#42 君が光に変えていく

 

 

 

 目が覚めて、受け容れられて、泣き疲れて。

 再度目を覚ました私を待っていたのは、怒涛の謝罪攻勢だった。

 

 

 その先陣を切ったのは、やはりというべきか、綾瀬と神楽坂だった。

 私が目が覚めたと知るや否や駆け込んできて、その足で見事な土下座をきめてみせたのだった。

 

 

「もうホントに…何て謝ったらいいのか…。」

 

「ホントに、ホントに申し訳ありませんでした…。」

 

 

 地に摺りつかんどころか、そのまま地の底まで沈んで行ってしまいそうな程に、深々と頭を下げる。正直いたたまれない。この場に他のクラスメイトが居れば、説教されるのは間違いなく私だ。

 ちなみに雪広を始めとする他のクラスメイトたちは、現在私の快気祝いの準備に取り掛かっているらしく、この『別荘』内には居ない。

 

 

「いや、もういいって。別にお前たちが悪かったわけじゃないんだからさ。そっちが私に謝りに来て、それで私がいいよって言ってるんだから、それで解決だろ?」

 

「そうだよ夕映、それに神楽坂さんも。あんまりしつこく謝ると、逆に印象悪いよ?」

 

 

 真横から私に合いの手を入れるのはのどかだ。レインはアルビレオと話があるらしく、綾瀬たちと入れ違いに席を外した。

 

 

「それに、夕映たちだけ一方的に謝ってばっかりじゃ、結局千雨さんの話も碌に聞かずに罵倒し続けてた時とそんなに変わらないよ?反省してるんなら、今すぐにそれを活かさないと。」

 

 

 のどかの的確な指摘に、二人同時に喉を詰まらせるが、未だ心の何処かにしこりを残していることは明白だ。やれやれ、と肩を竦める動作が、隣ののどかとシンクロする。

 

 

「じゃあ、二つお願いしよう。まず一つ。二人は私のリハビリを手伝ってくれ。加えて綾瀬は、ここで過ごす間に暇を潰せそうな本とかを持ってくること。それともう一つ。今学期の期末テストで、二人は全科目60点以上を取ること。出来なかったらクラス全員の昼食オゴリ。意義は認めないぞ?」

 

 

 う、と小さなうめき声をあげて、神楽坂と綾瀬がのけぞった。その様子を見て、のどかがクスクスと笑う。後で雪広に告げておいてくれるに違いない。次回の期末テストのクラス成績には大いに期待出来そうだ。

 綾瀬がよし頑張ろう、と言わんばかりに自分の頬を叩いて気合いを入れ直し、立ち上がる一方、神楽坂は床に手を付いたまま、ますます項垂れて立ち上がれなくなっていた。

 

 

「もう、神楽坂さん。いつまでもしょぼくれてたら、長谷川さんにも失礼ですよ?前の図書館の時みたいに、また一緒に勉強しましょうです。」

 

「うう、それは分かってるんだけど…。今まで60点なんて取ったことないし…。宮崎さん、関西に何か頭を良くするような術って…。」

 

「神楽坂さん?」

 

 

 のどかが微笑みを浮かべて神楽坂を見つめる。まるで一輪の花のように可愛らしい様子だが、その身から放たれる圧は閻魔大王の如しだ。その視線を一身に浴びる神楽坂はたまったものではないだろう。思わず逸らした視界の端で、神楽坂が涙目で小刻みに頷き続ける姿が映った。

 のどかが放つプレッシャーが緩み、綾瀬共々ほっと一息つくが、ふと気になった事が口を突いて出る。

 

 

「…ところで、何でのどかに関西の術云々なんて聞くんだ?近衛か桜咲辺りに聞くのが適任だろ?」

 

 

 のどかは別に関西とは縁もゆかりも無いはずだが、逆にのどかたちが驚いた表情を浮かべていた。

 

 

「本屋ちゃん、伝えてなかったの?」

 

「えっと、伝える暇なかったし、てっきりアルビレオさんが話したものと…。」

 

「…多分わざと伝えなかったんだと思うですよ。」

 

 

 三人の少し戸惑った様子の会話に、何やら胸がザワザワする。

 やがて申し訳なさそうにのどかが私の方を向いた。綾瀬と神楽坂は苦笑いだ。

 

 

 ―――十数秒後。私の驚愕という名の絶叫が、『別荘』中に響き渡ったのだった。

 

 

 

 

 のどかの衝撃の告白から十数分後。

 次に謝罪に訪れたのは、明石親子と佐々木たちだった。

 

 

「貴方を犯罪者扱いしたこと、今日まで娘を守っていただいた事、そして、貴方の手配を取り消せなかったこと…。この通り、お詫びいたします。」

 

 

 明石教授が、土下座しないまでも、それに匹敵するほどに深く頭を下げる。

 

 

「いや、こちらこそ巻き込んですみませんでした。佐々木たちもだけど、怪我の方はもう大丈夫ですか?」

 

 

 また綾瀬たちの時みたいに押し問答になるのは勘弁だったので、話題をそらすことにした。明石教授もそれに気付いたのだろう。頭を上げ、自身を支える松葉杖を脇に持ち直して、小さく微笑んだ。

