外伝『魔の海峡、アルデバラン星域会戦(前編)』
アルデバラン星系とは、太陽系第3惑星の地球より凡そ56光年程離れた宙域に存在する、地球の手が行き届いた植民星系の1つである。
その星系を照らし出す太陽の女神は1人ではなく2人も存在しており、それぞれをアルデバランA、アルデバランBと呼称されていた。
2つある恒星の1つ――アルデバランAは、おうし座を形成する赤色巨星でもあるのだ。他には惑星が1つ確認されている位の、比較的、閑散とした星系だった。
これを星系と呼ぶには難しいかもしれないが、かつては惑星がいくつも存在していたのではないか、という説も天文学者の間で唱えられている。
宙域の内外に広がる膨大量の小惑星帯は、その成れの果てとされており、アルデバランAとアルデバランBの周囲のみならず巨大なリングを形勢していた。
ひっそりと存在していたのが、アルデバラン星系第3番惑星だ。本来、第1、第2も存在していたのかは定かではないが、小惑星帯の状況からそう判断された。
此処、アルデバラン星系は植民地星としては全く適性の無い宙域だ。何故なら、その広大に広がる小惑星帯が複雑で入り乱れる様な形を形成するだけでなく、2人女神が気まぐれで発生させる恒星風や、その影響で発生したと思われる暗黒ガスまでもが、各宙域に充満しているためだった。
だが軍事的視線からみれば、これはとてつもなく好条件の宙域だ。その厄介な小惑星帯と暗黒ガスによる暗礁宙域が、自然の防護壁として敵勢力の侵攻を妨げる。
「ここを天然の要塞として利用し、ボラー連邦の侵攻を防ぐべし」
地球連邦防衛軍の高官達の中にも、これに着目していた者が何名もいた。当時の防衛軍統括司令長官 藤堂 兵九朗元帥もその1人とされ、彼の下にいる幕僚達も同様の意見を出して来たことから即答で賛同し、早々に基地建設計画を提出したのであった。
それでも本格始動したのは西暦2206年程からであり、これはディンギル戦役の終結から3〜4年は経過した頃である。
本来であれば、ボラー連邦という巨大な敵対勢力が確認された後から直ぐにでも、太陽系外の星系に防衛基地の建設は本格化するべきであったのだろう。
そうしたくともできない理由が、そのディンギル襲来にあった。この予想外の侵略と軍事・資材・人材の消耗より大幅な遅れを取る事となったのである。
何回目か分からない地球の壊滅の危機から立ち直り、ようやく再建に扱ぎ付けたアルデバラン基地は、完成後に重要な役目を果たす事になった。
とは言っても、大規模な艦隊戦は発生することは無く、無理に侵入を図ったボラー連邦軍の小規模艦隊と、警備艦隊との交戦が幾つか行われた程度である。
これにも大きな理由は挙げられており、まずは銀河系交差現象という大災害の影響で、ボラー連邦はガルマン・ガミラス帝国共々、国家の再建に追われていた為だ。
軍事力自体は大損害を被っていた訳ではないらしいが、それでも辺境宙域などからの物資輸送ラインの混乱は経済へのダメージとなり、経済復興に余念がなかった。
それに、この二大勢力もまた飽くことのない小競り合いを続ける羽目になる。
その後の17年という時間に、ボラー連邦は意外な程に立ち直りを早めて軍事のさらなる強化と、強固な国家体制を築き上げつつあった。
普通ならば崩壊の道を辿るであろうとされた国家で、その所以は非人道的とも言える強制労働や投獄、処刑、指導者による圧政などが挙げられた。
戦いに敗れた元首相ベムラーゼが死亡した時点で国家は崩壊する筈だったのだ。それがどういう訳か銀河交差現象を受けてもなお、粘り強い復興を見せていた。
どうやら事前に国家体制の改革を狙っていた幕僚などが居たらしい。その改革派達の懸命の努力の末、ボラー連邦は見事な復興を遂げたのである。
そして、今・・‥‥。
「どうだ、偵察衛星からの情報は?」
アルデバラン星系第3惑星に設置された、地球防衛軍アルデバラン基地の中央指令室内部は緊迫とした状況に染め上げられている。
指令室の一角に腰を下ろすのは、地球防衛軍の将官用コートを身に纏うロシア人男性――地球連邦防衛軍 第9艦隊司令官 アンドレイ・ジェーコフ中将。
宇宙軍の生き残りの艦隊指揮官である彼は、新たな脅威として迫るボラー連邦軍の大侵攻を食い止めるべく迎撃部隊として編成された連合艦隊司令長官として、アルデバラン星系へと急遽、修理を終えた艦隊を引き連れて派遣されてきたのである。
ジェーコフ中将がオペレーターに状況を聞き出す。それに対して、基地要員のオペレーターは緊張した面目でコンソールを操作し、星形外延に配置させた監視用レーダー衛星とのリンク状況とにらめっこしながら報告する。
「・・‥‥いました!」
その瞬間、指令室内部は騒然となった。いよいよ、奴らが来たのだ! ジェーコフも緊張感によるものか、冷静な表情とは裏腹に額にうっすら汗を掻いていた。
