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 地球連邦政府は、第11番惑星における一件に対して危機感を強めていた。どちらかといえば、いつか来るであろうガトランティスと呼ばれる勢力に対する危機感であり、直後に現れた宇宙生命体メデューラに酷似した新生命体に対する危機感は、極めて小さいものであった。連邦議会では、ガトランティスを撃退することを急務とし、宇宙生命体は二の次だとする意見も相次いだもである。彼ら議員らからすれば、宇宙生命体などと言うものは、防衛艦隊の戦力を持ってすれば撃退可能なものだと確信しており、微塵も心配するそぶりを見せなかったのだ。
 しかし、この危機管理に対して警鈴を鳴らす者も、当然の如く存在した。それは、70代を迎えたであろう高齢の男性博士だった。丸い眼鏡にほっそりとした体躯は、まさに老教授を感じさせるものだ。その高齢の男性―――宇宙生物学博士 宗方伸朗は言った。

「あの生物は、大マゼラン銀河外園に巣食う、宇宙生命体メデューラだが、明らかに素質が異なっておる。ガトランティスの来襲に対する事も一大事であるが、この亜種とも呼べる生物に対する対応も、同時に進めるべきと提案する」

 この提案に、大半は耳を傾けようとはしなかった。彼らの反応も尤もであり、たかだか宇宙生命体1体に恐れをなす気持ちなど存在しえなかったのだ。

「宗方博士のご意見も大事でしょうが、今、最大に危惧すべきはガトランティスです。ガミラス以上の軍事力を持つ可能性がある奴らを、どうにか撃退することを考える事の方が、よほど重大であります。したがって、博士の提案は受け入れる事は難しいですな」

 そう答えたのは、防衛軍統括司令副長 芹沢虎鉄宙将である。カイゼル髭の威圧的な顔つきが相まって、如何にも野心的な印象を拭えない、軍のナンバー2である。波動砲艦隊を強く推し進めた張本人であり、それだけ波動砲艦隊に絶対の自信を持っていた。たかだか一宇宙生命体に後れを取る筈もないだろう、と確信している。波動砲を持ってすれば、瞬く間に宇宙の塵に変えてしまう筈だ。何を恐れる必要があるのか。
 恐れるべきは、宇宙生命体などではなく、ガトランティスである。無論、これも自慢の波動砲艦隊で薙ぎ払えるものと、勝利を確信していた。地球は、かのガミラス戦闘で人口を多く減らしてしまい、戦力もまだまだ不十分だが、その性能はガミラス艦を上回る。そのガトランティス艦も、ガミラス艦と対等に近い性能であるという報告から、必然的に、地球防衛艦隊が性能的にも上を行く筈だった。事実、先の第11番惑星の一戦でも、前衛部隊なるガトランティス艦隊に対して、対等以上に戦えたことからも、実績は証明されたのである。
 だが、それで納得する宗方博士ではなかった。

「何故です。連合艦隊から得たデータでは、あの生命体は尋常ならざる生命力、そして成長力を有している。ビーム兵器をものともせず襲い掛かり、戦艦の装甲を熔かす程の超高熱を発すだけでなく、戦艦を振り回す怪力‥‥‥正直、これ以上にまだ秘めたるものがある」
「博士、そうは仰るが、その生命体が脅威だとして、地球に来ることなど有り得ますかな」
「そうだ。生命体にGPSも付いているのなら、話は別だろうがね」

 芹沢に同調するように、宗方博士の意見を取り合おうともしない議員達。事の重大さを分かっていないのは、お前達だ―――眼鏡を掛け直しながら呆れてしまう。この宇宙生命体が、人知を超える存在だと知った時、取り返しのつかないことになる。だが、その一方でデータ不足である事も事実だった。記録映像から判断されただけで、その正体は不明である。
 片や議員達は、ガトランティスに対する意見が多数飛び交った。やはり、脅威と言うインパクトにおいては、ガトランティスが圧倒的だったのだ。結局、議会はガトランティスを優先するべきものとして決議され、早急に防衛艦隊の迎撃態勢を整えることとした。
 しかし、この一件を耳にした防衛軍統括司令長官 藤堂平九郎は、宗方の忠告を素通りさせるつもりは無かった。この様な生物が徘徊するとなれば、地球にとっても十分に脅威たり得ると理解を示したのだ。
 議会では、ガトランティスを最優先にすべきものとしており、太陽系内の警戒態勢を強めると同時に、外宇宙にも目を光らせる方針だった。地球沖に艦隊を集結させ、各宙域に配置しているパトロール艦隊らが、ガトランティスを察知次第、全力で迎撃に向かうというものである。妥当と言えば妥当なもので、防衛軍中央司令部もこれを基に作戦案を煮詰めていく次第である。あの最新鋭艦アンドロメダ級を始め、ドレッドノート級らを合した連合艦隊があれば勝てる。
 さらに、ガトランティスが開発した転送システム搭載型砲撃艦こと、メダルーサ級の対処も万全を期した。これは、2基の転送投擲機(瞬間物質移送機)を利用し、火焔直撃砲から放たれた高エネルギーを超遠距離に転送して、標的を遥か彼方で撃破する代物だ。これを回避する方法として、〈ヤマト〉が考案した重力振測定による緊急回避術と、ガミラスの開発した防御兵器『ガミラス臣民の壁』がある。文字通り巨大な壁で、火焔直撃砲を凌ぐことが可能な強固な硬さ、そして転送システムを狂わす空間歪曲波によって、長距離砲撃を無効化するものだ。
 議会で決まったことは致し方ないが、宗方の意見も軽視しえない藤堂司令長官は、密かに宗方と面会を果たした。彼の研究施設に足を運んだ藤堂は、ひとまず応接室に案内されると、そこで数分の後に目的の人物と面会を叶えたのである。
 
「議会の結果は、博士も御承知の通りです」
「‥‥‥危機を乗り切ったにも関わらず、軍事力に心酔すると、ああも危機管理を薄くしてしまうものですかな‥‥‥藤堂長官」
「ガミラスとの戦訓は、実に極端なものです。強大な軍事力には、それ以上の軍事力を‥‥‥目には目を、歯には歯を」
「理解は出来るが、いささか慢心が過ぎるというものだよ」
「仰る通りです」
「‥‥‥で、ただ面会に来た訳ではあるまい?」

 憮然とした態度をとる宗方の心情に、藤堂は同情していた。

「はい。博士の危惧する宇宙生命体について、詳しくお聞かせ願いたいのです」
「ふむ、よかろう。わしも、あの若造どもと同列に位置するつもりは、ないからの」

 若造と呼ばれた議員達も年齢的には40代〜50代が多いものだが、宗方からすれば年下は若造なのであろう。彼は助手に指示して資料を持ってこさせた。最初に藤堂に指示したのは、2枚の写真であった。そこには、メデューラのものと、それに類似したものと、2種類が載っている。

「これは、ガミラスから得たメデューラの記録写真だ。もう1つが、ガミラスの船〈ハーゲル〉の救助作業時に撮られた記録写真だ」

 藤堂は2枚の写真を覗き込んだ。見た目からして、どちらも同じように思えるが、注意して見れば違いは一目瞭然だった。

「身体の表面が異なりますが‥‥‥」
「うむ。同種ではなく、新種か、変異種だと考えておる」
「11番惑星で発見されたのも、同一体と考えられますか?」
「何とも言えんよ。如何に生物とはいえ、0.1光年をこの短期間で渡ってくるとは考えにくい。もしかすれば、それが可能かもしれんがの」

