生者と死者は、決して交わることはない。
一度『死』という境界線を飛び越えてしまえば、生きている人間は
二度と死者に触れることはできない。
それが普通。それが現実。
それが森羅万象の理。
どこの世界にでも当てはまる常識、普遍の事実。

どれだけ大切な人間だろうと。
どれだけ守ると誓った人間だろうと。
死んでしまえば、泣こうが喚こうが戻ってこない。
そんなことは、考えるまでもなく、言われるまでもなく、
よく知っている。
俺はそれを、とてもよく知っている。

だけどさ、たとえ二度と死んだ人と触れられなくなったとしても。
話したり、笑いあったりすることができなくなったとしても。
その人と築いた想い出まで、なくなることはない。
紡いだ『絆』までなくなることは、決してないんだ。
そのことも、俺はよく知っている。


だってあの時、君は俺の前に現れてくれた。
レイたちを失って絶望に沈む俺を、救い上げてくれた。
希望という名の眩いばかりの光を、俺に見せてくれた。
全てを諦めかけた俺に、明日を生きる力を与えてくれた。


そう。
大切な人と紡いだ『絆』は、決して消えることはない。
たとえ二人の内のどちらかの肉体が、滅んでしまったとしても。
たとえ生と死によって住む世界を分かたれてから、どれだけの
時間が経ったとしても。
たとえ自分の属する世界とは違う世界に、飛ばされてしまったとしても。

永遠に変わらない、何が起ころうとも決して切れない繋がり。
いつまでも色あせることのない、輝き続ける不変の光。
それが、『絆』ってものだろ?
なあ、ステラ……………。































「今回のお前のISは、打鉄だ。もう三度目なのだし、これが一番
 しっくりくると思ってな」

「いえ、普通に射撃武器が搭載されているISの方が良かったです。
 近接攻撃しかできないなんて、なぶり殺しにされるだけじゃないですか」


ピット搬入口の奥に佇む打鉄を前に、俺はそうブーたれた。
ここはこの前山田さんと対戦した、第三アリーナ・Aピット。
そこで俺は試合を始める前の事前説明を受けていた。
ちなみに今回の相手であるオルコットは、既にアリーナ・ステージで
待っている。
まったく、せっかちな奴め。

俺が織斑先生から一通りの説明を聞き終えると、脇に控えていた
一夏、篠ノ之、そして山田さんがこちらへやってくる。
オルコットと対戦する俺を、わざわざ応援しにきてくれたらしい。

ちなみにオルコットには出撃前に一夏と織斑先生と山田さんが
応援しに行っていた。
一夏からエールを送られたオルコットは、少し顔を赤くして
はにかんでいた。
まったく、一夏の奴……。
一週間でここまでオルコットに好印象を与えたか。
まさに、魔性の男だ。

だけど、戦闘前にこうも純粋な応援をされるというのは初めてだ。
元の世界じゃ戦闘前に「健闘を祈る」とか言うのって、半ば
別れの挨拶と化していたからな。
そういうのは出撃前のパイロットにはあまり言わないのがミネルバ内の、
ひいてはモビルスーツ乗りの間で、暗黙の了解となっていた。
まあこの戦闘で死ぬなんてことは有り得ないんだし、わざわざ
それを気にかけることもないだろう。


「頑張れよシン!……って簡単にそんなことは言えないな。
 セシリアは強いし、何よりシンは専用機を持ってないからな。
 お前も俺と同じISを使える男なんだし、どこかがお前の専用機を
 用意してると思ってたけどな。
 俺には『白式』が用意されてたんだし……」

「いいさ、専用機なんかなくてもさ。打鉄だって優秀な機体だし。
 それに戦闘では機体の優劣だけが勝ち負けの絶対的な要因って
 わけじゃないしさ。
 そこらへんは自分でカバーするさ」


まあ、近接武器しかない打鉄でオルコットの攻撃にどこまで耐えられる
かは分からないが。
確かに専用機ってのは、心が躍るものだ。
昨日到着したばかりの一夏の専用機、『白式』を見たときには、
その放たれる力に驚いたもんだ。
まあ、だけど俺に専用機がないのは仕方がない。
だって俺の場合は、専用機を用意してもらうわけにはいかないからだ。

俺は国家の利権のために俺を囲おうとする各国から逃れるために、
このIS学園に入学した。
そして山田さんとの試合を経て、俺の入学に異を唱える各国を黙らせた。
それらの脅威に翻弄されることがないようにして、
ここで元の世界に帰ることを模索することにしたんだ。

つまり俺がこの異常な状況の中で元の世界に帰る方法を誰にも
邪魔されずに模索するためには、俺がどこの国にも所属していないことが
大前提になる。
しかしそこにどこかの国に専用機などこしらえてもらったら
どうなるだろうか?

そもそもISの専用機は各国が代表候補生や、国家代表者にデータ収集
などの目的であてがうものらしい。
つまりどこかの国に専用機を与えられたら、その操縦者はその国に
属する操縦者と認識されるのは当然といえる。
もし仮にこの日本という国が俺専用のISを用意したとしたら、
俺は各国にも世間的にも、間違いなく日本所属のIS操縦者と認識
されてしまうだろう。

そうなったら、俺は日本政府が言ってくるであろう様々な要求を呑まざるを得ない。
やれ研究のためだとか、やれ戦闘データ収集のためだとか、
何だかんだと要求を吹っかけられるのは目に見えている。

それは、駄目だ。
別に俺がどこかの国家に所属したとして五反田家の皆や俺自身に
危険が及ぶとかはないだろうけど。
俺の動きが著しく制限されるのは目に見えている。
だからこそ俺は各国から専用機を用意するという申し出を、全て
はねのけてきたのだから。

そのせいでオルコットとの試合が不利になるのは、まあ仕方ないと
割り切るべきだろう。
一夏にも言ったけど、機体の優劣だけが勝ち負けの絶対的要因ではないのだから。
と、俺が専用機についての申し出を断り続けてきたことを知っている
山田さんは、俺を励ますようにふわっと笑いかけてくれる。


「ファイトです、アスカ君!この前見せてくれたアスカ君の実力なら、
 十分勝ち目はありますよ!私、応援してますからね!
 ……って、どちらかだけを応援するなんて教師のすることじゃ
 ないですよね。で、でも私はどちらかといえばアスカ君に勝って
 もらいたいですし………ごにょごにょ…………」


山田さんは顔を真っ赤にして口をモゴモゴさせている。
そろそろ山田さんとの付き合いも一ヶ月ちょいになるので、
山田さんのことも少しは分かってきた。
今みたいに顔を赤くして口をモゴモゴさせているときは、何を言っても無駄だ。
上の空で聞きはしない。

とりあえず山田さんは放っておいて、篠ノ之の方を向く。
さっきから一言も言葉を発しないので何気なく視線を向けるが、
篠ノ之はこちらの視線に気付くと、仏頂面でそっぽを向いてしまった。
だが少しばかり横目でこちらをチラチラと窺っている。
何か俺に言いたいことがあるみたいだが、いっこうに何も言ってこない。
お前は何しにここに来たんだよ…………。
と、俺の前で腕を組んで佇んでいた織斑先生が、声をかけてくる。


「では、私たちはモニタールームに向かうからな。お前はISを装着後、
 アリーナで戦闘を開始しろ。アリーナを使用できる時間は
 限られているのだからな」

「………?ピットにはリアルタイムモニターがあるじゃないですか。
 わざわざモニタールームに行かなくても、ここで観戦すれば
 いいんじゃ………?」

「……いや、昨日の夜から、リアルタイムモニターの調子がおかしいんだ。
 今まで突然調子がおかしくなるなんてことはなかったのだが……。
 まあそういうわけで、私たちはモニタールームから観戦する。
 ………アスカ、この程度の障害、男子たるもの軽く乗り越えてみせろ」


織斑先生らしい激励の言葉に、知らず笑みがこぼれる。
織斑先生は俺の顔を見てプイッとそっぽを向いてピットから出て行き、
一夏もそれに続く。
山田さんは何故か顔を赤く染めてポ〜〜ッとしていたが、
すぐに我に返ってアタフタしながら出て行った。
そして残った、俺と篠ノ之。………って、


「……おい、篠ノ之。何をボ〜ッとしてるんだよ。
 早くお前も行けよ。もう出撃するからさ」

「ぼ、ボ〜ッとなどしていない!私はただ、お前に一つだけ聞きたいことが
 あっただけだ!!……アスカ。お前、大丈夫なのか?」


さっきまでの仏頂面を、心配そうに歪めている。
しかし大丈夫かって、何のことだ?
俺はいたって健康そのもの。体調も完調だ。
頭に「?」マークを浮かべていると、篠ノ之は焦れたように声を荒げる。
……そんなに怒らなくても。


「だからっ!お、お前はあれからも毎晩うなされて、ろくに眠れてないだろう?
 今だってどことなく顔色が悪いし……。本当に、大丈夫なのか………?」


口をモゴモゴさせながらも、呟くように言う篠ノ之。
……どうやら本気で心配してくれてるらしい。
この一週間、篠ノ之には本当に世話になった。
放課後の稽古帰りに、うなされて喉がカラカラになる俺のために、
毎日2、3本ミネラルウォーターを買ってきてくれたし。
夢から覚めて汗だくになった俺を、ブツブツ言いながらもタオルで
拭いてくれたし。
悪夢から覚めた俺のために、しぶしぶながらも話し相手になってくれたし。

