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土星沖海戦における勝者は、ガトランティスでもなく、地球・ガミラス連合軍でもなく、ドゴラであった。両軍の激突した際に生じたエネルギーが、ドゴラを強大な存在へと育て上げた結果、育ての親とも言うべき両軍をも糧にして所かまわず襲い掛かったのだ。親不孝だ‥‥‥とは誰しも考えよう筈が無い。両軍共に、ドゴラを育てるなどという気持ちは微塵も存在せず、互いに相手を撃破しようと躍起になっていただけであるが、ドゴラがそれを理解するかどうかは別問題である。
戦闘の結果として、ガトランティス軍第8機動艦隊は、1万5000隻もあった艦隊は1200隻余りに激減した。片や地球防衛軍は420余隻から290隻余りに減り、ガミラス軍も240隻余りから160隻余りに減ってしまっていた。ガトランティス軍は拡散波動砲による損害が巨大だったが、連合軍の場合はドゴラによる損害の方が遥かに多かった。あの重力傾斜によって、多数の艦船が呑み込まれ、あまつさえ離脱する時にも捉えられた艦艇も少なからずいたのだ。現状、双方合わせて450隻余りの戦力が残されているこそすれ、ドゴラを前にしては無力に等しい。
ドゴラから離脱した連合軍は、地球圏にまで一気に後退し、月軌道上にて待機・遊弋していた。損傷した艦艇は応急修理の為に地球上の工廠設備へ降下し、或は月面の工廠設備にて、それぞれ回復を図った。
しかし、長らく留まっている訳にはいかない。そうしている間にも、ドゴラは他の星を喰らい尽くしてしまうのだ。しかも、ドゴラの本能なのか、地球へ向けて真っ直ぐと侵攻しつつある。それも驚異的なスピードでだ。現時点での計算では、地球へ到達するのに1週間も掛かるかどうかと言うものだった。
「このままでは、地球はドゴラに喰われてしまう」
先日の威勢から一転、連邦議会の議員らは狼狽えていた。ドゴラが、ガトランティス軍の超兵器を真面に受けてもなお消滅せずに、分裂し、成長したばかりか、再結合による巨大化を見せつけられてしまい、波動砲による殲滅の可能性が消え去ったことにもよる。無論、分裂していた状態のドゴラは、拡散波動砲も受けていた筈で、それですら消えなかったのだ。
どうすればドゴラを倒せるか・・・・・・いや、誘い出すことすら敵わないかもしれない。真っ直ぐ地球に向かい、地球上のあらゆる資源を喰い尽くすどころか、地球そのものを喰い尽くすに違いないのだ。この様な出鱈目の力を持つドゴラを、どう迎え撃てばいい?
そこへ、希望の光が差し込むこととなったのは、警告を促し続けていた宗方博士の報告からだった。
「ドゴラは、宇宙ホタルの細胞と結合する事によって、結晶体へと変質してしまう」
その声を聞いた者の大半が、宗方の報告に対して一斉に希望を抱いたことだろう。
「では、あのバケモノを倒すことが―――」
希望に顔を輝かせている議員の1人は、先日に宗方の主張を馬鹿にした当人だった。彼は、自身が言ったことに何ら責任感を持たず、言ったことすら覚えていない。だが、祝われた当人の宗方は、きっちりと把握していた。それを思い返すだけで、このおめでたい議員には責任を取ってもらいたいものだと思っていた。
そんなお調子者の議員の希望は、その他大勢の希望ではあったが、そう簡単に希望を与えられはしなかった。
「生憎と、倒せる可能性は分かっていても、直ぐに取り掛かれはせん」
「何故だ、倒せるのが分かっているのなら‥‥‥」
分らんか。呆れた宗方はわざとらしく、大きなため息を、如何にも分かるように吐いて見せた。
「武器の製造ラインに乗せられておらん。何せ、通常兵器を優先させとるし、儂の主張は受け入れてもらえなんだ」
「それは‥‥‥」
そう言われて声を詰まらせる議員。実は、既に生産ラインを確保しており、対ドゴラ用の化学薬品の増産作業が完了すれば、直ぐに兵器として製造できる体制に持っていっていたのだ。議員は、その様なことを全く把握していなかった。
傍で見ていた藤堂は、区切りをつけさせようと、口を開いた。
「宗方博士のご忠告に従い、既に生産ラインは確保している。対ドゴラ用の化学薬品を増産しなければ、対抗のしようもないがね」
「ドゴラは、現在、地球へ向けて猛スピードで接近している。この様子では、およそ1週間」
芹沢がドゴラの現状を報告した。ディスプレイに、ドゴラのアイコンが表示され、地球到達までにかかる日数も同時に表記されていた。この1週間の間に、地球は、対ドゴラ用科学薬品を大量生産し、それを兵器に加工して大量生産するのだ。だが、大量に生産するとはいっても、どれ程の量なのかは未知数としか言いようがない。何せドゴラは無限に成長し、分裂する可能性を秘めており、いくら対ドゴラ用兵器を増産したところで、間に合わなければ意味がないのだ。
ドゴラを倒す為に、限りない増産を繰り返す必要がある。工場から輸送し、直接に部隊へ搬入する。それでも、ピストン輸送している暇が与えられるかさえ分からない。効果があっても、ドゴラを倒せる前に地球が呑み込まれてしまっては元も子もない。
また、この対ドゴラ用兵器を、どのような形で兵器たるものにするのか、という問題もあった。時間が惜しまれる現状での最適な用途は、地球防衛軍が有する独特の兵装、つまり砲弾という形だ。ミサイルや魚雷は、ホーミング性能が高いものだが、誘導システムを組み込んだり、ロケットブースターを取り付けなければならない事を考えると、砲弾の方が遥かに手っ取り早いのである。
ただし、これは地球防衛軍のみの兵装であり、ガミラス軍には供給できない。彼らは艦載砲はビーム兵装で統一され、砲弾は野蛮兵器、或は過去の遺物として認識されており、実弾兵装は魚雷やミサイルに限られていた。故に、地球防衛軍がドゴラ撃退の要となるのである。無論、ガミラス軍には、ドゴラの誘導や、一端、撤退したガトランティス軍に対する警戒を任せる形となろう。彼らガトランティスに横槍を入れられて、ドゴラを倒しそびれてしまったのでは、取り返しのつかないことになるのだ。
「地球の全ての製薬工場をフル稼働させつつ、連携して兵器工廠も出来る限りの対ドゴラ兵器を揃える。だが、時間の都合上、兵器として加工が間に合わない分もあろう。それは別の方法でドゴラへ攻撃を試みる」
極端な話、対ドゴラ薬品をドラム缶に詰め込んだまま、何処かの輸送船をチャーターして、薬品を満載させたままドゴラに突っ込ませる。寧ろ、こっちの方が手っ取り早いように思えるのだが、ドゴラが輸送船を触手で叩きつけて破壊する可能性があり、さらにドゴラの体内に取り込まれる前に、宇宙空間へ散ってしまっては元も子もないのだ。故に、輸送船による特攻方法と、軍艦の砲弾による方法の両方を採択していた。
「そして、月軌道上を絶対防衛ラインとする」
「目と鼻の先か‥‥‥」
芹沢の決定に唸る議員もいれば、反発の意を示す議員もいた。
「芹沢副長、君は、そんな近距離で決戦に挑もうというのかね!」
「無論です」