 

 

「ええ、幸いどの傷も致命傷には至らなかったものですから、輸血と治癒符で何とかなりました。折れた脚や肋骨は治るのにもう少し時間がかかりそうですが、この通り、歩く程度なら問題は無いですし。娘たちもおかげさまでほとんど無傷です。」

 

「うん、少し痣が残ったくらい。ホントにありがとね、長谷川さん。」

 

 

 明石親子が同時に頭を下げ、残る三人もありがとうと言いながら頭を下げる。謝られている訳ではないが、これはこれでこそばゆい。

 

 

「あ、そうだ、明石教授。一つ聞きたい事あるんだけど。」

 

 

 何なりと、という返答を聞き、少し居住まいを正す。

 

 

「何で今まで娘に、自分が魔法使いだってこと話さなかったんだ?あ、いや、責めてるわけじゃないんだけどさ。」

 

 

 私は別にその事に怒りを感じていたわけではないし、いたって普通の口調で話しかけたつもりだったのだが、明石教授は責められていると勘違いしたらしく、神妙な顔をして項垂れた。

 佐々木たちも気まずそうな顔をしたので、慌ててフォローを入れたのだが、明石教授は小さく首を振る。

 

 

「いえ、今となっては貴方の言う通り、裕奈に話しておくべきだったのでしょう。無論、貴方がこちらに担ぎ込まれた日に、裕奈には全て打ち明けたのですが。」

 

 

 その娘の方をちらっと窺うと、どこを向いていればいいか分からないといった様子で、忙しなさそうに視線を泳がせていた。

 

 

「裕奈の母―――すなわち、私の妻も魔法使いだったのです。しかしこの子が5歳の時、彼女は派遣された魔法世界で事件に巻き込まれ、二度とは戻ってきませんでした。」

 

「…だから、娘には秘密にしておこう、と。」

 

 

 明石教授が小さく頷く。

 

 

「魔法は万能の力であり、それ故に普通の人にとっては、非常に魅力的な物に映るでしょう。きっと裕奈も、魔法の存在を知れば迷わず飛びつくはずです。…だから、話せなかった。万が一、億が一にも、妻と同じ末路を辿る可能性があるのなら…。」

 

 

 明石教授が唇を強く引き結び、拳を強く握りしめる。私は彼から視線を逸らし、天井を見つめる。

 彼もまた、大切な人を抱えて戦う護人だった。しかも彼は一度、大切な人を亡くしている。それ故に、彼の娘への想いは人一倍強いはずだ。そして、京都で殺された近衛詠春も、木乃香(むすめ)を想い、魔法に関わらせない生き方を求めていた。だがその想いは裏切られ、理解されず、報われなかった。しかし彼の想いは、近衛木乃香本人が身を以て、そして鬼神という最高の力を得た上で、誰よりも理解している。

 

 

「…親って、強いな。」

 

 

 近衛詠春や明石教授の、娘への想い。クラスメイトたちの私への想い。

 ノーマンズランドでは顧みる事など無かった、人間の想いの強さを改めて感じた。

 

 そう呟いた途端、明石(娘)が思い出したように声をあげた。

 

 

「あ、そういえばお父さん、ネギ先生と一緒に長谷川さんの両親の所へお詫びに伺ったんじゃなかった?」

 

 

 身体が石化する感触とは、正にこういった感じなのだろう。

 巻いたネジが切れかけたブリキ人形のような動作で、首を明石教授の方に向けると、諦めろと言わんばかりの明石教授の顔が映った。

 

 

「まぁ、いち父親として述べさせていただくならば―――私だったら、拳骨の一つや二つじゃ済まさないですね。」

 

 

 要するに、覚悟しておけ、という伝言か。

 そして最後に和泉が一言。

 

 

「起床しました、って連絡は済ませてあるから♡」

 

 

 次はどうやら私が謝る番らしい。

 ガクッと項垂れた私を見て、佐々木たちから爆笑が響いた。

 

 

 

 

 両親が来たのはその一時間後。

 思いっきりしばかれ、何時間も説教され、問い詰められ、大泣きされた。

 

 無論私はその全てを甘んじて受ける他ない。およそ6時間ぶっ通しで、両親の尋問にも等しいお説教を延々聞き続ける事になった。その間誰一人ログハウスに近付かなかったのは、空気が読めていると言うべきなのだろうか。

 

 ―――けれど、親父もお袋も、「もう戦うな」とか「手を引け」とか、そんな類の言葉は一言も口にしなかった。

 分かってくれているのだ。私の理由を。傷つき血反吐を吐きながらも、戦い続けようとする、その想いを。私の強い決意を。

 だからといって、娘が死地に飛び込む事など、許容出来るはずもない。同時に、娘が梃子でも譲らないであろう事も重々承知している。

 

 その二律背反がどれ程彼らを苦しめているか、想像を絶する。

 

 

「…父さん、母さん。」

 

 

 二人の説教も終盤に近付いたところで、私から話を切り出す。

 

 

