外伝『シヴァ誕生』



  地球連邦防衛軍――地球連邦の基で設立された、地球ひいては太陽系を防衛する軍事組織だ。今風に言う国際連合軍の延長上にあると言ってよい存在である。
ただし、厳密にいえば前身となっていたのは旧国連が主導の基で設立された国際連合統合軍であり、連邦防衛軍こと通称:防衛軍は改編された組織だった。
もっとも大まかな内部組織構造は変わってはおらず、多くは国連統合軍の組織体制を引き継いでいる部分が殆どと言って良い。
  だが、そんな世界共通の軍事組織を確立させるのは前途多難であったことは、旧国連統合軍の設立からして非常に試行錯誤の多い毎日であったとされり。
まず世界の各支部に防衛軍支部を設立して軍の共通化を図り、かの多国籍軍よりも効果的な編成に勤め上げたのだが、その道のりは平坦なものではなかった。
宗教上の問題や人種的な問題、歴史的な問題などが絡み合う事もあり、正常化させるまでにはそれなりの時間を有してしまったのである。
それでもなお、国連首脳部や統合軍幹部達は苦心の末、軍隊として稼働できる状態にまで向上させた。陸、海、空、宇宙、全てに渡り、部隊編成を完了したのだ。
  とりわけ重要とされたのは、宇宙を守る部隊――宇宙軍だったのは言うまでもない。宇宙艦隊で外敵を退けられなければ、本星を攻撃されてしまうのだ。
だから旧国連並びに国連統合軍は、宇宙艦艇の建造には力を注いでいたのである。その宇宙艦艇の建造に当って、世界各国の重工業メーカーは開発に明け暮れた。
イギリス、ドイツ、フランス等の欧州各国、アメリカ、ロシア、中国、そして日本の重工業メーカーの競争は苛烈であった。
  軍首脳部の方針としては、艦型を始めとして兵装や機関部等の規格統一を目指していた。世界でバラバラでは、修理などで互換性に難が出てしまうからだ。
そこで各国メーカーに競い合わせて、より優れたものを選び、統一生産しようという形になったのである。
  そして宇宙艦隊の要と成り得た造船メーカーというのが、日本で一大企業と謳われていた南部重工大公社傘下の南部造船であった。
しかも戦艦、巡洋艦、駆逐艦、全てにおいて制覇してしまったのだ。それが金剛型宇宙戦艦、村雨型宇宙巡洋艦、磯風型突撃宇宙駆逐艦である。
地球を守る要として、これらは各国で生産され、最強の艦隊を自負したのである。
  とはいえ、それもガミラス帝国が出るまでの話だった。外部勢力を前にして、これら艦隊は一気に世代遅れの旧式艦と成り下がってしまったのだ。

「まるで、世界を震撼させた〈ドレッドノート〉のような存在だ」

ガミラス艦を相手にした生き残りの兵士が呟いた言葉である。〈ドレッドノート〉とは、イギリスメーカーのヴィッカース社が建造した、世界初の弩級戦艦である。
この“弩”という一文字が〈ドレッドノート〉の頭文字の“ド”から来ているというのは、艦船マニアの間では極当然の知識であった。
そんな昔を沸騰させる技術の差に、防衛軍技術部のみならず南部重工業も愕然となったのだ。
  片や主力の座を落とされた他メーカーは、揃って鼻で笑うどころか顔面全体が青くなったと言う。南部の戦闘艦に勝る物を造れる自信が無かったのだ。
何故なら、仮に彼らの戦闘艦が正式に採用されたとしても、ガミラス艦と戦火を交えて南部造船以下の惨状になったのは明白と結論付けられたからだ。
この苦境において、南部重工業はガミラス艦の破片や破棄兵器を分析し、対抗馬を用意した。
  それが〈ヤマト〉である。地球で初めて波動エンジンを備え、武装もガミラスの主力兵器であった陽電子ビーム砲が通常兵器となった弩級戦艦とも言える存在だ。
この艦に対して酷評を下したのは、天の川銀河方面軍 司令長官グレトム・ゲール少将(エルク・ドメル上級大将の赴任前である)であった。

「何とも醜い艦だ。美しさのかけらもない」

彼の美的センスが正しいのかは置いておくとして、彼の言葉とは裏腹に〈ヤマト〉の戦闘能力や防御能力は予想を遥かに上回るものであった。
  それが覆る程の実力を最初に証明したのが、木星に建設されていたガミラス帝国軍の前線補給基地での戦闘による結果である。
同基地司令官だったサレルヤ・ラーレタ少佐も、〈ヤマト〉は従来の軟弱な地球艦と同一視していた。
デストリア級航宙重巡洋艦1隻に、クリピテラ級航宙駆逐艦3隻という基地防衛用の極少数部隊ではあったが、ラーレタをして――

