魔 法先生ネギま!

〜ある”姉”妹の乱入〜

7時間目 「前哨戦! その3」

 

 

 

 

 

 

「・・・雨?」
「降ってきましたね」

駅ビルから出てみると、雨が降り出していた。
上空を見上げると、一面が黒い雲で覆われている。

「西から、お天気は下り坂だと言っていました」

出かける前に、テレビで得た情報を環が伝える。

東京では、今夜あたりから雨だそうだが、ここは京都。
無論、西にある分、天気が変わるのは早い。

「やべ、カサ持ってきたっけ?」
「折りたたみなら、リュックに入っています」
「そうか。さすが、準備がいいな」
「当然のことですよ」

早速、背負っていたリュックを下ろし、中から折りたたみ傘を取り出す勇磨。
すでに出し終えて、開く準備にかかっている環は、白い目を向ける。

「ご自分の荷物の中身くらい、事前に確認されてはいかがですか」
「ま、まあいいじゃないか。おまえが用意してくれたんなら、間違いは無いと思うし」
「まったく・・・」

「勇磨さん・・・。自分の分くらい、自分で準備しましょうよ」

ネギにも苦笑されてしまった。
勇磨は、ほのかに赤くなって

「あははは・・・。ほ、ほら、早く行こうぜ!」

笑ってごまかし、カサを広げて、さっさと行ってしまった。

「ふぅ・・・」
「・・・大変ですね、環さん」
「おわかりいただけますか、ネギ先生」

そんな様子を見て、深々とため息をつく環。
思わず労いの言葉をかけてしまうネギだった。

「中学3年にもなって・・・・・・小さい頃から何一つ変わっていないんです・・・・・・」
「あはは・・・」

環は濃い哀愁の色を漂わせている。
いろいろ苦労してるんだろうなあと思いつつ、かけるべき言葉の見つからないネギだった。

 

 

 

 

バスを何本か乗り継いで、目的地の『西の総本山』とやらに向かう。
最後のバスを降りると、そこからは徒歩だ。

かなり山奥へとやってきたようで、周囲には、人っ子一人見当たらない。
降りしきる雨の中、3人は歩き出した。

「せっかく京都に来たってのに、何も出来ない、何も見れないっていうのは残念だぜ」
「仕方ないよカモ君」

人がいなくなったので、ネギの肩に乗っているカモも、再び喋り始める。

「お仕事なんだから」
「それにしたってよー」

「まずは、親書を渡すことです」

ネギから諭されていると、環からこんな話が。

「親書さえ渡してしまえば、私たちの任務はそこでお終いです。
 帰りの新幹線は18時過ぎですし、普通に考えれば、5、6時間程度は空くはず」
「・・・と、いうことは?」
「任務を終えさえすれば、時間が許す限り、好きにしていいということでしょう。
 学園長のご配慮でしょうね。ですから、早く終わらせれば終わらせるほど、
 自由に出来る時間が増える、ということになりますね」

「聞いたか兄貴!」
「うん、しっかり聞いた!」

これには、ネギとカモが、俄然張り切った。

「さっさと終わらせて、祇園に繰り出そうぜ兄貴、祇園に!」
「僕はそれよりも、金閣寺とか銀閣寺とか、清水寺とか、いっぱい見て回りたいよ!
 なんといっても京都、日本の心だからね!」

やはり外国生まれの人間にしてみれば、京都というのは、底知れない魅力に溢れているものらしい。
目を輝かせながら話しているのを見ると、自然にそんなことを思う。

「はは、かわいいもんだな」
「そうですね」

ネギとカモが、楽しそうに話している様を見て、勇磨と環も顔をほころばせる。

「10歳で教師なんかやってるというから、どんだけ浮世離れした天才児なんだと思ったけど、
 なんてことはない。普通の10歳だな」
「まあ、10歳で教師、しかも聞くところによると、なんでも魔法学校を首席で出ているそうですから、
 少なくとも世間一般で言う『普通』とは、かけ離れていますけどね」