 メデューラ擬きが、〈ハーゲル〉艦内と第11番惑星で発見されたものと同一だとすれば、確かに不可解ではあった。宇宙生命体が単独ワープをしたと言うのなら話は別なのだが、如何に宗方とはいえ、それを信じることはできなかった。妥当な線として考えられるのは、何かに引っ張ってもらって来たという可能性だ。つまり、宇宙船のワープ航法に便乗してきたということなのだが、それはそれで驚愕すべき事実である。何せ、かのメデューラはワープ時の亜空間航行に耐え兼ねて、亜空間内で取り残されてしまったのだ。それを耐えて来たというのなら、予想以上に強靭な肉体を有することとなろう。
 彼の見解は、あくまでも推測域を出たものではなかった。しかし、その推測が的を得ていたとは、この時点で知りようもない。
 ふと、2人の面会中に新たな来客があったことを、助手から伝えられた。

「ふむ。通してくれ」
「お邪魔でしたか」
「気にせんでいい。寧ろ、わしの意見を聞き入れてくれる長官には、会って聞いてもらわねばなるまい」

 どういうことか、と心の中で首を傾げた藤堂だったが、やがて応接室に入って来た2人の男女を見て合点がいった。

「真田君と新見君か」
「長官、ここでお会いするとは思いませんでした」

 真田と新見だった。2人は、新生物についての研究を行っており、そのデータを宗方にもバックアップしていたのだ。

「さて、真田君、新見君。本題だが、今回の生命体の解析はどう出たかね」
「はい。あの生命体について、驚くべき結果が出ました」

 真田は、新見に持たせていた資料を受け取り、それを宗方に差し出す。それを手に取って、目を通し始める宗方は、次第に眉の角度を大きく跳ね上げていく。見るからに驚愕の色に染まっている様子が、藤堂にも見てわかった。余程に驚くべきものなのだろうか。

「こんな事が?」
「はい‥‥‥ですが、まだ完全な証拠が集まっていないので、確証は出来ませんが‥‥‥」
「どういうことですか、宗方博士」

 気になった藤堂が聞き出す。

「あの生命体は、メデューラとミルベリアルスの突然変異だという事だ」
「‥‥‥つまり?」

 よく呑み込めていない藤堂は、再び宗方に聞き返した。それに対して補足してくれたのは新見だった。

「あの生命体は、メデューラとミルベリアルスが融合して誕生した、新種だということです」
「融合!?」

 よもや生物実験でもやっていたのか。だが、予定では、2種類は別々に手渡される予定だった。それが、どういった経緯で融合などしてしまったのか。
 そこで、真田は例の結晶石を入れたケースを取り出し、同時に細胞組織を撮影した数枚の写真も添える。それぞれ、メデューラの細胞、ミルベリアルスの細胞が映っているという。細胞レベルで解析を進めていった結果、この結晶石は2体の生命体が融合したことが判明したというのだ。
 だが、それはそれで、疑問も生じる。何故、結晶石に、その様な事実が判明したのか。まるで宇宙のクラゲの如く生きるメデューラと、ガス状生命体のミルベリアルスが、同時に採取された理由は何か。

「実は、この結晶石には、別の細胞も含まれていました」
「何かね、真田君」
「‥‥‥宇宙ホタルだよ、藤堂長官」

 今度は、資料を眺めやっていた宗方がボソリと呟く。それは藤堂にとって初めて聞く言葉だった。宇宙にホタルが存在するとは驚きであるが、それがまた、どうして結晶石の中から検出されたのか。ますますもって謎が深まる一方であったのだが、真田や宗方などには、何処となく経緯が見えていた。

「あの〈ハーゲル〉には、ミルベリアルス、メデューラの他に、宇宙ホタルも運ばれていた。それが、何かの拍子にミルベリアルスとメデューラが融合‥‥‥或は捕食しあった結果かは分らんが、兎に角も突然変異した。機材の中には、ガミラス式の紫外線装置やらが詰め込まれておったから、よもや、それを浴びて急激な変化でも起きたんだろう」
「そんな偶然が?」
「偶然といって馬鹿にも出来んな。現に、11番惑星で発見されたのは、ミルベリアルスとメデューラの融合体だ」

 そうすれば、この異常な生命力なども合点がいく。金属を融解させる能力や体の表面は、間違いなくミルベリアルスの遺伝的なものだろう。一方の外観やエネルギーを吸収する能力は、間違いなくメデューラの遺伝である。2つが合わさって誕生したと言われると、藤堂も何となくではあるが納得できる。

「その後、今度は宇宙ホタルが接触した結果、この様な結晶に変貌したのだろうな。まして、〈ハーゲル〉艦内には、誰一人としていなかった代わりに、この宇宙ホタルが浮遊していたと聞く。変異種は、この宇宙ホタルと接触した結果、体質が変化して結晶化したのであろう‥‥‥推測ではあるが、それ以外に説明は着きそうもなかろう」

 ここで、藤堂はふと気づいた。結晶化したこの物体は、新生命体の攻略の鍵ではなかろうか。宗方や真田にも尋ねると、2人も藤堂の意見に賛同的な反応を示した。エネルギーを吸い取り、物質を融解することでもエネルギーを確保する新生命体を、確実に仕留める方法となり得る筈だ。

「藤堂長官の言う通り、この宇宙ホタルの細胞を調べ、特効薬として増産すべきだろう」
「ですが、まだ解析は完了したわけではないので、生命体の対抗手段として使うには時間が必要です」
「‥‥‥分かりました。ガトランティスに対抗しつつ、生命体の対抗手段の完成を推し進めましょう」

 思いの他、解決策は早く見つかった。ただ問題は、それを対生物兵器用として完成させる為に、細かい分析と、それの増産、武器としての加工が必要となる。まして、ガトランティスに対抗すべく、軍需産業もフル稼働を決定したばかりだ。多くの戦闘艦を揃えるべく、フルオートメーション化された軍工廠や下請け民間造船所が、一丸となって戦力強化に勤しみ始めている。
 此処に対生命体用の兵器を入れ込む為、弾頭やミサイル・魚雷を製造する工場のラインに組み込まねばならない。

「これに関しては、私から協力を求めて何とかする。博士と真田君たちは、あの生命体に対抗できるよう、解析を急いでほしい」
「無論だよ‥‥‥ところで」

 ふと宗方博士が切り出した。

「この生命体だが、一応の名前を付けておこうかと、考えたのだがね」
「どの様に?」

 名前はどうでも良い、とは藤堂も言わなかった。何だかんだで、名前はあった方が対処し易い上に覚えやすいものだ。

「かのSF作品の創造物で恐縮だが‥‥‥ドゴラと付けようと思うのだが」
「それは確か‥‥‥20世紀半ばに制作された、宇宙生物を題材にしたSF作品ですね。私も興味本位で見たことがありますが、的を得た命名かと」
「よもや、現実に出てくるとは思わんでしょうな。“事実は小説より奇なり”とはよく言ったものだ」

 若干、少年時代に戻った気がする藤堂と宗方だったが、直ぐに話を戻した。結局、この生命体をドゴラを称することとなり、正式名称として登録されたのである。
 対ガトランティス戦に向けて、全面戦争の構えを取った地球連邦だが、早くもドゴラと言う存在に対して危機感を募らせる事態が発生した。それは第11番惑星周辺に投下された監視衛星から送信された映像で、予想を遥かに上回る光景に言葉を失ったのである。

