SUS軍と地球艦隊以下、連合軍との死闘の最中に突如として現れた援軍。それは地球では伝説として称えられてきた、宇宙戦艦〈ヤマト〉と艦隊の姿である。
止めを刺そうとしたSUSはこの援軍に気圧され、対する連合軍――特に〈シヴァ〉率いる地球艦隊の士気は著しく上昇した。
確かにディゲルはこの援軍を想定していた。しかし、それは考えうる最悪の想定であり、焦りを禁じ得ない。
七〇隻弱の援軍であろうと、地球艦隊の実力はこれで二一〇隻分といっても過言ではなかった。後方から接近して来るこの援軍を迎撃させるべく、第六戦隊を急遽向かわせる。
だが、それを抑え切れる保証はない。ここはなんとしても、本局を落とさねばならないのだ。

「SUS艦隊およそ二〇〇隻、こちらへ向かいます!」
「時間を駆けている暇はない、速攻戦でいく。本艦は波動砲(タキオン・キャノン)発射の秒読みに入る!」

  旗艦〈ヤマト〉艦橋にて堂々とする男、古代 進は波動砲攻撃を命じていた。彼はSUSを排除する一方、傷ついている味方艦隊の救出が最優先だと決めたからだ。
対してSUS軍第六戦隊は、波動砲を考慮して部隊を分散させる行動に出た。少しでも被害を抑えつつも、増援艦隊の足を止めようと言うのであろう。
しかし、これは或る意味で好都合だ。スクリーンに表示される戦況表示画面を見て、古代はSUSの警戒ぶりが、この場合はプラスに働いている事を理解した。
  ここで波動砲を発射したとしても、恐らく七〇隻も仕留められることは無いだろう。だが、この分散している状況で突入を掛ければ容易くこの宙域を抜けられる筈だ。
第一特務艦隊とSUS第六戦隊が交戦可能距離に入る直前になって、前から準備していた波動砲発射シークエンスのカウントがゼロを指した。

「波動砲、発射ァ!」

古代の命令に反応して、戦術長の上条 了が波動砲発射トリガーを引き絞る。〈ヤマト〉の艦首から放たれた波動砲は、第六戦隊の一部を瞬く間に呑み込んだ。
収束型にされている〈ヤマト〉の波動砲だが、それでも怒涛の勢いを持って周囲を照らし、SUSを食らい尽くす。

「レーニッツ提督、SUS艦隊の一部が消滅しました!」
「なんと、あれが……波動砲か……」

  管理局本局の中央指令室にいた者は、皆が新たな衝撃に身を震わせた。強力な発光が数秒程、スクリーン全体を覆ったかと想えば、次には第六戦隊の三〇数隻が消えた。
以前に襲われた〈アムルタート〉の記録からも、波動砲の威力は承知していた。実際にその瞬間を目の当たりになると、大半の局員が足を震えさせてしまっていた。
  リンディもレティも、波動砲が自分らの想像を超える超兵器であることを再認識していた。だがその割には、今の戦果は小さすぎはしないだろうか……。
そう違和感を感じたが、すぐに古代の狙いに気づく事はなかった。しかし、それよりも違和感があるとすれば、地球防衛軍(E・D・F)の増援がこの空間へ現れた、ということだろう。
地球艦隊は次元転移技術を有してはいなかった筈だ。なのに、どうしてここにいるのか? 単なる事故で来た訳ではなく、明確な目的を持ってこの空間へとやって来たのだ。
この疑問が晴れるには時間を駆ける必要があるようだろうが、それは本人達に聞くべきだろう。ただし、この戦闘を乗り終えてからの話であるが。

(もしかして、あれが騎士カリムの予言した地球の援軍!)

  リンディはカリムの予言した言葉を咄嗟に思い浮かべた。そうだ、予言には遥かな地より導かれし者達、と記されていた。この導かれし者達を案内するのが管理局の艦らしい。
ならば、あの〈ヤマト〉らのどこかに〈アムルタート〉がいるのか! ここでドキリ、とリンディは心臓の鼓動を強く打つ。まさか、あの次元震というのは……。

「地球艦隊かもしらへんな……」

  そう言ったのは執務室で戦況を見ていたはやてだった。彼女の見解はリンディとほぼ同じだ。あの増援艦隊が、次元震の元凶であるかもしれないと感じたのだ。
この想像にはフェイトを始め、シャリオ、ティアナも息をのむ。援軍として来てくれたのは有り難い、しかしあの様な巨大次元震を引き起こすとなると、恐ろしく見えた。
フェイトは、はやての考えに否定的ではなかった。ただ、もう少し確証が欲しい所だ。とは言っても、今の状態でする話でもない筈だ。
  改めてディスプレイへ目を向けた。そこには、波動砲で穴を空けた第六戦隊へ突入して行く〈ヤマト〉以下七一隻。
陣形を崩した第六戦隊の上下から襲い掛かる〈コスモパルサー〉、〈彩雲〉艦載機隊。波動砲撹乱から艦載機攻撃による援護、そして艦隊の突入までの一連の流れ。
どれもが乱れのない動きに、はやてもフェイトも思わず驚きの声を漏らした。