「私、父さんと母さんの子供に生まれて、本当に良かったと思ってる。二人の子供に生まれたから、私は、自分の命を賭けた戦いの中に飛び込むことを決意出来た。私を育ててくれたのが二人じゃなかったら、私はきっと流されるがままに生きてたと思う。」

 

 

 二人は何も言わず、ただじっと俯き、私の言葉に耳を傾けていた。

 

 

「二人が私に戦ってほしくないって思ってるの、分かるよ。そんな事、親として許容できるわけないもんな。」

 

 

 やはり二人は何も言わない。しかし、父が唇をきつく噛みしめているのが分かる。

 

 

「だから、二人に誓う。私、絶対に負けないから。絶対に、生きて帰ってくるから。―――だから、後もう少しだけ、見守っていてください。」

 

 

 私はそれっきり口を噤んだ。そして両親も何も言わず、しばらくじっと俯いた後、静かに背を向けて去って行った。

 

 ―――頑張れ。

 去り際にそう言い残していった両親の肩は、小刻みに震えていた。

 

 それを思い出して、少し視界が滲む。ぼやけた天井をじっと眺めたまま、不意に迫り来た眠気に身を委ねた。

 

 

 

 

 三度目を覚ました。どうやら両親が去った後、また眠ってしまったらしい。それ程身体が睡眠を、休息を、未だに必要としている、ということなのだろう。安眠符が欲しい所だ。

 けれど、目を覚ました理由が自然な物でない事はすぐに理解出来た。元より睡眠中でも異音を感じれば、よっぽど酷い怪我でもしていない限り、すぐに覚醒出来るよう、身体と意識が作られている。

 その意識が来客を告げていた。ここを訪れなければおかしい人物、私自身も来訪を待ち望んだ人物が。

 

 

「…起きてるよ。入って来てくれ、ネギ先生。」

 

 

 ドアの外の気配は一瞬躊躇いを見せたが、やがて戸惑いながらも姿を見せ、ベッド横にやって来た。

 

 ネギ先生の表情は重く、暗い。

 彼は彼の信じる物、憧れる物のため、この地を訪れた。そしてその先に、希望に満ち溢れた人生(みち)が照らされているはずだったのだ。

 

 まさか―――見えていたはずのその人生(みち)が、用意されたレールに過ぎないなんて。

 憧れも希望も踏み躙るような、恣意と思惑で塗り固められたレールだったなんて。

 

 10歳の子供に突きつけるには、あまりにも速過ぎる、そして辛過ぎる現実だ。

 

 だから、ネギ先生の考えている事は、ある程度予想出来ていた。

 

 

「…教師を、辞めようと思ってます。」

 

 

 予想通りのその答えを聞き、瞑目する。隣に立つネギ先生はさながら幽鬼のようで、彼が信じていた物、そしてそれに裏切られた事の衝撃の大きさ、重さを嫌でも感じさせた。

 

 

「…悪いんだけど、まずは私を起こしてくれるかな?寝たままじゃ話しにくいし。」

 

 

 未だ人の手を借りなければ、上半身すら起こせない私だ。まさか天井を見ながら話す訳にもいくまい。

 ネギ先生がそっと私の上半身を起こすが、その腕は今にも折れてしまいそうに弱々しかった。

 

 

「で、何となく理解は出来るけど、一応理由を話してもらってもいいかな?」

 

 

 そう言いながらネギ先生に丸椅子を薦める。長話になりそうだし、立ちっぱなしだと疲れてしまうだろう。事実、今にもネギ先生は倒れそうなのだ。

 

 

「…僕には、先生である資格なんて無いんです。」

 

 

 丸椅子に座ったネギ先生は、ひざの上で拳をきつく握り締めながら、そう零した。

 

 

「全部、全部僕が悪いんです…!僕が麻帆良に来なければ、誰も傷つかずに済んだのに…!」

 

 

 ―――やっぱり、か。

 日頃の思考から鑑みるに、ネギ先生は責任感が強すぎる。それこそ、全く自分のせいでは無いことまで、自分が関わっている(・・・・・・・・・)というだけで自分のせいだと思い込んでしまう性質にありそうだ。

 それが今回―――私の記憶、そして今日まで3−Aの周囲で起こった出来事とその顛末を見せられて、その悪癖が爆発してしまったのだろう。

 しかも―――私の予想よりも、さらに酷く。

 

 

「僕のせいで、皆酷い目に遭ったんです!春休みのことも、京都のことも、今回のことも!僕の存在が、とんでもない災厄をもたらしてたんです!それなのに僕は気付きもせず―――」

 

「落ち着けって、ネギ先生。先生は何も知らなかったんだからしょうがないだろ。頑張って私たちを導こうとしてくれてたじゃないか。誰もネギ先生を責める奴なんていないよ。」

 

 

 しかし、諌める私の声は、ネギ先生の耳には届かない。

 

 

「違いますっ!そもそも僕が麻帆良に来なければ、皆魔法に関わることなく、長谷川さんも平穏に暮らせてたはずなんです!僕が皆の人生を無茶苦茶にしたんです!僕に誰かを教える資格なんて、最初から無かった!生徒を危険に晒すだけの僕に!」

