キラとシャルは臨海学校の準備の為に街に繰り出し買い物をしていた。
「所でキラの買うものは水着だけ?」
シャルの質問にキラは考えながら答える。
「う〜ん……今の所、携帯用歯磨きセットとタオル、後、コーヒー豆が切れてたからソレも買わないと……私服も数点見繕おうかな……」
キラは臨海学校に必要な物と切れていたコーヒー豆の事を思い出す。
「以外に少ないね……そうだ、買い物が済んだら丁度お昼だし何処かで食事しない?」
そのシャルの提案にキラは微笑みながら答える。
「いいね、決まり。それじゃあ、行こうか、シャル」
その言葉にシャルは頬を膨らませ拗ねた様に言う。
「二人でいる時はシャルロット! もう、キラ絶対ワザトだよそれ」
その仕草に苦笑しながらキラは修正する。
「ゴメン、ゴメン、シャルロット。ほら、行こう?」
そう言いキラは左手を差し出す。
シャルは何とか機嫌を直したらしく、キラの手を握る。
「もう、今回だけだからね?」
そういい、2人は手を繋ぎながらショッピングモールを歩くのだった。
この時、キラは気付いた。
シャルが本心から笑うようになった事に。
前のシャルの笑顔は何処か余所余所しく、何処か卑屈な笑顔だった。
そう、昔の、ヘリオポリスにいた自分の様に。
そう思い、キラは最近見るシャルの掛け値無しの笑顔が嬉しかった。
キラの場合は友達の中でコーディネーターは自分一人、軋轢を生まないようにと自分の意見を押し殺し卑屈に笑っていた。
シャルもまた、デュノア社に引き取られてからは嫡出児と言う眼で周囲がシャルを見つめる。
キラは今思えば、子供の処世術だったのかもしれない。
そう思ったとき、キラはこの笑顔が守れるなら命を懸けて戦えると思えた。
そして、自分なりにシャルの思いを受け止める位の器量はあると自負している。
アスランとラウラもまた、買い物の為、街に来ていた。
「アスラン、今回は水着を買うの?」
その質問にアスランは考えながら答える。
「そうだな……今の所は水着と旅行用の歯磨きセットとタオルくらいだな……」
そう言いながらアスランの腕に寄り添うようにラウラがしな垂れてきた。
「ソレが終わったらデートだな。そうだ、私の水着を見繕ってくれないか?」
その言葉に面食らうアスラン。
正直、あのラウラが自分から女の子らしい提案をしてきた事に今までの自分の努力もまんざら無駄では無かったと感じるアスランだった。
昔の自分は父親のパティーや政治関係者の家に連れられ、父が望む子である事を演じた。
外で遊ぶ同世代を脇目に見ながら“大人の望む子供”とやらを演じた。
そう、ラウラと同じだった。
与えられた事を淡々とこなし、周囲からは『流石、パトリック・ザラの息子』やら『ザフトの明日を担う兵』と言うレッテルをベタベタ貼られた。
ラウラもまた、国家と言う組織の中で作り出され、大人の身勝手な期待を背負わされた。
来る日も来る日も『戦闘単位として完成された兵』と言う大人の身勝手な期待を押し付けられたのだ。
アスランと違いはソレを息苦しいと感じていなかった事くらいだ。
その目的しかないラウラが自分の目標を見失い、新たな目標を見つけた。
ソレが、『アスランを嫁にする』と言う目標だった。
その事を知っているアスランは余り強く否定はしなかった。
そうする事でラウラが少しでも人間らしい生き方が出来るならと言う想いから、その発言や思いを受け止める事にした。
アスランもまた、それだけの器量は持ち合わせているのだから。
臨海学校当日、1年の学生達は海岸で思い思いに遊んだ後、旅館に戻り、食事を済ませ、入浴を楽しんだ後、それぞれの部屋にいた。
キラ、アスラン、一夏は胡坐を掻いて畳の上に座りながら色々と話した。
「そう言えば、一夏って好きな娘とかいないの?」
キラの突然の質問に一夏は頭を振って否定した。
「無い、無い」
その言葉にアスランは箒、セシリア、鈴に内心同情しながらも一夏に質問した。
「本当か? 気になる奴くらいはいるだろう? その年でそれはあり得んぞ?」
その言葉にムスッとしながら一夏はキラ達に質問を投げかける。
「そう言うお前等はどうなんだよ? 好きな奴いるのか?」
その言葉にキラもアスランも臆せず、迷わず言い放つ。
「恋人はいたね」
「ああ、最愛だった……今はもう会うことも叶わないし、彼女を恋人として接する事も出来ない」
その言葉に一夏は驚きの声を上げる。
「付き合っていたのか!?」
その言葉にアスランはシレッと言い放った。
「行き着く所までいった」
「僕もそうだね」
その言葉に免疫の無い一夏が顔を赤くした。
「ソレはつまり……せ……」
それを言おうとした一夏はキラに止められる。
「それ以上言うと色々ヤバイから言わないでね?」
その言葉に押し黙る一夏。
その頃、女性陣は千冬を中心に盛り上がっていた。
「ウグ、ウグ……プハア……!!」
千冬は缶ビールのフタを開けソレを美味そうにグイグイ飲んだ後、問いかける。
