機動戦艦ナデシコ
〜The alternative of dark prince〜
第十二話 最後の『休息』
ミ―――――ンミンミンミ―――――ン。
ゴ―――――――――――ン。
ルリちゃんとの買い物を終え、俺たちは再びあの墓へやって来た。
聞いた話によると、ルリちゃんは毎月お参りに来ているそうだ。
先ほど買った物は供えるための花と、
何故かゲキ・ガンガーのぬいぐるみだった。
「好きだったんですよ。アキトさん」
古くなった花を取替えながらルリちゃんはそう言った。
「そうなの? 木連の人じゃないんだよね」
木連の人たちはゲキ・ガンガーを聖典としていたと聞いたことがある。
「いくら地球から持って行ったアニメがそれだけだったからといって、アニメを崇めるものか」という声もあるらしいけど、俺はそれを聞いて木連人を尊敬した
ものだった。
しかし、良く考えたらサブロウタさんもソウさんも木連出身なんだよな。
全員が全員崇拝していたというわけではないみたいだ。
「ええ。アキトさんはナデシコで行われた『ゲキ・ガンガー祭り』より以前からのファンだったんです」
「ああ、そういえばナデシコAのクルーだったんだってね」
テンカワ・アキトがナデシコに乗船していたことは自分で調べたから知っている。
コックとパイロットを兼任していたらしく、何となく今の自分と重ねてしまう。
「はい。ユリカさんが艦長で私はオペレーターをやっていました。あ、ちなみにホウメイさんはナデシコ食堂の初代料理長だったんですよ」
「そうなんだ」
だからあんなに親しげだったわけか。
ホウメイさんはいかにも頼れる常識人という感じだったけど、ナデシコBには受け継がれなかったみたいだ。
どうして降りてしまったんすか?
「さてと――」
花を取替え終わったルリちゃんは墓標の前にしゃがみ込んだ。
そして、両手を合わせ瞳を閉じた。
「アキトさん、ユリカさん」
彼に、彼女に呼びかけるようにルリちゃんは声を発した。
「見ていますか?」
果たして彼らとこの子の絆はどれほどのものだったろうか?
「私、十六になったんですよ」
彼らのことを少し知りたいと思う。
「もう少女だなんて名乗れませんね」
どう生きて来たのか。
「あの言葉も使わなくなりました」
どう成長して来たのか。
「では、また来ますね」
ルリちゃんは眼を開けて立ち上がった。
……ん?
何か大事なことを――
「ルリちゃん」
「?」
「十六になったって?」
「ええ。今日は一応私の誕生日ですから」
今日。
七月七日。
日本では俗じゃなくても七夕と言う。
七夕っていうのは……。
「じゃなくて。あ、あの、ごめん! 俺何にも知らなくて、それで」
「どうしたんですか? 私が誕生日だと何か不都合でも?」
いつも通りの調子でルリちゃんは答える。
「そうじゃないよ。どうしてそんな大切なこと黙ってたのさ。言っておいてくれたら何か用意出来たのに」
「え? でも、私そんなことしてもらわなくても……」
「駄目」
ルリちゃんの言葉を遮った。
成功したかは分からないが、ちょっと怒った顔を作ってみる。
この子は俺なんかよりずっと聡いくせに、どうしてそういうところだけ非常識なんだ。
ま、分かってた反応なんだけど。
「あのね、ルリちゃん。誕生日っていうのはすごく大切な日なんだよ」
言い聞かせるように言う。
「一年に一度、その人だけのためにある日なんだ。それに、ルリちゃんはあんなに頑張ってるんだから、誰かに祝ってもらえないなんて嘘だ」
「あ……」
ルリちゃんは驚いたように眼を少しだけ見開いた。
そして、俺の顔を見つめている。
照れる。
あれ? 俺はまた何か検討外れなことを言ったのか?
「どうしたの?」
「あ、いえ。以前、同じことを言われたことがあるんです」
「そういうこと」
「アキトさんに」
「え?」
俺がテンカワ・アキトと同じことを?
……何だろう? この良く分からない居心地の悪さは。
「その時のアキトさんは、笑いながら私を叱ったんです。『もっと自分を大切にしなきゃ』って」
彼のことを話すルリちゃんはとても嬉しそうだった。
「それで、そのあと、ナデシコのクルーみんなでパーティーを開いてくれました」
その表情の中に悲しみを隠しながら。
「それからは、毎年アキトさんとユリカさんが祝ってくれるようになったんです」
だけど。
それでも。
俺は聞いてみたい、
彼のこと。
彼女のこと。
この子のことを。
「うん。それから?」
……でも、それはやはり聞いてはいけないことだったんだ。
「……私は……です。だって……ですから。……そしたら、ユリカさんが……ですよ。……私も……ユリカさんは……」
「ああ、ユリカらしいな」
「「え!?」」
声は同時。
俺と、ルリちゃんの。
ルリちゃんは俺の言葉に驚き――
俺は、俺の言葉に驚いた。
「……アキ、さん?」
「え? 俺、どうし――」
……ユリ、カ……
ずきん!
