コードギアス反逆のルルーシュR2
              Double  Rebellion














TURN-4 胎動


テレビではどの番組もゼロの復活を、バベルタワーでの騒動を報道し続けていた。
その中の一つ、総督代行であるギルフォードが軍を率い、総領事館を包囲しているという報道を見ていたカレンの元へゼロとC.C.がやってきた。

「凄い騒ぎね、ルルーシュ」

「当然だろう。いきなり自分達の領土に国ができたんだから」

カレンはゼロから発せられた声を聞いて驚いた。
この声はゼロのものではない。
この声は…。
カレンが驚いている間にライはゼロの仮面を取って軽く頭を横に振った。

「……いつの間に入れ替わっていたの?」

「演説の前に、だな」

「え!?だって」

カレンが言いかけた所でC.C.が続きを言う。

「声は録音。現れた時点で既に別人」

「マジックショーや手品と同じといった所だ」

カレンは眉間に皺を寄せるが、ライはそれに気づかず着ていたマントを脱いで畳むと椅子に置いた。
カレンはライとC.C.を避難するように睨む。

「気に入らないわね。私達にまで秘密にするなんて」

「私達?私に、だろ?」

ライの肩に手を掛けながらC.C.はフッと笑った。
そんな二人を見てライはため息をはく。

「毎回カレンを挑発するな、C.C.。カレンも一々反応していると疲れるよ」

ライはそう言うと部屋を出ようとする。

「どこに行くの?」

「一旦着替えてくる。これからする事は一杯あるからな」

「なんなら、おまえがゼロを演じてみたらどうだ?」

C.C.の提案にライは眉を顰めた。

「ルルーシュに相談なしには無理だ。それに本当のゼロはルルーシュにしかできない」

そう、ルルーシュが起こした奇跡は彼だからこそできたもの。
例え同じようなギアスを持っているとしてもライには無理だ。
それにライ自身その気はさらさらなかった。
「それに何より……」とライは続ける。

「僕ではこの服装で人前に出るのは無理だ。着心地以前に恥ずかしすぎる」

そんなライの言葉にカレンとC.C.は思わず吹き出してしまい、ライも釣られて笑った。




















そしてそれから三日が過ぎた。
未だブリタニアとの膠着状態が続いている。
ルルーシュからの連絡はない。
監視が厳しいのだろう。
手間取っているのかもしれない。
ただあまり時間をかけすぎると良くないのも確かだった。
ブリタニア側から何か仕掛けてくる頃合でもある。
もしかするとそれが中華連邦本国かもしれないが。
そんな感じであれこれ考えていたライの耳に、中華連邦総領事の高亥の声が入ってきた。

「ブリタニアからの引渡し交渉は遅滞させています。一週間程度は持つかと」

「ゼロに伝えておく」

ライは考えを中断して、淡々と言ったC.C.の向かいに座っている高亥を見た。
彼の両目にはギアスをかけられた証である赤い光があった。
かけられているのはルルーシュの絶対遵守の力だ。
内容は知らないが、高亥の態度からすると予想は付く。

ライは高亥から視線をはずすと今度は隣に立っていた武官を見た。
名は黎星刻。
長い黒髪に切れ長の鋭い瞳、腰には剣を帯びている。
この時代で帯剣しているのは珍しい。
ライは高亥よりもこちらの方を危険視していた。
ライには彼の瞳を見れば、なんとなくそれがわかるのだった。
その星刻が口を開いた。

「失礼ながらお聞きしますが、あなたがゼロではないんですか?」

「は?僕が……ゼロ?」

あまりに予想外の質問だったので、オウム返しになってしまった。

「何と!あなた様がゼロだったのですか!?」

どうやら質問の答えをすぐにしなかったのが良くなかったようだ。

「いえ、僕はゼロではありません。何を勘違いなさったのかは知りませんが、僕はゼロの部下に過ぎません」

ライの答えに高亥は残念そうに、逆に星刻は面白そうな表情を浮かべた。

「部下、ですか。正直あなたのような人がそのような位置に甘んじているのか不思議でならない」

「…どういう意味ですか」

「そのままの意味です」

さすがのライも星刻の意図がわからず、眉を顰める。
そのとき、ライの疑念を中断させる大声が響いた。

「C.C.!」

カレンの大声に何事かと全員がそちらを向く。
そしてその視線の先にはバスタオルを体に巻いたカレンがいた。
部屋にいたC.C.以外の全員がカレンを見て固まってしまう。