全く、その態度こそ気になったが、本当に篠ノ之には世話になった。
また改めて御礼をしようと思うが、とりあえず今は試合優先だ。
俺のことなんかでこれ以上心配させないためにも、ここはこの台詞で
一夏のところに行ってもらうとしよう。


「大丈夫だよ。お前のおかげでいつもよりスッキリしてるくらいなんだ。
 お前は何も心配しないで、一夏のところに行ってこい。
 今のうちにオルコットに差をつけてやれ」

「ばっ………、そ、そんなことしたらはしたない女と思われるかも
 しれんだろうがっ!……ええいっ!とにかく勝てよアスカ!
 この私が稽古をつけてやったのだ!
 負けるなど許さんからなっ!!」


俺に指を指してズンズンとピットから出ていく篠ノ之。
その後姿を見送ってから、俺は小さく息を吐く。
やれやれ、男は別にそんなことで『はしたない』なんて
思わないけどな。
容姿も、性格も……まあいいんだから、足踏みせずに直球でいけば
一夏も落とせると思うんだけどな。
……それにしても。

………大丈夫、いつもよりスッキリしてる、か。
まあ、嘘も方便だよな。
俺はまた一つ小さく息を吐いて、打鉄へと向かう。
……と、その足がぴたりと止まった。

……人の気配?
打鉄の後ろに、誰かいる……?
さっきまでは、何も感じなかったのに……。
俺は少し警戒しながら、打鉄に向かって問いかける。


「………誰だ?」

「ありゃ、見つかっちゃった?いや、流石に鋭いね〜〜感服っ!
 ……なんちゃって。やーやー、初めましてだよねぇ、あっくぅん!」


あ、あっくん!?
それ、もしかして俺のことか!?
何だよその人を馬鹿にしたような呼び名は!
誰だ、いきなりそんな意味不明な呼び方で俺を呼ぶ奴は!
そう思って、打鉄の後ろからひょっこりと飛び出してきたその人物を
凝視する。
……………何だ、この人は?

まず、何か奇妙な服を着ている。
童話か何かに出てくるような、メルヘンチックな服装だった。
それに……あの頭にくっついているカチューシャ。
形は変だけど、ウサ耳、とか言ったっけ?
何でこんな所でウサ耳なんてつけてるんだ?

何とも面妖な姿だが、この格好をしているのが子供ならば、まだ納得できる。
だがあの服からはち切れんばかりの、豊満な胸。
これを見てなお、この子を子供と呼ぶ奴がいるとしたら、そいつは
もはや人間ではない。
ロリ巨乳なんて、もはやドラゴン等と同等の空想だ。
そんな幻想など、断じて有り得ない。
と、彼女は眠たげなツリ目をこちらに向けてくる。
その視線に何か得体の知れないものを感じ、警戒しながら問いかける。


「……あんた、誰だ?それに『あっくん』って、俺のことだよな?
 何だそのふざけた呼び名は?」

「おいおい、質問は一度に一つまでしか受け付けられないよ〜。
 まあ天才である私には造作もないけどね。仮にあっくんが十人
 いたとして、同時に言葉を発しても全部漏らさず聞き取れるよ。
 ……って、聖徳太子か!ってね。まあまあ冗談だけどね。
 私は、束さんだよ。そしてあっくんって呼び名は、まあ
 親愛の証みたいなもんだよ。気にしないで〜〜」


……たばね、さん?
格好も変だが、名前も変だな。
それに親愛の証って、俺ら今この瞬間が初対面だろうが。
だけど、俺の名前を知ってるなんて、やはりIS学園の関係者
なのだろうか?
俺の名前を知っていなければ『あっくん』なんて呼び方はできないだろうし。
いくつもの「?」があるけれども、とりあえずは彼女に今一番聞くべきことを
聞いておくことにする。


「……で?そのたばねさん、とやらが何でこんな所にいる?
 それにここはIS学園で、関係者以外は立ち入り禁止のはずだが」

「ん〜〜〜。前半部分って、つまり私がここにいる目的のことだよね?
 だったら答えは簡単。『もう終わった』だよ。
 この天才束さんにかかれば、ちょちょいのちょいってな感じの仕事
 だったさ。流石私!やるね私!!
 で、後半部分についても簡単。私は関係者だから。終わり。
 っと、ちょっと話しすぎたかな?じゃあ、私はそろそろ帰るね。
 ここのリアルタイムモニターがおかしくなった理由、ちーちゃんなら
 すぐに感づきそうだしね。
 じゃーね、あっくん。まったねぇ〜〜〜!」


マシンガンのように言いたいことだけ一方的に言うと、たばねさんとやらは
ステステと歩き去って………いや。
ピットを出て行こうとしていたたばねさんとやらは、そこで足を止めて
くるりと振り返った。



「………試合、『頑張って』ねぇ。あっくんっ!」



それだけ言うと、びょこびょこと跳ねるように、どこぞへと
去ってしまった。
……何だったんだ、あの人は?
意味深なのか、意味がないのか、よく分からないことばっかり
言いやがって………。
嵐のように去っていった彼女に呆然としながらも、俺は試合が
迫っていることを思い出し、慌てて打鉄を纏う。
もう三度目ともなると勝手も分かっているし、慣れたものだ。
と、そこで………………。



「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!???」



猛烈な違和感が、俺を襲った。
いつも打鉄を纏う時には感じない、凄まじい不快感。
打鉄と繋がってるはずなのに、繋がってない。
この、不気味な感覚は…………!?

と、今まで感じていたそれらは、次の瞬間には跡形もなく
消え去っていた。
まるでそれらが、最初からなかったかのように。


「な、何だったんだ、今のは…………?」


早鐘を打つ心臓を押さえながら、そう呟く。
しかし打鉄はもういつもと同じ、クリアーな感覚のみを俺に
伝えてくる。
…………気のせい、だったのか?
最近あの悪夢を見続けているせいで精神的に疲れすぎていたから、
そのせいか………?
でも、未だに胸のモヤモヤは消えはしない。

俺は小さく溜息をついて、ポケットに手を入れて、ある物を取り出す。
それは、小さな虹色の貝殻のネックレス。
俺にとっては忘れたくても忘れられない、ステラの形見だ。

だけど、これが今俺の手元にあるなんて、そんなことは有り得ないんだ。
絶対に、有り得ない。
だって、これは俺がステラの亡骸と一緒に、湖に沈めたんだから。
病室で蘭さんに、マユの携帯と一緒にこれを渡された時は、あまりの
衝撃に胃の中の物を全て吐き出してしまった。
蘭さんが必死に俺を落ち着かせてくれたから何とか精神を保てたが、
あの時は本気で混乱してしまった。

……何で今日に限って、これを持ってきちゃったんだろうな。
マユの携帯は毎日ポケットに入れて持ち歩いていたけど、これは
部屋に置いていた。
本来ならここにあるはずのない物なので不気味だということもあるが。
俺はステラに関連のあるものを、IS学園という兵器を扱う操縦者を
育成する機関の中で、持ち運びしたくなかった。
くだらない俺の自己満足だとは思うが、ステラにはもうそういったもの
には、一切触れてほしくなかった。
たとえそれがステラ自身でなくても、ステラが大切にしていたもの
なんだから。

そしてこのネックレスが、俺に元の世界に帰る理由を、一つ作ってくれた。
それは、このネックレスを再びステラの眠る湖に沈めること。
何故これが俺の手元にあったのかは分からない。
でも、これはステラの物なんだ。
今度こそ争いのない世界へ、ステラと一緒に、一緒の場所に
沈めてやらないと。
これも無意味な自己満足かもしれないが、俺は本気でそう思っていた。

だからこそそれまでの間、このネックレスを人目につかないように
してたんだけど。
どうしてだろう?
その思いに反して、今日はこれを持ってきてしまった。
朝からも得体の知れない不気味な不安を感じていたから、そのせいかもしれない。
今日までずっとあの悪夢を見続けてきて、心がガラにもなく弱ってたから、
そのせいかもしれない。
だからステラに縋りたい、なんて思ってしまったのかもしれない。

……そういえば、今思い出したけど。
ステラとの思い出だけをエンドレスに夢で見るようになったのは、蘭さんに
このネックレスを渡された夜からだったっけ………。
まあ、何の関係もないんだろうけどさ。

なんてグダグダ考えていると、ゲートが開放されてアリーナ・ステージが
露になる。
時間だな、今はオルコットとの試合の方に、集中しないと。
……このネックレス、どうしよう。
今から置いてくる時間はないし………。
それに、何故か今このネックレスを手放す気が起きない。

このネックレスが、俺に語りかけているようで。
持っていけと、手放すなと、ネックレスが俺に囁いているみたいで。
たぶん俺のハイパーにやばい妄想なんだろうけど。
……何故だろう?
その想いは、何故か俺の心にじんわりと染み込むみたいで。
俺は知らず、ネックレスに向かって問いかけていたんだ。