「星を喰っている‥‥‥!」

 ドゴラは、人工太陽を食い尽くすと、今度は第11番惑星に手を伸ばしていた。最初に手を付けたのは鉱山だったが、その摂取の仕方が余りにもインパクトが強すぎた。鉱山の鉱石やら岩石やらが、まるで巨大な掃除機に吸い込まれるようにして空中へ浮かび、そのままドゴラの体内へと吸い込まれていったのだ。それも尋常ではない量を吸い込み続けており、1時間もしない内に1区画分の鉱山の鉱石を食い尽くしてしまったのである。そうすると、移動しながら別の鉱山の鉱石やらを吸い込み始めた。飽くなき欲望を体現するかの如く、ドゴラは辺り一帯の鉱山と言う鉱山を喰らい尽くしていく。しまいには壊滅した都市部にも及び、車両の残骸やら崩壊した建物やらを触手で巻き上げ、或は吸い上げ、体内に取り込んでいった。
 純粋のメデューラでは有り得ない光景であるが、ミルベリアルスの特性なら十分考えうる光景だった。生体活動のエネルギーとして、見境ない食欲を見せつけるドゴラに大使、甘く見ていた議員らも警戒感を露わにせざるを得なかったである。

「なんてことだ。これでは、太陽系は、あの化け物とガトランティスに蹂躙されてしまうではないか」

 狼狽する議員に対し、今さらそんなことを言うのか。宗方は冷ややかな目線を投げつけた。芹沢も、己の認識力の不足を自覚せざるを得なかったものの、直ぐに態度を変えず、今まで通りに強気の姿勢を崩さなかった。
 ドゴラは、あらゆるものを摂取する度に巨大化していく。成長スピードも恐るべきもので、今や身体部分で400m、触手部分含め800mに達した。身体だけでアンドロメダ級に匹敵し、全長ではゼルグート級を凌ぐほどの巨体に成長している。このままでは、どこまで成長するのか想像がつかなかった。ミルベリアルスが無限に増殖し続けていったことを考えれば、ドゴラは惑星規模にまで成長する可能性が否定できない。それこそ、地球など丸のみにされてしまうのではないか。

(そうなってからでは遅い)

 宗方は、改めてドゴラに対する対応も練るべきと再三に渡って主張し、藤堂も援護射撃をすることで、議会の思考を方向転換させたのである。ガミラスにも協力要請が出されることとなり、連合となってガトランティスとドゴラに対峙しなければならなかった。
 そのガトランティスはどうしているかと言えば、以前として第11番惑星から離れた宙域に遊弋し、ドゴラを観察していた。余計な手出しをすることは自殺行為だと自覚しており、これを機にドゴラをじっくりと観察して置くことにしたのだ。とはいえ、いつまでも観察を続ける訳にもいかない。ドゴラと言う予定外の存在がいたが、それを利用して地球攻略を迅速に進めようとしていたが、そろそろ動き出さねばならないだろう。
 第8機動艦隊旗艦〈メーザー〉艦橋で、そろそろ頃合いだと判断したメーザーは、予定通りの指示を発した。

「誘導部隊に通達。宇宙生命体を誘導せよ」

 万単位で構成される第8機動艦隊から、ラスコー級3隻とククルカン級6隻の小艦隊が隊列より分離し、ドゴラへと接近を始めた。

「ぬかるなよ。誘導作戦、開始」
「誘導作戦開始」

 9隻の小部隊は、第11番惑星の大気圏内で浮遊するドゴラに向かって、ビームと量子魚雷による攻撃を敢行する。すると、ドゴラは新たな獲物がやって来たと勘違いし、小部隊に向かって動き始めた。その移動速度は、愛も変わらず侮れないものだった。驚くべき瞬発力で大気圏内から離脱を始めるドゴラ。それを予期していた誘導部隊も、直ぐに反転して移動を開始した。足の速い快速艦艇とはいえ、気を抜けばドゴラの餌食となってしまうだけに、誘導は慎重を要するものだった。もっとも、喰われてしまったら別の部隊を出せばいいだけなのだが、それでは流れが悪くなってしまう。
 誘導部隊に釣られたドゴラは、誘導されるままに太陽系へ針路を取らされる。そして、ここでもう1つの段階に入った。重砲部隊として編入されていたメダルーザ級1隻が、最大加速しつつドゴラの後方に着いたのだ。無論、ドゴラに襲われぬように距離を取りつつ、誘導部隊が気を引く為にワザと攻撃する。何故、メダルーザ級が後方に着いたのか、理由は直ぐ明らかになった。

「転送座標、予定宙域へ」
「1番艦から通信。転送投擲機準備よろし」
「誘導部隊、跳躍準備よろし」

 メーザーは、メダルーザ級の転送システムを利用して、ドゴラを短距離ワープさせようというのであった。ドゴラの脚は早いがワープは出来ない。そこで、メダルーザ級の転送システムを利用することで、少しでも距離を縮めようというのである。地球軍とガミラス軍に時間を与えないようにする為の、大胆な作戦だった。尤も、転送投擲機の転送波は直近のみに放出されていた事から、大幅に転送波の波長を変える必要性があった。そうでもしないと、ドゴラに絡め取られてしまうのはメダルーザ級側になってしまうからである。

「誘導部隊、跳躍!」
「‥‥‥転送せよ」
「照射!」

 途端、メダルーザ級1番艦の二又型艦首の先端から、転送波が通常の何倍もの距離に向けて照射されると、やがてドゴラも宇宙空間から消えた。その直前に誘導部隊がワープを行っており、先回りする形でワープアウト座標に向かっていた。当然、今度はメダルーザ級がワープを行い、誘導部隊とドゴラにやや遅れる形で追い掛けていったのである。
 見届けたメーザーは、直ぐに指揮下の第8機動艦隊にもワープを命じる。

「我が艦隊も跳躍!」

メーザーの命令を受けた第8機動艦隊約1万5000隻も、一斉にその場を後にした。
 当然、この異変に気付いた地球防衛軍は、短距離ながらもワープを行うドゴラに驚愕した。生物にワープが可能な訳がない―――多少の侮りがあったことは否定できないにしろ、それを後押しするガトランティス軍の姿を捉えると、怒りが沸き上がった。奴らは、ドゴラを利用して地球を壊滅させる腹なのだろう。なんとせこい真似をするのだろうか、と罵倒する議員や防衛軍将兵達だったが、事態は急を要している。
 通常、ワープ航行しない通常空間航行では、最短に見積っても約25日前後を要するものであった。つまり、地球防衛軍としても、最低でも25日余りの準備期間があった筈なのだ。それが、この調子では半分以下の日数になってしまう。

「ドゴラ、冥王星軌道上に出現!」
「並びにガトランティス艦隊、多数ワープアウトを観測!」
「ぬぅ、1万隻以上も戦力を持ちながら、宇宙生命体をけしかけるとは」

 指令室の大型スクリーンに投影される太陽系の略図に、ドゴラを示すマーカーと、ガトランティスを示すマーカーが出現する。その様子を見た芹沢は、こめかみをピクリ、と振るわせながら悪態を付いた。予想を超えるガトランティス軍の戦力数も驚くべきものだが、それでありながらドゴラを利用する手段に、苛立ちを覚えずにはいられなかった。
 幸いにして、主力艦隊は地球沖に集結を完了しており、守備艦隊やパトロール艦隊も急ぎ合流しつつあった。代わりに、多数の監視衛星を配置し、ガトランティス軍とドゴラの動きを監視していた。