「考えてみたらアンタがバニーやったほうが話早かったんじゃないの!?」

「「「………」」」

C.C.の事しか見ていなかったカレンだったが、ライや高亥、星刻もいる事にようやく気づく。

「え?え?」

ようやく事態を把握したカレンは悲鳴を上げながらガラスの向こうに隠れる。

「ゼロは、女!?」

「そうだ」

「違います!」

即答したC.C.にカレンがすばやく訂正を入れる。
いや、この場合はツッコミか。

「バラすのが早すぎる。遊び心がない女だ」

「ゼロで遊ばないで!」

C.C.の言葉に食い掛かったカレンがガラスの向こうからまた姿を現す。

「見えるぞ」

C.C.の冷静な指摘を受けると、カレンは慌てて隠しながらガラスの陰に隠れる。
一瞬だけだが、何か見えたような気がしないでもないライだったが、何も見ていない事にした。
もう少しカレンには落ち着いてほしいと思うと同時に思いっきりC.C.に太ももを抓られるライだった。

「初めまして、紅月カレンさん。紅蓮弐式のパイロットですよね」

今まで黙っていた星刻が口を開いた。

「えっ!?どうして!?」

カレンがそれで驚きの声を上げる。
名前を知っている事に対してか、それとも紅蓮弐式のパイロットである事も踏まえてなのか。

「興味があるんです。あなた達に。……そちらにいる銀髪の方も含めて」

「………」

ちらりと向けられた視線をライは黙って受け取った。
やはり注意すべきは彼だろう。
ルルーシュに進言しておこうかとライは考えておくことにした。
その時、部屋の扉がいきなり開けられ、団員の一人が飛び込んできた。

「大変です!扇さん達が!!」

(やはり仕掛けてきたか)

ライは内心舌打ちをした。
さすがギルフォード卿だ、素早い。
昔手合わせした相手にライは敬意を示すと同時に歯噛みした。




















扇達の公開処刑宣告から数時間が経ち、日は傾きつつあった。
未だにゼロ=ルルーシュからの指示はなかったが、対策案はいくつか考えていた。
そんなとき、突然爆音が響き渡った。

「何!?」

カレンが驚いて爆音のした方に振り向く。
直後に団員から通信が入った。

「大変です!ゼロ!中華連邦が突然……」

通信は途中で途切れてしまった。
どうやら原因の中心はブリタニアではなく、中華連邦のようだ。

「カレンとC.C.は武器の用意をしておいてくれ。僕は外の様子を見てくる」

「待て、ライ。敵が中華連邦なら迂闊に動くのは危ないぞ」

「わかっている。ただ、それ以上に確かめないといけない事もある」

ライは愛用の青い日本刀を携えると、応接室を出て行った。
ライは部屋を出た後、走って爆音のした方向に向かう。
意外と自分でも驚く程冷静だったが、もちろん仲間を心配する気持ちはあった。
ただ先ほどC.C.に言ったように気になる事がもう一つあったのだ。
万が一の時に備えてギアスを使う事を考慮しながら廊下の角を曲がると二人の中華連邦の兵士と遭遇する。
いきなり出てきたライに一瞬驚いたが、すぐに銃を向ける。
しかしその時にはライは走っている。
目にも止まらない速度で中華連邦の兵士二人に瞬く間に接近すると、刀を抜かないまま峰打ちで気絶させた。
ライは一旦息をつく。

(よく訓練されている…、……!)

そこでライは背後から敵意と威圧感を感じた。

「見事なものだ。我が直属の兵士をこうも容易く倒すとは」

声のした背後にライが振り向くと、そこにいたのは。

「黎星刻……」

ライは左手の親指を刀の鍔にかけて、いつでも反応できるような体勢を取る。
星刻はそれに対して自然体のままだが、彼の纏っている武人の気迫は変わらない。

「あなたがこの騒ぎを起こしたのか」

「ほう、何故そう思う?」

ライの確信めいた声音に星刻が感心したように声を挙げた。

「単なる消去法だ。高亥に裏切る様子はなかったからな。そうなると、次にあなたを疑うのは当然だ。大方想像はついていたが」

交渉の場とは違い、ここはある種の戦場なので敬語は抜きにしている。
それにライは自分に向けられている凄まじい敵意と殺気を感じてそれを確信していた。

「一体どういうつもりだ?これは明らかに中華連邦への反逆行為に繋がるぞ」

ライの質問に答えず、星刻は腰の剣に手をやると、抜いてこちらに走ってきた。
ライはそれに驚かずに星刻に向けて抜刀の姿勢のまま走る。

キィン!