 

 

 ネギ先生はほとんど自暴自棄になり、自分の存在を否定し続けている。滂沱の如く溢れ出した涙が、彼の絶望の深さを表していた。

 

 そもそも学園側がネギ先生を次世代の英雄として育て上げるこの計画は、かなり以前から練られていたはずだ。少なくとも、私たちA組が結成されるより以前、すなわち3年以上前から。

その時点で気付ける人間など居るはずもなく、それ故にネギ先生に責任があることでは無いのは明らかなのだが、今のネギ先生にそれを諭したところで聞きはしないだろう。

 

 頭の片隅でそんな事を考えながら、未だ力の入りきらない身体をもぞもぞと動かす。

 前へ、前へ、ネギ先生の近くへ、身体ごとにじり寄っていく。

 

 

「僕さえ、僕さえ居なければ、みんなみんな、何事もなく平和に暮らせてたはずなのに、僕が魔法なんて持ち込んできたばっかりに、僕は―――」

 

「ハイ、そこまで。自分を卑下し過ぎだよ、ネギ先生。」

 

 

 そう言いながら私は、腕を何とか動かして、ネギ先生を抱き寄せた。

 

 

「って、え、ちょ、うわ、長谷川さん!?」

 

 

 腕にほとんど力が入らないので、抱き寄せるというよりは抱え込むと言った方が正しいかもしれない。腕と胸に頭部を挟まれたネギ先生が、ようやく自我を取り戻したかのように、じたばたともがく。

 ネギ先生を抱き寄せるという一連の動作を行うだけで、全身に鈍い痛みが走り、私の身を蝕んだ。思わず表情に苦悶が浮かぶ。

 

 

「だ、駄目ですよ長谷川さん!まだ身体が完全に馴染み切ってないのに、そんな無理したら!」

 

「ヤダ。ネギ先生が落ち着いて、私の話を聞いてくれるまで、私もネギ先生の言う事は聞かないよ。」

 

 

 私の感じる苦痛を知ってか知らずか、ネギ先生が身を案じるが、のらりくらりとそれを躱す。

 抱き寄せたネギ先生の背中を、慣れない手つきでさする。余った片手で、ついこの前と同じように、ネギ先生の頭を撫でる。次第にネギ先生の嗚咽は小さくなっていき、やがて大人しくなった。

 

 

「落ち着いた?」

 

 

 そう聞くと、ネギ先生は腕の中で小さく頷いた。腕を放し、ネギ先生を解放する。

 丸椅子に戻ったネギ先生は、少し顔を赤らめてはいるが、やはりまだ表情に翳を残したままだ。いくら私が、ネギ先生のせいじゃない、と説いたところで、納得はしてくれないだろう。

 

 さて、それではどう説得したものか―――と、考えた所で。

 

 何故か頭に、あの男の姿が思い浮かぶ。

 逆立った金髪に真紅のコートの、平和主義者なガンマンの姿を。

 

 

「…ネギ先生、ノーマンズランドの映像って、どこまで見たんだ?」

 

「え、っと…。それはもちろん、長谷川さん、じゃなくて、ミッドバレイさんが殺される所までですけど…。」

 

 

 という事は、私が死の淵で垣間見たあの映像―――ノーマンズランドの辿った歴史については見ていないはずだ。

 

 ならば、話そう。

 遥か未来の、大地も人の心も荒れ果てた世界で、自分の信念を通し、最後まで希望を捨てなかった男を。

 

 

「じゃあネギ先生、ヴァッシュ・ザ・スタンピードは知ってるな?」

 

「え、は、ハイ…。名前しか知らないも同然ですけど…。」

 

 

 まぁ私の過去しか見ていないなら当然だろう。長い話になるから、と前置きして、珈琲を淹れてもらう。準備の良いことに、マグカップは二つあった。

 

 そして、珈琲片手に話し始める。

 血と硝煙が蔓延る世界で、最後の最後まで安易な引き金を引く事を拒み、子供じみた理想を捨てなかった男の話を。

 

 

 ―――どのくらい長く話しただろう。

 一時間か、二時間か。私もネギ先生も、時間なんて概念は話し始めて数分と経たず忘れ去ってしまった。

 私とて直接見届けた訳ではない、映像を通して知っただけの昔話(みらいばなし)なのに、我が事のように微に入り細まで語っていた。

 

 明日をも知れない危うい世界で。

 人命や信頼が軽視される環境で。

 馬鹿にされ、蔑まれ、裏切られ。

 

 それでも折れることなく。

 絵空事のような愛と平和を謳い続けた男。

 

 手には銃。身には神にも等しき力。

 しかし男は、力を振るうことを拒み続ける。

 

 男が自ら引き金を引くのは、護る時のみ。

 目の前で人が窮地に陥った時は―――例えそれが敵であっても―――護るため、助けるため、銃を手に取り、腕を伸ばした。

 それでも容赦なく人は彼を罵り、蔑み、裏切り、世界は彼に味方しない。

 彼は百年を超える永き時の中で、幾度となく裏切られ、幾千もの人の死を見た。

 

