いているときや電車での移動中も、いろいろな会話を交わす。

「・・・というわけでして」
「悲しいことがあったんやなあ。でも、もう大丈夫や! えぐっえぐっ・・・」
「ああもうこのか、泣かないでよ」

中でも、1番感銘を受けてしまい、ついにはこのかが泣き出してしまった話。
つまりは、兄妹改め姉妹の身の上話。

家族を事故で亡くしてしまい、他に身寄りが無いところを、学園長に引き取られた。
もちろん環が話した内容は作り話なのだが、涙もろいこのかは信じ込んでしまい、
大粒の涙を流したのだった。

「でも、あなたたち双子にしては、あんまり似てないわね?
 雰囲気は良く似てるんだけど」
「ええ、二卵性だそうですから」
「よく言われる・・・わ。普通のきょうだいよりも似てないかも、ね・・・」

落ち着いたところでの、アスナからの疑問。
環は冷静に答え、勇磨は相も変わらず、一言一句、間違えないように言葉を選んでいるから、
どうしてもぎこちなくなってしまうのは、仕方ないか。

これでは、怪しまれても当然であるところ。
だが、このかもアスナも、転校したてで緊張し、出会って間もない相手で、まだ戸惑っているのだろうと受け取った。

追求されなかったことは、幸いだと言える。

「職員室は、ここからまっすぐ行ったところやから」
「うん、ありがと」
「じゃ、また後でね」
「またなー、ゆうちゃんたまちゃーん♪」

程なく学園に到着し、職員室の手前まで案内してもらって、手を振って別れる。
このかが付けてくれたあだ名に、やはり苦笑の勇磨と、凍りつく環。

「ゆうちゃん、か。はは」
「たまちゃん・・・・・・」

環は、その名によほど、嫌な思い出でもあるのか。
勘弁してください、とでも言いたげに固まっていた。

「それにしても・・・・・・やれやれ。いつバレやしないかと、ヒヤヒヤものだった」

ふぅ〜、と大きく息をつきながら、安堵の表情を浮かべる勇磨。
ビクビクしていたのだが、まったく怪しまれなかったところを見ると、結構イケているのか?

「自分で言うのもバカらしいな・・・」

こんなことで自信を持って、どうするんだか。
とはいえ、これからはこうして生活しなければならないのだから、ひと安心なのは確かである。

「さって環。気を取り直して、職員室に行こうか」
「・・・はい」

職員室に向けて歩き出す2人。
環はまだ「たまちゃんショック」から抜け切れていないのか、俯き加減だ。

「あ、おはようございます!」

「おや」
「・・・あら、ネギ先生」

と、廊下の向かい側から、知った顔が歩いてきた。
向こうもこちらに気づいたようで、笑顔を浮かべながら、駆け寄ってくる。

「今日からですね。がんばってください!」
「ああ、はい」
「出来うる限りを尽くします」

小さい身体にスーツを着込み、ハキハキしたネギの表情と言葉。
自然と、こちらの気分まで、明るくしてくれる。

「それにしても・・・」

そんなネギの視線が、”勇”を捉えた。

「人間、変われば変わるものですね・・・」

は〜、と感嘆の息すら漏らしつつ。
勇磨の姿をマジマジと見つめる。

「きのうも見ましたけど・・・・・・本当に、勇磨さんなんですか?」
「言いたいことはわかりますけどね・・・・・・言わないでください。
 自分で自分にヘコんでますから・・・」
「す、すいません」

ネギは、きのうのうちに、女装した勇磨の姿を見ている。
そのときも信じられなかったが、一晩たっても、その思いは変わらない。

「それにネギ先生。校内でその名前は禁止です。どこからバレるかわかりません」
「え? あ、はい、そうでしたね。気をつけます」

環から言われ、ネギはハッとして頷いた。

「この人は、私の姉。女性の御門勇です」
「そういうことです。ふぅ・・・」
「あ、あはは・・・」

断言する環と、その断言にまたヘコむ勇磨。
苦笑するしかないネギ。

「それじゃ勇さん環さん、こっちに来てください。ちょっとした手続きがありますので」
「わかりました」

ネギに伴われ、職員室へと消える2人。

その様子を3−A朝倉和美が見ていて、いち早く、クラス一同がその存在を知ることになる。
いざ紹介となったときには、大盛り上がりとなった。

「えっと・・・・・・御門勇です。よろしく・・・」
「本日からお世話になります、御門環です。よろしくお願いします」

「わー!」
「カワイイ〜♪」

黒板の前に並んだ2人に対し、3−A一同は総じて、拍手と笑顔で出迎えてくれた。
とりあえずは受け入れてもらえたようで、ホッとしたのも束の間。

転校生にはありがちな質問攻め一番手として、朝倉が勢いよく名乗り出る。

「確認するけど、勇さんのほうがお姉さんで、環さんのほうが妹なんだよね?」
「・・・そうですけど、何か?」
「ごめんごめん、そう怒らないでよ。他意は無いからさ」
「・・・・・・」

いきなりの失礼な問いに、勇磨はムッとして言い返した。
それは確かに、この身長差を見ては仕方が無いのかもしれないが、少しは察して欲しい。

「それじゃ本題ね。お二人さんの身長、体重、スリーサイズは?」
「へっ?」

このタイミングでソレを訊くのか。
普通は、趣味とか、特技とかではないのか?

