第4話『ガーデスの挑戦状!〜サイレン攻防戦〜』


〜CHAPTER・T〜



  サイレン星近海に置いて勃発した戦闘は序盤戦を終えようとしていた。
  ガミロイドで構成された無人艦隊15隻は、〈ヤマト〉を食い止めるのは力足らずであっという間に7割近くを失い、残るは戦艦1、空母1、重巡2という現状だった。それでも恐怖心を持たないガミロイドは、残る戦力で〈ヤマト〉を仕留める為に特攻という選択肢を選んだ。〈ヤマト〉並の艦体規模を持つガイデロール級とガイペロン級の体当たりを真面に喰らえば、如何な〈ヤマト〉とて持ち堪えられはしない。
  当初は〈ヤマト〉の針路前方を横切る形で遮ろうとしていた無人艦隊は、突如に針路を右に回頭して〈ヤマト〉の正面に合わせた。このままいけば正面衝突になり得る状態だったが、〈ヤマト〉も回避する為に動き出した。
  その様子を見ていたのは、サイレン星衛星軌道上で観戦しているガーデス少将率いる遊撃艦隊であった。

「木偶の防が、最後は体当たりと来たか」

  ガーデス艦隊旗艦〈ヴァーデス〉の指揮官席で眺めていたガーデスは、大して期待していなかった無人艦隊に対して退屈気に呟いた。もしもこれで〈ヤマト〉が沈んだら、それはそれで大そう面白くない結末である。あのドメルでさえ手こずった相手が、無人艦隊にやられたとあっては、これ以上の笑い話はないであろう。ドメルの名誉に傷がつくというものである。
  とはいえ、不思議とライバル視視している割には相手の失敗を期待している訳ではなかった。失敗を期待したところで、自身が功績を残さなければ、なんら意味が無いからだ。ドメルが功績を立てるのなら自分も上回る功績を立てるのみだと考えているのだ。
  そしてガーデスの脳裏には、サイレン星を護る無人艦隊が取った最期の行動に対して〈ヤマト〉がどう切り抜けるものか……そちらのほうに興味は湧いていたものである。

「無人艦隊、〈ヤマト〉と衝突コース……しかし針路変わらず」
「衝突まで、後1分」
「……さぁ、どう出る?」

  厳密に言えば〈ヤマト〉と無人艦隊は、真っ向から衝突コースに入っている訳では無い。〈ヤマト〉から見て、無人艦隊は左斜め前方――11時から12時方向の間にいる形だった。
  だが早期に回避行動に入ったとしても、無人艦隊もまた回避運動に合わせて針路を修正してくるのは目に見えている。それは〈ヤマト〉の艦長も分かっているであろう。そのうえで、どうやり過ごすのか見物であった。しかも無人艦隊は戦艦と空母と巡洋艦2隻の計4隻である。一発必中を出したとしても、一度にすべてを葬るのは至難の業で有る筈だ。下手すれば操舵不能になった艦と衝突する可能性すら考えられた。
  衝突コースをギリギリまで進んでいくように思われる〈ヤマト〉。

「……ッ! 〈ヤマト〉、我が方の巡洋艦を撃沈」

  〈ヤマト〉はショックカノンを斉射し、一先ず先頭のデストリア級巡洋艦を仕留めに掛かった。寸分の狂いも無く一撃で命中し、まるで風船のように一瞬だけ艦体が膨らんだかと思うと、そのまま爆炎に成り果てた。2隻目のデストリア級も、1隻目が爆発轟沈した直後にショックカノンを喰らって大破した。

「凄まじい火力が……」
「巡洋艦ごときで太刀打ちできる訳がない……が、その練度も侮れんな」

  噂に違わぬ命中率と破壊力にガーデス艦隊の将兵達もたじろぐ中で、ガーデスは驚きはしないものの侮れぬことは再確認した。

「〈ヤマト〉減速しつつ左へ転進」
「将軍、〈ヤマト〉は無人艦隊の右側面をすり抜けるつもりでしょうか」
「そこまで阿呆ではあるまいよ」
「?」

  副官テイツ少佐の呟きに対し、暗に否定するガーデス。どういうことかと訝し気になるテイツ少佐に対する答えは、間もなく出た。
  無人艦隊は〈ヤマト〉が左へ舵を切ったことを確認すると、直ぐに右へ転進して正面から逃さぬ様に調整する。このままいけば衝突することは目に見えるが、〈ヤマト〉は次なる手を取った。

「〈ヤマト〉、無人戦艦に主砲発射。無人戦艦の左舷に直撃弾」
「〈ヤマト〉さらに右へ再転舵、急加速」
「ほほぅ……中々にトリッキーな戦い方をするものだな」

  感心するガーデス。〈ヤマト〉は、自身の左転進に合わせて右へ舵を切った旗艦〈B−01〉に対し、巧妙にショックカノンを左舷へ命中させたのだ。一撃で沈めるのが難しいガイデロール級だが、沈めにくいのであれば針路を変えさせれば良い。右舷へ転進中だった所へ、〈ヤマト〉のショックカノンが左舷に命中すると、その衝撃で旗艦〈B−01〉は強制的に右向けをさせられる結果となったのだ。
  無人戦艦が右舷方向へ強制修正される隙に〈ヤマト〉は右に舵を切りつつ再加速する。すると、旗艦〈B−01〉は再転進が間に合わず〈ヤマト〉を左舷に通り抜けさせてしまった。さらに擦り抜けるだけではなく置き土産と言わんばかりに、〈ヤマト〉がゼロ距離射撃を敢行し、無人戦艦の左舷に風穴を穿ったのである。

「旗艦〈B−01〉、左舷に直撃を受け大破」
「無人空母、〈ヤマト〉の魚雷を受け損傷」

  無人艦隊旗艦〈B−01〉が戦闘不能に追いやられたうえに、〈ヤマト〉はその後ろにいたガイペロン級無人空母に差し迫るや左舷側に備え付けられている八連装短魚雷発射管から空間魚雷4門が斉射して、無人空母の左舷へ一挙に叩き込んだのだ。老朽化に加えて空母としての耐久度の低さも相まって、無人空母は一気に戦闘航行共に能力を失い戦線を離脱してしまった。