「……君を、この戦いに連れていってもいいかい?
 一緒に、居てくれるかい?ステラ…………」


少しの間、待つ。
だけど、当然ながら答えなど帰ってくるはずもない。
俺は自分の行動に呆れてしまい、僅かに苦笑した。


「全く、何をやってるんだか…………」


そう呟きながらも、ネックレスを首から下げる。
何か暖かいものを感じながら、少し打鉄を傾けて、ふわりと宙へ浮く。
そしてスラスターを噴かせながら、声高に叫んだ。


「シン・アスカ!『打鉄』、行きます!!」


そこでスラスターを全開にして、アリーナの空へと飛び出す。
そこには鮮やかな青色のISを身に纏った、オルコットが佇んでいた。
































「ようやっと来ましたわね。怖気づいて逃げ出したのかと思いましたわ」

「そんなわけないだろう。……でも、悪い。遅れた」


私を五分以上待たせた挙句、ろくに謝りもしない彼に、
苛立ちながら口を開く。
全く、相変わらずの不遜な態度。
一夏さんのような紳士的な態度はできないのかしら?
まあその不敬な態度も、すぐに改めることになると思いますが、ね。

私は国家代表候補生のエリートですし、訓練も実践を想定した試合も、
数多くこなしていますわ。
加えて、私のエリートたる象徴。
私の鎧、剣である愛機『ブルー・ティアーズ』。
自立機動兵器・ティアーズを積んだ私の専用機が、彼の纏っている
無骨な量産機に遅れを取るはずがありませんわ。

私はこの時既に自らの勝利を確信し、試合に負けた彼が頭を下げて
今までの無礼を謝る姿を思い浮かべていた。
それが、どれほど愚かしいことなのか、その時の私は気付かなかった。


「最後のチャンスをあげますわ」

「……チャンス?」


呆けたように首をかしげるシン・アスカ。
くっ、一夏さんと同等の容姿を持っていますから、一挙一投足が
見栄えがしますわね。
……生意気ですわ。


「こ、こほんっ!私が一方的な勝利を得るのは自明の理。ですから、
 ボロボロの惨めな姿を晒したくなければ、今ここで謝るというのなら………」


そこまで言って、私は言葉を止めてしまう。
……何ですの、あの表情は?
「ああ、こいつはそんなこと言いそうだな」とでも言いたげな、
微笑ましいと言えるくらいの、その苦笑は?
………侮られている?
そう感じた私はその笑みに苛立ち、つい怒気を込めて尋ねてしまう。


「……何を笑っていますの?」

「なあ、オルコット。お前は例えば、これが命がかかった実戦でもそう言うのか?
 惨めな姿を晒したくなければ、泣いて謝れば許してやると。
 俺が信念を持って、お前を本気で殺そうとしていても、そう言えるか?」


なっ………いきなり何を!?
急に能面のような無感情を顔に貼り付け、そんなことを言ってくる
シン・アスカ。
ま、的外れもいいところですわ!
これは実戦ではなく試合なのですし、そんなことを考える必要など、
これっぽっちでもないではありませんか!
でも、私は彼が言ったその言葉に反論しようとするが、何故か言葉が
うまく出てこない。
彼の無感情なそれに、恐怖してしまっていたからかもしれない。


「四の五の言わず、全力で来いよ。例え試合だろうと、手加減なんかせずに
 自分の力を出し切って来い。
 俺だって相手を舐めたことはあれど、本気で戦わなかったことはないぞ。
 普段からそうやって相手を舐めて戦ってると、『いざ』というときに、
 『本気』で戦えないからな」


そう言って右手に近接ブレードを呼び出した彼は、それを構えて
油断なく私を見つめてくる。
もう既に臨戦態勢に入った彼を認識しているはずなのに。
それが気にならないほど、私は苛立っていた。
だって私は、彼の言葉に何一つ言い返すことができなかったのだから。
心のどこかで彼の言葉に納得してしまっていたのだから。
それが、私にはたまらなく悔しかった。
だからこそ私は、最初から冷静さを欠いてしまった。


「いちいち気に障ることを……!だったらこの一撃で、お別れですわ!!!」


私は主力武器である『スターライトMK−V』を呼び出し、勢いよく
ビームを撃ちだす。
その光の軌跡はまっすぐに彼に向かって疾走する。

どうっ!?
ほぼノーアクションで撃ちだしたこの攻撃に反応することなど、
ISを起動して三回目の男風情には不可能ですわ!!
そう思い笑みさえ浮かべていた私は、次の瞬間に驚愕に固まることになった。
彼は右手にグリップしていたブレードを、ブンッと横に一薙ぎする。
私のビームはそれによって、あっけなく弾かれてしまった。


「は………………………?」


私はその光景に呆然とするだったが、彼はその隙を見逃さず、ブレードを
構えて向かってくる。


「なっ、このぉ!!!」


私は彼の動きを先読みし、ライフルで射撃を行う。
このブルーティアーズは中距離射撃型。
当然それを操る私の専門も、射撃ですわ。
ですから私は、今まで行ってきた訓練でも、射撃に力を入れてきました。
『スターライトMK−V』を呼び出してから初撃を発射するまでの、
無駄なアクションを徹底的に削ぎ落とし。
狙撃、精密射撃、相手の行動の先読み、相手に接近された時の緊急回避。
とにかく射撃主体で戦っていくにあたり必要になりそうな項目は、
徹底的に練習しましたわ。

とにかく、射撃に関して私の右に出るものは、教師を含めこの学園にはいない。
少なくともこの試合をするまでは、そう思っていました。
何人たりとも、私の射撃からは逃れられない。
『射撃』、それが私の絶対的な『力』。
同じIS操縦者でも、それらから一歩抜きん出た、私の才能と努力の結晶。
そう、思っていましたのに………。
それをこの男は、一射たりとも見逃さず、全てかわしきっていた。

私の先読みをさらに先読みしているかのように、私が撃ちだしたそれを、
全て鮮やかにかわしていたのだ。
しかもその間、加速を止めることなく、こちらに突き進みながら回避して
いたのです。
こんな………考えられませんわ!
こちらの攻撃をギリギリまで引き付けておいて、僅かに体を動かすだけで
かわしていくなんて!
いくらビームが直線的な攻撃なのだとしても、それを考慮したとしても
非常識にも程がありますわ!
並大抵の技量・度胸ではできませんわよ!?

と、シン・アスカは私の動揺を察したのかほんの少しだけ目を細めて、
次の瞬間には射線上から消えてしまった。
一瞬硬直する私の耳に、アラート音が鳴り響く。
ハイパーセンサーの示す方を向くと、私の下方から襲い掛かってくる
彼の姿が大映しになる。
彼は既にブレードを振りかぶっており、今にも私に振り抜こうとしていた。
あっ……………やられる!?
そう思って襲い来るであろう衝撃に耐えるように、体を強張らせる。
が、しかしそこで予想外のことが起こった。


ガクンッ!


え…………?
重く鈍い変な音が聞こえてきたかと思うと、黒光りする無骨なISが
突如その動きを止めていた。
目の前でピクリとも動かないブレードの切っ先を凝視していたが、
ハッとして慌てて後方へ下がる。

な、何だったんですの、今のは…………?
いや、普通に考えれば攻撃の直前でそれを止められたのですから、
私は彼に情けをかけられた。
つまり、侮られたということなのでしょうが………。
もしそうなら、彼があんな困惑した表情を浮かべている理由が
分かりませんわ。


「……どういうつもりですの?勝負で手を抜くのは駄目だと言ったのは、
 あなた自身ですわよ?
 まさかあなた、寸止めは手加減ではないとかおっしゃるつもりですの?」

「い、いやそんなんじゃ………。打鉄の調子が一瞬おかしく……?
 これは、一体……………?」


調子がおかしい?
ISは従来の兵器とは違いますのよ?
そんな簡単に不具合など起こるものですか。
だけど彼の表情を見るに、とても嘘を言っているようには思えませんし……。
……まあ、今はそんなこと考えている時ではありませんわね!


「いつまで呆けていますの?今はまだ、試合の最中なんですわよ!!」


私はそう叫ぶと、再び『スターライトMK−V』にて攻撃を仕掛ける。
彼は呆けていたにも関わらず即座に反応し、的確にそれをかわしていく。
その動きには切れるような鋭さがあり、こちらの背筋を冷たくさせる。

と、私の動きが一瞬鈍くなったのを逃さず、彼は瞬く間に私の視界から
消えうせてしまう。
またっ!?今度は一体、どこに………!?
私は反射的に、先ほど彼が強襲してきた下方に視線をやる。
が、誰もいない。
後々考えれば彼がそう何度も同じ手を使うはずがなかったのだが、
その時はそんなこと考えている余裕はなかった。

フッと影が差し、慌てて上方を振り仰ぐと、長刀を振りかぶる
彼と目が合った。
私は彼の瞳の紅蓮の輝きに圧倒され、回避行動を忘れてしまう。
それが隙とばかりに、彼は今度こそブレードを私目掛けて振り下ろした。

凄まじい衝撃が私を襲い、錐もみしながら地面に向かって落ちていく。
な、何て重い一撃………。
これが本当に、打鉄の攻撃なの!?
いくら何でも強烈すぎますわ!!