「正気なのか! こんな間近で、もし迎撃に失敗すれば―――」
顔色の悪い議員が、一斉に芹沢へと批難の砲火が集中する。その批難を、腕を組んで憮然とした態度でもって、堂々と跳ね除けていた。どいつもこいつも、とんだ政治業者ばかりだ。どうせ頭の中にあるのは、地球の市民の安全ではなく、自分の輝かしい政治家としての栄華や功績なのだろう。因みに、芹沢にも野心は根強く存在し、自身の保身を疎かにしないことから、決して彼ら議員を批難できる立場にはなかった。ただ、違うとすれば、どういう気持ちであれ、芹沢は地球を防衛する為に上に立つ身であり、それを自らも十分に理解していたことだろう。
芹沢は、そんな議員らを鋭い視線で撫でまわし、一巡してから口を開いた。
「どう転んでも、一度の失敗は地球の滅亡です。ドゴラは、迷いなく地球へ向かってきているのですぞ。出来る限り地球から遠い距離で迎撃しようとも、既に内惑星系に潜り込まれている時点で、目と鼻の先も同然・・・・・・逃げるすべなど、ありますまい」
「せ、芹沢君、それでも防衛軍のトップかね! あまりにも無責任ではないか!」
「現実を見て言っているのです。今からでは、全地球人類を疎開させることなど、物理的にも、理論的にも不可能。勝てば次の戦いがあるが、負ければ、文字取り全てが終わる・・・・・・無論、私も含めてですが」
生きた鉄鉱石の如く、芹沢は動じることが無かった。堂々と反論された議員らは、言うべき言葉を失い、自分の座席にへたり込んでしまった。もはや、全力を尽くして抗うだけだ。議員らがどう叫ぼうが、この一戦に全てが掛けられる。防衛軍とガミラス軍に託すしかないのである。
連邦議会での会議が進む一方で、防衛軍とガミラス軍の協議が進められていた。月面に設置されている月基地司令部にて、防衛軍とガミラス軍の双方の指揮官らが集い、今後の対策に熱を注いでいる。何としてもドゴラを食い止めんとする意気込みはあれど、彼らが味わったドゴラの驚異的能力を思うと尻込みをしてしまいがちだった。
会議室にて総司令土方宙将は、対ドゴラ用化学薬品の増産、並びに兵器化、そして、芹沢が説明した様な迎撃案の内容を説明していた。
「―――以上が、中央司令部の方針だ」
「背水の陣ですな、まさに」
土方の説明の後に口を開いたのは、安田司令だった。
「しかし、本当に効くのですか、その化学薬品とやらが」
懐疑的な声を上げたのは、谷司令である。
「ガミラスの研究艦〈ハーゲル〉で採取されたデータから得たものだ。間違いない」
「効かなかったら、俺達は終わり‥‥‥ですか」
会議室に顔を並べていたバーガー中佐が、腕を組みながらも最悪の事態を想像していた。それが、思わず口に出てしまう。バレル少将やリッケ大佐がジロリと睨むと、バーガーも押し黙る。だが、それはあり得る話であり、決してないとは言えない。寧ろ、そうなってしまわないように、自分達は全力で戦わなくてはならないという意識を持つ必要があった。
バーガーの懸念は尤もだが、科学局に努める真田や新見、そして宗方博士らの懸命な解析は、精度の高いものであると土方は信じていた。
バレルは部下の非を詫びつつも、自分らガミラス軍の動向について尋ねた。
「土方提督。このドゴラを撃退する要は、貴方がた防衛軍にあると言っても過言ではありますまい。我々には、砲弾を装填する能力は無い以上、サポートに回るしかありませんが‥‥‥如何なさいますか」
「ガミラス軍の方々には、土星海戦で撤退したガトランティス軍への警戒をお願いしたい」
いざ、ガトランティス軍残存艦隊が再度の攻勢に出た時の防波堤役として、ガミラス軍は立ち回ることとなるということだ。
「警戒ですか。彼らは、先の戦闘で大敗したとはいえ、未だに1000隻以上の戦力を残しております。比して、我が軍は160余隻のみ‥‥‥あなた方の様に一撃必殺の兵器を持つ訳でもない我らには、荷が重いですな」
別段、怒りを見せる様子でもなく、苦笑するバレル。だが彼の言う様に、現在のガミラス軍は損害決して小さくはないものだった。ガミラス軍に残された160余隻程度では、1200余隻を残すであろうガトランティス軍に対抗する事は、誰が見ても不可能である。これが、どだい無理な注文であろうことは、土方も重々承知していた。だからこそ、真っ向から戦わずに陽動や遅滞戦を重視するよう要請しているのだ。
ニヤリと捉えどころのない笑みを浮かべたバレルは、土方に向き直った。
「無茶難題‥‥‥とは申しませんが、私もガミラスの軍人です。その本分を尽くしましょう」
「バレル少将の手腕は、先の戦闘で確認させて頂いている。それに、貴方の率いる部下は、勇敢であり、有能な人材が揃っている。だからこそ、貴方がたにお任せしたい」
「承知しました、土方提督。貴方にそこまで持ち上げられては、ますます、気を引き締めんといかんですな」
まるで軍人とは思えぬ雰囲気だが、それも情報部の出身ということも関係があろう。バレルは改めて、今度はガトランティスの動向を尋ねる。
「さて、本題ですが、土星の一戦以降、ガトランティス軍は一時撤退しているが‥‥‥来ますかな」
ガトランティス軍残存艦隊は、太陽系内を警戒遊弋する複数のパトロール艦隊によって、周囲を取り囲むような形で追尾されている。よって、より詳細な動きが、逐一と本部に報告されていた。元より索敵機能を十分に強化したパトロール艦であり、武装の面では同系列の巡洋艦に劣るこそすれ、索敵機能関しては、通常の3倍近いコストがかけられている。であれば、ガトランティス軍に気取られない距離での、長期間監視体制も可能というものであった。
追尾するパトロール艦隊の報告では、土星沖から撤退したガトランティス軍残存艦隊は、天王星軌道上にて待機遊弋しているとの事だった。その後の動きは無く、数を減らしながらも艦列を保ち、ずっとその宙域で待機しているということだ。新たな本隊を待っているのかは不明であるが、好ましい状況ではないことは確かだ。もしも、新たに1万隻以上の増援が来ようものなら、拡散波動砲を有する地球防衛軍とて迎撃が間に合わない可能性が濃くなる。新たな増援は、土方も危惧するところではあった。
それを代弁するのが、先に戦闘を交えた守備艦隊司令長官 尾崎宙将補だった。
「幸いにして、パトロール艦隊の連携した妨害工作により、奴らは外宇宙への通信は遮断されている。しかし、敵の本国が、先遣隊の連絡が取れなくなれば黙ってはいますまい。1万5000隻もの大艦隊を投入してきたガトランティス軍が、増援を出さないとは考えにくい」
「尾崎司令の懸念は尤もだが、現時点は、外園に位置するパトロール艦隊、並びに観測衛星からは、何も発見はされていない。兎に角は、ドゴラの撃滅を最優先し、然る後に、天王星に遊弋するガトランティス軍を撃退するしかないでしょう」