おまけに、『魔法』というものの存在だ。
それだけで充分普通ではないが、ネギの場合、普通ではない要素がいくつもある。

このような年齢相応の一面を見せられると、なんだか安心した。

「やっぱりゲイシャだぜ、ゲイシャガール!」
「二条城にも行ってみたいし、少し足を伸ばして、比叡山とか、宇治の平等院とかもいいなあ。
 ああっ、いっぱいありすぎて目移りしちゃう・・・」

鼻息を荒くして、そう繰り返すカモ。
そしていつのまにやら、総本山への地図から、夕べのうちに買ったのであろう京都のガイドブックに
持ち替えていたネギが、う〜んと唸っている。

「いいですか勇磨さん環さん!?」
「あ、ああ、まあ落ち着いてネギ先生」

前を歩いているネギが、鬼気迫る勢いで振り返ってきた。
気持ちはわかるが、『どうどう』である。

「いくら早く終わったって、今日だけじゃそんなに回れないよ」
「そ、そうか・・・」
「それに、そういう有名どころはさ、修学旅行の本番で行くんだろうし」
「あ、考えてみれば、そうですね・・・」

ネギが挙げた場所は、修学旅行なら必ず訪れると言って良いよいところばかりだ。
むしろ見学コースから外れるほうが稀であり、その心配は無い。

「だから、そういうとこは後日の楽しみにしておいて、今日はさ。
 本番の際には行けないような、ちょっとマイナーな所に行ってみるってのがいいんじゃない?」
「おお、勇磨の兄貴の言うとおりだぜ! オレたちだけ役得だな!」
「わかりました! じゃあ、どこがいいですかね・・・?」
「そうだな、ちょっとガイドブック見せてもらえる?」
「はい、どうぞ」

「・・・兄さん。ネギ先生とカモさんも」

挙句には、勇磨まで一緒になって、今日これから行く場所を吟味し始める始末。
再び大きなため息をついた環は、ジト目を向けながら、低い声を放った。

「くれぐれも、まずはお仕事。『任務』だということをお忘れなく##」
「は、はい・・・」
「失礼しました・・・」
「おう・・・」

凍るような視線に貫かれた3人は、総じてすくんでしまう。
カモなどは、内心「こ、こえ〜・・・」と思ってしまっているほどである。

 

 

 

 

バス停から、どれぐらい歩いただろうか。

目の前には大きな鳥居、山中に向かって続く階段が現れた。
鳥居や、脇に立つ石柱には『R毘古社』と刻まれている。

「ここが、関西・・・なんたらの総本山?」
「関西呪術協会、です兄さん。確かですか、ネギ先生」
「はい、預かった地図にはそのように。この先みたいです」

渡された地図の記載とも符合する。
間違いは無さそうだ。

「・・・・・・」

なんだか、呆気なく到着してしまった。

必ず妨害があるだろうと踏んだのは、深読みしすぎだったのだろうか?
それとも、こちらの早期な動きに対して、対処できなかったのだろうか?

・・・まあいいではないか。
妨害が無いなら無いに越したことは無いし、進んで厄介事を望んでいるわけでもない。

「それじゃあ、行――」

「・・・!!」
「ネギ先生!」

ネギが宣言しかけたところで、御門兄妹が何かに気づいた。
彼を抱えて、それまで立っていた場所から大きく飛び退く。

直後、その場所には、幾重もの、鋭い刃状の物体が降り注いだ。
それは水分で出来ていたようで、地面に接触すると、ぱしゃっと水に還った。

「え・・・・・・」
「水で出来た槍・・・? 魔法か!?」

ネギは呆然とし、まだ状況を理解できていない。
反対にカモは、突然の攻撃の正体を、冷静に見極めた。

「何者だ!」
「姿を見せなさい!」

勇磨と環も、カモと同じ。
即座に体勢を整えると、何者かに向かって叫んだ。

すると・・・

なんと、正面にあるひとつの水溜りから、学生服を着た白髪の少年が、
文字通り、水面から浮かび上がってきたではないか!

