「敵増援艦隊、第1戦隊と第10戦隊と距離を取りつつ、我が方へ接近」
「残る我が艦隊、敵連合軍“囮”と交戦中。被害、増大」
「……劣等種族共め。背後を取ったからと言って良い気になりおって」

 SUS総本山〈ケラベローズ〉要塞の司令部で、ベルガーは戦況が逆転しつつあるのを見て苦々しく吐き捨てた。連合軍にも、これだけの兵力があったのだろうか。
確認できた連合軍戦力は、あの全面に展開しているのみの筈だ。それだというのに、何処から400隻もの戦力が湧いて出てくる? それ程の余裕はないのではなかったか。
まさか、我々は偽の情報を掴まされたというのか、あの連中相手に。そう考えた瞬間、何処までも小細工が過ぎる連中だと皮肉を言ってやりたくもなる。
その増援と思しき艦隊が主力で、最初に戦っていた艦隊が囮。そう結論付けていた。しかし、その割には消極的すぎやしないだろうか。
 彼には、何処か増援の動きが中途半端なものに見えて仕方がなかった。いくら時空歪曲波の影響で通信、レーダーが不調になっているとはいえ、どこか変だ。
先ほどから碌に交戦もしようとしない。ディゲルも焦っているのか、後方の安全を確保しようと追いかけている……が、いずれこのままでは〈ケラベローズ〉に最大接近する。
ともなれば、この要塞の力を存分に見せつけたやるまでだ。何せ、この要塞周辺を護る防御船〈ガーデルス〉に搭載されいている主砲は、地球軍のタキオン兵器の上を行くのだ。
勿論、あの第7艦隊の拠点だった要塞よりも、威力を増大させている。相手が1000隻で来ようが、2000隻で来ようが、この要塞の主砲5門の斉射を食らえばひとたまりもない。

「全要塞、戦闘配備につけ。主砲、発射用意」
「ハッ。全要塞、戦闘配備につけ! 繰り返す、戦闘配備に付け!」
「主砲、エネルギー充填用意」

 射程にはまだまだ遠い。しかし、着実に連合軍増援艦隊は要塞へ向かいつつある。なれば、いつでも撃てるように用意することに越したことは無い。
400隻程度の数なら、主砲の一斉射で全滅させることも容易い。ベルガーの命令で〈ガーデルス〉が動き、迫る艦隊に撃てるように態勢を整えた。
地球戦艦3隻が横に並んでも入る事の出来る巨大な口径、そして全長10qの巨大な砲身が縦方向から横に倒されて待ち構える。その砲口には、赤黒い不気味な光が集約されていく。
 追跡を図る第1戦隊、第10戦隊は幻想艦隊の追跡に専念するが、主砲の有効射程距離にすら入る事が出来ていなかった。

「敵艦隊に変化はないか?」
「いえ、速度を一定に保ち、接近してきます」

どういうつもりだ。せっかく背後を取ったと言うのに、攻撃する気配さえ見せないとは。ディゲルは反転してこれを追尾するが、追い付けないでいる。
だが、このままいけば我が要塞と艦隊の挟み撃ちに遭うのは目に見えている。それともなにか、至近距離で要塞にタキオン兵器をぶつける気か。
確かに数百隻もの艦隊から、あの殲滅兵器を至近距離で撃ち込めれば、要塞を護るシールドを貫通する事も出来るであろう。
もしそれを考えていると言うのであれば、笑止と言わざるを得ない。そんなことをして、何になる? 至近距離から撃ちこまれる前に、要塞主砲が火を噴いている。
あるいは、歪曲波で捻じ曲げてやっても良いのだ。ただし、それをすれば、敵味方も攻撃が真面に効果を出さなくなるが。
 と、考えていた矢先、突然に僚艦が爆発した。その瞬間、何が起きたのか理解できない彼は全軍の速度を落とさせた。
その光景は要塞側にも確認される。連合軍増援艦隊と、追撃する第1、第10戦隊の距離が急に開いていく。歪曲波で詳しい原因が掴めないが、オペレーター達の報告を纏める事で、やがてベルガーはその原因を理解した。

「長官! これは敵の機雷です!」

 追撃中の総旗艦〈ノア〉では、ベルガーよりも早くその原因を理解したディゲルが歯ぎしりをしていた。

「おのれ……機雷か。奴ら、どこからどこまでも小癪な手を使いおって」

連合軍の幻想艦隊は、ただ追尾されている訳ではなかった。ダミー艦に内蔵された多量の時限式機雷を適度な感覚で放出したのだ。
レーダーに捉えづらい機雷は、一度に1000個あまりが散布された。広大な空間では小さなものだが、進路を特定しているだけあって、当てるのも難しくは無い。
SUS第1戦隊と第10戦隊は直進的に幻想艦隊を追っている。ならば、付設した機雷に彼らの艦隊が突っ込むのは当然であろう。
 機雷に接触するSUS戦艦は、1発で沈みはしないものの戦闘能力の半分は削り取られている。追加として先頭を行く部隊の10隻あまりが、大破、撃沈という運命を辿った。
小さいだけに見つけるのも難しく、さらには歪曲波が拍車をかける。地球軍対策として使用した空間歪曲波が、こういうところで仇になるとはな。
ディゲルは苦笑しながらも全艦の速度を緩めさせた。そして対空火力での機雷排除を命じる。が、その間に囮艦隊は距離を引き離す。
小賢しい仕掛けを繰り出してくる連合軍だが、ディゲルにしてもその仕掛けに延々と掛かるつもりはない。

