機動戦士ガンダムSEED Destiny
〜Whereabouts of fate〜
プロローグ
C.E71、6月15日。
地球軍とZAFT、この両者による戦争が始まってから1年と数ヶ月が経ったこの日。
中立を謳っていたオーブは、戦火の中にいた。
オーブ解放作戦
解放、と称されてはいるが、その実態は地球軍による侵略だった。
無論オーブも抗戦し、ある程度の善戦はしたものの、圧倒的な物量差を埋める事はかなわず、ついには本土への侵攻を許してしまった。
そしてこの日、1人の少年が、戦火の中で家族を失った。
少年―シン・アスカは、家族と共に避難用船舶が泊まっている港へと向かっていた。
彼の家は港から最も離れた区画にあり、それ故、避難が間に合わず、本土侵攻と重なってしまったのだ。
それでも必死に走り続け、ようやく港が見えた時、彼の妹が買ったばかりの携帯電話を落としてしまった。
「ああ、マユの携帯!!」
妹―マユの声に最後尾を走っていたシンが彼女の視線の先に目を向けると、右手の斜面にある木の根元に、ピンク色の携帯があった。
本当なら携帯などを気にしている余裕は無いのだが、嬉しそうに携帯を構っている妹の姿を思い浮かべた彼は、その落し物を取りに斜面を下った。
これが、彼と、彼の家族の命運を分けた。
彼が斜面を下り、携帯を掴んで空を見上げた瞬間、突然の爆風によって、彼はその場から吹き飛ばされた。
「うわぁああ!!?」
突然の事態に悲鳴を上げながらも、反射的に体勢を整え、両足を地面につけて斜面を滑り落ちていった。
やがてその勢いも無くなり、ようやく顔を上げた彼の視界に映ったもの。
それは、炎と煙に包まれた、さっきまで家族がいた筈の場所。
その光景に思考が止まったが、直ぐに気を取り直すと、斜面を駆け上がった。
「父さん、母さん! マユ!!」
両親を、そして妹の名前を呼びながら斜面を駆け上がった彼の目に映ったのは、変わり果てた、家族だったモノ。
上半身の見当たらない父親。
手足をありえない方向に折り曲げ、力無く倒れている母親。
そして、右腕を失い、瓦礫の上で息絶えている妹。
「あ、あぁあ・・・」
その光景に呻き声を上げながら、ゆっくりと家族の下に近づいていると、何かがつま先に当たった。
何だろうと思い足元に目を向けた彼が目にしたモノ―――それは、吹き飛んだ妹の右腕だった。
それを見た彼は、今度こそ力を失い、地面に跪いた。
「うぁ・・・あああ・・・あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛・・・・・・」
声にならない泣き声と共に涙を流していると、先程の爆発を聞いた軍人数名が、彼の元に走り寄って来た。
「君っ!! 大丈夫か!!?」
安否を問いかける軍人の声にも耳を貸さず、彼はただ涙を流し続けていた。
そして右手に持った妹の携帯を強く握り締め、憎悪の炎を宿した紅い両眼で、上空を飛び交う白いMSを見た。
蒼い翼を広げた天使を思わせるそれは、彼にとっては悪魔にしか見えない。
彼は見ていたのだ。
あの白いMSから放たれた砲撃が、彼の家族がいた場所に直撃した瞬間を。
空には彼の家族を奪ったMS。
周りには、家族だったモノの成れの果て。
そんな中で彼は、
「あ゛あ゛あ゛・・・あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁっぁっああああ!!!!!」
憎悪と悲しみに彩られた、聞く者全てを強張らせる様な叫び声を上げ、そのまま意識を失った・・・。
次にシンが目を覚ましたのは、見知らぬ部屋のベッドの上だった。
ゆっくりと起き上がり、辺りを見回す。
白を基調とした清潔感の漂う室内と、微かな消毒液の匂いから病院だと判断すると、シンは自身の右腕に目を向けた。
そこには点滴用の針を刺された、細い腕があった。
「これが・・・俺の腕・・・・・・?」
信じられないような声で、シンは呟いた。
彼は幼い頃から、近くに住んでいたオーブの軍人から格闘術を教わっていた。
その為、細身だがしっかりとした体付きをしていたのだが、今の彼からはそんな事を感じられない。
頬は痩け、筋肉は落ち、全体的に危うげな雰囲気が漂う今の彼は、まるで余命の無い病人のようだった。
自身の変わりように驚いていたシンは、そのまま辺りを見回し、ふとベッド脇にあるサイドテーブルに目を向けた。
そこには、花の生けられた花瓶と、ピンク色の携帯電話が置かれており、その携帯を目にした途端、あの時の光景が浮かび上がった。
突如空から降り注いだ破壊の光
爆風に吹き飛ばされた自分
そして、炎の中に横たわる、変わり果てた家族の姿
「あぁぁあ、ぁ・・・うぁあああああ・・・・・・!」
それを思い出したシンは、その光景を振り払うように、声を押し殺しながら泣き続けた。
その少し前、病院の廊下をオーブの軍服に身を包んだ2人の男性が歩いていた。
精悍な顔つきの男性―トダカ二佐と、彼よりも若い男性―アマギ二尉だ。
彼らは、あの時気を失った少年、シンの見舞いにこの病院を訪れていた。
気を失ったシンを避難船へ運び、他の中立国の病院に担ぎ込んでから2週間が経過していた・・・。
「理念は守ったが、国民は守れなかった・・・。我々は、軍人失格かもしれんな・・・・・・」
「ですが、オーブがオーブである為には、あれしか方法が無かったのも事実です」
