機
動戦士ガンダムSEED Destiny 〜Whereabouts of fate〜
第五話 癒えぬ傷跡(前編)
今現在、ミネルバで最も忙しい部署は何処かと問われれば、恐らく全員が口を揃えて「整備部だ」と言うだろう。
先の戦闘で壊れたミネルバ外部装甲の修理に、揃いも揃って中破したMS。
他にもスラスターやら何やらに不具合が生じており、整備スタッフは不眠不休と言う言葉がこれ以上ない程似合う働きぶりを披露していた。
だが、いくら整備部が優秀な人材を揃えていようと、まともなドッグすらないこの状況では十分な整備を行えず、なおかつ人手も足りない。
人手が足りない、ならどうすればいいか。
簡単だ、使える人材を他所の部署から引っ張ってくればいい。
「よぉし! ショーン、外部装甲を外せー!」
「ういぃ〜っす!」
整備スタッフに混じって愛機の修理を手伝っている彼、ショーン・ウィルゲートも、そうやって駆り出された内の一人であった。
戦闘で中破したブラックホークを見た時、整備スタッフは一斉に溜息を吐いた。
それもその筈。
機体剛性強化の為に外部追加装甲で上半身を覆っているブラックホークは、整備効率が非常に悪いのだ。
通常のゲイツRと比べれば、整備に掛かる時間は優に二倍。
この機体のデータを基にした量産型MSの開発が却下されたのも、この整備性の悪さが原因の一つでもある。
結局、開発陣はMSではなくMAという形で機体を再設計して量産に乗り出したそうだが、それはきっと大正解だ。
今のように戦闘終了後ならともかく、戦闘中にこれを何機も整備出来る時間などある筈もないのだから。
外部装甲を外し、露になったゲイツRを調べたエイブスは、損傷の度合いが見た目よりも大きい事に頭を抱えた。
「どうですか、エイブスさん?」
「駄目だなこりゃあ。外部装甲にガタが来てる時に無茶な機動をしたせいで、右肩はフレームからひん曲がってやがる」
「う゛……」
「他にもアレスターの破損やスラスターの焼き付き……工場行き決定だ」
「……やっぱりですか」
「ああ。ここまで酷いと、ミネルバ内の設備だけじゃ直せやしねぇ。それに……」
言葉を切ったエイブスが顎で指し示した先には、同じように壊れたインパルスやゲイル専用のゲイツRが鎮座している。
「……今は、お前さんの機体だけに掛かりっきりになる訳にはいかねぇんだ。悪いな」
「いえ、この状況じゃ仕方ないですよ。でも、そうなると俺の機体が無くなりますね」
「そうなんだよなぁ……。本体に損傷が無けりゃ、外部装甲を全部取っ払って高機動型ゲイツRとして使えたんだが、これじゃあなぁ」
「まあ、暫く戦闘が無い事を祈りますよ。それじゃあ、俺はこれで」
「ああ。シンにも、後で来るように伝えてくれや。インパルスも各フライヤーを換え次第、調整しなおすからな」
「分かりました」
「おお、頼むぜ」
エイブスに頭を下げ、ショーンは格納庫を後にした。
同じ頃、士官室ではそこを訪れたデュランダルとタリアからもたらされた報せに、カガリが絶句していた。
―――ユニウスセブンが、軌道を外れ地球に向かって移動している。
百年単位での安定軌道にあるはずのそれが、何故動いてしまったのかは定かではない。
分かっているのは、移動速度がかなり速いと言う事と、もう一つ。
現在の軌道は、地球への直撃コースだと言う事だ。
プラントの直径は約十キロ。
隕石ほどの速度は無いだろうが、これだけの物が直撃すればどれだけの被害を被るのか。
カガリの後ろに控えていたアスランも、声にこそ出してはいないが明らかに動揺していた。
無理もない。
ユニウスセブンは、彼の母、レノア・ザラが眠る場所。
母の棺とも言えるそれが地球に牙を剥けた等と聞いて、動揺しない方がおかしいのだ。
不安定に揺れる視界の端でデュランダルを見た時、アスランは微かな引っ掛かりを覚えた。
デュランダルはプラント最高評議会議長らしく、沈鬱そうな表情で言葉を紡いでいる。
それだけ見れば、別に変ではない。
プラントの最高指導者が、プラント市民にとって悲しみの象徴であるユニウスセブンの件で、心を痛めないはずが無い。
ならば何故?