「我らの進撃ルートを見越しての事だ。第10戦隊は左方向に迂回し敵の左側面を叩け。我が第1戦隊は上方より迂回し、敵の上方後背を叩く。急げ!」

 先頭集団は機雷による被害で陣形を崩したものの、ディゲルの指示で体制を立て直した。2個戦隊はそれぞれの迂回ルートをとり、機動性と快速を生かして迫った。
が、ここでまたもや、SUS艦隊を妨害する事態が発生する。

「っ! 機雷が追尾してきます!」
「ホーミング付きだと!?」

浮遊するだけの機雷が、ミサイルの如く艦隊に襲い掛かった。艦隊は継続して対空防御戦闘で、迫る機雷を撃墜していくものの、その数にきりがない。
これこそ、防衛軍の開発した自動追尾機能付きの新型コスモ機雷だ。網にかかった獲物を確実に仕留めるが如く、ピラニアたちが一斉に襲い掛かる。
たかが機雷如きで、と吐き捨てるディゲル。損害を被るのは仕方ないが、受け続けるのは気に入らぬ。構わん、最大戦速で砲戦に持ち込んでやる!
SUS2個戦隊が機雷に構わず加速し、側背を叩こうとする。しかし、一端距離を稼いだ幻想艦隊では、第2段階へと作戦の移行を進めようとしていた。

「これより、作戦2フェイズを実行。ECMポッド、作動!」
「了解。ECMポッド作動。出力一杯」

 戦艦〈イェロギオフ・アヴェロフ〉艦橋で指示を出したのは、当艦の副艦長を務めるウィグルス・バーン中佐だ。20代後半の若い佐官は、緊張と焦りに包まれている。
艦長が戦死してからというもの、まさか自分が艦長の代理を務める事になろうとは、思いもしなかった。しかも、囮部隊の指揮官までやれという。
だが命令は命令だ。自分にも防衛軍の軍人としての誇りもある。それに今後の行く末を決める、一大血戦なのだ。彼は若いなりに任務を全うしようとした。
 ECMは電子妨害兵器の一種で、防衛軍では常備されたものだ。特に艦載機へ搭載されることも多く、〈旧ヤマト〉のコスモタイガー隊も利用していた事がある。
機雷の中に混ぜたECMポッドが一斉に妨害、誤誘導電波を発生させる。それは、一瞬にしてSUS艦隊の目を奪ったのだ。

「ランスター一士の調子はどうだ?」
「安定しております。装置も正常に稼働中」

彼女には負担をかけるだろうが、頼りにしている。それに自分ら囮は、単に敵を引き離すだけが役目ではない。本当の役目は、さらに難しいものなのだ。
 ディゲルは突然の妨害電波に唖然とした。連合軍は何がしたいのか。ここに来て妨害電波を行うとは、理解に苦しむ。
とはいえ、空間歪曲波とECMが重なり合うという、これでもかと言うばかりの悪環境である。これでは戦闘を行うどころか、自分の艦隊と辛うじて第10戦隊が確認できる程度だ。
ベルガーにも同じことが言える。要塞周辺には影響はないが、その幻想艦隊と第1、第10戦隊の位置が掴めなくなってしまったのだ。
これでは遠距離攻撃も出来ない。〈ガズナ〉級にも支援攻撃を行わせることが出来ない。妨害しているつもりが、まさか妨害を受けるとは予想だにしていなかった。

「小賢しい真似を……レーダーは全力で奴を探し出せ」

今の状態で主砲を放つことは可能だ。だが、誤って後方にいる味方に誤射したのでは冗談にならない。しかも、発見した時には既に砲戦距離に入っているだろう。
ここにレイオスがいたら、もっと戦況は楽になっていたろな。ベルガーは改めて、戦死したレイオスの知略を失ったことに痛感する。






 ここで、幻想艦隊が出現した時まで時間は遡る。前衛艦隊と連合軍は、戦局を逆転させていた。数で押し込む筈のSUS艦隊が逆に、連合軍艦隊の攻勢に押されているのだ。
SUSの後背に、有り得ない艦隊が出現したことで浮き足立っている。兵士達のみならず、下士官や下級指揮官たちまでもが、後方を絶たれると戦慄した。
質量に勝るにも関わらず、妨害工作で一変し、半数以下の相手に滅多打ちにされた。

