第5話『SUS来襲〜9D−19海戦〜』


T


  先の陸海合同議会が終了してから、僅か6時間後のことだった。新たな爆弾を投下する報告書が、時空管理局に放り込まれたのだ。各機関上層部に激震が走り、その揺れの余波が瞬く間に管理局全体へと伝わった。
  それはつまり、未知の敵性勢力からの襲撃の報である。

『我、所属不明の艦隊から攻撃を受ける』

  その爆発的な報告は、まるで今までの報告が余震であったかのようだ。先の対策会議から、半日も経たぬ内に緊急招集を再び掛けられた海幹部と陸幹部のメンバー達は、その報告の内容を聞いて蒼白となってしまった。
  クロノやリンディ、レティらもその中に含まれていた。彼女らの脳裏に瞬時に浮かんだのは、先ほど見たばかりのカリムが予言した文言についてだ。時空管理局に匹敵するであろう巨大な勢力が、遂に動き出したのだと悟ったのである。また、この予言については、時空管理局内部に向けて知らされてはいたのだが、まさか、その直後に予言が的中するとは考えてもいなかった。これで予言の半分が実現したことになる。
  報告の発信者である航行部隊司令ジャルク提督から最初に送られて来たのが、所属不明艦隊による敵襲を受けたとの一報のみだった。戦況は余程に逼迫しているのだろか、あるいは短時間的なことか、詳しくは報告されていなかったのである。しかも、それから以降の通信は来なかったばかりか、こちらからの通信も繋がらないという事態ときたものだ。
  この緊急事態に対して、次元航行部隊上層部は緊急会議を開き、満場一致で至急、増援部隊を編成させることになった。陣容は、XV級8隻、L級12隻、LS級18隻からなる計38隻の航行部隊であり、時空管理局の創設依頼で、これ程までに膨れ上がるのは極めて稀であった。
  それらの艦隊を統括して率いるのは、第九管区艦隊旗艦XV級〈エピメテウス〉艦長ロベルト・ノルギンス提督(少将)。ジェリク・ジャルク准将の所属している、第九管区の艦隊司令官である。実際には、これ以上の艦船を保有する第九管区艦隊(通称:第九艦隊)であるが、1つの管区だけでも広大な次元空間を管理せねばならない以上は、全部隊を一か所に呼び集める訳にもいかなかった。
  また、編成された内容の3割近くは、本局から派遣される艦艇で占められている。この本局から出陣する艦艇群の中には、〈クラウディア〉の名も含まれており、クロノも当然のことながら参加出撃する事となったのだ。
  本局から出撃する艦隊が、先に出撃している第九艦隊の後衛として向かい、合流する形になっている。

「クロノ、十分に気を付けて行くのよ」
「大丈夫です、心配しないでください」

  リンディが心配してクロノを見送る。時空管理局内部では組織の上下関係もあるが、それ以上に2人は親子なのだ。自ずと心配になるのは当然である。また、クロノにも妻と娘がいる身だ。家族を残して殉職するつもりは到底なかった。
  母親であり上司でもあるリンディに見送られつつ、緊急出撃命令を受けたクロノは、自分の乗艦〈クラウディア〉へと直ぐに身を移して出撃準備に追われた。他の艦も続々と出撃準備を整えつつある。
  やがて一通りの指示を出し終えたクロノは、艦長席に座り1人で思考に深け入った。正直、不安を感じているのだ。それは、生きて帰れるかという不安ではなく、襲撃を受けた友軍艦艇のことだ。報告を受けてから出撃して、果たして間に合うのかという、時間的な問題があった。報告を受けてから既に1時間が経過しているのだ。それに、出撃準備と目的ポイントへの移動時間を考えると、どう考えても間に合わないのが、口に出さずとも分かりきっていた。
  それでも無事でいてほしいと願うクロノに、オペレーターが出航の準備が整った旨を伝えてきた。

「本艦の出港準備完了」
「提督、全艦艇の発進準備、完了しました」
「わかった。全艦に通達、こちら〈クラウディア〉。これより、第九管区方面の友軍艦艇救出の為に出撃する。なお、消息の途絶えた僚艦の報告では、正体不明の艦隊の襲撃を受けたとの話だ。我が艦隊も万全を期して向かうが、油断せぬよう、肝に銘じてもらいたい――以上だ。全艦、出航!」
「次元航行艦〈クラウディア〉、出航します!」

  〈クラウディア〉の後に続くのは、本局所属の13隻の次元航行艦である。統括するのはクロノだ。
  彼らは一刻も早い友軍の救援をしてやりたいと願っていた。それは、クロノも同様の願いではあったが、同時に望み薄な事も分かっていた。それでも彼は、〈アムルタート〉以下15隻の艦隊と、漂流者の艦艇の無事を刹那に願っていた。
  ここで時間は、1時間あまり遡る――。



