「……それで、その移動式司令部とは今、何処に?」

 司令部の長官執務室にて古代、真田、山南が顔を合わせていたが、唐突な移動司令部の話が持ち上がった事もあって、古代はその詳細を知りたく質問をぶつけていた。

「現在は木星軌道上に乗って回っておるよ。水谷が赴いて実際に運用の点検を行っている」
「水谷司令、御自らですか?」
「そうだ。宇宙艦隊の司令部となるだけあって、彼自身の手でその機能を確かめておきたいのだろう。それに宇宙艦隊総司令官という身だから、当然だろうな」

古代は艦隊総司令の水谷を思い返した。彼は旧〈ヤマト〉自沈時に乗組員を収容作業に当たった軍人だ。古代との直接の面識もあり、何かと世話になった事も少なくはない。
真田の話によれば、移動司令部は先に言ったように完成を見ている。次いでと言わんばかりに、山南がデスクに置いてあったその図面と完成した時の写真を古代の前に置く。
 古代が興味津々にその図面と写真を覗き込む。図面の右上には移動司令部の名前が記載されていた。

「っ! 戦略指揮・支援母艦〈トレーダー〉……これは!」

古代は〈トレーダー〉と命名された巨大建造物に驚愕した。主体となる形状は巨大な円盤を基にしており、前方となる方向に正方形の突起が突出し――例えて言うなら前方後円墳に近く、後方部分には特別使用の超大型波動エンジン四基が横に並んでいた。
さらに大小様々な円柱型の構造物が円盤部の下部に九個程取り付けられている。上部の中央部にはピラミッドになるよう、寸胴な円柱が大小三つ程そしてその上には、やや細長い円柱が塔の様に建っていてその部分が艦橋或いは指令室になっている様だ。
 全長二.五キロ、全幅一.六キロ、全高凡そ一キロ、他勢力からすれば小規模或いは中規模要塞であろうが、球防衛軍(E・D・F)史上最大の移動式軍事拠点だった。
全長にしても、あのデザリアム帝国が有していた一キロ級〈ゴルバ〉型要塞の二.五個分に相当し、全高は一つ分に相当する代物である。
艦船ドックも七〇隻弱と一個艦隊丸々を収める事が可能である他、エネルギー補給や補修作業程度であれば外部からの接舷にて行う事が可能だ。
 内部では資材を加工しての弾薬製造やパーツ製造を手掛ける他、自給自足も可能である。さらに外敵からの直接攻撃に対応するための大口径四連装陽電子衝撃砲(ショック・カノン)が上面に一〇基、下面に六基の計一六基を備えている。
中口径三連装ショック・カノンが上面に八基、下面に六基の計一四基。近接防御火器の大型パルスレーザー砲塔、機銃砲座を無数に装備している。
あまりの重装備であろうが、全長二キロ以上ともなれば妥当な配備数であろう。それに〈トレーダー〉用に開発された超大型波動エンジンであれば、それだけの攻撃用エネルギーも十分に賄え、長時間戦闘にも耐えることが可能だ。
 だが、その破格ぶりな巨体により、量産は到底見込めないことは明らかであった。元々は地球連邦の支配宙域が少ないために、これ一つでも十分に事足りると考えた故だ。

「防衛軍の歴史上類を見ない、とんだ化け物が誕生したのだが、中々にどうして、良い機能を持っておるよ。一年半で造り上げたには上出来だ」
「はは、長官。私とて技術者ですからね。間に合わせの急造艦として造ったのでは、肝心の性能は引き出せません」
「さすがは真田さんですね。これ程の物を一年半で建造し、性能も良好とは……」

急造した巨大な建造物に対する評価に、山南は強い感心を示していた。

「まぁ、完全に良好とは限らん。現在も水谷総司令が上官なさっているんだ。結果はもう少し待って、それから不具合を見直さないとな」
「こう言っちゃなんだが、昔の戦艦〈ビスマルク〉や〈P・O・W(プリンス・オブ・ウェールズ)〉みたいな事は避けたいからな」

