機動戦艦ナデシコ
〜The alternative of dark prince〜
第十六話 水面に映った『欠片とカケラ』
俺たちはナデシコに戻って来た。
「おまたせです」
ルリちゃんはまた小さくピースを作る。
不釣合いなその仕草が可愛いといえなくも……可愛い。
<おかえりなさい>
一番に出迎えてくれたのはオモイカネ。
AIのくせして義理堅い。親近感の持てる奴だ。
だが、その <なかなか隅に置けませんねぇ♪> のウィンドウは消してもらえないだろうか。
「あ、艦長。おかえりなさい。ってぇ、アキさん! いつまでそうしてるつもりですかあっ!」
ハーリーくんが俺たちの方を振り向き叫ぶ。
何だか眼が充血して……逝っちゃってる!? 怖っ!
「あ」
そういえば、ルリちゃんを抱きかかえたままだった。
この状態は……いわゆるひとつの『お姫様だっこ』。
うわぁ。改めてみると、これはかなりおいし……いやいや、危険なシチュエーションだ。色々と。俺的に。ナデシコ的に。
顔が熱くなるのを感じる。今熱を測ったら確実に風邪と診断されるだろう。
ブリッジにジンやサブロウタさん、シノさん(要注意!)がいなくて良かった。
「何が『あ』ですか! 早く艦長から離れて下さい!」
「あ、ああ」
ハーリーくんの眼力に怯みつつ、慌ててルリちゃんを下ろした。
ルリちゃんは自分の席に移動していく。……ちょっとだけ名残惜しいかも。
「艦長、どうします?」
ハーリーくんは俺を睨みながら言った。
……ごめんよ、ハーリーくん。もの凄く怖いからその眼は封印してくれ。
他のクルーたちもビビってるじゃないか。
「戦闘モードに移行しながら、そのまま待機。当面は高みの見物です」
「加勢はしないんですか?」
「ナデシコBは避難民の収容を最優先します」
通りすがりの統合軍の兵士の人から聞いた話では、俺たちの予想通りに例の幽霊ロボットが出現したらしい。
統合軍の人たちはシステムの暴走に加え、急な襲撃のために迎撃や防御で手一杯のようだった。あの様子じゃ統合軍で救助なんてことを考えている人はあまりな
いだろう。それに――
「それに、向こうからお断りって感じですから」
「はぁ」
ぴこんっ
『その通り!!』
正面のウィンドウいっぱいに映し出されるアズマ准将。暑苦しいことこの上ない。
さらには飛ばした唾によってウィンドウが水滴だらけになり、女性クルーたちは明らかに不快な顔をしている。
『今や統合軍は陸海空! そして宇宙の脅威をも打ち倒す無敵の軍だ! 宇宙軍など無用の長物! まぁ、そこでゆっくり見ているが良いわ。ぬはははは、はは
はははははっ!!』
ぴこんっ
「何か熱血ですねぇ」
ハーリーくんは呆れ半分感嘆半分といった感じに言う。
俺はむしろ、よくあそこまでヤな奴の役をやれるものだと感心を覚えた。
それはそうと――
「ルリちゃん、俺はどうすれば?」
「アキさんはエステバリスで待機していて下さい」
「分かった」
俺はハーリーくんの邪眼とクルー全員の顔を全力で見ないふりをして格納庫へ向かった。ダッシュで。
…………キト…………
…………キト…………どこにいるの…………
…………わたしは、ここにいるよ…………
「――あれ?」
眼前に広がるのは真っ黒な空間。
時々あちらこちらで閃光が弾けている。
「ここは……」
辺りを見回す。
周りにあるのはどこの部分かが辛うじて分かるくらいに破壊された、クリムゾン製の機動兵器ステルンクーゲルの残骸。
考えるまでもなくナデシコの中ではない。
俺はいつの間にかエステバリスで宇宙を漂っていた。
さっきまで格納庫にいたはずなのだが……どうしてここにいるのだろうか? 思い出せない。
ううむ。
取り敢えず移動しようと思い、右手に少し力を込める。
……。
右手に力を込める。
…………。
力を込める。
………………。
込める。
……………………。
あれ? 反応がない。ついに俺のIFSは壊れてしまったのだろうか? だったら拙いことになった。この辺りには統合軍もいないし、何故かナデシコにも連絡
が取れず、助けを呼ぶことが出来ない。
ま、まさか! この状態って、
………………迷子? この歳になって。
そんなことを考えているうちに、俺のエステバリスは勝手に動き出した。
いや、俺の右手はちゃんと操縦桿を握っている。ならばこれは勝手にではなく俺の意思で動かしていることになるはずだ。だが、これは……まるで何かに引き寄
せられているような、何かに導かれているような……。
手を離す。エステバリスが止まる。
手を置く。動き出す。
普通の反応なのだが何かがおかしい。俺のイメージを伝達しているはずが、俺の意思とは関係なく動く。
いろいろ試してみたけれど、結局俺に出来るのは操縦桿に手を添えることだけだった。
ゆったりとした動きではあるが目的地ははっきりしているらしい。俺のエステバリスは一直線に進んでいく。
さながら闇夜を彷徨う幽鬼のように。ゆらゆらと。
向かう先は、どうやら『アマテラス』の内部らしい。
ゲートを潜る。
ずきん
真っ直ぐ進み、今度は降下。
ずきん。ずきん
そして、巨大な鉄の扉の前で俺のエステバリスはその動きを止めた。
ずきん。ずきん。ずきん
どうやらここが目的地のようだ。
誰の?