「ぐあ!」
激しい頭痛。
……ダメダ……
ずきんずきんずきん。
「う、ううううぅ」
「アキさん?」
立っていられない。
膝をつく。
……ドウシテ?……
ずきんずきんずきんずきんずきん。
「あぎ、ああああぁぁ」
……コレイジョウハダメダ……
「アキ…ん! どう……ん……か!?」
ルリちゃんが何か言っている。
聞こえない。
ずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきん。
……モウスコシデ、トドクノニ……
……ソレニフレテハナラナイ……
……アト、スコシ……
俺の手は届かなかった。
「う、ん」
眼を開ける。
どうやら眠ってしまっていたらしい。
と、気付く。
俺に覆い被さるような何か。
真近にあったのは、逆さまになったルリちゃんの顔。
後頭部には柔らかくて温かい感触。
「あれ?」
おかしい。
夢から覚めたはすなのに。まだ夢の中にいるのだろうか?
「あ」
ルリちゃんは俺が眼を覚ました(仮)に気付いた。
「大丈夫ですか? 一応調べたんですけど、異常がなさそうだったので医者は呼びませんでしたが」
「ああ、もう大丈夫。ただの頭痛だし、もう治まったから」
「そうですか」
ルリちゃんは俺の答えに安心したのか、ふっと顔を綻ばせた。
やっぱり夢か。
ルリちゃんがまさかこんなことをしてくれるなんて。俺もなかなか都合の良い夢をでっち上げたものだ。
「ところで、ルリちゃん?」
「はい」
「俺はもう起きなくちゃならない。残念だけど今日はもう帰らなきゃ」
もう少し夢の続きを見ていたいけど、現実では本物のルリちゃんが待っているんだ。
あまり待たせるわけにはいかない。
ボディ・ガードが眠っていたんじゃあ意味がない。
しかし、ルリちゃんは何故か訝しげな顔をした。
いつになく鮮明でリアルな夢だ。
そして――
ぐに。
「ひゃひっ!」
ルリちゃんは俺の頬を両手で引っ張った。
伸びる頬。
「ルリひゃん、何を」
ぐにんぐにん、ぐにーーー。
さらに伸びる頬。
結構痛い。
……ん? 痛い?
て、ことは。
「うわあああああああっっ!!」
「きゃっ」
飛び起きた。
そのまま五、六歩バックダッシュ。
「ななな、何を! 何をしてるんだルリちゃん!?」
心臓が早鐘を打つ。シノさんの包丁捌きより速いかも知れない。
あれは、凄かった。
「何? って。枕になるようなものがなかったので、私の膝を代わりに使ったんですけど。痛かったですか?」
「いや、全然! むしろ気持ちよかった! って、そうじゃなくて!」
「?」
真っ直ぐ見詰めてくる金色の双眸。
反対に俺は眼を逸らす。
「あの、だから。そのぅ。あ、ありがとう」
お礼を言うのが精一杯だった。
そうだった。ルリちゃんはそういう子だったんだ。
「どういたしまして。アキさん、もう動いても大丈夫なんですか?」
「あ、ああ」
そういえば、頭痛はいつの間にか引いている。
それに、あれだけ動ければ問題ないはずだ。
「じゃあ、帰りましょうか」
ルリちゃんも立ち上がった。
「そうだね。あ、ちょっと待って」
「何です?」
「帰る前にもう一度街に寄って行ってもいいかな?」
俺にはまだやることがある。
「別に構いませんが、何か買い忘れたものでも?」
「うん。食材を買わなきゃ」
「食材、ですか?」
「今日はルリちゃんの誕生パーティをしよう」
「え?」
そうだな、今日の夕飯は中華のフルコースだ。
借金はまだまだあるけど、今日くらいは奮発しても良いだろう。
明日からは超節約生活になるだろうけど。
「でも、アキさん……」
ルリちゃんは俺の懐具合を知っているので、心配そうな顔をしている。
「もう決めた。今日はみんな集めてパーティだ。ルリちゃんが嫌だって言っても俺はやるからね」
「…………はい」
ルリちゃんを言いくるめられたのはこれが初めてかもしれない。
でも、ちょっと強引だったかな?
