※諸注意
当クロスオーバー作品におけるヤマト2202は、本編作品の2202とは世界事情がかなり異なりますのでご注意ください。
また有り得ないご都合主義な展開もあります。
T
西暦2202年。かの地球と大ガミラス帝星による戦争が幕を下ろして、約3年の月日が流れていた。地球は、英雄と称された宇宙戦艦〈ヤマト〉が持ち帰ったコスモリバースシステムによって、放射能汚染が除去された。地上を支配していた放射能が消えたことにより、地球の自然界は回復の一途を辿ったが、それは同時に人類の台頭を意味していた。地中深くに潜り耐え忍んでいた地球人類は、慈悲深き太陽神の陽をたっぷりと浴びた母なる大地に、再び姿を見せたのである。
国際連合首脳部は、急速な復興を行い、地表におけるライフラインの再建はもとより、軍備拡張にも余念を許さなかった。ガミラスの戦意を挫き、辛うじて終戦を迎えたとはいえ、ガミラスに似た星間国家の侵入を恐れていたからだ。そこで国連軍上層部は、〈ヤマト〉建造に使われた波動機関の設計図と、旅の途中で確保したビーメラ星の波動コアを基にして、波動エンジンを量産化に成功した。それを小型化し、既存の戦闘艦へ半ば無理矢理詰め込んでの、応急的な軍備再編を目指したのである。
無論、そのほかにも最新鋭の戦闘艦配備計画も進行した。〈ヤマト〉の性能を参考にした量産型主力艦のドレッドノート級前衛航宙艦並びに、同級の空母型である戦闘航宙母艦型や、旗艦機能を有する大型戦艦のアンドロメダ級前衛武装宇宙艦、並びに同級の戦闘航宙母艦型、火力を重視したザラ級装甲巡洋艦、パトロール機能を最優先したアルジェリー級軽装甲巡洋艦、安価な小型艦のプラント級フリゲート艦、波動砲は無いが最速と機動性を有する吹雪級駆逐艦らが、続々と就役していったのだ。
「不自由のない生活への回復は無論大事だ。しかし、ガミラスとの戦争を教訓にして、より強力な軍隊も作り上げねばならん」
自分の国は自分らで守らねば、誰が守ると言うのであろう。ガミラスとは距離が大きく開いており、駐留軍とて簡単に動かないかもしれない。いざと言時に、自分らで守れるだけの軍事力は是が非でも揃えておきたい。旧国連統合軍軍務局長から地球連邦軍統括司令副長になった芹沢虎鉄宙将の強い推進で、推し進められた。
この発言と提案に、苦言を呈する政治家も少なからずいたものの、ガミラスとの戦争で味わった絶望を身に染みていたことから、彼の提案は可決されたのである。もっとも、その裏では軍需産業の連合体がバックアップしているとも言われており、芹沢の持つ強い政治的野心から、巧みに根回していたとも噂されている。戦争の利権屋とも呼ばれる軍需産業の介入は忌避されるべきものだが、やはり、ガミラスとの戦闘による後遺症が良心よりも現実を選んでだのである。
結果として、〈ヤマト〉が帰還して以降約3年の月日を掛けて、地球連邦防衛軍は航宙艦隊を再編し、5個主力艦隊160隻、16個パトロール艦隊96隻、16個護衛艦隊128隻、12個守備艦隊144隻、総計528隻を揃えていた。その他、支援艦隊、輸送艦隊、訓練艦隊、実験艦隊等を加えると、660余隻を数えた。どの軍事工廠も連日フル稼働で動き続け、更にはガミラスから譲渡してもらった資源惑星から輸送した資源もフルに活用した成果とも言えた。
一方で、マゼラン銀河を支配していたガミラス帝国は、〈ヤマト〉の介入によって思わぬ事態へと転げ落ちた。天の川銀河への重要基地であったバラン星の損失、アケーリアス文明の遺産である超空間ネットワークシステムの破損、基幹艦隊の損失、版図内の叛乱、デスラー政権の崩壊―――上げればキリがない。一番の問題は、独裁政権によって一大帝国を築いていたデスラー総統が倒れたことであろう。
「この危機を乗り越えねば、我らがガミラスは崩壊してしまう。それは避けねばならん」
ガミラス帝国は、独裁者を失い崩壊の危機に瀕したが、そこを民主派を掲げたヒス副総統の必死な働きによって立て直したのである。腰ぎんちゃくと揶揄されていたものの、もとより文官肌のヒスは、危機に立たされたことで、寧ろ勤労意欲に目覚めたかのような働きぶりであった。そして、ガミラス帝国は民主的に変貌したことで、大ガミラス帝国改め、ガミラス共和国と宣言したのである。
これにより、独裁体制に不満を持っていた周辺諸国は、独立を認められたことで、これまでの圧政に苦しむようなことは無くなった。とはいえ、主導権は未だにガミラス側にあり、膨大な軍事力もガミラスが掌握していた。それでも、デスラー政権時代の様な押し潰さんとする動きは無くなり、貿易の面でも比較的に自由となった。これにより、以前に増して経済的な活性化が始まったのである。
無論、それでも不満を持つ者は絶えず、かの旧貴族社会の復興を目論む反社会的勢力も現れた。
「デスラー政権は終わったというのに、その影がいまだに周辺諸国を支配している」
そう言って反政権派は一致団結し、現民主政権の転覆を目論んでいた。その対策にもガミラス政府は余念が無かったが、それでも現在のガミラスは、以前に増して平穏を取り戻していたといえよう。
だが、ガミラスにもとある重大な危機があった。それは、ガミラス星そのものの寿命である。ガミラス星は内部を広大な空洞によってガランドウにされている。その広大な地下空間に、大都市を築いていたのだ。強固な岩盤が都市の上空を囲っている事から、天然の地下壕ともいえるものであった。しかし、その空洞になる程に星としての寿命は迫っていたことを示していた。ガミラス星の寿命は、約70年あまりと地質学者らは試算している。この事実は、デスラー本人しか把握していないもので、これが公表された時、何故、自分らに知らせてくれなかったのかと驚愕と不満を口にする者も多かった。
しかし、デスラーと言う人物が、狂ったカリスマ指導者ではなく、全てはガミラス民族の生存の為に動いていた指導者と再評価された。迅速に、かつ混乱させぬ為に、やむなく親衛隊と言う暴力組織使っていたことも分かった。やり方はどうであれ、デスラーは孤高の指導者として戦い続けていた事は事実であり、残された者達の間で、彼の完遂しようとしていた新たな惑星探しを、代わりに成し遂げなければならなかった。
「ガミラス民族の住める星は、必ずある。諦めず、探し出そう」
それが、現政権の一大事業として進められていた。
