外伝『ガルマン軍、東へ(中編)』
銀河中心核に近い星系――スタレン・グラウドは、有人には適さない惑星を6個持つ星系である。ガス状惑星が3つに、通常の惑星は4つ点在している。
さらに暗黒物質や矮惑星が星系外延部を迷宮のように作り変えており、星系内部には密度の濃い小惑星帯が、第3・第4惑星の間に城壁のようよそ者を阻んだ。
また活発的な恒星故に、レーダーや通信の弊害である電波障害を引き起こす、強力な恒星風が発生する事もある。その為、航海者にとっては好ましい宙域でなかった。
しかし、ガルマン帝国の出現により、スタレン・グラウド星系の立場は一変した。この障害の多い宙域はボラー連邦にしてみれば、天然の大要塞となり得たのだ。
それでけではない。スタレン・グラウド星系は、天の川銀河中心核に近い、たて腕の中に存在する。このたて腕と言うのは、星形成(高密度の分子雲が重力で収縮して球状のプラズマとなり、恒星が生まれる過程を言う)の多い宙域なのだ。
スタレン・グラウド星系の周りには、そういった恒星に成りかけている星雲が無数に存在する、まさに鉄壁足り得る天然要塞なのである。
「こいつは、七色星団並みに厄介なところだな‥‥‥まったく」
荒々しい宙域に対して呟やいたのは、地球換算で56歳のガミラス人男性――第5空間機甲軍団司令官 パレルド・アクション大将であった。
元ガミラス帝国軍人であり、先の会戦で圧倒的勝利を収めた第2軍団司令官シー・フラーゲなど、他のガミラス人司令官達とも交流が深い。
艦隊指揮官として非凡な手腕を持ち、攻守バランスの取れた指揮が出来る事で、兵士達の信望も厚くデスラーからの覚えも良い軍人である。
その歴戦の彼でさえも、やはり荒れ狂うスタレン・グラウド星系周辺の宙候には、より一層の警戒心を募らせるものであった。
「全艦隊に改めて伝えろ。周囲の警戒を厳にせよ」
「ハッ!」
戦闘に向かない宙域とはいえ、そういった気の緩みから敵の奇襲を許す事もある。不可能だと思ったことを実行してのけるからこそ、奇襲として成功するのだ。
今一度、全将兵に対して気を引き締めさせるアクション。ボラー連邦軍は、初戦こそ敗退を繰り返したものの、それ以上の各宙域における反抗戦切り上げて後退したばかりか、ガルマン帝国軍も舌を巻かざるを得ない迅速さをもって、全戦力をこのスタレン・グラウド星系に集結させ、決戦への準備を進めてきたと見て間違いない。
集結したボラー連邦軍の戦力は13個艦隊およそ1500隻に上り、対するガルマン帝国軍は4個軍団およそ2440隻の兵力を投入していた。
両軍は940隻もの戦力差をつけていたから、軍事力的にはガルマン帝国軍に理があるものの、地の利で言えばボラー連邦軍に遥かに有利だった。
どういった方法で迎撃戦を展開するつもりなのだろうか。星系に侵入する手前で出てくるか、あるいは星系の奥深くにまで引きずり込んで、一斉攻撃に出るか。
それに一番に警戒したいのは、ボラー連邦の有する最大の武器――ブラックホール砲だ。人工的にブラックホールを発生させ、周辺宙域の艦艇を超重力で引き込み壊滅させる恐るべきものであるが、重力技術という点においてはガルマン帝国もとい旧ガミラス帝国も持っていた技術である。
だがボラー連邦と違うのは、ガルマン帝国の人工ブラックホール発生には小惑星級の超質量発生装置が不可欠な事であった。
その為、武器として転用するにはあまりにも使いにくい。それがどういう訳か、ボラー連邦軍はブラックホール砲を兵器として転用し、要塞主砲として実戦に投入してきた。
その威力は言うまでもない。
(あれの小型化に成功した話は聞いていない。だが、要塞がいないという保証はない。あれ1基でもかなり厄介だ)
かつてデスラー自身が戦場へ赴き、自軍の陣頭に立ってボラー連邦元首相ベムラーゼと対決したことがあるが、その際に確認されたゼスパーゼ級要塞からブラックホール砲が発射されると、瞬く間にデスラー直営艦隊の7割を吸い込んでしまったというものだった。
アクションがブラック・ホール砲の存在を危惧している内に、ガルマン帝国軍はスタレン・グラウド星系外延部から1500万q手前まで進んでいた。
電波障害を引き起こす粒子等の影響で、戦闘に少なからず影響を及ぼす事は間違いない。また、過去においてガルマン帝国軍は、幾度かこの宙域の攻略に失敗している。
その経験があるだけに、アクション以外の軍団も気が引き締められる。この攻略に動員されたのは4個軍団だが、各指揮官は次の通りである。
第1軍団司令官 アドルグ・ヒステンバーガー元帥
第2軍団司令官 シー・フラーゲ上級大将
第3軍団司令官 シュレスト・フォン・ホルス大将
第5軍団司令官 パレルド・アクション上級大将
1つの星系を攻略するのには過剰だが、ボラー連邦軍の戦力がそれだけ膨大であるが故だ。これでボラー連邦軍を撃滅出来れば、たて腕を制覇したも同然である。
そしてボラー連邦軍の艦影が確認されたのは、それから600万q進んだ直後の事だ。ガルマン帝国軍の先鋒を行く第2軍団のフラーゲから、総司令官ヒステンバーガー元帥宛に敵艦隊発見の報告が入る。
