Thousandrain The Horn-Freak 外伝 それでは、また明日
―――――カランカランと、来客を告げる玄関のベルが鳴る。
「久しぶりだな、エヴァ。何にする?」
「お前の作った珈琲でなければ何でもいい。」
「ヒデエなぁ。少しは上手くなったんだぜ?」
「そういう妄言はインスタントから脱却してから吐け。」
「同じ事同居人全員から言われたよ。とりあえず酒でも飲むか?レインが厳選したヤツ。外も寒いし、熱燗で。」
「ほう、それは旨そうだ。一杯頂こう。」
「ん、ちょっと待ってろ。今から温める。」
「というか、お前以外誰も居ないのか?」
「レインは買い物、のどかは出張、月詠はその付き添い。のどかたちが戻るのは明後日だし、レインもさっき出かけたばかりだから、後数時間は帰ってこないだろうな。」
「ふむ、小腹が空いたのでサンドイッチでも馳走になりたかったのだが…。お前しか居ないんじゃ、諦めるしかないか。」
「…一応簡単なヤツで良ければ作れる…って言っても、信用してはくれないんだろうな。」
「当たり前だ。家庭科の授業で緑色のゼラチン質の肉じゃがを練成するようなヤツに、まともな炊事が期待出来るわけが無かろうが。」
「ぐっ…! 3−Aの2学期の時の話なんて持ち出してきてんじゃねえよ!あれからどれだけ年月経ったと思ってんだ!?今じゃ一応私も一児の母だぞ!?」
「その一児はお前の料理に対して何て言ってるんだ?」
「…『お母さんの演奏技術は毒物と組み合わせるには相性悪いと思うんだけど』」
「…スマン、想像以上に辛辣だった。」
「ホントにな。でも実際月詠の方が料理出来るんだよなぁ…。何で私出来ないんだろ?不器用ってわけじゃないのに。」
「苦手意識が染みついてしまっているんだろうな。もしくは、レインが居るから出来なくてもいいや、という甘えが存在しているか。」
「どっちにしろ駄目人間だな私。もういいよ料理の話は。そういえば、今日茶々丸たちはどうしたんだ?見えも聞こえもしないけど。」
「お前の察知から逃れている―――と見栄を張りたいところだけどな。宇宙科学技術センターに行っている。ハカセと超が前々から技術協力していたワープドライブシステムが小規模ではあるが実現に近付いているらしくてな。今日は記念すべき初試験だそうで、実地見学しに来た、という訳だ。茶々丸はその付き添いだな。」
「へぇ、そりゃ凄いな。それ使えば、麻帆良からイギリスまで一瞬で行けるってことか?」
「間違っちゃいないが、使用においては周囲の時空間を大きく歪めてしまうので、地球や魔法世界上では使用出来ないらしい。宇宙空間での移動用だな。」
「…明日それの実験するってのか?大丈夫なのか、それ?」
「大丈夫じゃなかったらのどか辺りが差し止めるか、お前に言伝しておくだろう。いざとなったら茶々丸も居るしな。」
「それもそうか。明日菜は魔法界に残ってるんだっけ?」
「ああ、坊やや近衛たちと一緒に場所取りに専念してくれるそうだ。らしくもなく気を遣われたよ。久々にゆっくり話して来い、だとさ。」
「調たちも同じ事伝えてきてたから、アイツ等も合流すんのかな。いずれにしろ、周りの被害は気にしなくてよさそうだな。」
「全くだ。麻帆良革命の時みたいに、校舎と丘を消し飛ばすような大惨事になりかねないからな。」
「…なんでそこでわざわざ引き合いに出すんだよ。原因はほぼあのクソジジイにあった事は明白だろ。」
「お前と表立って敵対するなら、それくらいの余波被害は免れ得ないという話だ。とはいえ、その跡地に宇宙科学技術センターとロケットの発射台が作られたっていうんだから、何がどう転ぶか分かったもんじゃないが。」
「…まあ実際問題、私と月詠が組んだら、それぐらいの被害は出るだろうとは思うけど。」
「ほう、断言するか。確か月詠は今17、8だったか?」