 第二次世界大戦時に活躍したとされる、ドイツ海軍最強の戦艦〈ビスマルク〉。しかし、陸軍はもとより戦力が一段と乏しかった海軍が急務で造り上げた〈ビスマルク〉には、性能を引き出す以前にして問題点が遥かに多かった。
まずは乗組員の練度不足、そして設計上の甲板防御不足、伝送系統の問題、第一砲塔の漏水、等があげられており、特に攻撃力の要となる砲塔の問題は深刻であった。
そして戦艦〈キング・ジョージX世〉の姉妹艦である〈P・O・W〉に関しての不具合は、敵国ドイツだった〈ビスマルク〉に負けないくらいの深刻さであったと言えよう。
 慣熟訓練を完了していない中での戦線投入に加え、主砲塔の作動不具合、〈ビスマルク〉と同じくして艦首で跳ねた水飛沫が第一と第二砲塔に被る、艦橋構造物の強度不足等があげられており、特に主砲塔の作動不良は戦闘時には致命的なものであった。
この問題は世に有名なデンマーク海峡海戦にて司令塔倒壊と三つの主砲塔故障が致命的となり撤退へと追い込まれている。
因みに話によれば〈P・O・W〉の早期戦線投入により不具合の解消も間に合わなかったために、工廠の作業員までもが同乗していったという。

「〈トレーダー〉には工廠もある故、作業員の同乗は必然であろうが、それについても細かい調整をせねばなるまい」

 山南が言う様に、〈トレーダー〉は戦闘員ばかりが乗る訳ではないのだ。損傷した時の修理作業をするための補修要員も必要となるのだ。

「……これを動員させるという事は、もしかして随伴させる艦隊も纏めてこれに?」
「そういう事だ、古代。なんせ〈アムルタート〉の物を流用しようと言うのだからな。時間を節約するには、〈トレーダー〉に〈アムルタート〉を丸ごと乗せ、さらに艦隊も収容したうえで送り込もうと言うのだ」
「あ、〈アムルタート〉を丸ごとですか!?」

古代は真田の言葉に驚愕した。彼が言うには〈アムルタート〉に搭載されている次元転移装置は、艦橋とのシステムリンクと完全なる艦体との一体化で取り外しが簡単に出来るものではないという事であったとのことだ。
 そのために〈アムルタート〉の主要部分以外をギリギリまで分解し、〈トレーダー〉自体にも乗せられるよう特別のスペースを設けなければならないらしい。
次いで肝心の動員させる艦隊についてであるが、警備艦隊らがいるとはいえ、本国防衛も考えて半数は欲しい所であった。
七一隻(内、戦艦一二、巡洋艦二五、駆逐艦三三、空母一)程で編成されているというものの、〈ヤマト〉がこれに入るかは未だ不透明であった。
 ブラックホールを消すために撃った六連発分の超収束波動砲の反動は、〈ヤマト〉の艦内外に多大なダメージを与えており、他艦よりも長期のドック入りが必要だとされた。

「出来ればもっと戦力が欲しいのだが、無い物ねだりを言っても始まらん。だからと言ってアマールやエトスに援軍を要請する訳にもいかん。SUSが敵であったとしても、両国にも国防体制が厳しい状況であろうからな」
「長官の仰る通りですが、この次元空間遠征計画について、イリヤ女王らはご存じないのですよね?」
「あぁ。共同歩調を取ってくれるのは有り難いのだが、市民の怒りの矛先が女王に向いては独立した意味がない。それに、我々を受け入れようとして多大な犠牲も出しているのだ、ここは我々だけの問題としてやっていこうではないかね?」