「このままでは、3日程で地球圏に来てしまう」

 どうすべきかと頭を悩ませている所に、土方宙将が意見を述べる。

「ドゴラは、ガトランティスの手により、誘導されつつ、例の転送システムでワープを繰り返している。ならば、まずは誘導している艦隊を叩くべきでしょう」
「だが、まかり間違えば、友軍こそドゴラの餌食にされてしまうぞ」

 芹沢は反発した。土方の言うことは尤もなのだが、誘導部隊を撃破したとして、今度は防衛軍の艦隊が狙われる可能性が非常に高い。まして、転送システムを持つメダルーザ級が後方に控えている以上、下手に奇襲は出来ない。そう主張するのだが、土方は己の考える作戦案を提示する。

「直接攻撃に出なくとも、敵の進撃ルート先に、機雷、並びに空間魚雷を敷設すれば良い」
「空間機雷か‥‥‥」

 確かに、ドゴラとガトランティスの進撃ルートは決まっている。一直線に地球へ向かってきているのだ。加えて、概ねのワープ間隔も掴めている。敵の誘導部隊がワープアウトする座標の前方に、多量の機雷並びに魚雷を敷設する事で、ワープアウト時の敵艦を破壊するのである。これならば、地球防衛軍に被害は生じない。これで誘導する艦を潰せれば、ドゴラは道標を失って動きを止めるか、或は機雷や魚雷に食いつく。メダルーザ級も、単艦では転送させる事もままならない筈である。
 だが、それで解決はしない。一時的な時間稼ぎに過ぎないのだ。ならば、こちの艦船を数隻囮にしてドゴラを太陽系外へ連れ出すべきだろう。土方は、穏便な方法でドゴラの危険を排除すべきとして提案する。

「いや、それでは、いつ太陽系へ来るか知れたものではない。逆に、敵に送り返してやればよいのだ」

 芹沢の言う事も間違ってはいなかった。ドゴラがガトランティス軍に誘導されてきたのなら、逆にこちらが誘導してガトランティス軍に食らい付かせてやればよい。相手は1万隻以上の大艦隊である。餌には事欠かない筈だ。まして、攻撃を受ければ受ける程に成長するであろうドゴラである。
 だが、問題もあった。転送システム搭載型が、別にいた場合である。そうなると、寸前のところで送り返される可能性も高いのだが、それは、ガミラスの“壁”が遮ってくれる。これでワープ座標を狂わすだけでなく、敵方のワープも不可能にするのだ。そうなれば、ドゴラはガトランティス軍へまっしぐらに突き進む。そして、無論これで終れる筈もない。ガトランティス軍がドゴラを相手にするのに合わせ、地球主力艦隊が拡散波動砲の一撃を加えてやるのである。

「ドゴラ諸共、ガトランティスを粉砕してやればよい」
「しかし、あの生命体は謎が多い。波動砲が効くとは限るまい」
「馬鹿を言うな、土方提督。如何に大喰らいの生命体とて、波動砲程の威力に耐えられる訳があるまい。主砲の比ではないのだ」

 自信を持って撃滅可能だと言い張る芹沢に、土方も姿勢を崩そうとはしなかった。

「現在、科学局を中心にして、ドゴラの対抗兵器を開発中だ。ドゴラへの対策は、それからでも良い。確実に倒す為には、下手に刺激すべきではなかろう」
「そうやってチャンスを逃す訳にはいくまい。数百隻と言う艦隊から放たれる波動砲だぞ」

 このままでは平行線だ。藤堂長官は穏便に済ます為、2人の仲裁に出た。

「芹沢君。ドゴラの生態は、ミルベリアルスの特性を有している。波動エネルギーが有効打となり得るとは不明だ。寧ろ成長を促進させる可能性もある。ここは、土方提督の言う通り、外宇宙へ逃すべきだと私は思う。無論、ドゴラの動きを監視する為に、無人艦で追尾しておく必要はある」
「‥‥‥了解しました。長官が仰るのなら、それでよろしいでしょう」

 渋々と言う呈で芹沢は引き下がる。何せ、藤堂は統括司令長官という立場にあり、芹沢は司令副長ことナンバー2なのだ。どう言っても、自身の上に立つ人間の意見を無視する訳にはいかない。反発を続ければ解任される恐れさえある故、自身の地位を護る為にも引き下がったのであった。

「土方君。時間が無いが、急ぎ迎撃案を練ってくれ。その他、運用は艦隊総司令である土方君に任せよう」
「ありがとうございます。早速、取り掛かりましょう」

 そう言うと、土方は踵を返して司令室を退室していった。その後姿を不機嫌そうに睨めつける芹沢の視線に、土方も気付いていたものの振り返ることはなかった。これ以上は不毛な争い以外の何物でもないのである。
 兎に角も、ガトランティス軍を迎撃する為の作戦を短時間で練らねばならないのだ。しかも、ち密な作戦計画は、この際は不要である。先の第11番惑星の時と同様、余計な混乱を招く恐れがあるものは選ばず、シンプルにしていくべきだ。それも、今回の戦いではガミラス軍も動くとの情報を得ていた。と言うよりも通達が来たのだ。安保条約に則り、ガミラス駐留軍は全兵力240余隻を動員して、ガトランティス軍に対峙すると。こちらとしても有り難い話であった。
 こうなると、地球防衛軍は主力艦隊約160隻を中心核として、各守備艦隊・護衛艦隊、更には新設されたばかりの実験無人艦隊等を掻き集めて約430隻を動員する。無論、その中には出来たばかりの新造艦も早々と編入されていた。
 それは、無論のこと有人艦もだが、中には試作型として建造された無人型戦闘艦も含まれていた。これは、戦争で失われる人材をカバーする為に提唱された、艦隊自動化計画の一端である。人間は育成する時間がかかるが、機械は完成さえすれば実戦に投入可能であることから、上層部が早々に開発を進めていたのだ。元々のベースは〈ヤマト〉にも搭載された自律式サブコンピューター〈AU−09〉ことアナライザーである。
 このノウハウを戦艦の運用に特化しているのだ。結果として、無人運用を想定された無人艦艇群の艦橋には、指揮AI型のブラックアナライザーが配置されていた。ただし、完全なるAI運用は程遠いものであり、どのみち、人間の指揮が必要なのだ。

(無人艦も善し悪しだな。人間の戦死者が0になるという点では喜ばしいが‥‥‥)

 完全に機械任せにした時、人間はどうなるのか。今後の地球は機械に支配されてしまうのではないか、と妄想とも思えぬ微妙な現実感を感じた。

(それも、俺達人間が試されるものかもしれん)

 哲学的思考はさておき、土方は艦隊司令部に寄らず、そのまま軍工廠へと直行した。軍の管轄するドックがあるのだ。地上で作戦会議を開くよりも直接宇宙に上がってから作戦を練る方がいい。地球に到達するまでに3日間あるとはいえ、出来る限り遠い位置で迎撃したいものだ。作戦会議で1日どろこか半日も時間をかけることはできない心境で、これは土方の作戦立案と運用の手腕が問われる。彼は脳内をフル稼働させて作戦の叩き台を作り出し、それを移動中に練り上げていった。



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 彼が向かった軍工廠のドックには、新造されたばかりの艦船群の姿があった。これは、将来の無人艦隊計画の前進として、実験的に建造されたもので、贅沢にも1個主力艦隊分の戦力を有している。無人仕様の試作艦の意味合いを持つブラウン色に包まれた、ドレッドノート級(戦艦であるA型/空母であるB型を含む)、ザラ級、フブキ級、プラント級ら無人仕様が並んでいるのだ。
 そして、土方が乗る新しい戦艦も、そこに鎮座している。ランドカーで到着し、降車した土方は、その新造艦を険しい目で見つめた。建造されていたのは知っていたが、自分が乗ることになろうとはあまり考えていなかったのだ。
 隣に付いて歩く30代前半程の副官 翁川樹三等宙佐が呟く。