「凄い。あの艦隊の動き、マルセフ提督達に劣らないかも」
「ティアナの言うとおりだね。艦載機と艦隊の連携攻撃、あれも相当な訓練を重ねている証拠だよ」

一切乱れのない、見事な連携攻撃……〈シヴァ〉だけに限った事ではないのだ。やはり、地球防衛軍は全体として優秀かつ有能な人材が多いのだろう。
  しかし、ここで本局にとてつもない衝撃が走った。それは一本の通信からだった。内容を見た中央指令室の人間は、皆が表情を凍りつかせてしまったのである。

『こちらミッド地上本部! 現在SUS艦隊と交戦中、至急来援乞う!!』


ミッドチルダはSUSの攻撃を受けている! これはいったい、なんの冗談であるのか? 今、我々の目の前にSUSがいるのだ。
ここを落とすつもりで、SUSは一〇〇〇隻をも超える大艦隊を差し向けて来たのではないか!? 中央指令室にいたレーニッツは表情を強張らせて声が出ない。
  キンガーも身体を震わせている。リンディとレティも、ミッドチルダ襲撃の報告に心臓が止まりかけた。ミッドチルダの衛星軌道上には艦隊がいない。
本局所属の艦艇は全て、目の前の戦線へ投入してしまっているのだ。無防備も同然の筈、このままではミッドチルダが落ちる!
それにだ、地上には疎開させた市民や局員も大勢いる。そんなところへ攻撃を受けてしまったら、被害は計り知れないに違いない。今頃は地上部隊が奮戦しているのだろか。

「あかん、ミッドチルダには、なのはちゃん達が……っ!!」
(なのは!!)

  はやて達も、この知らせに驚愕し思わず席から立ち上がった。ミッドチルダには、なのはを始めとしてヴォルケンリッターの面々や後輩達、友人が大勢いる。
少しは安全だと思ったミッドチルダが攻撃を受けた、親友たちの命も危険に晒されている。衝撃が大きすぎる急報に、はやての身体はクラっと崩れかけた。

「っ! はやてちゃん!」
「はやて!?」
「はやてさん!!」

傍にいたリィンフォースUが悲鳴を上げ、フェイトも倒れそうになった親友を慌てて抱きしめる様に支えた。ティアナ、シャリオも傍に駆け寄り、声を掛ける。
ここのところ、はやての表情が優れないように見えた。何が不安を抱えていたのだろうが、今の急報でそれがピークに達したのだろう。
  支えられたはやては、フェイト達に対して、大丈夫や、おおきに……と、あからさまに無理な作り笑いな表情を見せている。

(まさか、SUSの狙いが本局だけやなくて、ミッドチルダの地上本部にもあったなんて……!!)

SUSの真の意図が、ミッドチルダ攻略にある事に気づけなかった自分自身を、はやては呪った。しかし、分かっていたとして、彼女に何が出来たのか?
地球艦隊に余力はなく、管理局の次元航行部隊も同様。多方面からの支援も望み薄だ。SUSは本当に狡猾だ、彼女はそう思う。
本局陥落と地上本部攻撃を同時進行させていたなんて! 報告ではミッドチルダ中心都市クラナガンは、完全な戦場と化しているらしい。
  ただし、どういう訳か市街地には被害が少なく、どちらかといえば地上本部といった管理局の施設を中心としているようだ。
やっと通信が回復した矢先にこの有様だ……。今頃、なのは達が懸命に闘っているのだろうが、太刀打ちできるとは思えない。いったいどんな事になっているのか……。
それに、これでは本局に残る局員達も離脱できない。離脱予定先がミッドチルダであったのだ。そこを攻撃されてしまったとなれば、後に行ける場所はかなり限られる。
  第2管理世界か、第3管理世界あたりになるだろう。しかし、今撤退の指示を出してしまったらどうなるか?
やっと士気を盛り上げた地球艦隊らを、再び危機に陥れる可能性がある。上層部はどう対応するのか……。
はやては今だ困惑した様子で友人たちを心配し、そして目の前で戦う友軍を見やるのであった。