と、回り続ける視界の端に、ブレードを背負うように構えこちらに
向かってくる彼の姿を捉える。
彼は地面に落下する私目掛けて、まっすぐに向かってくる。
そのスピードは凄まじく、上から下への直下降による加速も加わって、
みるみるうちに私に追いついてくる。

だ、駄目………、体勢を立て直す暇さえない!
思わずグッと目を瞑ってしまうが、またしてもガグンッ!という
鈍い音が聞こえてきて、私はハッと目を開ける。
そこには先ほどと同じように動きを止めた打鉄と、驚愕しながら必死に
もがく彼の姿があった。

また、先ほどと同じ………?
でも、今はそんなことを考えている暇はない。
私は素早くスラスターを噴かせ、地面に激突する間際、体勢を
立て直すことに成功する。
地面を滑るように、砂埃を巻き上げながら彼と距離を取り、そこで
一旦動きを止める。
荒い息を整えながら、額に伝う汗を拭う。

くっ………何ですの!
何なんですの、彼は!!?
私は先ほどまでの攻防を思い出し、歯噛みする。
この私が、代表候補生であるこの私が!
あんな男にいいように翻弄されるなど!!
そもそも彼はISを起動するのはこれで三回目のはず!
なのに、何故あそこまでの実力が………!?

あの男、素人ではありませんわね……!
あの一見野蛮で粗暴とも言えるような動きが、直に戦ってみると
とても洗練された、こちらの虚を突くトリッキーで変幻自在な動き
であることを実感する。
まさに天衣無縫。
実戦の中で相手の動きに合わせて臨機応変に対応する、まさに
千変万化とも言える動きに、私は全くついていけていなかった。

私が今まで模擬戦で戦ってきた相手とは、何かが根本的に違う。
武器の扱い方だとかISの操縦技術だとか、そんな目に見えるものじゃない。
何というかその放たれる気迫というか、圧力というか、そんなものが
全然別次元に違う気が………。

と、時間でいうとほんの数秒ではあったけど、長々と長考していた
私の横を、砂埃を突き抜けてきた黒い影が通り過ぎていく。
あっという間だった。
まばたきをする暇も、なかった。
自分が斬りつけられたと分かった時には、その衝撃が全身を
殴りつけていた。

一撃、二撃、そして三撃。
計三つの衝撃が、シールドエネルギーを大幅に奪っていく。


「きゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」


凄まじい衝撃に全身を揺さぶられる。
思わず膝をつきそうになるが、視界の端にこちらへ向かってくる
彼の姿を見つける。
だけど、普通に向かってきているわけではない。
彼は私を斬りつけた体勢から、スラスターを前方に逆噴射することによって、
振り向くことなくこちらへ向かってきていた。
多分こちらに休む間を与えないようにとった行動なのでしょう。

私は慌ててスラスターを噴射させ、アリーナの空へと駆け上がる。
しかし彼はまるでハイエナのように、しつこく私に追いすがってくる。
少しでも動きを止めれば瞬く間に肉迫され、斬りつけてくる。
私の射撃はことごとくかわされ、その隙にまた接近される。
私は打開する術が見えないことに焦り、また反撃さえできない自分に
苛立ちながら、右手を握り締める。


「このっ………『インターセプター』!!」


急迫してきた彼目掛けて、呼び出したインターセプターを振り上げる。
よもや今まで射撃一辺倒だった私が、いきなり近接戦闘を仕掛けてくるとは
思わないでしょう!
醜く吠え面をかくがいいですわ!!


「調子に………乗るなぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


叫びと共にインターセプターを振り下ろそうとするが、予想よりも早く
接近していた彼は、素早く私の懐に飛び込んで、ブンッ!とブレードを
振り上げる。

彼の強烈な一閃を受けたインターセプターの刀身は、半ばから
粉々に砕かれてしまった。
私の手には、もはや役立たずと化した、インターセプターの成れの果て
だけが収まっていた。


「あ、あら…………?」


一瞬呆けてしまった私の横っ面を、痛烈な一撃が襲う。
彼が機体を流れるように回転させ、強烈な回し蹴りを放ってきたのだ。
大きく後方に吹っ飛ばされた私は、自分でもはっきり分かるほど動揺していた。

な、何で…………?
いくら私が接近戦を得意としていないからって、こうもあっさり
インターセプターを破壊されてしまうなんて!!
彼の一撃は、それほどまでの威力があったということなんですの!?

さっきの一瞬の攻防で、分かってしまった。
彼の実力が、その技量が。
そして先ほどまでの攻防で認識した彼の戦いぶり。
それらを完全に把握した瞬間、私は背筋が凍るような思いを感じた。
まるで、私が今まで知らなかった、想像もしなかったような存在を相手に
しているようにさえ感じて。

周りの、空間の、時間の流れが遅くなっているように感じる。
彼が、刃渡り二メートルはあろうかというブレードを、こちらに向ける。
それと同時にスラスターが、全開まで開かれる。
そしてブレードを背負うように構えて、こちらへ向かってくる。
その姿を見て、完全に恐怖してしまっていた私は、反射的に叫んでいた。


「…………ティアーズ!!!!!」


バシュバシュッと四機の自立機動兵器が射出され、そこから撃ちだされたビームが
彼の行く手を阻む。
しかし彼はティアーズを見たときこそ驚いていたものの、しなやかな
機体捌きでそれらを次々にかわしていく。

くっ………、この攻撃さえも初見でかわしきるなんて………!
私は強く歯噛みしながらもティアーズの指令を出して、彼を取り囲む。
しかし彼はそれを見ても、慌ても焦りもしない。
ただただ油断なく、ブレードを構えて佇んでいる。
その姿も何だか恐ろしくて、私は無我夢中でティアーズをけしかけたのだった。

































「…………これは…………」

「…………すげぇ…………」


モニター越しに繰り広げられるアスカとオルコットの戦いに、
一夏と篠ノ之はただ呆然とするばかり。
山田君も大きな瞳をさらに大きく見開いて、感嘆の息を漏らした。
だが、三人ともこの試合自体に驚いているわけではない。
あまりに凄まじい、アスカの戦いぶりに驚いているのだ。
それほど、アスカの戦いぶりは凄かった。


「……ふぁ〜〜。凄いですねぇ、アスカ君。あのオルコットさんを相手に
 あそこまで優勢に進めるなんて。私と戦った時よりも動きに切れが
 あるような気がします」

「シンの奴、こんなに強かったのか……。道理で専用機なんていらない
 なんて言うわけだ。確かに必要ないもんな、これだけ強けりゃ」

「ふ、ふんっ!私が鍛えてやったのだから当然だ!……でも、本当に大丈夫か、
 アスカ…………?」


三者三様に同じ意味合いのことを言っている。
確かに、アスカは強い。
ISを起動したのが三回目とは思えないくらいの戦いぶりだ。

だが、だからこそ分からない。
アスカは恐らく、戦闘慣れしている。
あそこまでのこなれた動きは、模擬戦闘を重ねただけではできない。
『本当』の実戦を経験しているからこそできる、洗練された動きだ。
それは、とても興味がある。
未だ何の情報も入ってこないアスカの素性を知るための、一助と
なるのは間違いない。
だが、今はそれよりも気になることがある。

……何だ?アスカのあの不自然な動きは?
モニターには既に二機のピットを落とし、残りの二機を相手にしている
アスカの姿が映っているが。
アスカの動きが、ときたま不自然に止まる。
その頻度は時間を追うごとに目に見えて増しており、止まるたびに
ピットの攻撃を受けている。

試合が始まってから、気にはなっていた。
アスカはここぞという攻撃のチャンスに、ことごとく動きを止めていた。
手加減しているのかとも思ったが。
アスカのあの慌てぶりを見る限り、とてもそうは思えない。
では、打鉄に不具合でも?
しかしあの打鉄は昨日の昼前に整備係によって入念にメンテナンスが
行われている。
不具合など起きるはずがないのだが………。

しかしどうも、得体の知れない不安を感じる。
こんな心持ちになったのは随分久しぶりだ。
………この試合、一時的にでも中断した方がいいのではないか?
そんなことすら思い始めた矢先、それは起こった。


「……え!?そんな…………これは、何で!?」


モニターで二人の戦闘データを収集していた三年の生徒が、悲鳴にも似た
声を上げた。
私たちはその切迫した声を聞いて、一斉にそちらを向く。
特に先ほどから嫌な予感を感じていた私は、怒鳴るように声を荒げていた。


「どうした!?」

「お、織斑先生!それが、アスカ君の打鉄のシグナルがおかしいんです!
 何か、今にも機体が停止してしまいそうで!
 このままじゃ、アスカ君は…………!!」


な、何だと!?
馬鹿な、あの打鉄は昨日メンテナンスしたばかりだというのに、
強制停止だと!?
そんなことが有り得るわけが………!
しかし今はそんなことを考えている場合ではない。
モニターの先では、四機全てのピットを落とされたオルコットが、
向かってくるアスカに対してスカート状のアーマーから外れたピットを
けしかけていた。
そしてそこから二発のミサイルが撃ちだされる。

しかし、アスカは動かない。
いや、突然動かなくなる。
ミサイルを待ち受けて斬り落とすつもりかとも思ったが、そうじゃない。
鮮やかな漆黒から鈍い黒へと戻ったそれの中で、必死にもがく
アスカの浮かべるその表情から、今アスカの身に何が起こっているかは容易に
想像できた。
私は身を乗り出してモニターを操作し、オルコットに呼びかける。
だが、その時には………………。


「オルコット!すぐに攻撃を止めろ!!アスカの打鉄は…………」








ズガァァァァァァァァァァァァァン!!!!!







