魔 法先生ネギま!

〜ある”姉”妹の乱入〜

8時間目 「前哨戦! その4」

 

 

 

 

 

 

ゴォッ!!

 

その瞬間まで少年のいた場所に、複数の火炎が殺到した。

ひとつひとつでもそれなりの大きさだった炎は、着弾した瞬間に膨れ上がり、
それぞれがかけ合わさって、高さ数メートルに達する火柱を吹き上げる。

例の少年は、炎に飲み込まれたかと思われたが。

「・・・む?」

炎が消えてみると、そこに、少年がいたという痕跡は無かった。
ただ単に、雨で濡れていた地面を乾かし、焦がしたに過ぎない。

「そういえば先ほど、カモさんが、水を使った転移魔法だと仰っていましたね」

直撃するその瞬間まで、少年が動いた、避けたという形跡も無かった。
だからこそ、命中を半ば確信していたのだが、彼には”他の”移動手段があったのだ。

一瞬の間に、水を使ったゲートとやらで、どこかに移動したのだろう。

周囲は先ほどから断続的な雨。
至るところが濡れており、出入り口には困らないはずだ。

「ならば・・・」

環の身体から、不可視のオーラが吹き上がり、長い髪が揺れる。
それと共に、彼女の周りには再び複数の炎塊が出現。

「あたり一面、焼き尽くしてあげましょう!」

 

ゴオォッ!!

 

環の合図で、炎は周囲へと広がり。
地面を多い尽くすように展開し、水分を蒸発させていく。

周囲は山林だが、器用にも、生えている植物や木々には一切のダメージを与えず、
ギリギリのところを熱して、水分だけを取り去る。

もちろんすべてを蒸発させることなど不可能だが、これにて、
環から半径20メートルほどの範囲は、完全に乾ききった。
その外側のどこかからか攻撃があったとしても、これくらいの距離があれば、充分に対処できる。

「さあ、どこから出てくるんです?」

雨は今も降り続いているものの、この熱気では、新たな水溜りを形成するには至らない。
降ったそばから、地表へ達する前に、炎によって水蒸気へ還らされる。

あの少年は、姿を消して奇襲を狙ったのだろうが、この状況では、
てぐすね引いて待ち構えているところへあえて飛び込むか、このまま撤退するかの二択。

どちらも望むところだが・・・

「・・・・・・・・・」

慎重に周囲の気配を探る環。
術を展開するのも無論”タダ”ではないので、出来れば早くしてもらいたい。

「・・・来ない気ですか?」

1分、2分が過ぎて。
3分が経過しても、少年が再び来襲してくる様子が無い。

もしかしたら、本当に撤退したのではないか?
いや、まさか・・・

「もしや、兄さんたちのほうへ・・・?」

炎によって水分が存在しないのは、あくまで環の周囲半径20メートルの範囲だけ。
それ以外の場所は、もちろんこれまでの雨や降り続いている雨によって、すべてが濡れている。

つまり、先へ進んだ勇磨たちのほうへ、矛先を変えて向かったことも否定できないわけだ。

「・・・・・・」

転移して移動できる距離が不明なので、可能かどうかはわからない。
だが、可能性があることも事実。

「・・・・・・・・・」

僅かながらも、環の顔が険しくなる。
向こうの戦況が気になるのももちろんだが、戦いを放棄されたことに対する呆れ、怒り。

環といえど、完璧ではない。
感情を持つ生き物である以上、2つ以上のことに同時に気を配れる程度には、限界がある。
一方に傾倒すれば、もう一方は自ずと疎かになる。

展開している炎術が、そんな彼女の心境を如実に反映し、
ほんの少しではあったが、勢いを弱めてしまったのはその直後のこと。

そして・・・

「油断したね」

「・・・!?」

少年が姿を現したのも、直後の出来事だった。
なんと彼は、頭上から襲ってきたのだ。

「僕は、水分がほんの僅かでもあれば、移動できる」
「・・・まさか、上空の雨粒から!?」

それは、まったくの考慮の外だった。
地表からではなく、降ってくる雨粒から直接、出現するとは・・・

「根気比べも、僕の勝ちみたいだ」
「く・・・」

上から放たれた魔力弾を、環は後ろに飛んで回避。
その間に、少年も地面に降りた。

炎だが、環が少年の出現に気づいた時点で集中が途切れ、すべて消滅している。

「だからといって・・・」

が、ここで環も我に返り、冷静さを取り戻した。
即座に戦闘態勢を整える。

「戦い自体の勝利には直結しませんよ!
 むしろ、姿を現してくれたのなら、私のほうが有利」
「どうかな?」
「っ・・・!」

しかし、ここでもう1度、環にとっての誤算が生じる。

「いくよ」
「自分から向かってくるとは・・・」

少年から仕掛けてきたのだ。
しかも肉弾戦を。

これには、誤算と言うより、驚かされた。

カモの話や、先ほどまでの様子から推測するに、少年は魔法使い、西洋魔術師のはず。
一般的なイメージとして、魔法使いとは、後ろに控えて魔法を放つ、というものだ。
積極的に前へと出てくるものでは無い。

