機
動戦士ガンダムSEED Destiny 〜Whereabouts of fate〜
第五話 癒えぬ傷跡(後編)
ミネルバの格納庫。
その片隅でコアスプレンダーに乗り込み調整を続けていたシンは、手を動かしながらぼんやりと考え事をしていた。
―――カガリ・ユラ・アスハ、オーブの若き首長か……。
確かに、彼女の言う事は分かる。
戦争などもう沢山だ、互いに手を取り合い憎しみ合う事無く静かに暮らせるのなら、それに越した事は無い。
だが、世界はそう上手く行かない。
コーディネイターとナチュラル、プラントと地球……この両者の間に出来た溝は、たかだか一、二年で埋まるほど浅くはないのだ。
力を捨て、手を差し出して和解を求める。
そんな事をして、相手はその手を取るのか?
答えは否だ。
反コーディネイターを掲げるブルーコスモス、プラントの独立を拒み続けたプラント理事国。
彼ら―――特に前者なら、力を捨てて手を差し出した自分達コーディネイターを、嬉々としてその手に持った銃で撃ち殺すだろう。
結局、彼女が、カガリの言う事は綺麗事にすぎないのだ。
第一オーブにしてみても、声高に中立を叫び続けた結果が、あのオーブ解放作戦と称された侵略だったではないか。
身を守るのなら、中立を叫ぶのなら、他国が侵略しようと思わないような強大な力を持つしかない。
ただ口頭で中立の理念を叫び訴えても、銃を向けられてしまえば終わりなのだから。
「―――ぃ、―――ぉぃ! おい、シンッ! 聞いてるのかッ!?」
「……ぇ? ああ、エイブスさん、どうしたんですか?」
「どうしたじゃねぇよ、さっきから何度も呼んでんのに返事もしねぇでボーっとしやがって」
「あ……すいません」
「ったく」
まだぼんやりとした表情のままシンが頭を下げると、エイブスは小さく舌打ちしながら乱暴に頭を掻く。
「インパルスの調整は終わったから、もう休んでいいぞ。顔でも洗ってシャッキリして来い」
「―――分かりました」
軽く会釈してコアスプレンダーから降り、出口へと向かうシンの後姿を眺めながら、エイブスは小さく嘆息した。
エリートの証である紅服と卓越した操縦テクニック。
これだけ見ていると忘れがちだが、シンは、そしてこのミネルバにいるパイロット達は皆、まだ十代の少年少女達だ。
それがいきなり戦場に放り出されて、アーモリーで仲間たちの死を見て、戦って、それが終われば今度はユニウスセブンの落下。
こうも立て続けに事が起きれば、精神的な疲労に参ってしまうのも無理はない。
「チッ、情けねえなぁ……」
それは、子供達を戦場に送る自分達の事か、それとも争いを無くしきれなかった政治家達への侮蔑なのか。
たった一言の言葉は、誰に聞かれる事も無く、格納庫の奥へと消えて行った。
宛がわれた士官室。
そこで、カガリは沈鬱な表情で俯いていた。
突然の事態に混乱していたとは言え、ついカッとなって出てしまった、あの言葉。
『やはりそういう考えなのか、お前達ザフトは!?』
一時の感情に流された結果として出たあの言葉、それがどれだけこの艦のクルー達のプライドを傷付けたのか。
「やはり、私はまだ駄目な政治家だな」
ポツリと洩らした言葉には、何時ものような覇気は感じられない。
『感情に左右されず、常に冷静な思考を持ち、己の言葉が如何なる波を立てるかを見据えた上で発言せよ』
叔父であり、父ウズミの死後オーブの建て直しを続けたホムラ元代表に言われた、政治家として、そして首長としての心構え。
常日頃から自分に言い聞かせてはいるが、やはりまだ徹底出来ていない。
元々直情的な彼女だけに、難しい問題なのだろう。
落ち込むカガリを見詰めながら、アスランは掛けるべき言葉を見つけられずにいた。
それに、自分は元ザフト軍人だ。
そんな自分が「気にするな」と言っても、それは余計に彼女を落ち込ませてしまう。
「カガリ、今は少し休め。ここの所すっと飛び回っていただろう?」
「でも……こんな状況で」
「こんな状況だから、だよ。少し休めば、気持ちの切り替えも出来る。そうすれば、いい考えだって浮かぶよ」
「……ああ、分かった」
そう言って横になったカガリだったが、数分としない内に静かな寝息が聞こえ始めた。
―――やはり、相当疲れていたんだろうな……。
気丈とは言えまだ十八歳の少女が、一国を背負っているのだ。
普段からの気苦労だけでも相当な物であるにも拘らず、先日来からのこの事態。
知らず知らずの内に疲労が溜まっていたのだろう。
眠る少女の髪をそっと撫でると、アスランは静かに部屋を出た。