「無人艦隊……全滅!」
「なんと、こうも一瞬にして!」

  一瞬の出来事ではあろうが、まるで神業を見ているかの様な戦闘模様にテイツは驚き、ガーデスは子どもの様に魅入られた。

「面白い」

  思わず口元がつり上がるガーデスに、テイツはギョッとする。ここまで興味を持ったガーデスは初めてであったからだ。

「木偶の棒の艦隊など、奴の敵ではない。ドメルを凌ぐ力を持った戦艦……〈ヤマト〉、まさに俺の獲物に相応しい……ククッ」

  なれば、次は自分の番である。ガミロイドの指揮していた艦隊とは、一味も二味も違うことを教えてやるのだ。
  サイレン星の衛星軌道上に艦隊を待機させていたガーデスは、無人艦隊を全滅させた〈ヤマト〉と対峙すべく前進を命じる。ただし、惑星間弾道弾を1発のみ衛星軌道上に待機させており、しかも進行方向は真下――即ちメラとジュラのいる居住区に向けられていた。これはガーデスの保身の為に講じた処置であり、例の幻覚作用による妨害を受けた際には、これで殲滅してやるというメッセージであった。
  無論、その程度のことはメラにも分かっており無用な手出しはしないと決めている。あくまでも〈ヤマト〉が自身の力でサイレン星に到達できるかを見届けるまでだ。
  サイレン星を背面にして艦隊を進める終えたガーデスは、〈ヤマト〉に対して通信を開くよう命じた。

「さて、向こうの指揮官の顔を拝見しようか」

  不敵な笑みを浮かべるガーデスは、通信スクリーンに出てくる地球人に期待をかけて待った。
  片や通信回線を受け取った〈ヤマト〉は、新手のガミラス艦隊だと知って警戒を減にしたまま、相手の発した通信に応じて回線を開いた。艦橋のメインパネルに映ったのは、ヘアバンドの様な形をしたサングラスを掛けたガミラス人だ。通信波を通じで映るガーデスも、モニター越しに艦橋を一瞥してから口を開いた。

『私はガミラス帝国軍、第11遊撃旅団司令官ネルス・ヴァ・ガーデス少将』
「私が〈ヤマト〉艦長沖田十三だ」
『貴官が艦長か……ほぅ、歴戦の強者の目をしている。ドメルが敗れたのも、頷けるな』
「ッ……ドメル将軍?」

  艦橋にいて会話を聞いている古代は、思わずドメルの名前を口走る。ガミラス軍の中に置いて、彼ほどに高潔で堂々たる軍人の姿は忘れる筈がない。七色星団で死力を尽くして戦い斃れていったドメルは、〈ヤマト〉の乗組員ですら敬意の念すら覚える名将だった。
  その名を口に出す目の前のガーデスなる軍人は、恐らく知り合いの類なのではないか――そのように考えてしまうが実際は異なる。

『そうだ。奴が敗れるなどと眉唾ものであったが、今の戦闘を見て確信した。間違いなく、諸君らは本物だと』
「……ガーデス少将、貴官は、〈ヤマト〉との戦闘を望んでいると?」
『勿論だとも。でなければ、こんな辺境に足は運ばんからな』

  この男は危険だと、沖田の脳裏に警戒信号が鳴り響く。彼の瞳は見えないものの、確実にドメルとは違った軍人――明らかに好戦的な指揮官であり、自分らが逃げに掛かっても必要に追いかけてくるのは想像に難しくは無かった。まして、目の前にあるサイレン星にあるものを確認しなければならない。いや、もしかしたら我々を誘い込む罠の一つではなかったのか。そのような考えさえ浮かんでしまう。
  しかし、沖田の危惧する罠の危険性に対して、ガーデスはこちらの沖田の考えを見透かしたように自らの意思を明かした。

『それとだ、勘違いしないでもらいたいが、俺が此処に現れたのは罠を張った結果じゃない。貴官らがこの星を探ろうとしているのを察知して、先回りしただけの話だ。罠を張るんだったら、もっと好条件の宙域を選ぶさ……ドメルみたいにな』

  まるで獰猛なハンターの如き笑みを浮かべるガーデスに対し、危険人物ではあるこそすれ、恐らく言っていることは事実だろうと直感で感じる沖田。それに、目指しているサイレン星に何があるのか知っているようだ。それを敢えてガーデスは暴露した様な物である。あそこには知るべきものがあることだけは確かだった。



  目の前にいるガーデスとやらの挑戦状を受けねば、どのみち通してはもらえない。
  そればかりか、ガーデスは〈ヤマト〉を逃がさぬようにサイレン星そのものを人質にとる旨の発言をした。

『もし受けてもらえぬというのならば、仕方ないが貴官らが探ろうとしているサイレン星を爆撃する』
「なに……ッ!」
「自分の星を爆撃だって!?」
『受けてもらえれば、手出しはせんがね』

  何はどうあれ、サイレン星はガミラスの管轄区域にある星だ。レプタボータ星にて得た情報からも分かっていることである。それ、ガーデスが爆撃して、探ろうとしている何かを吹き飛ばそうとしているのだ。サイレン星に何があるかは分からない。分からないが、目の前の危険なガミラス軍人ならば、何かしら大事な情報をも躊躇いなく消し飛ばせるであろう。

「レーダーに捉えた。サイレン星上空にガミラス艦隊補足、数32。さらに大型の機影――大型弾道弾5! うちの1機は惑星上空で停止を確認。残りはこちらを向いてます」

  森雪一等宙尉が、レーダーに捉えた反応を報告する。これで、ガーデスの言うことは嘘ではないことがはっきりした訳だ。そして、消し飛ばした後に、遠慮なく襲ってくるのは目に見えている。これは受けざるを得まい。
  沖田は覚悟を決めると戦士の眼を持ってガーデスを睨みつけ、そして答えた。