地球(テロン)の武器では、こちらの装甲を貫通できません。4 隻 で も 多 い く ら い で す

と軽々しく酷評していたものだった。事実、地球の戦艦は、ガミラス帝国軍の駆逐艦にさえ歯が立たなかったのだが、この先入観がいけなかった。
〈ヤマト〉の陽電子衝撃砲(ショックカノン)は、一撃で駆逐艦を撃砕したのだが、驚くのはそれだけではない。重武装を誇る重巡洋艦をも、一撃で轟沈せしめたのだ。
  そしてガミラス戦役後、この〈ヤマト〉建造データを基に、改編された新軍事組織――現在の地球連邦防衛軍の戦闘艦建造チームが新たな戦艦を開発したのだ。
それがドレッドノート級主力宇宙戦艦であり、現在の新ドレッドノート級戦艦の前級に当たる戦艦だった。量産面とコスト面、もちろん戦闘艦としての能力は優秀であり、主力戦艦として位置付けられたこの戦艦は、各国で急造されディンギル戦役まで主力であり続けたベストセラーとなったのである。
それに続き、ザラ級巡洋艦以下、駆逐艦、護衛艦、空母など、各艦艇群も増産されていった。
  同時に防衛軍と連邦政府は、〈ヤマト〉から得られた波動砲の威力に驚愕し、そして陶酔してしまう事となった。これほどの超兵器が存在すれば、地球はガミラス戦役の様な苦杯を舐めることは無く、少数でも多数を撃破することのできる理想の兵器として認識したのだ。
それからというもの、上層部は艦隊再編の一環として波動砲艦隊構想なる大艦巨砲主義こと“波動砲主義”が誕生した瞬間でもあった。

「我が地球防衛軍には波動砲がある! これある限り敗北など有り得ない!!」

一部閣僚は、そのように公言していた程だった。それだけに、波動砲に対する高い信頼性、及び新生宇宙艦隊に対する期待感は相当なものであったと推察が出来る。
ただし必ずしも全ての者に受け入れられていた訳ではなく、下手をすれば星を破壊しつくすジェノサイドを起こしかねない、極めて危険な思想であると非難もあった。
確かに危険な思想であり、かのヤマトクルーの間でも反発の声はあったのだが、地球が自分自身を護り抜く為には無くてはならない装備として強硬したのだ。
そして皮肉にも、過去の戦いからも波動砲が危機を救った事例はあり、艦隊決戦でも大いに役立っていることから、今もなお波動砲への執着はこびり着いている。
  ドレッドノート級とは別に、旗艦専用艦の開発も怠らなかった。それが波動砲2門を搭載した、当時最新鋭の大型戦艦ことアンドロメダ級戦艦である。
波動砲は戦艦には必須の装備とされ、後の新造艦開発計画においても、世界の各民間会社は波動砲を絶対の装備と見ていた程であった。
  だがこの時点で、日本の南部重工大公社は次なる戦艦を建造しなかった。それは、現主力艦の造船に尽力していた為、または移民船の建造を急いでいた為だ。
万が一の事も考えられ、防衛軍から移民船の建造を依頼されていたのだ。あるいは別企業がそうさせるように手回しがあった、という噂もある。

「建造競争というビジネスチャンスに入れなかったのは残念だが、地球市民のためを考えれば何のことは無い」

そう言ったのは当時の南部重工大公社 南部 康造(なんぶ こうぞう)社長である。事実、彼の適切な判断は、地球上にいる市民を乗せるだけの数を揃える事が出来た。
それに地球探しのために出航する〈ヤマト〉に対して、支援も数多く行い、陰ながらも〈ヤマト〉を支えていた。
  結局は〈ヤマト〉の活躍で移民する必要性を無くしたが、その後のディンギル戦役で一時避難するために、活躍の場が与えられ……なかった。
全てがディンギルの無差別攻撃で撃沈破されてしまったからだ。これを効いた康造は愕然として、電話の受話器を落としてしまったとさえ言われる。
勿論、これは輸送船を失ったという衝撃ではなく、大勢の市民を殺されてしまったという事実に対してである。
  因みにこの時の主力艦は長門級戦艦であり、かのイギリスが建造したPOW級戦艦を参考にされたもので、日本技術陣も混ざって開発された日英ハーフ戦艦である。

「旗艦と位置づけられるべき艦の製造を求む」

ディンギル戦役から10年後、新たに提示された要請だ。ディンギル戦役で主力艦の大半を損失した防衛軍は、再建のために3度目の建造競争を企画した。
当時は春藍級が総旗艦を務めてきたが、その代替わりとなるべき旗艦級を欲してもいた。
  だが主力艦の次世代艦の開発までは提示していなかった。それは既存データを現代技術でカバーすることで、時間をかけずに戦力を揃える事を前提とした為だ。
それがスーパーアンドロメダ級と新ドレッドノート級、以下ガトランティス戦役時の艦のリメイク版だった。パフォーマンス性は無いが、性能は十分に高い。
しかしスーパーアンドロメダ級とはいえ、防衛軍全艦艇を一斉統括する為の指揮・通信技術はなお足りなかった。何せ主力だけで六〇〇隻以上もの数だ。
  そこでかの〈アンドロメダ〉のような、全艦艇を直接指揮できるような情報処理システムを搭載した、総旗艦たる艦艇の建造を依頼したのだった。
3回目と言えるこの建造競争は、前回とは違う形で進んでいった。それは各国で様々なアイディア出しあうというよりも、企業を連合体として取り組むことだった。
ことに、欧米企業は新旗艦の共同開発という事で提携が決められた。これはアメリカ大手重工業の「GNN(グラマン・ニューポート・ニューズ)社」。
そしてイギリス大手重工業の「VSB(ヴィッカース・シップビルダーズ)社」を中心としたものであった。
  かつて〈アリゾナ〉という破格の戦闘能力を形にしたアメリカのGNN社と、〈POW〉というコストとメンテナンスで安定性を実現したイギリスのVSB社。
総旗艦級であるが故に、複数建造しても最大で2隻か3隻だが、互いの長所を織り込む事で、より相応しい戦闘艦を作るに至ったのだ。