「第2軍団フラーゲ提督より報告! 敵艦隊、11時方向に確認。数、132隻!」
ガルマン帝国軍 スタレン・グラウド攻略軍総旗艦 ガルマリア級〈ヒステンブルク〉の戦闘艦橋で、ヒステンバーガーは相手の動きを推察する。
このガルマリア級一等航宙戦闘艦は、かのゼルグート級一等航宙戦闘艦の改良型にあたる巨大戦艦だ。全長730m、武装は49p四連装陽電子ビームカノン砲塔 7基28門、33p三連装陽電子ビーム砲塔 6基18門、魚雷発射管 16門、VLS 24門、その他対宙機銃多数、という破格の巨体と武装を誇る。
外見もゼルグート級を基礎とした事から同一と言っても過言ではないが、何よりも異なるのが武装だ。前級は無砲身のビーム砲塔だったが、当級はカノン砲塔である。
なお建造されているのは現時点で4隻のみで、デスラーも認める相応しい功績を有する者に対して与えられる、まさに栄光ある巨大戦闘艦なのだ。
所有者は、親衛隊長官 ガデル・タラン元帥の1番艦〈ガルマリア〉、航宙艦隊総司令官 ダール・ヒステンバーガー元帥の2番艦〈ヒステンブルク〉、中央軍総監 パウルス・ガイデル元帥の3番艦〈ガイマール〉、航宙艦隊副司令官 グラーフ・シュパー上級大将の4番艦〈シュパードラ〉である。
「哨戒活動中か、それとも敵の威力偵察か‥‥‥。参謀長はどう思う?」
指揮官席に座るヒステンバーガーの問い掛けに対し、傍に座る総参謀長オルモーラ・べリアス大将は、この1個艦隊は陽動の可能性の方が高いと見ていた。
ガルマン帝国軍の各軍団は広く間隔を取っている為に距離があるとはいえ、その各1個軍団だけでも対応には十分である。または、グラー・ゼッペリン級空母の照射型瞬間物質移送機を使い、ボラー連邦軍1個艦隊に対して天頂方向か天底方向、或は後方に送り込んで奇襲し、一気に殲滅してやっても良い。
だが、この宙域の不規則な電波障害や流れ込んで来る恒星風等によって、転送装置の転移座標を狂わされてしまう可能性が極めて高い。
下手をすれば、ワープアウト宙域で味方機同士が出現と同時に衝突事故を起こしかねないのだ。それにボラー連邦軍の狙いが陽動目的にあり、ガルマン帝国軍の戦力分散を狙っているとなれば、この後にも続々と陽動艦隊が現れ続けては、こちらを引っ張り凧にして本隊が手薄になった所を討ってくるに違いないのだ。
ボラー連邦軍は総数でガルマン帝国軍に勝る事は無い。故に、このまま戦力を集中したままで進撃し、ボラー連邦軍の主力を叩く方が良いと結論付けられた。
「こちらから奴らの意図に乗って、戦力分散の愚を犯す事も無いか」
「はい。フラーゲ提督は不満に思うかもしれませんが、ここは相手が仕掛けてきた場合のみ、反撃あるいは先制攻撃を掛ければよいかと」
「ふむ‥‥‥だが、あれが射程距離圏外で、こちらの周囲をうろちょろとされても煩いと思うが‥‥‥どうかね?」
それも一理ある。敵を周囲に連れたまま行動するという事は、それはボラー連邦軍にこちらの位置を逐一報告される事を意味する。
しかしこの宙域の特性を考えれば、まめに通信できるものではない。それに逐一報告を入れては、本隊の位置を掴まれかねない危険もある。
それを言われたヒステンバーガーは頷いて参謀の進言を取り入れた。
「いざとなれば、こちらから妨害してやるまでだ」
ガルマン帝国軍は陣形を崩さぬまま前進して目標星系への侵入を最優先とした。ボラー連邦軍1個艦隊は遊弋し続けたが、やがて反応しないガルマン帝国軍に対して飽きた、とでも言うように、あっという間にレーダーから消えてしまう。
予想通り、ボラー連邦軍はこの後も艦隊を差し向けてはガルマン帝国軍の周辺を遊弋し、誘いを掛けて来た。無論、ヒステンバーガーが揺り動かされる事は無いが。
だが彼は忍耐強くとも将兵全体はそうもいかない。何度か現れ挑発してくるボラー連邦軍に対して、ガルマン帝国軍全将兵は次第に苛立ちを募らせたのだ。
苛立ちと同じく精神的な疲労――即ちストレスも、地道にだが忍耐という袋に積もっていくばかりで、攻撃の進言を行うばかりか独断で動きだしそうな雰囲気もある。
中級指揮官達は、そんな将兵達を宥めては溜め息を付く‥‥‥この繰り返しだった。
「3時方向、ボラー軍!」
「構うな」
平然としてヒステンバーガーは命じたが、内心では「これで10度目か」とマメに出てくるボラー連邦軍を相手に、小さな溜め息をついていた。
ガルマン帝国軍はスタレン・グラウド星系外延部から外惑星系に到達するまでの間、実に12回に及ぶボラー連邦軍の遊弋に振り回される事となった。
それでも動かないガルマン帝国軍将兵も忍耐強かった。星系内部に侵入したとなれば、相手も焦ってくる事ではないだろうか。
ヒステンバーガーは相手の心理事情をも同時に推察して、そろそろ主砲と言う名のサーベルを抜く準備を命じた。
「敵もさることながら、我が軍の将兵も良く耐えている。だが‥‥‥もう、奴らの方が痺れを切らしてくる筈だ」
将兵達の忍態度にも限度がある故、これ以上の無視もできないだろうが、一度戦闘に入って静止が効かないのでは元も子もない。