「良かろう。申し出を受ける」
『フッ……そうこなくてはな』

  口元が吊り上がるのを隠しもしないガーデスに、沖田は念を押して確認を取った。

「ただし、約束は守ってもらおう。我々が勝ったら、あのミサイルを撤去すると」
『安心してもらおう。俺は強い奴と戦えることが望みなだけだ。あの惑星間弾道弾は停止状態に固定してある。勝手に動くことは無い……俺を倒した後に破壊してもらって構わん。俺とて軍事の端くれだ、約束は守るさ。……ではな、貴官らの健闘を祈る』

  ガーデスが最後まで不敵な笑みを浮かべたまま通信を終えるや、沖田は即座に命令を発した。

「ガミラス艦隊は直ぐに動く。戦闘態勢維持。第3戦速、針路このまま」
「ヨーソロー」

  〈ヤマト〉の艦首はサイレン星へ一直線に向けられると、それから徐々に加速をする。
  次にガーデス艦隊の陣容の再確認に入った。

「敵の陣容は分かるか?」
「戦艦1、戦闘空母1、巡洋戦艦2、重巡4、軽巡6、駆逐艦18」
「ん……観測されるエネルギー放射パターンが強いな……。艦長、あの艦隊の艦艇は皆が機関出力が高いものと予測されます」

  森に続いて報告したのは副長真田三佐だった。分析に掛けられたエネルギー放射の分布濃度から、ガーデスの艦隊は機関出力の高いものであることが予測されたのである。事実、真田の分析は的を得ていた。ガーデス遊撃艦隊の殆どは、通常艦艇とは異なり機関部に強化を施された艦艇だからだ。後は実際に戦う過程で、どれ程に厄介な性能を有しているのかを確かめなければならない。

「――ッ! 敵艦隊に動きあり」
「詳細は?」
「敵艦隊一部が分離。軽巡1、駆逐艦4……いえ、惑星間弾道弾1も加速を開始」
「なッ……惑星間弾道弾!?」

  古代は思わず森雪を振り返って聞き返してしまう。
  ガーデス艦隊の一部が急加速すると共に、惑星間弾道弾も後を追う様にして加速を始めたばかりか、当然それは〈ヤマト〉を目指すこととなる。惑星間弾道弾は、以前に〈ヤマト〉が地球を飛び立つ間際に発射された兵器であり、ギリギリでショックカノンを使い迎撃したことがある。また、冥王星基地を攻略する際にも、冥王星基地に保管されていた惑星間弾道弾が〈ヤマト〉の攻撃の影響で誘爆して基地を一瞬に灰燼に帰しせしめたものだった。
  大胆な方法で挑んでくるガーデスに〈ヤマト〉クルーは驚愕するが、沖田は動じることなく迎撃を命じた。

「古代、艦首魚雷で惑星間弾道弾を狙いつつ、ショックカノンで敵戦隊を迎撃せよ」
「了解。艦首魚雷発射管1番から6番を敵弾道弾へ、第1砲塔は巡洋艦、第2砲塔、第1副砲は、駆逐艦を狙え!」
「了解!」

  艦首魚雷発射管が6門全て開放され、ショックカノン砲塔は艦艇を狙う。射程距離に入り次第、発射を命じるだけだった。
  ところが、接近してくる小艦隊の加速は予想以上に早いもので、真田の分析通りの加速性能と航行性能が確認できる。恐らくは通常の航行速度を超えるもので、ワープスピードとは行かないまでも、かなり危険極まりない速度だと言わざるを得なかった。砲雷撃戦を行うならば、それ相応に速度を落とさなければ敵は無論、自身も照準を定めにくくなることは自明の理であったからだ。

「速い……! 有効射程圏に突入」

  あっという間に有効射程圏に入って来た小艦隊に、古代は咄嗟に迎撃の命令を発した。

「撃ち方始め!」
「撃ちぃー方始めッ」

  南部が復唱すると、先にショックカノンが唸り声を上げて青白いエネルギービームを放つ。螺旋状に渦巻きながら1本の太いビームになるショックカノンだが、その初撃は尽く外れてしまう。急接近するガミラス艦の速度の問題もあって、命中させるのは難しかったのだ。無論、ガミラス艦側も巧みなもので、タイミングを読んでの回避行動を取るなど〈ヤマト〉に負けず劣らずの回避運動を見せた。
  外したことに舌打ちをしてしまう南部だが、即座に修正して第2射目に移りつつ、艦首魚雷で惑星間弾道弾を狙って発射させる。空間魚雷が煙を上げながら艦首の発射管から飛び出し、一直線に惑星間弾道弾へ向かう。惑星間弾道弾は破壊力はお墨付きであるものの、細かい機動性能は臨めない代物だった。追尾性能を持つ空間魚雷なら簡単に命中させることが出来る――筈であった。
  それを阻んだのは、先行してきたガミラス小艦隊だ。クリピテラ級駆逐艦の空間魚雷やミサイルが、〈ヤマト〉の発射した空間魚雷を撃ち落したのである。

「あいつら、弾道弾を〈ヤマト〉にぶつける為に時間稼ぎをするつもりか!?」

  思わず南部が悪態をつくが、そう言っている間にも惑星間弾道弾は接近している。

「南部、第1、第2主砲で破壊しろ。敵駆逐艦は残る兵装で応戦。航空隊はどうした!」
「敵艦載機の残存機と交戦中。戦局は優位ですが……」

  艦載機コスモファルコンら航空隊は、ガミロイドの無人艦載機と交戦中で動くことが出来なかった。曲がりなりにもエースパイロットに近い技術データをインプットされているだけに、一筋縄ではいかなかったのである。それでも最終的には〈ヤマト〉の航空隊パイロット達の技量が勝り、戦局を有利に運んではいたのだ。
  とはいえ、撤退という行為をしない無人艦載機ともなると、コスモファルコンら航空隊も意外なほどに手間取ってしまう。航空隊が期待できない以上は〈ヤマト〉が如何にかするしかないのだった。