第1艦隊司令官 山南宙将補が後に続く。兵力的に見ても、明らかに劣勢である。ガトランティス軍残存艦隊が、ドゴラとの決戦に備える地球ガミラス連合軍に横槍を入れてきたら、面倒極まる話だ。ガミラス軍も、そうさせないように横槍を入れる訳だが、ガトランティス軍の指揮官も、それに乗ってくれるかが心配ではある。もっとも、何もしてこなければ、それはそれで有り難い事だ。山南の言う様に、ドゴラを倒してからガトランティス軍の撃滅に取り掛かれば良い。
「ガトランティスが、地球を支配するつもりであれば、ドゴラを放置しておく可能性は低いと考えます。よしんば、我々の裏をかいて地球を征服したとして、ドゴラが残されたとあってはどうにもなりません。恐らく、我々がドゴラを倒した時を狙ってくるのではないでしょうか」
そう発言したのは、ネレディアだった。彼女の考える予測に、多くの士官が頷く様子が見えた。ある意味では、ガミラスもこれまでに多くの星系国家を併合・支配してきた経緯があるからこそ、ガトランティスの狙いも予想出来ようものだ。ただし、100%の確信を持って言える訳ではないが、先のガトランティス軍が取った方針―――ドゴラを利用した侵攻戦術からして、地球を破壊する可能性は低い。
あらゆる予測が立てられる中で、彼らの議論は短時間ながらも方針を打ち立てていった。
そして、彼らが警戒するガトランティス軍第8機動艦隊はと言えば‥‥‥。
「駄目です。敵の広範囲による妨害電により、本国との連絡が取れません」
「・・・・・・」
旗艦〈メーザー〉艦橋で、司令官メーザー提督は、部下の報告を見にしても沈黙を保っていた。敵にとって、この様な妨害は当然の事だからだ。本国との通信を断ち、孤立させることで、こちらの動きを制限させようというのだろう。まして、自分らガトランティス軍に後退や転進は許されない。命じられた任務を全うするか、玉砕するかの二者択一である。
そして、理由はどうであれ、侵攻した太陽系から脱しての通信は、即ち第8機動艦隊が任務を全うしえなかったことを意味する。何としてでも、地球軍とガミラス軍に一矢報いねばならない。
本国の増援など、もとより無い事を覚悟しているメーザーは、改めてコズモダートを呼び出した。
「コズモダート」
『ハッ』
通信画面に出たコズモダートの表情は、メーザーの持つ覚悟と同じものを体現している。
「言うまでもないが、我らに後は無い」
『承知しています』
「貴官の具申に沿い、体勢を立て直す為にここまで来た。後は前進し、敵を殲滅するか、我らが破滅するかだ」
『御意。提督には、余計なことを申しましたこと、言葉もございません』
首を垂れるコズモダートを見つめるメーザーだったが、咎めることはしなかった。
「構わん。あのまま無様な形では終われなんだ。この一戦で、奴らを道連れにしてくれよう」
『では、一気に地球へ?』
「・・・・・・いや、今行ったところで、あの化け物の巻き添えを食うのがオチだ。二の舞を踏むほど、私も愚かではない。幸いにして、あの化け物は、我らが誘導せずとも、勝手に地球へ向かっている事は、撤退時に確認済みだ」
『では、もし地球が化け物の餌食になる場合は、どうなさいます?』
そうだ。連合軍がドゴラに喰われれば、地球も同様の運命を辿る。ガトランティスが、それを助ける義理は無い‥‥‥のだが、そうなると困るのは、メーザーとコズモダートらであろう。攻略すべき星が無くなってしまっては、それこそ自分らは無能の烙印を決定づけられてしまうのだ。まさか、ドゴラに集中砲火して特攻し、玉砕でもするのか。
だが、メーザーには確信すべきものがあった。
「案ずるな。先ほど、偵察に出していた偵察隊から報告があった」
メーザーに抜かりは無かった。デスバテーターを偵察機用に作り上げた、特殊な機体を予め太陽系内に派遣していたのだ。その偵察機が傍受した敵の回線から、どうやら対ドゴラ用の兵器が完成しようとしているとの情報を得たのである。だが、残念ながら偵察機とその母艦そのものは、その後になって警戒中だったパトロール艦隊に発見され撃墜されてしまったが。
とはいえ、これだけの報告でも十分だった。地球とガミラスが、ドゴラに対抗しうる手段を用意しえるという事は、メーザーらにも戦う機会は十分にあるという事を意味しているのだ。なれば、その時こそ雪辱を晴らす最後のチャンスである。
「地球とガミラスが化け物を倒したのを見計らい、全力を持って彼奴らに攻撃を仕掛ける」
『それには、敵の情勢を察知しなければなりません。どうやら、我が軍の周囲を、敵の小部隊が飛び回っているようです』
「ならば、敵の裏をかこうではないか」
そう言うと、メーザーは別のスクリーンを表示させ、自軍の侵攻ルートを見せる。それを見たコズモダートは、司令官の提案に頷き、同意する。
『成程、奴らが化け物と一戦を交えている今なら、これは効果がありますな』
「決まりだな。コズモダート、直ちに空間跳躍の準備だ」
『御意!』
その数時間後、メーザー率いる残存艦隊は天王星より姿を消した。パトロール艦隊は、ガトランティス軍のワープを観測しており、向かった先が地球方面であることも突き止めることに成功していた―――次に、ガトランティス軍を見失うまでは。
「何、ガトランティスを見失った!?」
この報告に、防衛軍中央司令部も愕然とした。大事な決戦を前にして、ガトランティス軍を見失う事は非常に危険を伴うからだ。それは、先の連合軍の合同作戦会議の場でも懸念されていた事でもある。ドゴラに対して全力を注がねばならない事態において、ガトランティス軍の所在を見失うという事は、ドゴラとガトランティス軍の二正面作戦を強いられる可能性があった。
バレル少将率いるガミラス軍が、ガトランティス軍に対する牽制行動を取るとはいえ、それも相手の所在が分かってこそだ。
オペレーターである森雪一尉が経緯を報告する。
「ガトランティス軍は、天王星軌道上から地球へ向けてワープを敢行。木星軌道上にワープアウトするも、その後、再びワープに突入した模様」
「地球へ向けてではないのか!」
「いえ。火星軌道上にかけてパトロール艦隊が捜索しましたが、探知できません」
「ぬぅ‥‥‥いったい、奴らは何処へ」
芹沢は歯軋りしつつ、太陽系内の全部隊へ通達を送った。
「太陽系内の全艦隊へ。ガトランティスを補足次第、報告を入れるのだ!」
「‥‥‥地球へ向かうとばかり思いこんでいたのが、仇になったか」
焦る芹沢の隣に座る藤堂は、ガトランティス軍の指揮官が取った行動を冷静に分析していた。太陽系内というのは、ある意味で地球軍の庭と同じ存在と言えようが、それが逆に仇となったのだ。まして、地球へ一直線で来るであろうと予想していただけに、完全に監視強化エリアから外れてしまった。これでは、再び補足するのは簡単な事ではない。
もし、ガトランティス軍が来るとすれば、ドゴラを倒した後になるやも知れない。まして、先日にガトランティス軍の偵察艦らしきものを補足し、撃破したという報告も入っているが、こちらの動きを読まれる前に撃破出来たのは良い。
だが、肝心のガトランティス軍が見失ってしまった以上、安心してはいられなかった。