もう、遅かった。
































何が、起こった?
どうしてこうなったのか、さっぱり分からない。
突然、打鉄のハイパーセンサーが働かなくなって、画面に
ノイズが走ったと思ったら、打鉄が全く動かなくなってしまった。

不具合か?
確かに打鉄に搭乗した時から、何とも言えない不気味な感覚はあった。
最初はその感覚も一瞬で消えたけど、戦闘中に突如打鉄が動かなく
なったりして。
その回数もどんどん増えていって。
気が付いたら、打鉄はただの鉄屑と化していた。

戦闘中に無理をしすぎたのかな?
だけどオルコットとの戦いは、そこまで厳しいものじゃなかったのに。

オルコットは確かに代表候補生だけあって、中々の腕前を持っていた。
ISの扱いも一流だったし、何よりその射撃は正確無比だった。
だが、逆にその正確さが命取りだったんだ。

オルコットは決まって俺の反応が一番遠い箇所を狙って、攻撃してきた。
逆に言えばそれは、一番反応の遠いところにさえ注意していれば、
攻撃はかわせるということだ。
しかもオルコットは、フェイント等をほとんど行わなかった。
騎士道精神からか俺を見くびっていたからか、それは分からないが……。
高い実力者同士の戦いでは、フェイントは必須になってくる。
よほどの実力差でもない限りは、馬鹿正直に力押しなんて戦法は
通用しないんだ。

それに四機のドラグーンのことだってある。
すぐに気付いたが、オルコットはドラグーンを動かしている間、他の
攻撃は行えない。
何でかは知らない。多分ドラグーンを動かすには相当の集中力が
必要になるから他の攻撃をする余裕がないんだと思うが……。
とりあえずそのお蔭で、ドラグーンに対しても比較的余裕を持って
対処できた。
しかも四機しかドラグーンがないのだから、ぶっちゃけサイレント・
ゼフィルスよりもまだ戦いやすかった。

そしてオルコットの最大かつ致命的な弱点。
それは不測の事態が起こった時、一瞬動きを止めること。
中距離射撃型であり、間合いに入られたら終わりのオルコットにとっては、
まさに『致命的』だ。
だからこそ射撃主体のオルコット相手に、完全接近戦用の打鉄で優位に
戦闘を進められていたのに、どうしてこうなった?

オルコットの奥の手であろうミサイルを叩き落とそうとブレードを構えた
ところで、打鉄が動かなくなってしまった。
シールドバリアーも消え失せ、スラスターも完全に停止して、ゆっくりと
打鉄が地面に向かって傾いていく。
が、オルコットのミサイルはそれよりも遥かに早く、こちらに向かってくる。
何とか打鉄から脱出しようともがいたが、がっちり装着された打鉄を
独力ではずすことなど、できるはずもない。
結果、ミサイルは動けなくなった俺へと吸い込まれ、大爆発。
俺の意識は凄まじい衝撃と爆炎に呑み込まれ、深い深い闇へと堕ちていった。



 





             ・










             ・











             ・










             ・








………ここは、どこだろう?
混濁した意識の中で、考える。
そして、すぐに気付く。
……ああ、ここは俺が毎晩夢の中でステラと出会う場所、
あの湖の中じゃないか。
俺はいつも通り、その湖の底へゆっくりと沈んでいく。
周りの色が青から黒へ、誰も手を出すことのできない、
漆黒の世界へと変わっていく。

……どうして俺は、いつもの夢を見てるんだ?
さっきまで何をしていたのか思い出そうとするが、どうしてか
さっぱり思い出せなかった。
………まあ、いいや。
思い出せないってことは、大したことじゃないんだろうし。
もうすぐこの夢もクライマックスなのだから、目を覚ましてから
考えればいい。

いつも通り、俺が沈んでいくと底の方から……ああ、ステラ。
今日も、逢えたね。
ステラはいつも通りに優しげな笑顔を浮かべたまま俺の前まで
やってきて。
いつも通りなら、ここでステラは俺に何か言おうと口を開けて、
そこで夢が終わるんだけど。
今日は、いつもと違っていた。


― シン……シンっ!……ステラの声、やっと届いた ―


……ステラ?
え?夢の続きが………何で?
俺は思わず口を開こうとするが、何故か体が動かないことに気付く。
え……?あ、あれ?な、何で!?
俺は必死に体を動かそうとするが、やはり全く動かない。
でも、ステラはそんな俺のことなどお構いなしに、言葉を紡いでいく。


― ……ネックレス。シン、付けてくれてる。良かった、だから届いた。ステラの声…… ―


ステラの顔が、嬉しそうに緩んでいく。
……ネックレス?
何で今、ネックレスのことなんか………?
だが状況が全く飲み込めていない俺を置き去りにして、ステラは突然
その可愛らしい顔を曇らせた。
悲しそうに、俺を見つめてくる。


― ステラ、ずっと見てた。シン、すごく辛そうだった。すごく、苦しそうだった。
  すごく、すごく悲しそうだった。……それは、多分ステラのせい?
  ……シン、ごめんなさい。ごめんなさい………  ―


顔を俯かせていきなりそんなことを謝りだすステラに、俺は必死に
呼びかけようとする。
声を出そうとするけど、口も動かない。
何でいきなりそんなことを謝るんだよ。
それに、何でステラが謝るんだ?
謝るとしたら、それは俺の方だろう。

守るって、言ったのに。
必ず守るって、言ったのに。
君を、死なせてしまった。
君を、守れなかったんだ。
そのことを非難されこそすれ、謝られることなんてないはずなのに。
それでも、ステラは謝ってくる。
ただ悲しそうに、謝ってくる。


― シン、ステラ、守ってくれた。何度も、何度も、助けに来てくれた。
  ……だからステラも、シン、助ける。
  シンが苦しいとき、ステラが助ける。
  シンが辛いとき、ステラが支える。
  シンが悲しいとき、ステラが傍に居る。ずっと……… ―


守れてなんかいないのに。
ちっとも助けられてなんかいなかったのに。
優しくそう言ってくれるステラを、堪らなく愛おしく感じる。
すぐにでもステラを抱きしめたいという衝動に駆られるが、
体がどうしても動かない。


― ステラ、ずっとシンの傍にいるから。
  話せなくなっても、触れなくなっても、傍にいるから。
  『ここ』にはいないけど、『ここ』にはずっといるから。
  ……だから、また明日……… ―


そこまで言うと、ステラはゆっくりと湖の底へと沈んでいく。
あの時のように。
最初にステラを沈めた時のように。
両手を広げて、静かに、ゆっくりと………。



― また、明日ね ―



その言葉を最後に、ステラは湖の底へと沈んでいく。
またしても、俺の目の前で、消えていく。


(あ……待って………。待って、ステラっ!!)


ようやく動くようになった体をバタつかせ、沈んでいくステラを追う。
せっかくまた話せたのに!
また、逢えたのに!
もう、いなくなってしまうのか!?
そんなの嫌だっ!
絶対に、嫌なんだっ!!


(お願いだ、ステラっ!!もう少しだけ……、せめて、もう少しだけ……!!)


毎晩君と夢の中で逢えた時だって、一言も話すことなく夢から醒めてしまって!
声も聞くことができなくて!
それが、とても辛かった!
大切な人が目の前にいるのに!
話すことも触れることもできなくて!
それが、堪らなく悲しかった!
せめて、あの時みたいに!
レイたちを失ったときみたいに!
ほんの少しでいいから、君に触れたい!
君の暖かさを感じていたいんだ!
だから、待って!
待って、ステラぁ!!


(ステラっ!!ステラァァァァァァ!!!)


俺は我武者羅に腕を動かし、ステラに追いつこうとする。
でも、どうしても、追いつけない。
ステラの姿が徐々に小さくなって。
そして、消えていく。

湖の底に消える直前、ステラはとても悲しそうな笑顔を浮かべて、
俺を見つめた。
その笑顔は目を閉じると浮かんでくる、俺の中のステラと同じ笑顔。
その笑顔を浮かべたまま、ステラは消えた。


(〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!)


