魔 法先生ネギま!
〜ある”姉”妹の乱入〜
9時間目 「前哨戦! その5」
環と勇磨が、己の身を賭けて切り開いてくれた道を、1人行く。
「勇磨さん環さん。必ず、僕が親書を渡します!」
下手をしたら大怪我、あるいは、それ以上の事態になるかもしれない。
なのに、進んであの場に残り、自分を先に行かせてくれた。
なんとしてでも、その犠牲心と、信頼に応えねばならない。
自ずと力がみなぎり、前進するスピードも増して行く。
「兄貴! もう敵はいないんかな?」
「わからない・・・」
これまでのところ、自分たちを阻止するためにやってきた敵は、2人だけだ。
協会という組織があるくらいだから、構成員はそれなりの人数だろう。
それを考えると、出張ってきた人間の数が、驚くほど少ないということになる。
少数精鋭ということなのか、それとも、本当に動ける余裕が無いのか。
いやそもそも、ここは西の総本山なのだ。
わざわざ向かっていかずとも、やってくるのを待っていればいいわけで、
現れたところを迎撃すればいいわけだ。
ということは、この先、敵の大軍が準備を整えて待っている、ということも考えられる。
よくよく考えてみると、むしろ、その可能性のほうが大きいような気がしてきた。
「・・・いやカモ君。もしかすると、大勢いるのかもしれない」
「そういやそうだな。この先は敵の総本山なわけだし・・・
ってぇことは兄貴! オレたちは・・・」
「そう・・・。罠に飛び込むようなものなのかもね」
ハッとするカモだが、ネギは逆に、表情に覇気が溢れている。
覚悟完了、といったところだろうか。
「でも、長さんに親書を渡すには、僕たちは飛び込むしかないよ」
「むぅ・・・・・・総出で出迎えられたりしたら厄介だぜ」
「それはないんじゃないかな? 日本には”ブシドー”っていうのがあるって聞いたよ。
僕たちは東から来た特使だから、会うだけ会ってくれるんじゃないかな?」
遣わされた使者と会わず、力ずくで追い払うというのは、礼節に欠ける恥ずべき行為だ。
少なくとも、西洋の『騎士道精神』ではそう思われているはずで、日本の騎士道たる武士道も、
おそらくは同じだと思う。
「・・・そう上手く運べばいいんだがな」
う〜んと唸るカモ。
こうなった以上、体裁などを気にするだろうか?
仮にトップが会うと言っても、強硬派が力を持っている場合、末端までその指示が伝わらないのではないか。
今まで、組織立った動きが見られないだけに、どうにも後者なような気がしてならない。
『組織』として、東からの使者の京都入りを断固阻止という結論に達しているのなら、
ここまでちぐはぐな動きはしていないはずだ。
少数を、しかも逐次投入するような真似はせず、大戦力をもって、一気に決着を図るだろう。
そうしていないのだから、つまり、拒否の意向を持っているのはあくまで一部で、
強硬派とも呼べるその連中だけが、暴走しているだけではないのか?
「なんとかなるよカモ君。なんとかしなきゃいけないんだ」
「そうだな」
「できるものなら、やってみておくんなはれ♪」
「・・・!」
う〜んと唸るカモに、ネギがこう声をかけ、とりあえずの意思統一が出来た瞬間である。
怪しげな女の声が聞こえてきて、ネギは思わず足を止めた。
「だ、誰ですか? どこにいるんです!」
「西のヤツか! 出てきやがれ!」
ネギは杖を構えながら叫び、カモも追従する。
すると、声の主は、脇にそびえる大木の、張り出した太い枝の上にいた。
「おーおー。かわいい坊やのくせに、いっちょまえに吠えとりますな♪」
「兄貴、あそこだ!」
「あ・・・」
見上げた先に、着物姿で、メガネをかけた女性が1人。
そんな彼女に向けて、ネギは続けて叫んだ。
「僕たちは話し合いに来たんです! 戦いに来たんじゃありません!
長さんに取り次いでいただけませんか!」
「ホホホ」
対話を試みるも、女は大笑い。
「この期に及んでまだそんなことを。甘ちゃんなことですなあ」
「・・・・・・」
「甘いのも結構なことやが、いつか、命取りになりますえ」
女はくっくと笑いつつ、見下すような口調で。
懐に手を入れて、紙切れのようなものを取り出した。
「今かもしれへんけどな♪」
「兄貴! なんだかわかんねえけど、来るぜ!」
「う、うん!」
こうなっては、もはや話し合いなど出来ない。
まずは対話という姿勢を見せたネギも、戦闘態勢に移る。
「お札さんお札さん♪」
女がそう囁くと。
ゴォッ!!
