黒と水色

第3話 「卒業試験、そして旅立ち」









「こらセリス! 手を抜くな!」
「ひい〜!」

今日も今日とて、水色の姉妹は修行三昧。
勇磨に小突かれながら、セリスがランニングをしている。

「はぁ…はぁ……お願い、ちょっと休憩を……」
「まあいいでしょう」

こちらはエルリスと環。
どっかりと座り込んでしまったエルリスの頼みに応じ、致し方なしと環が許す。

病気で寝たきりだったセリスに比べると、当然、体力ではエルリスのほうに分があるわけで。
身体能力の向上も、姉のほうが一段上だった。
だからこそこうして、やや甘めに休憩を許している状況である。

「はぁ…はぁ…」

大きく肩で息をしているエルリス。
脇に立つ環を見上げ、苦しいながらも、呆れながらモノを言う。

「コレだけ走って、息ひとつ切らせないなんて……あなた何者?」
「鍛え方と年季が違います」
「そう…」

環は一言で切って捨てた。
考えるのも馬鹿らしく、息が苦しいので、エルリスもこれ以上は追求しない。

「ほらほら! そんな走り方じゃ、いつまでたってもスタミナなんかつかないぞ!」
「うぅ〜! スパルタ反対ぃぃ〜っ!」

「しごかれてるなあ」
「そうですね」

セリスの様子を見て、くすりと笑みを漏らすエルリス。
なんだかんだ言いつつ、セリスはメニューをこなしているから、うれしいものである。

特に、1度は諦めた身の上なのだ。
それがこんなふうに、元気よく走り回れるようになるなんて。

「セリス、がんばって」

エルリスは目を細めつつ、小さな声で呟いた。

「ところで、エルリスさん」
「え? なに?」

しばらく見つめていると、不意に環から声をかけられた。

「ずっと聞きたいと思っていたのですが、あなたたちが旅に出たいという理由。
 セリスさんに関することではありませんか?」
「!!」
「やはりそうですか」

まったく予期していなかったことだけに、動揺が顔に出てしまった。
環にはそれだけでわかる。

「な、なんで…」
「なに。少しばかり、セリスさんに関して、気になることがあるものですから」
「ち、ちなみに……どこまでわかってるの?」
「さあ? あなたが思っていることと、私が思っていること。
 どこまで合致しているのかがわからない以上、なんとも申し上げかねますね」
「………」

環は立ったまま、セリスを見つめている。
エルリスはひとつ息を吐いて、自らの敗北を認めた。

「ウソばっかり。本当はみんなわかってるんでしょう?」
「ふふ、少し意地悪が過ぎましたかね」

ここで、環も笑顔を向ける。

「やっぱり。わかってるんなら、話は早いわ」
「その可能性を、少しでも減らしたい。あるいは、制御する方法を……という具合ですか」
「そういうこと」

エルリスは頷いた。

他人には絶対に知られてはいけない、自分たち姉妹だけの秘密。
知られたが最後。
最悪の場合は、魔術協会に捕縛され、解剖されて、ホルマリン漬けになるのがオチだ。

「そうね…。考えてみれば、ここまでお世話になってるんだし、話さないわけにもいかないわね」
「解せないのは、どうして彼女に、『あれだけの魔力が宿ったのか』ということです」

そういう雰囲気になったことを悟ったので、環はいきなり核心を突いた。

「セリスさんには、人間としては異常なほど、強力な魔力が宿っています。
 少なくとも、これまで私が出会った人物の中では最高クラスですし、飛び抜けています。
 それに、あなたのことも…」

「話せば長くなるんだけど…」

エルリスはそう前置きして、静かに語りだした。
<10年前の出来事>を。















およそ10年前。
その頃はまだ、水色の姉妹はここより北方の街、スノウトワイライトに住んでいた。

平和に、平凡に暮らしていた姉妹だったが、終末は突然に訪れる。

ある日、町の郊外へ遊びに出ていた姉妹。
元気に駆け回っていたのだが、突然、セリスが胸を押さえ、苦しみながら倒れてしまう。
妹の異変に、急いで駆け寄ろうとしたエルリスだったが…