「なっ・・・!」
「水を使ったゲート・・・! 転移魔法だ、かなり高度な術だぜ!」

魔法の知識が無い2人は驚いてしまうが、カモは引き続き、相手の術を見極める。
水を媒介とした移動手段のようで、魔法を使えば、そのようなことも可能らしい。

「とんでもないな、魔法使いってのは」
「敵・・・のようですね。『西』側の刺客、といったところですか」

カモのおかげで、御門兄妹も冷静さを取り戻す。
少年の素性は不明であるが、敵であるとの認識に間違いはあるまい。

「君たちを、これ以上、先に進ませるわけにはいかない」

対峙する少年は、ひとこと、それだけ口に出して。

ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト

即座に詠唱を開始した。

「な、詠唱だと!? こいつ、西洋魔術師・・・!」
「なーに、『東』にもこうして、魔法使いがいるわけだ」
「『西』にいたとしても、不思議はありませんね」

今度は先ほどとは反対に、カモは驚きふためいて。
勇磨と環のほうが冷静である。

石化の邪眼!!

「・・・!」

その間に少年の詠唱が完了し、魔法を撃ってきた。
彼の手から伸びる光線が、薙ぎ払うようにして襲い掛かる。

だが、正面から、なんの策も無しに撃ってもなかなか当たらない。
もちろん、再度ネギを抱え、大きく飛び退いて回避した。

「まあ、お約束な展開だな」
「率直に言って、ただで通してくれるわけが無いぜ。兄貴!」
「う、うん・・・。こうなったら、戦うしか・・・!」

ようやくにしてネギも我に返り、杖を構えて戦闘態勢に入ろうとする。
しかし

「お待ちを」
「環?」
「環さん?」

出て行こうとする2人を、環は手を出して制止させた。
そして、自分はというと、一歩二歩と歩み出る。

「私たちの任務は、あくまで親書を渡すこと。
 要は、西の長に会って、渡すことさえ出来ればいいわけです」

こちらに振り返ることはせず、視線をあの少年に固定したまま、環は続けた。

「行ってください。ここは私が引き受けます」

「そんなっ、僕たちも一緒に――」
「わかった。任せたぞ」
「――え・・・・・・勇磨さん!? わっ!」

ネギはそう言われても、自分も一緒に戦うと譲らないが、
いち早く勇磨は頷いて、ネギを抱え、くるっと環に背を向けて走り出してしまう。

2段抜かしで、階段を駆け上がる。

「ちょっ・・・・・・離してください勇磨さん! 環さんが・・・!」
「大丈夫だよ」

ジタバタもがくネギを、どうにかなだめる勇磨。

「あいつは強い。下手をしたら、というか、普通に俺よりも、ね」
「・・・・・・」

紡いだのは一言だけだったが、説得力は抜群だったようで。
以降、ネギは暴れなくなった。

 

 

 

 

1人残った環は、走り去って行く勇磨たちを気配で感じつつ、やはり振り返りはしない。
鋭い視線を例の少年に向けたまま。

「断固阻止すると思いましたが、意外にすんなり通したものですね?」
「・・・・・・」
「だんまりですか」

先へは進ませないと言っていたわりには、勇磨たちを行かせてしまった少年。
尋ねてみても返事は無かったが、想像はつく。

「大方、他にも人間がいるといった具合でしょうね。
 まあそうでしょう。たった1人で出てくるような、愚かな真似はしないでしょうから」
「・・・・・・」
「相変わらず無口なことで。やる気だけはあるようですが」

引き続き、少年は黙秘を続けている。
だが、退く気の無いであろうことは、再び彼が凝縮し始めた魔力を見れば明らかだ。

「出来れば、私も兄さんたちに早く追いつきたいので、さっさと済ませましょう」
「・・・・・・」

環も、すでに臨戦態勢。

2人の気迫に押されたか、強い勢いで降っていた雨が、ここにきて極端に弱まった。
一瞬の静寂。

水妖陣

「・・・!」

少年がパチンと指を鳴らすと、周囲から無数の手が伸びてきた。
その出所は、雨によって形作られた、数々の水溜りである。

「どうやら、水の扱いに長けた能力者のようですね。しかし、悲しいかな・・・」

環は慌てるどころか、余裕たっぷりで。
それもそのはず。

 

ボッ、ボッ、ボッ、ボッ、ボッ、ボッ、ボッ、ボッ、ボッ!!