山南の声に古代と真田は頷いた。この様に地球が次元空間への進出を計るための下準備に追われている最中、その行先である次元空間でもまた事が進んでいた。





 管理局の各拠点を襲撃され、凡そ四三日が経過しようとしていた頃、その支配域は次第に輪を広げつつ管理局本部を包囲戦としていた。
一〇個拠点の内で破壊に成功したものは、既に五ヶ所に及び、各世界へも手を伸ばしていた。無人の資源惑星を見つけては、回収するための採掘船団を要請して加工の準備を行う。
やがて加工された資源は〈ケラベローズ〉を通して本星まで輸送される手筈になっている。順調とも言えるこの進撃速度であったが、ここで一つの問題が再浮上してきた。
 それが全軍の進撃速度を一旦緩める事になってしまった。指令室の一角に陣取るベルガー総司令は、入ってきた情報に苦々しげな表情を作り、部下たちも同様の様子である。
その報告書にはこの様に記載してあった。管理局の次元航行艦一隻が地球世界へと出現、その際に第七艦隊を打ち破った地球艦隊と接触した模様。
それを見るに次元空間へ進出してくる可能性は大である……と。

「離脱を計った敵艦が、よもや地球艦隊と出くわすとはな」
「閣下、地球はこちらの戦況を把握した可能性もあります。もしこれに、他国が動員される事になれば、我が方もそれ相応の迎撃態勢を立てねばなりますまい」

 ディゲルもあまり心穏やか様子ではなかった。第七艦隊が不覚にも敗れた相手、地球がここへ参戦して来るとなれば、当然の如くそのための迎撃艦隊を整えねばならない。
参入してくるのが地球艦隊だけであれば、それはまだ良い方であろう。しかし、それに呼応してガミラス、アマール、エトス等が参戦し艦隊を差し向けてくるとなれば話は別だ。
今行動している艦隊を防衛に回さねばならない事態となるやもしれぬ。以前に集めた情報を照らし合わせて危険だと判断されたのは、地球と良好関係を持っているガルマン・ガミラス帝国の参入の可能性であった。
 ガルマン帝国を油断のならない相手としてベルガーは見ており、かつて自然災害によって支配宙域を減らしたものの、大ウルップ星間国家連合はもはや存在しないのだ。
ボラー連邦との戦闘に力を注ぐ事が出来るに違いなく、余剰戦力を持ってやって来るのではないか。加えてアマールやエトスからも増援が来るとなれば、それこそ一大事である。
実際にエトスやアマールが来援に来ないとしても噂が、今ここに駐留している三ヶ国艦隊(エトス・フリーデ・ベルデル)に知れ渡れば、即座に刃を向けて来るやもしれない。
 そうなったとしても、返り討ちに出来るであろうが三ヶ国連合も総じて凡そ五四〇隻の艦隊なのだ。そうなった時のダメージは推定で六〇〇隻を超える可能性も高い。
もしもそれだけの戦力を喪失したとなれば、SUSは全体の四割近くを失ってしまう事となる。それは避けたい。
以前は地球艦隊など計算に入れた事も無く、管理局の撃滅だけに集中出来た筈なのだ。それがどうだ? 地球艦隊が参入してきただけで予想外の被害を受ける。
しかも他の勢力の参入の可能性まで運んで来てしまったではないか!

「地球の奴らは恐らく増援として現れる可能性が高い。だが、ガルマン帝国やアマールらはどう思う?」
「小官が思うに、ガルマン帝国の参入は低いと考えます。いくら星間国家連合が消えたとしても、ボラー連邦もまた強大な軍事国家。おいそれとこちらへは来ないでしょう」
「ふむ。アマールとエトスはどう見る?」
「両国は第七艦隊との決戦において、多大なる被害を受けております。本星の守り無くして、むざむざこちらへとは来ますまい」