各指揮官達の自制に期待したいところである。我慢を続けてきたガルマン帝国軍であったが、ここでボラー連邦軍一部の足並みが崩れるという好機が巡ってきた。
ボラー連邦軍は第3番惑星ジルべリアの周囲に主力部隊を置き、各通信衛星との接続状態を気にしつつも、遊弋行動を続ける友軍の動きに注意していた。
兵力数が明らかに劣るボラー連邦軍にしてみれば、彼らガルマン帝国軍と真正面から戦うのは勇敢であっても無謀であり、愚の骨頂であるのは誰の目にも明らかだ。
出来ればガルマン帝国軍の戦力分散を図って、次いで強行偵察も兼ねた遊弋行動により、ガルマン帝国軍の物的・精神的疲弊を画策していたのだった。
しかし、ボラー連邦軍の予想に反してガルマン帝国軍は忍耐強く、中々挑発に乗らない。戦力の分散は出来ないが、精神的なダメージは相当に溜まっている筈だ。
各艦隊指揮官達はガルマン帝国軍の気を引こうと必死になっていたが、一直線に向かってくる様子に対して逆に苛立ちを募らせた。
紫色の群れの中に旗艦を示す赤色の大型艦――ボラー連邦軍総旗艦 兼 第2打撃艦隊旗艦 ゴルソコフ級〈メレーヴェ〉が巨体を無重力に浮かせている。
「総司令、敵は間もなく第6番惑星軌道上に差し掛かります」
「‥‥‥食い付きませんな、こちらの陽動に」
〈ベルフルム〉艦橋内の幕僚用席に座る1人のボラー連邦軍人が、釣られないガルマン帝国軍の強固な忍耐に思わず苦言を漏らした。
彼の声を耳にしている当艦隊の総司令官は沈黙したまま、スクリーンに映る戦況パネルを眺めやっている為、なおのこと幕僚達は不安に駆られてしまう。
年齢は地球換算で58歳程、やや恰幅の良い体格で、その表情からして威厳と言うものはない。引き締まったと言うには程遠く、緩んだと言った方がよっぽど当てはまる顔つきで、それが軍人と言うよりは気さくな中年男性、とも言える雰囲気の持ち主であったのだ。
彼がたて腕方面軍総司令官 ギーリル・メレヴェコフ大将である。彼は焦りを見せる幕僚達に向けて忠告する。
「焦ってはぁ、いけないぞ‥‥‥諸君」
気の引き締まらない忠告である。彼は性格からしてマイペースであり、言い換えれば冷静沈着とも表現できる。とはいえ、やはり軍人らしくは見えなかった。
「あんな奴が、良くも大将にまで昇進できたものだ」
「我が軍の上に立つのが、あんな日向ぼっこで大丈夫か」
と昇進を妬む周囲の同僚達から陰口を叩かれることも珍しくはなかったものであるが、そんな嫌味を言われたのは、ほんの最初の頃だけであった。
18年前に、たて腕方面軍の一司令官として配属された時は、ガルマン帝国軍の進撃を見事に食い止め、戦線を保ちえてきた実績が多くあったのだ。
そして銀河交差現象後は、別方面軍を転々と勤め続け、今また、たて腕へと配属が決まったのである。
「焦りは禁物である事は、重々承知しております。ですが、閣下。モメリノフ参謀総長の計画とはいえ、あれ程のを相手にするには、幾らか分散させたいところ」
そう発言したのは、ボラー連邦軍 たて腕方面軍総参謀長 ヴィルクト・グラブジェンコ中将だ。この度の作戦は、ボラー連邦軍の参謀総長モメリノフ大将が発案して認可を降ろされた作戦であり、内容は単純かつ大胆なものであった。
これを実現させるには周到にガルマン帝国軍を自陣深くまで引きずり込み、また、戦力分散や疲弊を誘う事も必要だと言うのだ。
「まぁ、相手は素直に、こちらに来るのだ。我々は、あの作戦で周辺に影響の及ぼさぬように配慮して、実行するしかないと思うよ?」
「それは、そうでございますが‥‥‥」
マイペースな言動に、不思議と反論をする気にはなれなかった。メレヴェコフは、ボラー連邦の中でも変わった人物だ。
厳格性、カリスマ性、といった雰囲気はないのに、どこか安心させるものがある。一般将兵からも、派手さはないが、そうした人となりが不思議と受けていた。
グラブジェンコは彼の下で参謀職を務めて約8年。どういった性格の持ち主であるかは把握しているが、その心奥底にある考えを掴めたことはない。
その時だった。〈メレーヴェ〉艦橋に緊急電が入ったのは。
「提督、第62打撃艦隊より入電! ガルマン帝国軍の攻撃を受けている模様!」
「なんだと!?」
驚きを声を上げたのはメレヴェコフではなく、グラブジェンコである。メレヴェコフの方は、丸い顎に指を当てて撫でながら、ヤレヤレ、と苦笑していた。
遊弋部隊の任務は陽動と戦力分散に徹する手筈である。幾ら1個艦隊約120隻を投入しているとはいえ、相手はその20倍にも及ぶ軍勢なのだ。
砲撃戦を仕掛ければ瞬時に全滅させられるだろう事は容易に分かる。
グラブジェンコは気持ちを抑えてオペレーターに事情を問いかけた。
「陽動は許可しているが、無用な交戦は避けろと命じていた筈だぞ」
「は、それが‥‥‥」
オペレーターが、送られてきた通信文の内容を読み上げると同時に、その戦闘データを開示した。
ボラー連邦軍第62打撃艦隊は、星系内部に突入したガルマン帝国軍に対して、陽動ではなく一撃を見舞ってやろうと仕掛けたのがそ、もそもの原因であった。
何の反応も示さないガルマン帝国軍に対して、焦りと不安が頂点に達していたのだ。司令官も参謀達も、躍起になってガルマン帝国軍を引き摺り回そうとしたのだ。
