機動戦士ガンダムSEED Destiny
〜Whereabouts of fate〜
第三話 予兆の砲火(後編)
コンディションがイエローに下げられ、格納庫では整備員達が各機体の整備に大忙しだった。
「しっかし、まだ信じらんない! 嘘みたいだよな」
「ああ……」
赤いザクウォーリアのコックピットに顔を突っ込みながら言うヴィーノに、その近くでチェックボードを構っているヨウランがしみじみと答えた。
「なんでいきなり、こんな事になるんだか……」
ヴィーノの言葉は、今ミネルバに乗っている者全員の総意といってもいい言葉だ。
進水式も迎えないまま実戦に放り込まれ、クルー達は戸惑っている。
特に、ヴィーノ達のような新兵は初の実戦なのだから、たまったものじゃない。
「でも……まさか、このまま戦争になる、なんて事は……ないよな?」
「……だと思うけどね」
声を潜めながら言うヴィーノに、ヨウランは肩を竦めながら答える。
そんな彼らの会話を聞きながら、シンは格納庫の中を横切った。
戦争。
その言葉と共に、失った家族の事やあの時の光景が頭を過ぎり、彼の目が微かに翳る。
戦争など、誰が好き好んで起こすというのだろうか。
再び戦火に巻き込まれたいなど、思う人間などいるはずもない。
だというのに、MSを奪い、工廠を破壊し、ある意味宣戦布告とも取れる行動を起こした、敵の部隊の意図が分からない。
あんな大事をしておいて、ザフトが黙っていると思うのだろうか。
それとも、あいつらは戦いを、戦争を望んでいるのか?
そう考えていたシンの目に、またあの左腕の無いザクが留まった。
「なあ。あのザクに乗ってたの……誰なんだ?」
近くにいたヴィーノ達に尋ねたが、彼らは知らないらしく首を傾げる。
そこに、背後から声が掛かった。
「あれに乗ってたのは、オーブのアスハ代表よ」
その声に振り返ると、ルナマリアが自分の機体に取り付きながら大仰に肩を竦めている。
「それで、さっきは大騒動だったんだから」
「オーブの……アスハ……」
壁を蹴り、自分もまたルナマリアの機体に寄る。
オーブ、アスハ、その二つの単語を聞いて、シンの中で何かが急速に冷え切っていく。
そんなシンに気付く様子もなく、ルナマリアは話を進めた。
「うん。私もビックリした。こんな所でオーブのお姫様に会うなんてね!」
オーブの姫、カガリ・ユラ・アスハの事はシンも知っていた。
自分よりも少しだけ年上の少女であり、亡き父の後を継ぎオーブの代表となった人物。
先の大戦では自らMSを駆り、戦争終結の為に戦ったオーブの英雄。
オーブ解放戦の前日、徹底抗戦の意を伝えるウズミの隣にいた彼女を、TV越しに見たのが最後だっただろうか。
それとも、オーブが中立国としての立場を取り戻し、その代表としての挨拶を行っているのを見た時だっただろうか。
―――どうでもいい……。オーブも、あの人も、俺とはもう関係ない……。
隣ではルナマリアがやや興奮した面持ちでカガリについて話しているが、それを聞く度にシンの頭の中は冷たくなる。
「……で、あのザクがどうかしたの?」
そんなシンを現実に引き上げたのは、ルナマリアの問い掛けだった。
「……いや。さっき助けてもらったから、誰が乗ってたのか、少し気になって……」
「ああ、なるほど。操縦してたのは護衛の人みたいだよ。確か、アレックスって言ってたけど……」
シンの言葉に答えると、ルナマリアは目を輝かせながら身を乗り出した。
明らかに好奇の色を宿した藍色の瞳を見ながら、なんでこんなにわくわくしてるんだろうと思っていたシンだったが、それもルナマリアから発せられた言
葉ですぐに分かった。
「……でも、アスランかも」
「アスランって……あの、アスラン・ザラ? 俺達の先輩の?」
シンの相槌に大きく首を縦に振りながら、ルナマリアは続ける。
「そう! 代表がそう呼んだのよ。確か、今はオーブにいるって噂だったし……」
アスラン・ザラ。
これは、ザフトにいる人間、特に若い世代にとっては憧れの対象だ。
連合の新型MSストライクを単機で撃墜し、その功績を称えられネビュラ勲章を授与。
後に評議会直属の特務隊『フェイス』に配属され、同時に当時の最新鋭機『ZGMF-X09A ジャスティス』を与えられたエースパイロッ
ト。
軍部においてはまさにエリート中のエリートと称され、あの融通の利かないことで有名なジュール隊隊長、イザーク・ジュールが認める数少ない人物なの
だから。
だが、戦後は軍を脱走。
その後の消息は不明とされ、確かにオーブへ亡命したという説もあったが……。
「……ま、いいか」
何故ザフトを離れ、オーブに亡命したのかは分からないし、知るつもりもない。
何をどうしようと本人の自由だし、自分が口出しできる事でもないだろう。
そんな考えら出た言葉だったのだが、
「あれ? シンってば食いつき悪いよ? もっとこう、何かあるんじゃないの?」
あっさりとした対応がお気に召さなかったのか、ルナマリアは不満そうな顔でシンを見ている。