「全世界の威信にかけて、そして人類の威信にかけて、最大の戦艦を造って見せる」

  GNN社の社長は、代表して宣言したものだ。そして、その公言の通りに彼らは最大の戦闘艦を造り上げて見せた。
それこそが、現在のブルーノア級戦闘空母である。戦艦と空母の能力を兼ね備える事で、航空機戦や偵察等、様々な状況に対応できるように考慮されている。
また艦橋構造のシンプル化による、情報処理の容易さを実現。新式通信システムと情報処理システムの導入による、艦隊の指揮能力の向上。
それだけではない。六連装波動エンジンの搭載や、初の次元潜航能力も備えた、まさに究極とも言える戦闘艦だ。
  アメリカ重工GNN社は、これまでにない程の自信を胸に持っていた。栄光の総旗艦となった1番艦〈ブルーノア〉が、2217年に就役したのである。
当時、地球連邦防衛軍で最も最強の戦闘艦が地球の守護神となった瞬間でもあったが、世界情勢は〈ブルーノア〉を快く歓迎していられるようなものではなかった。
カスケード・ブラックホールが確認された為である。
  連邦政府は至急検討会議を開き、様々な試行錯誤の結果として出たのが、極分だが大事業でもある多量の移民船を建造することに方針を定めたのだった。
各世界の造船企業は新たな戦闘艦づくりを断念し、移民船の建造を急ピッチで進める事になったのだ。その中には南部重工、イギリスのVSB重工、ドイツのクルップ重工ら有数の企業も含まれており、GNN重工もまた例外ではなかった。
とはいえ、ブルーノア級の姉妹艦の建造は決定されており、一番艦以降の艦艇は予定通りに建造が始まった――が、その最中にGNN重工を衝撃が襲ったのだ。





「なんだと、それは確かな情報か!?」
「は、はい。間違いではございません」

  アメリカのニューヨークに本部を構えるGNN社。その会議室で、57歳の男性――ハワード・グラトニック 取締役社長は大声を上げていた。
その原因は、彼らの基に入ったある情報部からの報告書。長年に渡りライバル視していた企業、南部重工大公社の動向に関するものであった。

“南部重工、アクエリアス氷塊にて新型艦を建造中の模様。場所からして、恐らく――”

「あの〈ヤマト〉を再建していると言うのか!」
「可能性として、それが高いかと‥‥‥」

役員の一人が気まずそうに答える。何てことだ、南部重工は移民船建造に奔走していたのではないか。連邦政府からもそう命令が来ていた筈だ!
グラトニックは出し抜かれたような気分に苛まれた。この時期に、まさか〈ヤマト〉を対抗馬として建造するつもりなのか。
また戦闘艦という市場において、南部重工大公社が頂点に立つつもりなのだろうか。悩む社長に28歳ほどの役員が発言する。

「しかし社長、幾ら伝説の〈ヤマト〉とはいえ、我々の〈ブルーノア〉に勝る筈はありません。あんな時代遅れの戦艦を……」
「君は分かっていないようだな、南部重工の底力を」

  視線で威圧するグラトニックに、若い役員は気圧された。そうだ、南部重工大公社は〈ヤマト〉の生みの親なのだ。
しかも、後のドレッドノート級が建造しえたのも、〈ヤマト〉あってこそと言っても、決して過言ではない。
初期型だが波動防壁の開発、波動機関によるショックカノンの開発、そして波動砲の初搭載、と革新的なものを、南部重工大公社は逆境の中で造り上げたのだ。
  とはいえ、その後の主力艦建造は防衛軍主導の下で開発がなされていたことも有り、表だって目立つようなことはなかった。

「〈ヤマト〉は南部重工が造り上げただけではない。シロウ・サナダの手も加えられているのだ。君も知っているだろう、この名を」

真田 志郎と言われて知らない者はいないが、それは〈ヤマト〉に乗っていたという事よりも、今の宇宙科学局長官としての真田を知っているだけだ。
この男は航海中にもかかわらず、様々な新兵器や技術を開発した経緯がある。〈ヤマト〉は姿形を変えずに進化を遂げて来たと言っても過言ではなかった。
そして今また〈ヤマト〉は、大幅に強力な戦艦として復活するだろう。グラトニック自身、ブルーノア級のスペックが劣るとは思えない。
 ここで55歳のイギリス系男性が発言する。VSB社 アルフレッド・グレアム 取締役社長である。