  ――〈アムルタート〉以下3隻が、救助活動を開始してから約3時間が経過した頃になって、本局の指示で派遣された増援部隊12隻が到着した。これで計16隻となった第二十七戦隊含む航行部隊は、より円滑、そして迅速に、救助を進める事が出来た。もっとも、地球艦隊旗艦〈シヴァ〉が機能を回復したことを皮切りにして、友軍艦艇に必死の呼びかけを行ったことが功を奏した。おかげで、時空管理局に対して武力行為に出る艦はおらず、粛々と救助活動や補修作業に入る事が出来たのである。
  それから、2時間が経過する頃には、殆どの地球艦艇は応急作業の末に、最低限の機能を取り戻すことに成功していた。各艦のクルー達が、それぞれの部署において動き周り、或は他の部署に移動して早急的な艦の修復及び、負傷者の治療を行った。また、省力化の著しく進んだ防衛軍艦艇は、当然だが省力化による人手不足を補う為の手段を持ち得ている。作業の多くをアンドロイドに任せており、人間の補佐を行っているのだ。お蔭で、人間の様に疲れも無いアンドロイド達の復旧作業は助かるものがあった。
  そんな地球防衛軍艦隊の様子を、すぐ傍で救助活動をしていた時空管理局の局員達は、思わず唖然としてしまう。人間が宇宙服を着て、次元空間へ飛び出し、アンドロイド等を従えながら直接に艦の修理を始めていたからだ。時空管理局の人間からすれば、この次元空間で正気の沙汰ではないと思える行動なのだ。

「なんて連中だ……」

  唖然として言葉が出ない局員も多数存在した。
  とはいえ、この様な事は地球連邦防衛軍では日常茶飯事な光景でもあった。何せ、たった1隻で天の川銀河と、大マゼラン銀河の航行をやってのけた例がある。それが〈ヤマト〉であり、以後の防衛軍航宙艦隊では、専用ドックも無しに修復する術を、最低限度のレベルで身に着けていったのだ。
  通常な思考ならば、艦をドックに入れてから修理を施すべきであろうに、彼らはその場で、概ね素手による機械操作で、外壁の交換、武装の修理をやっている。とはいえ、これは完全修理ではなく、あくまで補強や補修的な処置に過ぎないものだ。本格修理を施すまでの腕までは、防衛軍の一般将兵は持っていないのだ。
  持っているとすれば、先の1隻で大航海を成し遂げた〈ヤマト〉くらいであろう。その〈ヤマト〉を陰ながら支えて来た1人が、技術科技師長を務めた真田志郎だ。科学知識や哲学等に通じ、冷静沈着かつ合理的に判断できる彼の存在も大きいと言えよう。

「信じられません。艦内ならともかく、艦外も同時に行うなんて……」

  〈アムルタート〉のオペレーター達は、その光景を初めて目にして戸惑っている様子だ。それもその筈、応急作業を開始した艦の中には、僅か2時間あまりで大よその外壁を取り換えてしまうのだから、彼らの驚きは当然と言えば当然だった。
  とはいうものの、その早い外壁交換作業もまた〈ヤマト〉で培われてきた技術の一つである。〈ヤマト〉は戦闘の度に外壁を損傷してきたが、それを短時間で元に戻す為に、破損した部分の装甲板のみを取り外し、別の装甲板と付け替える作業方法で済ませて来た実績があったのだ。
  それ以来、防衛軍航宙艦隊では、ドックが無くてもある程度の修理が可能となるように、〈ヤマト〉と同じ工程が盛り込まれていた。
  その応急作業の間に、次元航行部隊は地球艦隊を護衛――もとい監視していた。余所から来た相手なのだから、当然と言えば当然の事ではあろう。ジャルクにしても、手出しはしないこそすれ、一応の警戒は続けておかねばならない、ありきたりの命令だったのだ。それでも、ただ修理作業の現場を見ているのも、パッとしないものではあったが。
  そこでジャルクは、出来れば今の内に彼ら防衛軍から情報を得る為に、出来るだけ対話を行いたいつもりでいた。何故、この次元空間へ迷い込んでしまったのかは聞いているが、その生じていた戦闘とは、一体何を目的として戦闘であったのかは知らない。ジャルクは、そこはまだ聞いてはいなかったのだ。

(勢力拡張の為の戦争をしていた……と考えることも出来る)

  または、その逆で防衛戦闘の最中であったのか。その二種類に振り分けていた。それしか考えつかなかったのだ。
  地球連邦というものが、前者の勢力拡大を目的とした国家であれば、時空管理局としては極めて危険視する存在になるに決まっている。そんな自己満足の為に戦闘をする民族であれば、逆に時空管理局が介入するかもしれない。
  だが、これは時空管理局が言えるような話ではなかった。時空管理局という組織も、常に次元空間を往来して新世界を発見しては、管理下に置いてきたからである。魔法文明を有し、相応のコンタクトを取れるような世界であれば接触して交流を図り、魔法を有さない世界または、次元世界に干渉しえるだけの文明レベルを有しないのであれば、単なる管理世界としか見ない。まして、交流を図った相手の世界に対しては、魔法文明を半ば押し付ける側面が強く、質量兵器を一切禁じている。快く承諾してくれる世界はまだしも、中々にそうはいない。大小様々な不満を抱える世界も少なくなかった。
  時空管理局内部には、管理局こそが法の番人であり世界の中心であるという、傲慢な部分があるのが事実だった。勿論、リンディやレティを始めとした良識的な局員も多いが、流れとしては、魔法文明と時空管理局を強く信奉する強硬派が多い。
  逆に、外部勢力から身を護る為の戦闘であった場合、これは少なからずも外交をする余地があるかもしれない。時空管理局も何とかして、地球を新たな次元世界として加えようと考える可能性は十分にあり得た。手助けをして、地球から少しづつ質量兵器を吸い取り、抵抗する術を失くしていくだろう。その代り、時空管理局の息の掛かった者達が、地球の守護者として降り立つ――そんな図式も見えてくる。
  そう考えると、ジャルクも苦笑せざるを得なかった。地球連邦政府のとやかく言う前に、自分ら時空管理局もまた、鏡を見ておくべきだろう。