そんなルナマリアに苦笑しながら、シンはその場から離れた。
「しかしこの艦も、とんだ事になったものですよ」
通路を進みながらデュランダルは述懐する。
「進水式の前日に、いきなり実戦を経験する事態になろうとは……」
カガリとアスランはデュランダルに伴われ、ミネルバの艦内を案内されていた。
彼らの先を、レイが先導する。
途中ですれ違った兵士が一行に敬礼すると、アスランは反射的に、見事なザフト式の敬礼で返す。
それを見た兵士は、何故一般人がザフトの敬礼を知っているのかと首を傾げていた。
先導するレイが一基のエレベーターの前で立ち止まり、ドアを開けながら告げる。
「ここからMSデッキに上がります」
「……え?」
その言葉に、アスランとカガリはつい顔を見合わせた。
そしてデュランダルを窺うが、当の本人は気にした様子もなく、彼らを促してエレベーターに乗り込む。
いくら盟友関係にある国の元首とはいえ、これは大盤振る舞い過ぎるのではないだろうか。
エレベータの中では、彼がカガリ達を牽制するように説明する。
「艦のほぼ中心に位置するとお考え下さい。搭載可能数は、無論申し上げる事は出来ませんし、現在その数量が載っている訳でもありません」
情報の制限に、逆に安心させられる。
そんな奇妙な状態の中で、アスランは窺うようにデュランダルの横顔を見た。
依然として温和な顔つきからは、何も読み取る事が出来ない。
底意があるとは思えないものの、彼のやる事なす事には、何か深い意味が潜んでいるのではないかと思えてしまう。
この滑らか過ぎる弁舌のせいか、それとも、最高評議会議長としての器の大きさのせいか……。
だが、エレベーターの扉が開いた途端、アスランは目の前に広がる光景に息を呑んだ。
広々とした格納庫には、例のザクがずらりと並んでいた。
「ZGMF-1000、ザクはもう既にご存知でしょう。現在のザフト軍主力の機体です。……君はザクを操縦したそうだが、どう感じたかね?」
「え、あ……」
急に話を振られてアスランは戸惑ったが、素直な感想を伝える。
「……機動性、パワー、反応速度、操縦性。どれを取っても、従来の機体よりも上ですね」
「そうか……。その様子だと、君もMSに関しては中々の知識があるように思えるが?」
「まぁ、人並み程度には……」
流石に元ザフト軍人ですとは言えず言葉を濁すと、デュランダルは申し訳なさそうな顔になる。
「いや、言い難い事なら無理に言わなくてもいいよ。すまなかったね、急に話を振ってしまって」
「あ、いえ……お気遣いなく」
妙な気まずさから視線を彷徨わせていたアスランだったが、ふと目に留まった光景に思わず感嘆の眼差しを向けた。
MSに対する興味はアスランに劣らないカガリもまた、その空間を身を乗り出すようにして見ている。
そこには四層からなるデッキがあり、そこに、アーモリーワンで見た白いMS―インパルスのパーツが収容されていた。
「このミネルバ最大の特徴といえる、この発進システムを使う『ZGMF-X56S インパルス』―――工廠でご覧になったそうですが?」
「あ、はい……」
さっきの話がまだ尾を引いているのか、話し掛けられたアスランは落ち着かない気分で頷く。
「技術者に言わせると、これは全く新しい、効率の良いMSシステムだそうです。もっとも、私にはあまり、専門的な事は分かりませんがね」
デュランダルは得意げに言った後、カガリに対してからかうような視線を向けた。
「―――しかし、やはり姫はお気に召しませんか?」
カガリは先ほど覚えた一瞬の熱意に、かえって罪悪感を募らせたように硬い表情でいた。
「議長は、嬉しそうだな」
あまりに単純で子供じみた言葉に、デュランダルは失笑した。
「うれしい、という訳ではありませんが……。
あの混乱の中から、みなで懸命に頑張り、ようやくここまでの力を持つ事が出来たというのは、やはり……」
「力か……」
やりきれない表情で呟くと、カガリはキッとその目を上げる。
「争いがなくならぬから、力が必要だと―――そう仰ったな、議長は」
「ええ」
真っ直ぐで硬質なカガリの視線を、デュランダルはあくまでも柔らかな物腰で受け止める。
「だが! ではこの度の事はどうお考えになる!? あのたった三機のMSを奪おうとする連中の為に、貴国が被った被害の事は!?」
カガリが激した口調で問うと、デュランダルは挑発するように聞き返す。
「だから、力など持つべきではないと?」
「そもそも、何故必要なのだ!? そんなものが、いまさら!」
次第に大きくなるカガリの声は、格納庫にいた整備員や兵士にも届いていた。
彼らは一様に奇異の視線を向けるが、それに気付かないままカガリはなおも叫ぶ。
「我々は誓ったはずだ! もう悲劇は繰り返さない、互いに手を取り合って歩む道を選ぶと!」
カガリの後ろでは、アスランも苦い表情で立ち竦んでいた。
あの日、彼の母が死んだユニウスセブンで条約が結ばれたあの日、これで全てが終わると信じていたのに。
なのに、何故人は同じ過ちを繰り返そうとする?