「どうするかね、Mr.グラトニック。此方の情報では、〈ヤマト〉は“艦隊旗艦”として就役されるとか聞くが?」

〈ヤマト〉が“総旗艦”となる可能性は、低いでしょうがね。そう付け加えるグレアム。その発言に、根拠がない訳ではない。
まず、既に〈ブルーノア〉が総旗艦の座を貰っているという事。そこでまた入れ替えるような事はしない筈だ。ましてや、〈ブルーノア〉の能力は伊達ではない。

「〈ブルーノア〉でさえ、あの巨艦を持ってして1000隻単位の艦艇を同時統括出来るようになったのですからな」
「その通り。300mにも満たない〈ヤマト〉に、高度な情報処理機能を搭載しても、精々300隻程の同時統括が限度とみて、間違いあるまい」

役員が言う様に〈ブルーノア〉は旧来の艦隊旗艦よりも遥かに膨大な指揮能力を有していた。かのアンドロメダ級は凡そ200隻前後を“同時統括”する事ができた。
総旗艦のスペックにしては小さな数字に見えるだろうが、防衛軍の戦力からすれば十分なものだ。当時にしても、艦隊総数は230〜240隻あまりだからだ。
例え数字上をオーバーしたとして、統括しなくても各旗艦に伝達さえすれば、規定能力内でもかなりの艦艇数を指揮する事も可能であった。
  アンドロメダ級の発展型である春藍級においては、200隻分の統括能力に400隻分を上乗せされて、統括指揮が出来るまでになっていた。
事実上、倍の数を直接的に指揮命令できるのだ。勿論、当時に配備されていた無人艦の大多数を指揮することも可能であった。
このクラスが誕生した途端、防衛軍首脳部は総旗艦の次期タイプの開発を中断することを決定した。これを複数揃えるだけでなんら問題ないと判断したのだ。
それにあくまで総旗艦であり、各方面軍旗艦を務められれば良い。主力艦隊旗艦というのも、かなり贅沢な使い方でもあったと言えよう。
  その後は主力艦艇の開発が優先的となり、現在は再び総旗艦開発に力を注いだ。それで誕生したのがブルーノア級である。
防衛軍は2210年時点で、既に700隻近い艦艇数を揃えていた。主力艦隊に絞れば、もう少し数を減らせるが、総力戦ともなれば春藍級では足りなくなったのだ。
逆に新生〈ヤマト〉の統括能力は300隻。少ないと見えるが、それは大きな間違いだ。300m級の戦艦にしては、十分過ぎる指揮能力である。
尤も、総旗艦ではないこともあるだろう。
  しかし、主力艦隊を複数指揮できるとなれば、〈ヤマト〉は大分進化したと言っても過言ではない。

「しかし、幾ら改装したところでも、総合スペックは〈ブルーノア〉が上だという事は明白です。最新式の波動防壁、ホーミング波動砲、亜空間航行も‥‥‥」

スペックは〈ブルーノア〉が勝る。大半はそう思っているのだが、中にはこんな役員もいる。
  ブルース・ウェルト、36歳ばというGNN社の若き役員だ。

「いや、あれは侮れません。我らが市場の先頭に立つ為に、今一度、ブルーノア級の再検討をしてみるべきではないでしょうか?」

伝説の〈ヤマト〉という名前だけで、総旗艦〈ブルーノア〉の各が下がるのはGNN社にとって不名誉極まる問題だった。
伝説造りに陰ながら貢献した南部重工らが再建したとなれば、信頼性はさらに上がる。
  今の〈ブルーノア〉で負けるとは思わないが、ここはさらに強化した〈ブルーノア〉を出すべきだ。我ら企業が、市場の座を奪われてはならない。

「馬鹿を言いなさんな。既に〈ブルーノア〉は完成している」

無茶を言うなと言わんばかりの言葉に、さらなる発言を重ねた。

「現在、そちらのポーツマス工廠で建造中の艦に手を加えればどうです」
「君! 2番艦は着工したばかりだぞ!」

  ブルーノア級は、予算との都合で全部で3隻が建造を決定されていた。1番艦は就役し、その一か月遅れで2番艦と3番艦が同時着工されたのだ。
3番艦はイギリス領土のポーツマス工廠所で、3番艦はアメリカのニューポート・ニューズ工廠所だ。
しかも三番艦は戦闘艦として建造することはできなかった。それは各国の政府要人達及び、市民達を乗せるための司令船として運用したいとの事なのだ。
これに連合企業は反発の意を示したのは言うまでもない。政府からの指示では、三番艦は武装を完全に取り外すことになる。つまり非武装艦とならねばならないのだ。
  しかし、悲しい事に、この旗艦級戦艦建造計画において、連合企業は地球連邦から予算提供を受けていた。しかも1隻につき4割程度の出資だ。
ここで予算を引き抜かれては、企業側は大赤字どころでは済まされない。連邦政府は狡猾な真似をしたと言えよう。
どうせならば移民船に乗船すればよいではないか、との意見が大半を占めたが、それは真田や山南の反論で跳ね返されてしまう。