自分でも引いてしまうほどの雄叫びを上げながら、俺もステラが
消えた底へと飛び込んだ。
でも、俺が辿り着いたのは、ステラが眠る湖の底じゃなかった。
ステラと同じ場所には、行けなかった。

そうして俺を待っていたのは。
どこまでも晴れ渡るアリーナの空と。
空中に浮かぶ、機械的で無機質な、短い一文の文章だけだった。









― 全システム、クリア。『傷痕(ヴェスティージ)』、起動 ―





















アリーナの空に咲き誇る、爆炎の花。
四散する打鉄の破片を見ながら、私は呆然としていた。

何が、起きましたの?
私が撃ちだしたミサイルに即座に反応し、それを斬り落とそうとしていた
彼の動きが突如止まって。
打鉄が不自然な機械音を上げながら、その身を鈍い黒へと染めていって。
彼は傾き始めた打鉄の中で、必死になってもがいていた。


「ちくしょう!何なんだよ、これはぁ!!?」


彼の叫びと同時にオープンチャネルが開いて、織斑先生の顔が
大映しになる。
その切羽詰った表情から、よほどの緊急事態が起こったことは、
容易に想像できた。


『オルコット!すぐに攻撃を止めろ!!アスカの打鉄は…………』


その言葉を最後まで聞くことはできなかった。
私のミサイルは不規則な弾道を描きながら、彼に吸い込まれていって………。


「あ……………………………」


爆発、した。
シールドバリアーがあるはずなのに、打鉄の破片が辺りに飛び散る。
オープンチャネルは開きっぱなしで、織斑先生が怒鳴るように医療班を
手配している。
そしてその音量のまま、私にも怒鳴りつけてくる。


『オルコット!!すぐにアスカを救出しろ!!アスカの打鉄が、
 どういうわけか強制停止した!!
 原因は不明だが、シールドバリアーも消えていた!!
 無事かは分からんが、とにかくすぐにアスカを……おいっ!!
 聞いているのか、オルコット!!?』


織斑先生の声も、今の私にはどこか遠く聞こえていた。
打鉄が……ISが、強制停止?
シールドバリアーが、消滅……?
そんな、そんなこと……有り得ませんわっ!!

だってISは次代の希望、従来の兵器を遥かに凌ぐ機体で……!
……でも、実際に目の前で打鉄がただの鉄屑と化すのを、私は
見てしまっている。
それにシールドバリアーも消滅して………。
………消滅?

その言葉を思い浮かべた瞬間、全身からドッと冷や汗が噴き出す。
心臓を鷲掴みにされたように、体が強張る。
シールドバリアーが、消滅した。
つまりさっきの私のミサイルは、何にも阻まれることなく、
彼に直撃したことになる。
だから打鉄の破片が、あんなに派手に飛び散ったのだと理解する。

そしてもう一つ、同時に理解する。
シールドバリアーを失った打鉄は、ただの鉄屑同然。
その鉄屑に乗っている操縦者が、私のミサイルを受けて、
どうなってしまうのかということを…………。

全身が小刻みに震えだす。
歯がカチカチと音を鳴らす。
目の前がグニャリと歪んでくる。

あのミサイルを生身で受けて、人間が生きていられるはずがない。
つまり、さっきの爆発で、彼は……………。
シン・アスカは………。

死んだ?
何故?
決まっている。
私が、殺した。
殺した?
私、が………?


(違う………違いますわ!!)


私がそんなことをするなんて、絶対有り得ませんわ!!
私は別に彼を殺したかったわけじゃない!!
ただ私の前に、跪かせたかっただけですわ!!
彼を、屈服させたかっただけですわ!!

そもそも打鉄がいきなり停止するなんて、誰に想像できますか!?
できませんわ、そんなこと………誰にもっ!!
事故だったのです!!
本来起こりえない事故!!
予測不可能な事故だったのですわ!!
だからっ!!
だか、ら………………。

そこで、思い出す。
一週間前の、彼の言葉を。



―人間は、完璧な存在じゃない。
 自分は絶対に人を傷つけることはない、そんなことは100%有り得ないだなんて、
 誰にも言い切ることはできない。
 故意ではないにせよ、事故という形で人を傷つけることだって、十分あるんだ。
 だからこそ、それを使う人間は知らないといけないんだ。
 『力』を使うことへの責任を。……その意味を ―



愕然とする。
彼の言葉が今になって、こんな形で私の胸に突き刺さる。
さっきまで自分の中で、自己を正当化しようとしていたことが、
堪らなく醜く感じて。
自然、私の目からは、涙が流れだしていた。

…………っ!!
何を泣いていますの、セシリア・オルコット!
今はそんな場合ではないでしょう!
一刻も早く、彼を助けなくては!!
全てを後悔するのは、その後でも遅くはないですわ!!

そう思い改めて、回りを見回して、気付く。
ハイパーセンサーによって地面に転がる打鉄の残骸に
目を凝らすが、彼の姿だけが見えない。
彼が搭乗していたであろう部分も、無人のまま打ち捨てられている。
であれば墜落の衝撃で投げ出されたのかとも思ったけど。
アリーナのどこを見渡しても、彼を見つけることはできなかった。


「どういうことですの………?」


呆然としていると、ふと何かの気配を感じて、そちらの方を向く。
そこには先ほどの爆発で生まれた黒煙が、まだ微かに
漂っている。
そしてその奥に、ぼんやりと何かの影が見えたような気がして……。
と、その黒煙が突如、ブアッと勢いよく吹き飛ばされる。
そして、その奥に、『赤』がいた。


「あ、あなた………。そ、それは…………!!??」


彼が、いた。
生きて、私の前にいた。
彼の深紅の瞳を見たとたん、張り詰めていた緊張が、
プッツリと切れかけた。

良かった………生きていた。
死んで、いなかった……………。
またしても涙が出そうになるが、彼が纏っているそれに
気付いたとたん、再び全身が強張った。

彼が纏っているそれは、間違いなくIS。
しかし、その姿は………。

どことなく切れ味を感じさせる、シャープなデザイン。
カラーリングは元は鮮やかな赤・青・白の三色だったようだが。
その上から鈍く黒ずんだ赤が、それらの色を埋め尽くすように
ベタベタと無造作に塗りたくられている。
それが血の『赤』であることに、少し遅れて気付く。
でも、私が一番驚いたのは、そこじゃない。
最も目を奪われた、そのISの特徴というのは……。


傷。
傷、傷。
傷、傷、傷。
傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷
傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷
傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷
傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷
傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷
傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷
傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷
傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷
傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷
傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷
傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷
傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷傷



血のカラーリングの上に無数に付けられた、見るに耐えない傷痕。
スラスターにも、各種パーツにも、腕に備え付けられた
盾にさえも、びっしりと大小問わない傷痕が。
IS全体にびっしりと付けられたその傷痕が、目の前のISの
異常さを物語っていた。

このようなIS、見たことがありませんわ!
量産型のISでは、絶対に有り得ないし。
となると、可能性はただ一つ。


「専用機!?あなた、まさか最初から専用機を隠した上で、私と……!?」


だけど、その考えは間違いだったことに、すぐ気付くことになる。
その異形のISを纏う彼の表情は、ただただ呆然としていて。
その表情のまま、自分が纏っているISを、ゆっくりと見つめていて。
と、彼の表情が突如くしゃっと歪み。
彼はゆっくりと両手を自分の体に回し、自身を抱きしめる。
いえ、まるでもっと違う何かを、抱きしめているみたいで。
目を閉じて、肩と唇を震わして、ただその場に佇んでいた。

泣いているみたいだったけど、涙は流していなかった。
時々悲しそうに、でもどこか嬉しそうに、うめき声を
上げていた。

傷だらけの謎のISを纏いながら、体を震わせる彼の姿は、
何故かとても痛々しく感じて。
私は『スターライトMK‐V』を下げて、ただ彼を見つめていた。

と、彼は突如顔を上げる。
その瞳には先ほどまでの弱弱しい光はない。
初めて彼と出会ったときのような、燃え盛る紅蓮の瞳が、
そこにはあった。
そして彼は特徴的な生意気そうな声で、私に向かって叫んでくる。


「勝負はこれからだ!オルコット!!」


と、彼の手に光が集まり、一瞬で形を成す。
現れたのは、彼が先ほどまで振るっていたようなブレード。
でもその柄はどこまでも深い漆黒で、その刀身は柔らかで
透き通るような青。
まるで静かな水面のように、穏やかな水色だった。

彼は傷だらけのスラスターを大きく広げて、そのブレードを
背負うように構えて向かってくる。
その速度はさっきまでの比ではない。
その機体全身から、溢れる力が伝わってくるようだった。

凄まじい速度で動く彼の姿を、一瞬見失う。
と、素早く下に潜りこんでいた彼が、そのブレードを私に
向かって振りぬこうとして………。
試合終了のブザーが鳴り響いた。


『……試合は中止だ。二人とも戻って来い。……特に、アスカはな』

「…………あら?」

「……………ほ?」


彼も私も、呆然としながら互いを見やる。
試合は中止。
そして私たち二人に待っていたのは健闘を称える言葉ではなく。
織斑先生の鬼をも黙らせる、お説教だったのですわ。































その試合があった日の夜。
私は寝巻き用のネグリジェの上にコートを羽織って、園内を
散歩していた。
少し考え事がしたくて、今日が一夏さんと最後の同室の夜なのに、
一夏さんに断りを入れて、出てきたのですわ。
まあまだ外出禁止の時間でもないですし、外を歩いても大丈夫でしょう。

考え事というのは、当然今日の試合のこと。
そして…………彼のこと。
あの試合が終わってから、彼のことが頭から離れない。
彼と出会ってからの一週間の出来事が、頭の中を駆け抜けていく。