「……相手のことは言えんな」
「何がですか?」
「いや、何でもない。独り言だから」

  そう言ってごまかすのだが、地球艦隊に対する処遇について、時空管理局上層部がどう出てくるのかと心配が絶えないでいた。
  地球艦隊も概ね補修作業を終えんとする頃、ジャルクの手元に一通の指令が送られてきた。その一文に目を通したジャルクは、難題だと直感せざるを得ず、思わず大きなため息を吐きそうになってしまう。

「まずは、本拠へ連れて来い、か。対話でもするつもりなのだろうが……穏便に済むことやら」

  よもや拿捕するという強硬手段に出るつもりはないだろう……と信じたいものだ。

「取り敢えず、彼らに話さないといけないが……〈シヴァ〉を呼んでくれ」
「了解……出ました!」

  〈アムルタート〉から通信が来たのは、コレムが医務室より丁度良く戻って来た頃のことだ。彼は、先程まで重傷で緊急治療を受けていた司令マルセフ大将と参謀長ラーダー少将の様子を看て来たばかりであった。軍医ケネス大尉の話では、マルセフは一命を取り留めたものの、ラーダーの様態は、まだ危険な状態にあるのだと言う。多量出血によるショック性等が原因でもあるらしく、彼の助かる見込みは最悪の場合30%もあるかどうかということだった。
  この様に、地球艦隊を束ねる指揮官と、次に階級の高い参謀長の2人が共に病床にて治療中ということもあり、事実上の高級士官全滅というものだ。となれば、〈シヴァ〉艦内において次に最高位なのは、副長のコレム、或は航空団司令のローツハルトということになる。同格の大佐であり、年齢的にはローツハルトが先任であろうが、戦艦の指揮経験は皆無だった。

「私よりも、コレム副長が適任だろう。それに、マルセフ司令は君に指揮官代行を命じたのだ。艦の運用について、私の事は気にしなくていい。私が預かるのは200機以上の航空団の指揮運用だからな」

  そう言って不満を露わにするでもなく、マルセフ司令の決定に従った。
  確かに戦艦の指揮経験は、コレムが上であろう。彼はローツハルトよりも若いこそすれ、組織的、階級的にはまず問題は無いと言って良い人材だ。それに地球は、常に侵略を受けてきた経緯があったが、それが原因で熟練した兵士達が戦死するなどして、人員が激減してしまった。人員が足りなくなれば、省力化と、若い世代の半ば強制的な活用が待っていた。コレムは、その一例である。
  近年においては、10年以上も大規模な侵略行為が無かった為に、地球防衛軍内における全体年齢は上がった。それでも、20代後半で艦長の椅子に座るケースも少なくない。
  本来ならば、今の艦隊を統率すべき任務は第四艦隊副司令が受ける筈だった。だが、第四艦隊副司令は、あの激戦の最中で戦死してしまっている。総司令マルセフも、それは承知しているからこそ、病室へ運び込まれる寸前に、コレムに指揮を託したのだ。

「貴官が代わって残存艦の指揮を統率するように――」

  この時は、転移の直度であり、未だに艦隊の把握が間に合っておらず、マルセフ自身も負傷という状況だった為、仕方ないと言えば仕方ない人事であった。
  因みに、コレムが人材払底の煽りを受けて、早々と大佐という階級を持ってはいたが、大規模な実戦を経験したのは先の敵襲のみである。それ以前での戦闘経験は全くの“0”という訳では無いが、こうした大規模海戦に関して言えば、実質的に経験は皆無に等しいものだった。
  まだ15歳か16歳の頃には、宇宙戦士訓練学校の真っただ中におり、16年前のディンギル戦役終結後から正式な防衛軍となったのである。正式な軍人として就任して以降は、防衛軍司令部にある参謀本部のデスクワーク系統で多く経験を積み、徐々に前線で活動する艦隊の司令部付参謀や、護衛艦の艦長を歴任してはいった。護衛艦隊所属の時には、対海賊船との戦闘が何回かあったが、本格的な海戦の経験も無いまま日々が続いた。
  経験が浅いことから、熟練者やエリートに対して良い目をしない者からは、嫉妬や妬みの対象にされることも珍しくは無い。それでも、エリートとしての腕は名ばかりではなく、先の戦闘でも、彼は司令マルセフの代わりに〈シヴァ〉を十分に指揮運用していたのだ。
  だが、そうとはいえ、今の彼に預けられたのは〈シヴァ〉のならず、残存艦43隻全てである。正規艦隊の半数以上の規模を、コレムは任されたことになるのだ。しかも残存艦隊とはいえ、これほどの規模数を指揮するのは今回が初めてであり、緊張もする。

(しかし……私で良いのか?)