以前、勇磨が夢中になってやっていたRPGゲームというものを、脇から眺めていたことがあるが、
ゲーム中での魔法使いもひ弱なイメージで、勇磨も隊列の最後方にしていた。

肉体的には普通の人間とさして違わず、攻撃力や守備力も1番低い。
それが魔法使いというものの相場だ。

ゲームの話はさて置き。
誤算だからといって、悪いことばかりでもなかった。

なぜなら、少年が挑んできた肉弾戦こそ、環がもっとも得意とする状況だからだ。

「愚かな・・・」

突っ込んでくる少年を、余裕で迎え撃つ。

魔法使いの非力な腕力などタカが知れている。
ところが、思い込みに過ぎず、大きな間違いだったことが判明する。

 

ゴッ

 

「・・・!」

繰り出されてきた拳をガードした瞬間、見識違いだったことに、イヤでも気づかされた。

(重い・・・!)

少年のパンチが、想像した以上に重く、威力がある。
とてもとても、ゲーム中での非力なイメージなどではない。

「どうしたの?」
「くっ・・・」

無表情で問いかけてくることで、余計に焦らされる。

(一撃一撃が重い上に、速さもある・・・)

スピードも速く、現状では防御するのが精一杯なくらいだ。
ガードしている腕が痺れてくるくらい重く、なおかつ速い攻撃。

(見込み違いを起こすとは、私もまだまだ・・・・・・っく)

後退を余儀なくされる環。
次第に追い詰められて。

「・・・!!」

背中に何かが当たる感触。
ハッとして後ろを見てみると、階段の入口に立っていた石柱があった。

「もう逃げられないよ」
「!」

ここぞとばかり、拳に魔力を集中する少年。
満を持して攻撃を放った。

 

「がっ・・・!」

 

その一撃は、ついに環のガードを弾き飛ばし、直接入った。
苦しそうな声が環から漏れる。

どれほど強烈な一撃だったか。

 

ピシッ・・・・・・ピシピシ・・・ッ・・・!

 

ドォン!!

 

数秒後、無数の亀裂が走り、砕け散ってしまった石柱を見ればおわかりだろう。
膨大な衝撃が環どころか、環が背にしていた石柱にも伝わり、木っ端微塵に粉砕してしまったのだ。

「大口を叩いていたわりには、たいしたことなかったね」
「・・・・・・」
「これで終わりだよ」

俯いてしまった環に対し、少年はとどめを刺すべく、再び魔力を拳に集める。
微動だにしない環。

本当にこれでおしまいなのか?

 

キラッ

 

そんなはずはない。

「・・・?」

少年が気づいた、一瞬ではあったが、環から生じた黄金色の輝き。
それは、数瞬の後には

 

ドォンッ!!

 

「・・・!!」

巨大な奔流となって、少年を吹き飛ばした。
もちろんこれでダメージを負う少年ではなく、くるりと回転して着地したが。

「その力は・・・」

相変わらずの無表情、抑揚の無い口調。
だが、確実に、驚いているであろう様子で。

「何をした?」

と問いかける。
尋ねられた、質問内容の張本人に当たる環のほうは。

「油断・・・・・・そうですね」

黄金の輝きに包まれながら、ゆっくりと顔を上げた。
髪の毛、瞳の色が、ゴールドに変わっている。

「見くびっていたのは確かなようです。失礼しました」
「・・・・・・」

また、普段の清楚な感じの環からは想像できない、生々しく妖艶な雰囲気に溢れ。
見る者をひと目で冷たく凍えさせる瞳へと、変貌を遂げていた。

その視線に射抜かれると、少年といえども、思わず身体を硬直させる。
それほどの殺気と、迫力だった。

「これからが本領ですよ。フフフ・・・」
「・・・・・・」

妖しく舌なめずりする環の視線は、少年を捉えて離さない。

 

 

 

 

一方で、環と別れた勇磨とネギは、奥へと伸びる一本道を駆け抜ける。

重ねて言うが、今回の任務は、関西呪術協会の長に、関東魔法協会からの親書を渡すことだ。
親書が長の手に渡れば、戦いの経過がどうあれ、自分たちの勝ち。渡らなければ敗北である。