このように、地球にしろガミラスにしろ、慌ただしくも一応の平穏な日々が続いたのである。
しかし、それも束の間のこと。新たな脅威が宇宙を席巻しようとしていた。それは、ガミラスも地球も、予想していない未知の脅威であった‥‥‥。
天の川銀河オリオン椀の外苑を航行するガミラス艦隊の姿があった。ガミラス艦特有のモスグリーン色に包まれた、地球人にとっては良い意味でも悪い意味でも見慣れた艦影だ。その艦隊は規模の小さなもので、ケルカピア級航宙高速巡洋艦1隻、クリピテラ級航宙駆逐艦3隻、そして非武装艦1隻の計5隻で構成されている。これは、地球とガミラスの間を行き来する“定期便”と呼ばれる艦隊だ。物資の輸送等を担うもので、特に重要な任務を携わっている訳ではない。
その定期便と称される小艦隊の中に混じる非武装艦は、見慣れぬ外観を持つ艦艇だった。いや、まるきり見慣れていない訳ではなく、大胆にも2隻の宇宙艦を並列に繋ぎ合わせたものである。ガミラス帝星国防軍の主力艦の1つ、デストリア級航宙重巡洋艦を使ったもので、その名を
特殊研究艦〈ハーゲル〉
といった。艦内に研究設備を持った艦艇で、本格的な研究設備には劣りはするものの、動ける研究所としては非常に重宝する存在である。
「航路、予定通り。後1回の長距離ワープで、ゾル星系外苑に到達します」
「護衛隊旗艦より入電。『全艦ゲシュ=タムジャンプ準備。座標を設定し、5分後にジャンプを開始する』―――以上」
「うむ。機関長、毎度の事だが、慎重に頼むよ」
〈ハーゲル〉艦橋で、オペレーターの報告を受ける40代程のガミラス人は、当艦の機関長へ一応の注意を喚起する。
「分っておりますよ、艦長殿」
機関長は憮然とした表情で返した。艦長と呼ばれたガミラス人こと
〈ハーゲル〉艦長 チェーレフ少佐
は、業務的に頷いて返答する。彼がこの研究艦の運用を預かる責任者であり、これまでにも未開拓宙域に派遣されてきたベテラン艦長だ。一応の科学者としての素質はあるが、あくまでも艦の運用を任されているに過ぎない。研究による解明作業は、乗艦してくる科学者らに任せていた。
今回は派遣調査が目的ではなく、地球の研究者たちへ荷物を届けるのが目的であった。それも無論のこと、研究に必要な代物の数々だ。
「今回の荷物は、地球の科学者にサンプルとして届けるとはいえ、取り扱いは厳重にしておかねばならんからな。早いところ、積み下ろしたいものだ」
彼が言う荷物は、〈ハーゲル〉艦内にある生体保管室に眠っていた。名前の通り、この区画は生物を保管並びに管理する為のもので、あらゆる星で採取・捕獲された生物を、特殊な強化保管カプセルに封じ込めているのだ。また、生物研究用の解剖設備、放射線装置等の様々な設備も備わっていた。そして今回、運び込まれているという代物は、ガミラスでも危険とされるものであり、〈ヤマト〉クルーが聞いたらゾッとしてしまう生物だ。かのイスカンダルへの旅路の途中で遭遇した宇宙生物‥‥‥。
1つは、ガミラス帝国の支配領域内に存在する辺境の星域の1つ、ミルベリア星系で発見された新種のガス生命体――
ミルベリアルス
。発見された星系の名に因んで命名された。その名の通り、ヒューマノイド型やアニマル型の様な肉体とは全く似つかわしくない、ガス状の生命体。有機物をガス状体内に摂取することで分解し、物質変換して自己増殖する。しかも、有機物のみならず、無機物も取り込む。そして、電気といった生活エネルギーの他、兵器運用されている陽電子ビーム、レーザー等、ありとあらゆるものを取り込み無限に増えていく。放っておけば、何もかも喰らい尽くしてしまう。ただ、ガミラスが対ヤマト用生物兵器として使用したガス生命体は、ガミラス兵器開発局が手を加えたもので、通常ならばあそこまで急速に成長はしないものだった。
もう1つは、〈ヤマト〉がイスカンダルから帰還途中に遭遇した宇宙生物―――
メデューラ
。大マゼラン銀河外苑に浮かぶ、孤立した惑星カッパドギアに住まう原住生物だ。外見は蛸そのものと言って良いが、体面組織はクリオネの様に半透明である。生物でありながら驚愕の移動スピードを誇り、宇宙艦艇の通常航行スピードに付いていく事も可能なほど。カッパドギアに近づく宇宙船に群体で襲い掛かり、船のエネルギー(機関エネルギーや兵器エネルギー問わず)を吸い取って成長する特性を持つ。命名したのは地球側であり、その理由はメデューラから退かれた唯一の船であったことだ。ガミラス船籍の船は、この奇妙な生物に襲われて消息を絶っていたが為である。因みに、この消息不明の原因はメデューラだけではなく、かのごく少数民族となってしまったジレル人による、自己防衛の被害に遭っていたのもあるが。
ガミラスは、地球との停戦並びに同盟締結後、様々な技術提携を行っていた。その一環として、宇宙生物の解析も含まれており、地球人類としては初の宇宙生物の解明に乗り出さんといていた。広い支配宙域を持つガミラスは、ミルベリアルスとメデューラのごく一部生体サンプルを、地球に渡そうとしていたのである。
「あくまでも民間利用とは言うが、果たしてどうかね」
チェーレフ艦長は、訝し気な顔を作った。祖国ガミラスと地球の共存は良いとして、同時に進んでいたのが地球の急速な軍備拡大である。コスモリバースと呼ばれる特殊な装置で自然を元に戻した地球は、3年の月日を要して既に大小660隻以上の戦闘艦艇を揃えている。無論、ガミラス軍からしてみれば微々たるものだったが、地球人の底知れぬエネルギーを感じさせずにはいられなかった。
そして、今回の生物研究には、エネルギー吸収の特性を兵器利用するのではないか。ガミラスが生物兵器として転用したように、地球もまた生物兵器として利用し、ガミラスに刃を向けるのでは―――等と疑惑念を抱かずにはいられないものである。とはいえ、ガミラスもこれまでに圧政を敷いて、他国を散開に収めて来たことを考えてば、地球のやろうとするかもしれぬ事に平然と異論を唱えるのは難しい。ただ、ただ、地球が軍事に転用しないことを祈るばかりである。それに、一個人の艦長の意見が反映される訳もない。
疑心暗鬼になってしまう自分に、嫌気がさすチェーレフ。
「艦長、後4分でジャンプします」
ワープをしようとする、まさにその瞬間であった。
「重力振? これは‥‥‥」
「どうした」
レーダー手が疑問の声を呟いたのを聞き逃さなかったチェーレフは、何が感知されたのかを詳しく問いただした。レーダー手は、戸惑いながらも即座に報告する。