 そうだな、とベルガーがディゲルの言葉に頷く。だが、どちらにしろ地球からの増援が来る可能性は否定出来ない。
情報を纏めた結果では、地球本星に残される戦力は三五〇隻もあるかどうか、という物であるらしいが、他星系の戦力を加えると、相当数に昇るらしい。
出てくるとなれば、その半数か三分の一程度と推測していた。しかし、先日の地球艦隊戦での強さは実証されている。
砲撃戦で同等に持ち込には、あの超破壊兵器(タキオン・キャノン)を封じねばならぬ! そうでもしなければ、いらぬ犠牲を払い続ける事になろう。
 ベルガーは直接に技術部門のザイエン主任へと対応策を要請していた。同時に幕僚達にも対応策を講じさせていた。
そこでザイエンの頭脳は新たな案を構築しつつあった。まだ構想の段階とはいえ、この報告にはベルガーを安心させるだけの説得力を含んでおり、それが決戦時に役に立てば地球艦隊など敵ではなくなるのだ。
管理局本局攻略時までには、何とか完成させると言う話である。ベルガーそれに期待しつつも、全軍の今後の進路を定めんとして会議を続けさせた。
 方や〈ケラベローズ〉要塞のドック内に停泊しているエトス艦隊、旗艦〈リーガル〉の艦橋ではガーウィックとウェルナーが何やら話し込んでいた。

「何、SUSの進撃速度大幅に鈍りだした、だと? それは本当か、艦長」
「はい。その証拠に我々の予定されていた出撃時間が見直されております」

SUSの作戦に変更が出た事を情報部を通じて艦長から報告を受けると、不審げな表情を作って考え込んだ。一体何故、今更になって進撃速度を大幅に遅らせたのか。
管理局とやら相手に大勝を重ね続けていたと聞いていたのに、突然の進撃の延期報告などと……。もしくは自分ら三ヶ国の策謀に感づいたのか? いや、そんな筈はない。
それ程に我らの情報統制は甘くはない。ならば何を理由に? そこである可能性を見出した。

「もしかしたら、銀河系で何か変化が起きたのかもしれん」
「まさか……。銀河系での出来事が、ここまで波及を投げかけるのでしょうか?」
「それは分からん。だが今の我々が知る範囲で考えるにだ、大ウルップ星間国家連合に破局が生じたのかもしれんな」
「!?」

 彼はあくまで可能性を示唆しただけであったが、それも案外あり得る話であった故にウェルナーも驚いた。
自分らの軍事的知識からも推測すると、通常、軍隊の侵攻予定に変化を余儀なくされる場合は、敵の状況変化、僚軍の遅れ、計画外の事態、味方本拠地の襲撃等が挙げられる。
そこから考察して、やはり別方面軍の戦況に多大な変化を余儀なくされ、その煽りを受けたのではないか。実際に銀河系の情報が入ってこない故に、推測しか出来ない。

「閣下、ズイーデル提督とゴルック提督より連絡です。直接にお会いして話したいと……」
「分かった、両提督には了解したと伝えてくれ。それと、会議室へとご案内するよう、手配してくれ」

 凡そ一〇分後にして二人は〈シーガル〉に姿を現した。彼らの話し合いに来た理由、それは言わずもなくして先の計画延期についてだ。
SUSの唐突な連絡に二人は困惑しているように見え、ガーウィックと同じ様に自分らの計画がばれたのではないかと不安なようだった。

「俺が見るに、奴らは俺らの行動に何か不安を抱え込んだんじゃないかと思うんだが」
「私もだ。ガーウィック提督はどう見ておられる?」
「それについてだが、私の見解はやや異なるところにある」

先ほどの艦橋で言った事を、繰り返す形で目の前の二人に話した。話し終わるとどちらも難しい表情を作っていた。もしも元世界で破局が生じていたとなれば、ここにるSUSはどんな行動に出るのか分かったものではない。
破局という事態が正しければ、早々に自分らを消しに掛かるのではないだろうか、と行く先の暗闇に及び腰となってしまうズイーデル。後ろから襲われるなど御免だ。

「どうせ奴らに聞いたところで、正直な事は言わないだろう」
「はっ、奴らの情報に正確さなんてあったためしはないな。何かと不正確な事も多い。先日の地球艦隊襲撃だってそうだ」
「確かにな。ゴルック提督の艦隊は地球艦隊の超兵器で多大な損害を被っておるからな。あの超兵器の注意点など、我々は教えてはもらわなかった」