そこまで考えた時、アスランはようやく安定してきた視界で、デュランダルの顔を捉え、
―――ああ、そうか……。
引っ掛かりの理由を、ようやく理解した。
こんな緊迫した状況でさえ、彼は穏やかで落ち着いている……いや、落ち着きすぎているのだ。
何をするにもそつが無く、優雅。
そう、まるで完璧な演技者であるかのような彼の動作と空気が、引っ掛かっていた。
「―――原因の究明や回避手段の模索に、我々プラントも全力を挙げています」
思考の渦に飲み込まれそうになった時に聞こえてきたその声に、アスランはふと我に返り、同時に彼に疑念を抱きかけた自分を恥じた。
そうだ、彼らにしても、今回の件は人事などではないのだ。
直接的な被害が出ないのに、この事態に心を砕いてくれている。
そんな彼らの指導者を、プラントから逃げた自分が疑うなんて……。
内心自嘲しながらカガリを見れば、きつく手を握り締めながら俯いている。
「またもやのアクシデントで、姫には大変申し訳ないが、私は修理が終わり次第ミネルバにもユニウスセブンに向かうよう、特命を出しました」
その言葉に、カガリは勢いよく頭を上げる。
「幸い位置も近いので。姫には、どうかそれをご了承頂きたいと」
「無論だ! これは私達に―――いや、こちらにとっての重大事だ」
だが勢いよく言ったにも拘らず、すぐにカガリは力なく俯いてしまう。
何故なら、今この場で彼女が出来る事が何一つ無いから。
こんな非常時であるにも拘らず、国元で対策を立てることも、国民の側にいてやる事も出来ない。
「難しくはありますが、お国元と直接連絡が取れるよう、試みてみます。出迎えの船とも早急に合流できるよう、計らいますので」
「……ああ、すまない」
彼女を労わるようなタリアの言葉に、カガリは忸怩たる思いで頭を下げた。
ショーンがレクルームに入った時、そこもまたユニウスセブンの事で騒然としていた。
ただ一人事情を知らないショーンが、シンに話し掛ける。
「おいシン、エイブスさんが後で格納庫に来いってさ。インパルスの整備で話があるとか」
「ああ、分かった」
「で、この騒ぎは何だよ?」
「……ユニウスセブンが、地球に向かって移動しているらしい」
「はあっ!?」
素っ頓狂な声を上げるショーンに、シンが眉を顰めた。
「耳元でデカイ声出すなよ」
「あ、ああ……いや、悪い。……じゃなくてだ、今の話、ホントか?」
「ああ。メイリンがバートさんから聞いたらしい。だよな?」
シンが話を振ると、メイリンもどこか不安そうな顔で頷いた。
「うん。バートさんから議長に連絡が行って、プラントからも軌道予想データが返ってきたから」
その言葉に、ゲイルがうんざりした表情のまま頭をガシガシと掻きながら溜息を吐く。
「ったく、アーモリーじゃ強奪騒ぎで、宇宙に出りゃ今度は落下騒ぎ? 何がどうなってんだよ!?」
シンも、確かに妙だとは思う。
二つの事柄に関連は無いだろうが、こうも立て続けに事が起きると酷く不自然だ。
「―――で、今度はそのユニウスセブンを、どうすればいいの?」
ルナマリアの問い掛けに、全員が考え込む。
すると今まで黙っていたレイが、さらりと答えた。
「砕くしかない」
いかにも簡単そうに、何時ものように淡々と紡がれたその言葉に、ヴィーノとヨウランが思わず顔を見合わせた。
「砕くって……」
「あれを?」
血のバレンタインでほぼ半分に割れたとは言え、その最長部は八キロにも及ぶ。
戦略核でさえ完全に破壊出来なかった代物を、果たして砕く事など出切るのだろうか。
いまいち現実感の得られない案に皆が唖然とする中で、レイは眉一つ動かさず冴えきった表情で告げる。
「だが、衝突すれば間違いなく地球は壊滅だ。生きる者も、何一つ残らない」
その言葉に、全員が息を呑んだ。
例えば直径一キロの小惑星が衝突した際のエネルギーをTNT火薬の爆発力に換算すると、およそ十万メガトンに達する。
核爆弾の威力が五十メガトンであり、その二千倍に相当するのだ。
直径が十キロ近いユニウスセブンの場合、単純計算して十億メガトン近くになってしまう。