何故―――。
その時、カガリとアスランは下方から向けられる視線を感じ取り、その方向に目を向け―――そして、息を呑んだ。
彼らの先では、白灰色の髪と紅い瞳を持つ、紅服の少年がじっと二人を見ていた。
別に、彼―シンは二人を睨んでいた訳ではない。
だというのに二人が息を呑み、言い知れぬ恐怖に包まれている理由……それは、シンの眼だ。
シンが二人を見る眼、そこには―――何もなかった。
人が人を見る時、そこにはなんらかの感情が含まれる。
だが、シンの紅い瞳には何も含まれていない。
憎しみも、敬意も、殺意も、愛情も、恨みも、羨望も、人が人を見る時に含まれるであろうありとあらゆる感情が、完全に欠如していた。
あまりにも硬質で、あまりにも無機質な、まるで路傍の石を見るかのような、一対の、血がそのまま凍りついたような紅く冷たい眼。
その、何も感情を映さないにも拘らず、物言えぬ迫力のある眼に気圧されたカガリが僅かに後退したのを見て、レイが動いた。
「議長、私が……」
その言葉にデュランダルが頷くと、レイはカガリとアスランに頭を下げ、手摺を飛び越えてシンの元に向かった。
「シン」
レイに肩を叩かれると、シンはハッとしたように頭を二、三回横に振った。
「レイ……」
「どうしたんだ? お前らしくもないが……」
レイの知る限り、シンがあんな眼をした事など一度もなかった。
アカデミーの頃から同室であったレイからすれば、シンは感情を表には出さないが、あんな無機質な眼で誰かを見るような奴ではない。
「……俺やルナマリアでよければ相談に乗るが?」
「いや、いいんだ。なんでもない……なんでも、ないんだ……」
そこまで話した時、艦内にアラートが鳴り響いた。
<敵艦捕捉。距離8000! コンディションレッド! パイロットは搭乗機にて待機せよ!>
「最終チェック急げ! 始まるぞ!」
整備主任であるマッド・エイブスの野太い声が響いた途端、格納庫は火が点いたように慌しくなる。
シンはもう一度頭を振ると、上にいるデュランダルやカガリ達に敬礼をしてMSデッキへと向かう。
「議長! この事は後ほど!」
自分も戦闘に備え、折り目正しく敬礼を返した後その場から離れて行った。
その後姿を見送ると、デュランダルは取り成すようにカガリに弁明した。
「本当に申し訳ない、姫。彼はオーブからの移住者なので……。まさかあのような眼をするとは、思いもしなかったのですが」
「え……?」
まだ立ち竦んでいたカガリは、その言葉に衝撃を受けた。
慌ててシンの消えた方向に目をやるが、もうその姿は見えるはずもない。
アスランは微かな危惧を胸に、深い動揺にさざめくカガリの表情を見つめた。
「イエロー50マーク82チャーリーに大型の熱源! 距離8000!」
センサーを読み取っていたクルーの言葉に、ガーティ・ルー艦橋に緊張が走った。
「やはり来ましたか」
「ああ。ま、ザフトもそう寝ぼけてはいないって事だ」
淡々と言うリーに、ネオは肩を竦めながら答えた。
「ここで一気に叩くぞ! 総員戦闘配備、パイロットをブリーフィングルームへ!」
艦橋窓からは、青い地球を取り巻くデブリの帯―コロニーやMS、戦艦の墓場が目前に見えていた。
アラートの鳴り響く艦内で目覚めたステラは、寝起きでぼうっとする頭で周囲を見渡した。
他の仲間はもう起きているらしく、ベッドには人影がない。
「ふぁ……」
小さな欠伸をしながら目元をこすると、指先が濡れた。
自分が眠りながら泣いていたのだと悟ると、ステラは不思議そうに首を傾げる。
なんで自分は泣いていたんだろう。
何も泣くような事はないのに。
目覚めはこの上なく快適で、いつもと同じように、自分はとても幸せな気分なのに。
ステラがパイロットローッカーに入ると、もうほとんど着替え終わっていたスティング達が楽しそうに会話していた。
「お、ステラ、起きたのか?」
「相変わらず朝は弱いんだな」
「……うん、おはよう……」
まだぼんやりとしながら挨拶すると、黙々と着替えを始める。