部屋を出たアスランはエレベーターへと向かう。
すると丁度扉が開き、一人の少年が出てきた。
白灰色の髪と赤い瞳―――シンだ。
「君は……」
少しばかり驚いたアスランに対して、シンは軽く会釈をするとその横を通り過ぎる。
だが、
「待ってくれッ!」
それを、アスランは咄嗟に呼び止めていた。
何故こうしたのかはアスラン自身にも分からない。
ただ、このままではいけないと、自分の中の何かが叫んでいたのだ。
「何でしょうか?」
怪訝そうに振り返るシンに対し、アスランは数瞬だけ視線を宙に彷徨わせ、
「―――話を、しないか?」
小さな笑みと共に、そう提案した。
アスランとシンがやって来たのは、レクルームだった。
ユニウスセブンに近付いている為か誰もいないそこで、アスランはお世辞にも座り心地の良いとは言えないソファーに腰掛ける。
「どうぞ」
「ああ、ありがとう」
シンから差し出された缶コーヒーを受け取り、プルタブを開ける。
その横にシンも座り、手の中でコーヒーの缶を遊ばせていた。
「―――君は」
暫く無言の時間が流れた後、アスランが口を開いた。
「君は、オーブにいたんだってな」
「……はい」
「なんでプラントに渡ったんだ?」
その問いにシンは答えず、黙ってプルタブを開けると、中身を一口だけ口に含む。
コーヒー特有の苦味に微かに顔を顰め、それからポツリポツリと話し始めた。
「あの日、オーブが連合軍に攻められた時、家族を亡くしたんです。それから暫くは他の中立国で暮らして……戦争が終わってすぐに、プラントに」
「そっか……。すまなかったな、こんな事を聞いて」
「いえ。それで、プラントに渡ってすぐにザフトに入ったんです」
「なんでザフトに?」
「…………分かりません。最初は力が欲しかったんです。アイツを―――家族を殺したアイツを討てるだけの力が」
「アイツ?」
「……ZGMF-X10A フリーダム、家族を殺した機体です」
その言葉に、アスランは息を呑んだ。
何故なら、自分はその機体を、そのパイロットを良く知っているから。
そのパイロット―――キラ・ヤマトは、自分の無二の親友なのだから。
「間違い、無いのか?」
僅かに、気付かれない程度に震える声で問うと、シンは黙って頷いた。
「あの時、妹が携帯電話を落として、俺はそれを取りに斜面を降りて、それを掴んで上を向いた瞬間、アイツが……フリーダムが連合の青いMSに向かっ
て全砲門を使った攻撃をして、その流れ弾が家族のいた所に当って……ッ!」
震える声で話す内容に、アスランは思わず天を仰いだ。
キラの砲撃の甘さ―――この場合は正確さだが、それが仇となった。
腕や頭部、武装を狙う砲撃は、敵MSパイロットを殺さずに済む反面、相手からすれば非常に避けやすいのだ。
胴体と比べて着弾可能範囲が狭く、僅かに機体を動かすだけで避けられる。
それは言い換えれば、相手が避けた結果である流れ弾が出来やすいと言う事だ。
―――オーブを守る為に参戦したアイツが、故意ではないにしてもオーブ国民を殺した。……とんだ皮肉だ。
「でも、今はもう分からないんです。アイツが憎いのか、憎くないのか……」
一人考え込んでいたアスランだったが、シンの言葉に我に返る。
そんなアスランの様子に気付かないまま、シンは続ける。
「最初は憎かったんです、家族を殺したアイツが。だから、それを殺せるだけの力を求めて、我武者羅に訓練を続けて……。
でもMS演習の時、シミュレータで市街地戦闘をしてる時に敵機を貫通したビームが戦闘区域外のビルに当って。
その時に、これが現実だったら流れ弾で一般人を殺してたんじゃないかって思うと、もうフリーダムを憎めなくて……それで、自分が何の為に力を求めたのか分
からなくなったんです」
そう言って俯いたシンを見た時、アスランは密かに驚いていた。
それは、話の内容に驚いた訳ではなく、シンが小さく見えたからだ。
初めて会った時、自分やカガリが気圧されたあの時は、とても大きく、言い知れぬ圧迫感を与えていたというのに。
今は、迷子になった幼子のように小さく見える。
この時、アスランは妙な引っ掛かりを覚えた。
懐かしいような、視た事のあるような、妙な感覚。
それが何なのか考え、
「あぁ……」
答えはすぐに出た。
似ているのだ、昔の自分に、仲間の敵討ちのために親友を殺した時の、戦う目標を見失った時の自分と……。
だが、それなら自分は答えを与えられない。
見失ったのなら、自分自身が新たに探し出さなければ意味が無い。
誰かから与えられた借り物の答えでは、いつかそれに裏切られた時に二度と立ち直れなくなる。