「・・・!」
なんと、巨大な炎が現れて、一気にこちらへ向かってきたのだ。
突然のことに驚かされるネギだったが。
「か・・・・・・風よ!」
咄嗟に防御魔法を展開。
自らの身体に風を纏わせて、炎を逸らして回避した。
「ビ、ビックリした・・・。魔法?」
「いや、確かに詠唱みたいなことをしたが、魔力を感じねえ。
何か別のチカラみたいだぜ」
「じゃあ、いったい・・・」
いきなり攻撃されたことももちろんだが、それ以上に、彼女の攻撃方法に驚いた。
一見すると魔法のようでもあるが、カモ曰く、違うものらしい。
西洋の魔法を見慣れているものにとっては、東洋、日本独自の術大系を、
知らなくても当然。おかげで、戦い方に困ることになる。
「まだまだいきますえ。お札さん♪」
「わあっ!」
今度は単発ではない。
複数の炎に続けて襲われる。
実戦経験の乏しいネギでは、回避することが精一杯になる。
「ちっ、ちょこまかと」
「はあ、はあ・・・」
苛立たしげに呟く女。
早くも息が上がっているネギ。
(こ・・・コレが実戦・・・・・・)
初めて味わう本物の戦場の感覚。
肌で感じる緊張感、危機感、そして恐怖。
(この前の、エヴァンジェリンさんと戦ったときとはまるで違う・・・!)
戦闘行為ということだけを見れば、数日前に、エヴァと体験済みである。
あれも実戦だったと言えばそうだが、身内同士という感覚が、少なくとも存在した。
明確な”敵”を前にしての戦闘は、文字通りコレが初めて。
自然と身体が硬直してしまう。
わなわなと、杖を握っている手に力が入り、震える。
「兄貴、落ち着け!」
「わ、わかってる・・・」
それに気づいたカモから注意が飛ぶが、どれほどの効果があったか。
「撃たれ続けるのは良くねえ。こっちからも攻撃だ!」
「う、うん! ラス・テル・マ・スキル・マギステル・・・」
とにかくも、カモの指示に従い、攻撃すべく詠唱を始める。
だが・・・
「ウキッ」
「くまっ」
「・・・え?」
ドンッ!
「うわーっ!?」
唐突に、すぐ近くから得体の知れない声がしたと思ったら。
ネギは、全身に強い衝撃を感じて、吹き飛ばされていた。
「かはっ・・・」
そのまま、脇に生えている太い木の幹に叩きつけられ、更なる衝撃と、激痛が生じる。
全身がバラバラになったかと思ったくらいだ。
「ウキッ」
「くまっ」
「・・・・・・え・・・」
苦しみながらも視線を向けたネギが見たものは、大きなサルとクマだった。
いや、本物というわけではない。なぜなら、明らかに”着ぐるみ”といった感じだからだ。
「な、なんで・・・」
「ホーホッホ!」
なんであんなものがここに。
言い切る前に、正面の木の上からは、女の笑い声が降ってくる。
「油断しましたな。それはウチの式神、猿鬼と熊鬼や。
なかなか強力ですえ。身を持って体感しましたやろ?」
「く・・・」
式神。
名前くらいは聞いたことがあったが、まさか、ここでソレが出てくるとは思わなかった。
ネギは二歩三歩と前に出てみるが、想像以上に、受けたダメージが大きい。
足を一歩踏み出すごとに、全身に鈍痛が走る。
(こ、ここで負けるわけには・・・!)
意気こそ折れてはいないが、身体のほうはそうもいかない。
ネギの表情は歪んでいる。
「坊やには、ちぃときつすぎる一撃やったか」
「うぅ・・・」
女はストンと木の上から降り、微笑を浮かべている。
ネギはまだ動けない。
「どうやらここまでのようおすな。まあ、年のワリにはようやりましたわ。
猿鬼、熊鬼! そいつから親書とやらを奪うんや」
「ウキッ」
「くまっ」
堂々と勝利宣言をする女。
配下の式神に命令し、猿鬼と熊鬼がネギに近づいて行く。
(マズイ・・・・・・マズイぜこりゃ!)
焦っているのはカモだ。
ネギが吹き飛ばされた際に振り落とされたカモは、木の影に隠れながら、どうにもならないと悟る。
(ここには姐さんもいねえし、勇磨兄さんも環姉さんもまだ来ねえっ!