ガトランティス軍失踪の報告は、勿論のこと出撃間近だった連合軍の元にも届いていた。まさにドゴラと一戦を交えようという、時期的に最悪のタイミングと言えるもので、連合軍兵士の多くも動揺しているのが、誰の目に見ても明らかであった。どうするのか、このままドゴラと戦うというのか。となれば、ガトランティス軍との二正面作戦を強いられてしまうのではないか。兵力的にも大きく劣るだけに、兵士らが抱く動揺は次第に大きくなっていった。
しかし、土方の腹は決まっていた。
「予定通り、我々はドゴラを迎え撃つ。ガトランティスは、ガミラス軍に任せる」
総旗艦〈ゼウス〉艦橋の堂々たる姿勢で、全軍に命じる土方の声に、将兵も勇気づけられる。
そんな時であった。防衛軍の前衛艦から、ドゴラ補足の報が入ったのは。
「‥‥‥全艦、戦闘準備」
「戦闘準備。全火器管制システム、オンライン」
「D式弾、装填!」
D式弾―――ドゴラ用に開発された砲弾であり、戦艦クラスから巡洋艦クラスにのみ配備されていた。それが今、真価を発揮しようとしている。
「ドゴラ、作戦予定宙域まで、あと1分」
翁川の声により、〈ゼウス〉艦橋内だけではなく、全艦隊にも緊張感が響き渡った。スクリーンには巨大化したドゴラが、不気味なエメラルドグリーン色の濁った光の放ちながら接近してくる。その大きさは、前回よりさらに大きくなっており、体長約10q、触手部分を合わせれば20qに迫らんとする規模であった。これは、木星軌道上にあるトロヤ群と、木星軌道上と火星軌道上の中間にある小惑星帯ことメインベルトへ差し掛かった際、莫大な量の小惑星を捕食した結果と考えられた。それを証明する如く、ドゴラの通過した部分の小惑星が根こそぎ消滅しているのであった。
「これ程に成長しているとは‥‥‥」
想定よりも巨大化している事に、危機感を覚える翁川。早紀の表情も硬くなっており、10qを超える巨体になったドゴラに、果たして作られた化学薬品が間に合うかどうか不安も募る。効果はある筈だが、それがドゴラの活動を停止させるのに間に合うだろうか。
「あの巨体ともなれば、化学薬品が完全に浸透するかどうか‥‥‥」
副長の神崎も、思わず言葉が止まる。だが、これ以上の成長は阻止せねばならない。土方にも、自然と緊張が走った。
そして、ドゴラは防衛軍が待ち構えていることを知っているかは定かではないが、ユラユラと揺れ動きながら作戦予定宙域に差し掛かった。
「作戦宙域に到達!」
瞬間、土方が命令を飛ばす。
「作戦開始。第一段階、無人輸送艦、突入せよ!」
「無人輸送艦隊、突入!」
手始めに、防衛軍艦隊後方に待機していた、無人輸送艦4隻が動き出す。この輸送艦には、砲弾加工に間に合わなかった分の化学薬品が大量に詰め込まれており、そのままドゴラに突っ込ませて、まずは様子見という所であった。加速を始めた4隻の輸送艦は、ドゴラに向かって、迷うことなく突っ込んでいく。
「無人輸送艦隊、ドゴラとの接触まで、あと1万8000q!」
「ドゴラ、変化有り。周辺に重力傾斜を観測」
「‥‥‥喰らい付いたか」
翁川の報告に、土方は微動だにせず呟く。
ドゴラは、当然のことながら突っ込んでくる無人の輸送艦に気付いていた。それを捕食しようと、再び重力傾斜を生じさせる。無人輸送艦隊は、それに自ら捕らわれに行く形となる。艦の加速力だけではなく、ドゴラの重力傾斜も相まって速度は飛躍的に上がった。
その様子を見守る他の防衛軍艦隊の指揮官と将兵達。
「上手くいってくれよ」
〈アンドロメダ〉艦橋にて、山南は半ば神に祈る気持ちで、作戦の成否を見守る。
「重力傾斜の影響圏に、変化は無いか?」
「変化は認められず。ですが、強大化していることから、最大影響圏は拡大している恐れがあります」
「ドゴラの重力傾斜に警戒せよ。各艦、重力アンカーの管理を怠るな」
この時、防衛軍艦隊の各艦は、ドゴラの重力傾斜に抗う術の一つとして独特な形態をとっている。それは、戦艦や空母の両舷に、駆逐艦が寄り添うように接舷しており、重力アンカーを利用してしっかり連結固定していた。駆逐艦はブースーター替わりとなっており、戦闘には加わらず加速に専念するのだ。要するに、3隻1組となった状態で、防衛軍艦隊はドゴラと対峙していた。
配置としては、D式弾を装填している戦艦群と巡洋艦群が全面に出て、その各艦の両脇を駆逐艦が固めている。残りのD式砲弾を装備していない艦艇や、砲弾を装備する機能が無い艦艇は後衛にあって待機状態にあった。
刻々と縮まるドゴラと無人輸送艦隊の距離。時間にして1分後には接触することとなる。
「‥‥‥輸送艦01、02、ドゴラの触手に捉えられた」
「喰いついた!」
体当たりされる前に、エメラルドグリーンに光る細長い触手を絡みつかせて、グイっと体内に退き寄せつつ、例の超電熱によって艦の外壁を溶かす。そして、艦内へと触手を潜り込ませて機関部のエネルギーを吸い尽くしながら、外壁そのものもエネルギー源として喰らい尽くしていく。
だが、それこそが防衛軍の待っていた瞬間であった。捉えられた輸送艦は、予め仕掛けられていた爆薬をさく裂させると、艦体が粉々になる。ドゴラにとっては何のことは無かっただろう。もう1隻の輸送艦も遅れて爆発し、周囲を一瞬だけ明るく照らし出した。それがどうしたというのか、とドゴラは変わらずにいた―――十数秒後までは。
「ドゴラに変化有!」
「触手先端部から、次第に形質を変化させている模様。これは‥‥‥」
「効いている!」
やったぞ。山南の心中は歓喜に湧いた。ドゴラは、絡め取っていた触手が真面に爆発を浴びたことで、最初に触手部分の形質変化が始まったのだ。滑中な触手は、一瞬にして硬質な物質へと変化している様が、スクリーン越しに見ても分かるほどである。カチカチに固まった触手は、無理に動かそうとした拍子に、バキリ、と先端がおっかけてしまう。しかも先端から身体部に向けて、ジワジワと高質化が始まっているのだ。明らかに、この化学薬品が効いている証拠である。
ドゴラは、己の身体に起きた変化に驚愕したのか、フワフワとした動きが活発化した。もう1本の触手もまた、化学薬品を真面に浴びたことから高質化し、折れて宇宙を漂い始めていた。触手の折れた部分から再生する様子もない。
しかも、周辺に散らばった化学薬品は、幸いなことに重力傾斜で流され、自然とドゴラに付着することとなる。
「重力傾斜が、この際は仇になったな‥‥‥ドゴラ」
〈アポロノーム〉艦橋で、もがき始めたドゴラを憐れむ安田司令。他を取り込もうとする能力が、知らない内に化学薬品をも飲み込むこととなる。ドゴラは、その身体の表面でも、所々が高質化している前兆が垣間見ている。
追い打ちをかけるが如く、残り2隻の無人輸送艦がドゴラの身体に向かって体当たりを行い、同時に爆発した。
「03、04、着弾!」
「効果は確認できたんだ。後は‥‥‥」
2隻分の膨大な化学薬品を真面に浴びたドゴラは、身体表面からの硬質化を加速させていく。不気味に輝いていたエメラルドグリーンの身体が、所々、光沢のない無機質な物質変化し、黄色、青、緑、赤、紫、と色とりどりになっていった。後は、全艦隊の砲撃を浴びせるだけであった。