  SUS軍第六戦隊は艦載機部隊による上下からの波状攻撃と、地球艦隊からの集中砲火で瞬く間に壊乱の淵に叩き込まれた。
散開していたために予想よりも損害が少なかったのだが、逆に混乱を引き起こしやすくなったことまで、指揮官も頭が回らなかったのだ。
急ぎ艦隊を密集させようとする第六戦隊だが、それもまた仇となった。古代はこの動きに対して、集結するであろうポイントへ全艦艇によるピンポイント砲撃を命じる。
それだけではない、第六戦隊が集結するのに合わせて艦隊の陣形を広げて半包囲陣を形成させたのだ。二個分艦隊が命令に従い、素早く左右へ陣を伸ばす。

「いっきに崩すぞ、主砲斉射!」
「撃ッ!」

  第二分艦隊司令、南部も集中砲撃でSUS軍第六戦隊を早々に切り崩しにかかっていた。元々が砲術部出身だけあって、その卓越した砲撃戦は古代と肩を並べる程の手腕だ。
旗艦〈比叡(ヒエイ)〉の主砲六門が空間を引き裂き、SUS艦を瞬く間に葬る。撃破されたSUS戦艦に、別のSUS戦艦が突っ込み巻き添えを喰らう。
集結する動きが、状況を悪化させているのだ。

「脆いな……敵さんは混乱しているぞ、このまま撃ちまくれ!」

  彼の第二分艦隊は右翼を担当していた。中央には古代直属の第一分艦隊、そして左翼の第三分艦隊は劉が統率している。
劉と合同して、南部はSUS第六戦隊を左右から挟撃戦を展開した。三倍以上のSUS軍第六戦隊が、第一特務艦隊に半包囲されかける状況にある。
しかも射撃照準装置は正常にあるため、地球艦隊の砲撃は尽くSUS艦を撃ち減らしていく。正面、斜め左右から撃たれるSUS軍第六戦隊は艦列を突き崩されていった。
  前列に並んだ艦艇から、順々に脱落していく。かたや第一特務艦隊の損害は軽微である。たちまち守勢に追い込まれてしまった第六戦隊はその守りすら覚束ない。
反射的に艦隊を密集させるが、それは戦況悪化を招くだけに終わった。防御に専念しているつもりだろうが、密集すればするだけ第一特務艦隊は包囲陣の間隔を狭めていく。
逆に第六戦隊が厚みを減らしていくという状況に陥るのだ。まさに一方的な展開、数を減らすSUSに対して、古代は容赦しなかった。
  そして彼の乗る〈ヤマト〉も、存分にその力を発揮した。

「艦長、敵艦隊が左翼部隊へ突出してきます!」
「無理に通すまいとするな、左翼は右舷方向へ敵を逸らしつつ攻撃を続行。我が部隊は左舷方向へ反転し、突破しようとする敵艦隊を攻撃、挟撃する。右翼部隊は敵艦隊の後背へ回り込み、攻撃を集中せよ!」

古代は素早く各部隊へ行動を命じた。SUS軍第六戦隊は古代の第一分艦隊と、左翼部隊たる劉の第三分艦隊の間へと捻じり込んでいく。
  しかし、第一分艦隊と第三分艦隊は攻撃を逸らしつつ、逆に突出して来たSUS軍第六戦隊を斜め左右から挟撃する形となったのだ。
残る第二分艦隊、南部は素早く後背へと回り込んで無防備な背中へ砲撃を集中させる。突破しようとしたSUS軍第六戦隊が、逆に追い出されていくような構図が完成した。
結果としてSUS第六戦隊は二一〇隻から一二〇隻にまで撃ち減られた挙句、潰走を始めた。それを見向きもしない古代は、すぐに反転命令を下す。
今度は〈シヴァ〉を助ける番なのだ!

「撃て! 撃って、撃って、撃ちまくれぇ!」

  〈シヴァ〉率いる連合軍は、まるで息を吹き返したような反撃ぶりだった。劣勢だったベルデル艦隊も、ようやく態勢を立て直してSUS軍第三戦隊へ逆撃を浴びせている。
その右隣で戦っていたフリーデ艦隊も、不利に陥っていたベルデル艦隊を支援すべ行動を開始した。大胆にもSUS軍第四戦隊へ攻撃しつつも、左舷側にいる第三戦隊に対して、左翼部隊で攻撃を浴びせたのである。
二個艦隊の連携を前にして、第三、第四戦隊は遂に崩れた。後方から地球の援軍が来ているというのが、精神的に彼らを圧迫し、対応を後手後手に回しているのだろう。
  左翼に位置するエトス艦隊も息を吹き返した。ガーウィックは兵士達を鼓舞すると、正面にいるSUS軍第五戦隊に対して、先頭集団に砲火を集中させる。
被害を出すまいと正面の防御を固めようとするのだが、ここでエトスの伝家の宝刀が引き抜かれた。固まり始めた先頭集団へ、メタル・ミサイルを一斉発射させたのだ。

「粉微塵にしてやるのだ。全艦ミサイル発射!」

貫通性を第一に、爆発力を第二にして設計されたこの兵器。徹甲弾にも似たミサイルは、(イワシ)の大群の如くして、先頭集団へと襲い掛かった!