「本来は〈アンドロメダ〉に将旗を掲げられるべきなのですが‥‥‥」
「構わん。あれは山南に任せてある。俺が行けば指揮しにくかろう」

 土方の後輩である山南宙将補は、旗艦〈アンドロメダ〉艦長と第1艦隊司令官を兼任している。本来は、艦隊司令長官である自分が最前線に出る予定は無かった為、自分の乗る専用艦は存在しなかった。だが、この一大決戦ともなれば、総指揮官である自身が出なくてはならない。なにせ地球の命運が掛かっているのだから。だが、前線に出るのは良いとして、山南の〈アンドロメダ〉に将旗を掲げては、山南自身が自身の第1艦隊を指揮しにくくなる。邪魔せぬよう、土方は別の艦を急遽として引っ張り出したのであった。
 それが、目の前にある試作型戦闘艦―――Z級前衛武装宇宙艦〈ゼウス〉である。次世代の戦闘艦を完成させるうえで建造されたもので、その外観は、ほぼアンドロメダ級そのものであった。
 だが艦体塗装は全く異なっている。かの〈ヤマト〉を意識した軍艦色(グレー調)とレッドのツートンカラーで塗り分けられているのだ。
 また、艦内において尤も異なるのは、運用の為に必要とする人間が、1人または2人しかいないことである。つまり〈ゼウス〉は、艦橋以外ほぼ無人化されており、必要とされるのは頭脳の部分となる人間だった。現状、アンドロメダ級でさえ艦橋要員4名(総乗組員は200名)という省力化を成し得たのだが、Z級はその上を更に行ったものだ。
 この艦が2名または1名運用を前提としている理由は、先述した通りだ。ブラックアナライザーらによる指揮AIが未熟故、この心の無い機械兵達を確実に統率する人間が必要であるが故に、〈ゼウス〉は半自律式という形式が取られている。後は戦闘で経験を多く積み続け、それをフィードバックするという工程を繰り返す。さすれば、やがては艦隊が完全自動化と言う可能性も見いだせるだろう‥‥‥地球連邦の判断であるが。
 武装は、主砲関連はアンドロメダ級と変わらないが、波動砲は大きく異なる。波動砲口内部には、ドレッドノート級が装備するスプリッターが横向きに設置されていた。この為、真正面から見ると、波動砲口に横一文字が刻まれているようにも思える。これは、波動砲口が1門しかないドレッドノート級が、苦肉の策として2門分の波動砲を撃てるようにしたシステムであり、これがあるからこそ、ドレッドノート級は拡散波動砲を撃てるのである。そのスプリッターの増設、並びに波動砲発射機構である薬室を、左右に2基づつ設置した結果として、〈ゼウス〉はアンドロメダ級2隻分の拡散波動砲を発射できるようになったのであった。無論、これはスペック上もとい理論上の話で、実戦では未知数だ。大幅な自動化によって成し得た改良設計とはいえ、そこまで可能かどうかも、実戦で確かめなければならない。
 この他、舷側に装備されていた短魚雷発射管等は撤去されており、代わりに〈ヤマト〉並みの対空パルスレーザー砲塔が、64基128門も増設されていた。

「少なくても1名のみで運用可能な戦艦か。まるで戦闘機だな」
「旗艦でなければ、艦長1人でも十分との話ですが‥‥‥本当に、将来はこんな艦が配備されるのでしょうか」
「人材は簡単に増やせまい。故に、自律化や自動化を推し進める。後は、上層部の判断次第だろう」

 翁川二佐も、将来に不安を持っていたのだ。

「いずれは、そうなるかもしれません。土方提督」

 ふと、土方と翁川に声をかけたのは、20代後半程の若い女性士官だった。薄紫に近い暗紅色のセミロングをシニヨンに纏めており、瞳の色もそれに近い。制服は、シルバーを基色とした艦長服に白のスカーフ、軍帽を被っている。その艦長服の下は、活動しやすいように、グレーを基色として白い縦ラインが側面に入った、ヤマト女性クルーと同一のスーツ式制服を着ていた。まず美女と言って差し支えない女性士官だった。

「‥‥‥早紀」
「〈ゼウス〉艦長、藤堂早紀三佐です。提督の着任をお待ちしておりました」

 彼女が〈ゼウス〉艦長 藤堂早紀三等宙佐である。統括司令長官藤堂の1人娘であり、若いながらも実力でのし上がった逸材でもあった。なお、少し前までは、美貌に似合わぬ冷徹な姿勢から“鉄の女”“氷の女”なる異名があり、それもこれも、ガミラス戦役の最中に母を失った事が絡んでいた。
 早紀の母親は、とても優しかったが、突如として始まったガミラス戦争の最中、いつ死ぬか分からない恐怖に耐え兼ねて、娘を残し自殺してしまったのだ。早紀は、自分は母親から見捨てられたというショックから、心の弱い人間は負けても仕方ないという極端な弱肉強食に近い思考を持ってしまった。しかも、弱い心を捨てる為、機械に全てを委ねるべきという極端な合理主義者に傾いたのだ。
 だが、それを危惧したのが、目の前にいる土方だ。藤堂とは何かと付き合いも深い。その事から、早紀の事も良く知っていた。辛さも知っていた。決して他人事ではないと、土方は藤堂長官に代わって早紀を説得したのである。勿論、藤堂も父親として説得したが、妻を救えなかった負い目もあって、娘を導いてやれなかった。土方は、それも察して説得に当たったが、早紀も最初は土方の説得に耳を傾けなかった。

「土方さんに、私の何が分かるというのですか!」

 ―――と、かつて心優しかった彼女とは、思えぬ口ぶりだった。怒りと哀しみが混ぜこぜになった早紀の表情は、今でも忘れられない。
 しかし、それでも辛抱強く説いた。機械的思考になって、何が救えるのか。全てを合理的に考え、情を切り捨ててしまう人間が、果たして人間と言えるか。人間は人間であって、機械ではない。逆に機械は機械であって、人間の真似事は出来ても人間にはなれない。そして、人間は弱い。失敗を、或は間違いを犯すのは当然だ。それが人間として当たり前であり、そこから恥を知り、成長することが出来る。喜び、哀しみ、あらゆる感情を感じ取ることが出来るのも、全て人間の特権なのだ。

「君は、母親から生まれた立派な人間だ。機械じゃない。弱いなら、そこから強くなればいい。人間として強くなって、命を護れる立派な人間になるんだ」
「‥‥‥土方、さん」

 土方も長年、死線を潜り抜けてきた猛者だ。それだけに、彼の言葉は重いものがある。早紀は反発したものの、なんだかんだ言っても母が願っていたように、心優しい女性だったのだ。同時に、効率重視で捨てられる人間の立場を考えもしなかっただけに、振り返ってみてからは考えが少しづつ変わっていった。時間こそかかったが、次第に、早紀は土方の説得に心を溶かし、父親である藤堂の気持ちや、亡くなった母の気持ちを理解していったのである。
 そして現在、彼女は試作艦〈ゼウス〉の艦長として、土方と共に戦場へ赴くことになった。