「移民船の使用する通信機器や情報処理機能では、数千という数の移民船を管理することは叶わないのだ。そこで貴方がた連合企業が開発した〈ブルーノア〉の、膨大な情報処理能力を借りたい。臨機応変に対応する為にも、戦闘艦並みの専用艦が必須なのです」

最初から建造しておけ、と叫びたくもなる。
  しかし、第4回目の建造競争というものが、実は連邦政府の一部の人間または軍部の布石だった事に改めて気づかされる事となった。
そうか、だから連中は総旗艦として務まるようなスペックを提示した訳か。我らはその出汁に使われた‥‥‥と、言うことなのだろう。
建造への出資も多かったのもその為か。巧妙な仕掛けだな、とグラトニックは舌打ちしたものである。

「1隻くらいは仕方あるまい」

等と了承せざるを得なかった。
  この様な事も有り、4番艦を建造する余裕はもうない。だからこそウェルトは、着工したばかりの2番艦には、再検討の余地があると言う。
上司であるグラトニックも、思わず眉間に皴を寄せた。検討するという事は、それは即ち建造中の2番艦を凍結しなくてはならないという事なのだ。
それでは今度の建造スケジュールに大きく響く。この提案には半数以上の役員は揃って、建造凍結と言う事態に賛成し難い表情である。
  グレアムは沈黙を保っていたが、やがて口を開きウェルト役員の意向に添える発言をした。

「まぁ、どの道、今更に新造艦の設計などやる時間もあるまい。ここは、彼の提案通りに、2番艦の強化案を練ってみてもよいのではないかな?」
「プレジデント! 正気ですか!」

VSB社の役員は、まさかの同意に驚愕する。それは相手側とて同じ事であった。〈ブルーノア〉を強化するとなれば、どういったところを強化すると言うのだろうか。
疑問の出てくるところであるが、グラトニックもやがて重い口を開いた。

「‥‥‥Mr.グレアムの提案を呑もう」
「!」
「〈ブルーノア〉が完成したが、実際に運用した時点で不具合などを全て纏め上げろ。そのデータをフィードバックして、二番艦に活用するのだ」

驚くGNN社役員達。
  だが過去においても、姉妹艦は1番艦の不具合から2番艦以降に改修を加えて完成させていくものだった。せっかく2番艦が造られるのだ。
全く同じものを造るより、物足りない部分を補ってあるべき形にしてもよいだろう。会議はやや意外な方向性を向いて進んだが、両社長の合意と役員への半ば無理矢理な要請において、2番艦の改修決定がなされたのである。
事実、〈ブルーノア〉は最強の戦闘艦ではあったが、単艦時の戦闘における下方方向への攻撃力不足または、艦底部の第4艦橋の守りの薄さが挙げられたのだ。
開発部や設計部は、上層部の急な改修命令に戸惑うものの、唯々諾々と従った。チーフ達は、ここにきて改修するのかと不満げではあった。
  しかし、この改修における目標を聞かされて、心が躍った――即ち。

“〈ヤマト〉撃沈を目標とせよ”(バスタード・ヤマト)


勿論本当に撃沈する訳ではない。想定に過ぎないが、〈ヤマト〉を撃沈できるような性能があれば、それは地球最強である証明にもなるのだ。




 
「ブルーノア級が一時的に凍結された?」
「はい。先ほど得ました情報です、会長」

  73歳の眼鏡をかけた老人が、白くなった眉をピクリと上げながら聞き返した。南部重工業会長の南部 康三である。防衛軍少将たる南部 康雄の父親だ。
肩書は会長とあるが、実質的には彼が会社を取り仕切っている。防衛軍入りしてしまった頑固な息子の帰りを待ち、社長の椅子を用意しているのだ。

「何故だ。何故凍結する必要がある。時間はあまり残されてはいない事を、理解しているだろうに」
「それなんですが・・・・・・」

30代後半の社員が、多少の汗を流しながら、凍結の原因を述べた。

「‥‥‥〈ヤマト〉再建計画が漏れたか」
「はい。何処からかは分かりませんが、この計画に対抗する為に凍結を行ったのではないかと」

一理あるな、と康三は確信していた。久々の艦艇建造なのだ。その座を奪われまいとして、躍起になっているのは容易に想像できる。
だが〈ヤマト〉計画は、決して新型主力艦の位置づけとして進めている訳ではない。人類を救う希望として造り上げているのだ。
  もとはと言えば、科学局長官の真田中将の要請があった事が始まりであった。カスケード・ブラックホールの脅威から守る守護神を甦らせる。
外敵からの脅威を排除する為、または人類の希望を乗せて〈ヤマト〉を再建してもらいたいとの話だ。
  彼は思った、確かに〈ヤマト〉は希望的存在だ。あのガミラス戦役も、ガトランティス戦役も、デザリアム戦役も、第二の地球探しも、そしてディンギル戦役も。
これら激闘の時代で、〈ヤマト〉は希望であり続けた。それが再び、人類の希望の星になるというのだ。