「エトス艦隊から、ミサイル接近!」

  ここにおいても、密集隊形が仇となった。SUS軍第五戦隊は真正面から降り注ぐミサイルの大群に襲われ、次々と戦艦に穴を空けていく。中には貫通するものまであった。
SUS艦は基本的に前後より上下に大きいタイプだ。そのため、前後の厚みは他の艦艇よりも必然的に薄い。容易く打ち抜かれ、爆沈するのだ。
そしてガーウィックは、ゴルックがやったように、右舷側で戦う地球・管理局艦隊へ援護をこなした。メタル・ミサイルの一部を、SUS軍第一戦隊の右翼部隊へ撃ち込んだのだ。
  半包囲しかけた第一戦隊の右翼部隊は、右舷方向から飛んできたメタル・ミサイルにより艦列を乱される。その様子は、〈シヴァ〉からも見て取れた。

「エトス艦隊の援護により、左舷の敵部隊に乱れが生じました!」
「見事な援護だ……」
「司令、次元航行部隊よりアルカンシェル反応!」

ガーウィックの援護射撃を敏感に感じ取ったのはオズヴェルトだった。彼は左舷に入るSUS分隊目がけて、大胆にも反応消滅砲(アルカンシェル)の発射を命じたのである。
ここでアルカンシェルを使うのは危険極まりない。射程外で使用するならまだしも、既に交戦可能距離にいるのだ。しかもいち早く見抜かれてしまうデメリットを持つ。
  しかし、今は状況が違う。エトス艦隊の援護射撃で隊形を崩された相手ならば、アルカンシェルは効きが無かろうとも、大いに混乱させるには効果的であった。
マルセフも、オズヴェルトの思惑を大凡ながら把握した。そして艦列を乱されたSUS右翼部隊は、混乱の収拾を付ける間もなくやって来るであろう、アルカンシェルに慄いた。
普段は欠陥兵器だとあざ笑っていたSUS将兵達も、思わず蒼白になる。ここで司令官の出来る事といえば一つしかなかった。即ち――散開せよ! である。
  慌てて散っていくSUS軍右翼部隊に向けて、アルカンシェルは放たれた。実際に発射したのは〈XV〉級艦船三隻である。
残る艦はひたすら前進後退を繰り返して戦列の維持に必死だ。

「――アルカンシェル、着弾を確認しました!」
「SUS艦、少なくとも三五隻は消滅した模様!!」
「なんとっ!?」

これは単に撹乱させるだけに留まらなかった。マルセフの期待を予想の斜め上を行き、SUS右翼部隊を半壊させてしまう被害率を叩き出したのだ!
SUS軍は二一〇隻の内、一分隊を七〇隻としている。その一分隊を、次元航行部隊のアルカンシェル三発は一度に三〇余隻を削り取った。
  もはや、右翼部隊にまともな組織行動をする力はない。

「チャンスだぞ! 全艦、四時方向へ後退しつつ、敵左翼部隊へ砲火を集中!!」

勢いの弱まったSUS軍右翼部隊にかまわず、マルセフは艦隊を四時方向へと後退させる。これは先ほどゴルックが取った行動と同じだ。
SUS軍左翼部隊、中央部隊から包囲攻撃を避けるために、左翼部隊のさらに外側へと回り込もうとした。





「第二分隊、半壊!」
「カーゴ准将も戦死した模様!!」
「閣下、敵艦隊が第三分隊に攻撃を集中しつつ、一〇時方向へ後退します!」

  旗艦〈ムルーク〉に入る損害報告により、通信回線や情報処理コンピュータ――いや、寧ろ中に乗っている兵士がパンク寸前だった。
ディゲルの表情に、余裕の雰囲気は既にない。直属である第一戦隊の三割を失い、他の艦隊も三割以上の損失を出している。あの第六戦隊など、五割越えも良い所だ。
決して笑えもしない。この時点で彼は撤退命令を出すべきであったろう。だが地球人と管理局、そして生意気なエトス、フリーデ、ベルデルの三ヶ国、彼らに苦杯を舐めさせられた屈辱は耐えがたい苦痛だ。

「全艦艇に次ぐ。全艦、敵陣を強行突破次第、本局を攻撃! しかる後に、そのまま離脱する!! 残る支援部隊も全力で本局を攻撃せよ! 生きて帰れると思うな!!」

  ディゲルはこのまま離脱させるのではなく、一矢報いるためにも艦隊を強行突破させた上で、本局を攻撃しつつ離脱しようと考えた。
後背からは地球の増援艦隊が迫るためでもある。元々は管理局を落とす事が目的だった筈だ。しかし、これでは管理局を攻撃するにとどまり、達成しえない事となるのだ。
  それでも……彼は地球艦隊の姿を睨めつけた。