一体、その宙域に何が居たと言うのか? それは防衛軍が恐れていた事態の“敵”の姿であった。ではその敵とは? 言うまでもないボラー連邦の艦隊である。
彼らはボラー連邦軍の動向を常に把握しようと躍起になっていたのだ。
「このままいけば、確実に星系内部に侵入します! 基地周辺まで、およそ11時間かと思われます!!」
「星系内部の小惑星帯、暗黒ガス帯を考慮すれば、それくらいの時間は掛かりますね‥‥‥」
オペレーターの次に口を開いたのはエトス星の女性軍人であった。見た目は地球人そのままだが、彼女も立派な外宇宙に住まうエトス星人だ。
地球換算で言えば34歳程というかなり若い女性将官であり、さらにエトス軍特有の黒地に白ラインを入れた将官用ロングコートに身を包んでいる。
銀色のロングヘアー、蒼氷色の瞳を持ち、その凛々しくも美しい色白肌の表情は、恐らくは誰が見ても純然たる軍人とは思うまい。
エトス国防宇宙軍 第3艦隊司令官 シィエラ・レミオス中将。驚くべき事に地球でも類を見ない、異性艦隊における女性の艦隊司令官なのだ。
地球でも女性軍人は珍しくは無い。〈ファランクス〉艦長のスタッカートや〈ミカサ〉副長の目方を始めとして、女性士官はそれなりに見られている。
エトス星でも同様だ。武人として志を持つ国家であるも男性のみで構成されてはない。女性の中にも志に感銘を受けて軍隊入りするケースも少なくはないのだ。
だが、そんな中での彼女の存在は、“別格”という2文字を付けねばなるまい。何せ、30代半ばでの中将という階級を有する身である。
これは地球でも、他の国家でも見れないだろう。
ただし、彼女が何かの媚を受けてここまで昇進し続けていた訳ではなく、ことあるごとに彼女は口を開いた。
「私は媚びを使って、この職責を賜った訳ではない。国を守る誇り高き武人として、その職責を全うしてきただけだ」
さも当然のようにして、彼女は言うものである。その言葉は事実であり、彼女にはれっきとした軍歴と武勲があるのだ。
武勲の上げ所となったのは、約15年も及ぶ長き戦乱の中だった。その頃、エトス国防軍士官大学校から出た彼女は、この戦乱の中で敵性勢力を相手に奮闘し、戦場に舞う白銀の戦姫なる異名を奉られ 異例とも言える出世の速さで昇進していったのだ。
ただし、アルデバラン防衛の為に派遣される直前までは、未だに少将の階級であった・・・・・・十分な地位であることに違いは無いのであるが。
この階級を受領する経緯には、いささか後ろめたい事情も重なっている。今回の戦争で敵対関係となったSUS、あるいは過去敵対関係だった地球を相手に戦闘を行った結果として、エトス軍もまた甚大とは言わずとも十分深刻な兵力不足に苛まれていた。
エトス軍宇宙艦隊は、6個艦隊程をこの戦役で損失してしまい、さらには艦隊司令長官であった故ゴルイ元帥といった優秀な艦隊司令官も同時に失った。
そこで、エトス軍司令部の面々は、優秀かつ柔軟な思考も出来る軍人達を早々と昇進させたりして、軍隊内部の組織を維持させようとしのである。
その中の1人が彼女――レミオスだった。実は彼女は、SUSに反逆の意を示したアマール上空戦、並びにウエスト会戦の参加者の1人なのだ。
ゴルイ元帥の指揮下にあった3個艦隊で編成されていた連合艦隊の中で、第3艦隊の分艦隊司令を務めて戦闘を指揮していたのである。
結果は周知のとおりで、ゴルイは差し違えようとして戦死してしまった。さらにウエスト会戦では、あのSUS要塞の要塞砲の乱れ撃ちで直属上司も戦死した。
レミオスは指揮権を引き継ぎ、辛うじて戦闘を耐え抜き勝利をもぎ取ったのである。
その彼女は本国に帰還後、本国司令部の命令を受けて少将から中将へ昇進し、さらに司令官不在だった第3艦隊の正式な司令官へと抜栓されたのだ。
同時に司令部は、ウエスト会戦で戦った彼女の手腕を買って、アルデバラン防衛作戦を展開する地球軍の支援部隊の任も与えられた。
彼女としては意外な思いであったかもしれないが、司令部としては地球軍と共闘経験のあるレミオスの経験をこそ大いに期待していたのだ。
また彼女は、上官である以外に師として仰いでいたゴルイの心を突き動かした地球艦隊――特に〈ヤマト〉への興味が大きかった故に、彼女は謹んで命令を承諾して派遣艦隊司令官としてアルデバラン星系へとやって来たのだった。
「ジェーコフ提督、直ぐに出撃いたしましょう。我々の出撃体制は万全です」
レミオスの次に口を開いたのは、アマール星の人間である事を示す褐色肌と、何処か中世時代をイメージさせる衣服をした男性だった。
アマール防衛軍 総司令官代理 ウィラン・ペテロウス将軍である。前回はイリヤ女王からも増援としての出撃を見送られた彼であるが、今回ばかりは地球を手助けする時だとして、遠征軍の派遣を容認された事で高揚しているのだ。