  それに、実はやや陰鬱であった。その原因は、自分より年上の者がいるに関わらず、司令官代理を任されたことだ。差し置いて――という表現では語弊があるだろう。正確に言えば、先に上げたとおり把握出来ていなかった故の緊急の人事だからだ。
  本来の残存艦隊司令官代理となるべき人物は、第五艦隊所属で戦艦〈三笠(ミカサ)〉艦長東郷龍一(とうごう りゅういち)少将だった。年齢にして64歳の軍人でありながら、それ程に出世はしていない。エリート官僚に属する様な人ではなく、一卒の兵士から戦い続けて来た人物である。所謂、実戦の人或いは叩き上げの人間に属していた。
  マルセフとラーダーが病室に搬送された後に、改めて残存艦の情報収集をした結果、自分より階級が上――しかも老練の軍人が居たことを知ったのだ。それを確認したコレムは、勿論のこと彼にも通信を送った。通信回線が繋がり、事の事情と話していく内に、スクリーンに映る老軍人が機嫌を損ねるのではないかと、内心で警戒敷いていた。妬まれたり、青二才めと罵られるのだろう……と。
  ところが、その予想に反して、意外と平然として頷き、理解を示す東郷の姿があったことに、コレムは安心した。

『そうか、マルセフ司令がな……』
「はい。治療を受けられる直前に、私に指揮権代理を命じられました。本来であれば、閣下がお受けになられるべきなのですが――」
『気にせんで良い。総司令が命じたと言うなら問題ないし、周りの証言もあるのだ疑いはせん。それに、この緊急事態で、指揮権がどうだこうだと言う事態でもないからなぁ。無論、儂も出来る限りのサポートをするつもりだよ』
「……感謝いたします、閣下」

  こんな調子のやり取りで、通信は終了されたのである。別に、皮肉られた様子もなく、温和にしてその場は終わったのだが、それでもやや複雑な気持であった。それに加えて、東郷自身が不安を抱えるコレムに対して、出来得る限りのサポートをしてやると言ってくれたのだ。もしかすれば、内心では、あまちゃん(・・・・・)には荷が重かろう――と思っていたのかもしれないが、それでも大変嬉しいものだった。それに、何と器量の広い人なのかと感心もした。
  それでも、マルセフが復帰すれば指揮権は彼に戻る筈だ。それまでの辛抱だと、彼は心の中で自分を勇気づけていた。
  指揮権を託され、復旧作業等に追われるコレムは、時折、艦隊全体の様子を把握せんと尋ねる。

「艦隊の状況はどうか?」
「現在の処、全ての艦は順調に応急修理を終えるもよう。幸いにして、行動不能な艦は有りません」

  それは良かった、と思ったのも束の間であった。

「副長、〈アムルタート〉のジャルク提督より通信です!」

  そうか、と応えると、通信画面へ繋げさせるよう指示する。
  通信士官テラーが回線を開く為に調整して数秒後、ジャルクが現れた。

『コレム大佐、実は、貴官にお伝えしたい事があります』
「なんでしょうか?」
『先程、本部の方から通達がありました。貴官ら地球防衛軍には、応急処置を終え次第、本部まで御同行を願いたいのです』
「……分かりました。ただ、私だけでイエスとは言う事が出来ません。僅かばかりですが、時間を頂けないでしょうか?」
『構いません。十分に協議して頂きたい』

  これは恐らく、時空管理局とやらいう上層部と交渉する為のものであろう。となれば、この空間や世界構造について全く理解が追い付いていない地球防衛軍では、その交渉の席で下手な真似は出来ない。それに、時空管理局と交渉するともなれば、交渉役の人間は艦から引き離されることになる。よもや、向こうから乗り込んでくる可能性は考えづらい。無論、相手の方から艦内へ会議場を設定してくれるというなら話は別だが、望み薄なものであろう。
  今や、この艦並びに艦隊が地球人である証であり、そして財産でもある。救助に協力してくれたジャルクは安心出来る相手のようだが、その上層部に立つ人間達はどうであろうか。あまり悪い方向に考えたくもないが、交渉で何らかの条件を突き付けて来るのではないだろうかと、思ってしまうのは職業上仕方がない。もしくは、拿捕しようという腹ではないのか、と悪循環な思考が廻ってしまうのだった。

(疑ってしまうのは仕方ないとして、どの道、色々とは話さねばならんか)

  コレムは自分達の事を詳細に教えた訳でもないが、いずれ話さねばならないのだ。その内容によって、相手の態度も変わるかもしれない。自分達の世界、歴史、そして今回の遭遇戦について、彼らはどう反応を示すのだろうか。
  また、遭遇戦と言えば、最初に進発した第一次移民船団の事が気に掛かっていた。自分ら第二次移民船団が襲われたことから、第一次移民船団も襲われたと考えるのは妥当であったからだ。
  そして〈シヴァ〉は、先の戦闘では確認する間も無かったが、奇跡的にとある通信の傍受をしていた。その通信とは、地球の本部から受けた緊急警告で、文書ファイルに添付された映像ファイルのデータ集の様であった。先程までは、これを開封する事も出来なかったのだが、この通信が終わり、一段落してから通信の内容を見てみようと思っていたのだ。
  そして、地球艦隊内部で協議したい旨をジャルクが了承した為、一旦通信を切ろうとした、その刹那――。