園内のベンチに腰掛けている彼に、高飛車に声をかけた時のこと。
教室にて、彼が本当にISを扱える男子だと分かった時のこと。
彼が間抜けな自己紹介をして、思わずずっこけてしまった時のこと。
教室で、彼が真正面から私に物申してきた時のこと。

………『力』の意味。
今日の試合で、そのことについてほんの少し、分かった気がする。
自分が、『力』について本当に何も分かっていなかったのだと
理解できた。
彼の言った言葉の意味を、今日身を持って実感できた気がする。

……私は最初、彼のことを取るに足らない男性だと思っていた。
まあ、一夏さんという素晴らしすぎる男性が近くにいたから、
余計にそう思ったのかもしれないけれど………。

確かに彼は、世の男性と違い、女性に媚びるようなことはしなかったけれど。
一夏さんと比べて、とても弱い瞳をしていると、私はそう思った。
彼の瞳に燃え盛る炎の奥に、とても弱弱しい光が、ゆらゆらと揺れている
ように見えて。
とても私の理想とは程遠いと思っていたのだけど。

教室での彼との問答を経て、その考えは徐々に変わっていって。
そして、今日。
その考えは、180度変わった。

試合の終盤、彼が見せたあの瞳。
あの力強い瞳を見てなお、彼を『情けない男』とは思えません。
彼は一夏さんと同等の、強い瞳をした男性だと、実感した。

と、私はふと思考の海から帰還する。
……あら?ここは…………。
どうやらいつの間にか、無意識に私はある場所に足を向けていたらしい。
その場所は、彼と、初めて出会った場所の近く。
あのベンチの、すぐ近く。

……無意識でここに足を運んでいたなんて、何をしているのかしら
私は…………。
確かそこの道を曲がれば、彼が座っていたベンチがあったはず。
三人は座れるベンチに一人座って、ガックリと疲れたように
項垂れていた彼の姿を思い出す。
……あの時は本当に情けない姿だったんですけどね。

あの時のことを、こんなに微笑ましく思えるなんて………。
私はあの時のことを思い出し、少し笑いながら、何の気なしに
その道を曲がる。

そして、止まる。
心臓が跳ね上がる。
びっくりしすぎて、しゃっくりみたいな変な声が出てしまう。

すぐ側にある外灯に照らされたベンチ。
そこに、彼が座っていた。
な、何でここにいますの、あの男!?
今何時だと思っていますの!?
心臓が止まるかと思いましたわ!!
だって、今まさに彼のことを考えていたのだから。

って、今私変な声を出していましたわよね!?
き、聞かれたかしら……。
あんなはしたない声………。
そう思いながら戦々恐々としていたけど、彼は私には
全く気付いていなかった。
何をしているのかと思ったら、どうやら携帯をじっと
見つめているようだった。
……ピンク色の携帯とは、随分乙女チックな趣味を
しているのね。

時々カチカチと操作しながら、携帯の画面を見て
薄く微笑んでいる。
でもその瞳は虚ろで、その微笑みも何だか悲しげで………。
……何か、ここにはいない誰かに微笑みかけている。
そんな印象を受けましたわ。


「……!誰だ!」


と、彼は私に気付いたようで、すぐさま携帯をしまい、
私に向かって警戒するような声を発してくる。
そして私の姿を確認すると、ハァッと息を吐き出し、力を抜く。
それを確認して私もベンチに座る彼の前まで歩いていく。
奇しくも、彼がベンチに座り、私が彼の前で仁王立ちする、
あの日と全く同じ形になってしまいましたわ。


「……何だ、オルコットか。どうしたんだよ、こんな時間に?」

「何だとは何ですの、何だとは!全く、あなたって人はどうして……。
 まあ、いいですわ。私はちょっと考え事がしたくて、散歩中ですわ。
 あなたこそ、どうしてこんなところに?」


彼とはピットで織斑先生にお説教を喰らってから、会っていなかった。
彼は私のミサイルの攻撃を少しだけ受けて、左頬の傷の上に、
もう一筋、大きな傷を作っていた。
その出血があまりに酷いので、織斑先生の話を聞いて
彼の謎のISの待機状態であるネックレスを預けた後、すぐに
医務室へ行ったのだ。
でも自室にいるのなら分かりますが、何故こんなところに?
まあ、私も人のことを偉そうには言えませんが。


「お前と同じだ。ちょっと考え事がしたくてさ。
 まあ、あいつには今日は部屋でゆっくりしてろって、
 散々言われたけどさ」


あいつ?どなたのことでしょうか?
彼はバツが悪そうに左頬を指で?き、痛そうに顔を歪める。
彼の左頬には、今も大きなガーゼが貼られている。
その白い生地が、赤く染まっている。

胸が痛くなる。
あの怪我は、私が負わせてしまったもの。
ただの試合だったのに、彼の肉体に傷をつけてしまうなんて……。
今更ながら、一週間前の彼の言葉が、重くのしかかる。
私は誰かを傷つけることはないだなんて、今考えれば
それがどれだけ思い上がった考えなのかを実感する。
だって、私は傷つけてしまったから。
事故とはいえエリートを自負していた私自身が、目の前の
彼に血を流させてしまったから。
完璧だと思っていた自分でも、誰かの血を流させることが
あるのだと、体験してしまったから。

……そうですわ。
まだ、そのことを彼に謝っていませんでした。
まずは、彼に怪我をさせたことを謝っておかないと。

そう思い、謝罪の言葉を口にする。
私の謝罪を聞いたとき、彼は信じられないとでも言いたげに
目を白黒させていた。
わ、私が謝罪をすることが、そんなに意外ですの!?
全く、やっぱり失礼な………。
でも、彼はフッと微笑んで、すぐに申し訳なさそうに私を見つめる。


「いや、謝るのは俺の方だ。……ごめん、この間は偉そうなことを言って。
 俺なんかが説教できる事柄じゃなかったのに………」


いつもの不遜な態度はナリを潜め、しおらしく謝ってくる。
……何か、やけに自分を卑下しますわね、彼。
どういう理由なのかは知りませんが、相手を不快にさせることも
あるから極力止めたほうがいいですわよ?
それに…………。


「謝る必要なんて、ありませんわ。だって………」


だって『力』について、少しだけ知ることができたから。
自分が過ちを犯して、初めて分かったから。
ISは、『力』は一歩間違えば誰かの血を流させてしまうものなんだと、
ようやっと実感できたから。

途中で言葉を切った私を不思議そうに見つめる彼を、
私も見つめ返す。
……この言葉の続きは、私が自分の中で『力』について
ちゃんと自分なりの答えを、意味を見つけるまで、お預けですわ。
それについてちゃんと自分自身でこうだと言えるようになるまで、
この言葉の続きは取っておくことにします。

でも、とりあえずこれだけは言っておかないといけませんわね。
私に、大切なことを気付かせてくれたんですもの。
これぐらいのことは、許して差し上げないと、ね。


「……今日の試合のお詫びですわ。特別にあなたも一夏さんと
 同じように、私を『セシリア』と呼んで構いませんわよ。
 ……シンさん」


私は今回のことがあったからって、即座にシンさんに堕とされるような
軽い女ではありません。
すぐに彼に惚れてしまうなんて、そんなことはありません。
ですけれども、私の中で、彼が、少しずつ『特別』になり始めていた。
その片鱗が生まれたのが、まさしくこの夜だったのですわ。
































オルコットとの試合があった翌日。
クラス代表決定戦は結局中止になってしまったので。
事前に俺と一夏は辞退し、オルコットに代表者になって
もらおうと、野郎二人で画策していたのだが。
ここで予想外の事態が。

何とオルコットが先んじて代表者立候補を辞退してしまったのだ。
これには俺も一夏も唖然とする他なく、その隙に織斑先生が
一夏か俺のどちらが代表者になるかの多数決を強行してしまった。
今は、そういう場面だ。

ぐっ……くそっ!
ちくしょう!!
まさかこんなことになるなんて………!
ギリギリと歯軋りをするが、そんなことをしても目の前で行われている
多数決を止める術などありはしない。
祈るように結果を待っていたのだが………奇跡は、起こった。



― 一夏、15票。俺、14票 ―



「嘘だろっ!?」

「よっしまさにデスティニー」


愕然とする一夏をよそに、小さくガッツポーズを作る俺。
やった………やったやった!!
踏みとどまった!踏みとどまったぞ!!
これで一夏が代表者だ!
最後の最後で、俺は生き残ったんだ!!
生き残ったんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!

これで代表者なんて面倒くさい仕事をやらないで済む!
元の世界に帰る方法を探す時間も取れる!
全てが丸く収まった。
まさに、ハッピーエンド!