そもそも自分は”男”であって、身長体重はまだしも、スリーサイズなどは念頭に無い。
昨日、下着を決める際に計ってもらったのだが、あまりにショックな出来事であったがために、
早くも失念してしまったようだった。

「身長は162センチですが、あとは秘密ということでお願いします」
「あ・・・・・・お、同じく、155センチで、あとは秘密っ!」

「えー」

予想だにしない質問にあたふたしていると、隣の環が先に答えてくれた。
それは模範解答と言ってよい出来であり、勇磨も彼女に倣ってそう答えた。

欲しい答えとは違ったことで、朝倉からは不満げな声が漏れる。

「ま、いっかー。いずれ白状してもらうわよ。この朝倉和美からは逃げられない!」
「・・・・・・」
「”麻帆良パパラッチ”の名は伊達じゃないんだから」

だが、すぐに気を取り直して、取り出していた手帳になにやら書き込むと、
挑発的な笑みを浮かべて向けてきた。

絶対にバレてはいけない秘密を抱える勇磨だけに、たらりと冷や汗が流れる。

「じゃあ次の質問いっくよ〜。えーと」
「あ、ずるい!」
「わたしも質問したーい!」
「交代、交代っ!」

朝倉が続けて質問しようとしたところで、非難轟々。
ほとんど全員が手を挙げ、殺到してしまい、収拾がつかなくなってしまう。

「み、みなさん! 質問は1人ずつ順番に――!」
「御門さんもネギ先生も困ってらっしゃるわ! いい加減にしなさいみなさん!」

ネギや、クラス委員長のあやかなどが静めようと奔走するが、
ついにそれは叶わず、質問攻めはほぼ無秩序状態で、時間が許す限り続けられた。

 

 

嵐の質問タイムが終わり、1時間目との合間のちょっとした休み時間。

「はぅぅ・・・」

自席で、机に突っ伏す勇磨。
隣では、そこまではいかないものの、環がため息を吐いている。

「女子校パワー、おそるべし・・・」
「私も、疲れました・・・」

どうしてああもパワフルなのか。
ひとのプライベートをガンガン訊いてくるのか。

身長、体重、スリーサイズに加えて、極めつけは、”経験”の有無である。
そんなこと、まともに答えられるわけが無い。

ノーコメントを貫いたのだが、しつこく尋ねまくり、勇磨が真っ赤になってしまったところで、
「カワイイ〜♪」と、また大騒ぎになったのである。
中には、環の趣味が読書だと知って、まともな質問をしてきた者もいたが、気が休まるどころの話ではない。

「これから先が思いやられる・・・」
「まあ、なるようにしかならないでしょう・・・」

と、小声で会話していると。

「・・・あ、よろしく、エヴァちゃん」

自分の右隣の席が、きのう会ったエヴァであることに気づいた。
1番後ろの列の席順が、廊下側から、エヴァ、勇磨、環である。

「”ちゃん”はやめろ。プッ・・・・・・くくくっ・・・・・・」
「笑わないで・・・・・・いや、気持ちは良くわかるんだけど・・・・・・」
「その格好・・・・・・言葉遣い・・・・・・ククク、こいつは傑作だ・・・!」
「そんな、腹を抱えて大笑いすることも無いじゃない・・・」

正体を知っているエヴァだけに、今の”勇”がおもしろおかしくてたまらないようだ。
腹を抱え、机をバンバンと叩きながら、笑い転げている。

さらなるダメージを負った勇磨は、また机に突っ伏してしまう。

「ククク・・・・・・まあ、好きにするがいい。私には関係の無いことだからな」
「はいはい、わかりましたよ・・・」
「くく・・・くはは・・・・・・ダメだ、笑いが止まらんっ・・・!」
「はぁぁ・・・」

深い深いため息をつく勇磨であるが、エヴァの前の席、こちらへ振り返っている茶々丸と目が合った。
茶々丸は「マスターがすいません」とばかりに頭を下げる。
ああいいよ、とジェスチャーを返すと、茶々丸はまたぺこっと頭を下げた。

 

 