総旗艦〈ゼウス〉艦橋で、土方はドゴラを一気に撃退すべく、号令を発した。
「作戦第二段階に移行する。全艦隊、砲撃用意。砲撃目標ドゴラ!」
「砲撃用意よろし! 照準よろし!」
「撃ち方始めッ!」
「撃ッ!!」
U
防衛軍艦隊から発射された多数の砲弾ことD式弾は、数千qはなれたドゴラに向かって放たれた。高速で飛んでいく砲弾の数々は、多少の重力傾斜の影響を受けながらも、全弾が迷いなくドゴラの身体に食い込んでいく。
「弾着確認!」
神崎の報告の後、砲弾はほぼ同時期に炸裂する。爆炎がドゴラの体内、或は表面で生じると、幾つものドゴラの細胞が飛び散った。だが、その飛び散った細胞片も、既に化学薬品に感化されてしまっており、分裂してもただの結晶石に変わり果てていく。ドゴラ本体も、無数の砲弾が身体の中で弾けたことで、益々もって硬質化に拍車を掛けていった。身体の内部に及ぶ異変が、ドゴラを蝕み、動きをわずかながら鈍化させていく。
防衛軍艦隊も、引き続き第2射目を行い、ドゴラに追撃を行う。今回は重力圏を考慮しての遠距離砲撃だったが、それでも、ドゴラの放つ重力傾斜は想定を上回っていた。先日よりは弱いにしても、制止していては流されてしまう。バーニアを使って姿勢を保ちつつ、その宙域に留まり続ける必要があったのだ。
ただし、あまり後退し続ける訳にもいかない。その理由は、誰もが分かり切っていた。
「ここで仕留める。これ以上の後退は、地球の周回軌道に影響を及ぼす恐れがあるぞ」
そう、ドゴラの持つ重力傾斜が、地球の周回軌道を狂わせる可能性が十二分に存在しているのだ。もし、地球の軌道が狂ってしまえば、大事の一言では済まされない。地球絶対防衛戦としてギリギリまで我慢したとはいえ、まさに背水の陣としてドゴラを撃退しなければならないのであった。
「ドゴラの体内変化率、約26%」
全艦による砲撃力を続けていけば、確実に仕留められるであろうが、時間が掛かってしまうのも確かだ。
翁川が提案する。
「長官、砲撃の散布域を広げるべきでは?」
「小官も翁川三佐の提案に賛同します」
早紀も、それに続いた。ドゴラが結晶化する事は確定済みであり、砲弾を一か所に集中するよりも、広範囲に万遍なく攻撃した方が、変化率も大きくなる筈だ。まして、砲弾にも限りがあることを考えれば、このドゴラに対しては広範囲への攻撃を行うである。
副官と艦長の提案を受けた土方も、早々に実行に移した。
「全艦、ドゴラの結晶化しポイントを後回しにし、結晶化されていないポイントに向けて砲撃を行う」
総司令官の命令は直ちに伝達され、実行に移された一極集中的に行われていた砲火の嵐が、今度は広範囲にばらけ初めていく。通常の軍事戦闘であった場合は、これは逆の効果となって敵軍に効果的ダメージを与えることはできない。だが、今回は別のケースであり、如何に早くドゴラを結晶化させるかが課題なのだ。
防衛軍艦隊の砲火を叩き込まれるドゴラは、人間の様な悲鳴を上げなかったが、身体の動きでそれを表現していた。残る触手をぶんぶんと振り回し、届かぬ敵に向かって振り下ろそうとしている。それが叶わぬならと、届く範囲まで接近しようとする。或は、重力傾斜を出来る限り強化して、目障りな防衛軍艦隊を取り込もうとするのだが、結晶化の影響か、それが弱くなり始めていた。同時に動きも鈍り始めてきており、真面に渡り合える様な状態には無かった。以前の様な威勢はなく、もはや、ただただ、無用に暴れまわるだけの存在だった。
結晶化した部分が、防衛軍の砲撃や、或は自身が激しく動いた結果、ひびが入って砕け散る。元々は自身の一部だったものが、虚しく宇宙空間に虚しく漂い始めていく。
このドゴラの明らかな弱体化は、防衛軍艦隊にも明らかに分かっている。重力傾斜も弱まり、後退する必要性が無くなっていたほどだ。
それでも油断はできない―――土方は気を引き締めた。
「ドゴラの体内変化率、約42%」
「広範囲への攻撃が効いている‥‥‥長官、ドゴラの活動力は低下しています。一気に包囲殲滅する好機では?」
「よかろう‥‥‥。全艦隊、作戦第三段階に入る。第1、第3艦隊は左舷に展開。第2、第5艦隊は右舷に展開し、三方向からの殲滅を行う」
防衛軍艦隊は、土方率いる中央集団、山南率いる左翼集団、谷率いる右翼集団に別れ、三方向からの包囲攻撃に切り替えた。もとよりドゴラの動きが非常に鈍り始めたこともあって、包囲態勢はスムーズに進み、まだ結晶化しきれていない範囲に向けて、各部隊は砲撃を続行した。
「砲弾には限りがある。結晶化した範囲を狙わず、結晶化していない範囲を集中的に狙う」
右翼集団を指揮する谷司令は、旗艦〈アルデバラン〉にて効率的な攻撃を指示する。
「あと半分だ。隈なく攻撃しろ」
左翼集団の山南司令も、残弾が少なくなりつつある中で、兎に角も攻撃に集中させる。
防衛軍の攻撃によって、ドゴラは全体の6割以上を結晶化させつつあった。同時に、D式砲弾の残弾も残り少ない。ちょうど使い切れるかどうかの瀬戸際と言えよう。
すると、さしものドゴラも危機を感じていたのか、地球とは正反対方向へと動き始めた。だが、ドゴラの半分以上が結晶化されていたこともあり、動きは通常の半分以下に落ち込んでおり、動くほど結晶化した部分が剥がれ落ち、粉々になっていくのだ。触手も根元から千切れ飛び、もはや機能すらしていない。身体の部分だけでも10qあったドゴラは、結晶化と崩壊が重なった結果、今や6q程度にまで縮小していた。
もう一息だ。防衛軍は引き続き三方向から囲い込んでの攻撃に専念する。周りから、万遍なく撃ち込まれる砲弾によって、表面層の結晶部分がさらに剥がれ落ち、その分、ドゴラは小さくなっていく。剥がれ落ちると、内部の未結晶部分が現れ、そこに新たなD式砲弾が撃ち込まれていった。
しかし、ドゴラが直径500mにまで削れていった時だ。総旗艦〈ゼウス〉の火器管制システムが、D式砲弾の残弾が底を着いたことを知らせた。
「艦長、砲弾がありません!」
「なっ‥‥‥」
艦を管理している神崎の報告に、早紀も言葉を失う。当然、翁川も愕然としたが、〈ゼウス〉ばかりではなく、中央集団の残弾は残されていない報告が、次々と入ったのだ。そればかりか、他の艦隊からも同様の報告が入ってきた。しかも、もう500m切ったという矢先の事である。
「初手で、砲火を集中し過ぎたか‥‥‥」
確かに、最初の一斉射の時、ドゴラにピンポイント砲撃を仕掛けていた。あれを、もっと広範囲にしていれば違ったかもしれない。
今さら悔やんでも浅無き事だった―――誰もがそう思った時である。
「長官、司令部より緊急電!」
「ん」
「追加製造された化学薬品を、新たに輸送艦に乗せて送ったとの事です!」
そう、地球上では、防衛軍がドゴラと対峙している間にも、追加製造を行っていたのだ。当然、弾薬に詰め込む作業はできなかったが、輸送艦に積み込むことはできた。そこで、1隻分の容量を詰め込んだ輸送艦が、ギリギリ出発したのである。