「今18。進学はしないそうだ。私もレインものどかも千鶴も一応進学を勧めたんだが、進学して勉強に励んでもあんまり役に立たなそう、って言ってさ。」
「…親としては不安になる見解だな。」
「いや、勉強が嫌だから進学しないって訳じゃないんだぞ?アイツはアイツでやりたい事があって、それが大学に進学しなくても出来る事だから、進学せずにそっちの方に進みたいって理由なんだ。」
「ほう…。して、それは?」
「ホラ、例の宇宙開拓師団。あれの武装調査隊に入るつもりなんだと。団長のアーウェルンクスの推薦はすでにもらってるみたいでな。」
「ということは、親離れするのか?」
「そういう事。ずっとお母さんたちに支えられて今日まで生きてこれたから、そろそろ自分の足だけで立つ時だって。」
「立派な心がけじゃないか。とてもお前やレインに何度も襲いかかり、千鶴を殺しかけた頃があったとは信じがたいな。」
「それ、本人の前で口にするなよ?滅茶苦茶落ち込むから。」
「そうして落ち込める程気配りの出来る娘に育った事さえ驚きだよ。素行は良くないと小耳に挟んだが、人望はあるだろう?」
「よく知ってるな。アイツ確かに不良っぽいけど性根は真っ直ぐだから、老若男女問わず慕われてるんだよ。ラブレターとかもよく持って帰ってくるんだぜ?これまた男女問わず。」
「女誑しの娘が人誑しに育った、か。笑えんな。」
「誰が女誑しだっての…って反論したい所だけど、出来ないんだよなコレが…。いやまぁ別に、男にモテたいとは思わないんだけどさ…。元男だし…。」
「…気持ちは分からんでもないが、難儀なモンだな…。で、結局月詠には今彼氏が居るのか?」
「居ない。というかアイツと付き合うなら、アイツのバイタリティに付いていけるだけの底力が無いと話にならない。しかもその上で月詠自身による評価が下る。本人曰く、『私と付き合いたいなら、私かお母さんを負かしてみろ!』だそうだ。」
「違う意味で高嶺の花だな。ブレーキぶっ壊れた暴走機関車を制御出来るかどうかを問うているようなモンじゃないか。」
「結婚やら出産やらだけが幸せじゃないとは思うんだけど、パートナーが居る喜びってのは感じてほしいんだよなぁ。私とのどか、レイン然り、お前と茶々丸然り。」
「そればっかりは運を天に任せる他ないな。人と人の出会いだけは、誰にも操る事も妨げる事も出来ん。だが、本当にソイツの人生にとって大切な人間ならば、出会うべくして出会っていくものさ。違うか?」
「それはそうだろうな。ま、末長く見守るしかないかね。」
「月詠の事はいいが、お前自身は最近どうなんだ?」
「別に何も。時々のどかや楓、調の頼みで出かけたり戦ったりはしてるけど、そればっかりって訳じゃないし。のどかの護衛も、だいぶ月詠に任せられるようになったしな。麻帆良の治安も、革命当初に比べりゃかなり落ち着いた。」
「…の割には、腕は鈍っていないようだな?」
「たりめーだ。今でも月詠は週一で、楓と調は月一で特訓に来るんだぞ?腕鈍らせてちゃ、やられるのはこっちの方だ。」
「ほう、貴様にそこまで言わせる程強くなったか、あの3人は。」
「特に楓はヤバいな。この前遊びに来た木乃香と五分五分だったぞ。それもタイマン、お互い素手で、二時間ずっと。」
「…どんな訓練したんだ、というか、どんな訓練課したんだ、貴様。」
「秘密。けど月詠もこなしてる訓練だから、専用のスペシャルメニューってわけじゃないぜ?」
「世界で五指に入る実力者直々の薫陶が、スペシャルメニューで無いなど有り得んわ。レッスン料取り始めれば、瞬く間に億万長者だぞ?」
「冗談にしちゃ質が低過ぎるな。少なくとも私に関する諸々を全部ばらさないとどうしようもない話じゃねえか。」
「言ってみただけさ、そうムキになるな。安心しろ、少なくともお前に関する情報だけは、絶対に口を滑らせる事は無い。」
「…てことは、聞かれた事あるのか?」