そもそもこの第62打撃艦隊は、ボラー連邦直轄の艦隊ではなく、たて腕内にあった属国等の艦隊を糾合して再編成したものであった。
陥落する祖国を離れるように命じられ、復仇を誓ったその軍人達からすれば、傲岸不遜に侵略の手を伸ばすガルマン帝国軍に見えたのだろう。
だからと言って、そのまま近づけば発見されて反撃を受ける事必須である。そこで第62打撃艦隊は、星系内の小惑星帯に身を潜ませて待ち伏せを行ったのだ。
ガルマン帝国軍の進撃ルートと速度を計算し、ある小惑星帯を掠めるように進む事が分かると、そのポイントに早々と艦隊を集結させた。
そして小惑星帯に身を潜めてから30分後、ガルマン帝国軍は予定通りのルートを進撃して来た。第62打撃艦隊が狙うは、右翼に位置する第3空間機甲軍団だ。
この軍団の最右翼に位置する師団に、一定の火力を浴びせて釣ろうとしたのだ。
第62打撃艦隊司令官は、鬱憤を晴らそうと舌なめずりをして狙いを済ました‥‥‥が、迎えられたのはガルマン帝国軍ではなく、第62打撃艦隊の方であった。
「前衛の駆逐艦から緊急電、ガルマン帝国軍から大型ミサイルが‥‥‥!」
オペレーターが悲鳴に近い声を上げた直後、小惑星帯内部で幾つもの強力な爆発が発生した。それはガルマン帝国軍が新開発した惑星破壊ミサイルの群れであった。
ヒステンバーガーは、予めボラー連邦軍がゲリラ戦を仕掛けてくるであろうことを予期し、敢えて攻撃され易いルートを通って逆に待ち伏せてきたのである。
それは案の定、的中した。小惑星帯へ向けて飛ばした偵察機〈スマルヒU〉から、数隻のボラー連邦艦艇を発見したとの報告が入ったのだ。
彼は支援部隊の中から対要塞・惑星破壊用の大型ミサイルを引っ張り出し、右翼のホルス第3軍団へと編入。タイミングを見計らって発射した。
「撤退だ、撤退しろ!」
第62打撃艦隊司令官 ゴーノ・ヤポルスキー中将の口から出て来た言葉は、勇猛果敢な攻撃の言葉ではなく、撤退の二文字が飛び出していた。
小惑星帯内部に紛れて奇襲を仕掛ける分には、効果は十分に望める筈であったこの戦法だが、居場所が判明してしまったのでは隠れ続ける意味など無い。
寧ろ自らのレーダー感度が小惑星帯で効きにくなるという皮肉が生じ、逆にボラー連邦軍側が殲滅の危機に陥ってしまうのだ。
何故、発見されたのかは後で考えれば良い。
第62打撃艦隊は、身を隠していた小惑星から離れて離脱を開始した‥‥‥が、それは遅きに失した。
「衝撃波、破片群の双方が来ます!」
「衝撃に備え!」
ガルマン帝国軍の開発した新型の惑星破壊ミサイルは、初期型が500m前後であったのを、改良によって200mと大幅に小型化することに成功していた。
よって1発分のコスト削減が叶い、共に増産が可能となった結果、今やこのミサイルの保有数は700発を超えるものとなっているのだ。
威力は低下したのは否めないが、運用のし易さと防弾性が上がっている故、戦艦の主砲如きでは撃破されることは無い。
惑星破壊ミサイルの威力は、1発で日本の半分を消し去ることも可能で、脅威である事には何ら変わりはない。そんなものをボラー連邦軍に向けて放ったのだ。
ガルマン帝国軍総旗艦〈ヒステンブルク〉の戦況スクリーンには、小惑星帯内部に隠れていた第62打撃艦隊が瓦解していくのが映されている。
「我が方のミサイル、全弾爆破。ボラー艦隊の被害は甚大の模様」
「あれだけの爆発と衝撃波だ。無傷な訳があるまい‥‥‥。全軍の速度を落とさせろ。右翼のホルス提督に伝達、出来る限りボラー連邦軍の残存艦を叩かせろ」
「ハッ!」
ヒステンバーガーの予測が的中し、ガルマン帝国軍の士気は大きく上昇した。ホルス指揮下の第3軍団は、指揮下の第12・第14機甲師団を差し向ける。
荒れ狂う小惑星帯の中でもがき苦しむ第62打撃艦隊は、飛び交ってくる小惑星帯の破片群に襲われながらも無様に離脱を開始していた。
ビリヤードが他のボールを弾く様に、それを数万倍と拡大したスケールの光景には圧巻の二言である。
衝撃波で飛ばされる物は、最小で10p以下、最大で50mから100mの小惑星という構成だ。それが、退避中のボラー連邦軍を襲ったのである。
大小様々な破片群が装甲に衝突し、重々しい金属を奏で挙げる。中に乗る兵達もその衝撃に、肩と身体をビクリと震わせた。
重厚な装甲で弾かれる場合が多いが、中には、隠れ蓑にしていた巨大な小惑星らに挟まれて轟沈する艦、衝撃波に煽られて小惑星と激突する艦も多数いた。
惑星破壊ミサイルと言うとんでもない武器を使用され、小惑星帯から叩き出されたのは110隻中80隻あまり。一度に3割近い犠牲を出したのである。
そこからガルマン帝国軍の追撃が続く。2個機甲師団は、潰走中の第62打撃艦隊を後背から襲い、110隻あった艦艇を瞬く間に50隻にまで撃ち減らす程であった。
最終的に第62打撃艦隊は奇襲はおろか、反撃も碌に出来ず最終的に6割もの戦力を失って敗退を余儀なくされたのである。
初戦からの敗退に、ボラー連邦軍司令部はメレヴェコフ以外の幕僚達が揺れた。幕僚団の1人が、不甲斐ない友軍を貶した。