 事実にしてSUS第七艦隊は、第二次移民船団襲撃に関しての詳しい情報は渡してはいなかった。波動砲なる兵器など、彼らは聞いていなかったのだ。
しかもその存在を明らかにしたのは、彼らがここへ巻き込まれた後の第三次移民船団撃滅計画の直前だった。
おかげでいらぬ損害を受けたのは言うまでもないのが、ゴルック提督の艦隊である。波動砲を知っていれば、もう少し違う形で戦闘を行えたであろうに……。

「まぁ我々は、今度はその地球艦隊と手を組もうと言うのだ。成功すれば、SUS艦隊など蹴散らすことなど容易いだろう」
「ズイーデル提督の言う事は尤もだろうが、油断してはならんだろう。成功しなかった場合も考えておかねばな」

 うむ、とゴルック、ズイーデルの両者は相槌を打った。不意打ちを受けぬよう、細心の注意を払いつつも反旗のタイミングを計らないのは致し方ないとしても、SUSの思考を完全に読み取る事など出来ない恐怖のようなものがあった。
味方を味方として丁重に扱う事など無きに等しいSUS、使えれば使い捨てるだけの事しか頭にないSUS、憎しみを集中させるもそれを押し黙らせるだけの戦力を持つSUS。
 そんな相手を後ろの控えるとは何という不幸であろうか。自分らに市民大虐殺の罪を被せた事を、ガーウィックは決して忘れる事は出来ない。
この重き罪を彼奴(きゃつ)ら――SUSにたっぷりと償わせるまでは、心穏やかには出来なかった。





 管理局の魔導師達がトレーニングを行うために使われる大型のバーチャル・ルームの観戦室の一室に、マルセフ、コレム、東郷を始めとした地球艦隊の艦長達の姿があった。
ただし四三隻の艦長達全員が観戦室に入るには多すぎる他、ドック内の艦隊を統率する者がいないのでは何かあった時の対応に困ってしまう。
そのため、人数を一〇数名に限定した上で後の者には訓練の様子を、通信機を通して艦内にて見てもらう事となったのだ。
 地球艦隊の艦長らの他には、管理からのリンディ、はやて、シャリオの姿が確認出来る。一応、付添または解説の役目を持っており、目の前に行われている光景に説明を加える。

「いやはや……艦長、これを見て如何思いますか?」
「私に聞かれても、正直困るのだ、副長」

これはコレムとマルセフの会話であり……。

(何という……実際に目にすると、あまりにも人間離れした戦闘ではないか)

東郷の独白であり……。

(私よりも若い娘達なのに、何のかしら、この光景は……)

呆れて声が出ないスタッカート……。

(まさに非科学的)

科学人らしい感想のレーグ……。

 他の艦長達も皆、似たり寄ったりの感想を口に漏らしている。その観戦室から眺められるバーチャル・ルーム内部で起きている非日常的な光景を見て唖然としていた。
彼らの目の前で行われている光景、それは六名による魔導師達の模擬戦闘であった。まずはエース・オブ・エースの高町なのは、その親友であるフェイト・T・ハラオウン、後輩であり補佐をしているティアナ・ランスター、同期生のスバル・ナカジマ、ヴォルケンリッターの烈火の将シグナム、同じ騎士のヴィータ。
総勢六人の女性陣の繰り広げる魔法戦闘を実際に目の当たりにし、個人戦闘に特化した彼女らの勇戦ぶりには感服すればよいのか、呆れかえればよいのか、分からない。
複雑な心境が絡み合うコレムであったが、この様な模擬戦を目の当たりにするまで事になったきっかけは、リンディによる一つの直接の訪問にあった。
 それは凡そ一時間の事である。艦長のマルセフは何とか退院して〈シヴァ〉に戻って来ていた。その少し後になって直接通信が入ったのだが、それはリンディからの直接会見の申し込みであったのだ。
どうやら先日話した合同訓練についての報告と、個人的な話で直接に話したい故に〈シヴァ〉へと乗艦したいというのだ。通信で済ましても良いだろうとは思ったが、相手が辺境区にいる訳でもないのに通信で報告するのもどうかと思ったらしい。
 通信から一〇分の時間を要してから、彼女は管理ドックに姿を現した。兵士の案内を受けて会議室へと向かい、先に待っていたマルセフとコレムと対面を果たす事となった。