「本艦も突入する! 後ろには構うな、ひたすら前進して虫けらを捻り潰せぇ!!」

ディゲルは艦橋で号令とも悲鳴とも言い難い怒号で命令を発した。全高一五〇〇メートルの小型要塞――旗艦〈ムルーク〉は率先し先頭に立って前進を始める。
  だが他艦よりも巨大な〈ムルーク〉の前面進出に、SUS軍ではなく地球艦隊、次元航行部隊側の方が驚かされた。何しろ、親玉らしい艦が率先して出て来たのだ。
これはチャンスであろうか、マルセフは機会を捉えたとは言い難い表情をしている。あの巨大艦は並大抵の攻撃では落ちないだろう。まさに、要塞そのものが殴り込んで来るのだ!
〈ムルーク〉が動き出すのと同時に、他のSUS艦艇も一斉に前進を始めた。それは陣形というものを無視しているかのようで、ただひたすら突撃して来る。
その光景は、まるで雪崩や津波を相手にしているとも思える。陣形という名の防壁を打ち壊さんとして、SUS艦隊は襲い掛かる。その怒涛の進撃に回避行動は間に合わない。

「後退しつつ、敵の先頭集団に砲火を集中! ここを一歩も通すな!!」
「く、駆逐艦〈サムソン〉、通信途絶しました!」
「巡洋艦〈ジョンストン〉、大破! 戦闘不能!!」
「司令、敵は損害を無視して来ています。これでは我が艦隊は……!」

  地球艦隊は乱戦に陥る前にSUS艦を各個撃破しようとするのだが、間に合わない。対応処理を大幅に上回るのだ。艦載機部隊も、足並み崩そうと奮闘するが効果がない。
ここで通してしまっては、後方の管理局本局が危機に晒されてしまうのだ。予定では本局を破棄するとのことで、空間歪曲波の消えた今なら、その作業が進んでいる筈!
実際に本局では撤収作業が行われている。ただし、ミッドチルダの訃報はマルセフらに伝えられてはいない。余計な混乱を避けるという意味合いがあるためだ。

「本局の撤収には、まだ時間が掛かるぞ。このままでは……」

  この本局襲撃前にも撤収作業は続けられていたために、今残るのは重要な局員や整備班のみである。それでも軽く三〇分は見積もるべきか。
撤退先として選ばれたのは、第二管理世界である。局員達は僅かなオペレーターや司令官たるキンガー、レーニッツ等を残し、次々と転送ポートで脱出している最中。
せめて全員が離脱できるまでは時間を稼いでおきたいが……。が、ここでもまた、損傷艦や脱落した艦艇の報告が上がる。〈シヴァ〉も数発の被弾が見られていた。
  数分もせぬ内に、地球艦隊と次元航行部隊は、SUS軍第一戦隊に乱戦へと持ち込まれてしまった。同時に他のSUS戦隊は無謀な強行突破を成し得つつある。
ベルデル艦隊と交戦していたSUS軍第三戦隊は特にいち早く突破に成功した。壁となっていたベルデル艦隊を無視して、本局へと一直線に向かっていく。
それだけではない。本局に突然、高エネルギー砲が叩き込まれたのだ。これは全滅を免れた〈ガズナ〉級によるものだった。これにはマルセフも嘘を付かれた表情になる。

「司令、敵の潜航艇が本局を攻撃しています!」
「さっきの生き残りか! 直ちに波動爆雷の射出用意、敵の砲撃ポイントへセット次第、発射せよ!!」

  手一杯なこの状況で、マルセフは波動爆雷の再発射準備を命じる。本来は近距離或いは中距離に良く使用する兵器だ。しかし、遠距離にも転用する事も可能である。
ジェリクソンが発射の手筈を整える間に、〈シヴァ〉へ迫る巨大な艦影が確認された。それは〈ムルーク〉だ。親玉が堂々と正面へ現れた事に、クルーに緊張と恐怖が走る。
後方では本局が攻撃を受け、前面にはSUSの旗艦が迫る。〈ヤマト〉らは援護しようにも些か距離があった。波動砲を使えば、味方を吹き飛ばす結果になりかねない。
精々、艦載機により援護攻撃が手一杯と見た。もはや周りなど気にしてなどいられない中で、〈ムルーク〉の対応を命じた。

「第一、第二、第三主砲は波動カートリッジ弾を装填! 残る砲門は装填完了まで通常砲撃を続行!!」
「て、敵巨大艦発砲!?」
「巡洋艦〈ファランクス〉、被弾しました!!」

