黒と水色

第11話 「昔馴染みと再会」







エルフからの依頼を完了した一行は、再び王都へと戻ってきた。

「さて、これからどうする?」
「選択肢はいくつかありますね」

まず、御門兄妹がこう発言。

「学園都市に戻るか、このまま王都に滞在するか、私たち独自で行動するか」
「はい、はいっ。王都滞在希望っ!」
「セリス…」

勢いよく手を上げ、大きな声で主張するセリス。
どのような魂胆かは明らかなので、エルリスは大きな息を吐いていた。

「今度こそ、王都を観光するんだよ!」
「…だそうですが、いかがですか?」
「私に振らないで…」

ため息をつきつつ、やれやれとエルリスはお手上げだ。

「兄さんは?」
「ははは。いいんじゃないかな?」
「ふぅ、まあいいでしょう。1度は決まっていたことですしね」

「やった〜!」

お許しが出た。
セリスは飛び跳ねて喜びを表現する。

「でも、何があるのかよくわからないんだよね〜。ガイドブックとか買ったほうがいいかなあ?
 あるのかな、ガイドブック? お姉ちゃんはどう思う?」
「…あなたの好きにしなさいな」
「う〜ん、迷っちゃうよね〜♪」

そして、早くも観光気分を爆発させている。
深い憂慮のため息をついているエルリス。苦笑する御門兄妹。

「観光はいいですけど、その先の予定も立てておかなければ」
「そうだな」

とりあえず、暴走して1人で突っ走っているセリスはさて置き。
今後のことを話し合っておく。

「結局のところ、どうしますかね?」
「一応、ユナのところに戻っておいたほうがいいんじゃない?
 私たちが出てきてから、そろそろ3週間になるわ」
「う〜ん。でも、それでまだだったりすると、それこそ身動き取れなくなるからなあ。
 王都にいたほうが利便性はいい」

1度、ユナのところへ戻らなくてはいけないのは確かだが。
学園都市まで行って、まだ何も見つかっていないようだと、まったくの無駄足になるし。
何か別の目的が出来た場合、王都にいたほうが、交通・情報事情が明るい。

「それに、ユナはアレだけの魔術師だ。
 何か発見があれば、使い魔か何かで、すぐに知らせてくると思うぞ」
「確かにそうですね。まだ何も言ってきていませんから…」
「まだ、発見は出来ていない。探索中、解析中、ってことかしら?」
「たぶんね」

彼女の性格上、ほったらかしというのはありえない。
何かがあれば、勇磨が言ったように、すぐに知らせてくるだろう。

「ではしばらくは、ここ王都に留まるということで、構いませんね?」
「私は、2人がいいならそれで」
「じゃあ、そういうことにしよう」

方針決定。
王都に留まりつつ、ユナからの報せを待つことにする。

「となると、空き時間が出来ることになりますね」

ふむ、と何かを考え始める環。

「エルリスさん」
「なに?」

顔を上げ、エルリスにこう言った。

「お仕事しましょう」
「はい?」

咄嗟には、言われたことが理解できなくて。
エルリスは思わず聞き返していた。

「仕事って?」
「私たちのお仕事といえば、ひとつしかないでしょう?」
「えっと、ハンターの?」
「ええ、もちろんです」

オウム返しのエルリスに、環は微笑んで頷く。

「あなたたちもCランクのハンターになったことですし、依頼を受けてみてもいいかと思うのですよ」
「それって、私とセリスだけで…ってこと?」
「無論です。経験を積まなければどうにもなりませんし、お金も貯まって一石二鳥でしょう」
「でも、う〜ん……」

エルリスは考え込んでしまった。
自分たちだけで、仕事が務まるのかどうか。

「大丈夫。もし何かあった場合は、俺たちがフォローに回るからさ」
「勇磨君…」

助け舟を出す勇磨。

「二、三、小さい仕事を請けてみたら?」
「そう、ね………わかったわ」

随分と悩んでいたようだが、エルリスは決断した。

確かに、ハンターは経験がモノを言う仕事。
自分たちに絶対的に足らないものが『経験値』なので、補うにはちょうど良い機会だろう。

「どんな仕事がいいかしら?」
「まあまずは、ランクC以下の簡単なものからね。
 薬草採りとか、弱いグレードのモンスター退治とかかな?」
「ギルドに行ってみなければ、わかりませんけどね」
「そっか」