「4時半方向、ゲシュ=タムアウト反応!」
「何? 4時半方向だと」
地球軍の出迎えか。そう思わないでもなかったが、予定ではこちらがワープアウトした宙域で落ち合う手筈であった筈だ。それを、連絡も無しに土壇場で、しかもいきなり右側背から現れてくるものだろうか。それとも友軍か。疑問が沸き上がるチェーレフだったが、そこでようやく1つの危険を思い至った。ここ最近、現政権に対して不平不満を持つ反政権派が、マゼラン銀河だけではなく、この天の川銀河でも動きを活発化させているという報告を聞いていたのだ。天の川銀河には、対地球攻略戦の為に設営された補給基地が幾つもある。その中で、現政権の方針に従わなかった部隊が、雲隠れして破壊活動を行っているのだ。
となれば、この重力振の観測はもしや‥‥‥。
「未確認反応、ゲシュ=タムアウト。数は12‥‥‥ッ!? 内、ゼルグート級1を含む!」
ゼルグート級を含む小艦隊など、ここをうろついている情報などない。しかも、ゼルグート級は一部の高級士官や、功績ある大使の専用艦として建造されるもの。或は、敵地攻略の為に特攻役として突っ込み、敵を片っ端から蹴散らしていく為に建造される。故に、こうして少数の艦隊を組んでいるとなると、別星系へ派遣される外交官の艦とも思われるが、それなら専用の塗装と紋様がある筈だ。だが、この空間に現れたのは、見るからに使節が乗る様な雰囲気のある塗装ではない。何せ、このゼルグート級は真っ黒なのだ。そして、紋様は赤い。それだけじゃじゃない、全ての艦艇が漆黒に塗れた塗装なのである。
「ゼルグート級1、デストリア級2、ケルカピア級1、クリピテラ級8。全てデータ登録から抹消されています」
「呼びかけに応じません」
「叛乱軍め‥‥‥!」
もう味方ではないのは明らかだ。守備隊はいち早く動き、〈ハーゲル〉の右舷後方に移動して護ろうと戦闘態勢に入っていた。
「護衛隊、緊急反転します」
「護衛隊司令より緊急入電『貴艦は即座にジャンプされたし』―――以上」
護衛艦隊は4隻、叛乱軍は12隻。数的優位は0どころかマイナスにであり、ゼルグート級という強大な戦艦がいるのだ。勝てる訳がない。自殺行為であることは明白であるが、死んでも〈ハーゲル〉を護らんとする守備隊司令は本気だった。そんな彼らの意思を無駄にする訳にはいかない、とチェーレフは継続してジャンプするよう指示する。もっとも、時間にして約60秒ほどの時間が必要であった。
「距離7000」
「敵艦、発砲!」
それは、ゼルグート級より放たれた陽電子ビームだった。本級最大の主砲である四連装480o陽電子ビーム砲塔で、7基28門という搭載数を誇る。その内の前部側に向けられている上甲板の3基12門と、艦底側の1基4門が火を噴き、〈ハーゲル〉に襲い掛かって来たのだ。守備隊に目もくれず、この研究設備の整った〈ハーゲル〉を襲うということは、明らかにこの航路を読んで襲ってきたに違いない。地球とガミラスの定期航路を脅かし、交流を断とうとしているのか。目的は定かではないが、要するに嫌がらせの行為だろう。もっとも、その嫌がらせで命を落とす方は堪ったものではないが。
赤いビームは、守備隊を掠めて〈ハーゲル〉の至近距離を突き抜けた―――と言いたいところであるが、その内の1発が〈ハーゲル〉前部上甲板を多少抉った。この距離で掠める程度とは言え狭叉するとは、叛乱軍とやらも腕前は馬鹿に出来るものではないだろう。そう賞賛する暇などないし場合でもないが、掠められたとはいえ、非武装艦には十分な衝撃である。
艦内は警告灯で染まり、掠めた衝撃で艦が左へ張り倒されたのではないか、と思う程の衝撃を伴い傾いていた。もとより戦闘員ではない、〈ハーゲル〉の乗組員らは酷く動揺してしまい、中には声を上げている者までいた。
「上甲板被弾。艦内にダメージ多数!」
「艦長、座標が確定しておりませんが―――」
「構わん、ジャンプだ!」
激しく揺れる中、艦長席でしっかりと身体を固定していたチェーレフは離脱することを最優先に、ワープを命じた。〈ハーゲル〉は、傷付きながらも緊急ワープで亜空間へと突入し、辛うじて撃沈するという最悪の事態は免れることとなる。しかし、この時、彼らは気付きようもなかった。
被弾の衝撃で揺れた際に、保管庫も当然のことながら揺れに襲われていた。固定されていた保管カプセルが、その拍子に固定フックから外れてしまい、複数のカプセルが派手に床へ叩きつけられたのである。大小様々なカプセルが、床へ不本意にも叩きつけられたことで、ガラス張りの部分が砕け散った。しかも、被弾の影響は冷凍保存装置にまで及び、冷凍保存されていたサンプルが解凍モードとなっていたのだ。これによって、保管庫は一気に生ける宇宙生物展示室へと変貌した。その中には、無論、ミルベリアルスとメデューラも含まれていた‥‥‥。
一方の護衛艦隊は、〈ハーゲル〉の離脱を援護する為に獅子奮迅した。機動戦術とミサイルや魚雷で叛乱軍を撹乱し、少しでも時間を稼ごうとしただ。その結果、彼らは約15分もの遅滞戦に成功したうえ、叛乱軍12隻の内、デストリア級1隻、クリピテラ級1隻を葬ったのだ。そして、その代償は護衛艦隊全滅を伴った。この戦果は、叛乱軍側が護衛艦隊の撃滅に注力したことも関係していたと言えよう。小さな戦果とはいえ、積み重なればガミラス共和国への精神的負担を強いるからだ。
「敵艦隊、全滅」
「標的艦、ジャンプにより完全離脱しました」
「逃すな。彼奴らを追い詰めよ。デスラーの影から逃れられぬ、哀れな者どもに正義の鉄槌を下すのだ」
反ガミラス統治破壊解放軍 旗艦ゼルグート級〈ドゥオルシエ〉
の艦橋で、高齢の生きに入るであろう老齢のガミラス人が、杖を片手で床に突きながら言った。くすんだカーキ色の制服にぼろきれのマントを纏う姿は、上品にも指揮官たる風格は1rも備わってはいなかったが、それは当人の気にすべきものではない。老人の名は
ヤ・ヴォイ・ドゥオーシ
。略称破壊解放軍と呼ばれる叛乱軍の一員で、天の川銀河の一区画を担当する現場指揮官である。過激な復古主義を主張し、貴族社会体制を夢見る老人だった。その為、理想はとかく主張するが、その先に何があるかまでは描け得ずいる。それでも、そんな過激な人間ほど暴れてくれるだろうという、破壊解放軍指導者らの目論見で、この老人が使われていたのである。