ずっと男と女も関係なく育てられてきた為、お互いが裸で立っていようと気にしないのだ。
着替えを進めるステラの後ろでは、スティングとアウルが今度の任務について話している。
「あの新型艦だって?」
「ああ。来るのは、あの合体ヤローかな?」
アウルの言葉に、スティングが楽しそうに返す。
二人とも機嫌がいい、もっともそれは、ステラも例外ではないが。
あのMS、ガイアにまた乗れるのだと思うとわくわくする。
ステラに見向きもしないまま、アウルが不適に笑いながら言う。
「―――なら、今度こそバラバラか、それとも生け捕るか……」
「さあな。どっちにしろ、また楽しくなりそうだぜ。な、ステラ?」
スティングに話を振られ、ステラは不思議そうに首を傾げながら振り向いた。
なにせ話を聞いていなかったから、どう返せばいいのか分からないのだ。
そんないつも通りのステラの様子に、スティングとアウルは顔を見合わせて苦笑した。
「向こうも、よもやデブリの中に入ろうとはしないでしょうけど……。危険な宙域での戦闘になるわ。操艦、頼むわよ」
「はいっ!」
念を押すタリアの言葉に、マリクが緊張した声で答えた。
眼前に広がるデブリベルト。
宇宙開発が始まって以来、廃棄された宇宙ゴミ、また小惑星の類が、地球の引力に引かれて辿り着く領域だ。
先の大戦の発端となった『ユニウスセブン』も、いまはこの帯の中に存在する。
また、大戦の後に流れ着いたMSや戦艦の残骸も所々に漂っている、まさに宇宙の墓場だ。
「シンとルナマリア、それとゲイルとショーンのツーマンセル2チームで先制します。準備はいいわね?」
「はいっ!」
メイリンが答え、バートが縮まっていく彼我の距離を読み上げる。
「目標まで6500!」
艦橋が慌しくなる中で背後のドアが開き、タリアはそこに立っているであろう人物を思い浮かべながら振り返った。
「いいかな、艦長?」
最初に入ってきたのは、彼女の予想通りデュランダルだ。
だがその後ろに続く人物を見て、タリアは自分の予想が甘かった事を思い知った。
「私はオーブの方々にも艦橋に入って頂きたいと思うのだが」
「あ、いえ……それは……」
困惑しながら後ろの二人を見れば、明らかに歓迎されていない空気に居心地が悪そうにしている。
そんな二人の様子を見て、断固として反対しようとしたタリアだったが、先手を打つようにデュランダルが口を開く。
「君も知っての通り、代表は先の大戦でも艦の指揮を執り、数多くの戦闘を経験してきた方だ。
そうした視点から、この戦闘を見て頂こうと思ってね」
デュランダルはそう言うが、一つ訂正しておく事がある。
先の大戦でオーブ艦『クサナギ』を指揮したのは、カガリというよりは部下のキサカだろう。
カガリ本人は、どちらかと言えば全体の指揮よりも、MS小隊の指揮や単独戦闘の方が多いのだから。
そんな事を知ってか知らずか、タリアは気難しい表情のままカガリを見た。
だが当の本人はどこか意気消沈した様子で、居心地が悪そうにしている。
「(まあ、代表も実戦を経験しているのだし、指揮官の立場を尊重する事は知っているわよね……)」
そう考えると、タリアは小さく溜息を吐いてデュランダルに向き直った。
「……分かりました。議長がそうお望みなのでしたら」
これで勝手に口を挟むようであれば、その時は艦橋の外に放り出し―――いや、丁重にお引取り願えばいいだけだ。
「ありがとう、タリア」
デュランダルが親しげな笑みを浮かべて礼を述べると、三人は後部の席に着いた。
「目標まで6000!」
「艦橋遮蔽! 対艦、対MS戦闘用意!」
タリアの声に応えて艦橋が遮蔽されると、カガリとアスランは驚いた顔になる。
その中でも、アスランは軍人としての性か、このシステムが理に適っていると考えた。
艦橋部分というのは総じて突出した場所にあり、非常に狙われやすい箇所だ。
だがこのシステムであれば、例え外から見える艦橋部の装甲を破られたとしても被害は出ない、例え出たとしても最小限に抑えられる。