「敵艦隊、すれ違いざまにコースターン……本艦と並走する模様。なお惑星間弾道弾は正面に接近中!」
「この艦隊運用……ドメル将軍の艦隊が率いていたものと同じレベルか」

  真正面から急接近してきた小艦隊だが、〈ヤマト〉とすれ違うかと思いきや戦闘機も顔負けの旋回運動によって、あっという間に〈ヤマト〉と並走するように纏わりついて来たのだ。当然、狙い撃ちにされない様に螺旋運動を取り入れて〈ヤマト〉の砲撃を攪乱しており、その運動性能には舌を巻く思いだった。
  周囲で攪乱行動出ている小艦隊に対して、第3主砲、第1副砲、第2副砲を中心に応戦する。第一波として突撃してきた小艦隊は、やや速度を落としたものの、対艦戦とは思えぬ機動力を生かして〈ヤマト〉に陽電子ビームを叩き込んでいく。洗礼された艦隊運動に、それはドメルを彷彿させるものだった。カレル163星系にてドメルの艦隊と遭遇した時も、〈ヤマト〉を周囲から追い詰める部隊と、それを正面から待ち受ける部隊とに別れ、綿密な艦隊間の連携で陣形を崩さずにジリジリと〈ヤマト〉を追い詰めたのだ。

「周囲をちょこまかと!」

  南部も悪態をつくが、この小艦隊は彼の愚痴に付き合う程に御人好しではない。
  ガーデスの艦隊は規模が圧倒的に少ないが、逆に数が少ないことによって連携しやすく動き易くもなっていた。まるでジェットコースターの如く、規律の摂れた艦隊運動は、意外なほどに〈ヤマト〉を追い詰めに掛かった。
  要するに小艦隊が気を引く間に、惑星間弾道弾をぶつける算段なのであろうか。

「敵艦に目を奪われ過ぎるな、正面の惑星間弾道弾を破壊する!」
「了解」

  そうさせてはならないと、沖田が惑星間弾道弾の破壊を優先に命じた。既に目前に迫る巨大なミサイルに対して、〈ヤマト〉は主砲で惑星間弾道弾を正面から撃ち抜き、そのまま大爆発を引き起こさせたのである。強烈な熱波と衝撃波が周囲を震撼させるが、〈ヤマト〉は波動防壁で防ぎ切った。

「敵弾道弾撃墜」
「今の内に、周囲の艦艇を排除しろ」

  波動防壁で陽電子ビームを弾きつつ、1隻のクリピテラ級をショックカノンで粉砕する。残るケルカピア級1隻とクリピテラ級2隻は退くことなく、執拗に〈ヤマト〉の周囲を旋回するように動き回りつつビームを当ててきた。
  この小艦隊を排除することに手間取っている間に、ガーデス艦隊に新たな動きが生じた。

「新たに第2波と思しき艦隊接近。規模はほぼ同一、惑星間弾道弾を含む」
「またか!」
「艦長、敵は続けて第3波、第4波と来る筈です」

  未だに第1波の小艦隊が周囲を高速で踊り周って〈ヤマト〉を翻弄する。これらを片付ける前に第2波が到来してきたのだ。ともなれば、ガーデスの意図は明らかであった。惑星間弾道弾と小規模戦隊を同時に送り込むことで、〈ヤマト〉を翻弄したうえでジワジワと抵抗力を奪っていく算段であろう。
  波動防壁にも限界はある。もう10分もしない内に効果は切れてしまうばかりか、余りにも敵の攻撃を受けすぎてしまえば、その分だけ波動防壁は耐圧限界点を迎えて消失してしまう。後は直接に装甲で堪える他ない。
  このまま突撃してくる敵艦と弾道弾を、どれだけ効率よく仕留めきれるかが関わってくる訳だが、それはガーデスの思う壺であろうことは沖田も重々承知していた。
  〈ヤマト〉は果敢に反撃するものの、第1波の部隊を仕留めきれないところへ第2波が襲い掛かった。
  第2波もケルカピア級1、クリピテラ級4という編成で、後ろには惑星間弾道弾が控えている。

「敵駆逐艦1、撃沈!」
「第2波、攻撃来る!」
「波動防壁稼働時間、残り6分!」

  このままでは上手くない。分かり切っているが、どうにか対策を講じねばならないと考えた矢先に沖田が命じる。

「……機関最大戦速、針路そのまま」
「しかし、正面には敵弾道弾が――!」

  島がギョッとするが、沖田は命令を撤回しない。それどころか、敢えて弾道弾に向けて突っ込む様に命じたのだ。無論、惑星間弾道弾の爆発を至近距離に浴びたとしても、波動防壁を展開すれば無傷に済まされる。
  とはいえ、今は周囲にいる敵艦の砲撃の影響で稼働時間が短くなっており、下手をすれば惑星間弾道弾の爆発を受けた時点で波動防壁は消失してしまう可能性があった。そうなれば、後は残る惑星間弾道弾や敵艦隊からの集中砲火と機動戦術で多大なダメージを追うことが考えられる。
  周りの不安を他所に、沖田は命令を追加して発した。

「惑星間弾道弾を最優先に破壊する。しかる後に、最大戦速のまま突っ切り――」



〜CHAPTER・U〜



  ――波状攻撃を攻略すべく動き出す〈ヤマト〉。その動きは当然、ガーデスにも見て取れた。

「〈ヤマト〉加速しました。惑星間弾道弾へ向けて衝突コース」
「第1遊撃隊、駆逐艦〈K−907〉撃沈」
「第2遊撃隊、〈ヤマト〉を攻撃するも損害なし」
「第3遊撃隊、加速中」
「我が隊の機動戦術に付き合わず、真っ直ぐ向かって来るつもりか……まさか、弾道弾と心中するつもりじゃあるまい」