「所で、お前達、夜這いには行かないのか?」
その言葉に真っ赤になる箒、セシリア、鈴、シャル、ラウラ。
ソレを箒が代表して否定した。
「いや、あの、学校行事でそれは……」
その言葉に千冬は詰まらなさそうに言う。
「何だ、詰まらん。こう言うのは教師の眼を盗んでやるのが面白いんだろ?」
その言葉に益々赤くなる一同。
教師の立場でその発言はどうかと思うが、こう言う所が千冬らしいと言えば千冬らしい。
「篠ノ之、オルコット、凰、一夏の何処が好きだ?」
その不意の質問に3人共二の句が出ない。
何で織斑 一夏の事が好きなのだろう。
この単純明快なはずの質問に3人は答えを探す羽目になった。
唸る3人を他所に千冬は次にシャルに質問する。
「デュノア、お前は何故ヤマトの事を好きになった?」
その問いかけに、シャルは顔を赤くし戸惑いながらも答える。
「正直、明確な答えはありません。でも、僕は多分、キラの掛け値無しの優しさを好きになったんだと思います」
その答えに満足したのか、次にラウラに向き何故、アスランを好いたのか問いかけた。
「私もデュノアと同じで明確な回答はありません。もし、無理に理由付けをするのならアスランの強さでしょうか……身体的、技術的、そして何よりアスランの心の強さに……」
その問いかけに満足したのか「そうか……」と答える千冬。
その時だった、ラウラの携帯が鳴り響き、ラウラがそれに出る。
「私だ」
クラリッサ・ハルフォーフの声が耳元で響く。
『隊長、隊長の嫁のアスラン・ザラの部屋に例のモノを設置完了いたしました』
「そうか、ご苦労」
その言葉にラウラは完結的に答える。
通話を切った所を見計らい千冬が質問した。
「何を設置したんだ?」
その問いかけにラウラが答える。
「ハッ、アスランの旅館の居室に隠しカメラを設置しました」
その言葉にシャルが突っ込む。
「それ、犯罪だよ!?」
その言葉にラウラはシレッと答える。
「バレなければ問題ない」
ラウラは良くも悪くもアスランの影響を受けた一人だ。
「面白そうだな……ラウラ、映せるか?」
千冬は面白そうに質問する。
「可能です」
そう言うとラウラは携帯を操作し、ウィンドーを開く。
丁度アスラン、キラ、一夏が入室してきた。
3人は胡坐を掻いて畳に座り話し出す。
話の途中で箒とセシリアと鈴は多少落ち込んだ。
そしてキラとアスランの言葉に千冬以外は赤くなるのもご愛嬌か。
3人の話はそれぞれ恋愛の考え方にまで及んだ。
『正直、そう言うのは自分の事がキッチリできて初めて作るモンだろ? 責任を持てる段階で作るべきだ』
その言葉にキラは諭す様に言う。
『まあ、一夏の考えも解らなくも無いよ。でもそう言うのは結婚とかそう言う世界になってくる。人は義務で恋をしたり愛を知る訳じゃないからね』
アスランも頷きながらキラの言葉に同意する。
『恋をするのに理由は無い。アイツ、優しい。あの娘が可愛い。アイツ、カッコいいとか、そんな短絡的理由から生まれるんだと俺は思う。もし、その短絡的なモノにアイツの事を幸せにしたい。アイツを守りたい。こいつの事をもっと知りたい。と言った明確な信念が生まれた時、ソレが愛になるんだと思う』
アスランの言葉を引き継ぐ様にキラは言う。
『そして、一夏が言った事が発生するのはお互いがお互いの言葉と想いを重ね、結婚して子を生した時に自然と生まれるモノだよ。相手と言葉と想いを重ねて、相手との距離を把握し、如何したら家族を幸せに出来るかを模索する。生活基盤も重要だけど、一夏の言葉には其処に自分と相手の想いが入っていない。更に結婚するにしても自分の想いを相手に押し付けるのは良くない。言葉を重ねぶつかり合ってわかってくるもんだよ』
キラとアスランがここまで語れるのは経験があるからに他ならない。
そして、今では別れた理由を客観的に見ることが出来る。
あの時、お互い話し合ったか?
相手の話をちゃんと聞いていたか?
意見をぶつけ合っていたか?
その自問自答にNOとしか言えない自分達がいる事もキラとアスランは知っている。
しかし、彼女いない暦イコール年齢の一夏には語るべき言葉が無かった。
経験と言う言葉が詰まったキラ達の言葉とカラッポの一夏の言葉では其処に言葉の重みが違ってくる。
ソレを理解した時、何となく悔しかった一夏だった。
その様子を見ていた女性陣は、千冬以外なんとも言えない顔をする。
「まあ、あいつ等は経験者だ。何かしら思うところはあるだろうが、悩んで自分なりに答えを出せ。ソレが青春と言う若さの特権だ」
そう言いながら部屋を出る千冬だった。
あとがき
臨海学校編突入です。
まあ、キラとアスランはラクス、カガリと別れています。
ファンの方は許して下さい。
まあ、ラクスとカガリがいたら作品の都合上書き辛いという作者の言い訳です。
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