「それは分かっている・・・。だが、それでも割り切れんものはある・・・・・・」
「そう、ですね・・・」
自嘲と共に話すトダカに、アマギも静かに頷いた。
彼らの脳裏に浮かぶのは、家族の遺体の前で泣き叫ぶ少年の姿。
オーブの理念を守り抜く為、彼の家族を、守るべき国民を犠牲にしてしまった罪悪感が、彼らの表情を曇らせていた。
病室の前に着いた彼らは、数回のノックの後、その扉を開けて中に入った。
「失礼するよ・・・・・・っ!?」
「どうしたんですか、トダカ二佐・・・っ、これは・・・」
彼らが見たのは、声を押し殺して泣き続けるシンの姿。
だが彼らが息を呑んだのは、シンの変わり様だった。
頬は痩け、危うげな雰囲気を纏ったシン。
そして彼らが最も驚いたのは、その髪の毛だった。
黒かった髪は白に近い灰色となり、その瞳とあわせればアルピノ(先天性白皮症)と思えるような姿となっていた。
人は非常に大きな精神的ショックを受けると、その影響で白髪化するという。
そして、家族の変わり果てた姿を目にしたシンが、白髪化するだけのショックを受けたとしても不思議ではなかった。
「・・・アスカ君・・・」
トダカの声に顔を上げたシンは、赤く腫れた目で2人の軍人を見た。
彼らの顔は知らないが、その声は微かに覚えていた。
あの時、家族の前で泣き崩れていた自分が、気を失う前に聞いた声だ。
「あの時の方、ですか・・・?」
「ああ、挨拶が遅れたね。私はコウイチ・トダカ、こっちは部下のアマギだ」
「シロウ・アマギです」
「・・・シン・アスカです・・・・・・」
その弱々しい声に、トダカ達は益々罪悪感を募らせた。
一方のシンは、自分の家族を守ってくれなかったオーブの軍人が目の前にいるのに、憎しみは湧かなかった。
「まずは謝らせてくれ・・・。不甲斐無い軍で、申し訳なかった・・・!」
「それは・・・、あなた方のせいじゃ・・・」
「いや、我々軍人の役目は、国民を守る事だ。それを、私達は果たせなかった・・・」
「君には、我らを恨む権利がある。君の気が済むのなら、幾らでも罵倒してくれて構わんよ・・・」
そう言って頭を下げる2人を見てようやく、シンは彼らへの、自分達を守ってくれなかった者への怒りを抱いた。
「1つ、教えて下さい・・・。あのMS、蒼い翼を持ったあの白いMSは、何なんですか・・・」
「あれは、フリーダムという機体だ。陣営としては、我々、つまりオーブ側についていた」
「っ!?」
それを聞いて、シンの怒りは最高潮に達した。
あれがオーブの味方だと・・・!?
ならば自分の家族は、オーブの民である自分達は、味方に討たれたというのか!!?
「なんでだよ・・・なんでっ・・・!?」
彼も、分かってはいるのだ。
万人を救える者など、現実には存在しない。
全てを救う正義の味方がいるのは、アニメや物語の中だけだ。
10全てを救う事など、現実ではなしえない。
ヒトに出来るのは、1を切り捨て、残った9を救う為に足掻く事だけなのだと。
だが、例え頭では分かっていても、それを受け止める事は出来なかった。
何故なら、彼の家族は、オーブの理念という『9』を守る為に切り捨てられた『1』なのだから。
「ちくしょう・・・なんで・・・うあっ、うあぁ・・・・・・あああぁあああああ!!!」
トダカとアマギが目を伏せる中、病室には、シンの悲しみに満ちた慟哭が響き渡っていた・・・・・・。
あとがき
はじめまして、駆け出しSS作家のトシと申します。
このSSは現在放送中の『機動戦士ガンダムSEED Destiny(以降は種運命と略します)』の再構成となってます。
いまいち主役として扱って貰えないシン君をどうにか出来ないものか・・・。
そんな考えから生まれたこのSS。
最後までお付き合い頂ければ幸いです。
それでは、また次回にお会いしましょう〜。
感想
トシさんより頂きましたシードディスティニー作品です。
非常に申し訳ないのですが、現在ひのぼりとの契約がまだ終わっておらず、通常のHP部分に掲載されておりますが今週中にはひのぼりに移す予定です。
まぁその辺は兎も角、ウチにもついにきたかと言う感じですね〜
駄作家と違って目の付け所が違いま
すね、シルフェニアの火付け役になってくださる事請け合いです!
そうだね、シルフェニアもこれからはもう少し幅広い作品を受け入れて行きたいと考えていた所だし。
トシさんのようにサンライズ作品を送ってくださる方がいればシルフェニアも活気付くね♪
まあ、久々に新規作
家さんが来て下さって浮かれるのも分りますが、先ずはきちんと感想を書きな
さい。
ははは…(汗)
では、感想を一つ。
作品としてはプロローグ段階ですので、シンの印象が少し柔らかくなっていると言う事が一番印象的でした。
後は何かコウイチ・トダカ&シロウ・アマギというコンビは気になりますね。
これで、シンはオーブ全てを憎む必要が無くなったということでしょうか、この先楽しみです♪
SEEDのシンさんはちょっと主役
としては微妙な評価みたいですから、上手く魅力を引き出せると良いですね♪
私も7月の上旬に一本上げることが出来るかも知れません、トシさんお互い頑張りましょうね!
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ト
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