そのころ……。
「ルリちゃん、どうして私には手を合わせてくれないのよ。不公平じゃないかしら? 別に良いけどね……アイは泣かないもん」
愚痴っていた。
で、そのパーティはというと――。
酒の入ったハーリーくんがまたハリ・ガンガーに変形したり、サブロウタさんは相変わらず女の人を口説いてたり、ソウさんが俺に酒を一升瓶ごと飲ませようと
したり、ジンが宴会芸で金を稼いでいたり、シノさんはずっと俺の背中に張り付いていたり、『テンガ・アキ抹殺(以下略)』が押し寄せてきたり、それを見な
がらルリちゃんは少し可笑しそうにしていたりと、そんな感の大騒ぎで大変だった。……ついでに俺の財布の中身も大変だった。
そして、それは俺にとって――
つかの間の――
最後の――。
<あとがき……か? これ>
こんにちは、時量師です。
今回は早めに書き上げることが出来ました。良かった。
前回、シノさんとサブロウタさんがアキくんを行かせたのはルリちゃんの誕生日のことを知っていたからみたいです。
今回。
アキくんがちょっとヤバいことになってる感じですね。一体彼はどうしてしまったのでしょう? ですが、やっと主人公な雰囲気が出てきましたね。
そして、ルリちゃんもヒロインの面目躍如といったところでしょうか。
さて、この話あと二話くらいしたら後半、劇場版に突入しちゃいそうです。
ひとつ断っておくと、時量師は劇場版のイメージをあまり崩したくないので、各キャラクターの台詞をほとんどそのまま使ってしまうと思いますがご容赦下さ
い。
勿論、オリジナルの面々も登場させるつもりですけど。
では、また次回。
感想
むむぅ、そうなのですか、劇場版は後編なのですね。
今回はアキさんがアキトさんな記憶
が出てきたりして大変でしたね。私としては三つほど理由が考えられますが、あえてここで言及するような事でもないでしょう。
そうだね、でもそのうちひとつには実はアキ君がアキトであるっていうのもあるから目が放せないよね。
そうですか? まあ、後半になれば
イヤでも判ることです。シラヒメ襲撃までそのままと言う訳には行きませんからね。
そうだね、で今回はアキ君に膝枕なんかしちゃったりけっこうそっち系のイベントもおおかったね。
…まあ、彼の面影にはやっぱり惹か
れるものがあるでしょうし、一応彼女は私ではないので…同一視しないでくださいね。むしろ彼女の方が原作に近いです。
おお! 以外に謙虚に認めている…
仕方ないでしょう、私は駄作作家の
作品内で生まれてしまったのですから!! いっそどこかに選手交代してくれる人がいるならして欲しいぐらいです!!
グッ!? 相変わらずひでぇ台詞を…
そんな事より時量師さんから質問を
預かっています。 内容はラピスラズリの性格についてです。
ぬぅ、難しい事を…(汗)
何でです?
ラピスに性格があるのか無いのかを分るのは劇場版の製作に携わっ
た人たちくらいだと思う。
相変わらず、ムックが無いので分らない部分も多いけど。
結局の所彼女の性格を現している部分が殆ど無い。
あえてあげるなら、最初のアキトとリンクで話していたシーン、ラピスは無言でアキトの言葉を実行している。
続いて、アキトと電車に乗ったシーンではアキトの前にただ佇んでいるだけ。
オモイカネを介した電子ネットワークでの会話は有名だね「私はアキトの目、アキトの耳、アキトの手、アキトの足、アキトの、アキトの…アキトの……」
そして、トラウマと思える血にぬれて刀を振り下ろすホクシン。
キャラとしては無茶苦茶判りやすい気がしないでもない。
簡単に言えば感情が殆どなくホクシンとのトラウマの所為で余計感情を否定している。アキトの一部として感情もなく付き従う存在。アキトのパーツ。
自己の存在をアキトを通してし認める事ができない感情の壊れた存在、それがラピス。
ハードですね…
ああ、どうにもラピスに関係する部分はハードなのが多い。ラピス
が君のクローン的な存在であると以前仮定したそれにも係っているんだけどね。
彼女はとことん不幸な設定なのだろうと思う。アキトは多分罪悪感を持っているんだろうけど、ラピスはそのことにすら気付けないんじゃないかな。
感情すら半場共有しているかも知れない。アキトと共に居る事は彼女の全てだろうしね。
なんだ、結構いえる
じゃないですか。
いや、殆どが劇場版からの予測だからね…どこまで当たっているやら…(汗)
ただの当てずっぽう
ですか…(汗)
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
時
量師さんへの感
想はこちらの方に。
掲示板で
下さるのも大歓迎です♪