「何をやっとるのか、これだから属国は‥‥‥!」
「愚痴を言うのは止めようか。出た被害は仕方ないからね」
メレヴェコフは怒りを見せる訳でもなく、幕僚の怒りを収めさせた。当の参謀も、あまり下手に騒ぎすれば、拘束される挙句に軍法会議に掛けられると危惧したのだ。
だが彼の場合は、むやみやたらに権限を振りかざす欲深き指揮官達とは違って、そういった悪しき例はほぼない。
不満さを燻らせる幕僚団を余所に、メレヴェコフは新たな命令を下した。
「第62打撃艦隊残存艦に伝達。そのまま作戦予定ポイントへ撤退せよ、とね」
「閣下、それでは作戦手順がだいぶ省かれますが‥‥‥」
グラブジェンコは、作戦に狂いが生じると危惧するが、メレヴェコフは問題ないと窘める。
「第62打撃艦隊が攻撃された時点で、作戦は修正しなければならないよ、参謀長。他の艦隊も一斉に行動を開始、作戦を繰り上げるよう、伝えてくれないかな」
「‥‥‥承知致しました」
ボラー連邦軍遊弋部隊は、待機していた宙域から一斉に移動を開始した。それもガルマン帝国軍のレーダー範囲をギリギリ通過し、巧妙に撤退進路の先を見せつけた。
これ程大胆に部隊を動かす辺り、わざと誘っていると見せているようなものだろう。
しかし今回の場合は、その事情が異なる。ガルマン帝国軍の高官達の中には、ボラー連邦軍は遊弋部隊を壊滅させられた事によって、急ぎ集結行動に入っての迎撃準備に出たのではないか‥‥‥と推測する者が居るくらいであった。
さらにはガルマン帝国軍側の先入観が、そう推測させたのかもしれない。相手は、たて腕の残存戦力を糾合した艦隊であり、焦っていると思い込んでいるのだ。
無論のこと、ヒステンバーガーやアクションら各軍団の高級指揮官達は、移動中のボラー連邦軍を侮るような真似はしなかった。
ここで調子に乗って猪突し、罠にでもかかれば笑い事では済まされない。彼らは艦隊を改めて再編し、どの方位から来ても良い様に輪型陣を組んで前進を再開した。
その堂々たる艦隊威容は、ボラー連邦軍将兵達の士気を低下させる程だ。
「ガルマン帝国軍、第5番惑星グンラーへと進軍を再開」
(結局、戦力の分散は望めなかった。そればかりか、我が方の戦力だけが疲弊するとは‥‥‥)
グラブジェンコは参謀席にて、内心で友軍の失態を思い起こして吐き捨てる。まだまだ、属州の軍隊には訓練を課す必要が大有りの様だ。
苦々しげな表情をしながらも、戦況スクリーンを眺めやる。第5番惑星はガス状惑星であり、その大きさは地球で言う土星クラス程だろうか。
そのガス状惑星グンラーの表面から130万q、かつ背を表面に向けるようにして、ボラー連邦軍は集結しつつあった。まさに背水の陣である。
メレヴェコフは慌てる様子もなく、作戦文書を読み返す余裕ぶりだった。自ら訂正を施し、短時間内で脳内シュミレート繰り返す。
彼の余裕にも理由はある。ボラー連邦軍が新開発したと言う兵器が配属されているからだ。それを使って、ガルマン帝国軍の半数――1200隻前後は撃滅したい。
それは今、配置変更を命ぜられて彼らの背後に忍んでいる。いや、正確にはガス状惑星の中であるが、それにガルマン帝国軍が気づくのは、手遅れになった時だ。
(しかし、ガルマン帝国軍も厄介なものを持って来たなぁ。惑星破壊ミサイルの小型版‥‥‥我が大型ミサイルに匹敵する威力を、彼らも持ったのか)
大方、こちらの駐屯基地を撃滅するために持って来たのだろう。あるいは、艦隊に向けて直接使うためかもしれない。それを、今さっき証明したのだから。
とはいえあのタイプのミサイルは、そう易々と使える代物ではない筈だ。もしまた使ってくるのならば、こちらも相応の対応をするまでなのだ。
相手が並み以上の指揮官である事は間違いない故、メレヴェコフは数通りのパターンを構築。これくらいで良いか、と思った時の事であった。
「ガルマン帝国軍、監視衛星のレーダーに捕捉! 射程まで、およそ20分!」
「これは‥‥‥多数の艦載機を捕捉!」
一層に重苦しい空気と、緊張の空気が流れ込んだ。ただ1人冷静なメレヴェコフだけは、平然として迎撃戦闘準備を下令する。
続いて艦載機隊を発艦させ、艦隊防空に専念させる。数にしても、圧倒的にボラー連邦軍が不利な事は明白なのだ。それに作戦上、ここは耐え忍ぶの所である。
救いな事は、ここら一帯は恒星風による電磁障害が発生する宙域であり、ガルマン帝国軍も通常の発艦で艦載機を出さざるを得なかった事だ。
とはいえガルマン帝国軍が繰り出したのは第1波は800機あまり。対するボラー連邦軍は防空隊770機と、概ね互角という所であった。
「相手を予定の位置まで引きずり込むまでの辛抱だ。皆、気圧されてはならぬよう、奮闘を期待する」
アレを使う為には、相手に対して相応の演技を見せなければならなかった。今回は初の実戦投入という事も有り、ガルマン帝国軍も予測は出来ないと踏んでいる。
凡そ6分後、ガルマン帝国軍の攻撃隊とボラー連邦軍の直掩機隊との、千機単位による壮絶なドッグファイトが始まり、幾つもの小さな明かりが戦場に灯される。
1つ1つが散って行ったパイロットであり、それになりふり構わず、生き残った者達は己の任務を全うせんが為に飛び続けた。