「ハラオウン提督、わざわざご足労をお掛けして申し訳ない」
「いえ、報告の次いでと言っては難ですが、私的な要件でのお話を伺いたいと思いまして」

少し腰を低めにしたような様子で話され、リンディも恐縮して答える。その後は直ぐに本題へと突入した。管理局はマルセフの訓練要請に応えるものの、交換条件として管理局からの連絡用の派遣員を乗艦させてもらいたいと。
この要件にマルセフは少しの間だけ目を伏せ、考え事をするかのように腕を組み上唇の髭を撫でる。リンディはこの様子を見てやや不安な感じを受け持ったものの打ち消される。

「分かりました、管理局の条件を飲ませて頂きます。連絡用の局員がいた方が何かと役立つでしょうし、我々を監視するという意味もありますからな、我々の様子を眺めやるにも十分でしょうからな、上層部は」
「っ……」
「あ、いや、ハラオウン提督、気を悪くしないで頂きたい。私の発言が軽率でした」

 マルセフの何気ない毒を含んだ言葉がリンディの心に突き立てられた。彼は管理局上層部――しいてはキンガーの判断に皮肉の言葉を投げかけていた。
勿論リンディは彼の言わんとする矛先が上層部であったことは理解出来るものの、その言葉を実際に耳にする彼女には辛い所があった。
自分の軽率な発言に詫びを入れる様子に、リンディは気にしていないと答えて話しを続けた。艦隊が分離して活動する事も考えて、最低でも二隻には搭乗させておきたい。
 その要望にマルセフは頷いて了解した。そこで横にいたコレムが提案を出し、〈シヴァ〉と〈ミカサ〉以外にも後一隻に搭乗させてみてはどうか、とのことであった。

「連絡担当も良いでしょうが、観戦も兼ねるとあれば戦艦ばかりも難でしょう。ですから、巡洋艦辺りにどうかと……」
「ふむ……駆逐艦は被害率が高いし、戦艦も被害担当艦となる事もあるからな。妥当な線であるが、どの艦に乗せると言うのだ?」
「え、あの、三隻にも乗せてよろしいのですか?」
「大丈夫ですよ、ハラオウン提督。我々は局員の命を、責任を持って守らせて頂きます。それに副長の言ったように、別の艦の戦いぶりというのもを見てもらっても良いでしょう」

コレムはどの艦に乗艦してもらうべきかを考えた。考えた結果……。

「艦長、丁度良い艦がありましたよ」
「何かね?」
「〈ファランクス〉辺りはどうです? あの艦は巡洋艦でも戦艦並みの装甲を有していますし、戦法も一風違ったものが見られるでしょう」

正式には装甲巡洋艦である〈ファランクス〉を指名したのは絶妙というべきか、当艦は確かに他の巡洋艦とは違い防御が一段と高い。乗艦させても大丈夫だろうと踏んだらしい。
加えて一隻に対しての局員乗艦数に関しても、二人くらいまでなら許可は可能だと言ってくれた。ただ予想外の許可にリンディもどうすべきかと迷った。
予定では五名――リィンフォースUを含めであったが、また新たに一名を選んでおく必要があるようだ。
 だが誰を選ぶ? この面子なら、なのはも観戦武官的な位置で選べそうだ。が、生憎と彼女も教導官としての役割を担っている。やはりこれは一隻に一人の方が良いのか?
取り敢えず了解は貰ったのだ、人選はこの後に決めるべきだろう。次として話を持ち出したのは、魔導師達による模擬戦闘の観戦に参加を願えないものかというものだった。
この申し出に思わずマルセフとコレムは顔を見合わせてしまったが、リンディもまた相互理解を深めるためと言うものだから、一本取られたような気分である。