「敵艦隊、徐々に後退します」
「司令、幻想艦隊がうまい具合に役立ってくれましたな」
「そうだな、参謀長。危ういところだったが、これでよい」

旗艦〈シヴァ〉の指揮官席に構えるマルセフは一時はどうなるかと冷や冷やしていたが、バーン中佐率いる幻想艦隊の出現で戦局が大きく変わったことを直に感じた。
 連合軍全体としても同様で、浮き足立ったSUS前衛艦隊に向けて猛射を浴びせ始めている。戦力で上回りながらも、SUSは少なからずも恐れていたのだ。
あの銀河系に配備されていたSUS第7艦隊が、小国であり劣等種族だと罵っていた地球に敗れたと知った時から。地球艦隊は尋常ではない強国ではないか。
上級指揮官達はそうは考えはしなかったが、その下にいる下級指揮官、兵士達は違った。地球は侮れぬ国であり、戦えば必ず大損害を被る。
表には出さねども、兵士たちはそう感じていたのだ。実際に第2艦隊も、ゲーリンの第2戦隊が地球艦隊により半壊させられ、本局会戦でも地球艦隊を潰しきれなかった。
それどころか、対等以上に戦い、粘り、他軍を大いに鼓舞する存在にまでなっていた。目の前の戦闘もそうだ。この地球艦隊と言う存在こそが、連合軍の士気を高めているのだ。
 とはいえ、負ける事など許されない。ルヴェルは反撃に転じた連合軍に怒りをぶつけるが如く、再反撃の命令を下した。

「えぇい、醜態をさらすな! 後方に敵が現れたとて何ほどの事がある、我々は前面の敵に集中するのだ!!」

怒声とも言える叱咤激励を放ち、辛うじて艦隊の後退を停止させることに成功させた。そして被害を被りつつも、彼の第8戦隊は地球第2特務艦隊に反撃を命じた。

「両翼を伸ばして半包囲しろ!」

数を210隻から190隻にまで撃ち減らされつつも、SUS第8戦隊は素早く陣形を広げた。しかし、それを予期していたが如く、マルセフが動いた。
その結果を、SUSの兵士が告げる事となる。

「りょ、両翼にミサイル多数!」
「だからなんだ! 落とせ!!」
「いえ、数が……!」

兵士が狼狽える理由が、直ぐにルヴェルにも分かった。真正面に展開するマルセフの艦隊は、両翼に展開することを予め想定内に組み込んでおり、艦列を広げて半包囲の意向を示したと同時に、SUS第8戦隊の最端両翼の部隊目がけてミサイルを放ったのだ。
駆逐艦の有する大型対艦魚雷100発前後、及び戦艦や巡洋艦の装備する通常型の対艦ミサイルおよそ200発。計300発が半数に別れ、両翼端に襲い掛かった。
 さらに驚くべきことは、第2特務艦隊の戦場と隣で戦う、第1特務艦隊とフリーデ艦隊までもが、ミサイル兵器を使用して援護してきたという事だ。その数、800発前後。
これはSUSの艦船では到底成しえない援護方法だろう。先の2個艦隊が真正面の艦隊に対して、ショックカノンやビームで応戦、牽制しつつもミサイルで他艦隊を狙い打つ。
総数1000発以上になろうというミサイルの雨……いや、豪雨がSUS艦隊に襲い掛かる。

「撃ち落とせ!」
「だ、駄目です! か、数が多すぎる!」

包囲せんと移動していた両翼部隊は、予想外のミサイル攻撃の前に足を止められた。空間歪曲波によって、多少のシステム妨害もあって、全弾命中とまではいかなかった。
いかなかったのだが、手痛い被害を被るのに変わりは無い。特に地球軍の放つ大型対艦魚雷の破壊力は恐るべきものだ。1発でSUS戦艦を爆砕する様は圧巻である。
地球防衛軍は古来よりミサイル系統の技術は群を抜いている。あの旧ガミラス帝国の主力艦を倒すことができたのも、対艦魚雷によるものだった。
 そして援護するフリーデ軍は元大ウルップ星間国家の中でも、数少ないミサイル技術の保有国だ。エトスもその技術はあるが、あくまで対艦載機用の意味合いが強い。
威力は地球製のものより劣るが、それは地球側のミサイル技術が上を言っているだけの話である。フリーデ製ミサイルも、十分にその破壊力をSUS戦艦に叩きつける。

「おのれぇ、いい気に成りやがる!!」

調子に乗るなとルヴェルは怒り狂ったように叫んだ。その様な事を知る由もない地球艦隊は、味方の援護を知って一時的ながら歓喜した。

「正面のSUS艦隊に着弾多数! 16隻は確実に撃沈、その他、被害を着実に広げつつあり!」
「おぉ、有り難い! 今こそが好機だぞ、全艦凸型陣のまま前進、敵艦隊中央に砲火を集中せよ!」

 マルセフ当人も、予想しない援護攻撃に感心した。しかしミサイル攻撃は連続して行われるものではない。実弾であるがゆえに限りもあるのは当然のこと。
第2特務艦隊は陣形を直ぐに凸型陣に変更させる。戦艦を前面に繰り出させると、その両脇に巡洋艦が列をなし、駆逐艦が後に続く。