 何より彼は自らの手で、一つの都市を、その街に住む何千万という人間諸共、消し去ってしまったのである。

 

 

「…あの男にとって、それはどれ程の絶望だったろうな。護りたい人間を、罪も無い人間を、己の手で殺し尽くしちまったんだから。」

 

 

 私の拙い語りに、ネギ先生は真剣に聞き入っている。

 話はようやく、ヴァッシュ・ザ・スタンピードにとっての最大の絶望―――ジュライの消滅にまでこぎつけた所だ。

 

 

「で、でもそれは―――」

 

「ああ、確かにアイツが自分の意志で行ったことじゃない。アイツの兄―――ミリオンズ・ナイブズが仕向けた事だ。けれど、引き金はナイブズだったとしても、銃身がヴァッシュ・ザ・スタンピードであった事に違いはない。」

 

 

 それはきっと、ヴァッシュ・ザ・スタンピード本人も認める“事実”だ。あの男は、自分の罪を蔑ろにして生きていけるような人間じゃない。…実際人間じゃないけど。

 

 

「…アイツにとっては、ノーマンズランドに住む全ての人間が身内みたいなモンだ。その身内が死に、身内同士が殺し合い、身内が自分に銃を向けるあの世界は…、蜿蜒と続く地獄そのものだったろうな。」

 

 

 あの男の苛烈な道のりを想像してか、ネギ先生は小さく震えた。私自身、今この時代に平和を謳歌してみて、そしてあの男の辿った道筋を映像で見て、思う所がたくさんある。

 

 ―――けれど、それを言葉にして出すのは、きっと余計なお世話でしかない。何故なら―――

 

 

「―――けど、アイツは負けなかった。」

 

 

 何故なら、私の言葉など必要なく、アイツは強いだから。

 

 

「人の死、殺し合い、裏切り、怨恨、暴虐―――人間の醜悪さを数えきれない程に見せつけられて、挫けそうになったこともあったけど、最後までアイツは折れなかった。裏切りも屈辱も罵詈雑言も自分の罪も、全部受け止めて、それでも人を信じ続けた。」

 

 

 ラブ・アンド・ピース。初めて聞いた時は思わず嘲笑してしまった、あの男の信念。

 今なら分かる。それがどれ程辛く、哀しく、脆く、そして強い想いであったかを。

 

 

「それで、ヴァッシュさんはどうなったんですか?」

 

 

 ネギ先生が身を乗り出して聞いてくる。まるで正義の味方の活躍を聞く幼子そのものだ。そんな楽なモンじゃないぞ、と言いたい所だが、きっと今のネギ先生なら、それも承知していることだろう。

 

 

「―――勝ったよ。本当に折れそうになって、立ち上がれなくなりそうになったけど、それでも負けなかった。そして―――その想いがようやく実った。」

 

 

 最後の戦い。

 レガート・ブルーサマーズの奸計によってとうとう人を殺してしまい、絶望に押し潰されそうになるも、不屈の心で持ち直し、プラントと人間の“架け橋”となって、ナイブズとプラント達の繋がりを解いた。

 

 

「“地には平和を、そして慈しみを(ラブ・アンド・ピース)”―――アイツの理想は身を結び、人類を救ったんだ。」

 

「すごい…ですね。」

 

 

 感嘆のため息を吐きながら、ネギ先生は乗り出していた身を脱力し切ったように丸椅子に戻した。

 

 

「さて、ここからが本題だ。ネギ先生は何かしらの夢、希望、理想、そういった物を持って、ここにやって来たはずだ。それが何か、私に教えてくれるか?」

 

 

 私の質問に、ネギ先生は考えこむ姿勢を取った。喋り過ぎで少し喉が渇いたので、視線を適当に散らすと、すぐ傍の棚に先ほど食べ残した林檎があったので、何とか腕を動かして手頃な一つを摘み上げる。

 それを食べ終わる頃に、ネギ先生は逡巡を止め、私に向き直った。

 

 

「僕は…僕は、“立派な魔法使い(マギステル・マギ)”を目指して、ここに来ました。魔法を使って人を幸せに出来る、そんな魔法使いになる事を目指して。」

 

 

 ネギ先生の視線が私の瞳の奥を捉える。軽く相槌を打つだけに留めて、先を促した。

 

 

「最初はたくさんあったんです。居なくなった父さんを探したいし、石化したままの故郷の人たちも元に戻したい。でもそういった僕の思いを全部まとめると、やっぱり、“立派な魔法使い(マギステル・マギ)”になる事が最大の夢だったと思うんです。」

 

 

 しかしネギ先生はそこで、躊躇うように言葉を途切れさせた。

 

 

「…けど、今回の事で、まるで世界がひっくり返ったみたいに思えました。タカミチも、学園長も、ずっと僕を利用してただけなんだって…。僕を通して別の物を見てるだけなんだって。僕が今まで信じてきた物は何だったんだろうって、そう思いました。」

 

 

 それが当然の反応だろう。今まで自分が信じ、自分を支えてくれていた物を、信じていた人たちによって否定されたのだ。そのまま人間不信に陥ってしまってもおかしくない。

 