この報告を聞いた土方は、まだ望みはあるとして、接近中の輸送艦の詳細を尋ねる。
「輸送艦は、有人なのか。それとも無人か?」
「無人のようです。指揮権は、〈ゼウス〉に移されています。なお、自爆装置はあります。こちらが信号を送れば‥‥‥!」
「うむ」
これで、決め損なってはならない。土方は最後の一撃を決めるとして、指示を与えた。
「全艦に達する。これより、最後の輸送艦が到着する。これをドゴラへぶつけ、自爆させる!」
後方から最大船速で駆けつけて来た輸送艦は、途中で〈ゼウス〉にコントロールを移された。次に、逃げようとしているドゴラに向けてコースを修正し、そのまま突っ込ませたうえで自爆させる。これでもって、確実にドゴラを仕留めるのだ。
設定された航路に従い、輸送艦は再び加速を始めるが、この時、〈ユウナギ〉の古代から緊急電が入った。
『土方総司令。本艦が輸送艦の先導を務めます』
「古代‥‥‥」
かつての教え子だった古代が、土方に強く押し迫った。
『ドゴラの結晶体に接触してしまえば、装甲の無い輸送艦とてひとたまりもありません。本艦で先導して、針路上の障害物を排除します』
古代の言う事に一理あった。輸送艦とて、これに衝突して万が一にも破損されたら、失敗に終わる可能性がある。それは避けねばならない。
「わかった。許可する」
『ハッ!』
即決により、許可を得た〈ユウナギ〉は最大加速して輸送艦の先頭に出た。まるで戦闘機の如き機動力に、他艦の艦長達も唖然とする。
「相変わらず、無茶な奴だ」
「よろしいのですか、長官」
不安げに翁川が尋ねるが、土方は訂正しなかった。古代の提案を受け入れ、彼に任せたのである。
自ら先導を買って出た古代は、恩師の期待に報いるべく〈ユウナギ〉を前進させた。
「最大戦速。輸送艦の針路前方1000に着け!」
「最大戦速、ようそろ!」
若き艦長の悪い癖が出た、と一部乗組員はぼやいたが、これが失敗すれば自身らの命はないばかりか、ドゴラを取り逃がせば地球人類の死活問題ともなる。やる以上は全力でやらねばならないのだ。全員が一丸となって、輸送艦の活路を見出す。
〈ユウナギ〉が駆逐艦の如き加速と機動力で、あっという間に輸送艦の前方に出る。このままいけば、ドゴラの結晶体の破片群に突入することとなるが、その邪魔な破片を排除するのが〈ユウナギ〉の使命であった。如何に最新鋭艦と比べれば劣るとはいえ、古代はこの艦を熟知し、冷静に対応に当たる。
「輸送艦の針路を切り開く! 砲雷撃戦用意、障害物を残らず排除する!」
「全兵装、攻撃準備完了」
「艦首、波動防壁最大展開。破壊しきれないものは、波動防壁で弾き飛ばす!」
「前方に障害物、数42」
早速、針路上に幾つもの結晶体が立ちふさがる。その中でも、もっとも邪魔なもののみに照準を定めた。
「艦首魚雷、1番から4番発射!」
艦首から発射された空間魚雷が、手始めに直径80m余りの結晶体を粉々に砕く。さらに別の結晶体も巻き添えにする形で崩壊していく。後の細かい破片群は、波動防壁が弾き飛ばしていく為、後ろをついて来る輸送艦へのダメージはほぼ無いと言って良かった。さらに別の結晶体を、対空ミサイルで撃破しつつ、ショックカノン砲塔も使って結晶体を消し飛ばしていく。
「正面、80mの結晶体!」
「主砲一斉射!」
正面に向けて9門のショックカノンが放たれると、中央から命中した結晶体が砕け散った。その中心部を〈ユウナギ〉が通る事で、破片群を弾き飛ばして航路を作る。立て続けに、破片が現れると、それもショックカノンで粉々に砕いていく。
それでも、高速で突っ切りながらの迎撃には無理が生じており、破壊しきれなかった破片群が、針路上の絶妙な位置に浮遊する。
「旋回間に合わない」
「構わない。防壁最大展開のまま突っ切る!」
無茶な―――と声を上げる航海士だが、それに従わざるを得ず、〈ユウナギ〉は可視化できる程の波動防壁を持って結晶体に接触した。結晶体は体当たりされたことで砕け散ると、〈ユウナギ〉は何事も無かったかのように現れる。余りにも無茶な行動に呆れる者も多かったが、古代を知るガミラス人ことバーガー等は、遠謀からの中継映像を見て、苦笑していた。
「おうおう、俺より派手にやらかすじゃねぇかよ、古代。良い水雷屋に成れるぜ」
水雷戦を望む訳ではないが、古代は兎に角も、目の前の事に集中する。やがて、結晶体の中を突っ切った〈ユウナギ〉と輸送艦は、目前に目標たるドゴラを補足した。弱弱しく漂うドゴラは、以前までのとはまるで印象が違った。それでも、古代は止めを刺すべく命じた。
「針路は開いた。左反転、回避!」
「左反転、ようそろ!」
「後は頼むぞ‥‥‥」
南部も、思わず無人の輸送艦に祈る。ここまで先導したのだ。失敗されたら、自分らの苦労だけでなく、防衛軍全体としても水の泡だ。
結果として、針路を譲った〈ユウナギ〉から、無人輸送艦は迷いなくドゴラに向かって体当たりを敢行した。激しい勢いで激突されたドゴラの体内に、半ばめり込んだ瞬間、仕掛けてあった爆薬がさく裂。大量の化学薬品をまき散らしながら、ドゴラを巻き添えにしたのだ。
「爆破に成功。ドゴラ、分裂しました」
「‥‥‥結晶化していることを観測せよ」
総旗艦〈ゼウス〉で、古代が無事に輸送艦を導き、ドゴラに命中したことに安堵する面々。それでも、ただの分裂だったらマイナスに向かって士気は暴落する。上手く結晶体になっている事を祈りながら、スキャンを開始した。同時に、一番至近にいた〈ユウナギ〉も解析に入っている。双方のスキャンから数分もしない内に、結果は出た―――吉として。
「ドゴラ、全ての結晶化を確認‥‥‥任務、完了です!」
翁川がコンソール画面を見ながら、成功の知らせを報じる。この瞬間に、人類がドゴラを撃退したことを指示したのである。
「間違いないな」
「間違いありません。ドゴラの生命反応はゼロ。全て結晶化しています!」
難敵を倒したのは良いが、もう1つの難題が残されているのだ。土方は直ぐに全艦隊を集結させ、有事に備えさせた。
それは、直ぐにやってくることとなった。
「ッ!? 左舷8時方向に重力振反応、距離約9000!」
「急速左反転、130度。迎撃態勢を維持せよ」
ガトランティス軍の残党だ―――言わなくても分かっていた。土方の中央集団から見て左後方からの出現となり、必然的に土方が相手を務めることとなる。無論、他の艦隊は急ぎ再集結を図っていたものの、戦端を開くまでには間に合わない。
ワープアウト反応から、土星海戦で撤退した残存兵力のほぼ全てであることは分かっている。
「山南司令は本集団の右翼に付け。谷司令は左翼に展開。それまでの間、我が艦隊は戦端を開いて敵を迎え撃つ」
「ショックカノンに切り替え完了」
「長官、拡散波動砲は―――」
「駄目だ。この距離にまで接近されてしまっては、充填する猶予はない。通常火力で迎え撃つ」
敵は、拡散波動砲を警戒して、近距離にワープアウトしてきたのだ。やはり、一筋縄ではいかないようだ。