無論、小惑星よりは突入速度が遅い為、単純に換算する訳には行かないが。
「……何も……残らない?」
シンは小さく繰り返す。
一瞬頭を過ぎったのは、捨てた筈の故郷。
きらめく海と風の匂い―――そして、ずっと続くと思っていた家族との幸せな日々。
僅かに胸が軋むのを感じ、シンは大きく息を吐いた。
シンが顔を上げるのと同時に、ヴィーノがおどけた様子で口を開く。
「……地球、滅亡?」
「だな」
もっともらしく肩を竦めると、ヨウランはわざとさばさばした口調で言う。
「まあ、しょうがないっちゃあ、しょうがないか。不可抗力ってヤツ?」
不可抗力―――確かに言い得て妙ではあるが。
「けど、ヘンなゴタゴタも無くなって、案外楽かも。俺達プラントには―――」
続けようとした言葉を、鋭い声が遮った。
「よくもそんな事が言えるな! お前達はっ!」
ぎょっとしてヨウランが飛び上がり、シン達も声のした方に顔を向ける。
レクルームの入り口に立ち、金色の瞳に怒りの炎を宿していたのは、他でもないカガリ・ユラ・アスハだった。
シンとレイが落ち着き払って敬礼をすると、他の者も慌てて姿勢を正す。
「しょうがない、だと? 案外楽だと? これがどんな事態か……地球がどうなるか、どれだけの人が死ぬのか、本当に分かっているのか!?」
彼女が言っているのは、紛れもなく正論だ。
だが、そんな事はこの場にいる人間全員が分かっている。
ヨウランの言葉は、例え冗談とは言え許される言葉ではないのは、この場にいる全員が分かりきっている。
だから、
「やはりそういう考えなのか、お前達ザフトは!? あれだけの思いをして……あんな戦争をして……! デュランダル議長の下で、ようやく変わったん
じゃないのか!?」
この言葉だけは、到底受け入れる事など出来なかった。
「……お言葉ですが」
僅かな沈黙を破ったのは、酷く冷たい硬質な声。
その声にカガリが目を向けると、そこではシンがじっと彼女を見ていた。
能面のような顔の中、赤い両眼に静かな怒りを宿したまま。
「先ほどの発言……『ザフトはそういう考えだ』という、この言葉の撤回を」
淡々と紡がれる言葉の底にある、マグマのような怒りに気付いたのか、カガリが僅かに気圧される。
「確かに彼の発言は軽はずみでしたが……それが我々ザフトの総意であるかのような言い方は止めて頂きたい」
「あ……」
冷静になり、自分が言い過ぎたと自覚したのか、カガリが声を洩らすが、シンは続ける。
「何より……戦争の引き鉄を引いたのも、今回の騒ぎの大本であるユニウスセブンを崩壊させたのも、地球に住む人達であると言う事をお忘れなく」
それはこの場にいる全員の―――いや、ザフトの代弁とも言える言葉。
独立要求の返事として24万3721人の同胞達を殺された、コーディネイター達なら誰もが抱いている思い。
「それは……!」
「もうよせ、カガリっ!」
反論しかけたカガリを、アスランの鋭い声が遮った。
その様子には、レクルームにいた全員が驚いていた。
護衛の人間が代表を呼び捨てにするなど、普通ならありえない。
そんな驚きの視線を受けながら、アスランはシンと対峙した。
「……先程の発言、申し訳ない。代表に代わり、謝罪しよう」
そう言って頭を下げるアスランに、シンも同じように頭を下げる。
「いえ、俺も言い過ぎました」
その一言だけ残してレクルームを出ると、シンは黙って歩き出す。
表情こそいつものような無表情のままではあったが、その内心は酷く荒れていた。
小刻みに震える拳を押さえながら、自室に向けて歩き続ける。
心を落ち着けようとしても、逆に荒れて行くだけ。
血が滲むほど硬く拳を握り締めても、その震えは止まらない。
それ以上にシンを苛立たせていたのは、一行に消えない、あの声だ。
あのくだらない理想を信じ、国民を守る事すら出来なかった張りぼての理念を叫ぶ、あの若き元首の声。
―――我々は誓ったはずだ! もう悲劇は繰り返さない、互いに手を取り合って歩む道を選ぶと!