答えは、ない。
『パスワードを入力してね♪』
扉に付いているナンバー式の鍵からアニメのキャラクターのような可愛らしい声が出てきた。
エステバリスのマニュピレーターでは大きすぎてボタンを押すことが出来ない。
コックピットを開け、一旦外へ出ようと――
『――ソレに触れるな』
頭に響く。
冷たく、無機質な声。
およそ生き物の温かさというものが感じられない。
頭痛が激しくなる。
何かを思い、
何を思ったか、
俺は、振り向いた。
そこにあったのは――――虚像。
眼が眩む。
焦点が定まらない。
頭がグラグラする。
気持ちが悪い。
それは――
鏡と対峙しているような――
水面を覗いているような――
自分が自分を見ているような――
自分の目では据えられるはずのないモノを視覚しているような――
そんな、心地の悪い感覚。
だが、違う。
そこに映るは虚像でありながら真逆の像。
似て非なるもの。
自分とは異なるもの。
自分ではないもの。
自分にはないもの。
まるで、自分に欠けている――――断片。
そう――
遠い昔に無くした――――面影。
ずっと探していた――――パズルのピース。
離れていった――――温もり。
忘れていた――――記憶。
引き剥がされた――――想い。
――それが今、見つかった。
そんな、懐かしいものに出逢った気分。
だが、分かっている。
認識している。了解している。承知している。理解している。確信している。
見てはいけない。
聞いてはいけない。
触れてはいけない。
感じてはいけない。
求めてはいけない。
望んではいけない。
願ってはいけない。
さすれば、俺という存在が――――
――――コワレテ死マウカラ。
それは、俺が殺されるには十分な時間だった。
しかし、その見たこともない型の漆黒の機体は俺のエステバリスを攻撃するでもなく、ただそこに佇んでいた。
俺と同じように。
俺と同じことを感じているかのように。
まるで、鏡の向こう側のように。
しかし、沈黙は長くは続かなかった。
『……何故ここにいる』
『よーし! そのままーそのままー!』
機械のような男の声を活発そうな女性の声が遮った。
後ろから現れたのは赤色のエステバリス。
そして、黒い機体にワイヤーのようなものを飛ばし、張り付かせた。
『オレは頼まれただけでね……この子が話をしたいんだとさ』
ここからではその話を聞くことが出来ない。
……。
何を話しているのだろう?
――と。
『……ラピス、パスワード解析』
男の声だけが聞こえた。
黒い機体の背後から尻尾のようなものが伸びる。
その先端がさらに小さく分かれ、生き物のように蠢きボタンを押していく。
……snow……white?
『……時間がない。見るのは勝手だ』
その声に促され、俺はもう一度振り向いた。
鉄の扉がゆっくりと開く。
…………アキト…………
ずきん。ずきん。ずきん。ずきん。ずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずき
んずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずき
んずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずき
んずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずき
んずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきんずきん
頭痛は止まない。
そこにあったのは、金色の――――
『なにぃ!? おい、ルリぃ! 見てるか!?』
ソレを見て明らかに取り乱す赤いエステバリスのパイロット。
え? ルリちゃん?