アスランがそんな感想を抱いている間にも、MSの発進シークエンスは着々と進んでいた。
「インパルス発進スタンバイ。モジュールはブラストを選択。シルエットハンガー三号を開放します」
「目標、進路そのまま。距離4700!」
バートの報告を受け、タリアは命じた。
「MS、発進!」
「ガナーザクウォーリア、カタパルトエンゲージ」
メイリンが告げ、赤いザクがカタパルトから射出された。
長砲身のM1500高エネルギー長射程ビーム砲『オルトロス』と大容量エネルギータンクを背面に装備した、砲戦仕様のガナーウィザードを装備したザ
クだ。
ザクもインパルス同様、バックパックの交換によって、複数の戦局に対応できるよう設計されている。
「続いて、インパルス、どうぞ!」
眼下から一機の戦闘機が、続けて三基のユニットが射出された。
コアスプレンダーを中心に、チェストフライヤー、レッグフライヤーが合体して人型となり、その背面にブラストシルエットが装備される。
MSの身の丈ほどもある巨大な砲身を持つM2000F高エネルギー長射程ビーム砲『ケルベロス』を始め、レールガン、誘導ミサイル等を装備した砲戦
仕様の装備だ。
シルエットが装備されると、インパルスは鉄灰色から暗緑色を基調とした色へと変化した。
インパルスを始めとするセカンドステージシリーズは、VPS(可変相転移)装甲を採用している。
これは電圧によってPS装甲の色を変えるもので、その強度もまた変化する。
簡単にその強度を表すと、黒<青<赤といった形となり、赤に近い方が強度も増すが、その分消費電力も大きくなるのが特徴だ。
そしてインパルスの場合、各シルエットによって消費エネルギー量が違う為、こうしてPS機能を制御する事で活動時間を延ばしている。
ザク、インパルスに続いて、二機のゲイツRも発進して行く。
その様子を見ながら、デュランダルはポツリと呟いた。
「ボギーワンか……」
突然語りだすデュランダルに、隣に座るアスランが奇異の目を向けるが、デュランダルは気にした様子もなく話を進めていく。
「あの艦の本当の名は、何と言うのだろうね?」
「は……?」
話を振られたアスランは戸惑った声を出すが、なおもデュランダルは続ける。
「名はその存在を示すものだ……。ならばもし、それが偽りだとしたら……」
こんな場所で実存主義的な事を言い出す彼を訝しく思っていたアスランだったが、それは次に彼が落とした爆弾で完全に吹き飛んだ。
「それは、その存在そのものも偽りという事になるのかな? アレックス―――いや、アスラン・ザラ君?」
その言葉にアスランが息を呑み、カガリが目を見開く中で、デュランダルは満足そうに正面モニターを見た。
あとがき
こんにちは、トシです。
種運命第三話後編をお届けいたしました。
こんにち
は、シンです。
さて、今回のあとがきでは、VPS装甲について触れてみようか。
色が変わっ
て三倍お得なVPS装甲。これって稼働時間の延長以外に意味とかあるの?
ふむ、いい質問だね。
作中でも述べた通り、VPS装甲の強度は色によって違う。
つまり、装甲の強度を戦闘に適したものに変える事が出来るわけですよ。
……具体的
には?
うむ。分かりやすく言えば、
遠距離からの砲撃戦を主として、装備で使うエネルギーも大きいブラストの場合は、強度は低
いけど余剰エネルギーが一番多い暗色系。
中距離での機動戦が主で、ライフルやサーベルみたいにエネルギーもあんまり使わないフォー
スは、バランスのいい青。
近距離での斬り合いが主で、多分対艦刀自体にエネルギーパックがあるソードは、一番強度が
高い赤。
こんな感じだと思うよ。
なるほ
ど……。
つまり、虎さん専用の赤いガイアは、通常のガイアより頑丈だけどエネルギー
の減りも早い、と。
そうなるね。
それじゃあ今回はこの辺で。
また次回にお会いしましょう〜。
今後もよろしくお願いしま
す。