「さっきお前が名前を出したヤツさ。ジャック・ラカン。かつての“紅き翼”の一員、ナギやアルビレオの旧友であり、今なお世界最強の一人に数えられる男だ。以前魔法界に寄った時に偶然出くわして、お前の事をしつこく聞かれた。」
「ああ、小耳に挟んだ事はあるな。…大体察しはつくけど、何を聞かれたんだ?」
「察しの通りさ。『サウザンドレインと闘り合いたい』だそうだ。最後には力づくで聞き出して来ようとしたから、フェイト、木乃香、調たち5人を呼び寄せて軽くお仕置きした。」
「…ガチじゃねぇか。」
「そのぐらいのメンバーを揃えないと止められない奴だからな。詠春とアルビレオの事も詳しく聞きたがっていたから、余計にだ。」
「…そっちが本当の理由か。」
「さあな。だが詠春たちに関しては、私と木乃香、フェイトが詳しい事情を話したら納得したようだ。ただしお前が関わる過程を聞いてますます興味を持ったようだが。」
「オイコラ。」
「もし麻帆良に押し掛けてきたら、適当にあしらうだけじゃ済まんだろうな。アイツしつこいし。さすがにジジイ程じゃないとは思うが、まぁ頑張る事だな。」
「テメエな―――いや、まぁいいか。さすがにそんな事、のどかが許すはず無いし。下手な事したら本気出して“迎撃”すること請け合いだ。」
「…まさに絶対防壁だな。貴様にちょっかいをかけようものなら、宮崎のどかが『本気で』迎え撃ってくるわけか。ある意味スナッフフィルムのような結末かな。」
「…一応否定はしておく。三割分くらい。」
「そういえば、宮崎が次期理事長の候補に挙がっていると聞いたが、本当か?」
「とりあえず本当。正確には“市長”らしいけどな。本人は自分しかやる人居ないならしょうがないかな、なんて言ってたけど、考えてみたら、のどかがあのジジイの立場に立つようになる、って事だよな。」
「複雑な気分か?」
「多少はな。けれど、だいぶ落ち着いたとはいえ、今でも世界中から注目を浴び続けるこの街を取り纏められるのは、宮崎のどかだけだって確信してる。」
「私も同意だな。あのジジイと比べては失礼だが、のどかは上に立つべき人間だと思うよ。かつての雪広あやかと同様に、人を取りまとめ、導いていく、歴史に名を残していくリーダータイプだ。全く、本当に出会いに恵まれたヤツだな、貴様は。」
「本当にな。最初の出会いはレインだったけど、私の背中を押してくれたのはのどかだった。あの時私はのどかを助けたつもりだったけど、最終的に私はのどかに助けられっぱなしだった。クラスメイトを救っただなんて面映ゆい言い方されるけど、その半分くらいはのどかの手柄と言っても過言じゃないんだよな。」
「…確かにな。修学旅行といい学園祭といい、のどかが居なければ終わっていたという場面が多々ある。だが、そう考えると、あの時私が起こした“桜通りの吸血鬼”騒動は最良の結果を導き出したと見れないか?」
「…その発想は無かったな…。けど吸血鬼騒動は、ネギ先生が麻帆良に赴任して来る事を小耳に挟んだ―――というか、ジジイによって恣意的に挟まされたが故の行動だろ。それに私とのどかが巻き込まれて、狙われたのは、完璧に偶然だろうけどさ。」
「その偶然の巡り合わせも含めて、私たち3−Aの勝利ってことさ。お前が招き寄せた勝利でもあるのだろうがな。」
「私が、じゃない。それもやっぱり、3−Aで掴み取った勝利さ。あのジジイの最大の失敗は、3−Aというクラスを編成してしまったことだった。私だけならいざ知らず、のどかやレイン、その他友情に篤い面々を一致団結させちまった。もしバレないまま事が進んでいれば、それこそジジイの建てた計画は成功していたと思うぜ?」
「…そうだろうな。あれほどまでの団結力を生む事までジジイが想定していたかどうかは定かではないが、もしジジイの計画が上手く進行していたなら、間違いなく坊やにとって最大の力となっていただろう。」