だから、自分は答えを与えない。
与えられるのは、自分なりの答えを探し出す為の道標だけだ。
「君は、大事な仲間はいるのか?」
「……え?」
不意に掛けられた言葉にシンが横を向くと、そこではアスランが真剣な顔で自分を見ていた。
「どうなんだ?」
「ぁ…………いますよ。大事な仲間、大切な友達は」
無口だが気の合うルームメイトの少年、お節介だが話していると楽しい少女、その妹であれこれと話を振ってくる少女。
他にも、整備員コンビやパイロット仲間、そして、この艦にいる同胞達。
皆、自分の大切な仲間であり、掛け替えの無い友人達だ。
「じゃあ、今はそれでいいじゃないか。仲間や友達を守る為、それじゃあ戦う理由にはならないか?」
「あ……」
「君の大切な人達を守れるのなら、君が手に入れた力は無駄じゃない。使い方を誤らなければ、力は君を裏切らない」
穏やかな声で言いながら、アスランはシンの肩をポンッと叩いた。
「―――自分が本当に守りたい物、戦う理由、それは案外身近な所に在るものだ。いつか、君もそれに気付くだろうよ」
そう言うとアスランは立ち上がり、レクルームの出口へと向かう。
途中で空き缶を捨て、ドアが開くとシンに顔だけ向ける。
「コーヒーご馳走様、美味かったよ」
そう言い残し、部屋を出て行くアスランを黙って見送るシン。
暫く無言で手元の缶コーヒーに視線を落としていたが、すぐさまアラートが響き渡った。
<MS発進十分前、パイロットはブリーフィングルームに集合せよ。繰り返す……>
その内容に気を引き締めると、立ち上がって残っていたコーヒーを一息で喉奥に流し込む。
すっかり温くなったそれは苦味が増していたが、不思議と不味いとは思わなかった。
艦橋では、モニターに映し出されたユニウスセブンを前にクルーたちが苦い顔で仕事を進めていた。
あれから自分達コーディネイターの悲しみの象徴を砕くのかと思うと、心が痛い。
特に血のバレンタインで死んだ者の遺族にとっては、あれは家族の墓同然なのだから。
そんな艦橋の空気を感じ取りながら、タリアは動揺を押し殺しながら自分の仕事を進める。
「ボルテールとの回線、開ける?」
「いえ、通常回線はまだ」
そんなやり取りを聞きながら艦橋内に入ったアスランに気付くと、デュランダルは相変わらずの穏やかな笑みを湛えながら振り返った。
「どうしたのかね、アスラン―――いや、アレックス君か」
その声にタリアも気付いてアスランを見ると、彼はしばし躊躇った後、決然と口を開いた。
「無理を承知でお願いします。私にもMSを一機お貸し下さい」
その言葉はすぐに艦橋クルーの注目を集め、皆が一斉に驚きの視線をアスランへとぶつける。
タリアは何かを決意したアスランを苦笑交じりに見詰めると、明瞭な口調で答えを返した。
「確かに無理な話ね。今は他国に人間である貴方に、そんな許可が出せると思って? ―――カナーバ前議長の計らいを無駄にするつもり?」
それは、暗に彼をアスラン・ザラと認めた上で、余計なボロを出すなと咎める発言だ。
彼をアスラン・ザラだと認めてしまえば、ザフト軍人である彼女には脱走兵である彼を拘束する義務が発生してしまう。
それを回避する為には、オーブの一市民である“アレックス・ディノ”として遇するしかない。
そんなタリアの温情を理解しつつも、アスランは頑なに言い募る。
「分かっています。でも、この状況を黙って見ている事など出来ません」
これはカガリの為―――彼女の、そして自分の同胞である、地上で暮らす人々を守る為。
そして、ついさっき話をした、かつての自分に似ている少年を死なせない為だ。
だから、アスランは深く頭を下げる。
「使える機体があるのなら、どうか……っ!」
「気持ちは分かるけど―――」
困り果てたタリアの声に、デュランダルの声が重なった。
「いいだろう、私が許可しよう。―――議長権限の特例として」
そのまるで自分の権能を楽しんでいるかのような口ぶりに、タリアは何かを言いかけるが押し止める。
一方でアスランは、この申し出に驚いてはいなかった。
なんとなく、この人なら分かってくれるという気がしていたからだ。
「ですが、議長……」
再三の差し出口にむっとした顔で言い返そうとするタリアだったが、デュランダルの反論にあって黙る。
「戦闘ではないんだ。出せる機体は、一機でも多い方がいい」
デュランダルは柔和な笑みを湛えたまま、冗談めかして言う。
「それに腕が確かなのは、君だって知っているだろう?」
本当に、彼は楽しんでいるようだ―――だが、何を?