「今更、我々が騒いでどうなる問題でもあるまい。市場のトップを狙うのは結構だが、今大事なのは、地球市民に生きる希望を与えることだ」

市民が滅亡してしまっては何もなるまいて。それに、今回はあくまで総旗艦の建造を任されたに過ぎない。主力艦艇の殆どは、防衛軍技術部が主導して行われた。
それもその筈、アンドロメダ級や旧ドレッドノート級を参考にしているのだ。他企業のアイディアを借りるまでもない話であった。
借りるとすれば、各企業のドックだろう。一度に多数の発注を行い、多数の戦闘艦を世界各地、あるいは各惑星基地で揃えていくのである。
  康三は欧米連合企業の動きに対して、彼らには好きにさせておけばよかろう、と言うだけで、別に対抗意識を持とうとはしなかった。
次期主力艦の話も当分先だ。それに、そのテストペットとなるべき艦は既に完成している。しかも七年ほど前の2210年の話であった。
これはタキオン粒子による次元波動理論をさらに研究、追及して次期主力艦に反映させるために造られたものだ。その名を〈武蔵(ムサシ)〉という。
開発主導は防衛軍であるが、基本艦体構造に関しては南部重工が手掛けている。それもそのはず、〈ムサシ〉の艦体部分は〈ヤマト〉そのものなのだ。

「我々人類が、故郷を捨ててまで生き残るか、共に運命を迎えるか‥‥‥。前のように、地球が助かる道はないのだろうかね」
「それは、難しく思いますわ、会長」

  独り言に対して律儀に答えたのは、丁度部屋に入って来た女性だった。黒いセミショートに、下渕眼鏡をかけ、やや釣り上がり気味の目元をしている。
きつい印象を与えかねないが、口元の笑みがそれを和らげていた。見た目からして30代前半だが、実際は37歳の女性である。
白のブラウスに、上下黒のパンツスーツ姿は、ビジネスウーマンと呼ぶに相応しいものだった。

「おぉ‥‥‥来とったのかね、バニングス君」

  彼女は由香里・バニングス、名前からしてアメリカ系日本人である。祖父がアメリカから日本へ渡って、バニングス工業を起業したのが成功したのがきっかけで、戦争で危うくなったものの無事に存続、営業を続けていた。
その後、ガミラス戦役で危機にあった、同じ日本国内のメーカー 月村エレクトロニクスと合併。これをきっかけに誕生したのがB&Tグループであった。
家庭向けの電化製品を手掛けている他、軍需産業のほんの一部を携わる他、一般宇宙船の建造も行うと言う、幅広い経営を行っていた。
ガトランティス戦役に再度、経営の危機に陥って以降、今度は南部重工大公社との提携が発表された。
南部重工大公社は国際的にも広いシェアを持つ企業だ。一般商船や軍艦の製造も手掛ける。そんな日本国内の一大企業との提携は、衝撃的なニュースになった。

「予定の時間より早めに到着するのは当然です。それよりも、ヤマト計画と、アマール計画に関してお話しがあります」
「そうだったね。ま、とりあえず掛けたまえ」
「失礼します」

  康三に勧められ、ソファーに腰掛けるバニングス。丁度そこへ、女性社員が二人分の紅茶を淹れて運んで来た。社員が退室するのを見計らい、本題に入った。

「まずヤマト計画ですが、進行に遅れが生じています」
「ふむ、原因は‥‥‥想像がつくがな」
「はい。アマール計画が最優先で進められているため、ヤマト計画の為の資材が滞っています」

ヤマト再建計画とアマール移民計画はほぼ同時進行で進んでいた。だが優先すべきは移民計画の方であり、移民船1万2000隻の建造が急務となっている。
これらの建造費やら資材やらは、軍艦を建造するのとは比にならないものだった。南部重工大公社、B&Tグループが中心に計画を進めている。
  しかし全企業がこれに従事したとしても、計画がすんなりと進む筈もない。どうやっても計画に遅れが生じざるを得ないものだった。
そしてアマール計画の遅れは、ヤマト計画の遅れに繋がる。その分だけ、人類への生存確率を下げる事にもなりかねない問題であった。

同業社(揚羽財閥)さんも、他に手を付けられないようで‥‥‥」
「我々がそうなんだから、揚羽財閥も似たり寄ったりだろうな」

  揚羽財閥は、南部重工のライバル的関係にある会社だ。ガトランティス戦役後に急成長を遂げ、家庭生活用品から造船関係まで取り扱っている。
そしてこの揚羽財閥も、過去の〈ヤマト〉に対して色々と協力していた会社でもあった。日本南アルプス山脈山中の秘密ドックを提供したのも、揚羽財閥だった。
南部重工大公社も揚羽財閥も〈ヤマト〉との関係があるだけに、ライバル意識も強くなるものである。

「カスケード・ブラックホールに呑みこまれる半年前には、船団の準備が整う手筈です」
「ギリギリだな‥‥‥。〈ヤマト〉の完成もそれくらいになるか」
「そうでしょうね。政府の支援を受けられても、それは移民船団の建造が完了した日からですわ」