「ある意味自分が作り出した力に裏切られた形になるのかね、ジジイにとっては。」
「気味の良い話だ。…けれど。」
「どうした?」
「…結果的に私は誰かに救われっぱなしだったな。」
「…らしくないな。ヒロイン気取りってわけでもあるまいに。」
「誰がそんな気色悪い真似するか。ただ、私は4月の出会いから学園祭での終端まで、助けられっぱなしだったなと、今更痛感しただけだ。」
「…ヒロイン気取りではないにしろ、やっぱりお前らしくないな。ネガティブ思考なんざ。」
「生憎お前以上に人生経験が長いものでな、感じ入る所がその分多いのさ。今でこそ私は、麻帆良の地への呪縛から解放され、自由に世界中を闊歩出来る身になった訳だが、それは3−Aの仲間達の活躍故だ。…しかし、本音を言うと、自力で私を縛り付ける楔を引き千切り、飛びだしていきたかった。3−Aの皆の尽力を無碍にするつもりは微塵もないが、少し悔しい思いをした事も、また事実だ。」
「…けど、お前の脱出への強い思いのおかげで、私はジジイの陰謀に気付けたし、そのために立ち上がる事も出来た。今私が居るのは、お前の誇り高さのおかげだと言っても過言じゃない。」
「…物は言い様だな。だが、偉そうにお前と手を組むと豪語したくせに、私は京都の戦線に加わる事も出来ず、その終盤でジジイの姦計に嵌って封印され、お前たちの手を余計に煩わせる事になった。…それが何より悔しくてな。」
「闇の福音ともあろう者が情けない―――とでも言いたいのか?」
「残念ながら、違う。―――3−Aの一員として、仲間として、申し訳ない、という気持ちさ。」
「………。」
「貴様がアイツ等に救われたように、私もアイツ等に救われた。だが、貴様と違って私はアイツ等に、何の恩も返せなかった。」
「…だったらこれから取り戻せばいいだろうが。お前は後ろを振り返りながら歩くヤツじゃねえだろ。お前は―――――」
「アルビレオのように過去に囚われて前に進めなくなるつもりか、か?ククク、安心しろ。そんな私の積み重ねた誇りに泥を塗るような真似は決してしないさ。」
「…ならいいけど。だったら何でそんなに後ろ向きな発言したんだよ。」
「何、私なりにその恩義に報いる術を見つけた、という話さ。お前は今までずっと子育てで忙しかったようだから、話したことは無かったがな。」
「まぁ、ようやく子育てがひと段落しての、今日の私たちの再会だからな。ま、勿体ぶってないで聞かせてもらおうか。お前の恩返しとやらを、よ。」
「―――私は、不死身だ。お前と出会う以前はその体質を憎く思う事こそあれ、誇りに思う事など一度たりとも無かったが…ようやく、この身が不死となった理由を得た。
この身が死なず朽ちず、生き続ける限り、私はお前たちを、3−Aの皆を、ありのままに語り伝えていくことが出来る。ありのままの真実を、ありのままのお前たちを、永遠に語り継いでいく事が出来る。お前たちの勇姿を、友情を、余す所なく、寸分の狂いもなく、な。」
「…それってつまり、あの時の真実を暴露するって事か?それ、下手しなくても皆に危害が及びそうだから、あんまりして欲しくないんだけど…。」
「ああ、もちろんアイツ等に危険が及ぶような真似はしない。50年後か、一世紀先か…。他の皆が、全員天に召されてからになるかもな。」
「…それは。」
「不死だからな。皆の死を看取る事も役目になるだろうな。今時分から想像したい話ではないが、人間である以上避け得ぬ定めだ。ならば、一番死から遠い私がそれを見届け続けてやらねばなるまい。」
「…寂しい話だな。」
「全くだ。酒が不味くなる。とはいえ、私だけが取り残されるとか、そういう話にはならないがな。とりあえずは木乃香やアーウェルンクスも居るし。後は子孫の行く末を見届けてやるってのも面白そうだ。」