完全なカバーが出来ないのは重々承知している。直掩機隊の防衛圏を振り切ったガルマン攻撃機は、猛然とボラー連邦軍に襲い掛かった。
「前衛艦隊、任意の目標を攻撃せよ。他の艦も順次、敵機を攻撃、迎撃するように」
ガルマン帝国軍の猛撃に対して、ボラー連邦軍は迎撃を開始する。この宙域が電波障害もあって、ミサイル兵装は使えない。撃っても追尾する能力はないだろう。
それを考えると艦載機にも同じことが言えるが、攻撃隊は追尾装置を切った状態での攻撃を実行してきたのだ。昔ながらの爆撃機や雷撃機の様である。
パイロットは弾幕を潜り抜けながらも、大型対艦ミサイルや小型ミサイルを目視で発射する。命中させるのは難しく、外す確率の方が高い。
だが、その悪条件下の中にあって超人が如き能力を発揮する別格の人間もいた。ガルマン帝国軍の採用している機体とは異なる爆撃機に乗っている、地球年齢換算50歳の男――ガルマン帝国軍 第8空間機甲師団司令官 ハンスリヒ・ルデル中将である。
「行くぞ、北のグレー共の連中に爆弾をプレゼントしてやる!」
「か、閣下! 追尾装置は‥‥‥」
補助パイロットとして乗り込んでいる28歳の男――エルスト・ニルスマン中尉は、無謀だと言わんばかりに申告するも、それを聞き入れるルデルではなかった。
「追尾装置? そんな物は飾りだ。目測で十分!」
「え、いや、あの、飾りとは‥‥‥っ!?」
ミサイルにとって命とも言える追尾装置を、飾りと称するあたり只者ではあるまい。中尉は狼狽えるが、それを意に反さずルデルは突撃を敢行する。
凄まじい弾幕の嵐を突き抜けていくルデルの機体。後続もそれに続いて突撃するが、運悪くレーザーの網に絡め捕られて落とされる。
彼の乗る空間艦上攻撃機LDB‐01〈スヌーカU〉。これは、旧ガミラス帝国時代から主力爆撃機と使用されていた、空間艦上攻撃機DMB-87〈スヌーカ〉の改良型となる機体である。
〈旧ヤマト〉への復讐戦、デザリアム帝国採掘艦隊戦、さらにはガルマン民族解放戦線と銀河大戦初期、と長くに渡り運用されてきた名機でもある。
ガルマン帝国軍採用の直線的な全翼機型の重爆撃機〈フォッケル〉とは違い、逆ガルウィングの翼やX字型の無尾翼機がある事から、より航空機らしいデザイン。
似ているものとして、地球世界での第2次世界大戦時にドイツが使用していた、〈スツーカ〉という急降下爆撃機に酷似しているだろう。
武装は機首両舷のランチャーボックス、連装機銃1機、主翼下部に対艦ミサイル12発、機体部下部弾倉に6発、ランチャー部分に8発づつ16発を有する。
地球の〈コスモパルサー〉にも負けない程の重火力であり、その破壊力は時代の差を感じさせないものだが、改良の余地が難しくなった理由から退役が進んでいた。
それをルデルは受け止めず、長年乗り続けて来た〈スヌーカ〉で出撃する事を固持したのだが、その流れを止める事は難しかった。
そこで彼に舞い降りた幸運。彼をよく知るデスラー総統が、爆撃王とまで呼ばれた彼の要望に堪えて特注で専用機の生産を命じたのが〈スヌーカU〉である。
「さぁ‥‥‥たらふく喰らえ!」
ルデルは1隻のグム・ヴォルト級戦闘空母に狙いを定めた。艦尾側に出ると、すかさずトリガーを引く。すると飛び出したのは、機体格納庫の対艦ミサイル6発。
格納庫から飛び出すと、直進し寸分の狂いもなくエンジンに命中した。エンジン噴射口から、機関室内部へと爆発が及び、戦闘空母は苦悶しのた打ち回って轟沈した。
「まだまだ! 行くぞニルスマン!」
「は、はい!」
ドッグファイトが始まって10分。ガルマン帝国軍は800機中70機あまりを損失し、ボラー連邦軍は770機中80機を失った他、戦艦3隻、空母6隻、巡洋艦5隻、駆逐艦7隻を撃沈されたのだった。
ボラー連邦軍の頑な防御陣を前にして痛撃と言えるようなダメージは与えられず、ガルマン帝国軍は航空機の損失が拡大する事を危惧して艦隊戦へと切り替えた。
ガルマン帝国軍、ボラー連邦軍の前衛艦隊が8000qを切る直前になって、砲火の応酬が幕を開けたのである。
「全艦、砲撃開始」
「撃てぇ!」
メレヴェコフとヒステンバーガーの砲撃命令が、互いの艦隊内部の回線網を通じて響き渡った。
ガルマン帝国軍の先鋒は、フラーゲ率いる第2軍5個師団、ボラー連邦軍は5個艦隊が先鋒に立つ。概ね数は拮抗し、後は指揮官の質が問われるであろう。
フラーゲは先の戦闘からわかるとおり、速攻に定評のある人物である。だがフラーゲは、砲撃戦の序幕から感じ取ったのは、ボラー連邦軍の統率能力が以前よりも優れている事にあり、フラーゲのお家芸でもある突撃戦術を巧妙に防ぐ――或は、攻撃を流されてしまうのだ。
その頑な防御を築かせたのは、他でもない総司令官メレヴェコフの高い部隊掌握率によるものである。
「あれはボラルーシを陥落せしめた艦隊だ。突撃の隙を与えてはならないよ。動きのある部分に集中砲火を浴びせて、出鼻を挫くのがいいだろう」
この指示は的確だった。前衛の各艦隊指揮官は非凡ではないが、凡庸でもない、上々な手腕を有している者ばかりだ。皆はメレヴェコフの指示を忠実に守った。