元中央集団であった総司令直属艦隊と、第4艦隊、そして後方待機だった守備艦隊と護衛艦体の回頭が辛うじて間に合い、ガトランティス軍残存艦隊と対峙する。だが、先に砲火を開いたのはガトランティス軍であった。もとより奇襲を大前提として居た故か、ワープアウト後、勢いを保ったまま陣形配置を終え切っていない地球防衛軍に襲い掛かって来たのである。エメラルドグリーンのビームの嵐が、直属艦隊と第4艦隊らに叩きつけられる。
1200隻全てとは言わないまでも、怒涛の火力が100隻未満の艦隊に襲い掛かるが、波動防壁でそれを辛うじて防ぎきった。絶間ない砲火が続く中で、後手となった防衛軍も反撃を開始する。
「全艦、砲撃開始!」
出来る限り砲火を集中し、ガトランティス艦を撃ち減らそうとする。だが、敵には火焔直撃砲搭載型のメダルーサ級とメダルーザ級が残されており、これらが直ぐに牙をむくこととなる―――山南と谷の艦隊へ向けて。
「敵転送砲撃艦、山南司令と谷司令の艦隊に向けて、砲撃を行っている模様」
「敵は、こちらの戦力集中を妨害するつもりのようです」
「むぅ‥‥‥」
こちらの戦力配置を見抜いたうえでの戦法か。土方は、火焔直撃砲に踊らされる2つの艦隊の無事を祈りつつ、自身の指揮に専念せねばならない。加えて、肝心のガミラス艦隊の来援が気になる処であった。本来ならガミラス軍が、ガトランティス軍を抑える筈であったが、逆になってしまったようだ。いや、寧ろ、敵は我々防衛軍を警戒して、真っ先に片付けに掛かったのだろう。強力な波動砲を装備する防衛軍を片付けてから、ガミラス軍を片付ければ良いとでも思っているのだろう。
その選択は正しい。自身でも選ぶだろう。順序が逆だった場合、ガミラス軍を相手にしている間に波動砲の餌食となってしまうからだ。敵将もかなり研究していると見える。そう思ったのも束の間、ガトランティス軍はさらに接近して来ており、文字通り数で押し潰さんと言わんばかりだ。
このままでは不味いことになる。土方にも焦りが見え始めた時、ガトランティス軍の右後方直上に多数のワープアウト反応が観測された。
「‥‥‥来たな」
それは、紛れもないガミラス軍だった。
一方のガトランティス軍残存艦隊は、ドゴラを撃破したばかりの地球防衛軍に対する奇襲攻撃を成功させ、勢いを増しつつあった。
「このまま一挙に、正面の集団を一呑みにしてくれる」
メーザーは土方の艦隊を一気に叩き潰した後、艦隊を二手に分けて残る艦隊をそれぞれ喰い尽くそうという腹であった。たかだか100隻にも満たぬ集団であれば、如何に強固な防御手段を用いようとも、この怒涛の流れは食い止められる筈もない。事実、正面の集団は早くも陣形を乱しつつあった。それに、邪魔な2個艦隊は火焔直撃砲で足止めしていれば良いのだ。
ガミラス軍のことは、もはや眼中になく、兎に角は地球防衛軍を撃滅する事が最優先だったメーザーは、前進のみを命じていた。
「駆逐戦隊は敵艦隊へ切り込め。戦艦戦隊は、散り散りになる敵艦を粉砕せよ」
ククルカン級とラスコー級からなる快速艦艇群が突出し、土方率いる艦隊に切り込もうと急接近する。
そんな時になって、ガトランティス軍の右後方直上から、新たな敵艦のワープが観測されたのだ。
「ガミラスです!」
「小癪な事を‥‥‥コズモダートに迎撃を一任する。我が艦隊は全進して正面の地球軍を撃滅するのが先決だ!」
コズモダート率いる後衛部隊は、主に空母を纏めた艦隊であるが、もはや艦載機は無きに等しい。それでも、ナスカ級は巡洋艦クラスの打撃力を有していることから、戦闘艦としても活躍可能な存在だった。
旗艦〈コズモダート〉にて、司令官コズモダートも鬱憤を晴らすが如く、迎撃に打って出た。
「身の程知らずのガミラスに、我らガトランティスの威光を知らしむるのだ!」
急速反転に移る後衛部隊だったが、こればかりは先に近距離で現れたガミラス軍側に理があった。
上方側からワープアウトで現れたガミラス軍は、旗艦〈ヴァレルズ〉を筆頭にして、一挙にガトランティス軍の中央部部へと突進していく。指揮官であるバレル少将は、文字通り先陣を切って突撃していくのだ。
「敵の転送システム艦を集中的に狙え!」
ガミラス軍でも最大の巨体を誇るゼルグート級が、快速艦の様な真似事をすることは不可能であるが、それは細かい機動力に限った話。一直線に向かって突進をするのであれば、寧ろ、この巨体と火力、そして堅牢な防御力は十分な脅威として発揮できた。〈ヴァレルズ〉に搭載されている490o陽電子ビーム砲塔×4基12門、並びに艦首魚雷発射管12門が、一斉に発射された。
「撃てッ!」
最大口径の陽電子ビーム砲と空間魚雷が発射されたことに続き、後続の艦艇群も倣って斉射を開始した。ゼルグート級の火力を真面に受けきれる艦など数える程しかおらず、標的にされたメダルーサ級も、右舷後方から直撃弾を受けると派手に爆炎を上げていた。しかも、12門全てが容赦なく、メダルーサ級に叩き込まれたことで、一撃で上甲板の半分以上を火の海にしたのである。加えて、空間魚雷も迎撃しきれなかった分が着弾したことで、重装甲たるメダルーサ級も耐え兼ねて爆沈してしまった。
他のメダルーザ級、メダルーサ級も、他艦の集中砲火を受けて次々と爆炎を上げていき、艦を傾斜させていった。これに遅れる形で、後衛だったコズモダート率いる艦隊が針路上に割り込み、ガミラス軍に横槍を入れ来た。
かといって、それで怯むバレル少将ではなかった。
「敵艦隊、我が艦の針路に割り込む!」
「か、回避を―――」
「ならん。我がガミラスの威信を示すのだ。砲撃を続けながら突っ込め!」
無茶苦茶を言うのは、何も地球の軍人こと古代に限った話ではないようだ。〈ヴァレルズ〉のオペレーター達も、思わず揃ってギョッとしてしまうのだが、バレルの迫真の命令に誰も背くことはできない。〈ヴァレルズ〉は主の指示の通りに、針路を曲げることなく、場が正直に真っ直ぐ突進を始めていく。
針路を阻んだラスコー級を、まずは主砲の斉射で薙ぎ払い、その爆炎の矢先に居たのは、コズモダートの座乗艦〈コズモダート〉だった。それが分艦隊司令官の座乗艦だという事は、バレルが知る由もない。一方で、コズモダートからすれば、これがガミラス軍の旗艦だという事は一目瞭然だった。
「ガミラスの旗艦に砲火を集中しろ!」
コズモダートは叫んだ。〈コズモダート〉の回転砲塔や、護衛の艦艇から放たれたビームが〈ヴァレルズ〉を襲うが、多くは分厚い艦首装甲に弾かれ、他の装甲部分も貫通するには足りなかった。被弾しても多少の被弾炎を上げる程度で、仕留めるには程遠く、逆に互いの距離は近かった。コズモダートも、思わず気圧されたものだ。700mの巨艦が、迷いも無く自分に向かって突っ込んでくるのだ。
「沈めろ、奴を沈めるのだ!」
「装甲で弾かれ、効果ありません」
「せ、接触します!」
「―――!」
オペレーターの報告を聞いた時には、時すでに遅し。〈コズモダート〉に激震が襲い、コズモダートもオペレーターも投げ出された。何が起きたのか、それを目の当たりにした将兵来は愕然とする。