「お前がそれでいいって言うんなら、とやかくは言わないけどさ。…けど、仲の良い人間の死に際を看取り続けるってのは、かなりの苦行だと思うぜ?ホントに大丈夫か?」
「あまり侮ってくれるな。前世を合わせたお前の年齢の、その十倍は生きてきてるんだ。親しい者の死を看取る事にはとうに慣れている。…まぁもっとも、これ程親しくなれた仲間というのも初めての事だがな。」
「…結局、大丈夫なのか大丈夫じゃねえのか、どっちなんだよ。」
「大丈夫さ。心配は無用だ。気遣わなくていい。だが―――真っ先に看取ることになるのは、おそらくお前だろうな、千雨。」
「…あんまりそれを言わないでくれよ。分かってて誰も口にしてないようなモンなんだから。」
「あれだけ激しい戦いと、幾度となく負った致命傷やそれに近い負傷、加えて人間の物理的限界を超えた挙動の連続―――あの数カ月だけで、少なくとも20年ぐらいは寿命が縮まっているはずだが…実際、せいぜい生きられて50後半といったところか?」
「レインもそのぐらいだって言ってた。すでに人生折り返し地点は過ぎてるみたいだな。ま、後20年って所かね。ロスタイムにしちゃ充分過ぎるだろ。」
「月詠は知っているのか?」
「薄々勘付いてると思う。まぁ私としちゃ、人生最後の仕事として全力で子育てに打ちこもうってつもりだったから、満足してるけどな。後はまぁ、アイツが結婚でもしてくれて、孫の顔でも拝ませてくれりゃ言う事無し、ってか?」
「…そんな婆臭い事言うな。それに、お前にはもう一つ、やらなきゃならない事が残ってるだろう?」
「…分かってるよ。今日お前がここに来た理由がそれだ。私だって、一日たりとも忘れた事は無かったぜ―――全ての発端さんよぉ?」
「ククク―――良いな。久方ぶりに味わうが、やはり貴様の―――音界の覇者の殺意は、何度浴びても鳥肌が抑えられん。腑抜けるなど、とんでもなかったようだ。」
「…お前にゃ悪いが、多分これで最後だよ。私が本気を出して、全力全開で戦えるのは、人生でこれが最後になる。けれど、お前なら、私の最後の戦いの相手に相応しい。お前と茶々丸のコンビになら、私の人生最後の全力をぶつけてやってもいい。」
「ああ、分かっている。だからこそ今日、ここに来たんだ。お前を倒し、お前を超える事こそ、我ら主従の悲願。お前が全力を尽くして戦えるのが後一回きりだというのなら、それを逃す手は無い。
改めて言おう。長谷川千雨。音界の覇者、サウザンドレイン・ザ・ホーンフリーク。私たちと―――――戦え。」
「―――――ああ、当然OKだ。実は私も、もう一度お前と戦える日を心待ちにしてた。私と月詠の最強母娘で、お前と茶々丸の最強主従を打ち破る日を、親子共々楽しみにしてたんだよ。」
「そうすれば月詠に箔が付くから―――か?フン、考えてる事がジジイと同じだぞ。墜ちたモンだな?」
「通り魔やってたらその辺の女子中学生にコテンパンにされて、箔どころか泥塗りたくられたのはどこの誰だ?今さらもう一度圧勝したところで、箔なんか付きゃしねえよ。のぼせあがんな。」
「女子中学生?ああそうだな、その時点で合計年齢四十を超えた年増だったか。その年でセーラー服着て義務教育受けてたって言うんだから笑わせる。恥じらいも年甲斐もあったモンじゃないな。」
「600歳超えのババアに言われるとひとしおだな。しかも呪いかなんか知らないけど、10年ぐらい留年してたんだろ?何だ、お前の掛けられてた呪いってのは、進級出来ないぐらい頭がパーになる呪いか何かか?」
「―――ハッ、随分と舐め腐ってくれるな、糞餓鬼。」
「―――ケッ、居丈高になるのも大概にしとけよ、負け犬。」
「…。」
「…。」
「…。」
「…。」
「…。」
「…。」
「…。」
「…。」
「…クッ。」
「…ぷっ。」
「はっ―――はははははははははは!懐かしいな!懐かしいやり取りだな!」
「あははははははっ!全くだ!久方ぶりの口喧嘩だ、相も変わらず、お互いレベルの低いこった!」