感情的に成り易い所が彼の欠点だが、彼は戦局に優位さが現れるとその波に乗るのが上手い。アマール国内でも定評があり、勝機を掴むのが上手いとも言える。
そして防御戦に関しては難があった。相手の攻勢を受け止めるのが苦手であり、一度突き崩されると雪崩を打って瓦解する可能性もあったのだ。
どうも彼の場合は防衛戦に不向きであると思われるが、それは別の言い方をすれば常に攻勢をかける事で、相手艦隊に損害を出し続けて撤退へと追い込むのだ。
そういう戦術を中心としているのである。
「ふむ・・・・・・。では、当初予定通りの作戦でボラー艦隊を迎え撃つ。貴方がたも速やかに出撃されたい」
「「ハッ!」」
このジェーコフの命令で、基地内部はさらに慌ただしくなった。
しかし、ペテロウスの言う通り、各艦隊は直ぐに動けるように予め出撃の準備を整えさせている。後は彼ら2名の他にジェーコフ自身と幕僚達が乗艦すれば良い。
「後をよろしく頼む」
「ハ。閣下もご武運を!」
彼は基地の指揮をアルデバラン基地副司令 アゼル・オズマン准将へ託すと急ぎ自分の乗艦である〈クニャージ・スヴォーロフ〉へと足を運んだ。
同時にレミオス、ペテロウスも自分の副官を伴って乗艦へ向かった。ジェーコフはドックへ向かう途上で、こうなるまでの経緯を思い返していた・・・・・・。
ボラー連邦が進撃して来るという情報が入ったのは、今から7日前の事だった。これは古代の増援艦隊が出発して5日後というまさに間の悪い時だった。
〈トレーダー〉らが到着したと思われるにしても、例の次元震が影響して連絡も取れない。地球連邦議員は山南や水谷らを批難したらしいが、それどころではない。
そして、この連絡を入れて来たのは何とガルマン帝国だった。それだけではない、あのアマールからも同様の情報が入り込んで来たのである。
ガルマン・ガミラス帝国の指導者アベルト・デスラー総統の配慮は、かの親友かつ宿敵であった古代の関係から来ていると言っても過言ではない。
地球連邦は17年前と比べて、ガルマン帝国に対しては柔軟な姿勢と友好関係を保ってきていた。それだけに、この情報は無視しえない。
だがどの方面へ向かっているかまではの情報が入らなかった。単に――
“オリオン腕へ向けてボラー連邦の大艦隊出撃せり”
との報告を受けていたのだ。
ボラー連邦としても、地球の支配下にある星系を素通りする可能性は無いだろう。着実に各星系を占領し、支配権を伸ばしてくるに違いない。
その狙われるであろう星系はどこか? αケンタリウス星系か、アルデバラン星系か、地球防衛軍の宇宙艦隊は戦力を大きく減じている状態だ。
最低限、全戦力を掻き集めなくては抵抗のしようもない。運悪く集中配備場所が間違っていた、等と言う笑えもしない冗談で落とされかねないのだ。
そんな不安を除いてくれたのがアマールだった。サイラム恒星系は、幾分か銀河系の天頂方向に位置しており、ボラー連邦軍の動きが幾らか掴みやすかったのだ。
「今度は我々が手を差し伸べる番です。共に平和を守るという約束、果たしましょう」
女王イリヤはその様に話した。この地球の危機は放置しておけないとして、正確な侵攻ルートを地球連邦へ提供したうえに艦隊を派遣する事を決定したのである。
地球連邦の高官達もこれには驚きを禁じ得なかった。地球よりも戦力は残されているとはいえ、共闘する為に派遣してくれるというのだから、当然だろう。
だが驚くのはそれだけではなかったのだ。アマール国以外にも、もう一ヶ国が共同戦線を協調して来たのであった。
それが、真っ先に大ウルップ星間国家連合を抜け出した、エトス国である。
「本当の同盟とは何か、盟友とは何か、それをボラーに見せつけてやろう」
エトス国指導者はそのように発言した。彼らエトス軍は、実を言えば全体的な損害は大きくはなかった――無論、他国に比べてだが。
まずアマール軍が幾分かの造船を行った結果、現在140余隻の艦艇を保有していた。対するエトス艦隊は、新規兵力や警備隊を合わせると300余隻に昇っている。
アマールは元々、他連合国と比べて艦船数が少ない国家である。初期の保有数は一国の保有平均数610隻に対し、アマール軍は210隻前後でしかなかった。
そしてエトス軍はガーウィックの第2艦隊を失い、ゴルイ率いる艦隊も40隻程に撃ち減らされたのだが、本国に残されたままの3個艦隊は全くの無傷だった。
また〈ヤマト〉の戦いぶりに刺激された事から地球への申し出たらしい。確かに〈ヤマト〉はエトスの連合脱退への火付け役となったのは事実。
「今こそ、周辺諸国との絆を深める、絶好のチャンスではないか」
と、地球連邦はこの両国の申し出を蹴るつもり等毛頭なかった。恩恵や好意によって共同戦線を行ってくれると言うのに、それを無駄にする訳にはいかない。