「戦艦隊は全火力を持って、敵正面の艦隊を薙ぎ払え! 駆逐艦隊は突撃し、崩れた艦列に再度雷撃! 巡洋艦隊はこれを援護せよ! 副長、本艦も前進して援護する」
「了解! 本艦を最前線に出します!」

前面に出された有人と無人各戦艦計12隻が、強固な装甲を持って壁となる。その戦艦群の先頭に〈シヴァ〉が前進し、各戦艦の艦長たちを鼓舞する。
その450mの巨体を堂々と前面に出す様に、他の艦長たちは刺激を受けた。SUS第8戦隊は突出してくるマルセフの艦隊を止めるべく、戦力を密集させる。

「SUS艦隊、密集します!」
「構うな! 戦艦隊は攻撃を集中! 駆逐艦隊は突撃開始!」

 力と力の真っ向勝負を見せるが如く、両艦隊の砲撃戦は苛烈さを増した。戦艦群はいかなる砲撃をも、その強固な電磁幕と装甲で撥ね付け、強力な砲撃を叩き込む!
崩される艦列にルヴェルは怯んだ。戦艦とは言っても20隻もいないものの、その威力をまざまざと見せつけてくる。その間隙を掻い潜り、駆逐艦隊が迫った。
その駆逐艦隊に随伴する1隻の大型艦――〈ファランクス〉は、持ち前の連続射撃能力をフルに使い、駆逐艦隊の突撃ポイントに確実な穴を開ける。

「彼らの道を開くわよ! 全主砲、連続射撃開始!」
「ハッ! 全主砲、ローリングスタート、射撃開始!」

 スタッカート中佐は凛とした表情で命じた。戦術長バートンは復唱し、主砲塔に命令を伝達する。3基のガトリング砲は素早く旋回し、前方に狙いをつけた。
命令と同時に、高速回転する砲身からエネルギー弾が飛び出す。一定の短い間隔を置きながら、砲弾は豪雨の如くSUS戦艦群に叩きつけられた。
ガトリングによる空間制圧に乗じて、駆逐艦隊は先陣を切って突き進む。これに対してSUS艦隊は、〈ファランクス〉を牽制しつつも駆逐艦隊に矛先を向けた。
駆逐艦なればSUS戦艦でも撃破は難しくは無いと踏んだのだろう。数秒の間、確かに砲撃は集中してこれを襲った。
 しかし、ここでマルセフはバリアミサイルを使い、駆逐艦隊の進路前方にバリアを張りめぐらせる。多量の砲撃から守られた駆逐艦はバリアの効果時間を見計らい、再び大型対艦魚雷を撃ち放つ。
獲物を求めて、魚雷群は崩れつつあるSUSの艦列になだれ込んだ。魚雷の弾頭がSUS戦艦に深く突き刺さり、大爆発を起こす。装甲を引き裂くその光景は圧巻である。
 だが、ルヴェルも直ぐに体制を立て直させた。

「あの防御兵器は永遠ではない! 敵戦艦に砲撃を集中しつつ、敵軽快艦が退避行動を見せた瞬間に他艦は狙い撃て!」

彼の指示は的確だった。第2特務艦隊はSUS第8戦隊を突破しようと言う魂胆であったが、その先陣を切る駆逐艦隊に猛射を浴びせて来たのだ。
 バリアの効力も消え、対艦砲撃能力に劣る駆逐艦隊は隙を突かれた。忽ちに駆逐艦〈カーター〉は業火に包まれ、爆散する。
他の駆逐艦も同じような被害を受け、無人含め3隻が撃沈してしまう。

「撃沈できなくてもいいから、撃ちまくって敵の足を止めるのよ!」

〈ファランクス〉艦橋で、普段のお淑やかな彼女とは思えない、乱暴な言葉が飛び交う。通常の巡洋艦とは違い、装甲の厚さには定評がある〈ファランクス〉だ。
だが、ルヴェルはこの雨あられと撃ち続ける〈ファランクス〉に対して、目障り極まりないと判断。目標を絞らせた。

「目障りだ、あの大型艦に狙いを定めろ! 追い払え!」

 瞬間、〈マハムント〉は大口径主砲を斉射した。目標は〈ファランクス〉。味方駆逐艦の後退を援護すべく巡洋艦隊共々と前進したところで、不幸は舞い降りた。

「て、敵旗艦より砲撃が……!」
「回避!」

咄嗟に彼女は命じた。しかし、真っ赤な矢は〈ファランクス〉を見逃しはしなかった。〈マハムント〉のビーム砲2発が、確実に彼女らを捕え、直撃した。
左舷中央部に1発、電磁幕を容易く突き破り、装甲をも溶かしたのだ。同時に爆炎が上がるが、2発目の当たり所はまさに不運だったと言えよう。
艦橋と第2砲塔の中間――対空ミサイル発射機に命中した。撃ち残したミサイル1発が誘爆を引き起こし、その破口から炎を噴き上げた。