『リョーコさん』
その声は、確かにルリちゃんのもの。
女性を諌めようとする声が微かに震えているのが分かる。
『リョーコさん、落ち着いて』
『ありゃ何だよ』
『リョーコさん!』
『何なんだよ、ありゃあ!!』
『リョーコさん!!』
『くうっ!』
『形は変わっていても、あの遺跡です。この間の戦争で地球と木星が共に狙っていた火星の遺跡。ボソン・ジャンプのブラックボックス』
火星の……遺跡。
それは、五年前、彼らが――。
『「ヒサゴプラン」の正体はこれだったんですね?』
『……そうだ』
短く答える声。感情が欠如した声。
でも、それが自分のものだと思ってしまうのは何故?
理解している。ただ、眼を逸らしているだけ。
『ルリぃ』
『え?』
『これじゃあいつらが浮かばれねぇよ』
悲しそうな女性の声。
あいつらとは、やはり彼の、そして彼女のことだろうか。
『リョーコさん……』
『何でこいつらがこんなとこにあるんだよ……』
『それは、人類の未来のため!!』
突然巨大なスクリーンが出現し、映し出されるひとりの男。
『クサカベ、中将!?』
『リョーコちゃん、右!』
黒い機体の声が語気を荒げる。
『くっ』
その瞬間、どこからか新たな機動兵器が現れ、赤いエステバリスを弾き飛ばした。
『ぐっ! ぐあぁ! うわぁっ!』
現れたのは全部で六体。
速い。
次々と長い棒のようなものを投げつけていく。あれは……錫杖?
辛うじて致命傷は避けたものの、赤いエステバリスは貼り付けにされてしまった。
瞬く間の出来事で、俺は見ていることしか出来なかった。
一方、黒い機体は腕と一体化したライフルを掃射し、六機を牽制する。その操縦に俺は暫し見惚れてしまった。
そして、赤い機体と俺の前に背を向けて降り立った。
『……お前たちは関係ない。早く逃げろ』
『今やってるよ! おいこら、そこのおめぇ! 見てないで手伝え!』
「え? あ、はい」
赤いエステバリスの片腕と片足を切り離し、何とか動けるようにする。
その機体を抱え、後退しようとしたそのとき、鈴の音のような軽い金属音が響いた。
――――シャリーン
『な、何だぁ!?』
頭上の空間が歪む。何者かが顕現してくるようだ。
足の方から実体化したのは、エステバリスとはまた違う真っ赤な機体。
『一夜にて、天つ国まで伸びゆくは、瓢の如き宇宙の螺旋』
低い、男の声。
脳に直接突き刺さる。
粘りつくように――全身に――まとわりつく。
この、声――
痛い。
背中が痛い。痛い痛い痛いイタイイタイ!
無理矢理に傷跡を広げられるような感覚。実際、血が流れ出ている感触が背中を満たす。閉じていた傷口が今頃になって開いたようだ。
眼球が焼けるように熱い。もしかすると血管の何本かは切れているのかも知れない。
視界が真っ赤に染まっていく。
手足が震える。
怖いのか?
違う。
この感情は恐怖ではない。
怒り。そう、明確な怒りだ。俺は怒りで全身が打ち震えている。眼の前のアレを早く、と。
シャリーン
『……女の前で死ぬか』
『おんなぁ?』
遺跡が、動く。
敏感に反応し、ついさっきまで煮えたぎっていた俺の体温が急速に冷めていく。
赤く焼けた鉄が、液体窒素にでもぶち込まれたかのように。
ただ、脳髄だけが沸騰している。
そこで――
ずくっ!
遺跡が――
ずくっ!
花弁が開くように――
ずくっ!
一枚一枚――
ずくっ!
その中から――
ずくっ!
影が――
ずくっ!
人影が――
ずくっ!
女性の姿を――
ずくっ!
模って――
ずくんっ!
ミルナミルナミルナミルナミルナミルナミルナミルナミルナミルナミルナ!!
ソレは駄目だ。
見れば俺の意識は崩壊する。俺がオレでなくなってしまう。
わかっているのに、
わかっていたのに、
俺の視線はソレから離れることはなかった。
眼を背けることなど、出来るはずもなかった――
…………………アキト!………………
「あ、あああ、ああああうああああ■■■■あああ■■ああああ
あああああああああ■■■ああああああああああぁぁぁぁぁアああアぁああ■あああぁぁアアぁぁ!!!!!」
<あとがき……か? これ>
アキくん、発狂しました。
こんにちは、時量師です。変な世界から帰ってきましたよ。
さて、第十六話。ついに、ついに、ついに本当の主人公、黒い王子様の登場です。……長かった。
ですが、数えてみると、ひぃふぅみぃ……六回しか喋ってない。しくしく。
今回はアキくんとアキトくんの関係性のヒントをいたるところにちりばめてあります。おそらくわかってしまった方もおられるとは思いますが、その答えはまだ
心の中に仕舞っておいて下さい。他言無用ですよ?