「俺は艦隊の指揮を執る。艦の指揮は、早紀に任せる」
「了解」

 そして、早紀の隣にもう1人の女性士官が歩み出て、土方と翁川に敬礼する。30代程で、やや釣り目がちな視線と、ベリーショートの茶髪というボーイッシュな出で立ちだ。制服はスーツ型で黒地に黄色のラインだった。

「副長の神崎恵一等宙尉です」

 〈ゼウス〉副長 神崎恵一等宙尉。早紀の先輩でもあり、同時に姉の様な存在でもある、家族ぐるみとしての付き合いも深い女性だ。心優しく面倒見も良いが、軍人としての側面はとても厳しく、早紀にも例外無く軍人としての知識を叩き込んだ1人である。土方も、早紀に軍事教育を叩き込んだ1人でもあったが。

「よろしく頼む。言ったように、俺は艦隊指揮に専念する。神崎一尉は、艦長のサポートに全力を尽くしてくれ」
「了解」
「では、早速艦橋へご案内します」
 
 そう言って歩み出す早紀を先頭に、土方と翁川も遅れまいと後に続いて足を踏み入れた。
 〈ゼウス〉艦橋へと上がった2人は、艦橋内部を見た時、さしてアンドロメダ級と変わらない構造だと改めて知った。艦長兼司令席と副長席以外にも、戦術長兼航海長と通信長の座る座席と機材が揃えられているのだ。一応の実験艦と言う事もあり、人間が直接操作する様子をデータ化して保存する意味合いがある。また、裏を返すと、AIが損傷した際に人間の手で操艦できるようにしているのだ。

「直ぐに発進態勢に入る。総員、配置に付け」
「「「了解!」」」

 土方は艦長兼司令席、早紀は副長席、神崎は戦術長兼航海長席、翁川は通信長席、という配置で座席に着いた。早紀は〈ゼウス〉の指揮権を持つ為、自身の認証コードをコンソールに打ち込んだ。するとシステムが本格起動し、機関部などにも自動的にエネルギーが供給される。無人艦の様子も、翁川のコンソール画面に表示される。

「長官、無人艦隊も動力を始動。間もなく発進体制を終えます」
「全艦隊、直ちに出撃する。目標、月面基地上空」

 土方の命令が通信回線に乗り、ドック内に並ぶ無人艦艇32隻も稼働を始める。軍工廠に並ぶ完全無人仕様の戦闘艦群からも、発進態勢完了のメッセージが翁川の元へ流れた。流石、無人艦仕様だけあってチェックは早いが、後は実戦で使い物になるかどうかだろう。

「長官。我が艦隊の発進準備が完了しました」
「‥‥‥全艦、発進!」
「〈ゼウス〉発進!」

 2人の号令を受け、無人艦隊は一斉にドックを飛び立った。ドックから発進する様子を、工廠のスタッフ一同が見守っている中での出陣だった。
 月面近海には、地球防衛軍とガミラス軍の艦隊が集まり、出撃体制を整えていた。以前ではありえない組み合わせだったことは、地球軍とガミラス軍の双方が思う所であり、一方は滅ぼしかけた憎き侵略者、一方は辺境の弱小惑星国家、と思っていたものである。それが今は、同盟国として並んでいるのだが、どちらかと言えばガミラス軍の将兵側に不満はある。

「何故、この辺境の一惑星と対等のパートナーとなっているのか」

 永遠の大帝国を信じていた将兵からすれば、そう思っても仕方ない。だが、それを言い出してしまえば、地球軍将兵もキリがない。

「何故、地球に追い詰められた敵国がデカイ面をしているのか」

 と、返したであろう。争いにならなくて済んだのも、両国が争う気力も余裕も無かったこと、国民感情も反戦気運が強かったこと、などが挙げられた。
 この月面近海に集まった連合艦隊は、地球防衛軍約380隻、ガミラス駐留軍約240隻の計620余隻だった。
 地球防衛軍は、緊急事態を受けて太陽系全内の艦隊に対し、ワープによる緊急集結の号令を発令した。その内の5個守備艦隊約60隻に対しては、土星沖に集結しての機雷の散布作業に取り掛かっていた。完了次第、そのまま土星沖で待機し、主力の連合艦隊が到着するまでの時間稼ぎに移ることとなっていた。もっとも、真面にぶつかり合う愚策は犯さぬよう、司令部から徹底されていた。
 さらには、各工廠で追加建造された新造艦も加わっており、先の戦闘で損失を出した第3艦隊と第4艦隊の補充として編入されている。
 現時点で、月面に集結する艦隊はの戦力内容(無人艦隊含)は、以下のようなものとなる。

地球防衛軍連合艦隊
・アンドロメダ級(A型4隻/B型2隻)×6隻
・ドレッドノート級(A型42隻/B型6隻)×48隻
・ザラ級×62隻
・フブキ級×108隻
・プラント級×83隻
・改金剛型×16隻
・改村雨型×8隻
・改磯風型×48隻

 方やガミラス軍は、以下の戦力編成が集まっていた。

ガミラス駐留軍艦隊
・ゼルグート級×1隻
・改ゲルバデス級×1隻
・ガイペロン級×3隻
・メルトリア級×5隻
・デストリア級×70隻
・ケルカピア級×60隻
・クリピテラ級×100隻

 なお、駐留軍の総旗艦は白銀に独特の紋様を刻まれたゼルグート級である。かのドメル将軍の座乗艦〈ドメラーズV世〉を彷彿させる色合いだが、そこに艦体一面に散りばめられた紋様が、神秘的な印象を与えていた。
 また、この総旗艦の両舷には、主である総旗艦を護る様にして、巨大な正方形型の盾が幾重にも折り重なるようにして浮遊していた。この巨大な壁こそ、対火焔直撃砲兵器として開発された〈ガミラス臣民の壁〉である。火焔直撃砲を防ぎる強固な防御性能と、空間歪曲波による転送波妨害機能、並びにワープ妨害機能を有している。ただし、味方艦隊にも影響を及ぼすことから、注意が必要であった。この巨大な壁の表面には、ガミラス国家のシンボルマークが刻まれており、背面側にはブースターが内蔵されている。故に、盾〈ガミラス臣民の壁〉そのものも移動可能であった。

「これだけの戦闘艦が並ぶのは、さぞ壮観なものだな」

 地球連邦防衛軍第1艦隊司令官/旗艦〈アンドロメダ〉艦長 山南修宙将補は小さく呟いた。50代前半の飄々とした雰囲気を持つ男性士官で、アンドロメダ級の艦長を示す青色の襟元と黒いコート、白いスラックス、そして軍帽という出で立ちをしていた。かつては沖田十三の下で旗艦〈キリシマ〉艦長として戦い抜いた、歴戦の戦艦乗りであった。ガミラス戦争後、艦隊再建に尽力した結果、宙将補へ昇進したのと同時に艦隊司令官と1番艦〈アンドロメダ〉艦長に推薦されたのである。その推薦人に、恩師でもある土方の名前があった。
 山南は、自身が艦隊司令官の職を受けるとは思ってもみなかったが、これも人材払底のあおりを受けた結果であると理解していた。何より、恩師でもある土方からの推薦ともあれば、受けないのでは非礼というものだ。それに、人材が払底している中、好き嫌いなど言える状態ではない。やれる人間がやらねばならないし、土方も、山南であれば艦隊司令官として職務を全うできると信じてくれたのだ。その期待に応えなくてはならない。また、一艦長だった山南が艦隊司令官に抜擢されるように、腕のある歴戦の軍人たちを多く失った地球連邦防衛軍は、やや若い年齢や元艦長職一筋だった人間に艦隊司令官を任せていた。同時に省力化や自動化も著しく推し進められており、一般兵士よりも指揮官クラスの人材育成を重要視しているのだった。
 旗艦〈アンドロメダ〉艦橋で、山南は艦長席から宇宙空間に並ぶ地球とガミラスの連合艦隊―――約620隻の大艦隊を眺めやっていたが、迫りくるガトランティス軍は推定1万4000〜1万5000隻とされる。数で比較すれば全く話にならない戦力比だ。