  惑星間弾道弾に真っ向からぶつかっていこうとする〈ヤマト〉の行動に、ガーデスは興味をそそられていた。
  確かに、差し向けた遊撃隊を無視して旗艦であるガーデスを狙いに来るのは悪くはないのだが、それはそれで、こちらも重火力で迎え撃つだけだ。それにまだ2発の惑星間弾道弾が残されている。これを〈ヤマト〉にぶつけつつ、艦隊の集中砲火で押し潰すのも良いであろう。幸いにして、〈ヤマト〉は遊撃隊の機動戦術に半ば翻弄されているようだった。最後は遊撃隊で包囲網を形成し、そのまま蜂の巣にしてやろうではないか。
  その〈ヤマト〉は、途端に遊撃隊への反撃を止め、一目散に弾道弾へ突き進む。遊撃隊は不審に思いつつも、〈ヤマト〉がギリギリの所で弾道弾の脇を擦り抜けていくするつもりなのだろうと思い込んでいた。因みに惑星間弾道弾のコントロール権はガーデスにあり、別に命中しなくとも遠隔操作で自爆も可能だ。すり抜けようというのであれば、その手前で自爆させて業火の中へ呑み込んでしまえばいい。
  だが、その余裕は部下の上擦った声で掻き消された。

「し、司令!」

  〈ヤマト〉が反撃も無しに弾道弾へ突っ込んで行くかと思いきや、突然にしてショックカノンを放ち、惑星間弾道弾を至近距離で撃ち抜いたのである。自殺行為を自らするとは驚きを禁じ得ないガミラス軍将兵。ガーデスは表情を崩さず、〈ヤマト〉の動きを注視しつつも第4段の発射を命じた。

「第4遊撃隊、発進せよ」

  ドメルとの死闘を生き抜いた〈ヤマト〉が、そうも簡単に沈むことは考えにくい。生きていることは間違いないであろう。確信めいたものがガーデスの中にあったが、この命令を出すと同時に耳を疑う報告が舞い込んだ。

「〈ヤマト〉、爆炎の中に捕捉……できません」
「爆発の衝撃で探知しにくいだけだろう。いる筈だ、良く探せ」
「閣下、よもや溶けて蒸発したという可能性は?」

  副官テイツ少佐が横目にチラリとガーデスを見やりながら、沈んだ可能性を上げるが、ガーデスはそれを即座に否定する。

「そんな軟な奴では――」

  ガーデスが、そこまで言いかけた時である。

「じゅ……重力振動波を観測! 何かがゲシュ=タム・アウト――ぃえ、〈ヤマト〉です!」
「全艦咄嗟戦用意!」

  ガーデスが迎撃の指示を下すよりも早く、〈ヤマト〉が突如としてガーデス第3遊撃隊の目前3000qに出現したのである。〈ヤマト〉は2発目の惑星間弾道弾を破壊した直後、爆炎に紛れながらも小ワープを敢行したのだ。しかも惑星間弾道弾の爆炎がカモフラージュとなり、ガーデス艦隊の目をごまかすことに成功したのである。
  敵の目を誤魔化したこと、そして小ワープによる奇襲によって、ガーデス遊撃艦隊の虚を突いた瞬間でもあった。
  至近距離に出現した〈ヤマト〉は、ガーデス遊撃艦隊を完全に捕捉して逆撃に打って出る。

「前方に第3波を補足!」

  敵味方双方にとって3000qとは至近距離であり、既に有効射程圏に入っている。しかも互いに速度を落とさずにいるのだから、距離はあっという間に縮まっていく。

「速度このまま。敵第3波をやり過ごし、すれ違いざまに第3主砲塔、第2副砲で敵弾道弾を破壊せよ。第1主砲、第2主砲、第1副砲は敵本隊前方にいる第4波の弾道弾を狙撃し破壊する」

  この至近距離の敵艦に対して、砲塔の照準を合わせることは難しいが、すれ違った後を想定しておけば、後部砲塔群で十分に命中させることもできる。特に弾道弾は的が大きい分、外す筈もない。南部はコンソールを操作し、一撃で仕留めるべく神経を集中させた。
  第3遊撃隊は、目の前に出現した〈ヤマト〉に困惑しつつ迎撃を開始するものの、突然の出現ゆえに命中させることはできずに、あっという間にお互いともすれ違う結果となった。そのまま本隊に向かう気であろう――戦隊指揮官は咄嗟に判断し、反転追撃を命じようと試みた。それこそが、沖田の狙いでもあったとも知らずに。
  ガーデス艦隊の第3波とすれ違った〈ヤマト〉は、第3主砲と第2副砲を惑星間弾道弾のロケットノズルに照準を合わせた。
  折しも、その瞬間に重力振が観測される。それは、先ほど〈ヤマト〉を襲った第1遊撃隊と第2遊撃隊だった。これこそがチャンスだ今がチャンスだ――標的をロックオンしていた南部が叫ぶ。

「撃ッ!」

  発射されたショックカノンは、今度は寸分の狂いも無く惑星間弾道弾に命中する。一番脆いロケットノズルから喰らった惑星間弾道弾は、あっけなく爆発して辺りを強力な熱波と衝撃波で包み込んだ。
  不幸にも、惑星間弾道弾から大して離れていなかった第3遊撃隊は真面に爆炎と衝撃波に呑まれることとなる。まして〈ヤマト〉を追撃する為に半行動中だったこともあり、逃れようがなかった。また波動防壁を装備していないガミラス艦艇では、惑星間弾道弾の破壊力に堪えることはできない。爆炎の波に呑み込まれた第3遊撃隊が、次々と誘爆に晒されてデブリと化した。
  不運はそれだけではない。残存する第2波遊撃隊と第1遊撃隊が慌てて小ワープしたのだが、ワープ開けに突然として爆炎が彼らを巻き込み、各艦体に大ダメージを及ぼしたのである。やや距離があったとはいえ、軽巡洋艦や駆逐艦の外装と兵装に及ぶ被害は甚大なもので、無残にも表面は黒焦げになりつつ艦内のミサイルなども超高熱の影響で誤作動し爆発、艦にトドメを刺すことになった。