また、彼が定期便の航路を予測して襲ったのも、現政権下で息をひそめる反社会思想の一派から受けた情報によるものだ。しかも、この定期便には、生物兵器として使われた実績のあるミルベリアルスがあるという情報から、是が非でも破壊解放軍の手駒として使いたいと考えていた。
「空間航跡をトレース開始」
「解析を急ぐのだ。ガス生命体を我が手中に収め、現政権に目にものを見せてくれるぞ」
次のワープにより、地球連邦の息のかかった宙域にまで到達する危険があるが、それ以上に、己の信念の為に危険を顧みないドゥオーシ。空間航跡をトレースし、ワープした先にあるのは輝かしい旧体制の復活である。信じて疑わない彼は、解析終了次第、艦隊をワープさせるのであった―――その先に絶望があるとは知らず。
地球連邦の領域最端のラインより、約0.1光年(約9460億q)の宙域でワープアウトした〈ハーゲル〉は、相も変わらず前部上甲板より黒煙を吐いていた。それでも、航行に支障をきたすものではなく、地球圏へ到達するのには全く問題なかった。ただし、緊急ワープで焦ったことから、予定よりも多少離れた宙域でワープアウトしてしまったが、それも致し方ないものであろう。
「ゲシュ=タムアウト完了。地球の第11番惑星軌道上より、およそ0.1光年のポイントにあります」
「かなりズレたな‥‥‥緊急時故に、仕方ないが」
生きた心地はしなかったが、まだ安心はできない。あの叛乱軍が追ってくる可能性もゼロとは言えないのだ。
「合流予定の地球艦隊へ緊急通信。『我、叛乱軍に遭遇。ワープで離脱するも、追撃の可能性あり。至急救援を請う』と」
「ハッ!」
「あと、敵艦隊の構成も送れ」
叛乱軍とはいえ弩級戦艦を持つという、とんだ潤沢な装備ぶりには目を疑う。あれ程の戦艦を叛乱軍が有していたという事は、叛乱を起こした艦か、或は献上中だったものを奪ったか、或は横流ししたか。あらゆる可能性が持ち上がるが、それは推測の域を出ようとはしない。真実は彼ら自身が知るのだ。
クルーの1人が、不安げにチェーレフに具申する。
「艦長。保管庫ですが、確認を取らせて頂けませんか」
そうだ。離脱するのに精一杯で忘れていたが、肝心の積み荷の事も確認しなければならない。あれに万が一の事があれば大事になってしまうのは、目に見えてわかる。チェーレフは急ぎ、クルーに確認するよう指示を与えた。艦が撃沈しなかったとはいえ、戦闘による衝撃は軽いものでなかったのだ。
「よろしい。ただちに確認したまえ」
「ハッ!」
クルーは慌ただしく動き、艦橋を後にした。その間にも、艦の応急的な補修作業をしなければならない。そればかりか、急ぎ地球艦隊と合流しなければならないのである。艦橋からでも、前部甲板に受けた傷の酷さが分かり、これで直撃していたらどうなっていたかと想像してしまう。あのゼルグート級の主砲が、もう少し下方側にずれていたら、上部甲板が抉れるばかりか食い千切られていたであろう。
機関部の方は、以前として無事なようである。機関長も冷や汗をかいていたようで、額についていた汗を今更ながら袖で拭っていた。
「速いところ、地球軍と合流したいですな」
「そうだな。護衛隊の安否も、気になるが‥‥‥」
この時点で、彼らは護衛隊がどうなっていたのかは知る由も無かった。それ以上に深刻な問題が、自分らの身に迫っているとも知らずに‥‥‥。
クルーが状況確認に出た数分後、再び艦内に警報が響き渡った。それは、戦闘による警報ではなく、艦内に異常が発生した時の警報である。何事か、とチェーレフは状況の把握を命じた。その時、艦内放送が入って来たのである。
『こちら保管庫区画! 艦橋、艦橋!』
「ん!」
艦内放送に響いてきたのは、先ほど調べに行ってくると進言したクルーのものだった。それも、ひっ迫し、半ばというよりほぼ悲鳴になっていた。
「どうした!」
ただごとではない。チェーレフは直ぐに応答ボタンを押して問いかけた。
『ほ、保管庫が‥‥‥奴が―――ァッ!』
「何っ? おい、保管庫がどうした!?」
尋常ではないことを悟り、クルーに問いかけつつも艦内に緊急事態を発令させる。もしや、保管庫のサンプルが出て来たということか‥‥‥。最悪のシナリオが始まっていたのかと思った矢先、先ほどの悲鳴を遥かに上回る絶叫が響いた。
『や、やめ、離せ、化け物っ、あああああああああああああああぁ‥‥‥!』
―――ブツ。
「!?」
ゾクリ、とチェーレフの背中を、とてつもない悪寒が突き走った。艦橋内のクルー一同も、そして、この艦内放送を聞いていた別の区画のクルー達も。数秒か、数分にも思える沈黙の中、チェーレフは思考を立て直して指示を下した。
「緊急事態宣言! バイオハザード発生、生物保管区画を緊急閉鎖せよ!」
「しかし、クルーの一部がまだ―――」
「馬鹿者、あの保管庫には、危険レベル5のサンプルがいるのだぞ! 艦内どころか、乗組員全員に危険が迫る」
一度放たれた猛獣は、自分らの手に負えるものではない。何せ、何もかも食らい尽くす恐るべき宇宙生物が保管されていたのだ。それが、もし解放されていたとすれば、隔壁の閉鎖だけでは間に合うとは思えなかった。こうなれば、最終手段でこの区画を纏めて焼却するしかない。或は、この艦の機関部を暴走させて艦ごと消滅させるか。いや、どちらも行うべきか。
「隔壁閉鎖後、緊急焼却システム発動する。同時に、総員〈ハーゲル〉から退艦。奴らを焼却しきれなかったら、我々の命はないぞ!」
「りょ、了解!」
クルーが閉鎖作業に入る。残るクルーは、退艦する為に駆け足で脱出艇のある格納庫まで駆け出し始めた―――その刹那。
「艦長、こ、これをご覧ください!」
オペレーター席に座るクルーの1人が、艦内カメラの一部映像をスクリーンへ投影した。そこに映っていた物を見て、思わず息を呑む。
「メデューラ!」
保管カプセルから這い出たメデューラが、通路一杯に成長して荒らしまわていたのだ。そして自分を監視しているカメラに触手を伸ばし、あっという間に監視カメラを叩き壊して覗き込む目線を遮断してしまった。何と言うことであろうか、と呆然としている暇はない。あのメデューラが艦内で襲い掛かるとすれば、十中八九、電力の源であろう機関部だ。いや、機関部に直接行かなくとも、配線板をやられればアウトだろう。