頭の固い議員でさえ、これは受け入れるしかないと決めたのだ。特にそれを押し強めたのは、ボラー連邦が派遣して来たと言う艦隊の規模による。
大国ボラー連邦軍の1個艦隊の規模は、110隻から120隻前後。そして投入されたのは5個艦隊――凡そ“600隻前後”であった。
これは地球艦隊の投入しうる数の3倍である。ボラー連邦にとってはまだ余裕であろうが、地球にとっては余裕の“よ”の文字さえない、ジリ貧状態である。
悲鳴しか出て来ない。結局のところ、地球は至急に艦隊の再編成と移動を行い、ボラー連邦軍の侵攻2日前にアルデバラン星系へと到着した。
同時に援軍の2国艦隊も到着したのだった。
「司令、全艦の出撃準備は整っております」
「うむ。全艦、出撃せよ!」
旗艦〈クニャージ・スヴォーロフ〉へと身を移したジェーコフは全艦艇の発進を命じた。〈クニャージ・スヴォーロフ〉を始めとする地球艦隊は全部で202隻。
2個艦隊分の戦力を持っていたが、その内容は正規艦隊とは大きく異なる編成であった。まず中心戦力となるのは、第9艦隊の生き残りである30隻の残存艦艇。
次にアルデバラン星系に配備されていた、警備艦隊、巡視艦隊、護衛艦隊の計56隻。さらに太陽系内の警備、巡視、護衛の各艦隊を掻き集めた116隻である。
さらに、この中の約半数(105隻)は新鋭艦ではない。旧式艦や鹵獲艦といった、将兵曰くぽんこつとさえ言われる有様であった。
それは主力艦隊から外れた旧世代艦であり、他星系の警備活動等を重視していた。中には機関部を密閉し軍の予備ドック奥深くへ封印状態にあったものもある。
今となっては廃艦決定となっていた筈だったが、それをしなかったのは地球連邦の貧乏性が現れているとも言える。地球は絶えず狙われているのだ。
その心理的恐怖が艦の解体を良しとはしなかった、という例が幾多もあった。ジェーコフは基地を飛び立つ統一性のない個性揃いの艦艇を眺めやる。
(全く、こんな旧式艦まで引っ張り出してくるとはな‥‥‥。長い間使っていないだけに、乗っている将兵も不安だらけだろう)
呆れたくとも出来ないのが今の心境である。一体、どんな艦が再就役したと言うのか。
まずは一世代前に稼働していたディンギル戦役時の戦闘艦艇群の中の1つ――│長門《ナガト》級主力戦艦が4隻、この混成艦隊内部に身を置いている。
その無駄の無いのっぺりとした艦体の表面が特徴的であり、箱型の様な水上船型艦体。艦体左右から張り出した、星間物質取り込み口のインテーク状のパーツが一対と、大和型宇宙戦艦から始まった塔型艦橋が聳え立っている。
武装は、波動砲1門、36p三連装主砲 3基9門、〈ヤマト〉の様に両舷へ多数の機銃を配置している。
長門級同様の形状をしているが、やや横べらな六角形をした艦首発射口、前部集中の30p三連装主砲 2基6門を装備した、ノーフォーク級巡洋艦が8隻。
一番水上艦らしい形状を持ち、武装は20p連装主砲 1基2門、対空対艦ミサイル数門を備えた、打撃よりも機動性を生かしたリヴァモア級駆逐艦が15隻。
これらで、艦艇数は27隻を数えている。
(‥‥‥そして、ボラー連邦相手に頑張った艦艇か)
次に二世代前――銀河大戦時の艦船が、彼の目線の中に移り込んできた。因みに、この時期は各国の戦艦製造競争が苛烈化しており、自国の設計した艦艇を防衛軍主力艦にすべく個性的な戦艦が存在したのだ。
それでもなお、ボラー連邦の攻撃を受けて撃沈された艦艇も少なくない。それでも幾隻か残されているのは貴重とも言えた。
その主力艦建造競争に向けて建造された戦艦群の内の1隻が、ヨーロッパ州管区 イギリスの造船工廠出身のPOW級戦艦であった。
艦型はロケット型を基軸としつつ、艦前部が六角柱で後部が円柱という感じに近い艦体で、艦首の下半分を切り取ったような部分に波動砲1門を装備。
そして簡素的な塔型の艦橋と、主武装は36p連装主砲 4基8門を備えた戦艦で、実はこれが後の長門級へと繋がった戦艦でもある。
次に、潜水艦を彷彿させる艦型をした宇宙戦艦で、重厚感を滲みださせつつもすっきりとした外装がスマートさを装飾している様でもあった。
艦橋はアンドロメダ級に準じ、武装は格納式40p連装砲塔 3基6門、魚雷/対空/対艦ミサイル等154門装備したドイツ産のビスマルク級戦艦である。
戦艦群の中でも一際特異な印象を放つ戦艦であり、技術大国とも言われてきたドイツならではの思想と技術力の基に建造された戦艦で、別名ミサイル戦艦とも言う。
次に〈ヤマト〉の艦前部とアンドロメダ級の艦体、旧ドレッドノード級の艦橋を足したような外見で、北アメリカ州の造船メーカー出身のアリゾナ級戦艦。