曲がりなりにも、ここは王都。
王国一の都であるわけで、ギルドの規模も当然、王国一である。

人や仕事の出入りも激しく、そう苦労せずとも、仕事はみつかるだろう。

「じゃ、今日はこれから、観光に回るとして…」

エルリスは駅前に建っている時計塔を見上げつつ、言う。

現在時刻、11時を回ったところである。
今日1日、まだまだ時間はありそうだ。

「明日あたり、ギルドに行ってみましょう」
「ええ」
「そうだな」

結論が出たところで。

「セリス、セリス」
「どうせだから美味しいものも食べたいし〜♪ …え? なにお姉ちゃん?」

セリスを呼ぶ。
トリップは続いていたようだ。

「何かリクエスト?」
「違うわよ」

盛大に呆れつつ。
たったいま決まったことを、妹に説明してやる。

「と、いうことになったから」
「お仕事か〜。うん、わたしがんばる!」
「その意気よ」

ポーズをつけて、セリスはやる気を示した。
すると…

「………あれ?」

そのセリスが、何かを見つけたような反応をする。

「あれは…」
「セリス?」

セリスは、エルリスから見て、右手のほうを向いて固まっている。
エルリスもその方向を見やってみたが、普通の人通りがあるだけだった。

「良さそうなお店でも見つけたの?」
「違うよっ!」

それまでの話の流れから、そんなことを尋ねてみたが。
強く否定されるだけだった。
セリスも、引き続き人ごみを見つめている。

「あれは……絶対そうだよ……」
「セリス? 何を見つけたのよ。セリス?」

ブツブツ呟いて、こちらから声をかけても反応しなくなった。
と思ったら

「待ってーーーー!!」

「セリス! ちょっ、ええっ!?」

いきなり大声を上げ、見やっていた方向へ向けて駆け出していってしまった。
止める間もなかった。仰天しているエルリス。

「あの子はもう…」
「えっと、何があったのかな?」
「わからないわ、あの子のことだから…」
「ははは」
「とはいえ、放っておくわけにもいきません」

苦笑している御門兄妹に尋ねられ。
もういやとばかりに、エルリスは肩を落としている。

「迷子にでもなったら大変です。追いかけましょう」
「まったく…。セリス! 待ちなさい!」

3人は、急いでセリスの後を追った。





「えっと、確かこっちのほうに…」

真っ先に人込みの中に入ったセリス。
きょろきょろと周りを見回して、目的の人物の姿を捜す。

「絶対そうだよ…」

何が”絶対”なのだろうか?
セリスが見たのは、はたして何者なのだろう?

「………あっ!」

チラリと後ろ姿が見えた。

無造作に背中に垂らしている、腰まで届く細く長い尻尾。
”彼女”の、1番の外見上の特徴だ。

今でも変わっていない。
だからこそわかった。見つけられた。

「やっぱり間違いない!」

セリスは、より確信を深め。
向こうの人込みの中に消えた彼女を、必死に追う。

「はあ、はあ……待って、待ってよー!」

人々の間を縫い、走って。

「”命”さーん! 待ってー!」

「…!」

再び背中が見えたところで、セリスはそう叫んでいた。
目的の人物が立ち止まり、振り返るのがわかる。

その表情は、驚きに染まっていた。

それはそうだろう。
人込みの中で、いきなり”自分の名前”を呼ばれれば、驚きもする。

「なんで私の名前を……誰? いま呼んだのは」
「わたしだよー! はあ、はあ…」

ようやく追いついたセリス。
彼女の前で、肩を揺らして息を整える。

「…? あなたは…」
「わからない? ほら! ノーフルの町でお隣さんだった!」
「ノーフルで…? あ、まさか…」

セリスの言葉に、彼女も思い当たる節があったようだ。
むぅ、と考え込んで、やがて、ぽんっと手を打った。

「セリス! あなたセリスね?」
「よかった覚えててくれたー!」

覚えていてくれたことがうれしくて。
セリスは彼女の手を取り、ブンブンと振り回した。

ノーフル時代の、数少ない友人の1人。

「すっごい久しぶりだね命さん!」
「そうね。私が出て行って以来だから……3年ぶりくらい?」
「うん!」

長い黒髪を後ろで縛り、セリスのことを思い出して、柔らかな笑みを浮かべる彼女。
彼女の言葉通り、実に3年ぶりとなる再会だった。






第12話へ続く


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