刹那、彼女が見たものは、視界一杯に広がる真っ白な世界。
気付いたときには、元居た場所よりも、数十メートルは吹き飛ばされた場所にいた。
痛む身体に鞭打ち、妹の姿を捜すと、先ほどと同じところに倒れこんでいる。
自分のことなど考えず、再びセリスのもとへ駆け寄るエルリス。

抱き上げ、声をかけるが、セリスは苦しそうにうめくだけ。
そのうち、セリスの身体がどんどん熱くなってきて、
再度、あの真っ白な世界が訪れてしまうような予感がした。

いけない、と思ったエルリスが、次の瞬間に取っていた行動は、歌うことだった。

誰かの声が聞こえ、自分の中に入っていく感触。
自分の中に入った誰かが、この事態を打開するには、それが1番だと伝えてくる。
だから、ただただ、妹の無事を願い、必死な思いで歌った。

するとどうか。
セリスの熱は見る間に引いていき、呼吸も落ち着いていったのだ。
とりあえずはそれで事なきを得た2人。

後になって聞かされ、気付いたことだが、『魔力の暴走』という重大事件であり、
セリスの周りは、地面が抉れてクレーター状になっていたということだ。
















「…とまあ、こんな感じ」
「………」

環は無言で、ジッとエルリスの話を聞いていた。

「私が魔法を使えるようになったのもそのときからで、使えるのは氷属性だけ」
「なるほど…」

ようやく環が声を発する。
エルリスの長い独白だった。

「信じられませんが、セリスさんの魔力は生まれ持ったもので、
 エルリスさんのそれは、そのときに偶発的な要因によって宿ったものだということですね」
「まあ、そうなのかな。
 今でも時々、自分の中の誰かの存在を感じ、声が聞こえることがあるもの」
「不思議なこともあるものですね」
「ほんと。でも今でも、暴走が街中じゃなくて、郊外で起こってくれて良かったと思うわ。
 街中だったら、どんな被害が出ていたことやら…」

考えたくもない。

「それで、再び魔力の暴走が起こらないとも限らない。
 だから、根本的な解決法か、魔力の制御法を探そうと、旅に出ようというのですか」
「うん。まあ、短絡的な発想だけどね」
「いえ、当然の考え方でしょう」

ひとたび魔力が暴走すれば、それこそ思いも寄らない被害が出ることになる。
そんなことは絶対に避けたいし、妹の命をも危険に晒すということだ。

防げる方法があるのなら、それを見つけ、安定・安住を確保したい。
触れてはいないが、姉妹が故郷の町ではなく、ここノーフルにいるということとも、
無関係ではなかった。

稀有な力は、それすなわち”異能”。
どんな反応をされ、どんな目に遭うのかは…

「しかし…。あなたたちは本当に規格外ですね。
 あれほどの魔力を持っていたり、氷の精霊を体内に宿していたり」
「いやあ……って、アレだけ走っても息を切らせないあなたもそうだと思うけど」
「そうですか?」
「そうよ。…ん? なんか、もうひとつ、気になることを言っていたような…」

ついさっきの、環の言葉を思い返してみる。

「そ、そうだ。『氷の精霊』って!?」
「言葉通りですよ」

環は、冷静に答えてくれた。

「話を聞いた限りでは、ほぼ間違いなく、10年前のそのときに、
 氷の精霊があなたに宿ったのでしょう。
 そうだとするならば、セリスさんの暴走を止められたことも合点が行きます。
 当時5、6歳の幼子に、そのような真似が出来るはずありませんから」
「そ、そうなんだ…」

新たな事実に、エルリス本人が愕然としている。
自分の中にいるのは氷の精霊。

「そうなんだ…」

何度も反芻しながら、自分の身体を見つめてみる。
何の変哲もないが、実際に言われてみても、実感に乏しかった。

「まあ、あまり意識せずとも大丈夫ですよ。
 どうやらその精霊は、あなたのことを気に入っているみたいですし」
「そうなの?」
「ええ。そうでもなければ、わざわざ宿ったりはしませんよ。ましてや、力を貸したりはね」
「そっか…」