 

即座に9つの火球を創り出し、カウンター気味に水の手に向けて放った。
直撃を受けた水の手は、炎の勢いに負け、瞬間的に蒸発、消滅する。
これを連続して繰り返し、数瞬のうちには、すべての水の手を掻き消したのである。

「私には通じませんよ。なぜなら・・・」

 

ボォッ・・・!!

 

「私はあなたとは逆に、炎の扱いに慣れているからです」

環は微笑すら浮かべて、今さっきの火の玉とは比べ物にならない、
巨大な炎の塊を創り出して見せた。
燃え盛る火炎の勢いは凄まじく、自分で創り出したものとはいえ、近くにいるのに熱がらないのが不思議なくらいだ。

「・・・・・・」

少年は、無言を続けていたが。

「詠唱をしなかったね。・・・無詠唱魔法?」

表情を変えないまま、いや、やや不思議そうにしているか。
そのように尋ねてきた。

「だとすると、相当な使い手だね。自信があるのも頷ける」

環にはわからないが、魔法を強力にするには、どうしても詠唱が必要だ。
威力のある魔法ほど、詠唱も長いのが普通である。

無詠唱で発動させることも可能だが、その分、威力は落ちる。
それなりのスキルも必要で、だからこそ、無詠唱魔法の使い手は数が少なく、重宝される。

「勘違いされているようですね」
「・・・?」

だが、少年はミスを犯していた。
フッと笑みを浮かべた環は、その間違いを指摘してやる。

「聞いていれば、あなたは私のことを、魔法使いだと思われているようですが」
「・・・・・・」
「私は魔法使いではありませんよ。それこそ、魔法の”ま”の字も知りません」
「・・・・・・」

少年は再び無言。
環の言葉の真意を、測りかねているのだろうか。

「けれども、こうして・・・」

1つの大きな塊だった炎が、9つに分裂。
彼女の周囲でくるくると回り始めた。
さらには、環が指先を動かすのと同時に、それぞれの炎が違った動きを見せる。

「炎を自由自在に操ることが出来ます。さて、なぜでしょうね?」
「・・・そういえば、魔力を感じない」

ジッと環を見つめる少年。
この場面では、睨みつけているというほうが正しいかもしれない。

「どういうことかな?」
「フフ、気になりますか?」
「・・・・・・」

挑発的な視線を向けられ、少年はまた口をつぐんでしまう。
そんな様子に、環は、ふっと笑みを漏らした。

「失礼、どうでもいいことでしたね」
「・・・・・・」
「この先にいると思われるあなたのお仲間とやらが、どれほどの使い手かはわかりませんが。
 今の私に課せられた役目は、親書が長の手に渡るまで、あなたを引き付けておくことです」
「・・・・・・」
「そのときまでなら、延々、戦い続けることも厭いませんよ。
 あなたのほうが持つのならば、ですが。フフフ・・・」

環の、見る者を震え上がらせるような冷たい笑み。
もちろん、少年は表情ひとつ変えないが、何を思っているか。

「さあ、いらっしゃい。『炎術』の真髄というものを、ご覧に入れましょう」

 

 

 

 

8時間目へ続く

 

 

 

 

 

 

 

 

<あとがき>

本山入口まで到着!

ここからが真の意味での本番ですね。
環VS少年の行方、そして、親書の行く末は、いかに?

 

以下、Web拍手返信です。
拍手していただいている皆様、本当にありがとうございます!

 

>いつも更新楽しみです!兄弟はねた切れですかwこれからも楽しみに待たせてもらいます

兄弟のほうは・・・・・・外伝はともかく、本編が・・・・・・
いい加減、何か始めないとまずいんですが、麻帆良祭がね・・・
しかも、18巻のあの引き際はナンですか! これじゃ手出しできません・・・

>クラスの為に頑張っているのに、不信感を募らせる結果になっている事に合掌

まるっきり逆効果になってますね〜。
さあ、どうなりますやら。

>ここで刹那達がどう動くのかが楽しみです
>執筆頑張ってください!!

とりあえず、勇磨たちの結果待ちでしょう。
帰ってきたあと、どういうアクションを起こすか・・・

 

 

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