しかも、驚くべきことに閉じられた隔壁があっという間に熔かされているではないか。メデューラに、はたしてこのような能力があったとは聞いていないのだが‥‥‥。そうこうしている内に、隔壁を破ったメデューラは、一挙に別の区画へと移動を開始した。
何故であろうか、これは、自分が知るメデューラではない気がする。チェーレフは戸惑いと疑惑の念を持ったが、一刻の猶予もない。
「総員退艦急げ! 艦を捨て、一刻も早く離れるんだ」
「メーデー、メーデー、本艦はメデューラによるバイオハザードを受け退艦する。至急、救援に来られたし! メーデー、メーデー!」
通信士も必死に呼びかけるが、それも虚しく、艦内は一挙に薄暗くなった。
「電圧急速低下!」
「通信出力、確保できない!」
「しまった。奴め、配線から電力を吸い上げに掛かったか!」
メデューラは、遂に近くにあった電力供給配線の配電盤を破壊し、触手を当ててエネルギーを吸い上げていったのだ。このままでは、この宇宙生物は急速に成長してしまう。となれば、必然的に機関を完全に停止して電力を供給をストップさせるほかないのだが、それは同時にクルーの道連れを意味する。艦の責任者として、クルーの生命を守ることは勿論だが、それ以上に、この艦に積まれている危険指定生物の扱いの責任も大きい。先ほどは隔壁閉鎖を優先したが、此ればかりは判断を躊躇してしまう。
どの道、波動機関のエネルギーを吸い尽くされる。なれば、クルーの生命を最優先にする他ない。
「諸君も退艦せよ。奴は尋常じゃない、食らい尽くされる前に逃げるぞ!」
「ハ!」
艦橋から離れ、近くの脱出艇へ向かい出すクルー達。しかし、彼らは薄暗い閉鎖された艦内にて、見えぬ恐怖と捕食される恐怖に呑まれ、そして‥‥‥。
U
〈ハーゲル〉の緊急電をいち早く受けたのは、合流の為に派遣されていた地球連邦防衛軍の護衛艦隊に所属する第2護衛艦隊だった。8隻で編成されている護衛艦隊は、構成されるのは全て旧式艦の改良型だった。金剛改型宇宙戦艦1隻、村雨改型宇宙巡洋艦1隻、磯風改型突撃宇宙駆逐艦6隻である。因みに、金剛改型の分類は戦艦だが、新造されたドレッドノート級の登場により巡洋艦として位置づけられていた。
第2護衛艦隊 旗艦金剛改型〈ユウナギ〉
。艦の上下が、紺色と淡い白のツートンカラーで塗分けられている〈ユウナギ〉だが、この塗装分けは旗艦を示すものである。〈ユウナギ〉の艦橋では、早速、緊急電を受信した
通信長 相原儀一二等宙尉
が、この艦の責任者に報告する。〈ヤマト〉元乗組員で20代前半の若い士官だった。
「古代艦長。〈ハーゲル〉より緊急入電」
「緊急?」
艦長と呼ばれた、これまた若い青年士官は聞き返す。
第2護衛艦隊司令/〈ユウナギ〉艦長 古代進一等宙尉
。〈ヤマト〉の戦術長を務め抜いた軍人だ。イスカンダル遠征で、20歳と若いながらも部署の職責を全うし、ガミラスとの実戦によって経験を積み重ねて来た。その為、地球で待機状態にあった同年代の士官や、実戦経験の少ない年上の上官らと比較しても、実力は群を抜いていると言えよう。
そして今、24歳となった古代は、再編された防衛軍の一部隊である護衛艦隊司令と旗艦艦長を拝命し、輸送部隊等の護衛任務に勤しんでいるのであった。本来なら2代半ばの青年士官が、8隻の護衛艦隊とはいえ司令官と艦長職を兼任するなど、あり得ない話である。それが現実としてあり得るのは、何を置いても人材の払底が原因であった。ガミラスとの戦争で多くのベテラン艦長や指揮官を失った地球は、古代の様な実戦経験を持つ貴重な人材を、敢えて護衛艦隊や守備艦隊に回した。普通なら主力艦隊の戦隊司令くらいはありそうなものだ。
この理由は、何よりも地球の資源確保を確固たる門とする為だった。貴重な資源を輸送するうえで、未熟な者を護衛の司令官にしてしまっては、輸送部隊を失う恐れもある。一方の主力艦隊は、本格的な戦闘に参加する以外には待機状態に近く、その待機中を利用して猛訓練を行っているのだった。
「読み上げます。『我、叛乱軍に遭遇。ワープで離脱するも、追撃の可能性あり。至急救援を請う』―――以上です」
「叛乱軍‥‥‥どうりで、予定ポイントに現れなかった訳か」
いぶかしげな表情をして、〈ハーゲル〉が合流予定ポイントに現れない理由を悟った
砲術長 南部康雄二等宙尉
は、舌打ちした。彼も〈ヤマト〉元クルーで、砲術長として攻撃の要を担っていた。若いながらも卓越した砲術の手腕を有しており、その腕は、この〈ユウナギ〉でもいかんなく発揮される。
南部と同じように、古代も事態の深刻さを理解し、瞬時に行動に移った。
「これより、第2護衛艦隊は味方艦の救援に向かう。艦隊司令部にも連絡しろ。『我、ガミラス艦の救援を受け、急行する』と」
「了解」
「全艦、第一種戦闘配置を取りつつ、ワープに入る。指定座標には、敵艦がいる可能性もある。心して掛かれ!」
無論のことだが、古代達の手元にも〈ハーゲル〉からもたらされた敵艦隊構成のデータはあった。艦隊数で言えば僅かにこちらが不利。しかし、あのゼルグート級を含むというのだから油断は出来ない。こちらが、如何に波動防壁を持っているとはいえ、真面に撃ち合えば貫通されてしまう。機動戦術で優位に立つしかないだろう。救援も要請したが、これは厳しい戦闘になるかもしれない、と覚悟を決める古代。
やがて、波動機関がワープ可能域にまで出力が上がった。
「ワープ!」
古代の号令により、第2護衛艦隊はワープを敢行した。そして、折しも、この瞬間に再度〈ハーゲル〉から入電が来ていたのである。救援を求めていた〈ハーゲル〉に何が起きていたのかを知るのは、彼らが直接、それを自分の目で見てからになる。
第2護衛艦隊が現場に到着した時、最初に目の当たりにしたのは、無残な姿を晒した〈ハーゲル〉の姿であった。艦体の各部から黒煙を吐いているが、艦内で火災が生じているのであろう。航行していることを示す、ガミラス艦特有の目型のインテークは発光しておらず、完全に機能を停止していることが伺えた。何か、機関にトラブルを生じさせたのかもしれない。この状態では、一刻も早く救出しなければ〈ハーゲル〉のクルー達は命が危ない。
「救命艇を〈ハーゲル〉へ乗り込ませる。救助隊を編成し、直ちに乗組員を救助せよ。なお、追撃してくる敵艦に備え、全艦隊は戦闘配置を維持!」
「了解!」
旗艦〈ユウナギ〉の右舷格納庫ハッチが開放され、格納庫から1機の救命艇が発進する。沈黙している〈ハーゲル〉の上甲板に着陸し、救助隊は慌ただしく艦内へと入り込んでいった。まだ、無事な区画もある筈だと信じ、救助隊の連絡を待つしかない。