 

「今はもう、“立派な魔法使い(マギステル・マギ)”の意味とか存在とかさえあやふやで…。これから先、何を信じて生きていけばいいか、分からないんです…。」

 

 

 言い終わって、ネギ先生はまたどんよりとした雰囲気を携えたまま俯いた。

 ネギ先生は今、暗闇の中にいる。進むべき道を照らす松明を失い、何も見えない闇の中で一人取り残され、途方に暮れている。

 だったら、そこに光を差し込んでやるのが、子供に道を指し示すのが、大人の役割だ。

 

 

 

「―――――いいじゃないか。目指せよ、“立派な魔法使い(マギステル・マギ)

 

 

 

 私の口にした言葉が信じられないというように、ネギ先生は驚きに満ちた表情で私の顔を見上げる。

 

 

「ネギ先生が私やクラスの皆に申し訳なく思う気持ちも、ネギ先生が絶望する気持ちも、すごく良く理解出来るよ。ネギ先生にとっちゃ、奈落に突き落とされた気分だったろうな。それが作為的なものなら、尚更な。」

 

 

 ネギ先生は一瞬ぶるっとその矮躯を震わせた後、俯きながら小さく頷く。

 おそらく私の口にした、奈落に突き落とされたその瞬間の事を思い出したのだろう。まだ10歳のこの純粋な少年にとって、それは如何ほどの絶望であったろうか。

 

 

「―――でも、だからこそここで挫ける訳にはいかないだろ。ネギ先生のその理想は、間違いなく本物なんだろ?」

 

 

 私の問いかけに、ネギ先生は一瞬だけ迷う素振りを見せた。しかし次の瞬間にははっきりと、強い頷きを返してきた。

 

 

「なら立ち止まるな。引かれたレールの上を歩いているだけと知ったことが、大勢の無関係な人を巻き込みそうになったことが、悔しいと思うのなら、それを自分の戒めとして、もう一度踏み出せばいい。今度こそは自分の足で、ってな。

 ―――それが“やり直す”って事なんだから。」

 

 

 ついこの間、血まみれの身体のままネギ先生に授けた言葉を、もう一度投げかける。

 

 

「ヴァッシュ・ザ・スタンピードも、人は過ちを経て強く立ち直れるって信じてた。ネギ先生のその理想が、誰にも譲れない、誇るべき心の在り方であるなら、たった一回の失敗で心折れてちゃ、誰にも顔向けできないぜ?」

 

 

 そう、誰にも。

 私であれば、のどかやレイン、楓、茶々丸、エヴァ、3−Aの皆。

 ネギ先生であれば、父親や故郷の皆、そして私を始めとする3−Aの生徒たち。

 

 そして何より、自分自身に。

 

 見ればネギ先生の瞳には、強い意志が宿っている。先ほどまでの情けない姿など微塵も感じられない、十年分大人びたような姿だ。

 私は両腕をもぞもぞと動かし、ネギ先生の前に出す。ネギ先生はそれだけで意味を察し、互いに互いの手を包み合った。

 

 

「…よし、じゃあ最後の仕上げだ。ネギ先生の夢を、理想を、信念を、もう一度その口から聞かせてくれるか?」

 

 

 はい、と短い返事を返したネギ先生は、深呼吸を一回した後、私の両目を真正面から見据える。

 

 

 

 

「―――僕は、強くなりたい。強く在りたい。闇雲に魔法(ちから)を誇示したり振るったりするんじゃなくて、使うべき時に、正しい使い方で、僕なりの“立派な魔法使い(マギステル・マギ)を目指したい。

 ―――ヴァッシュさんや、長谷川さんのように、優しい強さを身に着けたい。」

 

 

 

 

 ―――まさか私の名前が出てくるとは思わず、布団に顔を突っ伏した。

 ちらっとネギ先生の顔を伺うと、決してしてやったり、といった感じではない、純粋に満足気な表情が目に映った。この天然ピュアボーイめ。

 

 

「…それが、ネギ先生の“信念”か?」

 

 

 赤く染まった頬を落ち着かせ、平静を保ちながら再確認する。ネギ先生から、強い首肯が返って来たのを見て、私も頷いた。

 

 

「―――じゃあ、その思いを忘れるなよ。それがこれから先、ネギ先生の人生の道標になっていく。これから先、挫ける事も絶望する事もネギ先生の人生には多々あるはずだ。けれどネギ先生は今、そこから立ち上がるための思い(ちから)を手にしたんだ。」

 

 

 握り合った手を、ネギ先生の胸元に寄せる。親指だけ立てて、心臓の位置に触れた。

 

 

「だから、決して忘れるな。そして私も忘れない。もしネギ先生自身がその思いを見失いそうになっても、私はちゃんと覚えてるし、それを応援する。私だけじゃない。クラスの皆も、ネギ先生を応援してくれる。」

 

 

 だから、と言葉を続けながら、体を前方に引っ張って、ネギ先生と私の額同士をくっ付き合わせる。

 

 

 

 

「頑張れ。負けるな、ネギ先生。」

 

 

 

 

 触れた額の暖かさを感じながら、一番伝えたかった言葉を伝える。

 