魔法が使えているのは、その精霊のおかげ。
なるほど。氷の精霊だから、氷の魔法か…

エルリスは納得した。
同時に

(これからもよろしくね。氷の精霊さま)

自分の中の存在へ、そう伝える。
すると、肯定する返事が聞こえたような気がした。

「それにしても、セリスや私のこと、よくわかったわね」
「まあ、知識はそれなりにありますし、体質上、魔力などには敏感なので」
「ふうん。もしかして、私たちのことって、そんなにすぐわかっちゃう?」

少し怯え気味に訊くエルリス。
無理もない。バレるということが、即、身の危険に繋がるからだ。

「いいえ。少なくとも、一般人や並みのハンターには無理でしょうね」
「そう」

環の返答に安堵した。

「言ったでしょう? 私が少し特殊なんです」
「少しどころじゃない気がするんだけど…」
「何か仰いましたか? 変なことを仰ると、メニューを追加しますよ」
「い、いえ、何も言ってません!」

ぶんぶんと首を振り、否定するエルリス。
そんなに嫌か。

「さて、長話をしてしまいました。そろそろ再開しますよ」
「はーい」

エルリスは素直に立ち上がった。
もう呼吸は整っていて、体力的なものも、向上してきたようである。

「もう少し走って、今日は、剣技のほうを見ましょう」
「本当に? よし、張り切ってやるわよ!」

剣を見てくれるというのは、これが初めてのことである。
エルリスは俄然やる気を出して、修行に励んだ。






――チチチ…

「…朝か」

小鳥のさえずりと、窓から差し込んでくる朝日によって、エルリスは目を覚ました。

最近、激しい鍛錬を行なっているせいか、夢を全然見ないほど睡眠が深いが、
朝だけはこうしてすっきりと目が覚める。
以前もそうだった。寝起きはもともと良いほうだが・・・

「う〜……っん!」

それはきっと、自分の中にいる”誰か”のおかげなのだと思う。
そのおかげで、さらにパッチリ、目が覚めるようになった。

身体を起こし、感謝を込めつつ、毎朝恒例のちょっとした儀式を行なう。

「おはよ、私の君。…ううん」

いや、違った。
もう”誰か”などではない。

「おはよ、私の”氷の精霊さま”。今日もがんばろうね」

正体を知ってから、そう呼ぶことにした。
このように呼び方を変えてから、なんだか、身体の調子が良いような気がする。

今日も1日の始まりだ。





勇磨たちがノーフルの町にやってきて、はや1ヶ月あまり。
その間、エルリスとセリスに、毎日、修行をつけてきたわけであるが

「「卒業試験!?」」

今日も鍛錬だ、と張り切っていた姉妹は、思わず聞き返していた。

いつもは、勇磨たちが仕事を終えてきてからだから、早くても午後からなのに、
この日は違っていた。
いきなり朝から呼ばれたわけで、何か違うなとは思ったが、こうなるとは。

「そう、卒業試験」

頷く勇磨。

「どういうこと?」
「そのままの意味です」

答える環も、いつも通りの表情。

「あなたたちにもだいぶ力量が備わってきたと思いますので、ひとつ、試験を課すことにしました」
「試験…」
「無事に合格できれば、ハンターとして、最低限のレベルはクリアしたものとみなします。
 まあさすがに、まだまだ独り立ちするというにはいささかの不安はありますが、
 姉妹2人で協力すれば、旅に出ても何とかなるでしょう」