武装は波動砲1門、46p三連装主砲 3基9門、20p三連装副砲 2基6門、八連装VLS(煙突ミサイル)、魚雷発射管、対空火器等を持つ強力な宇宙戦艦だ。
飛びっきりのハイスペックな対艦戦闘力を持ったアリゾナ級は、他国を圧倒するものであったが、残念ながらコストが高いものとなり増産は見送られてしまった。
(我が祖国からも、あれが出るとはな)
その視線に映るロケット型を基軸として六角形型に近い艦体をした、艦艇群でもこれまた珍しい、アナログ感漂う宇宙戦艦である。
そして他の戦艦にはない、埋没式艦橋を採用しているのが最大の特徴である。武装は30p三連装主砲 3基9門、20p三連装副砲 4基12門、固定式26p連装副砲 3基6門を備えた、アジア州 ロシア造船メーカーが生み出したノーウィック級戦艦だ。
砲門数がアリゾナ級を上回るが、その口径・威力が共に劣ってしまい、装甲も機動性と航行性を重視した為に薄目であった。
これらPOW級2隻、アリゾナ級1隻、ビスマルク級1隻、ノーウィック級2隻、計6隻が参加している。
(アンドロメダ級の姿までもが、拝めるとはな……)
三世代前――ガトランティス戦役時に建造された、当時最新鋭と謳われたアンドロメダ級戦艦が2隻と、旧ドレッドノート級戦艦が4隻いる。
また長年に渡って運用された、葉巻型の艦体、武装は波動砲1門、20p連装主砲 3基6門、12.7p連装副砲 2基4門を備えたザラ級巡洋艦が18隻。
同設計型のアルジェリー級パトロール艦や、同じく葉巻型艦体を持った快速艦――吹雪級駆逐艦が25隻。
合計49隻を数えているが、最盛期の一環にあった艦船群だけあって、その信憑性と生産数、採用年数は一番多かったと言えるだろう。
(そして、デザリアム戦役の艦船。この春蘭級と同じ時期に就役した無人艦か・・‥‥)
そしてジェーコフが乗艦する春蘭級旗艦級戦艦、無人艦隊化計画に則り建造されたクレイモア級無人戦艦に、レイピア級無人重駆逐艦の姿。
春蘭級はガトランティス戦役後に就役した弩級戦艦で同型艦は6隻に留まる。現在は〈ブルーノア〉に総旗艦の座を完全に譲っており、各方面軍の旗艦、あるいは主力艦隊の旗艦等を請け負っているが、現存するのは〈ミカサ〉〈クニャージ・スヴォーロフ〉の他に、ネームシップの〈シュンラン〉と〈アキレウス〉の4隻のみ。
その中でアルデバラン星系へと召集されたのは〈クニャージ・スヴォーロフ〉のみ。他は他星系で総旗艦となり任務を継続中であった。
クレイモア級は40p三連装主砲 3基9門を持つ。そして波動砲 2門を縦列に並べた珍しい戦艦で、その分艦体も上下にやや張り出している。
艦橋は無い代わりに旗艦からの遠隔操作を受ける為の専用大型受信アンテナやレーダーマストが備え付けられている。
レイピア級は平たい三角錐型の艦体をしており、20p連装主砲 計2基4門、他にミサイル等で艦体を固めている重武装艦だ。
春蘭級 1隻、クレイモア級 4隻、レイピア級 10隻の計15隻。
「17〜8年前の艦艇とはいえ、運用性は落ちていないようですからね。それに、この〈クニャージ・スヴォーロフ〉もそれくらいは動いてますから、平気でしょう?」
「まぁ、そうだな。この艦が動けるのだ。他の艦もまだまだ動けないと困るな」
〈クニャージ・スヴォーロフ〉副長を務める38歳のロシア男性、アレクサンドル・コルチャーク大佐はジェーコフの心配を取り除こうとして言ったらしい。
ジェーコフにしても副長の言う事には同意見であった。この春蘭級が当時最強と宣伝されて稼働してから、凡そ17年もの歳月を経ているのだ。
同世代に建造された艦も動いてくれなければ困るのも頷ける話だ。
しかし、それ以上に不安を煽ったのが敵艦隊より鹵獲した鹵獲改造型の戦闘艦艇の方だった。この艦隊内部で、鹵獲型戦闘艦が23隻も混ざっており、どれもこれも同じく17〜18年も前に再就役した、将兵曰くゲテモノな戦闘艦であった。
(彗星帝国の鹵獲艦に‥‥‥)
ガトランティス戦役で鹵獲に成功したもので、310mの艦体を持つバーゼラ級中型戦艦の改良型となる、ホワイトバトラー級を2隻。
260m級のレケルト級巡洋艦の改良型であるホワイトスター級3隻、同じく同級サイズを持つラスコー級巡洋艦の改良型ホワイトランサー級2隻。
ククルカン級駆逐艦の改良型ホワイトパイカー級10隻、ナスカ級高速中型空母の改良型ホワイトスカウト級を2隻。
これらでガトランティス製の地球戦闘艦は実に19隻を数えたものである。
(大国の艦船だけあって、性能は悪くないが、相手がボラーだからな)
300m超えの艦体でありながら、地球で中型戦艦とも称されているホワイトバトラー級。このクラスの上にも500m級の弩級戦艦がいるから中型と称される。
元々のバーゼラ級はガトランティス艦隊の中核を成した主力戦闘艦であり、ビーム兵装で埋め尽くされた打撃力にものを言わせて、相手を叩き潰すのだった。