 この純粋無垢な少年が、この先直面するであろう辛く厳しい現実に負けぬように。

 己の持つ魔法(ちから)に囚われ、暴走することのないように。

 

 生きる意志を、失ってしまわないように。

 

 額を離すと、ネギ先生の迷いのない笑顔が目に映った。

 綺麗で、あどけなくて、傍から見ている私にすら、明日への希望を感じさせるような、優しい笑顔だ。

 

 

「―――ハイ、ありがとうございます、長谷川さん!僕、これからも頑張ります!」

 

 

 ―――ああ、もうこの子は大丈夫だ。

 

 そう確信出来たことが何となく嬉しくて、私も満面の笑みで返す。ネギ先生の頬が少し赤く染まっているのは、照れ臭いからだろうか。

 

 しばらく二人で笑顔を交し合った後、私は視線をネギ先生の右斜め上方に向けた。

 

 

 

「―――で、私とネギ先生の話は終わったわけだが、いい加減姿見せてもいいんじゃないか、アルビレオ?」

 

 

 

 私の言葉を受けて、ネギ先生が弾かれたように私の視線の先に振り向くが、そこには誰も居ない。が、その誰も居ないはずの空間から、聞き慣れた胡散臭い声が響いてきた。

 

 

「魔法による盗聴すら看破しますか。いやはや、本当に恐ろしい聴力だ。」

 

 

 悪びれもせず面白がるような口調に憮然とする。

 

 

「兎にも角にも、お二方のお話は済んだようですので、こちらの話に移らせていただきましょう。ああ、ネギ先生もその場に居て下さって結構です。どの道、全員に聞いていただかなければいけませんので。」

 

 

 そう言い終わるや否や、『別荘』に入ってきた何十人分の声が聞こえてきた。大半はクラスメイトたちだが、それだけではなく、意外な連中も居る。

 そして連中が、このログハウスに駆けつけるまでは一瞬だった。ネギ先生と私の二人しか居なかったベッド脇が、あっという間に人で溢れかえる。

 

 3−Aのクラスメイト全員に加えて、天ヶ崎千草、フェイト・アーウェルンクスと少女たち、そしてアルビレオ。私とネギ先生を加えて、総勢40名近く。

 その中から、アルビレオが一歩前へ進み出る。

 

 

「夜分遅く申し訳ありません。ですが、緊急でお耳に入れたい事がありましたので、こうして皆さんに集まっていただきました。」

 

 

 そうしてアルビレオが手招きをして、一人の人物を呼び寄せる。

 呼び寄せられたのは、さよと超。二人とも決然とした表情で、私を含めた全員の前に向き直った。

 そして、最初に口を開いたのは、さよだった。

 

 

 

「―――――エヴァンジェリンさんを、発見しました。」

 

 

 

 アルビレオや天ヶ崎らを除く全員が一斉にざわめく。勿論私もだ。

 

 

「―――それは本当ですか、さよさん。」

 

 

 茶々丸のいつも通りの平坦な声にも、隠しきれない高揚が滲んでいる。さよもそれに気付いているのか、綺麗なサムズアップを茶々丸に返した。

 

 

「ほら、私幽霊ですから!どんなに木の根が入り組んでてもすり抜けれるんです!それでも3日以上かかっちゃいましたけど、最短距離で行けるルートも見つけました!」

 

 

 喜色満面の笑みを浮かべるさよの報告に、全員が歓声を挙げる。茶々丸やレインまでもがガッツポーズをしていた。私もネギ先生の手伝いの下、片肘を挙げてさよとハイタッチを交わした。

 

 

「―――よく頑張ったな、さよ。」

 

「―――ハイっ!!」

 

 

 さよの瞳には涙が浮かんでいる。

 さよはエヴァが自分を庇い、封印された事を、誰よりも悔いていた。自分の存在に初めて気付いてくれた友人を失ってから、今日までどれ程辛い思いをしてきた事だろう。それを考えると、思わずもらい泣きしそうになってしまう。

 

 が、唯一嬉しそうな顔をしていない人間と目が合う。

 超だ。喜びたいけれど喜びきれない、そんな複雑な感情を携えた表情を浮かべながら、私に視線を向けていた。

 

 

「もうちょっと嬉しそうな顔しろよ。それとも、エヴァが居ない方がお前の計画には都合が良いのか?」

 

「いや、そんな事は無イ。むしろ逆だナ。エヴァさんの封印が解けなければ、二進も三進も行かないのだかラ。」

 

 

 先手を打った私の台詞に、超は肩を竦めて応じる。周りのクラスメイト達も、私たちの剣呑な雰囲気を感じ取ったのか、少し遠巻きに私たちの様子を眺めている。

 

 

「…だが、それよりもまず、私にはしなければならない事があル。」

 

 

 超が徐に、その場で靴を脱ぎ始めた。

 一体何をする気なのか、何となく予想が付いてしまった私は、慌てて超を止めにかかる。

 

 

「オイ超、何のつもり―――」

 

「私ハ。」

 

 