「左舷、被弾! ミサイル発射機にもひだ――っ!?」

 レーグ少佐は艦内状況を報告しようと声を上げた。その瞬間、艦内は巨人に揺さぶられたかのような感覚に襲われた。3発目が、艦橋左舷に直撃したのである。
全員がなぎ倒された。艦橋内部はレッドランプに照らされつつ、計器類が火花を起こして弾け飛ぶ。レーグは朦朧とした意識の中で、艦の維持に務めようとした。
最低限のダメージコントロールをせねば、と艦内を見渡した瞬間、彼は凍り付いた。1人の女性が、仰向けで床へ投げ出されている。
しかも彼女の周辺は徐々に赤黒く染まり、腹部は特にどす黒い。口元からも止めどなく、同様の液体が流れ出していた。
誰かは直ぐに分かる。女性と言えば艦橋内では1人しかいなかった……。

「あ……ぁ、か……艦長おおおぉぉぉぉぉおお!!」

意識を失って倒れる、スタッカート本人の姿があった。





「マルセフ総司令は突撃に失敗されたか……」

 旗艦〈ヤマト〉艦橋にて、古代は苦戦しているマルセフの様子を思い浮かべつつ呟く。巡洋艦、駆逐艦の損害を前に、突破を断念せざるを得ないと悟ったのだ。
だが、SUS第8戦隊に与えたダメージが確実に効いている事は、マルセフ本人のみならず古代も確信した。SUS第8戦隊はこの駆逐艦の突撃により戦艦8隻を失っている。
さらに戦艦隊の集中砲火や巡洋艦の遊撃もあいまって、SUS第8戦隊は残すところ半数強――およそ130隻前後。
 第2特務艦隊の右舷側――即ち古代率いる第1特務艦隊が戦っている空間では、彼が戦闘を優位に進めていた。“英雄”と称される漢の実力が、伊達ではない事を証明している。
第1特務艦隊は編成が不十分とはいえ、数的にもマルセフらよりも充実している。そして歴戦の分艦隊指揮官もおり、数の劣勢を覆すには十分なものだ。
とはいうものの、彼の相手するSUS第5戦隊も凡将ではないようだが、非凡とも言えないようだ。ここは徹底的に叩き、マルセフ総司令を援護せねば!

「各艦に告ぐ、コスモ徹甲弾を装填。装填出来次第、順次砲撃を開始。敵艦隊中央部に集中せよ!」

第1特務艦隊は古代の命令に従い、コスモ徹甲弾を装填する。弾数は多いとは言えないが、直ぐに弾切れになることは無い。
次いで古代は艦隊を凸型陣に変更させ、自分の分艦隊を先頭に置き、左右後背に南部、劉の分艦隊を配置する。
 陣形が完成すると、古代はすかさず全艦に突撃命令を下した。

「敵を押しのけろ!」

第1特務艦隊の猛撃は、SUS第5戦隊を圧倒する。古代の第一分艦隊が先端を切り開き、後続する南部、劉の各艦隊が崩されるSUS艦を狙い撃つと言う流れを汲んだ。
コスモ徹甲弾の破壊力と、その気迫に押されたSUS第5戦隊は根負けした。先頭集団が撃ち減らされていくだけ、士気は低下する。崩れるまで、僅か5分前後だった。
 記録的とも言える打撃効果を出した第1特務艦隊と並び、両翼のエトス、フリーデ、ベルデル、そして管理局も負けてはいなかった。
右翼のエトス艦隊は持ち前の砲撃力にものを言い、SUS第2戦隊を相手に優勢を確実としていた。名将ガーウィックの手腕は、ゲーリンに引けを取らなかったのだ。

「エトス武士道の何たるかを、彼奴らに見せてくれる。全艦、敵艦隊中央部に砲火を集中せよ!」

少ない兵力ではあるが、エトス艦隊は先の集中砲撃戦法を、より有効的に採用して不利を補った。強力な砲撃が集約されたことで、SUS艦隊の艦列を容易く破壊していく。
砲撃を受けた陣形に次々とヒビが入った挙句、やがて完全に崩れた一部隊を狙いすまして、エトス艦隊は突撃を開始した。

「突撃! 蹂躙戦だ!」

エトス軍が得意とする戦術の1つだ。エトス戦艦に装備されている副砲群の速射砲が、SUS艦隊をさらに乱れさせていく。艦列の溝は深まり、戦線の崩壊へと直結していく。
 さらに右隣のベルデル艦隊と管理局艦隊は、ややぎこちなさはあるものの、訓練の賜物なのか、SUS第9戦隊を相手に上手く連携を見せた。
ベルデルの戦艦部隊が積極的に前面に出て砲撃する傍ら、次元航行艦部隊は呼応してアウグストゥスを斉射、SUS艦隊に叩きつける。

「ズイーデル提督、敵艦隊が前進してきます!」
「次元航行部隊、アルカンシェルの発射偽装を開始!」
「良いタイミングだ。足並みの崩れた個所を徹底して狙え!」

ズイーデルは持ち前の冷静さと指揮能力を持って、次元航行部隊との連携を維持した。特に次元航行部隊は、あのアルカンシェル砲の性質を巧みに利用し、ベルデル軍を援護する。
SUS第9戦隊も、ここにベルデルさえいなければ、いくらかは違う対応ができたかもしれない。アルカンシェル砲を捻じ曲げる事も可能だが、ここで事態は悪化した。