アスランの脳裏を何故か一瞬、奇妙な不安がよぎった。
ボルテールのカタパルトから、次々にMSが発進する。
宇宙へと飛び出したゲイツRが振り返ると、丁度見計らったように母艦から巨大な作業機器が射出された。
三本足の台座の中央にドリルを装備した、小惑星破砕機器『メテオブレイカー』だ。
これをユニウスセブンに何本も打ち込みその内部で爆破、細かな破片に分解するというのが今回の任務だった。
「行くぞ! ジュール隊長が急げってよ!」
後続の部隊に声を掛けると、ディアッカはガナーザクウォーリアを駆って先頭を突き進む。
巨大なクラゲを思わせる人工の大地が迫るにつれ、ディアッカは小さな焦燥を覚えた。
先の大戦で共に戦った仲間達や、知り合った一人の少女。
そんな彼らの頭上に、こんな馬鹿デカイ物が落ちるのかと思うと、焦燥は大きく不快なものとなり、全身を満たしてしまう。
―――きっちりと片付けてやるぜ!
口には出さずに誓いながら先発した機体を見れば、既に氷の大地に降り立ってメテオブレイカーを打ち込み始めている。
「さぁて、このまま順調に行ってくれよぉ……」
そう小さく呟いたその時、作業中のゲイツRが続けざまに二機、出し抜けに大破、爆発する。
何処からか放たれたビームに撃ち抜かれたのだとディアッカが気付いたのは、自身へと降り注いだビームの矢から飛び退いた瞬間だった。
「なにぃッ!?」
コックピットに敵機接近を示すアラートが鳴り響き、周囲を見渡す。
すると、凍った大地の彼方此方から、自分の部隊ではない機体が、ビームライフルを連射しながら飛び出してきた。
「何だよ! これはッ!?」
背中にマウントされている長射程ビーム砲オルトロスを展開させながら、襲撃してきた機体に目をやる。
黒と紫のカラーリングに、機体各部に追加されたブースター、そして、左腰に差しているサムライソード型の斬機刀。
ジン・ハイマニューバ2型―――それは紛れもなくザフト軍の、友軍の機体だった。
機動性向上の為の改良を施されたそれは、次々にゲイツRを襲撃、破壊していく。
「ええいっ、下がれ! 一旦下がるんだッ!」
オルトロスで応射しながら部隊に呼びかけるが、その間にも一機、また一機と僚機が屠られていく。
工作隊のゲイツRは全機丸腰、これでは応戦など出来るはずもない。
<ゲイツのライフルを射出する! ディアッカ、メテオブレイカーを守れ!>
報告を受けたイザークの叫ぶ声が、ノイズ混じりに通信機から聞こえてくる。
<―――俺とシホもすぐに出る! それまで持ち堪えろッ!>
「くっそぉ、無茶言いやがってッ!」
怒りと焦燥に喚きながら、ディアッカは砲撃を続ける。
このまま、こんな訳の分からない連中にやられてたまるものか!
何故自分達の邪魔をする? このままではユニウスセブンが落ちてしまう事が分からないのか!?
そうなれば、地球に住む人々は……!
その時、ディアッカの背筋をうそ寒いものが這い上がり、弾かれたようにジン部隊を見た。
―――まさか、こいつらが……?