 超は私の言葉を遮りながら、膝を床に着けた。大多数の人間が、超が何をしようとしているか察し、戸惑いを見せる。

 

 

「私は、貴方には頼りたくなかっタ。貴方がクラスメイトのために、命を賭けて戦っていた事、誠に立派だと思ウ。だが、それを差し置いても、私は貴方に頼りたくない理由があル。」

 

 

 しかし、と続ける超の口調と表情は、苦渋と悔恨に満ちていた。もし唇を噛んでいたなら、とっくに裂けて血が噴き出ていただろう。

 

 

「最後の一手で、貴方の力が必要不可欠になってしまっタ。貴方の助けが無ければ、私の計画は完遂出来なくなってしまっタ。…前に言ったナ。私はどんな汚いことにも手を染める覚悟がある、世界の全てを敵に回しても、私は私の未来を変えてみせる、ト。その思いは、今でも変わっていなイ。だから、これを恥だとは思わなイ。」

 

 

 そうして超は、静かにその額を床に着けた。両手は頭と並行に、身体は出来る限り低く。つい先刻、神楽坂と綾瀬が見せた物より数段綺麗で見事な土下座だった。

 私は超から視線を外さず、さりとて見下すではなく、じっとその小さく纏まった身体を見つめた。周囲のざわめきも、今は聞こえない。そしてきっと超も、私の声以外を拾うつもりはないだろう。

 

 

 

「長谷川千雨。私と同じ、遥か未来から来た客人(まれびと)ヨ。プラントの存在を知る者ヨ。

 

 

 ―――どうか、手を貸してほしイ。プラントの誕生を阻止する計画ニ。」

 

 

 

 私が唾を飲み込む気配を感じ取ったように、超が続けざまに言葉の爆弾を放つ。

 

 

 

「プラント初期実験作にして失敗作である、私からの頼みダ。」

 

 

 

 

 

 

 ―――――そして、この瞬間。

 

 麻帆良祭を舞台にした、最終決戦の幕が。

 世界も未来も、何もかもをひっくり返す戦いの火ぶたが、切って落とされた。

 

 

 

 

 

 


(後書き)

 やったぞっ!第三部・完!回。…いや、ホントにこれで3章は終了ですよ?

 

 というわけで、ネギ先生少し大人になるの巻でした。これまで拙作内においてはほとんど成長の場を与えられなかったネギ先生ですが、ここに来て一気に精神的に成長しました。4章では少しですが、ネギ先生の活躍の場があります。

 

 そして超さんの衝撃告白。4章で語るプラント誕生の秘密については、完全な捏造設定になりますが、無理なくなるほどと思っていただけるような設定にしてあるつもりです。超についても色々と。ネギ先生の子孫というパーツをどう組み合わせるかに四苦八苦しました。

 

 で、前回の感想において、「3−Aの皆が千雨を受け容れるまでの苦悩が描かれておらず、非常に軽いものに感じた」という指摘が多く寄せられました。その辺の事を今回書かなかったのは、単に面倒だったからというわけではなく、それがすでにのどかが通った道だからです。

 のどかは千雨の本性を見せつけられ、それまでの千雨との違いに思い悩み、その末に自分の信じる千雨を信じるという結論に達し、千雨への信頼を揺るぎないものにしました。

 今回クラスメイトたちが辿った思考回路もそれと同様で、辛く、凄惨な千雨の過去を見ると同時に、千雨がどれだけ自分たちや自分たちとの日々を大切に想ってくれていたか、自分たちのためにどれだけ戦い傷ついてきたかを見た結果、千雨を信頼することに決めた、という経緯を辿っています。千雨が倒れてから目覚めるまで4日間(しかも土日挟む)あるので、全員考えに考え抜いた末の結論です。

 …だったらそれ書けよ、って話ですよね。イヤホントスミマセン。どこにどうねじ込んだらいいか分からなくて。ともあれ、皆様申し訳ありませんでした。

 

 そしてようやく3章終了。ちなみにこの3章の章タイトルは、「マホラ・ハーフボイルド」にするつもりでした。元ネタは、東直己先生の小説「ススキノ・ハーフボイルド」より。ススキノ探偵シリーズは好きですが、次はどれを映画化する予定なんだろう。やっぱり「消えた少年」辺りかしら。

 

 今回のサブタイは空の境界の2章、殺人考察(前)のテーマソング、Kalafinaの「君が光に変えていく」です。らっきょといいまどマギといい、ダークな雰囲気に合わせた作曲なら梶浦さんは間違いなく天才だと思う。劇場版まどマギは、終始梶浦さん無双だった気がするなぁ…。

 

 次回からは最終章・麻帆良祭編に突入です。最終章のタイトルは「HER LIFE AS A…」。これが何巻の表紙タイトルか分かった貴方は立派なTRIGUNファン。すでに最終決戦の大まかなプロットは出来てます。今までの総決算みたいな感じで、ド派手に仕上げていくつもりです。…ただ、レポート課題が2つあるので、そちらを先に仕上げてきます。なので次回更新は、遅ければ来月初旬になっちゃうかも…。出来る限り今月中に書き上げようと思いますので、よろしくです!それではまた次回!

 

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