「後方の連絡が取れません!」

SUS将兵たちは唖然とした。後方の本部との連絡網が、連合軍の発する妨害電波で遮断されてしまった。これでは要請支援もできないではないか!
 しかし、SUS第9戦隊は覚悟を決めたのか、回避するどころか次元航行部隊へ目がけて突撃を開始してきたのだ。これには局員達も気圧された。
やられる前にやる、というSUSの執念を込めた砲撃が、エネルギー充填中の次元航行艦を含めた艦艇群に襲い掛かる。逆に艦列を乱される事態となったが、機転を利かせたズイーデルがSUS第9戦隊の左側面へ砲撃を集中することで、その足を止めさせた。
次元航行部隊はその隙にぎこちないながらも、艦列を整えさせていく。この連合軍の思わぬ連携に、第9戦隊もさらに焦りを見せ始めていた。
 反対側の左翼部隊では、フリーデ艦隊とオズヴェルト指揮する次元航行部隊が奮戦する。

「戦艦〈ゼヴァ〉戦闘不能! 同じく〈パゴス〉大破、戦闘不能!」

次元航行部隊と対峙するSUS第3戦隊。その旗艦〈ヴォーリス〉艦橋に入る被害報告を耳に、シェルヴァ少将は艦隊内部を飛び交う〈デバイス〉を苛立たしく睨みつけていた。
あの攻撃機が突入してきてからというもの、既に10隻が食われている。その分、我々も相手の艦隊を16隻近くは沈めてやったのだが、目障りなことこの上ない。
後方の本部も依然として通信不能だ。だがこのまま待っていても仕方がない。そこで彼は、次元航行部隊との距離を一気に詰めさせる手段に出た。

「奴らに超兵器を撃たせる隙を作るな。近接戦闘で超兵器を封じるのだ!」

 彼の咄嗟の命令は図に当った。オズヴェルトはアルカンシェルの偽装砲撃を命令しようとした途端、それを断念せざるを得なかったのだ。
突撃してくるSUS第4戦隊の砲火が襲い来るが、次元航行部隊も必死の抵抗を見せる。〈LS〉級部隊を前進させて、SUS第4戦隊にアウグストゥスを浴びせかけた。
集中的に的を絞り発射されるアウグストゥスは、より容易にSUS戦艦を撃沈せしめた。まずまずと言えよう。しかし、相手との距離はさらに近づく。
少しでも艦隊への負担を軽減させようと、〈デバイス〉攻撃隊は果敢に突撃を繰り返した。隊列を組み、SUS第4戦隊の直上から突入する。

「いくよ、〈バルディッシュ〉」

 パイロットの1人、フェイトは相棒のデバイス〈バルディッシュ〉に声を掛け、機体を華麗に操っていく。ビームの中を飛び交うという恐怖感はとうにない。
戦闘による、ある種の興奮――アドレナリンの効果により、それを消し去っている。あるいは、彼女の冷静さの賜物か。目標めがけて、対艦ミサイルと対艦砲を撃ち込む。
数本のミサイルがSUS戦艦の甲板で爆炎を挙げ、艦載砲がその傷口に命中した。そのまま、彼女の〈バルディッシュ〉は攻撃したSUS戦艦の至近をすれ違う。
 一撃離脱戦法。これは第1機動部隊司令クロノ・ハラオウン及び、参謀の八神 はやてからのアドバイスである。

「ええか、いくらシールド持っとるからって、安心したらあかんで。戦艦の主砲を食らったら、いくら〈デバイス〉でも持たへん。一撃離脱に専念するんや」

艦隊内部をうろちょろとしていたら、いずれ撃墜される可能性は大いにある。そこで、突入したら反対側へ出るまで反転してはいけない、と厳命したのだ。
それもなるべく後方から襲いかかるように、とも付け加えた。SUS戦艦は、特性上からして正面火力を重点に置いている設計だ。後方への装備は殆どない。
これに注目したクロノとはやては、後ろからの一撃離脱こそが、〈デバイス〉隊をより高確率で生還させる方法であることを予想した。
案の定これは的中し、〈デバイス〉隊は全機帰還を成し遂げている。
 この〈デバイス〉隊の活躍に呼応してか、フリーデ艦隊も士気を盛り上げる。とりわけ、ゴルックのモチベーションは高かったと言えよう。

「おぉう、管理局のパイロットは中々やるじゃないか。おい、お前たち! 俺たちフリーデ軍魂を見せてやろうじゃないか!!」
「「おぉ!」」

フリーデ艦隊旗艦〈フリデリック〉艦橋から、僚艦へ向けて激励が飛んだ。フリーデ艦隊も他艦隊に倣い、突撃陣形に再編される。この動きは左舷空間の次元航行部隊の知るところとなり、オズヴェルトは瞬時にこれに呼応した。