「分かりました。ハラオウン提督からの直接のご招待、受けさせて頂きましょう」
「ありがとうございます。急な話をお受け頂いて感謝します。実は、既に準備を取りつつあるのですが……」

まるでこちらの参加が織り込み済みの様だ。マルセフはそう思うものの、これといってやる事も無い。管理局との艦隊訓練を開始するにもまだ時間が掛かりそうなのだ。
 マルセフは苦笑するも了解したと返答し、準備が整い次第向かうと言う。リンディは案内役を務めるらしく、取り敢えず艦内にて待機する事となった。
その観戦しにいくメンバーについて、マルセフは全員を参加させる訳にもいかないために最小限と決めた。
そしてリンディにも模擬戦の様子を撮影してもらい、さらに艦隊へと直接に繋げて欲しい旨を伝える。

「分かりました。模擬戦の様子は、私の方から手配して生中継という形で送ります」
「では、副長。テラー通信長に全艦へ通信を送る手配をしてくれ」
「ハッ」

 マルセフからの指示を受けたコレムは艦内ヴィジホンを手に取り、早々とテラーへ繋いで内容を伝える。その数分後に艦隊の各指揮官の顔が3D通信画面に現れた。
副司令官代理の任を受けている東郷に加えて、各戦隊の司令達が顔ぶれを揃える。戦隊とは言っても、残存兵力で再編成されたものだ。故に元の戦隊ではなかった。
マルセフから模擬戦の観戦の事を伝えられると同時に、メンバーを直接発表した。残るメンバーに関しても生中継される映像通信で見せるとの事も伝えられ、皆はその準備に入る。

「一〇分程でドックのフロアに招集が完了しますから、私達も下艦して向かいましょう」
「はい」
「……ところで、ハラオウン提督は派遣局員のメンバーを既にお決めで?」

突然に話題を帰られたリンディは少しばかりどう返答しようかと迷った。ややあって彼女は、一応の候補は上がっているのだが、と躊躇いがちに答える。
 すると当然の如く、マルセフはそのメンバーについて把握しておこうと名前を聞いてくる。別に隠す必要もないと判断したリンディは、そのメンバーの名を上げた。
その中にはやて、フェイトらの名前があった事に、マルセフとコレムも、意外な気がした。

「彼女らは役職の立場上、こういった場合に動き易いんです。それに、マルセフ提督とコレム大佐にも面識はありますから」
「成程、承知しました。ハラオウン提督のご息女並びに八神二等陸佐は、しっかりと責任を持ってお預かりしましょう。しかし、それでは後一名程足りなことになりますが?」
「えぇ、実は先の二名には補佐官をつける予定でした。コレム大佐もご存じだと思いますが、ティアナ・ランスター一等陸士と、シャリオ・フィニーノ一等陸士です。」
「存じています。確か、ハラオウン提督との初対面で付いていた女性でしたね?」

リンディは頷いた。コレムは直接に詳しい話をしたことは無いが、一度会っているだけでも結構違う筈だと思っている。
そしてはやてと共にいるユニゾン・デバイスの事もマルセフに話したものの、彼もコレムから事前に聞いていたため別に驚く事も無かった。
メンバーを一通り聞いたが、やはりこれでは後二名は必要になってしまう。それとも、二隻のみにした方が良いのだろうか?
悩ましげな表情をするマルセフに、リンディは後に詳しい人選を決定すると告げられたので、考えるのもそこまでした。
 それからきっちり一〇分後の事、選抜された面々は予定された時間に集合ていた。リンディも初めて見る他艦の艦長や司令達の顔ぶれだ。

(私と同じように、女性艦長がいるのね)