「こんな時の為の、波動砲艦隊だ」

 山南は独り言ちる。彼の言う通り、こんな時にこそ期待されるのが、地球艦隊の最新兵器として開発された波動砲の改良型である拡散波動砲だった。単一目標ではなく複数目標を撃破する事が可能な、まさに対艦隊戦向きの決戦兵器である。カタログスペック上では、アンドロメダ級1隻で300隻を葬ることが可能で、ドレッドノート級で200隻余りを葬ることが出来る。
 主力艦隊並びに実験艦隊には、計42隻(アンドロメダ級A型/B型6隻とドレッドノート級A型/B型42隻)の戦艦を揃えているのだ。これらが一斉射した場合、約1万200隻を一気に葬れる計算となる。これが成功すれば、ガトランティス軍は半数を失うこととなり、加えて守備艦隊らのドレッドノート級A型7隻や巡洋艦クラスや護衛艦の小口径波動砲も加えれば、凡そ1万2000隻近くを葬る事も可能だった。

「司令、土方総司令直属の無人艦隊、到着しました」
「分かった」

 地球から発進してきた土方直属の無人艦隊が到着したことを、通信索敵士官が報告する。スクリーンにも、駆けつけて来た漆黒とブラウンに染まった無人艦隊が投影される。それを見た山南は、地球側の技術の進展の速さを身に染みて感じた。試作・実験の段階とはいえ、あの無人艦隊には、土方と副官の2名しかいないという。この戦闘を経て得られたデータを基に、さらなる省力化或は無人化に踏み切っていくのだろう。
 山南個人の意見としては、完全無人は危険な部分も多いと危惧している。特に電子戦によってAIを破壊されてしまえばそれまでで、一瞬にして巨大な鉄屑になってしまいかねない。無論、それを承知している上層部のことだ。ファイアウォールも高度なものを使っているだろうが、安心とは言いが無い。それに、AIは人間の行った行動を基にして行動は出来るが、人間の様に発想の力を持ち合わせていないのだ。それがAIの限界であり、どうしても人間が必要となる原因だった。

(‥‥‥まぁ、今は哲学を語る時期でもないし、俺は一介の軍人だ)

 そんな時、総旗艦〈ゼウス〉から通信による緊急会議の通達が発せられる。本来なら総旗艦〈ゼウス〉に移乗して、直接顔を合わせるべきだろうが、そんな余裕さえないのだ。3日程度しか時間が無いとなれば、早急に話を付けて決戦の準備に入らねばならない。
 各艦隊の旗艦との通信網が接続されると、艦橋天井側に設けられている巨大スクリーンパネルに、幾つもの艦隊司令官の顔が並べて移された。山南の知る顔も多いが、当然のことながらガミラス人士官の顔も並んでいる。こうも見ると、たった4年前までは敵国同士だっただけに、どこか複雑な心境になってしまう。それでも、今は同盟国として付き合いがある以上は、過去の因縁など持ち出すのはお門違いと言うものだろう。まして、地球の命運を掛ける戦闘なのは勿論、ガミラスにとっても、ガトランティスは交戦国なのだ。ここで協調して戦えなければ、互いに不利益を被るだけだ。
 並べられたスクリーンの一角に映る土方が、最初に口を開いた。

『防衛軍並びにガミラス軍の諸君、艦隊司令長官の土方だ』

 相も変わらず貫禄と威厳が相乗効果を生み出している土方を見ると、背中を思わずピシリと正してしまう。

『諸君も知っての通り、ガトランティスは地球へ向けて1万5000隻と言う前代未聞の大軍を投入している』

 かつて、〈ヤマト〉がバラン星で1万隻のガミラス艦隊に遭遇したことがあるが、あれはあくまでも多方面から集結させた戦力数に過ぎない。ガトランティスは明確に、地球攻略のための1万隻以上を投じてきている。ガミラス軍の各指揮官の顔にも、動揺の色を少なからず浮かべる者もいるくらいであった。

『そして、別の脅威として、新生宇宙生命体ドゴラが、地球へ向かっている。しかも、敵は、このドゴラを利用して地球を落とす算段だ』
『あれだけ大軍を持ってるにしちゃぁ、随分と奥手じゃないか』

 そう呟いたのは、ガミラス人士官だった。左頬に縦に走る傷跡を残す、見た目30代前半の若いガミラス人だった。紫色の短髪とまだまだ血気盛んそうな印象を与えるが、山南の見た所、相当の激戦を潜り抜けている猛者と感じていた。その推測は的を得ていた。このガミラス人士官は、第30遊撃戦隊司令 フォムト・バーガー中佐と言った。かの〈ヤマト〉の古代進と、共同戦線を張ったガミラス人であり、その縁あって古代とは戦友の間柄であった。3年前は少佐であったが、その一件での功績認められたことから中佐に昇進している。軽口を叩くのは、やはり若さ故であろう。無論、侮っている訳ではないのだが、他者からすれば侮っていると聞こえかねなかった。

『バーガー中佐』
『失礼しました。別に侮っていた訳じゃありませんよ』

 一言、バーガーに釘を刺したのは、壮年の男性だった。恐らくは60代と、土方と並ぶであろうガミラス人だが、純然たる軍人とは言い難い服装が目についた。通常のガミラス人士官らが着用するモスグリーンを基色とする制服ではなく、文官系が着用するであろうブラウンを基色とした制服だった。つまり、彼は軍人ではないという事なのだが、山南は彼が誰だかを知っている。

『失礼を致しました、土方提督』
『戦意旺盛で安心するところです。バレル大使』

 ガミラス駐地大使/駐留軍司令官 ローレン・バレル少将。地球との和平条約を機に派遣されてきた、ガミラス人大使である。人のよさそうな、或は温和そうな顔つきで、脱色した紫色の髪と髭、側頭部のみ白髪という出で立ちをしたバレル大使。だが、その外交手腕は、時として大胆であり剛腕でもあった。同時に軍人としての素質も持ち合わせており、ガミラス国防軍情報部の出身者だった。外交手腕も、情報部出身というところから来ていると言えよう。
 無論、地球側には軍部出身者であることは表向きには秘匿されている。しかし、政府や軍関係者には軍部出身であることは通知していた。その為、本来は顔を並べる筈もない軍の作戦会議に、バレルは参加できていたのであった。土方も知ってはいたが、正直なところ、バレル大使の軍事的手腕は未知数的なところがあり不安もある。情報部出身とあるが、はたして艦隊戦における実戦の手腕は如何なるものか。全ては実戦にのみ現れるだろうから、土方としても、壊乱の危機に巻き込まれるのは避けたいところである。