「しかし、ここまで来て、機関を完全に停止させるなんて、ちょっと不可解じゃないか」
ふと、南部が疑問の声を上げた。
「確かに‥‥‥ワープでここまで来たなら、機関は動けるはずだし、よしんば故障したとしても予備電源で、艦内の生命維持装置は確保できますけど‥‥‥」
「‥‥‥」
相原も考え込む。古代も、この〈ハーゲル〉の様子には疑問が生じていた。遂先ほどまで連絡を入れて来たのに、どうして沈黙してしまっているのか。こちらからの呼びかけには一切反応せず、まるで無人艦になってしまったようだ。この艦に何があったというのか‥‥‥。
その疑問を強くさせるような報告が、古代の元へ届いたのは数分後である。
『こちらαチーム。乗組員は発見できず』
「何‥‥‥誰も、いないのか」
『はい。不気味です、まるで幽霊船の様な感じです』
幽霊船とは非科学的な、と嘲笑されそうだが、現場にいる当人たちの精神的負担は決して軽いものではなかった。暗い艦内を、自分らのライトを頼りに照らして移動するのだから、おのずと恐怖心も起きようものである。勿論、単独行動ではなく複数で纏まっている為、危険性は薄い。しかし、同様の報告は、直ぐに他のチームからも入って来た。
『こちらβチーム。乗組員、発見できず』
『こちらγチーム。同じく、発見できません』
「どうなっている‥‥‥?」
どのチームも、各区画に別れていたが、何処も発見できない。そればかりか、不可解な報告は続いた。
『妙です、この隔壁‥‥‥』
『何だ、これは。戦闘の影響とは思えんぞ』
救助隊から送られる回線映像から分かるのは、隔壁の扉が、まるで飴細工を溶かしたかのように溶け落ちて、人が通れるには十分の穴が開いていたことだ。戦闘の影響でも、こうも不可解な溶け方はしない。それに、爆発などにも耐えられる設計をしているのだ。しかも、戦闘で被弾したと推測される区画から離れた場所にある隔壁で、どう考えても爆発による熱でもない。
さらに、保管庫に周ったチームからも、驚愕の映像が届けられた。
「まるで、何かに荒された感じですね」
「戦闘の影響以前に、誰かが引っ掻き回したみたいだな」
相原と南部が、その映像を見つめる。保管庫は、これでもかと言わんばかりに荒れており、保管カプセルも破損した状態浮遊していた。書類や研究機材が、力なく無重力空間で漂っている。それに加えて、研究設備にしては不可解な物も浮遊しているのに気付いた。救助隊チームの1人が、さり気なくソレを手に取って間近に見る。映像に映されるソレは、まるで岩石の様に思えたのだが、色は蒼、黄色、赤色、と結晶石のようにも感じられた。ライトの反射で輝く不思議な結晶体に見取られそうになる。
艦橋のモニター越しで眺めやる古代は、救助チームに新たな指示を出す。
「各チームに達する。事故の線も考えられる。艦橋のブラックボックスと、保管庫の研究データを、早急かつ出来る限り集めるんだ。無論、その結晶石もだ」
『了解』
時間は限られている。時間は5分として、それ以上は切り上げるよう厳命した。各チームは情報の収集に全力を傾けるが、そこで新たなものを見つける。ふと、赤い光点が、保管庫に漂っているのが見えたのだ。
『何だ、この赤く光るのは』
『ホタルみたいですが‥‥‥』
それも数十もの光点である。何処から湧いて出て来たのかは分からないが、まるでホタルの様な印象を与えた。恐らく、この保管カプセルから抜け出したのか。ともあれ、それもサンプルとして容器に確保する。同時に研究データはというと、微弱ながらも緊急用電力が残っていたようで、辛うじて端末から落とし込むことが出来た。
回収作業中、古代は改めて保管カプセルを見て、考えていた。
「相原。確か〈ハーゲル〉には、研究の為に宇宙生物のサンプルが積み込まれていた筈だな」
「えぇ、確かにそうですが―――!?」
そこで気付いた。サンプルが破損したカプセルから脱して、艦内にいるとしたら? 古代達は悪寒に身体を震わせた。このホタルの様なものが、何よりの証拠であろう。まるで、昔の映画であったSFパニックものにでてくる宇宙生物“エイリアン”を思い起こす。乗組員が姿を消したのも、何となく頷けてしまう。古代は、直ぐに救助隊に対して撤収を命じた。無論、それは制限時間間近と言う事もあったが、何よりも、正体不明の宇宙生物が徘徊している危険性を感じたからである。
救助隊は、即座に作業を切り上げ、救助艇のある甲板へ駆け出していく。言い知れぬ恐怖感に包まれた彼らは、一目散に宇宙空間を目指した―――その刹那。
「艦長、〈ハーゲル〉艦尾に異変!」
「ッ!」
〈ハーゲル〉艦尾側が異常な反応を示した。それは、強力なエネルギー反応であったが、それが形として具現化する。まるで、内側から文字通り装甲を突き破られたのだ。ミシミシ、という耳障りな金属音を響かせながら、その亀裂の間から垣間見えたのは、予想外の光景だった。薄いエメラルドグリーンに染まる触手が、宇宙空間に飛び出して来たのである。
「あれは‥‥‥」
「まさか、これが‥‥‥」
呆然とする南部と古代。外壁を突き破ってくる生物は、長大な触手を〈ハーゲル〉の艦体に纏わりつかせたまま、まるで這い出す様に艦内から出て来た。その全体像が露わになるやいな、古代、南部、相原は、強制的に脳裏にフラッシュバックした。目の前に出て来た生物は、かの惑星カッパドギアで遭遇した、エネルギーを吸収する浮遊生物と一致したのだ。〈ヤマト〉の航行速度に追い付き、あまつさえ波動エネルギーや、ビームエネルギーさえも餌として吸い取った宇宙生物。それが、地球の科学者に送り届けられる予定だったサンプルだったのだ。
なんと物騒なものを運んでいたものだと、科学者たちを呪いたくなった。しかし、それよりも救命艇の回収を急がねばならない。
「救命艇は!」
「今、離脱しました」
「宇宙生物、行動を開始。コチラへ向かってきます!」
当然だろう、と焦る古代は内心で呟いた。この場にエネルギーを持つ艦が8隻もいるのだ。〈ハーゲル〉のエネルギーを吸い尽くしたメデューラは、瞬く間に成長しており、身体の部分だけで約60m、触手も合わせると最大120mにもなっていた。ただ、カッパドギアで遭遇したタイプとは、何処となく違うところがある。それは、その体表面の色だ。原産はスカイブルーに似たものだったが、これはエメラルドグリーンに近いのである。しかし、今の古代達では、そこまで冷静に分析する余裕は無かった。