「あはははは!―――あぁ、もう酒も温まった頃じゃないか?」
「あはははは!―――あぁ、そうだな。もうそろそろ飲み頃だ。持ってくよ。それで、私たちの戦いの場所は、やっぱり魔法界か?」
「ああ、魔法界の広大な無人の荒野を、明日菜と木乃香が押さえているはずだ。期日は、月詠の高校の卒業式の一週間後で良かったよな?」
「ああ。それと、言うまでもない事だけど、月詠に下手な怪我させてくれるなよ?アイツはアイツ自身の夢を持って進み始めた所なんだから、まかり間違ってもそれを諦めざるような負傷はさせてくれるな。じゃないと、マジで殺すからな。」
「その辺の分は弁えてるさ。まぁ、私か茶々丸か、もしくは二人がかりで、お前を殺してしまう事はあるかもしれんが。」
「そんな気無いくせに、よく言うぜ。私もお前も、命を取る相手は自分の命を脅かす“敵”だけだ。私たちは、敵対関係ってわけじゃないだろ?―――ハイ、熱燗一丁。」
「ふむ―――それでは、私たちの関係は何になるのかな。」
「決まってるだろ。友達だ。人殺し仲間で、戦友で、好敵手な、温くも冷たくもない、燃えるような関係さ。」
「ああ―――そうだな。友達だ。」
「お、外、雪降ってきたな。ちょっと寒いけど窓際移って、雪見酒と洒落込むか?」
「いや、ここでいい。雪を見るよりも、お前と話しながら飲む方がずっと楽しそうだ。…ついでに、ピッタリの乾杯の文句も考えたからな。」
「へぇ。それじゃ発表してもらおうか。」
「ああ、それでは―――――」
「―――――変わり続ける世界と。」
「―――――変わることなき悪縁に。」
「「―――――乾杯。」」
(後書き)
さあ〜♪乾杯しよ〜う♪乾杯しよ〜う♪回。ところで誰の何て歌でしたっけコレ。
というわけで、無記名様のリクエストによる、千雨とエヴァの会話でした。ぶっちゃけ最後の「友達」を言わせたいがための長々とした会話だったりします。
今回は前回からまたさらに数年後、月詠が高校を卒業する一か月前、大体2月位を想定して書いてます。千雨とエヴァは、千雨が子育てを始めてから一回も会ってません。千雨が子育てに奮闘している時に、自分たちが余計なちょっかいをかけるわけにはいかない、とエヴァが大人な判断をしたためです。なので今話は二人にとって十年ぶりぐらいの再会でした。
千雨の身体が限界、というのは書いた通りです。ただでさえ元の身体スペック以上に酷使しまくり、何度も死にかけ、ようやく戦いが終わったと思ったら、今度は子育てと、ある意味人生がめっちゃ充実してます。
本当は本編で、近右衛門との対峙直後に近右衛門の口からその事実を指摘させる、という展開も考えていましたが、ぶっちゃけ忘れてました(苦笑)まぁ書いてたとしても、「ああ、分かってるよそんな事くらい。それで?それがどうかしたのか?」ぐらいしか言わせること無いんですけどね。
なお今回これ程までに書くのに時間がかかってしまったのは、単純に仕事が忙しいからで。私の会社、勤務体系というか勤務時間が少し変だし、そもそもかなり忙しいので、なかなか書く時間が取れませんでした。勤務時間も普通のお店や会社とかとはだいぶ違う感じがしますので。
今回のサブタイはASIAN KUNG-FU GENERATIONのシングルで、「それでは、また明日」です。
―――さて。
というわけで、およそ2年続いたこの作品も、これにて本当に閉幕でございます。投稿開始から今日まで拙作を読んでくださった皆様には、いくら感謝してもし足りません。皆様のおかげで、今日まで投稿を続ける事が出来ました。
一応次に何か書くならコイツを主人公にしたい、というのはすでに考えているのですが、本当にそれを描けるかどうかは未定です。
それでは、今日まで支えてくださった読者の皆様。
長らくのご声援、誠にありがとうございました。また何処かで会える日を楽しみにしております。