「して、長官。どのような作戦を?」
『うむ。作戦は―――』

 短い時間で考えた作戦案を、各艦のスクリーンに同時投影しながら説明を行う。地球艦隊とガミラス艦隊による連合軍と、ガトランティス軍、そして第二の脅威となり得るドゴラを示すマーカーが、土方の説明通りに動き回っていく。その全てを説明すると、スクリーンパネルに映る指揮官達の表情は様々だった。土方の提案に納得する者もいれば、訝し気になる者もいる。懐疑的になる者もいる。当然と言えば当然と言えよう。ドゴラをわざわざ誘導するよりも、ガトランティスと纏めて拡散波動砲で殲滅すべきではないか。
 しかし、ドゴラがエネルギーを吸収する性質を持ち、無限に成長する可能性を秘めている事から、下手な手出しは出来ない。特に、ドゴラを目の当たりにした人物である、ネレディア・リッケ大佐、並びに安田俊太郎将補の2名は理解を示した。

『小官は、提督の作戦を指示します。あの怪物は、我々の人知を遥かに超えております』
『私も土方総司令の作戦に同意です。一先ずは、ガトランティスから片付けてから、ドゴラと対峙すべきでしょう』

 ネレディアと安田の意見が、実戦を交えた経験者だけに最も説得力がある様に思えた。
 それでも、やや懐疑的な意見を示したのは、50代後半の地球人司令官だった。

『我々は戦力的に不利な状況です。ここは、敢えて拡散波動砲で纏めて殲滅すべきと考えます』

 そう言ったのは、第2艦隊司令官/旗艦アンドロメダ級〈アルデバラン〉艦長 谷剛三宙将補だ。徹底した合理主義者で、硬直した思考に陥りやすい人物である。それでも、波動砲艦隊の運用について研究し提唱したことから、軍部でも一目置く人材だった。波動砲戦に特化した専用の陣形―――マルチ隊形の発案・命名者でもある。無論、彼の軍人としての手腕は高いものだ。

『谷司令の意見は、もっともかもしれん。ですが、土方総司令は、この作戦で遂行されることを仰られている』

 土方の作戦案に同意するのは、第5艦隊司令官/アンドロメダ級〈アンタレス〉艦長 富山繁宙将補だった。50代前半の中年男性で、焦げ茶の髪と頬から顎に掛けて立派に蓄えた髭を持つ士官だ。先の安田と並び、航空機運用に長けた貴重な司令官であることから、5番艦〈アンタレス〉を預かっていた。

『ですが、不測の事態と言うこともありましょう。ドゴラの誘導が失敗し、敵軍、並びに我が軍に向かってきた場合、どうされますか』

 方や不測の事態への対処を訪ねたのは、30代後半の若い士官だった。第4艦隊司令官/旗艦アンドロメダ級〈アキレス〉艦長 仁科鷲男宙将補である。アンドロメダ級各艦長の中では一番若い士官で、名前の通り鋭い視線と、尖ったモミアゲなど、まるで鷲を体現した様な人物だ。防衛大学を首席で卒業した秀才であったが、ガミラス戦争では戦闘艦の性能差から、大した戦果を上げる事も出来ずに苦杯を舐める時を過ごした。
 その後、仁科宙将補は軍備再建の為に尽力を尽くし、その功績もあって、めでたくも第4艦隊司令官の座と、アンドロメダ級4番艦〈アキレス〉艦長の座を手にしたという訳であった。その為、若さに似合わないと陰口を叩かれることもあるが、能力は確かなものである。

『極力、ドゴラには刺激を与えることは回避する。だが、敵艦隊へ向かい、襲い掛かった場合は‥‥‥敵の混乱に乗じて拡散波動砲を使用する』
『総司令!』

 安田は驚きの表情を見せた。

『無論、ドゴラは標的から外しての事だ。我が艦隊の多重標的機能なら、それも可能だ』

 多重標的機能もといマルチロックシステムと呼ばれるソレは、拡散波動砲を撃ち込むうえで欠かせないシステムだった。拡散波動砲を無暗矢鱈に使用してしまうと、僚艦の標的と重なる可能性が非常に高い。そこで、僚艦同士の標的が重複して無駄撃ちしないように、事細かに標準を調整する必要があったのだ。波動砲艦隊構想を実現させるうえでも、問題視すべき部分だったが、それを解決させたのである。
 そのマルチロックシステムを活用して、ドゴラが潜り込んだポイントを除外し、その周囲にいるガトランティス艦を撃滅していくという。ただし、実戦では初めての事になる為、不安な部分もある。しかも、対象は人知を超える生命体ドゴラであり、本能の赴くまま動き周るこの生命体が、連合艦隊の思わぬ行動をする可能性も否定できなかった。
 逆に、自分ら連合艦隊に向かってきた場合はどうするべきか。下手に刺激を与えられない以上は、やはり誘導するしかない。幸いにして、無人艦隊もあることから、快速を誇る無人駆逐艦を先導して誘い込むのが妥当であろう。
 心配すべきことは、上げればキリがない。それでも、最善と考えられる行動を示していくだけなのだ。
 最後の纏めとして、山南が締めくくった。

「では、土方長官の作戦案に従い、迎撃に当たりましょう」
『了解した』
『異議なし』

 各指揮官達が頷く。多少の不満もあろうが、敵の進行速度が速いことから四の五の言ってはいられないのは、誰もが承知している。ここで内輪揉めをしても利害を生まず弊害を生み出すだけなのだ。それが分からない連語軍の各将兵ではないのだ。

『全軍、会敵予想ポイント、土星沖。直ちにワープ準備に入る!』

 土方の命令を受けた全軍が、慌ただしくワープ準備に入った。

「さて、ドゴラさんは、どう動くかね」

 得体のしれない新生命体の動きが気になる山南。これが、この戦いでどう関わってくるのか、予想出来よう筈もなかった。
 やがて、全艦隊のワープ体制が整うと、土方の号令が回線を通じて響き渡った。

『全軍、ワープ!』
「第1艦隊、ワープ!」

 山南も自身の第1艦隊にワープを命じる。これを皮切りに、次々と艦艇がワープに突入していく。
 その様子は、地球全土にも放映されている。地球の中央司令部にて、出撃していく連合艦隊を見守る藤堂は、連合艦隊の将兵の多くが出来る限り生きて帰ってきてくれることを切に望んでいた。〈ヤマト〉が帰還時に取得した驚くべきデータからも、ガミラス人と地球人は、アケーリアス文明によって巻かれた種であり、肌の色が違えど同じ人間であることを知っている。それだけに、敵国だったガミラスとはいえ、戦死者が出る事は望まなかった。
 そして、自分のたった1人の家族である早紀も、生きて帰ってくれることを心より願っていた。

(早紀、生きて、無事に帰ってきてくれ‥‥‥)

 全軍が進発した後に、地球とガミラスの歴史上初となる激戦が刻まれることとなる。それも、前例のない、命運を掛けた戦闘が‥‥‥。




〜〜〜あとがき〜〜〜
第3惑星人です。第3章、完成しました。
何だか全軍の出撃準備で終わってしまいましたが、予定では2章分で完結させる方針です(伸びるか、縮まるかは分かりませんが)。
また火焔直撃砲の運用は、かなり無茶してます。それでも、そういった運用も出来たかもしれないと、勝手な妄想ですが・・・・・・。

本章に登場した宗方博士は、『ドゴラ』に登場した宗方博士からです。また、ヤマト2202の第6章で登場した『銀河』の艦長と副長まで引っ張り出しています。加えて〈アンドロメダ改〉を〈ゼウス〉として登場させるという無謀な展開(これも初期プロットではなかった)してます。

因みに無人艦隊ですが、PS版では、参謀長直属の艦隊として登場しました。なので、ある意味、ヤマト2202の時点で無人艦隊が出てくるのも、別段おかしい事ではないと思います。

―――なんでも有りの本作ですが、完結目指して頑張ります。



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