このメデューラと思しき生物は、〈ハーゲル〉から完全に身体を抜け出し、今度は第2護衛艦隊を標的にしている。一度だけとはいえ、嫌でも覚えてしまった宇宙生物の特性を思い出す古代。下手に攻撃は出来ない。攻撃をすれば、メデューラを成長させるだけだ。救命艇は、触手から辛うじて逃れると、一目散に〈ユウナギ〉へ戻った。あれに捕まればどうなるか、古代は身に染みて良く知っている。それだけに余計な手出しは難しいものがある。
ビーム兵器を無効化するに等しいメデューラだが、撃ち込むヶ所によっては効果も期待できる。メデューラは、過去の経験から分かっている事と言うと、触手の先端と、本体の内側(蛸で言うところの口に相当する場所)で、エネルギーを吸収することだ。可能性としては、それ以外の本体表面に撃ち込めば、可能性はあるだろう。
だが、安全だと思われる方法を、古代は選んだ。
「全艦、エネルギー兵器の使用は禁ずる。魚雷、ミサイル兵器に限定し、あの生物を牽制に留める!」
言うが早いか、メデューラはその外見からは想像できぬ瞬発力で、一番近い磯風改型に突進してくる。初めて見る他の艦艇乗組員は、その瞬発力に度肝を抜かれた。逃げる隙も与えられず、駆逐艦は触手に絡め取られた挙句に雁字搦めとなってしまったのだ。磯風改型よりも巨大な生物が、そのまま呑み込まんとする勢いであり、駆逐艦のクルーは恐怖に慄いた。
「〈D−29〉に取りつかれた!」
「っ!」
次の瞬間、メデューラ擬きは絡めた触手から超高熱を放ち、駆逐艦〈D−29〉の艦尾側を飴細工の様に溶かした挙句、無理矢理引きちぎってしまった。あの宇宙生物にそこまでの芸当が出来るとは、古代も、南部も、そして相原も予想がである。かの生物は、艦体に吸着して機関部から破損部などに触手を這わせて、エネルギーを吸い取っていた。艦体を引きちぎるという方法を取らなかったのだ。それがどうか、この目の前にいる生物は、駆逐艦を玩具の様に引きちぎって、文字通り捕食しているではないか。エネルギーだけを主食とするのではなく、見るからに、金属をも餌としているように見えた。そして、残念ながら〈D−29〉の乗組員が助からないのは目に見えて明らかであった。
一瞬の内に捕食してしまったメデューラ擬きは、再び、そして一瞬に巨大化する。尋常ではない成長スピードだ。
味方艦が1隻失われたことに対するショックと、その光景に古代は呆然としていたが、ハッとなって指示を送った。
「全艦、波動防壁最大展開! 直ちに現宙域を―――」
「ぜ、前方7000qに重力振感知、これは‥‥‥!」
波動防壁で身を護りつつ、離脱を命じようとした途端、レーダー手が新たな反応を感知したのだ。それは、実に最悪のタイミングで現れたと言って良い。
「報告にあった、叛乱軍です!」
「くそ、こんな時に来るなんて‥‥‥」
「ワープアウトした敵艦、戦闘態勢を取った模様。こちらを狙ってくるものと思われます!」
「宇宙生物、〈D−29〉を捕食中。間もなく移動を開始する模様」
最悪の状況だ。古代は苦渋の判断に迫られた。正面からは叛乱軍こと破壊解放軍が、目前にはメデューラ擬きがいる。既に1隻が喰われてしまい、このままでは次の犠牲が出る。加えて、目の前の破壊解放軍は遠慮なく攻撃してくるのは目に見えた。しかもメデューラ擬きの瞬発力と移動速度は驚くべきものがある。最悪のシナリオは、このままズルズルと後退してメデューラに襲われつつ、後方から破壊解放軍の追撃を被ることだ。
であれば、取る手段は1つだった。
「全艦に達する。これより単艦行動を許可、分散し、各々の判断で第11番惑星へ後退!」
「分散ですか!?」
南部は驚愕した。艦隊をバラバラにしてしまっては、攻撃力も防御力も無くなる。各個撃破されてしまう危険性をはらんでいた。
しかし、古代の思うところは別にあった。
「纏まっていては、あの生物と、叛乱軍にやられる。分散して被害を抑えるんだ。全艦、直ちに実行!」
有無を言わせない気迫に気圧される南部は、口を閉ざしてしまった。そして、古代の命令はそれだけではない。
「本艦は敵艦と敵宇宙生物を引きつけ、味方の離脱を援護する。波動防壁最大展開、機関最大戦速!」
宇宙生物の気まで引きつけるという命令に、乗組員らは驚愕する。これは、宇宙生物の餌食になるか、叛乱軍の的になるか、どちらかしかないのではないか。どちらにしろ、この場にいてはやられるだけだ。他艦は急ぎ艦首を翻して、各自判断で太陽系へと離脱を開始する。破壊解放軍は砲門を開き、砲撃を開始している。
「敵艦、発砲!」
「航海長、宇宙生物の至近を通過しつつ、敵艦隊に針路を取れ」
「りょ、了解!」
メデューラは駆逐艦を完全に捕食した。その次に目についたのは、駆逐艦よりも大きな戦艦〈ユウナギ〉だ。〈ユウナギ〉が最大戦速でメデューラ擬きの傍を通過すると、それに反応して追撃を始める。生物とは覆えぬ俊敏な動きで宇宙戦艦の速度に付いていった。〈ユウナギ〉クルーは気が気ではなく、宇宙生物に食われるか、撃沈されるかの恐怖の狭間にあった。
一方の破壊解放軍も、目前の光景に驚きを隠せていなかった。
「あれが目標の1つ、メデューラか」
「しかし、データとは多少異なるようですが‥‥‥」
旗艦〈ドゥオルシエ〉にて、ドゥオーシは額に皺を寄せる。確かに、目の前の宇宙生物は、既存データにあるメデューラとは異なっている。新種でも発見していたのだろうか。いや、その様なことはどうでも良かった。もう1つのミルベリアルスを何とか確保せねばならない。7000q先に浮遊する〈ハーゲル〉に残されている筈だ。
しかし、目の間にいる地球の戦艦は目障りこの上ないもので、何と無謀にもこちらへ向かってくるではないか。
「かつて、〈ヤマト〉が叛乱のきっかけを作ってくれたが、その艦の母星地球も、今やデスラー政権の影を支える邪魔な存在だ」
細めていた目線を、一気に見開くと、攻撃の命令を発する。
「あの者どもにも裁きを下すのだ。全艦、攻撃を開始せよ!」
「全艦に通達。攻撃目標、地球軍戦艦。攻撃開始」
ドゥオーシの命令によって砲門を開いた破壊解放軍は、一斉に陽電子ビームを撃ち放った。ピンク色に近い赤いビームの束は、〈ユウナギ〉ただ1隻を狙って宇宙空間を突き進む。疾走するビームだが、しかし、〈ユウナギ〉の驚くべき操艦技術によって回避されていき、或は波動防壁で弾かれてしまった。引き続き、第二射が襲い掛かるも、やはり機敏な機動力と波動防壁により逸らされていく。