中にはリンディと同じような女性艦長――スタッカートの姿も見られた事に彼女は驚いていたが、他にも女性士官はいた。
 まずは旗艦〈シヴァ〉からはマルセフとコレム、戦艦〈ミカサ〉からは東郷と副長の目方真愛美(めかた・まなみ)中佐。
装甲巡洋艦〈ファランクス〉からはスタッカートとレーグ、戦艦〈リットリオ〉からは艦長のフォルコ・カンピオーニ大佐と副長のエミー・クリスティアーノ中佐。
戦闘空母〈イラストリアス〉からは艦長のカール・フレーザー大佐と副長のクリストファー・マリノ中佐、といった面々であった。
 リンディが見るに最年少は凡そ二〇代後半で最長が六〇代半ばといったところである。管理局の様に様々な出身国の士官達であるが、ここにいるのは日本人、イギリス人、イタリア人、フランス人、そして例外ではあるデザリアム人だ。
地球連邦(E・F)が成立して以来、政府や幹部達は組織意識を一体化して団結力や行動力を高めるためにも、各地域毎の人選或いは育成というのも苦労が絶えなかったという。
時には民族意識の強さゆえに暴動が発生したり、国同士の因縁が絡んで騒ぎになった事も少なくはない。
 しかし、その様な意識を徹底して改めさせたのが、旧ガミラス帝国から始まる敵性外部勢力の果てしのない攻撃であったとは、皮肉としか言いようが無いだろう。
人類が絶滅に瀕していた事が逆に、“地球人類”としての連帯性をさらに高めたのだ。それを証拠としている一例と言えば、艦名と乗組員である。
例えば、日本出身の士官ならば日本記名の軍艦に乗るという考え方が強いものであるが、防衛軍では艦名と人選名が一致する事は少ない。
〈ファランクス〉が当て嵌まり、次に〈イラストリアス〉もイギリス人とフランス人という組み合わせだ。今や地球連邦にとって当然の光景として映っている。
招集されたメンバーはリンディの案内を受け、待っているであろう模擬戦闘バーチャル・ルームへと足を運ぶことになり、視点は凡そ三〇分後程に進むのである。



〜〜あとがき〜〜
どうも、第三惑星人です!
今回で何とか模擬戦に入ろうとつもりですが……見事に間に合いませんでした(汗)。
地球視点に始まり、SUS、三か国連合、マルセフ達、という具合に進んでいたが故に入りきれなかったと言う……。
次回からは模擬戦シーンになりますが、これまた筆者にとって苦手な描写なので、やはり省きかねないです(リリカル派の方には申し訳ない)。
では、次回の更新に向けてお待ちください!

拍手リンク〜
[三三]投稿日:二〇一一年〇四月二九日一七:四二:三七 橘花
いつも楽しみにさせていただいております。
いやはや、移動司令部とは予想外でした。もしやこれには銀英伝の宇宙要塞よろしく要塞砲のような役割の波動砲が搭載されていたりするのですかね。
これからも頑張って下さい。

>>書き込みありがとうございます!
〈トレーダー〉級に関しては残念ながら波動砲は搭載出来ませんでした。
あくまで司令部なので、そこまでの必要もないと見た所以です(汗)。

[三四]投稿日:二〇一一年〇五月〇一日一九:四六:六 EF一二 一
移動式要塞司令部ご登場ですか。
ガイデルさんとこの要塞に刺激されたのでしょうか?
それが次元空間に出現した日には、本局は腰を抜かしそうですね。
司令部自体にも波動砲級の要塞砲がくっついているのでしょうか?

>>毎回の書き込みに感謝します!
移動司令部については、復活編がYAMATO二五二〇に繋がる要因が多いという事で、ならばあの移動司令部も……ということで生まれましたが、当作品での移動司令部発案は、常連読者様たるフェリさんです。
そして波動砲の搭載を予想されているようですが、残念ながら本級には……(汗)。
それでも何とか活躍させるつもりですので、それまでお待ちください。



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