ここで、はぁ、と康三はため息をついた。

「会長?」
「いや、なに‥‥‥。康男の奴が、早く戻っては来てくれぬかと思ってな」
「‥‥‥康男君は、相変わらず軍を続けていらっしゃるんですね」
「あぁ。あの馬鹿息子が交代してくれぬ御蔭で、負担が倍になっとるよ」

  お気の毒に‥‥‥。バニングスは口にしないまでも、心の中で呟いた。彼女も南部 康男の事は良く知っている。幾度か顔を合わせてもいるし、会話もしていた。
彼は心情を簡単には曲げる事はしない。〈ヤマト〉に初めて乗艦する時も、親の反対を押し切ったものだ。
だが性格は嫌いではない。それに彼の軍人としての能力は見事なものだ。30後半で准将にまで昇進しているが、その腕は確かな物である。
でなければ、艦艇を多数従える事などできない。
  だが肝心の家業のを継ぐ様子がない事は、親としては辛いだろう。息子からすれば、安全な所で椅子に座って書類を見通す様な生活に、すんなり馴染む筈はない。
地球の危機に対して、社長の椅子に座るよりも戦艦に乗って危機を救う方が、より平和のために尽くせるという充足感があった。

「会長のご負担もお察しいたします。ですが、康雄君は、必ず戻って来てくれますよ」
「‥‥‥本当にそう思うかね? バニングス君」
「えぇ。何でしたら、私の方から説得してみても、よろしいですわ」

それは心強いな、と彼は笑みを浮かべながら言う。もっとも、バニングスは康三がどうしても〈ヤマト〉へ乗艦をさせたくなかった理由は、推察できた。
彼は、戦争によって息子を失うのではないか、と恐れているのだ。それは今も変わらない。しかし、このところ大規模な戦闘もなく、不安になるような事もない。
バニングスにも14歳になる娘がいる。その娘が軍隊に入りたいなどと言おうものなら、全力で止めようとするだろうから‥‥‥。



 

  GNN社、VSB社らによる提携企業の〈ブルーノア〉改造案計画は、一時凍結されてから僅か1ヶ月後に再開される事になった。

「〈ヤマト〉を超えるのだ!」
「南部重工らに目にもの見せてやるぞ!」

各社上層部には、この様な発言がちらほらと見受けられた。しかし、実際ここまで熱狂的な事を考えているのは、その上層部の一部に過ぎないだろう。
現場としてはそこまで熱狂的にはならなかった。開発チームなどは懸命に努めてはいるが、他者の視点から見ると‥‥‥。

「どこら辺が新しいんだ」

  と、突っ込みを入れられるものだった。完成予定のものと、1番艦と見比べても大差ない。下方への砲撃可能範囲が増えた事は、確かに大きなプラスではある。
とはいえ、それだけの事。既存の〈ブルーノア〉でさえ破格なのだ。攻撃範囲と総合攻撃力が何割か増したに過ぎないものだった。
それでもブルーノア級2番艦と3番艦は、早急且つ慎重に建造が進められた。資材不足と言う事態もあったが、タイムリミットまで凡そ1年半前に完成したのだ。
これに伴って進水式が執り行われたが、会場内は華々しいものとは言えなかった。客足はあったがそう多いものではなく、新鋭艦を出迎える心境にはなかった。
  そして肝心な2番艦の命名も行われたのである。この艦名を付ける時においても、多少のゴタゴタがあったようで、その原因も難しいものではない。

「名前で負けるようではいかん」
「〈ヤマト〉をも圧倒する名を付けるべきだ」

最初は〈青き地球(ブルーアース)〉という名前が候補に挙がっていたが、それでは伝説の〈ヤマト〉の名に聞き劣りするという、他者からすれば呆れるような話だった。
多少は縁起のある名前も必要ではあるだろうが、彼らの場合は度が過ぎていたとも言える。そのような事で、名前の選定が行われた。
  結果として、2番艦に付けられるべき名前は決まった。それが‥‥‥。

「本艦の名を〈シヴァ(破壊神)〉と命名するものである!」


演説台にて力強く名を発表する関係者。破壊と恵みをもたらすインドの神――シヴァ神から、その名を頂く。破壊は戦闘能力そのものを指し、恵みは平和を指した。
就役した本艦は、その所属もはっきりとされた。外惑星艦隊 第4艦隊の旗艦として、その身を収める事となったのである。
  そして肝心なる艦を預かる人物の選定も行われた。一体誰が、この破壊神に乗り込み、指揮するのだろうか。軍関関係者は勿論の事、企業側も気になっていた。
艦長として期待を掛けられる軍人側としては、誠に余計なプレッシャーになるものだった。幸か不幸か、初代艦長として選ばれたのがフュアリス・マルセフ中将である。
これに対して羨ましがる同僚もいれば、妬ましく想う同僚もいた。
  しかし、当の本人はといえば‥‥‥。