  〈シヴァ〉が撃つよりも早く、〈ムルーク〉が先に手を出した。が、その砲撃は前面にいた〈ファランクス〉に命中してしまったのだ。
〈ムルーク〉の大口径砲三発が突き立てられる!装甲巡洋艦〈ファランクス〉が、いかに戦艦並みの装甲を持ち得たとしても、その砲撃を受けきる事は適わない。
命中した箇所から爆炎を上げると、大きく軌道を逸らしていった。

「〈ファランクス〉大破! 戦闘不能の模様!!」
「くそぉっ! 主砲、斉射ァ!!」

  味方艦が盾になってしまった事を悔やんだジェリクソンが、発射を命じる。残る主砲、副砲九門が正面の〈ムルーク〉目がけて砲撃を開始。
しかし、その砲撃は効果を挙げなかった。六発近くがシールドで逸らされ、突破した三発は装甲に直撃した途端に、それもまた逸らされてしまったのだ。
これは〈ムルーク〉が縦長かつ正面面積が小さい事が起因である。残る一発は、何とか真正面を狙えたようで、〈ムルーク〉の大口径主砲二門を全壊させた。
  だがこれ位で怯む相手ではない。倍返しにと砲撃して来たのだ。それは先ほどの大口径砲ではなく、副砲群五〇門によるものだった。
SUS標準型戦艦に使用される主砲五〇門、大半が〈シヴァ〉に命中した。一瞬にして火だるまに包まれる。

「戦闘管制室および索敵管制室に被弾、右ウィング損傷、第一、第四、第六主砲大破!!」
「左舷滑走路に被弾、第二魚雷ポッド損傷使用不能、右舷装甲板に損傷!!」
『こちら機関室、出力六三パーセントへ低下!』
「司令!!」
「怯むなぁ! 反撃しろ!!」

アラームの鳴り響く艦橋内で、マルセフは反撃命令を出す。やられた分を返す、と言わんばかりにカートリッジ弾の装填が完了した主砲と、残る主砲が共に砲撃する。





「〈シヴァ〉発砲!」

  〈ムルーク〉艦橋で兵士が叫ぶ。直後、艦橋内部が被弾の影響で振動した。カートリッジ弾六発、エネルギー弾二発が真正面に命中した。
カートリッジ弾は〈ムルーク〉の中央辺りに並ぶ大口径砲群に風穴を開け、内部へと飛び込む。そして、僅かな時間差を置いて爆発する。
艦内部で爆破された波動エネルギーの威力は恐るべきものだ。カートリッジ弾は〈ムルーク〉中層内部を尽く破壊したのである。
外装は硬い装甲を持っていたとしたとしても、さすがに主砲部分まで強固には出来ない。それが〈ムルーク〉のアキレス腱となった。
  だが、ディゲルはそんな被害報告に構ってはいられない。

「中層階の被害甚大、下層階の連絡および砲撃システムが遮断されました!!」
「損害にかまうな、〈シヴァ〉を叩き潰せ!」

艦内の爆発でバランスを崩しながらも、〈ムルーク〉は再充填した主砲を撃ち放つ。残る上層階の大口径砲一〇門が撃つ!
しかし、照準システムに異常をきたした状態では、満足に砲火を命中させる事など適わぬ事だ。命中したのは僅かに二発で、〈シヴァ〉はこれに耐える事が出来た。
それでも損害は大きく、艦橋横にある左ウィングを消し飛ばした挙句、艦首部を大きく損壊させた。さらなる追撃をかけようとするディゲルだが、生憎とそれまでであった。
  被弾しながらも反撃に出ており、カートリッジ弾の第二射目が〈ムルーク〉の上層部と安定翼に突き刺さる。

「右舷翼に被弾、副砲群三〇パーセントが砲撃不能!」
「上層階に敵弾命中、被害甚大!」
『き、機関室に被弾! 出力が安定しません!!』
「閣下、〈ムルーク〉の戦闘能力は七割を失っております。もはや戦闘継続は……」
「この〈ムルーク〉級一番艦が、奴ら如きの艦を捻り潰せぬとは……だが、このままでは終わらんぞ」

そういうと、撃沈間近の〈ムルーク〉艦橋で立ち上がる。

「ぶつけろ……こいつを奴らの要塞へぶつけてやるのだ。〈ムルーク〉最大戦速、本局に突入せよ!」

他の兵士に有無を言わさぬ気迫だった。この戦い、我らの敗北だ。それは認めてやる。だが無料(タダ)では済まさん。貴様等の勝利の代価、如何に高くついたか思い知れ。
ディゲルは脱出艇の用意をさせつつ、〈ムルーク〉を自動航行に切り替えさせる。そして自らは脱出艇へと向かうのであった。
  〈シヴァ〉は、瀕死であろう〈ムルーク〉が突っ込んでくるのを見て、撃破するよりも回避に専念する事を選ぶ。
四五〇メートルの艦体でも、一五〇〇メートルの巨体がぶつかっては到底持ち堪えられないのだ。