「副長。当艦隊周辺にて、電波障害を確認。索敵範囲、低下します」
「電波障害?」

  唐突に始まった索敵機能の低下に、コレムは思わず訝し気になる。転移の影響で、コスモレーダーが今頃になって不調をきたしたというのだろうか。
  コレムは、索敵士官ジーリアス大尉に確認を取った。

「故障の類か? それとも、人為的な妨害か」
「これは、ジャミングによる妨害行為かと……」

  人為的なものと聞いた途端、コレムの脳裏に警鈴が鳴り響く。これは、もしやひと騒動あるかもしれない――そう思った矢先だ。

「レーダーに微弱な反応を確認、多数の艦影と思われます。方角は右舷、2時方向!」
「ジャミングに合わせたかのような出現だな。まさかとは思いたくはないが、時空管理局の艦の可能性もある。テラー大尉、他艦に一応の警戒態勢を指示しつつ、〈アムルタート〉に問い合わせてみてくれ」
「ハッ!」
「ジェリクソン大尉、戦闘配置についてくれ」
「ハッ。全艦、戦闘配置に付け。繰り返す、全艦、戦闘配置に付け!」

  コレムの命令を受け、ジェリクソン大尉は戦闘配置を艦内に向け発する。それに伴い、一気に活性化する細胞となり、慌ただしく配置に着くクルー。他の地球艦艇群も、コレムの指示通りに戦闘に移れるよう態勢を密かに整えていった。
  だが、この艦影群について、次元航行部隊はといえば、全くの初耳であり与り知らぬものであった。それに加えて、本来、増援としてくるはずの次元航行部隊が来る方向にしては、全く異なる方角なのも、管理局員らに暗雲を立ち込めさせた。索敵機能も低下している事からも、明らかに異質な存在が来ているのだ。

「索敵機能、回復せず。明らかな人為的妨害行為です」
「むぅ……ハッケネン少佐、接近中の艦影をスクリーンに映せますか?」
「何とかギリギリではありますが」

  レーダーによるスキャン作業が叶わない以上、光学的に捉えて確認するしかない。


U



  やがて〈アムルタート〉でも、光学測定で捉えた艦影がスクリーンに投影されたが、その異質さにジャルクも息を呑んだ。

「見るからに、禍々しい雰囲気があるが……」

  今までにない、異様な姿形をした艦隊の姿に、局員の全員が戸惑いの声を上げている。一部の声では、地球連邦防衛軍と同じくして事故に巻き込まれたのではないか、との声もあったのだが、その地球艦隊でさえも知らない艦艇であるとの回答が返ってきたのだ。

「提督、〈シヴァ〉より今ほど捉えた艦隊について、友軍ではないとの事。逆に、時空管理局の艦艇かと問い合わせております」
「何……では、彼らと同様の仲間ではないということか」

  何分、地球艦隊を襲撃した三ヶ国の連合軍艦隊とは、また違ったベクトルの異質さだ。コレム達にしても、これが友軍である筈もなく、時空管理局の関係者かと尋ねるのも無理は無かった。また、もっと詳細な情報を得る為には、もう少し距離を縮めなければならない。レーダーは物の役に立っていない以上、出来る限り接近せざるを得なかったのだ。
  この時、ジャルクは言い知れぬ危機感を肌身に感じていた。外観からして、危険なオーラを放っている不気味な艦艇は、形状もまた一際異色だったといえる。地球艦艇や、次元航行部隊の艦艇が、大概は前後方向に長い形状をしているのに対し、この漆黒の艦艇は上下方向に長い艦型だった。見ようによっては、何処となく十字架のようだが、存在そのものとしては、まるで悪魔の遣いと言っても過言ではない。
  やがて、光学索敵のみならず、機能の低下した電波索敵も、ようやく捉え始めた。

「レーダーに、更なる艦影を多数捕捉。現在、総数凡そ70隻に昇ります!」
「70……!」

  膨大な規模の艦艇が現れたことに、ますますもって警戒心を強めるジャルクだが、彼の予想は、悪い方向へと的中しつつあった。発見された未知の艦艇群が、全て自分らのところへ一直線で向かって来るというのだ。ジャミングがある中で、辛うじて捕捉出来た艦船群を、艦橋内の大型スクリーンに映す。漆黒に染めた艦艇が、集団で押し寄せてくる様から感じられるのは、敵意に近いものだった。
  いや、もしかすれば本当に敵なのかもしれない。ジャルクは一応の確認を取らせる。