つまり、この試験に合格できなければ、旅立つことは許されない。
そんな状態で旅に出ても、野垂れ死ぬか、魔物に殺されるかということなのだろう。

「わかったわ。何をすればいいの?」
「その〜……あんまり、学問的なことは…」

不安そうに尋ねるセリスに対し、環は一言。

「大丈夫ですよ」

邪笑、ともとれる怪しげな笑みを見せて、言ってのけた。

「実戦ですから」
「え?」
「へっ?」

「では兄さん。お願いします」
「う〜い」

驚く姉妹をよそに、勇磨と環は試験の準備を進める。

「取り出だしたるは、この『匂い袋』!」

勇磨は、あらかじめ用意しておいたものを、懐から取り出して使用した。

匂い袋。
魔物が好む匂いを発するアイテムで、主に、魔物を誘き寄せる際に使用されるもの。

「じゃんじゃかじゃん。風に乗って広が〜れ♪」

封が切られ、周囲に微妙な匂いが充満していく。
これが使われたということは…

「…つまり?」
「ええと?」

「そういうことです」

首をギギギと回す姉妹から視線を向けられた環は、さも当然の如く頷いて見せた。

『ぐおーん!』
『ウケケケ』
『ギャースッ!』

どこからともなく、現れてくる魔物の群れ。

「さ、あとはよろしく」
「よ、よろしくって…」
「まさか、わたしたちだけで戦うの!?」
「そうでなければ、試験にならないでしょう」
「そんなっ!?」

驚いている姉妹を尻目に、勇磨と環は、ちゃっかりと後方に移動。
水色の姉妹だけが、魔物の中に取り残された。

「いきなり実戦なんて、無理よ!」
「お、お姉ちゃん…」

「だ〜いじょうぶ〜。本当に危なくなったら、ちゃんと助けに入るから」
「でも、そうなったら、確実に不合格ですけどね。
 あ、もちろん、戦闘放棄も不合格ですよ。敵前逃亡などもってのほかです」

どうやら、拒否権はないらしい。

「これくらい切り抜けられないと、旅は出来ないよ」
「いつ何時、魔物に襲われるか、わかりませんから」

「わかったわよ! …セリス」
「え?」
「やるわよ!」
「う、うん!」

覚悟を決めた。
剣を抜き、ヨーヨーを構え、戦闘態勢に入る。

「鬼の教官に、目に物見せてやるのよ!」
「うん、お姉ちゃん!」

目的があるのだ。大事な、目的が。
こんな、始めの一歩を踏み出す前に、もたつくわけにはいかない。

『ギャギャー!』

「っ…」

まずは、エルリスめがけ、1体が突っ込んできた。
思わず身を硬くするエルリスだったが

(動きが……見える?)

魔物の動きが、ひどくゆっくりに見える。
こんな攻撃など、簡単にかわして…

「やあっ!」

――斬!

『ウギャー!』

「……え?」

真っ二つ。
自分でもわからないうちに、魔物を撃破していた。

「………」

呆然となるエルリスだが、次第に手応えを掴んでいく。

『ウケー!』

「…っ! はあっ!」

――斬!

一閃。
またしても、横薙ぎに魔物を真っ二つにした。

「身体が勝手に動く! いけるわ!」

一見、無茶な走り込みを繰り返したことで、体力は飛躍的に向上。
その上、達人の勇磨や環と練習とはいえ打ち合ったことで、目も慣れた。
自身のスピードも上がった。

「勇磨君や環さんに比べたら、遅いッ!」

――斬! 斬っ! 斬ッ!!

向かってくる魔物を、根こそぎ叩き斬る。

(私、いつのまにこんな…)

自分でも驚くほどの上達ぶり。
ふと視線を感じて目を向けると、勇磨が自分に向けて親指を突き出し、環も頷いているのが見えた。

「これなら…!」

もう、心配は要らないようだ。





一方で、セリスの様子は。

「うぅ…」

最初こそ、魔物の異形な姿と、初めての実戦ということで、怖気づいていたようだが…
いざ始まってみると

「デビルヨーヨー!」

――ヒュンヒュンヒュンヒュンッ!

両手にヨーヨーを装備。
必殺の精密攻撃で、周囲の魔物にダメージを与えていく。

修行を始めた最初の頃は、合計6個のヨーヨーを動かすことで精一杯だった。
それが今はどうだ。

『ギャッ!』
『ギュッ!』
『ギョッ!』

1体に1個ずつ、正確に命中させ。
膨大な魔力でコーティングされた威力は、1発1発どれもが致命傷。

ヨーヨーの軌道上で、生き残っている魔物は皆無だった。

(こんなに上手くいくなんて…!)