「第3艦隊に次ぐ。フリーデ軍前方の敵艦隊にアルカンシェル砲の偽装砲撃を開始! フリーデ艦隊の突撃を援護せよ!!」

それは巧妙な連携であった。左翼部隊の1つである第3艦隊は、2次方向に位置するSUS第4戦隊に向けてアルカンシェルの発射を装った。
この動きにSUS第4戦隊司令コニール少将は動揺してしまった。こんな時に発射しようとするとは思いもよらぬところであったのだ。

「いい援護だ。よし、エトスや地球艦隊に遅れをとるなよ! 全艦、崩れたポイントに攻撃を集中、俺たちも突っ込むぞ!!」

ここぞと言わんばかりに、フリーデ艦隊はミサイルとビームの連射をSUS第4戦隊に叩き付けた。アルカンシェルのフェイントに掛かったSUS第4戦隊司令コニール少将は、動転して回避命令を出してしまった。
三流艦船しか作れぬ筈の管理局と、SUSに屈服していたフリーデの双方に弄ばれ、彼の軍人としてのプライドもズタズタに引き裂かれる気分であった。
 数で勝る筈のSUSは、どの艦隊もが連合軍を相手に互角あるいは劣勢に立たされる状況に追い込まれていた。とはいえ、連合軍が優勢に戦局を進めているものの、その状況に持ち込むまでの被害は、次第に黙視できないレベルに達しようとしていた。
連合軍全体で210隻前後、SUS軍で450隻前後の損失艦を出している。数的優位はいまだSUSが握っているが、損傷艦も続出しており、戦闘続行すら危ういものが多い。
マルセフも焦りをひしひしと感じとっていた。SUSの粘り強い部分が、戦局を完全に覆させてはくれないのだ。幻想艦隊が引き離してくれた敵艦隊が戻ってきたらどうする?
ここで撤退すれば、後がないのは彼自身がよく知っている。波動砲を使用したいが、この近距離では打つ暇もない。
 と、苦悩している最中に変化は生じた。

「総司令! 敵要塞に変化あり!」
「……! 彼らはやったようだな、参謀!」

マルセフは訪れた変化に歓喜した。SUS要塞〈ケラベローズ〉は、彼らが激戦を繰り広げているうちに予想もしない事態に見舞われていたのだ。





 その事態を作り上げたのは幻想艦隊である。要塞と後方のSUS第1、第10戦隊に挟まれる位置にいた幻想艦隊は、先のECM作動によるレーダー妨害を行っていた。
レーダー範囲および通信を著しく抑えられたディゲルは、ベルガーに連絡を入れように入れることが出来ずに苛立ちを見せた。

「おのれ、通信網を遮るつもりか」
「ちょ、長官! 敵の妨害電波は、〈ケラベローズ〉要塞さえもロストさせております!」
「距離はありますが、このままでは……!」

奴ら、レーダーが使えない隙に要塞へ近づき、直接攻撃をするつもりなのか? レーダー範囲を抑えられた今なら、連合の増援艦隊はロングレンジ攻撃を受けることなく、至近距離でタキオン兵器を使うこともできるであろう。
いくらSUSの誇る〈ケラベローズ〉要塞とはいえ、至近距離から波動砲を撃たれればシールドを貫通する危険性さえ十分にあり得る。
 その代わり、増援艦隊側も要塞主砲を受ける可能性は高い。ベルガー大将のことだ、直ぐに撃てるように準備はしている筈だ。
となれば、むやみに追撃している我らは、そのとばっちりを受ける可能性も否定できない。ここは要塞そのものに任せるべきではないか……。

「如何なさいますか、長官!」
「……全艦隊、追撃中止だ。距離があるとはいえ、このままで味方要塞の主砲が撃てなくなる。第10戦隊にも打電、追撃を中止し、迂回して要塞に向かう」

ディゲルは要塞主砲の射線に入らぬ様に艦隊を迂回させて要塞に接近するよう指示した。主砲での取りこぼしがあれば、そこは彼らが叩きのめす。
結果として、彼の判断はある意味では正解であった。ベルガーは主砲を撃つ気であり、接近してくるであろう艦隊を殲滅すべく、刃を研いでいたのだ。
 だが、幻想艦隊はそれさえも予測にいれていた。後方のSUS艦隊が追撃を中止したのを見計らい、第3段階の計画を実行した。

「よし……第1主砲、第2主砲、コスモ徹甲弾装填! 偽装煙幕、展開! それと、ECM解除用意!」
「了解!」

戦艦〈イェロギオフ・アヴェロフ〉の数か所から黒煙が吐き出される。これは訓練にも使われる黒煙で、時には煙幕代わりにも使用される。
さらに数隻のダミー艦も同様の黒煙を吹き出し始めた。全ては追撃してきた艦隊による攻撃により、被弾したと思わせるためであった。