くっ、今の兄貴には従者がいないと・・・・・・ここまで脆いのかよっ!)
魔法使いも一流となれば、1人だけで戦闘をしても、さして問題は無いのだろうが。
今のネギにそこまで求めるのは、酷すぎるというものだ。
エヴァンジェリン戦のときも、かろうじて、本当にかろうじて、勝利を拾ったようなものだ。
苦戦したのは相手が悪すぎたこともあるが、ネギが未熟であることも、無視できない要因である。
あのときは、駆けつけてくれたアスナと改めて仮契約し、彼女の力を借りられたからこそ、
偶然といえども勝てたが、今回は、そのアスナもいなければ、協力してくれそうな人物は誰もいない。
(マズイマズイマズイマズイッ!!)
絶体絶命の大ピンチ。
慌てて何か手は無いかと考えるカモだが、かの状況で、軽々しく思いつくようなことではなかった。
「早う」
「ウキッ」
「くまっ」
なおも近づく式神たち。
ネギはなおも動けない。
(こ・・・・・・ここまでなのか、僕は・・・・・・)
迫ってくる式神を見ながらも、ネギは何も出ない。
痛む身体にムチを打っても、立っているのがやっとだった。
(こんな・・・・・・何も出来ないで・・・・・・終わるのか・・・・・・)
そこまで考えたとき。
(!!!)
ある記憶が、脳裏にフラッシュバックした。
6年前の、あの”雪の日の夜”の出来事・・・
何も出来ずに、村や、最愛の姉が倒れて行くのを見つめるしかなかった、あの日のこと・・・
忘れたくても忘れられない、遠い日の彼方。
(そうは・・・・・・いかない・・・。何も出来ないままなんて・・・・・・)
悲劇は二度と繰り返さない。
そのために、今の今まで勉強し、研鑽を積み、がんばってきたのだ。
まだまだ半人前とはいえ、任務ひとつ、満足にこなせないでどうする。
(イヤだ・・・・・・そんなのはイヤだッ!!)
瞬間的に、ネギの魔力が膨れ上がる。
「魔法の射手・光の3矢!!」
「ウキー!?」
「くまっ!?」
発動した魔法。
式神はいずれも、その光の矢に貫かれ、消滅する。
「ひょわあっ!?」
女にも、3本放った残りの1本が向かったが、これは回避されてしまった。
「お、驚いた、無詠唱魔法かいな・・・。その年で恐ろしいことをしよる」
「・・・・・・ぅ」
偶然の、無詠唱魔法発動だったのか。
それとも、先ほど唱えていた始動キーによる効果だったのか。
「ま、今のが最後の力だったみたいやな」
「・・・・・・」
なんにせよ、ネギは式神を倒しはしたものの、ガックリと膝をついてしまった。
女が言ったように、力尽きてしまったようだ。
魔力にはまだ余裕があるものの、それを使う身体、体力が持たない。
「親書は、いただきや」
「・・・・・・」
今度こそ、何も抵抗できない。
妖しく笑みを浮かべた女が歩み寄ってくるのを、ただ黙って見つめるしかない。
(勇磨さん環さん、学園長先生っ・・・・・・すいませんっ!!)
ネギも観念し、ぎゅっと目を瞑ってしまう。
と、そのとき・・・
「そこまでだ、天ヶ崎千草!!」
「なっ・・・!?」
「・・・え」
突如として響いた大音声。
総本山の方向、つまり、敵ならまだしも、味方が来るわけは無い方向からの、予想外な援軍・・・?
千草と呼ばれた女が驚いている様子が、それを物語っている。
「な、な・・・」
女は、信じられないものを見たという表情で。
「なんで、”長”が出て来るんや!?」
大声を発した、うしろに大勢の巫女を従える。メガネをかけた中年の男性に向かって、
そんなふうに叫んだ。
10時間目へ続く
<あとがき>
ネギ奮戦も虚しく、千草に敗れる!
もはやこれまでかというそのとき、まさしく予想外な援軍が現れた!
次回を刮目して待て!(爆)
以下、Web拍手返信です。
拍手していただいている皆様、本当にありがとうございます!
>髪の毛が金色と聞いてスーパーサ○ヤ人を連想したのは決して自分だけじゃないはずだ!!(笑)
ほぼ全員の方がそうだと思われます。(爆)
>外伝でボーリングやネギ・アスナ喧嘩イベントを期待してます
「兄妹」でのコメントでしたが、こちらからで失礼します。
ボーリングとけんかイベントとな? むぅ、考えてみます・・・