「敵第4波の惑星間弾道弾、捕捉」
「撃ッ!」

  前方にいた出撃間近であった第4波に対しても、先手を打つ格好でショックカノンによる集中砲撃で惑星間弾道弾を破壊した。これによって、第4遊撃隊諸共巻き込んで一掃してしまったのだ。

「第1遊撃隊から第4遊撃隊……全滅!」
「なんてことだ……こうも一瞬にして……」

  旗艦〈ヴァーデス〉から否応にも見える自艦隊の惨状に、愕然とするテイツ少佐。
  片やガーデスは、〈ヤマト〉の大胆な攻撃に感心すらしていた。

「面白い……流石はドメルを破った戦艦だ」
「〈ヤマト〉、直進してきます」
「ククッ……さしで勝負と行こうじゃないか。第2戦隊、前進して〈ヤマト〉右舷から叩け。我が隊は正面から奴を抑える」

  遊撃戦隊を失ったガーデスだが、未だに旗艦〈ヴァーデス〉を始めとして、ゲルバデス級1、メルトリア級2、デストリア級4、ケルカピア級2、クリピテラ級2の12隻が残されていた。そのうち、メルトリア級2とデストリア級4で編成された第2戦隊が、〈ヤマト〉を迎え撃つべく前進し、〈ヤマト〉から見て右前方から狙いを定める。
  ショックカノンを接近してくる戦隊に向ける〈ヤマト〉は、まず先陣を切るメルトリア級に狙いを定めた。

「敵巡洋戦艦、照準固定」
「砲撃始め!」

  〈ヤマト〉がショックカノンを放つのと同時に、ガーデス艦隊第2戦隊もやや遅れて砲撃する。互いの青白いエネルギーと赤白いエネルギーが宙域を突き進み、そして交差するとそのまま狙い定めた艦に向かって駆け抜けた。
  双方ともに命中弾を出したが、メルトリア級は右舷に穴を穿たれ爆炎を上げて戦線の離脱を余儀なくされた。〈ヤマト〉は既に波動防壁は稼働限界時間を超えて再稼働の為に充填時間を要していたが、持ち前の装甲の暑さによって損傷の程度は小さく済んでいる。やはり、純然たる砲撃戦において戦艦と巡洋戦艦では力の差は明らかだった。
  それでも第2戦隊が得意とする機動戦術で加速しつつ、〈ヤマト〉の右舷を通り過ぎながら砲火を叩き込まんとする。
  対して右舷に並ぶ短魚雷発射管を斉射する〈ヤマト〉。8発の空間魚雷は2隻目のメルトリア級を絡め取り廃艦に作り変えた。

「第2戦隊、被害甚大。メルトリア級2撃沈」
「〈ヤマト〉に損害を与えるも、戦闘力は健在!」
「我々も砲撃を開始する。捉え次第、奴を仕留めろ」

  指揮下の第2戦隊が損害を被る最中、旗艦〈ヴァーデス〉もゲルバデス級らと共に砲撃を開始する。
  前部上甲板に並ぶ330o三連装ビームカノン砲塔×2基6門と、底部に備え付けられている330o三連装陽電子ビーム砲塔×1基3門が、一斉に陽電子ビームを発射した。通常の無砲身型ビーム砲塔に比べ、速射性と貫通性といった打撃力が向上されたハイゼラード級の火力は侮れぬもので、第2戦隊に対応していた〈ヤマト〉の艦首右舷側に命中弾を出した。
  さらに続けて〈ヴァーデス〉の右舷に並ぶゲルバデス級は、前部飛行甲板と底部装甲板を砲戦甲板に切り替えており、280o三連装陽電子ビームカノン砲塔×2基6門、133o三連装陽電子ビームカノン砲塔×2基6門、280o三連装陽電子ビーム砲塔×2基12門、133o三連装陽電子ビーム砲塔×8基24門という驚異的な火力が、ゲルバデス級の前方にいる〈ヤマト〉へ向けられる。
  なお艦載機は30機余りを搭載していたものの、〈ヤマト〉が近距離に現れたことと、砲雷撃戦の最中に艦載機を投入しては誤射する危険性が高いことから結局は艦載機を発艦させずしまいであった。
  ゲルバデス級は、かのドメル将軍が空母機動部隊として運用したゲルバデス級と全く同一の艦艇で、この時も苦戦を強いられていた〈ヤマト〉を追い詰めた実績があった。それだけに〈ヤマト〉乗組員らも、ゲルバデス級の驚異的な砲撃能力は否応に知っていた。
  一言で言うなれば、まさにビームの嵐と言えようか。斉射されたゲルバデス級の陽電子ビームの束は、多数が命中しなくとも必ずどれかは命中する程の手数である。
  〈ヤマト〉は多数のビームの嵐に揉まれるようにして、数発を同時に艦体へ受けた。

「命中!」
「沈めるまで気を抜くな。砲撃を続けろ」

  腕を組み、被弾する〈ヤマト〉を睨み続けるガーデス。
  この砲撃で〈ヤマト〉は第2主砲に直撃を喰らい、旋回不能となっており、戦闘能力を削ぐことに成功していた。それでも、全体的な戦闘能力はいまだ健在であったが、遊弋するガミラスの快速艦艇と、正面の戦艦と戦闘空母ら本隊の十字砲火を浴び、損害を蓄積させつつある。
  なお果敢に反撃し、メルトリア級2隻を撃破した後にデストリア級1隻を完全破壊し、もう1隻も空間魚雷を浴びて中破に追い込まれていた。それでも〈ヤマト〉正面に立ちはだかるゲルバデス級から降り注がれる火力の嵐は侮れないもので、加えて艦隊旗艦〈ヴァーデス〉からも一度に12発余りの空間魚雷が発射されるのだ。
  ビーム兵装と実弾兵装が合わさって襲い来るが、〈ヤマト〉も負けじと迎撃に出る。