何と〈ヴァレルズ〉の艦首が、真正面から〈コズモダート〉を文字通り引き切りに掛かったのである。丁度、艦体部分と甲板部分が、分厚いバリカンの様なゼルグート級の艦首によって、強制的に引き剥がされていく。バキバキと言う金属音を鳴り響かせながら、〈コズモダート〉は艦首から機関部付近まで喰い込まれたのだ。
投げ出されたコズモダートは、敵の非常識極まる特攻によって死ぬ自身を悟り、最後に一言だけ口にした。
「大帝‥‥‥万歳!」
その直後、艦載機用の弾薬が爆発。〈コズモダート〉は木っ端微塵に吹き飛んだ。
食い込んでいた〈ヴァレルズ〉は、硬い艦首付近の爆発だったこともあり轟沈は免れていた。艦首を爆炎によって焼かれてこそいたが、戦闘力は残されており、ナスカ級を平らげた次いで、今度は回避不可能な距離に接近したカラクルム級の艦橋基部を、同じ要領で真っ二つに食い千切ってしまったのだ。カラクルム級は胴と頭を引き離され、その後に撃沈していく。
まさかの体当たり二連撃に、ガミラス将兵も度肝を抜かれる思いであったが、防衛軍もバレル少将の無茶な突進に唖然とせざるを得なかった。
バーガーは、バレルの行動に苦笑し、古代とはまた違った意味で大胆なものだと口にしていた。
「ドメル将軍でも、あの巨体をわざわざ突撃戦に使うような事はしなかったぜ?」
かのドメル将軍は機動戦術を中心としていたものの、座乗艦であるゼルグート級に乗り換えてからは、部下であるバーガーに任せていた。わざわざ機動力に劣るゼルグート級を投入して、味方の脚を遅くする必要性を見出さなかったゆえだ。だが、バレルはガミラス軍人としての強い責任感があったにせよ、彼の無謀とも思える奇襲戦法はガミラス軍将兵の士気を上げたのは間違いなかった。
大胆にせよ、大使だの、情報部だのと陰口を叩かれることもあった彼は、軍人として立派に陣頭指揮を執り、地球軍の信頼に応えている。それだけでも十分であったろう。
「バレル少将に遅れるな! 俺達水雷戦隊の名が廃っちゃならねぇ、派手に打ち上げるぞ!!」
ガミラス軍は、直上からの奇襲によってメダルーサ級とメダルーザ級の双方を撃破、並びにコズモダートを戦死させた挙句、次いでと言わんばかりに110隻余りのガトランティス艦を葬り去った。大半が快速艦や中型艦だったと言う事もあるが、一直線に突き抜けた後も、ミサイルの飽和攻撃でガトランティス軍の出血を敷いたことも効いたであろう。
中でも最大の砲撃投射能力を誇る改ゲルバデス級〈ミランガルU〉は、前級よりも砲塔を減らされたとはいえ、11基33門もの陽電子カノン砲塔とビーム砲塔を備えており、それが全方包囲への乱れ撃ちがさく裂したのだ。司令官ネレディア・リッケ大佐も、戦女神の如く戦ったのだ。
一撃離脱で100隻以上を失ったガトランティス軍は、多少の進撃の遅れを見せた。だが、それだけでも十分な時間であり、防衛軍の逆激態勢を作ることに大きく貢献した。
そうとも知らず、メーザーは前進を命じ続ける。
「行け、我らの意思をぶつけるのだ」
「て、提督、両舷側より高速接近中の地球艦隊より、超高エネルギー反応多数感知!」
「!!」
次の瞬間、山南と谷の号令が、指揮下の艦隊に響き渡る。
「「拡散波動砲、発射!!」」
2個集団から放たれたのは、紛れもない大砲こと拡散波動砲だった。それが、ガトランティス軍から見て左右斜め前方からであり、多くの波動砲は、そこからさらに分裂・拡散し、ガトランティス軍艦隊に襲い掛かったのだ。土星海戦の再現が、今なされた瞬間である。
高速移動中の波動砲発射が可能だったのは、ドゴラ撃退時に考案されていた3隻1組の運用のおかげであった。旗艦であるアンドロメダ級を始め、各戦艦群は、両脇にいる駆逐艦に加速を任せつつ、自身は波動砲の急速チャージを行った。そして、予定よりも早い段階での発射が出来たのだ。
この攻撃によって、ガトランティス軍は旗艦〈メーザー〉他35隻を残して壊滅。勝敗は、誰の目に見ても明らかとなった。
「我が艦隊、残り35隻‥‥‥」
「もはや、これまでか」
諦めきったかのような表情を作るメーザー。だが、最後の最後まで、ガトランティス軍人としての誇りを捨てはしなかった。
「生きて帰る事など望みはせん。全艦、最後の突撃だ。最大戦速であの中央の旗艦を狙え!」
旗艦〈メーザー〉は機関部を最大限に稼働させ、残る残存艦と共に最後の突撃を敢行する。
片や防衛軍の中央集団の土方は、敵将が降伏する意思などない事を知っていた。この行動からして、降伏勧告は無意味だろう。
「これが最後だ。全艦、敵残存艦に向けて、砲撃せよ」
「撃ちぃー方、始めッ!」
総旗艦〈ゼウス〉にて、早紀が命令を発した。他の無人艦艇群、第4艦隊、護衛艦隊、守備艦隊も倣って砲撃を開始した。ガトランティス軍残存艦は、殆どが波動砲の余波を受けて損傷していた事から、満足に戦えるような状況にはなかった。しかし、それでも脚を止めず、撃沈するその瞬間まで突き進み続けた。
1隻、また1隻、とガトランティス艦が沈められていく中で、旗艦〈メーザー〉は根気よく耐え、〈ゼウス〉に向かって突っ込んでくる。
「奴だけを‥‥‥せめて、奴だけを!」
艦体のあちこちに被弾し、黒煙を吐きだす座乗艦は、その執念をまざまざと見せつけた。
だが、それも僅かに過ぎない。〈ゼウス〉の正確無比な速射砲撃が、〈メーザー〉の艦体を乱打した。その内の一撃が、彼の居る艦橋へと吸い込まれていった。
「死して、大抵に―――ッ」
直後、彼の身体は蒸発した。艦橋を撃ち抜かれた〈メーザー〉は、コントロールを失ったところで、機関部に致命傷を負い、爆沈した。
「敵旗艦と思しき艦の撃沈を確認」
「長官。敵軍の全滅を確認しました。我が軍の勝利です」
「‥‥‥」
翁川の高揚とした声に、土方は答えなかった。寧ろ、険しい表情を作っている。
「これからは、もっと厳しい戦いになる」
「提督‥‥‥」
「敵は、命を返り見ない程に、攻撃性が強い。我々は、これを迎え撃たねばならな。より、厳しくなるのは明らかだ」
その声に、早紀も、神崎も、そして翁川も気を引き締めた。
「全艦隊、戦闘態勢を解除。帰還の途に就く」
「了解」
そうだ。苦しい戦いはこれからなのである。
指揮官席で、次なる戦いを見据える土方は、母港に到着するまで一言も発することは無かった―――。
〜〜〜あとがき〜〜〜
第3惑星人です。2018年内の完結は出来ませんでしたが、何とか、完結に漕ぎ着けることはできました。
なんだかガトランティス戦が中心な感じになってしまいましたが、如何でしたでしょうか。
メーザー提督もコズモダートも、本編以上に動かそうと思っていたら、こんな形になりました。
加えて、ゼルグート級とバレル大使も、かなりの大盤振る舞い?をしてもらいました。
2019年を迎えた訳ですが、今後もシルフェニア様が繁栄しますよう、微力ながらお手伝いできたらと思います。
今年もよろしくお願いいたします。
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