「副長、こちらも敵要塞を映像に捉えました!」

相手は12qという化け物だ。視認するのはこちらが早いに決まっている。バーン中佐は一か八かの掛けに出た。連合軍の中で最も危険な賭けに出るのだ。
ゴクリ、と生唾を呑みこむ。ためらう暇はない、と彼は幻影とダミー艦で5つに分担させた。80隻前後に分割された各集団は予定のコースを突き進む。
 だが〈イェロギオフ・アヴェロフ〉他、10隻あまりのダミー艦は点でバラバラのコースを取り始める。それもまた、囮なりの工夫を凝らしたものだ。
一見すれば、被弾して操艦不能に陥った艦船群に見える。

「まるで博打だな」

バーンはつぶやく。これに失敗すれば、自分たちは主砲の餌食になってしまう……だが、そうなったとしても、ティアナ・ランスターらは逃がさねばならない。
 今更ながら、戦艦〈イェロギオフ・アヴェロフ〉は通常の戦艦とは違う点がある。それは、第3主砲を撤去した部分に〈デバイス〉級が搭載してあることだ。
搭載と言うよりは固定と言った方が正しいだろう。後ろ向きで固定された〈デバイス〉の中に、例のティアナが乗っているのだ。
彼女は〈デバイス〉のコンピューター回路を通して〈イェロギオフ・アヴェロフ〉の幻影発生装置を使っている。これは、彼女が直ぐに離脱できるようにした配慮だ。
だがティアナは生憎と操縦できる立場にはない。では誰が操縦するのかと言えば……。

(わ、私が操縦するのか……緊張するなぁ)

彼女の親友たるスバル・ナカジマだ。この〈デバイス〉は戦闘を目的としたわけではない。レーグとマリエルの密かな発案で、特注で造られた複座型である。
さらにスバルにも扱えるよう、改良を施されたものだ。いざとなれば、彼女が操縦していくことになるのだが、外ではそんな事はつゆ知らず。
 ベルガーは迫りくる幻想艦隊が何処から来ても良いように待ち構えていた。最初は主砲を搭載した〈ガーデルス〉を横列陣に配置し、広範囲に砲撃しようかと思案した。
しかし連合の妨害電波により、相手は別の方向から来る可能性を鑑み、常時の輪型陣で全方位に対応できる構えを選んだのだ。
追跡していたディゲルも、要塞主砲に巻き込まれぬように退避している筈だ。それくらいの判断が出来ない軍人ではないことを、ベルガーは承知している。
やがて、狭まったレーダー範囲からその反応を感知した。

「敵艦隊、5つに分裂して接近中!」
「主砲展開、一撃で仕留めてみせよ!」

奴らは空間歪曲波の使用を恐れて、タキオン兵器は使ってこなかったか。やはり、抑止力としては働いているようだな。ベルガーは迫る艦隊の様子を見て笑みを浮かべた。
 赤黒い不気味な光が、その砲口に集約されていく。しかし、どうも腑に落ちない。何故、奴らは攻撃してこない? とうに主砲射程に入っている筈だ。
それともやはり、限りなく接近したゼロ距離砲撃でも狙うつもりか。よかろう、そんなに死にたいのなら、あの世へ送ってやる!
5隻の〈ガーデルス〉は、互いが射線に入らぬ様に輪型陣をやや崩して、5つの艦隊へ狙いを定め終える。そして、エネルギーが限界値を超えた瞬間だった。

「消し跳ぶがいい。全主砲、発射ァ!」

この時、彼は周囲の状況をよく確認すべきであった。被弾して漂う姿を装った、その艦艇こそを叩くべきであったのだ。だが、それを認識するにはあまりにも情報が限られた。
 主砲は放たれた。艦隊丸ごと消すにも余りあるエネルギー流が、目標の各艦隊へと突き刺さる。直撃だ、と確信した、まさにその瞬間だった――。

「敵主砲、発射確認!」
「今だ、ECM解除! 目標、敵要塞主砲Bのシールド装置!」

赤い濁流が、漂流船を装った〈イェロギオフ・アヴェロフ〉の数q隣を通過した。その間にECMは解除、主砲射撃システムの弊害を取り除き、砲身が目標を確実に捉えた。
この距離ならば、空間歪曲波の影響があっても外れることは無い。照らされる艦内で、バーンは咄嗟に叫んだ。

「主砲、斉射ぁ!!」

6門の砲身から、対要塞専用のコスモ徹甲弾が撃ち放たれた。重力のない空間を高速で突き進むそれは、〈ガーデルス〉の1隻に搭載されているシールド展開装置を目指す。
その瞬間は要塞のベルガーでも確認できた。同時に、彼は死に損ないと断言した戦艦が狙ったものを理解し、絶叫に近い声を上げた。

「おのれぇぇええええええええええっ!!!!」




〜〜あとがき〜〜
どうも、第3惑星人です。
残暑が残りますが、皆さまは大丈夫でしょうか?
今回は決戦の第3幕となりました。艦隊決戦も大詰め、の筈なのですが……。
決着は次回になります(汗)
色々とご意見を吸収していったら、この有様……もっとマシな展開は出来んのか、私は!!



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