「黙れ……黙れ……黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ……っ!」
上空を舞う蒼い翼を持つMS
そこから放たれた、色鮮やかな破壊の奔流
轟音
周りを赤く照らし、熱で肌を灼く炎
崩れた土砂にまみれて息絶えた、家族の姿
足元に転がる、小さな腕
そして―――嘲笑うかのように宙を
舞い続ける、自由の名を冠した機体
「黙れぇぇぇぇええええええええぇっ!」
脳裏を掠めたあの日の光景。
それを振り払うように叫ぶと、シンは力任せに壁を殴り付けた。
ガァァンッ……という音と共に、拳に痛みが走る。
拳を切ったようだが、頑丈な戦艦の壁を殴り付けたのだから当然と言えば当然だろう。
もっともその鋭い痛みのおかげで、あの頭に響き続けていた声が消えた。
「ハァッ……ハァッ……ハァッ……」
荒い息を吐きながらやっとの事で自室に入ったシンは、明かりも点けないままベッドに腰掛け、ぼんやりと天井を見上げた。
そこには、何時ものような無表情の、どこか大人びた印象を与えるシン・アスカと言う少年はいない。
そこにいるのは、泣きそうな顔のまま泣くのをこらえ続ける、十六歳の少年だけ。
「もう……忘れた筈なんだ。もう……関係無いって……割り切った筈なんだ……っ! でも、なんで……」
声を震わせながらサイドボードに手を伸ばし、置いてある物を掴み取る。
掌にすっぽりと納まるような、ピンク色の携帯電話。
今となっては唯一の形見となってしまったそれを開き、操作する。
小さな液晶の中では、もう二度と笑いかけてはくれない妹が、元気に笑っていた。
妹だけではない。
両親も、髪の黒かった自分も、皆が笑っていた。
それを見る度に、胸が軋む。
「俺は……」
口をついて出たその酷く弱々しい声は、誰に聞かれる事も無く、暗い部屋の中へと消えて行った。
なだらかな緑の丘と、深い森と大きな牧場。
のどかな田園風景の中に歳月を経た邸宅が点在する、ユーラシア西部のとある国。
そこにある一際壮大なコロニアル様式の邸宅に、乗馬服に身を包んだ男達が集まっていた。
葉巻を燻らせる者、スヌーカーに興じる者、思い思いにくつろぐのは総勢九人。
「さて、とんでもない事態じゃ」
この中では一番年上と思わしき老齢の男性が口を開くと、隣に座る男が相槌を打つ。
「まさに未曾有の危機、地球滅亡のシナリオですな」
内容とは裏腹に、その口調には深刻さが感じられない。
すると、キューを構えていた男が鼻を鳴らした。
「ふんっ! そのシナリオとやらを書いた者がいるのかね?」
「それは、ファントムペインに調査を命じて戻らせました。一応……」
答えたのは、まだ三十代前後の、この中では最も若い男だ。
後ろに撫で付けた白い髪と褪めたような顔色、そして紫色の唇が特徴的な男。
彼の名はロード・ジブリール、この邸宅の持ち主であり、ブルーコスモスの盟主である。
「だが、今更そんなものを調べて役に立つのかね?」
最初に口を開いた老人が、葉巻を吹かしつつ懐疑的な声を漏らす。
すると、ジブリールは苦笑を浮かべる。
「それを調べるのですよ」
その後も彼らはゆったりと、くつろぎながら話を進める。
だがその内容は、とても談笑交じりに話せるような事ではなかった。
「ユニウスセブン落下の被害……これは相当な物になるだろうね」
「うむ。被る損害によっては、戦争をするだけの力が残らぬ事になるやもしれん」
「いかんね、それはいかんよ。それではこの二年間の遅れを取り戻せない」
「さよう。二年ぶりにやって来た、戦争という旨味。これを逃がしてはならんよ」
「だからこそ、今日こうしてお集まり頂いたのですよ。避難も脱出もいいですが、その後には我らは一気に討って出ます……例のプランで」
ジブリールの言葉に、幾人かはからかい気味に声を掛ける。
「ほう、強気だねぇ」
「だがそう上手く民衆が纏まるかね?」
「なに……残っていれば纏まりますよ、憎しみと言う愛で」
一同が一応の協議を済ませると、最初に口を開いた老人が言う。
「では、次の会合は事態の後じゃな。ジブリール、君は次までに詳細な具体案を」
「はい」
かしこまったようにジブリールが言うと、他の者達は席を立つ。
「しかし、どれ程の被害になるのか」
「戦争は大いに結構、だがこういうのは困るよ」
「どちらにしろ、“青き正常なる世界の為に”さ」
「そういえば避難はどちらへ―――」
相変わらず危機感を感じさせない調子で言い合いながら、男達は邸宅を出て行く。
その様子を、窓辺に立ったジブリールは冷ややかに見送った。
―――あの老人達は、何故ああなのだ……!?