「〈シヴァ〉に返信。『先の艦隊は、味方にあらず』と。それと、あの艦隊に通信を送れ! 所属を確認する」

  漆黒の艦隊は70隻あまり。隊形からして、明らかに戦闘を目的としているような布陣である様に、彼には思えた。
  ジャルクは、確認の為に通信を送らせると共に、指揮下の艦艇に至急集結するよう呼び掛けた。並びに戦闘態勢を命じておきつつ、地球艦隊の前面に大きく出ると、横列隊形を取らせて戦闘を行えるよう構えた。
  もしもの事態に備えるべく、〈シヴァ〉にも戦闘に備えてもらうように要請する――地球艦隊も既に準備は整えていたが。
  現れた漆黒の艦隊――SUS軍第二戦隊は、戸惑う管理局らの様子を見て、またとない先制攻撃の機会を得たと知る。どうやら、時空管理局は警戒しつつも、敵として断定できていないようだ。それは、地球艦隊も同様の様で、SUS軍第七艦隊が屠った第一次移民船団の事を、知らないようであった。
  第二戦隊旗艦〈ヤズィー〉艦橋にて、司令官ゲーリン少将が口元だけ僅かに吊り上げた。

「有効射程まで、凡そ5分」
「管理局艦隊、地球艦隊の前方を大きく出る。陣形を組みつつあり」

  ほう、迎え撃つ構えのようだ。危機意識は抜けてはいないようだが、そんなおもちゃ(・・・・)で、我らの艦隊に敵うとでも思っているのであろうか。脅威として観るならば、地球艦隊だけだ――奴らも損傷して満足に戦えまいが。
  彼の自信も当然のものであった。時空管理局の戦闘艦艇など、SUSの敵ではないのだ。地球艦隊も、万全且つ数が揃っていたら勝ち目は無いかもしれないと踏んでいたのである。

「司令。その時空管理局から、本艦隊へ向けて問い合わせの通信です」

  指揮席に身を置いていたゲーリン少将は鼻で笑ったのかは分からないが、笑止、という表情をしていた。
  自らを世界の次元の中心と称する管理局の者どもに、今から、その傲慢たる自信に確実なヒビを入れてやるのだと。
  ゲーリンは、口には出さずして、彼は時空管理局を罵った。

「第二分隊に告ぐ。砲撃準備が完了次第、砲撃を開始。良いか、あの程度の船に手こずるなよ」

  SUS軍第二戦隊は、2個分隊140隻の戦力を有している。その戦力の中で、第二分隊は第一分隊と別行動で動いており、真正面に展開していた。それに対して、第一分隊――即ちゲーリン直属艦隊は、時計方向へ大きく全速で迂回をしつつ、次第に次元航行部隊の右側面へ向かいつつある。ジャミングによって敵の目を潰し、その間に大きく迂回しているのだ。それは、次元航行艦部隊の〈アムルタート〉でさえ、迂回部隊の存在を確認しえておらず、地球艦隊も同様であった。

「続けて管理局より通信です。『停戦し、貴艦隊の所属を明らかにせよ。しからずば攻撃を止むなしとする』以上です!」
「ふん、答える必要は……いや、待てよ」

  実際に通信を受けていたのは第二分隊であるが、それを中継して第一分隊へ密かに送られていた。そして、返信など面倒なものだとと思っていたゲーリンだが、そこで意地の悪い考えを思い付いた。このまま進んでいけば、直ぐに反撃を招くであろう。相手もジャミングには気づいて当然であり、警戒心を強めている筈だ。だから、焦らすようにして返信してやろうというのである。

「閣下?」
「有効射程距離ギリギリで、奴らに返信する」
「何と返信しますか?」
「こうだ――」

  部下の声に対して、ゲーリンは返信する内容を告げた。




「こちら、時空管理局所属、次元航行艦〈アムルタート〉。貴艦隊の所属を明らかにせよ、しからずば強行処置に出る!」

  〈アムルタート〉にて、必死に呼びかけるオペレーターの問いかけに、一切の応答を示さない漆黒の艦隊。まるで意に返さないと言わんばかりの行動だ。

「一切無視か。向こうは受信している筈だが……なんとも神経の太い連中だ」

  それにジャルクは呆れていた。呆れていたと同時に、先ほどよりも明確な恐怖心を抱いていた。70隻の艦艇群が、速度を落とさずにこちらへ前進して来るのだ。無機質で、冷酷な印象を受けるだけに、恐怖感を何倍にも増加させている。オペレーター達も、明らかに動揺していた。
  まずもって、このまま戦闘になれば、明らかに自分らが不利なのは明確だった。次元航行部隊16隻の艦隊であり、かつ決戦魔導兵器アルカンシェルを有する艦が4隻いるものの、相手の射程距離は不明だ。辛うじて射程距離に届かんとするが、相手がそれ以上だったら、対抗しよう筈も無い。一方的に撃たれるだけで撃たれて、一方的な被害を受けるのだ。
  警告してから凡そ4分を経過した頃、やっと相手からの返信が返って来た。しかも、映像通信での返信であり、一体相手がどんな態度を取ってくるものかと身構えていた。
  だが、通信画面に映されたのは、人間とは言うには明らかに外見が違う、まさに異星人たる存在であった。薄い灰色に近い肌と、尖った耳が特徴的な異星人に、これまでにない緊張感に包まれる。艦橋内は、粘り気の強い流動物の如き重さを、肌身に感じさせた。世の中には、この様な人種がいるものなのかと驚愕し、かなりの動揺を受けた管理局員一同であったが、ジャルクは落ち着いて口を開いた。