「環さんは大丈夫でしょうか・・・」
「大丈夫だって」

走りながら、ネギはなおも、1人残った環を心配している。
対照的に、実の兄である勇磨のほうは、飄々としていた。

「さっきも言ったけど、あいつは俺なんかよりよっぽど強い。
 よほどのことが無い限り、いや、あったとしても、大丈夫さ」
「はい・・・」
「兄貴ぃ。あれこれ考え過ぎて、悩みすぎるのは兄貴の悪い癖だぜ」

「ネギ先生。カモ君の言うとおりだ。
 環を心配してもらえるのはうれしいけど、自分のことも考えよう」

現状で、直接戦闘に及んでいるのは環のみだが、
今この瞬間にも、自分たちも戦闘行為に入るかもしれないのだ。

「ああして襲ってきたんだ。いつどこから敵が現れてもおかしくはない」
「そ、そうですね」
「いま君が考えるべきなのは、環のことじゃなくて、自分の身に降りかかるであろう事態のこと。
 もう覚悟は充分か? 準備は出来ているか?」
「・・・・・・」

言葉は悪いが、他人の心配をしている余裕などは無いはずだ。
ネギのように幼ければ、拍車がかかっているはず。

気持ちを引き締めようと図る勇磨の問いに、即答できない様子が、それを物語っている。

「・・・正直、よくわかりません」

ネギは少し考えて、表情に陰を落としてそう答えた。

「僕、魔法をある程度は使えるようになりましたが、すべて机上でのことなんです。
 実戦経験といいますか、本当の戦いというのは、ほとんど経験が無くて・・・」
「つまり、これが実戦デビューってワケだね?」
「そう・・・なります」
「そっか。なら、硬くなっちゃうのも仕方ないかもしれない」

弱冠10歳にして、こんなことを気にするのもどうかと思うが。
現実として、戦いは目の前に迫っているわけだから、問題である。

「まあ、あーだこーだ言う前に、だ」
「え?」

ニカッ、と笑顔を向ける勇磨。
あまりに場に似つかしくない笑みだったので、ネギは呆気にとられた。

「やる前から悩んでもしょうがないし。
 どうしよう、どうするか、じゃない。今の自分に何が出来るか、だよ」
「今・・・・・・何が、出来るか・・・・・・」

勇磨から言われた言葉を反芻するように、何かを考えるネギ。
数秒ののち、吹っ切れたような顔を見せることになる。

「わかりました!」
「お? 元気出た?」
「はい! どこまで出来るかわかりませんけど、精一杯がんばります!」
「よし、その意気だ」

ネギも良い笑顔を見せる。

勇磨のことだから、あまり深い考えのもとでの言葉ではないのだろうが、
少なくとも、ネギの緊張を取り去ることには成功したようだ。

「勇磨兄さん、あんたやるな。兄貴を一発で納得させるなんて」
「それほどでも」

ホッと一安心したのも束の間。

「先生、止まれ!」
「えっ? は、はい!」

急に、停止するよう要求する勇磨。
慌てて足を止めるネギ。

「おいでなすった」
「え・・・? ど、どこに・・・・・・」

「どうも〜〜〜〜〜」

どうやら敵襲のようだ。
ネギはまだ察知できていないようで、オロオロと周りを見ていると。

右の竹林から、驚くほど暢気な声を発しながら、彼女は現れた。

「おはつにおめにかかります〜。神鳴流ですぅ〜〜〜〜〜♪」

小柄な女の子だ。しかもメガネをかけ、フリフリの服、いわゆるゴスロリファッションと呼ばれるいでたち。
両手に刀を持ってはいるが、とても敵だと、戦士だとは思えない人物である。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

だから、勇磨もネギも、最初は己の目を疑ったに違いない。

「ウチは月詠といいますぅ〜。ここから先に通すわけにはいきませんので、よろしゅう〜♪」

間延びする独特な喋り方も、素晴らしく戦意を削いでくれる。

「て・・・敵ですか」
「・・・みたいだねぇ。そうは思えないけど、ああ言ってるわけだし」
「おそろしくかわいげのある敵だな・・・」

たじろいでしまうのも当然。
カモなどは、違う意味で恐ろしいと言っている。

「よ〜し・・・」
「待ったネギ先生」
「え・・・」

改めて、彼女のことを自分たちの行動を阻害する敵だと認定したネギ。
先ほど示した気概を証明する意味でも、意気込んで杖を構えようとしたのだが、
再び勇磨によって止められた。