「企業の思惑は関係ない。命じられたからには、職務を全うするだけの事さ」

等と嬉しそうにするわけでもなく、淡々として辞令を受け取った。とはいえ、偉大な戦闘艦に乗る事が出来ると言うのも、嬉しいのが正直な気持ちでもあったが。
  そして副長として配属されたリキ・コレム大佐。彼も最新鋭の〈シヴァ〉副長として務められる事に対して、嬉しい反面、緊張も高いものだったと言う。
かくして、〈シヴァ〉は地球が消滅する1年半前に就役したが、状況が危機的なものであるだけに訓練も過酷なものとなったのは当然と言えよう。
かの〈旧ヤマト〉並みの航海・戦闘訓練が実地された。機敏かつ的確な操艦が求められた航海班。同じく戦闘班も正確無比を誇れるような射撃術を求められた。
他の救護班しかり、生活班しかり、技術班しかり機関班しかり、航空隊しかり‥‥‥全ての部署が、極限の力を発揮できるように求められのである。
  乗組員も死にもの狂いで付いて行ったものである。総旗艦として恥じる事のなるようにする、という気持ちがあったが、それだけではない。
何よりも彼ら乗組員は、地球の置かれた危機的状況を真摯に受けとめていたからだ。

「人類は移住する。その際に、我々は人類を護る重要な責務を担う事となる。諸君には一刻も早く一人前となって、責務を全うしてもらいたい!」

マルセフは訓練初日にそう演説した。厳しい訓練を行いつつ、叱咤激励を行い乗組員のメンタリティーあるいは士気の維持に努めた。
副長のコレムも、マルセフが艦隊指揮に専念している場合や、不在だった場合を想定して艦の指揮を執る。次第に艦隊による訓練も実地され、艦隊訓練も本格化した。
  この〈シヴァ〉の熱の入った完熟航海に、外惑星艦隊(第5、第6艦隊)の面々にも力が入る。決して気を抜いてはないが、それ程に彼らは白熱化していたのだ。
結果として外惑星艦隊の練度は、1番練度が高いとされる外周艦隊(第1、第2、第3艦隊)を追い抜くまでに成長した、とまで囁かれた。

「練度が高いのは尚の事、結構な事だ。これにならって、他の艦隊のみならず全防衛軍の兵士諸君も、高い練度を保ってほしいものだ」

そう言ったのは地球連邦防衛軍統括司令長官 山南元帥だ。過去の戦訓からも、現場の早期なる対応が求められる。あの亡き土方元帥が良き例である。
宇宙艦隊司令長官水谷大将も、現場レベルで良い対処が出来るように、と将兵全軍に伝えている程であった。
  そして運命の移民計画実行日。第1艦隊を中心とした護衛艦隊と第一次移民船団が出発した。3000隻以上の集団が出発する様は圧巻である。
〈ブルーノア〉が先人を務め、姉妹艦〈シヴァ〉は第2陣の防人を務める事となった。〈ブルーノア〉も〈シヴァ〉も、立派に役目を果たしてくれる筈だ。
欧米企業上層部は、そう期待した。グラトニックとグレアムも、最新鋭艦が守護神として人類を守り通してくれる事を切に願った。
  だが彼らの期待は突き放されたのだ。それは、幸運の女神から強烈な平手打ち(スパンク)を食らわされるに匹敵する程の衝撃。それが‥‥‥。

第一次移民船団、第二次移民船団、消息を絶つ


「馬鹿なッ! 有り得ん、第一次に続き、第二次も消息を絶っただと!?」

このニュースは全世界を震撼させた。GNN社、VSB社も認めたくない現実に、希望と期待を打ち砕かれた。最新鋭艦が付いていながら、消息を絶ったのだ。
しかし社長らが一番に悔やんだのは最新鋭艦が消息を絶った事ではなく、移民船が襲われて数億の犠牲を出してしまった事だった。
  同様にして南部 康三や、バニングスも、衝撃を隠せなかった。ディンギル戦役の教訓で護衛艦隊がいたにも関わらず、この結果だ。
神は何処までも地球に酷い仕打ちがしたいようだ。康三はこれまでにない落胆を見せ、バニングスは神は非道だとを罵った。
そこで最後の希望とされたのが、新生〈ヤマト〉である。南部重工大公社やB&Tグループが、心血を注いで造り上げた希望の戦艦が、第三次移民船団の旗艦として旅立った。
だが消息を〈シヴァ〉を始めとした絶った艦隊の一部が、生存していた事に気付き、喜びと同時に驚愕に染められるのは1ヶ月もかからなかった。




〜〜あとがき〜〜
どうも、第三惑星人です。
前回に続き外伝編となりますが、今回は読者様からのネタを頂戴しまして、〈シヴァ〉の誕生秘話?らしきものを書いてみました。
とはいえあんまり触れているような気もしませんが……。
企業名とか、人物名とか、実在するものを借りたり、原作から拝借したりと、やりたい放題です。
名前で直ぐに気づく人物も数名いるかと思いますが、まぁ、別世界の地球でも、似たような人はいてもおかしくはないかな、と思います。
次こそは、本編に行こうかと思いますので、今しばらくお待ちください。



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