既存の大口径回転式速射砲塔3基を全て撤去、代わりに40p三連装主砲 3基9門を装備。背の高い艦橋は地球式のものに交換、艦橋基の衝撃砲2門だけは残された。
ホワイトスター級こと元レケルト級は、バーゼラ級戦艦のダウンサイジングした様な艦艇であり、護衛を主任務とした巡洋艦である。
元あった3基の大口径回転式速射砲を全て撤去した代わりに、36p連装主砲 3基6門を装備。ただし、高速化を狙っていた為か衝撃砲の装備はない。
ホワイトランサー級こと元ラスコー級は、ゴストーク級ミサイル艦と設計を同じくした巡洋艦で、ククルカン級と機動戦を得意とする艦艇である。
大口径回転砲塔が上甲板に6基、艦底部に5基と極めて多かったが、これを全て撤去。代わりに30p三連装主砲 3基9門を装備した。
また20p連装副砲 4基8門を備え、高い打撃力を誇った。艦橋部は地球の旧ドレッドノート級と同一の物に取り換えている。
ホワイトパイカ―級ことククルカン級は、ガトランティスで最も生産された快速駆逐艦である。その過剰とも言える回転砲塔は航空機の難敵とも言えた。
ただ改造の折、回転式砲塔を大多数搭載していたが地球艦艇には全く合わないために、全て撤去。12.7p連装主砲 3基6門、上下に搭載し機銃も多数搭載した。
最期に空母の改修艦ホワイトスカウト級ことナスカ級は、これもガトランティスでは有力戦力として膨大な数を生産された戦闘空母である。
空母ありながら打撃力――砲撃力に趣を置いた攻撃思想丸出しの艦で、肝心の航空機は割を食ってしまうという本末転倒ぶりだった。
そんなナスカ級の回転式武装系統を撤去。装甲を幾分か強化したが、武装は対艦・対空迎撃ミサイル発射管数門と、対空機銃のみだ。
(ディンギル帝国の艦船‥‥‥か。本当に寄せ集めな艦隊だ)
最後に見えたのが、ディンギル帝国の艦船でる。元々は黒あるいは水色に塗装されていた艦だが、地球艦船のグレー系統に塗装し直されていた。
鹵獲艦とはいっても、種類はたったの1種類だけであり、これはディンギルの艦船自体にも種類が極端に少なかったとも言える。それがカリグラ級巡洋戦艦だ。
ディンギル独特の曲線と直線を融合させたデザインをしている。シャトルの中央部にやや括れを与え、主翼を分厚くしたような艦体。
尾翼の部分に艦橋が聳え立つ恰好をしていた。この艦艇の改修時に当たっては、艦橋部はドレッドノート級に変更する他、機関区を入れかれる程度で武装にはあまり変化は見受けられてはいない。
本来なら地球式の砲塔を装備する所だが、この艦で実験的な行動に出ようとしたのだ。それが、後の〈ファランクス〉へと繋がるのである。
ガトリング砲は全て地球産にしている。このカリグラ級巡洋戦艦改修型をシュメイサー級として就役させ、現在で残されているのは四隻。
(鹵獲艦が23隻、一世代前の戦闘艦が27隻、二世代前の艦が6隻、三世代前の戦闘艦が50隻、そして現在の艦艇が96隻‥‥‥か)
この艦隊で何処までやれるだろうか。この中の3割近くは保管された状態にあった艦ばかりだ。それを無理にでも引っ張り出してきて、精鋭であろうボラー連邦の大艦隊と戦闘を挑まねばならないとは‥‥‥骨の折れる思いである。
防衛軍旧式艦の唯一の救いと言えば、波動砲や各兵装の換装、機関部の改修を受けたことであり、シールド系統も間に合わせ程度だが増強させていた。
また、防衛軍はこれら掻き集めた艦隊を3つに振り分けた。第9艦隊残存艦30隻と、警備艦隊等30隻強を糾合したものを引き続き第九艦隊として編成。
残る120隻強の艦艇を、60余隻づつに振り分け、臨時の第10艦隊と第11艦隊へと編成されたのである。
第9艦隊は現用艦のみだが、他の2個艦隊は旧世代艦が大半を占めているのみで、巡洋艦、駆逐艦にしても旧式や鹵獲艦が半数を占めるのが実情である。
そして臨時編成された第10艦隊には、アルデバラン基地司令官 ウランフ・チェン少将が宛がわれた。ウランフ少将はこの40歳を迎える軍人だ。
やや浅黒い肌と角刈りの黒髪が印象的な、闘将の部類に入る人物である。そして冷静さも兼ね備えた非凡な司令官であり、当星系での治安維持を任されていた。
片や第11艦隊には、アルツール・コッパーフィールド少将が宛がわれた。43歳になる将官クラスの軍人で、元第6艦隊の副司令官を務めていた人物だ。
その粘りのある防御戦闘や遅滞戦を得意とし、かの第1次移民船団における奇襲戦でも崩壊しかけた第6艦隊を纏めた手腕が、それを証明していた。
(我が方は援軍たるエトス、アマールを合わせて346隻。対するボラー連邦は600余隻だという。我が方とは260隻もの戦力差がある‥‥‥。いや、ここまで縮められた方が、奇跡に近いか?)