「私は、時空管理局所属、次元航行艦〈アムルタート〉艦長ジェリク・ジャルク准将」
『……SUS所属、第二分隊司令ハボル』

  最低限度の返答のみ口にするSUS人に、誰しもが警戒感を強く持たされる。

「貴艦隊には、連続して応答願うように通信を発した。速やかに停船して頂きたい。ここは、時空管理局の管轄下であり――」

  最初の受け答えは、相応のものであったろうが、この形式はものの数十秒で粉々に崩れ去った。
  突然、分隊司令ハボルが、ジャルクの指示要請に反して口を開いたのだ。

『自身を最大と自負する時空管理局よ、その自惚れが身を亡ぼすと知るが良い』
「っ!?」
「調子に乗って、何様のつもりだ!」

  ハボルの無礼極まる宣戦布告に、ジャルクではなく、周りにいた若いオペレーターの多くが反発の声を上げた。彼自身も、ハボルの言葉に不快感を覚えない訳がなかったが、相手はさらに言葉を続ける。

『その自信が、身を亡ぼすのだよ。人間……』

  その後に続くであろう言葉を待っている時、SUS艦隊第二分隊は既に砲撃準備を整えており、射程に〈アムルタート〉を完全に捉えている。そんな事に気が付けなかった彼らを余所にして、ハボルは返事と砲撃の合図を同時に出した。

『哀れな末路を辿るがいい』
「エネルギー波、多数感知!?」
「ッ!! 全艦、攻撃にそな――」

  備えよ、と口にする頃には、SUS軍第二戦隊からは多量のエネルギーが放たれていた。そして、それら赤いビームの嵐は、〈アムルタート〉以下15隻に襲い掛かったのである。赤いビームが、文字通り嵐となって次元航行部隊に叩き付けられた。次元航行艦に装備されている障壁(バリア)を、最大展開する暇もなかった程だ。エネルギーを最小限に抑える、アイドリング状態で展開していただけに、容易にSUS艦隊の砲撃の貫通を許してしまったのだ。
  次元航行部隊は、次々と障壁を破られた挙句、着弾ヶ所から炎を噴き上げた。ビームの破壊力は、明らかに時空管理局の有する魔導兵器を上回っていた事を、肌身に実感させられた瞬間だった。いや、魔導兵器ではない、純粋なビーム兵器の恐ろしさを、初めて体感したのだ。

「きゃっ!」
「うわぁ!」
「応戦だ。全艦応戦! 通信官、第九管区司令部へ緊急通信! 援軍を請うと!」

  悲鳴を上げるオペレーター達と、艦長席で出遅れる形で反撃を指示するジャルク。そして、同時に本局へ向けての、緊急通信を送らせた。とはいえ、これで応援が駆け付けてくれるまでに間に合うかどうかは、まずもって絶望的と言わざるを得なかったが。
  SUS艦隊の放ったビームの幾つかは〈アムルタート〉にも命中したが、XV級としての防御は、何とか最新鋭艦としてのプライドと共に耐え凌いでいた。
  だが、SUS艦隊の砲撃が着弾した時の威力は、予想を遥かに大きく上回るものであった。5発分のビームが障壁に弾かれるものの、たった5発で60%を維持していた障壁は、33%へ落ち込んでしまったのだ。それだけの被弾で、障壁が破られそうになっている事に、オペレーターは無論、ジャルクも精神的な衝撃を受けるに十分だった。
  XV級でこの有様なのだ。他のL級やLS級ともなれば、尚更のこと、耐え兼ねて被弾を許し、傷を負っていくこととなる。

「障壁展開率30%に低下!」
「な……」

  まさか、とジャルクは驚きを隠せなかった。この最新鋭艦が、簡単に敵の攻撃を許してしまうというのか。

「LS級〈バンガー〉通信途絶!」
「XV級〈ヴェルナー〉中破、アルカンシェル使用不能! L級〈ラサンドラ〉も大破ァ!」
「て、提督、他にも3隻の艦が被害を受け、戦闘能力の5割を奪われました!」

  SUS艦隊の放った初弾から1分余りで、この被害を受けた事実に声に出ない。相手が70隻とはいえ、それ程には命中弾を出していない筈なのに、このXV級ですら簡単に被害を被ったのだ。
  時空管理局でもXV級は最新鋭艦だとして、艦長に任命されれば誇り高い気持ちがあったものである。時空管理局の威信を体現すると言っても過言ではないXV級が多数就役し、多くの次元世界を管理して来た、あのXV級の威光も幻想となった。被害報告に、嘘を突かれたような想いのジャルクは、呆然とせざるを得なかった。これ程までに技術力の差があっては、どうしようもなくなってしまうではないか。
  さらには、次元航行艦が放つエネルギーが、SUS艦に対して効き目が薄いことに、言い知れぬ失望を感じ執った。