しかし、予想外に接戦だったからヒヤヒヤしたぜ。
一票差なんて、心臓に悪すぎ………って、一票差?
……あれ、おかしいぞ?
この教室に所属する人数は三十人だ。
もし同票でなく片方が勝つのなら、二票差になってないと
おかしいんだが………。
と、教室の女子の一人がタイミングよく、声を上げる。


「あれ?数がおかしくない?だってこのクラス三十人いるんだよ?
 誰か一人、手を挙げてない人がいるよ!」


その言葉に教室内がザワザワと騒がしくなっていく。
一夏は雲間から差し込んだ僅かな光に、表情を和らげる。
な、何だと!?
馬鹿な、ここまできて逆転されるなんて、断じてあってはならないぞ!!
だけど壇上では織斑先生がまだ挙手していない人間をあぶり出しに
かかっている。
早く、早く何とかしないと………!

と、追い詰められた俺の脳裏に、一つの妙案が浮かぶ。
名づけて、『ギラッ☆挙手した奴をメンチ切って黙らせちゃえ』作戦っ!!

この一週間、俺と一夏は散々女子に付きまとわれたが、実際の人気
で言えば、一夏の方が圧倒的に高かった。
で、小耳に挟んだのだが、俺の人気が伸び悩んでいるのは、「あの赤くて
鋭い目が、ちょっと怖くない?」というのが理由らしい。

それは別にいいのだが、今回はその目つきの悪さを最大限に
利用させてもらおうじゃあないか!!
つまり、もし仮に挙手した女子が俺に票を入れようとしたら、
この鋭い目でもって、睨みつけて黙らせる。
アスカの「ア」の字でも言おうものなら、全力でガンを飛ばし、
黙らせてみせる。
その子の好感度は下がるだろうが、知ったこっちゃない!

さっき多数決があった時に一夏や篠ノ之が挙手しているのは
確認済みだし、後に残っているのはか弱い女子のみだ!
俺のガン飛ばしは、100%有効のはず!!

俺は垣間見えた勝利に、口の端をつり上げる。
さあ、誰だまだ挙手してないのは!?
もし俺の名前を言おうとしたら、今日の夢に出るようなガンを
飛ばしてくれる!!
それだけこちらも追い詰められているんだ、覚悟してもらおう!!
などと、一人息巻いていると、予想外の人物が声を上げた。


「まだ挙手してないのは、私ですわ」


オルコット!!?
し、しまった!
こいつがいるのを忘れてた!
しかし、何でこいつが手を挙げてないんだ!?
真っ先に一夏に挙げていると思っていたのに!


「一夏さんかシンさんのどちらに票を入れようか、迷って
 いたのですわ。まあ、私としては昨日私相手に健闘した
 シンさんに入れようと思うのですけど……」


っ!!!???
い、いかんっ!!
いきなり不吉なことを言い出したオルコットを、
すぐに黙らせなくては!!
今が作戦発動の時だ!
『ギラッ☆挙手した奴をメンチ切って黙らせちゃえ』作戦、始動っ!!!

俺は本気でオルコットを睨みつける。
そこに一切の容赦などない。
ただ全力で敵意を持って、睨みつける。

だが、その視線を受けてなお、オルコットは余裕の笑みを
崩さない。
むしろ俺の視線の意図を読んだかのように口の端をつり上げ、
わざとらしく悩んでいるような言葉を吐き出す。


「どうしようかしら?シンさんでもいいんですけど。
 一夏さんにも一週間、お世話になりましたし。
 なんでしたら一夏さんに票を入れて差し上げても……」

「ちょっ、やめてくれセシリア!そんな気遣いなんて
 いいから、シンにいれてやってくれ!」


くっ、一夏の奴!
友を売りやがったな!
俺もすかさずオルコットにフォローを入れる。
しかし、俺は失念していた。
俺のフォローは、当てにならないということに。


「お、オルコット!昨日の試合はドローだったじゃないか!
 だったら世話になった一夏に入れたほうがいい!
 その方が、絶対に…………!」


と、オルコットの表情がそこで強張る。
少しだけ怒気を含んだようなオーラを放ちながら、
俺を見据える。
な、何でそんな顔するんだよ!?
俺は今、何も失言なんて……!


「………シンさん。昨日、言いましたわよね?
 私のことは『セシリア』でいいと。
 なのに何故、まだ『オルコット』のままですの?」

「え、だってそんな一週間程度の付き合いで馴れ馴れしく
 呼ぶのもあれだと思って。お前だって、本当は俺に
 名前で呼んでほしくないだろ?だから………」

「ほ、ほほぅ……………」


ビキッ。
オルコットの額に、青筋が浮かぶ。
その光景を冷や汗混じりに見ながら、自分が何か
失敗してしまったのだと悟る。
だが、もう遅かった。
オルコットは一度だけ長く深呼吸をして、そして、
言い放った。


「私は、シンさんに一票を入れますわ」

「オルコットォォォォォォォォォォォォォォ!!!!???」

「よ、よし!セシリアナイスだ!!」


悲痛な悲鳴を上げる俺と、嬉しそうに叫ぶ一夏の声が
不協和音を奏でる。
自分が追い詰められてしまったのだと、瞬時に悟る。


「結局、織斑とアスカが同票か。こうなっては仕方ない。
 ジャンケンで決めるしかないだろう。
 勝負は一回限りだ。SHRの時間も終わりそうだし、
 さっさとしろ二人とも」


織斑先生の無慈悲な提案が俺を打ちのめす。
じゃ、ジャンケンだと!?
それじゃあ、小細工なんて何もできないじゃないか!!
しかも、一回勝負だなんて、そんな………。


「じゃあ、やるしかないよなシン。こっちこいよ。
 やろうぜ、男と男の勝負だ…………!」


一夏が席から立ち上がり、俺を招く。
一夏の額にも汗が張り付いているが、むしろ笑みさえ
浮かべている。
一夏も自分に流れが傾いているのが分かっているのだろう。
その表情には、余裕さえ浮かんでいた。

大して俺は、Eカードで敗北した時の利根川さんみたいに
ぐにゃりと顔を歪めていた。
くそっ……くそっ!
こんな、こんなはずじゃあ…………。
もう、後戻りはできない。
逃げれば、負け。
でも、今流れは俺にはない。
ここで勝負しても………。

い、いや!
何を弱腰になっているんだシン・アスカ!
元の世界に帰るんだろう!?
そのためにはできるだけ自由に行動できる時間をとらないと
いけないんだろう!?
だったら勝負するんだ!
そして、勝つんだ!!
この一回きりの勝負に、全てを賭けるんだよぉぉぉぉ!!!

意を決して、壇上の前まで行き、一夏と対峙する。
そこからは、無言。
誰一人、喋ろうとしない。
それほど、俺と一夏の間に流れる緊張感は凄まじかった。

一秒。二秒。三秒。四秒。そして五秒が経った時。
開いていた窓から、少し寒い春風が入り込み。
教室内の誰かが、くちゅん!という可愛らしいくしゃみをした。
それが、合図だった。



「「最初はグー!ジャンケン!!」」



お互いに全てを賭けて、右手を突き出す。
勝負は、一瞬だった。
そして、勝負が決したのも、また一瞬だった。



「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

「へっ………、これぞデスティニー、てか?」



掌を突き出したまま崩れ落ちる俺と、それを見下ろしながら
チョキチョキとハサミを開閉させる一夏。
勝負は、一瞬だった。
俺が渾身の思いを込めて突き出したパルマ・フィオキーナを、
一夏の二刀流近接ブレードが目にも留まらぬ早さで切り裂いたのだ。

………って、現実逃避的な言い方をしても意味ないな。
どこの世界だって、紙がハサミに勝てる道理などない。
どこの世界だって、ジャンケンで紙がハサミに勝てる道理などないのだ。
すなわち、チョキVSパー。
それが導き出す答えは、唯一つ。
パーを繰り出した俺の、完全敗北だった。


「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…………」


床に膝をついて、両手をついて未だに呻く俺を、皆が微笑ましい
笑いで包み込む。
俺がよろよろとよろけながら顔を上げると、今まで見たことも
ないような穏やかな笑顔で、上品に笑うオルコットが飛び込んできた。
その顔を見るだけで、しょうがないなと思う俺は、
やっぱり情けない男なんじゃないかと思うのだった。

































「……ククク。やっと、ここまできた。やっと、俺の目的が叶う」


IS学園より遠く離れた地。
その地の奥深くで、一人の男がうっそりと嗤っていた。
その目は一つの大きなモニターに向かっていた。
そこに映し出されているのは、傷だらけのISを纏う、一人の少年。


「やっとだ、やっとお前への復讐を始められる。
 それのお膳立ても、この試合で完全に成った。
 永かった………。でも、それも今日で終わりだ」


その男は、嗤う。
嗤い続ける。
自分が夢にまで見た少年への、復讐を始められることに、
言い知れぬ感動を味わっていた。


「これから、地獄を見せてやる。ただでは死なさん。
 散々ボロボロにして、苦しめてから殺してやる。
 この世界の全ての人間から蔑まれた挙句に、お前は死ぬんだ。
 そうして、殺してやるよ……シン・アスカぁぁぁぁぁ」


そうして彼は、嗤い続ける。
十数年を経て、皺が目立ち始めた顔を、ぐにゃりと歪ませて。
口からだらしなく、涎を撒き散らして。
狂ったように、いや、実際狂いながら、嗤い続けた。




「ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
 ァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!」




かつて「王」と呼ばれたそれは、地獄の淵で、悪魔のように
嗤い続けるのだった。



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