やや興奮気味に、セリスはヨーヨーを操る。

専門外といえど、簡単な魔力の扱い方を環から習った。
それまで鍛錬したくても出来なかった分野だから、初歩的とはいえ、劇的な効果をもたらす。
さらには、全快してからすこぶる調子が良いことも、大いに加味しているだろう。

「どんどんいくよ〜!」

こちらも、心配は皆無のよう。


ほどなくして、水色の姉妹の前から、魔物の姿は掻き消えた。






「おめでとう」
「合格です」

戦闘を終えた2人にかけられたのは、1番聞きたかった言葉。

「それだけやれれば充分」
「どうですか? 自分の上達ぶりを実感できた心境は?」
「自分が自分じゃないみたい…」
「すごい……すごいよ〜!」

エルリスとセリスは、まだ自分の力に半信半疑のようだ。
だがしかし。環から注文が入る。

「だからといって、あまり驕り昂ぶらないように。
 いま戦った魔物は、あくまで底辺レベルの強さの魔物であり、もっと強いものはたくさんいます。
 まだまだ、自分たちは未熟なのだということを、忘れないでください」
「はい」
「肝に銘じておくよ」

神妙に頷く姉妹。
この分なら大丈夫だろう。

「さて、これで私たちからの修行は、一応ひと区切りになるわけですが。
 明日からどうなさるおつもりですか?」
「そうね…。とりあえず、数日はゆっくりして。旅立ちの準備もあるし」
「そんなに早く旅立たれるのですか」
「なるべくなら、早いほうがいいしね」

エルリスの気持ちもわかる。
解決を見るのは、早ければ早いほどいい。

「旅のことなんだけどね」
「え?」

と、勇磨がこんなことを言い出した。

「環とも相談したんだけど、俺たち、君たちに付いていこうと思う」
「えっ…」

これは寝耳に水。
そんなことを言われるとは思っていなかっただけに、衝撃は大きい。

「旅に出るってことはさ、今のあの家も、どうにかしちゃうってことでしょ?」
「え、ええ。旅の資金に、売っていこうと思ってたんだけど」
「君たちも居なくなるわけだし、そうなると、俺たちもここに留まる理由が無くなるわけだ。
 お金もそれなりに貯まったし、俺たちもそろそろ、また旅に出るかと思ってたところだし。
 それに…」

勇磨の視線が環に移り、環が後を引き継ぐ。

「それに、セリスさんの件。心当たりが無いわけでもありませんから」
「ほ、本当!?」
「ええ。黙っていてすいません。
 知り合いに強力な魔術師が居ますので、紹介することくらいは出来ます。
 もっとも、彼女がその解決法について知っているかまでは、わかりませんが」

セリスとエルリスが体験した10年前の出来事については、
エルリス自身が改めて事情を説明し、勇磨も知るところになっている。
それを受けての提案だ。

「その人は、信用できる人?」
「ええ、もちろん。腕もそうですが、きちんと話をすれば、約束は守ってくれる人です」

セリスの秘密は重大なもの。
確認はしておかなければならなかった。

「………」
「………」

無言でお互いの顔を見つめる水色姉妹。

「ね、願ってもない申し出なんだけど……いいの? そこまでしてもらっちゃって…」
「わたしたち、何も、恩返しできるようなこと、ないから…」
「まあ、乗りかかった船ですしね」

恐縮する姉妹に、勇磨も環も、笑顔を向ける。

「あなたたちと知り合ったのも、ここまで面倒を見たことも何かの縁。
 旅をすることは私たちにも利点はありますし、まだまだ未熟な弟子を放り出すほど、
 私たちは薄情ではありませんから。もう少し、付き合ってあげますよ」
「酷い言い様…」
「でも……本当にありがたいよ。勇磨さん環さん、ありがとうっ!」
「いえいえ」
「ま、気にしないで。俺たちが勝手に言い出したことなんだから」

姉妹にとっては、これ以上ないという提案。
無論、断るはずもなく。

(”歩く爆弾”のようなものを、放置は出来ませんしね)

御門兄妹側には、さらなる理由があったりするのだが。


ともかく数日後には、御門兄妹と水色の姉妹は、共にノーフルの街を離れることとなった。





第4話へ続く

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