このことが元で、休み時間には再び囲まれる。
いや、こんなエヴァとのやり取りが無かったとしても、転校生の宿命というヤツか。

「ねえねえ、御門さんのお姉さんのほうって、エヴァちゃんと仲良いの?」
「さっき話してたでしょ?」
「あんな大笑いしたエヴァちゃん、初めて見たよ!」
「元から知り合いだったとか?」
「いつ知り合ったの?」

「お・・・・・・わたしのことは勇でいいから・・・。
 それと、質問はひとつずつで・・・・・・答え切れない・・・・・・」

机の周りには、クラスメイトたちで一杯。

「読書が趣味だと仰っていましたが、どんな本を読まれるんです?」
「聞いてみたいですー・・・」
「シェイクスピアの中では何が好き? 教えてよっ」

「え、ええと・・・」

それは環も同様で。
元々あまり人付き合いの得意なほうではないので、反応に窮しているようだった。

 

 

生きている以上、避けては通れない道。
ソレ即ち、生理現象。

「ご、ごめん、ちょっとお手洗い!」

2時間目と3時間目の間の休み時間。
ついに勇磨は堪えきれなくなって、周りを取り巻いているクラスメイトを押しのけ、
トイレへと向かった。

その必死な後ろ姿に、クラスメイトたちはクスクス笑いを零していたとか。
さて、トイレへと向かった勇磨は。

「・・・そ、そうだった」

トイレの前へと辿り着いたものの、なぜだか固まっていた。
その視線は、女子トイレ、との表示に固定されている。

ここは女子校。
男子トイレが普通にあるわけが無い。
完璧に失念していた。

「あぅぅ・・・」

しかし、今の自分は”女”であるわけで。
気にすることは無い・・・・・・わけだが、そこはやはり、大いに気にしてしまうわけで。

(ええいっ、南無三っ!!)

迷っていても、催しているものは引っ込んでくれない。
なにより、トイレの前でこうやってウジウジしているのも、傍から見れば十二分に怪しい。
勇磨はついに覚悟を決めて、男にとっては禁断の聖域、女子トイレへと進入した。

「はあ〜っ・・・」

個室のひとつに駆け込み、バタンとドアを閉めたところで、
ようやく安堵の息をつく。

だが、そうも言っていられなかった。

(・・・・・・じょ、女子トイレ・・・)

自分の周りでは、今、見ず知らずの女子が用を足している。
そんなふうに思ってしまうと、興奮せずにはいられない。
悲しい男のサガ。

(うがああああああああ! 煩悩退散、煩悩退散っ、煩悩たいさーんっ!!)

どうにか気持ちを鎮める。
ひとつ用を足すのにコレでは、本当の本当に、先が思いやられた。

 

 

さらなる不幸が勇磨を襲う。

「御門さんたち、次は体育だよ。着替えに行かないと」
「え? ああ、うん・・・」

次の時間は体育とのこと。
クラスメイトたちは、ジャージへの着替えのため、更衣室へ向かって行く。

「・・・って、着替えっ!?」

今さらながらに気づいた現実。
更衣室、それは当然ながら、”女子”更衣室。

小学校までは、男女とも同じ教室で着替え、なんて光景も見られようが、
今は中学生。子供ではないのだ。

「たっ、たたたた環! どどど、どうしようっ・・・!?」
「お気持ちはわかりますが、落ち着いてください」

パニックになる勇磨とは対照的に、こうなることがわかっていた環は落ち着いていた。

「とりあえず、更衣室に行きましょう」
「ど、どうするんだよ・・・!」
「私がタオルを持ってガードしますから、その間に、パパッと着替えてしまってください」
「わ、わかった」
「無論・・・・・・他の方へ、視線を向けたりしないように。厳守をお願いします」
「う、うん・・・」

この状況じゃ、したくても出来ないよ、と思いつつ。
更衣室へと移動して入った。

瞬間――

「むはっ・・・!?」
「・・・姉さん?」

もわっと一気に来た、鼻を突くこの臭い。
なんともかぐわしい香りだった。

(ヤバ・・・・・・鼻血出そう・・・・・・!)

悲しいかな、勇磨もお年頃の男の子。
こればかりはどうにもならず、思わず天を仰いでしまった。

「何をしているんですか。早く着替えてくださいよ。遅れてしまいます」
「う、うん・・・・・・うぷぷっ・・・・・・」
「・・・? なんだかよくわかりませんが、ネクタイピン、忘れないようにしてくださいね」

そのあたりを理解していなさそうな環なので、説明しても無駄。
勇磨は、意を決してパッと着替え、ほうほうの体で飛び出していった。

 

 

 

 

そんなこんだで、環はともかく、勇磨の”勇”としての編入1日目は、散々な1日だった。

 

 

 

 

3時間目へ続く

 

 

 

 

 

 

 

 

<あとがき>

あれ? エヴァフラグは?

消滅?(爆)

 

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