波動防壁とはいえ、ゼルグート級の砲撃を真面に食らえば食い破られてしまうが、巧妙にも機動力で補っていたのだ。真面に波動防壁に命中しない様に、ビームの進入角度を限りなく浅い角度で波動防壁に当てる事で、陽電子ビームを容易に逸らしているのであった。これで、少しでも波動防壁の稼働時間を伸ばそうというのである。
「何をしておる。命中せんではないか!」
命中弾が出ないことに苛立つドゥオーシだが、明らかに〈ユウナギ〉の練度が破壊解放軍を上回っていた。しかも、〈ユウナギ〉を喰らい尽くさんとして追ってくるメデューラ擬きも、一緒に破壊解放軍へと向かってきているのだ。それと気づいたオペレーターは驚愕し、ドゥオーシに報告する。
「このままでは、メデューラがこちらへ突っ込んできます!」
「ぬぅ‥‥‥沈めよ。メデューラ諸共、宇宙から消滅させるのだ!」
必然と、破壊解放軍の砲火はメデューラ擬きに集中する。地球軍は同じ人間であるが、メデューラは人間ではなく恐るべき宇宙生物だ。話し合いが通じる相手でもなく、ありとあらゆるものに襲い掛かるメデューラは、明らかに地球人よりタチが悪いものだった。破壊解放軍の各艦長達は、必死になってメデューラ擬きを始末しようと命じた。
方や〈ユウナギ〉に対する砲火の集中の度合いが減ったことで、波動防壁の低下率は横ばいになる。
「敵の砲火、後方の宇宙生物に集中」
オペレーターの報告に、南部は古代の真意を理解した。
「成程。艦長は、これを狙っていたんですか」
「かつての、ガス状生命体の時と同じですね」
相原も、手摺に掴まって身体を支えつつ、古代が取った行動の意味を理解し、かつての沖田十三宙将に倣ったものだと分った。ガス状生命体と太陽に挟み撃ちにされた時、敢えて灼熱の太陽に突き進み、ガス状生命体を太陽に誘い込んで焼き殺したのだ。古代は、この現状を利用して、メデューラ擬きを破壊解放軍にぶつけようという算段を立てたのだった。そうすれば、他の味方艦は離脱も容易となるうえ、破壊解放軍もメデューラ擬きを放ってはおけなくなる。〈ユウナギ〉に対する注意力も低下する。結果として、古代の目論見どおりとなった。
まるで戦闘機のような機動を繰り返し、破壊解放軍へあっと言う間に迫った〈ユウナギ〉。一切の反撃もせず、すべてを波動防壁と中央突破に集中した。破壊解放軍は、中途半端な対応しかしなかったことで、〈ユウナギ〉の突破を許すこととなったのである。
「敵艦隊の中央を突破!」
「下方向へ急速反転、そのまま一気に第11番惑星までワープ」
〈ユウナギ〉は、破壊解放軍をすり抜けると、今度は下方方向へ急速反転した。半円を描くように反転する〈ユウナギ〉に代わり、破壊解放軍は仰天した。
「殺せ、奴を殺せ!」
しかし、メデューラ擬きは陽電子ビームを撃たれても平気だった。確かに陽電子ビームによって、身体に穴を開けられているが、全く怯むことが無いばかりかピンピンとしているのだ。しかも、穿たれた穴は瞬く間に塞がっているではないか。寧ろ、活性化しているようにも見えるのだが、冷静さを欠いた破壊解放軍の兵士達には分からなかった。無論、ドゥオーシも気付く訳がなかった。
そのうち、前面に出ていたクリピテラ級が絡め取られてしまう。先の〈D−29〉と同じように、触手と超高熱で装甲板を溶かされ、波動機関からもエネルギーを吸い尽くしていく。その隙に抹殺しようと、残る破壊解放軍は攻撃を続けるが、それをメデューラ擬きはうっとおしく思ったらしい。超高熱で分断された艦首の一部を、触手で振り回すと、そのままデストリア級に向かって放り投げたのだ。予想外の攻撃方法に対して避ける事も出来ず、デストリア級は破片を真面に受けて戦闘不能に陥ったばかりか、艦首内部に残されていた魚雷が誘爆して巻き添えにした。恐れ慄いた別の艦が反転しようとすると、容赦なくメデューラ擬きが襲い掛かる。触手がゴムの様に伸び、また別の艦を捉えた。
破壊解放軍とメデューラ擬きの壮烈な、或は一方的な戦闘を他所に、〈ユウナギ〉は即座にワープに入った。
「ワープ!」
古代の命令でワープに入った〈ユウナギ〉。この後、破壊解放軍がどうなったかなど知る由もないが、第2護衛艦隊が迎えるかもしれなかった最悪の結末を、彼らが迎える事になった。破壊解放軍は虚しい攻防戦を続けた結果、全滅したのだ。しかも、ただ全滅しただけではない。地球にとって最悪の展開を迎えるオマケを、彼ら破壊解放軍は地球に送るのである。
※あとがき
第3惑星人でございます。シルフェニアの記念作品として執筆させていただきました『DOGORA』、如何でしたでしょうか。
タイトル名で分かる方は直ぐに分かったかと思いますが、今回は宇宙戦艦ヤマト2199&2202と、宇宙大怪獣ドゴラのコラボ作品になります。
冒頭で注釈しましたように、有り得ねぇってレベルで新生命体が誕生しました。けど、『二次創作だからいいよね!』ていうふざけたにも程がある割り切り感。
しかも当初のプロット案では、前編・後編の二部構成で締めくくる予定でしたが、何をどう血迷ったのか、五部構成になる勢い‥‥‥。
ちなみに、今回のコラボの理由としまして、これまでのコラボ作品はリリカルなのはと、その他作品という構図ばかりでしたので、ときには違うジャンルも混ぜなければ、思い至ったのが今回の二次創作です。
他にも、何となく思い浮かんだのは―――
『リリカルなのは×大魔神』‥‥‥チートに近い能力を持つ大魔神が、次元犯罪者を容赦なく叩き潰す、みたいな?
『リリカルなのは×ゼイラム』‥‥‥他の作家様(なのは×プレデター)の発想から得たコラボ。ギンガかスバルVSゼイラムな構図。ガチンコ肉弾戦。
『宇宙戦艦ヤマト×ガス人間第一号』‥‥‥もはやヤマトの登場出番すらない。実験台にされた悲運の男が繰り広げる殺人劇。それを止める古代や真田、みたいな?
『宇宙戦艦ヤマト×キングギドラ』‥‥‥宇宙を翔るキングギドラとのコラボ。地球を殲滅しようとするギドラを、地球防衛軍が防ごうと死闘を繰り広げる、感じ?
なんだかコラボさせる作品からして、やけに昭和臭漂いますが・・・。
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