「左舷へ反転しつつ、九〇度左へ傾けろ!」

レノルドが操縦桿を左へ捻りつつ、思いきり手前に引いた。〈シヴァ〉は機敏な反応を見せる。翼が当たらぬように真横に傾いたまま、左舷方向へと逸れていく。
〈ムルーク〉は〈シヴァ〉との衝突を回避されるが、それはお構いなしに目標へと突き進んでいった。
  この時、SUS軍の大半は連合軍側の陣営をすり抜け、本局へ殺到した。突破された側も慌てて追撃に入るのだが、それは躊躇われてしまう。
SUS艦隊は本局へ向かっている。となれば、砲撃の流れ弾が本局へと命中しかねない。しかし、だがからといって指を加えて見ている訳にも行かない。
確実に命中させて数を減らさねばならないのだ。本局に突入していくSUS軍残存艦はおよそ六〇〇隻前後。
  マルセフは焦る。不味い、このままでは本局に残る人が危険だ!

「全艦、緊急反転! 奴らをこのまま行かしてはならん! まずはあの次元潜航艇を叩く!」

既に発射状態にあった波動爆雷、もといミサイルが数発発射されると、それは真っ直ぐ指定されたポイントへと向かう。それを見届ける暇もなく、〈シヴァ〉は転進した。
  次元航行部隊もそれに倣うが、数は大きく減っていた。至近距離での撃ち合いに、しかも単艦同士では勝負にならなかった場合が殆んどだったのだ。
生き残ったのは四八七隻中、三二四隻あまりだった。この戦闘で、実に一五四隻が撃沈破されていたのだ。総旗艦〈ラティノイア〉も顕在しているが、無事ではない。
巨体故に耐えてきっているものの艦体の三ヶ所から黒煙を噴き上げていた。他の艦も似たり寄ったりである。
  それでも尚且つ、満身創痍の次元航行部隊は全力で後を追う。だが勢いをつけて突破していったSUS側の方が、遥かに有利だった。

「……次元潜航艇と思しき敵艦の撃破を確認!」
「敵艦、発砲! 本局に多数の命中弾多数っ!!」

思いきり砲撃できない事を見越したかのように、SUS艦隊は本局へと砲撃を開始した。しかも、対要塞用として使用する大口径ビーム砲による砲撃だ。
総数凡そ六〇〇〇発前後のビームが、立て続けに本局へと命中する! 移民船を一撃で破壊する威力を誇る兵器に、小惑星クラスの本局とはいえ防ぎきる事は不可能であった。
障壁を圧力で破り、ビームが突き立てられていく本局では、いまだに総員退去が完了していなかった。SUSが逃げ遅れた局員を気にする事などない。
後背から徐々に撃ち減らされていく間にも、第二射、第三射の砲撃が叩き込まれていく。本局は中央部を中心に黒煙や爆炎を上げ始めているのがスクリーンからも分かる。

「おのれ、SUSめ……!」

  成す術なく破壊されていく本局に、マルセフは歯ぎしりする。SUSの砲撃は集中的に中央部を狙っていた。
巨大な建造物を破壊するのに、全体を万遍なく攻撃するよりもある程度集中して攻撃する方が、遥かに効率が良い。
破損して脆くなった局内部の箇所へ、次々と飛び込んでくる砲撃。破損した箇所はそれに耐えきる筈もなく、傷をさらに深めていく。中では地獄絵図が広がっているであろう。
  合計七回にも及ぶ斉射は、本局を完膚なきまでに破壊した。SUS軍の残存艦は、崩壊しかけた本局の至近を通過する際にも、執拗に通常砲撃を見舞っている。
完全に射程範囲から抜けると、SUS戦艦は全力で撤退していく。さらに衝撃的な事、それはあの〈ムルーク〉が満身創痍になりながらも衝突しようしていた。

「敵旗艦、衝突まであと一分!」
「如何! あの方向にはドックがあるぞ!!」

ラーダーが叫んだ。そう、彼の言うとおり、〈ムルーク〉の突入先にはドックの出入り口があった。中にはまだ、僚艦の〈ヘルゴラント〉や〈イェロギオフ・アヴェロフ〉を始めとして、数隻の艦船が修理中のために停泊していた筈だ。
  もしもこのまま突っ込んでいけば……! と思った時だ。〈シヴァ〉の通信機に電文が入る。テラー通信長がそれを見た途端、驚きの表情でマルセフに伝えた。