「敵魚雷接近、数12」
「艦首魚雷、4番から6番、磁気信管セット次第発射!」

  数からいって艦首魚雷を6門斉射したところで迎撃しきれない為、磁気信管を使って敵魚雷を感知した瞬間に自爆するようにセットしたものである。〈ヤマト〉の艦首から3門だけ発射されたそれは、ガミラスの空間魚雷と真っ向からすれ違うが、その瞬間に信管が作動して爆発する。その爆破の余波や爆炎に呑まれた魚雷群は瞬く間に誘爆し、あっという間に破壊されていった。



  現状を打開すべく沖田は次なる手を打たんとする。

「真田副長、波動防壁は再稼働可能か?」
「可能ではありますが、耐圧限界を超えた影響で、持って1分30秒程度かと」
「構わん。艦首に集中展開、全速力で敵艦隊の中央を突破する」

  それは沖田が死中に活を見出す戦いとして取られる戦法であった。距離を取らずに敢えて飛び込むことで相手の隙を突く。ドメルの第6空間機甲師団を相手にした際も、これで包囲網を脱しており、果てはバラン星でも敵艦隊の不備を見出したうえで活用していた。
  艦首に可視化可能なほどの波動防壁を集中的に展開した〈ヤマト〉は、一直線にガーデスのいる本隊へと突き進み距離を詰めた。
  旗艦〈ヴァーデス〉とゲルバデス級も、直営艦のケルカピア級2隻とクリピテラ級2隻らと共に応戦するが、波動防壁に阻まれて攻撃が届かない。速度を上げて突っ込んでくる〈ヤマト〉から旗艦を護ろうと前面出るが、その瞬間にショックカノンで軽巡と駆逐艦が1隻づつ撃ち抜かれてしまった。

「〈ヤマト〉の針路変わらず。このままでは60秒で交差します」
「第2戦隊は何をしている。足を止められんのか?」

  悪態をつくガーデスに言われるまでも無く、残るデストリア級3隻が喰らい付くが、追い付かんとする気持ちが先走り過ぎた為に動きが単調となり、そこへ第3主砲と第2副砲が襲い掛かって2隻とも葬られてしまった。残る1隻が〈ヤマト〉の左舷に並び、陽電子ビームの直撃弾を出すものの、逆にショックカノンの餌食となって真っ二つに分断されてしまう。

「第2戦隊全滅」
「閣下、もはや本艦と空母、護衛隊だけです」
「分かり切ったことを言うな、集中砲火を叩き込め!」

  テイツの狼狽に対して叱咤の声を上げながら命じるガーデス。
  だが、すれ違う寸での所で〈ヴァーデス〉とゲルバデス級が斉射したところで、〈ヤマト〉は島航海長の卓越した操艦能力と波動防壁の前に無力化されてしまい、ついに脇を擦り抜ける瞬間が訪れた――刹那。

「撃ッ」

  古代の命令が飛び、予め旋回待機していた第1主砲が右舷側にいた旗艦〈ヴァーデス〉と、第3主砲が左舷側にいたゲルバデス級を至近から狙ったのだ。文字通りのゼロ距離射撃に等しいものであり、避けることはまずもって不可能である。
  旗艦〈ヴァーデス〉の右舷装甲を殴りつけたショックカノンにより、艦内は激しい衝撃に見舞われ、転倒するクルーも見受けられた。ガーデスは指揮官席の縁に手を掛けて転倒を免れつつも、傍を擦り抜けていく〈ヤマト〉から目線を離さないでいた。恐らく向こうの指揮官沖田十三も、こちらを見ているのだろうか。
  苦境に立たされている筈にも関わらず、ガーデスは獰猛な笑みを浮かべていた。

「やってくれる……」
「各部、被害報告報せ!」

  ガーデスに変わり、テイツ少佐が被害報告を纏めさせる。

「右舷中央付近に直撃弾」
「第2主砲使用不能、右舷魚雷発射管6門損壊、対宙機銃も多数使用不能!」
「艦内火災発生、負傷者発生」
「機関出力10%低下、されど戦闘・航行に支障なし」

  ショックカノンは、〈ヴァーデス〉の右舷中央やや上寄りの位置で引き裂いたのだ。約30m近い傷が形成され、丁度第2主砲の真下辺りであったことから使用不能となり、魚雷発射管も軒並み使用不能に陥ってしまったのである。
  また〈ヴァーデス〉の右舷側にいたゲルバデス級もただでは済まされなかった。ゲルバデス級の前部左舷の大きな傷跡を残した結果、装甲を貫通された挙句に、左舷砲戦甲板に搭載されている各砲座が丸ごと使用不能に陥ってしまったのだ。加えて底部にある砲戦甲板も連鎖反応的なもので使用不能に陥った。
  もとより、複雑な飛行甲板と砲戦甲板の展開機構もあったが故の欠点であったろう。後は〈ヤマト〉のショックカノンの威力が高いことも、砲戦甲板が使用不能に陥った原因でもあろうが。

「戦闘空母〈ローベル〉左舷被弾、中破。砲戦力4割喪失」
「〈ヤマト〉左反転」
「全艦右反転90度、〈ヤマト〉を逃すな。最大戦速」

  黒煙を上げながらも〈ヴァーデス〉とゲルバデス級、護衛艦2隻は、一斉に右反転したことで直列陣形に変わりつつ、〈ヤマト〉と同航戦態勢に移る。ひたすら撃ち合うのみだ――覚悟を決めているガーデスは、右舷方向に航行する〈ヤマト〉を沈めるべく攻撃を開始する。
  またケルカピア級とクリピテラ級を突撃させ、その隙に戦艦で打撃を与えようと目論むものの、〈ヤマト〉から発射された空間魚雷や副砲が襲い掛かってくる。それを機動戦で辛うじて致命打を避けつつ接近戦に持ち込むものの、数発の命中を出したところで息絶え、スクラップに変わり果ててしまう。
  その間に〈ヴァーデス〉とゲルバデス級も、残る火力で〈ヤマト〉左舷に命中を叩きだすことが出来たが反撃の砲火も受ける。
  ゲルバデス級は右舷の損傷が無かったとはいえ、48p口径のショックカノンを受けるには防御不足は否めない。砲戦甲板の半分がショックカノンによって薙ぎ払われて、一気に火の海となってしまう。炎に包まれながらも果敢に撃ち返すが、立て続けに中央右舷や、艦橋直下の格納庫付近にも直撃を喰らったばかりか、外壁を開通されて格納庫内部の艦載機にまで被害が及んでしまう。