「こちらの攻撃、敵艦隊に効果は見受けられず!」
「打撃力どころか、防御力まで、こうも差があっては……」

  だが、ここで諦めるのは早すぎる。一気にこの状況をひっくり返すにはアルカンシェルを使用する他ない――迷っている暇はない。

「XV級は直ぐにアルカンシェルの発射を準備!」
「し、しかしそれでは、我が艦は無防備になります!」

  そう、アルカンシェルは数百qの範囲をそのまま消滅させてしまう兵器であるが、発射まで少しだけ時間を必要としてしまうのだ。とはいっても、地球連邦の波動砲に比べて充填時間は短いものだ。凡そであるが、2分前後を要する波動砲に比べて、アルカンシェルは1分掛かるか掛からないの程度である。
  だが忘れてはならない――此処が次元空間であり、範囲数百qでさえ僅かな範囲である事を。
  それでも、使わないより遥かにマシであると、ジャルクは踏んだのだ。
  僚艦が次々と被弾して行く様子が映されている。彼自身も、これ程までの苛烈な戦闘は経験した事がなかった。そして、また1艦、また1艦……。時間にして、まだ5分も経っていない筈だ。なのに、こうも一方的にやらるれとは信じ難い光景である。
  対する相手は、以前にしてかすり傷程度であった。時空管理局の戦闘艦が放った攻撃など、脅威にはなり得なかった。命中しても深いダメージを与えるには能わず、拡散してしまうのだ。そうして、真面なダメージを与えられていない間、新たに次元航行艦が廃艦に成り果てていく。

「L級〈テンフェル〉爆沈!」
「第三十六戦隊旗艦〈ゼファー〉大破、ツワン提督戦死!」
「第十九戦隊、第五十八戦隊、共に被害甚大!」

  増援として駆けつけて来た3個戦隊も、軒並み損傷をきたし、撃沈艦を増やしていく。各戦隊の旗艦で奮戦する指揮官達だったが、科学力の差には抗えず、次々と殉職者を生み出していった。

「敵艦隊、そのまま前進して来ます!」
「提督、我が方は4隻撃沈、5隻が戦闘継続不能寸前、残る艦も損傷!」
「なんてことだ……!」

  旗艦〈アムルタート〉にも微傷ながら被害は出ていた。障壁はもはや意味をなさず、何とか機動力で回避を試みているのだが、それも無駄な努力であったらしい。アルカンシェル発射まで後30秒と迫った時、〈アムルタート〉艦内に激震が走ったのだ。左舷艦首部分に1発が命中したのである。
  その被害は多大なもので、SUS軍主力戦艦カン・ペチュ級に搭載されている、艦体下方部に縦に並べられる五連大口径ビーム砲×2基10門によるものだ。これの破壊力は凄まじいもので、かの地球連邦の2800m級巨大移民船を、船首から船尾にかけて貫通させるものなのだ。遠巻きからとはいえ、次元航行艦船にとって侮れないどころか、恐怖である。

「艦体左舷、大破ァ!」
「戦闘能力、49%へ低下。これ以上の戦闘は無理です!」

  艦内にも影響は出ていたが、それ以上に最悪な事が起きた。アルカンシェルの発射不能、という事態である。これは絶望を意味した。他の艦も同様で、残るXV級2隻も損傷の影響で発射が不可能となってしまったのである。これで自軍の艦隊を護る術は無くなった。警告灯が点滅する艦内で、ジャルクは無念な思い胸に抱いて震えていた。

(これ程までに、管理局の力が通じないとは)

  残るレーザー砲を放って徹底的な反撃を行うも、それでは力不足でしかない。
  さらに絶望の淵へ立たせる報告が入った。右舷方向からの別働隊の発見だ。これを知った瞬間、若い女性オペレーターは絶望に浸り、泣き叫ぶ。男性オペレーターは絶望感で声が出ないという状況。
  そして、止めを刺そうとする正面のSUS戦艦が、スクリーンにアップされる。同時にSUS戦艦の主砲塔が赤く発光した。

「駄目か……」

  全てを諦めた、その瞬間である。〈アムルタート〉の至近を、200近い青白い光弾が駆け抜けていったのは――。





〜〜あとがき〜〜

どうも、皆さまはご機嫌いかがでしょうか?
もうクリスマスも過ぎ、残るは年明けです。家の大掃除もあるので、更新が遅れる可能性がありますので、ご了承ください。
さて、やっと戦闘シーンに入った訳ですが、如何でしたでしょうか?
次元航行艦の詳しい戦闘能力はよくわからないので、細かい描写まで手が回りませんでした(汗)。
次回も引き続き戦闘シーンが入ります。
では、これにて失礼いたします……では……。

〜拍手リンクより〜
[4]投稿日:2010年12月26日10:24:1 [拍手元リンク]
おおっ! リリカルではお馴染みのあの人達も登場してきましたね。そして意味深な予言……。
強硬派というのはどんな組織にも存在するものですし、彼等が暴走しないことを祈るばかり。STSの数年後を描いているForceに置いても未だに人体実験のようなものを繰り返している管理局(もしくはそれに属する研究者や企業?)の実体が描かれていましたし、実際のところ最高評議会がいなくなって組織が180度変わるかと言えばそうではないでしょうからね。
--------------------------------------------------------------------------------

>>毎度拍手及びコメントを頂いて、本当に励まされております!
どうやら、管理局のなじみ深い方々の登場に喜んで頂いたようで、恐縮です!
これからも、どうにか原作キャラを出してみようと思うので、気長に待って頂ければ幸いです。



・2020年1月28日改訂



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.