ボラー連邦軍各艦隊は、突出する動きを見せるガルマン帝国軍第2軍団の各師団に砲火を集中しては、その突撃を未然に阻止していく。
兵装が前方集中型であるボラー連邦製の戦闘艦艇は、こういった場合に威力を発揮した。まさに艦と砲火の数によって防御壁を築くが如くである。
一方の第2軍団のフラーゲは、粘り強い攻撃で突撃を阻止してくるボラー連邦軍に対して、軽い舌打ちをしていた。
「寄せ集めにしては粘り強いな。いや、後がないからこそ、ここまで粘るか?」
まぁいいさ、ボラルーシの連中に比べれば遥かにやりがいのある相手じゃないか。フラーゲは心奥底で、何処か愉快そうに呟き、表情にも嬉しさがこみ上げる。
それにこの星系は、前から難攻不落として語られてきた宙域だ。地の利もあるが、ボラー連邦軍の司令官も単なる凡庸な軍人ではない証拠だろう。
とはいえ、このまま砲撃戦をだらだらと続けていても埒が明かない。数で勝っているとはいえ、好ましくない状況であった。
フラーゲは第2軍団配下の全師団に新たな命令を下した。
「全艦、魚雷及び対艦ミサイル発射用。目標、敵の両翼だ!」
「閣下、この宙域では命中を望めませんが‥‥‥」
参謀のカイツェン大佐が忠告するが、フラーゲはそれでも構わないと言う。ミサイルの追尾装置を切り、こちらでコースをインプットさせて飛ばすと言うのだ。
命中率は低いだろうが、迷走するよりは遥かに良い。それにボラー連邦軍はあの宙域から動こうとはしないのだから、コース設定や自爆設定もし易い。
第2軍団全艦艇の発射準備が整うと、フラーゲは発射命令を下した。
「全弾発射! 10秒後に左翼と右翼は急速前進し、敵の両翼を切り崩せ!」
フラーゲお得意の突撃戦を成功させる為に、全艦艇のミサイルをボラー連邦軍の前衛部隊両翼に集中させていく。追尾性のないミサイルと魚雷が宇宙空間を飛翔し、束になってボラー連邦軍前衛部隊へと襲い掛かったのだ。
その10秒後、第2軍団両翼にいた第9師団と第10師団が急速前進を開始。ミサイル群に気を取られるであろうボラー連邦軍の両翼を目指した。
彼の目論み通り、ボラー連邦軍前衛はミサイル攻撃に押されるかに見えた‥‥‥が、ボラー連邦軍も数秒差で行動を起こしていた。
「っ! 敵ボラー艦隊から大量のミサイル群を確認!」
「何ぃ?」
ボラー連邦軍前衛も、ガルマン帝国軍が攻勢に出るであろう事を予期して対艦ミサイルを一斉発射したのである。そして、発射のタイミングは誠に絶妙であった。
どちらもミサイルはアナログに設定され、追尾や物体感知で自爆することは無い。故にミサイル群が交差しても何ら影響はなかった。
さらにボラー連邦軍はミサイルの発射と同時に一斉に後退し、距離を置き始めたのである。これに面食らったのは、ガルマン帝国軍の方であった。
ボラー連邦軍のミサイル群は突撃中の2個師団に飛び込んだ。信管こそ作動しなかったが、直撃を免れなかった艦艇に被害が及ぶ。
さらに本隊側に着弾したミサイル群は、設定された距離できっかり爆破された。幾つもの光球が、第2軍団を包み込んだ。
「戦艦〈バドール〉中破! 駆逐艦〈ゲルツ〉撃沈!」
「なんとタイミングの悪い‥‥‥っ! 中央は急速前進せよ! 第9、第10師団は突撃を中断し後退、中央と合わせるのだ!」
咄嗟の判断だったが命令は的確なものであった。ボラー連邦軍前衛艦隊は後退した事によって、ガルマン帝国軍のミサイル飽和攻撃を大半が免れる事が出来ていた。
そしてボラー連邦軍の指揮官達の判断が巧みであったのは、ガルマン帝国軍両翼の進撃が鈍った事を瞬時に把握し、逆激を加えて来た事にある。
突出していただけに、ガルマン帝国軍第9・第10師団は集中砲火の的になった。1個師団に付きボラー連邦軍2個艦隊からの集中砲火は、一瞬だが苛烈なものだ。
フラーゲの指示が遅ければ、第9師団と第10師団の損害は数分の間に2割に達したことであろう。
偶然とはいえ、フラーゲは再び舌打ちし、床を忌々しげに蹴った。
「やってくれるじゃないか」
「提督、第9師団と第10師団が戦列に戻りました。被害は幸いにして軽微のようです」
この程度でやられてたまるか、と報告を耳にしながらスクリーンを見やる。ボラー連邦軍はそのまま前進してくるかと思いきや、再び停止して動きを止めている。
とことん、防御に専念する気であろう。このまま押しても、損害が増えるばかりだ。そこで彼は、ボラー連邦軍に対する趣向を変えた。
押してダメなら、引いてみろ、である。不敵な笑みを浮かべるフラーゲは、頑な防御を何としても引きずり出して、崩してやるのだと言わんばかりであった。
第2軍団が次第に後退し、距離を置き始める。攻勢の一点張りだったガルマン帝国軍の動きが鈍り、戦線の縮小を図っているのではないか、と幕僚はは考えた。
だがメレヴェコフの命令は変わらぬものだ。現宙域を守ってガルマン帝国軍を抑え続けろ、である。これにフラーゲはまた趣向を変えた。
「第10師団、後退して敵を引きずりだせ」
第10師団は、直ぐに反撃るように考慮しつつ、陣形を崩してボラー連邦軍前衛を誘った。ここに突撃されれば、俺達は瓦解するぞ、と言わんばかりの誘いであった。