「〈ローベル〉右舷に被弾多数。格納庫も炎上、被害拡大中――いぇ、爆発ッ」
「!?」

  戦艦ほどの厚い装甲を施していないばかりか、艦載機の爆薬なども搭載していただけに、一度火が回れば手の施しようは無くなる。ゲルバデス級は爆発して粉々になってしまったのだ。残された旗艦〈ヴァーデス〉ただ1隻になり、ガミラス将兵の士気は下がるばかりだ。
  〈ヤマト〉もゲルバデス級の砲火を浴び、第2副砲を大破させられた他、各部に破口を作り煙を噴き上げていたが、沈めるにはまだ足りない。
  ならば……。

「全速前進。右反転80度。〈ヤマト〉のどてっ腹に突っ込め」
「えぇ……!?」

  副官テイツ少佐は驚愕した。それは特攻にも等しい行為――特攻そのものだったのだ。

「此処まで来て、降伏も停戦もあり得んのは分かっているだろう。〈ヤマト〉を仕留めるか死ぬかだ」
「……は、はい……」

  ガミラス軍に無様な敗北は許されない。まして無断で出撃した手前もある。〈ヤマト〉を残して帰還できる筈も無かった。
  肩を落としたテイツは覚悟を決めざるを得ず、艦の針路を〈ヤマト〉へと向けさせる。

「残る火力を叩き込みつつ、突撃せよ!」

  最期の命令が下った。
  その様子は〈ヤマト〉に捉えられており、艦首を翻した敵旗艦が猛スピードで突撃してくる。恐らくは死を覚悟してのものであろうことは誰の目にも明らかであった。

「敵旗艦加速しながら急接近、接触まで80秒」
「敵艦発砲!」

  加速しながら突撃してくる旗艦〈ヴァーデス〉は、残された砲塔と魚雷を使って〈ヤマト〉に撃ち込んでくる。
  それを短魚雷やパルスレーザーでで撃ち落す〈ヤマト〉だが、このまま体当たりされてしまっては撃沈は免れない。

「第3主砲斉射後、左反転100度。ロケットアンカーを射出し、敵の左舷に撃ち込め!」

  側面を見せていた〈ヤマト〉は、第3主砲を発射して旗艦〈ヴァーデス〉の艦首下部辺りに直撃したものの足を止めるには程遠いが、その命中させた隙に迅速な回頭運動を行ったことによって〈ヴァーデス〉と付き合わせる格好となった。

「今だ、ロケットアンカー射出」

  既に衝突まで30秒と迫っていたが、ここで打ち出されたのが右舷側ロケットアンカーである。弧を描くように射出されたロケットアンカーは、そのまま〈ヴァーデス〉の艦首左舷下部に命中した。下から突き上げられるような衝撃が〈ヴァーデス〉を襲うと、僅かながら突入針路が上方向きへ狂った。
  対した妨害にもならず、ガーデスは鼻で笑った。

「アンカーを撃ち込んだ程度で――」

  だが、その隙を沖田は見逃さなかった。

「下げ舵一杯、右回転60度!」

  艦首が上向きになった旗艦〈ヴァーデス〉に対し、艦首を下向きかつ右へロールを始めた〈ヤマト〉。必然的に両艦はすれ違いとなり、〈ヴァーデス〉の真下を〈ヤマト〉が擦り抜けるような形となる。その際に、〈ヤマト〉は左舷側を〈ヴァーデス〉艦底と擦り合わせる程度に終わった。
  特攻が不発に終わってしまった事態にガーデスも表情を歪ませる。

「馬鹿な……!」

  特攻に失敗しただけでは終わらない。ロケットアンカーは繋がれたままで、お互いが反対方向に進めば当然つんのめる。特に〈ヴァーデス〉においては、艦首側下側に繋がれていたこともあり、つんのめる拍子に艦の姿勢が前傾になるどころか、そのまま大きく前転を始めることになった。ロケットアンカー自体も、強く引っ張られた影響で〈ヴァーデス〉の艦体から引き抜かれる。
  〈ヤマト〉は辛うじて艦の姿勢を崩さずに済んでいたが、敵戦艦がバランスを崩して無防備な艦底を晒した瞬間を見逃さなかった。

「今だ、撃てッ!」

  沖田の命令がとんだ瞬間、姿勢が大きく崩れた隙を狙って〈ヤマト〉の第3主砲が咆哮し、姿勢を崩し前転を始めつつあった〈ヴァーデス〉の艦尾を撃ち抜いた。

「艦尾に直撃弾、機関損傷!」
「姿勢を戻せ、まだ勝負は――」
「閣下、弾道弾が!」
「!?」

  艦の主機関は破壊されて航行不能となれば、航行できないどころか姿勢制御機能も失ってしまうことを意味した。慣性力で宇宙空間を前転しながら動く〈ヴァーデス〉だが、その前方には待機させていた惑星間弾道弾があったのだ。艦橋から見える景色はぐるぐると回転して分かりにくいが、確かに惑星間弾道弾らしき物体が垣間見える。
  この状態でアレを破壊することなど不可能であり、バガデスは苦笑し、己の敗北を認めた。

「クククッ……所詮、俺が敵う相手ではなかったか……」

  慌ただしく叫ぶクルーの叫び声を耳にしながら、彼はその時を待った――直後、サイレン星上空で眩く凄まじいまでの破壊力を持った光が生じたのである。これが、サイレン星を巡る海戦の終止符を打った合図であった。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.