コーディネイター共が、生きる権利も価値も無いバケモノが、我ら人間を脅かすなど!
そもそも、奴らが宇宙に―――まるで神であるかのように自分達の頭上にいるだけでも許し難いと言うのに!
「……今度こそ、今度こそ根絶やしにしてやるぞッ! バケモノ共がッ!」
腸が煮えくり返るような怒りを隠そうともせずに吐き捨て、スヌーカーのボールを持った手が一閃する。
ボールは部屋の片隅に置かれたマイセン陶器を粉砕し、無価値な破片へと変えてしまった。
地球の引力に引かれてゆっくりと移動をするユニウスセブンは、後方に伸びるストリングスから巨大なクラゲを思わせる。
その様子をザフト軍ナスカ級戦艦『ボルテール』の艦橋から眺める者達がいた。
「こうして改めて見ると、やっぱデカイな!」
しみじみと言ったのは、一般兵の制服を着た褐色の肌と金色の髪を持った青年。
普段は斜に構えた笑みを浮かべている彼も、この時ばかりは圧倒されたように真剣な表情をしていた。
「当たり前だ。同じような場所に住んでいるんだぞ、俺達は!」
噛み付くように返したのは、その傍らに立つ指揮官服を着た青年だ。
まっすぐな銀色の髪とアイスブルーの瞳が、見る者に冷たい印象を与えるが、その第一印象が裏切られる事は間違いない。
その口調も、気のおけない者に対するぞんざいさを感じさせた。
「それを砕けって今回の任務が、どんだけ大事か改めて分かったって話だよ!」
「ふんっ、お前は危機感と先の見通しが足りないんだ」
上官への敬意など感じさせない調子で言い返す青年、ディアッカ・エルスマンに、もう一人の青年イザーク・ジュールが冷たく言い返した。
「…………あー、お前にだけは言われたくねぇんだけど」
「どういう意味だ!?」
「いいえェ、なんでもございませんよ隊長殿ォ?」
「こんな時だけ隊長呼ばわりするなッ!」
肩を竦めながら言うディアッカと、それに激昂して突っ掛かるイザーク。
その様子に、ブリッジクルーは、また始まった、とでも言うように笑みをこらえて見守っている。
実際、激昂するイザークと、それをのらりくらりとかわすディアッカという構図は、ほぼ毎日のように見られるのだから。
まぁ毎日見ているだけあって、クルー達の笑みを堪えるスキルは、ある意味ザフト軍有数だったりする。
だが小さな忍び笑いは漏れてしまい、それに気付いたイザークは居心地悪そうに咳払いを一つするとディアッカに向き直った。
「兎に角! 時間はたっぷりをある訳じゃない。ミネルバも来るんだ、手際よく動けよ!」
「りょーかい!」
ディアッカはいい加減な敬礼をして、エレベータに乗り込む。
それを見送ると、イザークは再びユニウスセブンに視線を移し、複雑な表情のまま小さく嘆息した。
あとがき
第五話前編、お送り致しました。
さて、今回で主人公、シン君の仮面がじわじわと剥がれてきましたね。
家族を亡くした彼が、悲しみを隠す為に付けた、無表情・無感情という偽りの仮面。
それが完全に剥がれ落ちた時、彼は何を思い、どう動くのか。
…………それは、作者も知ったこっちゃありません!
好きな言葉は『行き当たりばったり』、座右の銘は『明日出来る事を今日やるな』、そんな私
が送るガンダム種運命SS。
今後もよろしくお願い致しまする。
では、また次回にお会い致しましょう。