ボラー連邦軍前衛部隊はそれでも動かなかった。釣り竿に仕掛けた餌が、全く掛らない事を知ると、フラーゲは組んでいた腕を解いて右手で頭を掻いた。
「えぇい、これは洒落にならん。手堅いのは悪くないが、これは幾らなんでもつまらんではないか!」
フラーゲは次第に苛立ちを募らせていた。ここまで強固な防御陣を築き、崩れない様は流石である。しかし膠着状態は好ましくない。
そこで動き出したのは、後方で一部始終を見ていたヒステンバーガーだ。彼もボラー連邦軍の手堅さを目の当たりにして、やり方を変えざるを得ない事を悟った。
「思った以上にやるな。手を変えるか、参謀?」
「はい。小官としては、第3軍と第5軍を、第2軍の側面を迂回させてボラー連邦軍の本営を突かせるべきかと」
戦力はガルマン帝国軍が優位な事には変わりないが、戦線に全てを投入しなかったのは、この宙域の障害の多さと戦線情報の収集が付けにくくなるのを避ける為だ。
数が多いからと言って必ずしも有利な事ばかりではないのだ。とはいえ、フラーゲの意外な苦戦模様から、戦力の投入を指示せざるを得ないと判断した。
それにボラー連邦軍も、本隊が攻撃されると知れば何らかのリアクションを起こすだろう。前衛の艦隊も、退路を断たれる事を恐れて、後退する可能性も高い。
ヒステンバーガーは、アクション大将とホルス大将にボラー連邦軍本隊を突かせようと口を開きかけた、その時である。
「ボラー前衛艦隊、急速に後退します!」
「何?」
ボラー連邦軍前衛艦隊は、ガルマン帝国軍の行動を予知したかのように後退を開始したのだ。第2軍団はこの動きにどう対処すべきであろうか、とフラーゲにも迷いが生じたが結局のところは追撃は行うべきではないと判断して後退を始めた。
ヒステンバーガーは、彼の判断に対して無言だが賞賛していた。一見すれば追撃を掛けてしかるべきだが、そのまま素直に突撃を掛ければどうなるか。
ノコノコと付いて来たところをボラー連邦軍本隊が、両翼か或いは側背攻撃を仕掛けてくる可能性が高かったのだ。
実際のところ、フラーゲとヒステンバーガーの読みは正しかった。メレヴェコフは前衛を追撃してくるガルマン帝国軍に備えて、本隊を二分して待ち構えていた。
もしも勢いに狩られて追撃しようものなら、フラーゲの第2軍団は半包囲された挙句に甚大な損害を被っていたに違いない。
「敵軍、そのまま後退していきます」
「こちらも態勢を整えさせよう。第2軍団は一時後退し再編に努めよ。第3軍団を前に出し、再度攻撃を掛けるぞ」
スタレン・グラウド会戦の攻防戦はお互いに一歩譲らず、新たな局面に突入しようとしていた。
〜〜〜あとがき〜〜〜
どうも、第3惑星人です。
また前回より時間が空きました‥‥‥。
作中の上手い表現方法や言葉が見つからず、苦慮しております(前々からですが)。
登場人物や星域名など、結構もじっていたりしていますが、大半は気付かれるかと思います。
次回でガルマン編は終了となる予定です。
外伝は先のばした故、ネタがそれなりに残っているので、なんとか消化したい次第です。
――以下、ヤマト21995章に関する感想(ネタバレはなるべくしないように、簡潔に書きます)――
まず1言で言えば、かなり熱い展開です(特に艦隊戦)。見ていて鳥肌が立ちました!
ドメル艦隊VSヤマトのシーンなどは、漫画版から来たのでしょうが、それが映像で見られるとは思いませんでした。
また、個人的に着目したところは‥‥‥
・親衛隊は恐ろしい
冗談抜きで恐ろしいです、ハイ。銀英伝のヴェスターラント並みに酷い‥‥‥。
・色っぽい新見さん!
作画が気合入ってます。滑らかな動き‥‥‥声優の久川さんも流石と言ったところ。また、新見の学生時代との演技力の違いも注目。
・ドメラーズ3世は伊達じゃない!
ヤマトシリーズで唯1(1応アニメに限定して)、ヤマトの主砲を装甲で弾き返したのは暗黒星団の戦艦プレアデスだけでした。
しかし、旧作で影の薄かったドメラーズ3世が、何とリメイクにて、ヤマトの主砲を弾きました!
しかもゼロ距離射撃を食らって前部主砲が大破してもなお、健在すると言う強固さを見せてくれました!
・ゲールの株が少しだけアップ!
日和日主義だとか小物臭いとかさんざん言われる、ギャグキャラなゲール君ですが、この章のある場面で株が少しだけアップ!
・ゼーリックの若本節炸裂!
若本節炸裂、説明不要(←オイ)!!
・主計課長の平田はロボット好きで虫嫌い?
パワーローダーのアナライザーを見て「うおぉおおお、カッコいい!」に笑いましたw 逃げる時も「虫は嫌!」に笑うw
・1万隻の大艦隊は壮観!
ガミラス艦隊の空前絶後な大艦隊。銀河英雄伝説などで見慣れた人にはどうってことないでしょうが、本作による1万隻の艦隊の魅せ方は圧巻であり、壮観です!
そして突入するヤマトとの戦闘、あの『ヤマト渦中へ』が流れた瞬間に何度目かの鳥肌!
他にもありますが、とりあえずこんなものになります。
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