「艦長、〈ヘルゴラント〉より緊急伝! 『我、波動砲を発射せんとす、直ちに回避せられたし』――以上!!」
「チリアクス大佐……! 全艦、本局の直線状から離脱せよ、急げ!! 他の艦艇にも一斉打診だ、急げ!!」
「了解!」

テラーは急ぎ通信機に手を掛けると、全艦艇へ向けて緊急散開命令を発した。これを受けた全艦艇、エトス、フリーデ、ベルデルも含めて、慌ててその場から離脱を開始する。
無茶な事をするものだ、とマルセフは思った。しかし、それしか彼らが助かる方法が無い。傷の回復していない状態での通常砲撃では、あの化け物を止める事は出来ない!
回避命令が出ておよそ三〇秒後、本局ドック出入り口から閃光が走った。あれは、間違いなく波動砲によるものだ。
直後、〈ヘルゴラント〉から放たれた波動砲二門は、突入直前だった〈ムルーク〉を真正面から撃ち抜いたのである。




〜〜あとがき〜〜
どうも〜第三惑星人です。
気候が本格的に寒くなりましたが、皆様はいかがお過ごしでしょうか?
さて、今回ですが、一応艦隊戦による戦闘パートは終結いたします。
……長ったらしかったですね、まさか四話分を使うとは思いませんでした。
視点変更時で時間軸が少し戻った事もあるのでしょうが、もう少し纏められたらと思う次第。
同時に、遂にやっちまったよ自分……と本局をここまでぶち壊したのは私くらいしかいないのではないか? と思いました。
それとなんですが、〈ヤマト〉無双!!をご期待されていた方、誠に申し訳ありません。
書いていたら〈ヤマト〉無双、というよりも援軍自体無双、という形になってしまいました……(泣)。
さて、次回は燃え上がる本局内部へ視点を移し、どの様な状況下におかれかていたのかを、書いていきたいと思います。
それでは皆様、次回をお待ちくださいませ。

〜拍手リンク〜
[八七]投稿日:二〇一一年一〇月三一日七:五六:五六 グレートヤマト
ついにヤマト艦隊、救援に登場!
士気の低下しつつあった地球艦隊の士気がマックスまで回復したのか?
次回は、いよいよ士気の回復した地球艦隊のターンが続くのかな?

>>コメントありがとうございます!
地球艦隊のターンはあくまで〈ヤマト〉らだけでした……無念です!

[八八]投稿日:二〇一一年一〇月三一日一二:四〇:一二 ヤマシロ
ついに、キターーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!
さぁ、SUS(並びに地球防衛軍以外の方々)よ。
数々の地球の脅威を元凶もろとも粉砕してきた伝説の守護神の
実力を思い知るがいいッ!!
……失礼しました。少しテンションがおかしくなっておりまして。
さて、これで勝敗は大きく傾いたようです。
次回、伝説の戦艦と伝説の艦長の活躍はあるのでしょうか?
(むしろ無双でも可!)

>>キターーーーーーーーーーーッ!!のコメント、ありがとうございますw
しかし、今回はどちらかというと、古代の手腕無双(?)みたいな形でしたが……どうでしたでしょう?

[八九]投稿日:二〇一一年一〇月三一日一二:四〇:一七 EF一二 一
そろそろやばくなりかけた所にようやく登場した第1特務艦隊。戦況をどこまで押し返せるかがカギですね。
しかしSUSも易々と引き下がるとは思えませんね。
どんな凶悪な手を打ってくるのか‥‥。

>>毎回のコメント、感謝です!
SUSのディゲルの行動は完全なる悪あがきに等しいものでした……が、それが本局崩壊を実現させてしまうとは!(オイw)
多少、というより“かなり”無茶しました(汗)

[九〇]投稿日:二〇一一年一〇月三一日一六:四二:五 試製橘花
更新お疲れ様です。
今回も楽しく読ませていただきました。
そしてヒーローは遅れてくるものなのかいい感じで登場するヤマトには燃えました。
次回も期待しております

>>コメントありがとうございます!
楽しく読んで頂けて、嬉しく思います!
〈ヤマト〉の登場タイミングはこれ位が良いかと思いましたが、気に入って頂けたようですね!

[九一]投稿日:二〇一一年一〇月三一日二三:五七:四七 F二二Jラプター
いざヤマト無双!!!

>>コメントありがとうございます!
‥…そして無双的な事が出来なくて申し訳ない(涙)

[九二]投稿日:二〇一一年一一月〇二日二〇:二三:五六 柳太郎
いつも楽しんで読ませていただいています。
これからもよろしく!!

>>毎回読んで下さり、ありがとうございます!
この様な三流以下の小説ですが、これからも楽しんで頂けたらと思います!



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