司令官席で安堵とは程遠い表情をしているジェーコフ。アマール、エトスの両国は、全兵力を供出してくれた訳ではないのである。
やはり、自国防衛の戦力は欲しいのである。エトスに関しては1個艦隊を本国艦隊、2個艦隊を周辺の航路確保や警備に回されており、残る1個艦隊を送ってきた。
アマールは140隻余りを残すとはいえ、本国防衛用として半数あまりが残されており、派遣してくれたものは1個艦隊分になっていた。
ボラー連邦軍と直接砲火を交えるまで凡そ6時間後に迫る。地球、エトス、アマールの3ヶ国による連合軍は、ひとまず恒星アルデバランA、Bへ足を進めていった。
ここアルデバランAとBを中心とする宙域は難所中の難所と言える所であり、この星系の中心で永遠のタンゴを踊り続ける二連星の恒星は、互いの引力の影響で灼熱のガスを引き込み合っている故に巨大な流れを作り出しているのだ。
単なる宇宙気流ではなく、灼熱な流れであるため、ここをすり抜けようとすれば多大な損害を受けることは避けられない。
しかも、この連星が放つ磁場の影響で、星系の周囲を高速の宇宙気流が取り囲んでいる。おまけに連星を挟み込む様にして、多くの小惑星帯が並んでいる。
まるで巨大な回廊のど真ん中で二連星がダンスをしている様だ。
「いつ見ても、恐ろしい宙域ですな」
「全くだ。しかし、だからこそ、この星系は重要拠点となり得るのだ。我が方にとっても、敵にとっても‥‥‥」
ここを通り抜けるには3通りある。この炎の川を突っ切るか、恒星の両端にある危険な暗礁宙域を通るか、大きく迂回ルートを取るか、である。
可能性としては1番目、2番目は省かれるかもしれないが、残る3番目の選択を選ぶ場合は時間を大きく消費する結果になる。
ボラー連邦にとって、戦力の余力はあっても時間的余力など無い筈だ。なんせ、ガルマン帝国との戦闘は今だに続いている状態だからだ。
多方面へ力を注ぎ続けていては、その間を狙ってガルマン帝国は大挙して侵攻してくる可能性が大いにある。
ならば、ボラー連邦軍は1番目か2番目を選ぶかもしれない。そこで2つの場合から推察して提案されたのは、ボラー連邦軍が炎の川を横断して来た場合。
これは素直に渡り切って来たところを撃てばよい。手っ取り早いのは、波動砲で先手を打つ事である。
(とは言え、ボラー連邦も波動砲の餌食になるような真似はしない筈だ)
この17年間という時間の中で、ボラー連邦は波動砲級の超兵器攻撃を幾度か味わっており、それに対する対策を考えている可能性は十分にある。
だがボラー連邦を相手に波動砲級が効かなかった例は少ない。唯一退けられたのはゼスパーゼ級機動要塞である。ただしハイパー・デスラー砲には敗れ去ったが。
波動砲は極力少数の艦だけに限り、残る艦は応戦に専念するべきだろう。そうやって炎の川をのこのこと渡って来る度に各個撃破すれば良いのだ。
(それとも、暗礁地帯を抜けてくるか‥‥‥?)
対して暗礁宙域を潜り抜けて来る場合。こちらはレーダーの極めて効き難い宙域を通るため、逆に自分らもボラー連邦軍の艦隊を補足する事は難しい。
下手をすれば発見出来ずに背後へ回られる可能性を含んでいるのだが、ボラー連邦軍もそこまでやるとは思えない。
だが対策は考えておく事に越したことは無い筈だ。ボラー連邦が侵略して来るという報告を聞いてから、地球防衛軍は急遽アルデバランの警備を厳にしていたのだ。
そこへジェーコフは別の指示を出した。無数の宇宙機雷を、アルデバラン星系に広がる暗礁宙域内部へと、幾つかの単位で数か所に敷設させたのである。
機雷の配備数は極端に少ないがボラー連邦軍の存在を教える信号代わりだ。もし連星を避けて暗礁宙域を通ってくれば、この機雷減に接触するだろう。
連合軍はこの爆発エネルギーを確認した後、直ぐに転進そ迎撃戦を展開する。レーダーは効かないだろうが、機雷原へ急行し続いて爆発が確認されれば砲撃を開始。
さすればボラー連邦軍も慌てて暗礁宙域から出て来るかもしれない。
(‥‥‥果たして、そこまで上手くいくかな?)
ジェーコフは嫌な予感に駆られていた。ボラー連邦とは小競り合い程度でしかなく、このアルデバラン星系内部で本格的な主力艦隊戦は行った試しなどないのだ。
だが、もしもボラー連邦が17年の間で観測する為だけに小競り合いを演じていたとしたら‥‥‥?