「ど、どうして止めるんですか? ここは僕が――」
「ついさっき教えたばかりじゃないか。『今、自分に出来ること』が大切だって」
「・・・・・・」

勇磨が言うには。

「親書を持っているのはネギ先生。だから先生はこのまま、西の長さんのところへ向かう。
 俺はこの場に残って、彼女と戦う。オーケー?」

この場を引き受けるのは自分の役目で、ネギは前へと突っ走れと。
先ほどの環といい、明確な役割分担。

「で、でも・・・!」
「議論している時間は無い。俺が突っ込むのと同時に、君も行け」
「・・・・・・」
「いいね? 親書を頼んだよ」
「はい!」

納得しかねるネギだったが、勇磨の話が効いているのか、すぐに納得顔になって。
それ以上に、やる気に満ち溢れた精悍な顔つきとなって、力強く頷いた。

「2人とも通しまへんえ〜〜〜♪」

「残念ながら、おまえの相手は俺がするんで、ネギ先生には先へ進んでもらう。
 行くぞネギ先生!」
「はいっ!」

勇磨は背負っていた竹刀入れから、素早く愛刀を取り出し。
腰に構えると、前方に陣取る月詠に向けて、猛然とダッシュ。

ワンテンポ遅れて、ネギも駆け出した。

「せえ!」
「っわ、やりますなあ」

月詠に接近し、間合いに入るのと同時に抜刀。
凄まじい剣速の一撃は、月詠でも二刀を使って防ぐのがやっとのようだった。

「行ってきます!」
「ああ!」

「あ〜、待っ――」
「させん!」
「そ、そないに押さないでください〜〜〜」

勇磨と月詠が鍔迫り合いを演じている隙に、ネギは2人の横を駆け抜ける。
阻止しようとする月詠だが、さらに押し込まれて、ネギを止めることは出来なかった。

「行っちゃったな」
「はあ、行っちゃいました〜。あかん、怒られる〜〜〜」
「今回のことは、個人の責任というより、俺たちの行動を予見できなかった全体の責任じゃないか?」

そのままの体勢で、ニヤリと笑みを向ける勇磨。
刀を挟んだ向こう側、月詠の表情は、本気で困惑しているというか。
本当に、こんな少女がなぜ、という思いがしないでもない。

「なんにせよ、ネギ先生を追わせるわけにはいかない。
 しばらく俺に付き合ってもらおうか、神鳴流とやらの剣士さん?」
「・・・・・・」

神鳴流という流派が、どのような剣を使うのか、情報がまったく無いので無理もなかったが。
勇磨にしてみれば、時間稼ぎをするくらいなら、充分事足りるという確固たる自信のもとでの発言だった。

 

 

 

 

9時間目へ続く

 

 

 

 

 

 

 

 

<あとがき>

水使いの少年・・・ってか、もう名前隠す意味ないですね。
フェイトに続いて月詠さんも登場!
任せっきりというのも不安でしょうから、千草が慌てて手配したというところでしょうか。

前哨戦もクライマックスを迎えようとしています。
当の千草自身はどう出てくるか・・・

以下、Web拍手返信です。
拍手していただいている皆様、本当にありがとうございます!

『兄妹』でいただいた拍手の返信も、次回作が出来ていないので、
こちらで返信いたします。

 

>フェイトVS環・・・どんな勝負を見せてくれるのか楽しみです

こんなん出ました。
まあ前哨戦なので、適当なところで切り上げてもらいましょう(爆)

>更新お疲れ様です。ん〜ここでいろんなやつらとやりあってたら修学旅行が恐ろしい・・・(笑)

そうかも・・・(汗)
でも、ここでドンパチやったから、修学旅行ではかえって規模縮小かな?

 

>本編も頑張ってくださいね〜応援してますbb

本編のほうはどうにも・・・(汗)
これから19巻読んできます・・・

>久しぶりに投稿されたのですんごく楽しいです!

久しぶりになってしまい、本当に申し訳ありません。
相変わらず、次回は未定です・・・

>魔法生徒はともかく、魔法先生まで撃墜できたら・・・画面の向こうで大爆笑するかも

魔法先生・・・?
と、刀子さんか!? それとも、しずな先生!?Σ( ̄□ ̄;)

>では愛衣と王子様ネタでw

愛衣も・・・・・・愛衣までも毒牙にかけろと仰るのか!w

>さすがツンデレの高音さん!by烙印

高音は極上のツンデレだZE!
容姿的には、ど真ん中なんだZE!

>高音までもが・・・勇磨恐ろしい子!

本人無自覚ですからさらに恐ろしい・・・

 

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