安定軌道にあるはずのユニウスセブンが、何故動き出したのか。
誰もが抱いていた疑問の答えを、彼は得てしまった。
<MS発進三分前、各パイロットは搭乗機にて待機せよ。繰り返す……>
アナウンスの流れる格納庫を、パイロットスーツを来たアスランはモスグリーンの機体―――ザク目掛けて飛んだ。
体を締め付けるようなパイロットスーツの感触が懐かしい。
コックピットハッチの前まで辿り着くと、そこではがっしりとした体格の男が待っていた。
整備主任のエイブスだ。
「おう、機体の説明だが……一回動かしてるし、別にいいか?」
「……そう、ですね」
砕けた言い方に思わず苦笑するアスランに、エイブスは男臭い笑みで返す。
「レイアウトは変わったが、基本的なもんは変わってねぇ。アンタの前の機体、ジャスティスに比べりゃ見劣りはしちまうが、まぁ我慢してくれ」
「まあ、貸して貰えるだけでも御の字ですから」
「違いねぇ。それと装備だが、あるのはビームアックスぐらいだ。まぁ破砕作業の支援だし、それでも十分……」
<MS発進一分前―――ッ!? 状況変化! 発進停止!>
説明途中だったエイブスの言葉は、そのアナウンスによって遮られる。
アンノウン
<ユニウスセブンにてジュール隊が不明機と交戦中! 各機、対MS戦闘用装備に換装して下さい!>
「……装備説明の追加だ。アンタにゃ高機動用のブレイズウィザードを取り付けるから、追加装備としてビーム突撃銃に、背後の誘導ミサイルが付く。突
撃銃だが、コイツはクセのある銃でな、連射性はいいがその分狙いが甘くなっちまう。連射は控えて、3点バーストを基本にしとけ」
「分かりました」
「おっし! 俺からの説明は以上だ。後は……死ぬんじゃねぇぞ」
その言葉に力強く頷くと、離れていくエイブスを見送ってからコックピットに潜り込み、機体を立ち上げる。
だがその頭の中は、既に疑問で一杯だった。
アンノウンと交戦中、しかも交戦場所はユニウスセブン。
何故? 誰が? 何の為に?
一向に答えの見えない疑問に頭を悩ませる間に、更なる報告が飛び込んできた。
<更にボギーワンを確認! グリーン25デルタ!>
ボギーワン、つい先日取り逃がしたあの不明艦だ。
それが何故ここにいる?
全く状況が掴めず、アスランはつい声を荒げて管制官の少女―――メイリンに尋ねた。
「どういう事だ!?」
問い掛けられたメイリンも、困惑顔のまま返す。
<分かりません! しかし、本艦の任務がジュール隊の支援である事に変わりなし! 換装終了次第、各機発進願います!>
対MS戦闘―――思いがけない事になった。
アスランは少しばかり躊躇いを覚えたが、すぐに懸念の方が大きくなる。
ジュール隊、これを率いているのは間違いなくイザークだろう。
彼の腕は知っているし、そう簡単に墜とされないだろうが、それでも心配だ。
少しだけ顔を顰めていたが、不意に回線が開き、モニターにシンが映し出される。
<状況が変わりましたけど……行けますか?>
その言葉に、アスランは小さく苦笑した。
どうも自分は、向こうが心配するほど深刻な顔をしていたらしい。
「なに、大丈夫だよ。君の方こそ大丈夫なのか?」
からかうような声色で問うと、モニターの向こうでシンも苦笑した。
<おかげ様で、大分気が楽になりましたから>
そう言うシンに、気負った様子は何処にも無い。
その様子に、アスランは小さく安堵の息を吐いた。
「そうか。無理はするなよ」
<そちらこそ>
そう言うとシンはぐっと親指を上に向けた―――所謂サムズアップをして、モニターが途切れる。
そのすぐ後に、コアスプレンダーが発進し、それを追うようにして三つのユニットが射出される。
続いてレイのブレイズザクファントム、ルナマリアのガナーザクウォーリアが発進していく。
ちなみにショーンとゲイルは、機体修理が間に合わなかった為、今回は留守番だ。
そして、アスランの機体もカタパルトへと運ばれ、レイと同じブレイズウィザードが取り付けられた。
その際の小さな振動を感じ取りながら、目の前の星空に視線を移す。
「また、戻って来たんだな」
胸に高揚と諦念が入り込むが、今は迷っている時ではない。
友が戦い、母の眠る大地が地上へと落ちているのだ。
ランプがグリーンに変わり、アスランは小さく息を吐くと真っ直ぐに進路の先を見詰めた。
「―――アスラン・ザラ、出るッ!」
あとがき
はい、という訳でお送りしました第五話後編。
今回のコンセプト、それは“頑張る大人達”でした。
といっても、実際頑張ってるのはエイブスさんとアスランくらいでしたが。
とりあえずアスランに関しては、今後もこんなスタンスで行きます。
シンの成長を即す、或いは道標になる存在。
TV本編においては彼が担うべきであった立ち位置に、ちゃんと立たせます。
キラ君が出て来たからってそれを追いかけるのは、先生許しません。
えぇ許しませんとも。
それでは、今回はこの辺りで。
また次回にお会いしましょう〜。