(考えすぎか)
どう観測しても、このアルデバラン星系は難所に変わりはない。不吉な思いが渦巻く中、連合軍艦隊は七時間後、遂にボラー連邦軍と砲撃戦を交えるのであった。
アルデバランA・B周辺へ到着した連合艦隊。その中の一軍を担うエトス軍 第3艦隊旗艦 シーガル級〈ミュレイネ〉艦橋では、固唾を呑んで周囲を警戒するオペレーター達の姿と、やや緊張した様子の司令官レミオスがいた。
過去に幾度なく戦場を駆け回った彼女だが、今回の戦闘は一際に緊張感を増していた。異国艦隊との連携が取れなければ瓦解する可能性がある。
地球艦隊には波動砲という超兵器あるらしいが、それも使い勝手がいい訳ではないようだ。
「時間から言えば、間もなくレーダーに捕えられる筈ね?」
「はい。もう間もなくで川の向こうに反応がある筈です‥‥‥」
レミオスの問いに答えたのは、黒髪の20代後半の男性――[b]旗艦〈ミュレイネ〉艦長 ギアリス・ホンテルン中佐[/b]だった。
彼もまた若年ながら武人として奮闘してきた軍人だった。
「向こうには艦載機がおりますから、何としても川の手前で叩きたいところですが‥‥‥」
「そうね。残念ながら我が軍に小型機の開発は難しい。頼りに出来るのは迎撃兵装のみ。そして、地球艦隊の艦載機ね」
そう――エトス星には、地球やベルデル程に艦載機の開発技術力は無かったのだ。そこで艦載機戦ではなく、敢えて艦隊の大火力をもってして戦場の杞憂を決するという考え方こそが、エトス軍技術者の思考を狭めていたと言える。
だが今までも艦載機相手に戦った事が無い、という事は無い。艦載機相手には迎撃ミサイルと多量に用いて蹴散らし、敵艦隊本隊へ突入を掛けて叩き潰してきた。
今回相手にするボラー連邦軍には、以前よりも改良を施された艦載機が2〜3種類あるという。油断は出来ない。
そして、覚悟を改めている時だった‥‥‥艦内に警報が鳴り響く。
「提督、来ました! ボラー連邦の艦隊です! 数はおよそ600隻!!」
「ボラー艦隊の進行方向は分かる?」
「‥‥‥はい、ボラー艦隊は進路を我が方へ向けいる模様! あと15分で炎の川へ突入します!!」
やはり、時間を優先させて突っ切ってくる気か! レミオスはこのチャンスを逃す訳には行かないと判断し、全艦艇に砲撃用意の命令を下した。
元々に戦闘準備は命令してあったが、これは単に砲撃の合図を待て、との意味で言っただけだ。レーダーには次第に炎の川へ近づくボラー連邦軍が映されている。
今の技術力であれば、炎の川を渡るときに重大な損傷は起きにくい。短時間で渡りきればなんの問題もないのだ。
問題があるとすれば、渡る途中に被弾しようものなら灼熱の高温ガスが損傷個所から侵入し、乗組員を焼き尽くすことだ。
そして光学兵器類の威力が極端に減退するという事。そのために炎の川の中で攻撃してもダメージ自体は低くならざるを得ない。
ボラー連邦軍はそれを承知で進撃して来るのだ。連合軍としてはこれを見逃してはならない。
「‥‥‥ボラー艦隊、川へ突入開始。先頭の集団が渡り切るまで、およそ1分!」
「提督、全艦の砲撃準備が完了しております。後はご命令を頂くだけです」
(大丈夫よ、この初撃で撃ち減らせれば‥‥‥!!)
地球艦隊旗艦〈クニャージ・スヴォーロフ〉の艦橋で、ジェーコフは波動砲の発射準備を整えさせていた。
「司令、波動砲発射準備が整いました!」
「‥‥‥ボラーに異変はないか?」
波動砲を発射予定にあった旧式戦艦で固められた12隻は、艦隊の先頭に立って発射命令を待っていた。
しかし、どうにも腑に落ちない点がジェーコフの喉奥に疑問として引っかかる。相手は波動砲の存在を知っている筈だが、どうして平気で来られるのだろうか?
不審に思ったジェーコフはレーダー手に訊ねる。
「いえ、ボラー艦隊の陣形が崩れつつあること以外、変化ありません」
「‥‥‥そうか」
「司令、どうなさいましたか?」
「いや、なんでもない、副長。当初予定通り、全軍は凹形陣にて待機、波動法発射後に備え、砲撃戦に移る!」
ジェーコフは不吉な予感がするものの、それを振り払った。この時、連合軍は5個艦隊に分かれ、緩やかなカーブを描くような凹型陣であった。
中央には地球防衛軍の3個艦隊がいる。第9艦隊を中心として、左翼に第11艦隊、右翼に第10艦隊が位置している形になる。
この地球軍の左翼にはエトス艦隊が位置し、逆に地球軍の右翼にはアマール艦隊が位置している状態だった。
オペレーターからの報告で、艦列が崩れていると言うのは高温ガスの気流の影響だろう。この流れは意外と強いもので、艦列が思う様に整わないのだ。
だとしても、彼の不吉な思いは一向に取れない。それを無視する事にして、レーダーに映るボラー連邦軍は前進を続ける様子を見やる。
それも1分しない内にボラー連邦軍の先鋒が川の中から姿を現した。
「出ました! ボラー艦隊の先頭集団、川より姿を確認!!」
(やるしかない‥‥‥)
ここまで来て躊躇う事は許されない。これで一挙に態勢を崩させて優位に事を運ばねば、後の戦局に多大な悪影響を及ぼすに違いないのだ。
そして、ボラー連邦軍の先頭集団を完全に補足した頃に、遂に彼は命令を下した。
「拡散波動砲、発射!」
先頭に立つ旧式戦艦群の艦首から、それぞれ光球を作り出す。それが数秒もしない内に撃ち放たれ、目標へと突き進んでいく。
この波動砲が命運を分けるだろうと誰もが信じた。信じていたのだ。しかし、これは最悪の形で裏切られてしまうのである。
〜〜あとがき〜〜
どうも、第三惑星人です!
今回は初の外伝編を投稿させていただきました!
ぶっちゃけて言えば、地球、アマール、エトスの合同戦を描きたかっただけなのですがw(←オイ)
そのため、各国の事情は結構、ご都合的なものがほとんどです。特にエトスが参入してくれるなどあり得ないと思いましたがw
次回こそ本格的な戦闘に入りますのでしばらくお待ちください!
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