話は変わりますが、時量師は『らぶ』が苦手みたいです。
そんな話を考えている途中、何故かギャグの方へ傾いていってしまうのです。『らぶ』が書ける人は素晴らしいと思います。
現実世界での体験が乏しいせいでしょうか?
アキトくんとルリちゃんの『らぶ』のために、何か良い方法などあれば御教授願います。
次回について一言。
シノさん出ます。以上。
では、また次回。
感想
時量師さん、色々私もアドバイスしてきたつもりですが、考えてみると私は感想の書き方をアドバイスして欲しいと思います(泣)
アキトさんカッコいいとか、アキトさん強いとか、アキトさんラブ♪ とかいろいろあるでしょう?
そりゃ、君はね(汗) ってそう言えば、アキ君がアキトではない事予測してたみたいだけど、その辺に関して少し教えてくれないかな?
そういうのは駄目です。それに、時
量師さんが止めてますしね…違ってるかも知れませんし、時量師さんのお手並み拝見ですね。
因みにクローンとかは?
違いますよ、記憶の引継ぎと言う面でおかしいでしょう? まあ全く関連性が無いともいえないと思いますが…
ううぅ…わからん…(汗)
アホは気にしなくて良いです。今後の参考に、見せてもらっておきなさい。それほどかからずに結果が分るともいますよ。
そんなものかね…(汗)
それよりも、今回は少し講義する事
がありましたよね?
ああ、フォントサイズについて少し語らせてもらう、フォントサイズは8段階ある、
先ず−3は「こういうサイズ」になる。次は−2「このくらいのサイズ」 続いて−1は「こういう感じ」だ。でプラ
スマイナスゼロはそのまま。
マイナス3って見えるんですか?
ぎりぎりね、でも見えない人もいると思う…
で、+1は「このくらいの大きさ」 続いて+2は「こういう感じ」
+3になると「これ位」になる。そして、これが最大+4「こ
れがそう」
投稿するさいは憶えておいて損は無い、因みに私には使えないけれどこれ以上の大きさも存在はする。
それから、太字にする事でさらに大きく見
せる事もできるまあ、こんなかんじかな?
これはどうやって指定するんです?
丸時で良いんじゃないかな?
他にもフォントパターンは存在しま
すがどうします?
流石にそこまでは責任負いかねる、それくらいやりたい人は自力でネスケを操ってください。
ネットスケープ7.1は無料でダウンロードできるしね。
流石に限界と言う訳ですね、この辺
はまあよくやっている方だと認めてあげましょう、最近はですけど。
確かに投稿が増えたのは極最近だしね…(汗)
で、もう一つの質問は?
ははは…ラブっすか…(汗) 書けている人に聞いてみるのが一番でしょうねそれは。
貴方にはむりですもんね。
私で出来る助言は、ライン取りだけですね。
ライン取りですか?
そう、恋愛事には本来ルールはありません、しかし小説内の恋愛となれば話は別です。
ライン取りは私が使っている独自用語ですが、簡単に言えばどこまでやらせるか。どこまでの思いを作るかという二つから成り立っています。
どこまでやらせるかとは、つまり、もじもじとさせるだけか、スキンシップはありか、積極的か、消極的か、キスまではOKか、もっと先までOKなのか、とい
うラインです。
これを決めておく事は割と重要です。キャラごとにです。作品全体の雰囲気にも係りますので、全体的にどこまで可であるかという部分もあります。
次はどういう風に思っているのか、です。
これは、友人として思っているのか、恋愛対象なのか、血縁関係の思いなのか、
恋愛なら、好きだと自覚しているのか、居ないのか、
自覚しているにしても、友人の延長線上なのか、恋人としてなのか、夫婦になりたいのか、憧れているだけか、格好良いと思っているだけか
それとも、永遠に愛し続けるつもりなのかと言う事です。
ここで重要なのは読者様方の評価ではありません、自分の中できちんと出来ているかどうかです。
そういう関係の二人が出会えば何が起こるかは作者さんなら直ぐにわかると言うぐらいキャラを練りこんでおけば問題ないでしょう。
場面はどうとでもできます、キャラをしっかり作っておけば、展開はその辺の情報媒体で取得可能でしょう。
長文済みませんでした。(汗)
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
時
量師さんへの感
想はこちらの方に。
掲示板で
下さるのも大歓迎です♪