二つの刃がぶつかり合う。
ライは静かな眼差しですれ違った星刻を見る。

「なるほど、随分と鋭い抜刀術だ。それに速い」

同じく視線を向ける星刻の感嘆の答えとして、ライは再び星刻に迫る。
一瞬とも思える速さで背後に回り込んだライが横薙ぎに刀を振るう。
それを星刻は背中に剣を盾にして向ける事によって防いだ。
受けた刀を返して振り向きざまに星刻はライに一撃を放つ。
ライはそれを寸前で後ろに下がって避ける。
間合いを取ったライは再び刀を構えた。
そして再び星刻に速攻を浴びせる。
しかし、星刻はそれを受け流した。
ライが攻撃し、星刻が受けたかと思うと反撃が飛ぶ。
それをライが避け、反撃を放つ。
それの繰り返しが行われた。

(受けに慣れている……。そういう流派か)

ライは相手の動きを分析しながら心の中で呟く。
この星刻という男、相当強い。
おそらくブリタニアのナイトオブラウンズに勝るとも劣らない実力だ。

(……さて、そろそろ本気で行かせてもらおうか)

刀を構えたライが前進する。
迎え撃つために放たれた剣戟を紙一重で回避して、鋭い一撃を逆に放つ。

「ぬっ」

先ほどよりもさらに速く、動きが変わったライに星刻の表情が驚きに変わる。
ライは今星刻の動きの分析を終えている。
そして、予測した動きを上回るものはない。
星刻は顔面に向けて放たれた一撃を僅かに身を引いて回避する。
ライは追撃しようと、前に出ようとしたが、避けると同時に振り上げられた星刻の剣を上体をそらしてかわす。
低い姿勢で剣を構えた星刻にライは飛び上がると刀を思いっきり振り下ろした。

「月下閃」

かわしきれないと判断した星刻がライの渾身の一撃を受けた。

「くっ」

しかし、ライの速さに加わった剣速、そして重力加速度によって剣戟の重さは凄まじいものになっていた。

「はあぁぁぁ!」

ライが体を回転させて刀を振り切る。
受け損ねた星刻の右肩に血の滲んだ傷ができる。

「ぐうっ」

着地したライは呻き声を上げて態勢を崩した星刻に対して刀を振り上げる。

「しばらく眠っていてもらう」

何の躊躇もなく刃を峰に切り替えて刀を振り下ろそうとしたライだったが、寸前に危険を察知して僅かに体を傾けた。
ただ刀を振り下ろそうとした体勢で、しかも至近距離だったため完全にはかわしきれなかった。

「ぐっ!」

何かがライの左肩をかすめた。
星刻がそれを放ったのは間違いない。
彼に視線を向けると、その左手にはクナイのような短い刃物があった。

(暗器か……!)

あんなものまで持っているとは思っていなかった。
切り札の一つとして持っていたのだろう。
まさにいいタイミングで使われてしまった。

「やはり強いな。これ以上戦えばどちらかは生きてはいまい」

ライが次の手を考えていると、フッと笑って剣を鞘に収める星刻。
そして、敵意も殺気もさっぱり消えてしまった。
暗器ももう星刻の手にはない。
相手のあまりの変化にライは目を白黒してしまう。

「先ほどの質問に答えよう。これは反逆ではない。表向きには爆発事故と発表する」

「爆発事故……?」

「それに大宦官は亡くなられる予定だ。それともここで黒の騎士団が潰える道を選ぶかね?」

ライは眉を顰めていたが、すぐに理解した。

「…そういうことか」

つまりこういう事だ。
自分に協力すれば益があり、そうしなければ先のように本当に殲滅する。
やはり目の前の男はあまり大宦官の事をよく思ってないらしい。
こちらに敵意がないという事は利用するという事だろう。
色々と不愉快な事もあるが、ここで無駄に争う必要性はない。
ライは結論を導き出すと、星刻の質問に答えた。

「わかった。総領事は僕達と戦って死んだことにすればいい」

ライは認めた証として刀を鞘に収めた。
殺気も解く。

「理解が早くて助かる」

星刻は続ける。

「それと君には傷の手当てをさせよう。紅月カレン達がいる部屋に行くといい。医療班を向かわせる」

負傷している様子を微塵も感じさせずに星刻はライに背を向けた。
歩き去る彼にライは一番気になっていた事を聞く事にする。

「一つ答えてほしい。どうしてこんな事を?」

ライの問いに足を止めると、星刻はライに振り向いた。

「我が故国と天子様のために、だ」

断固たる意思を感じさせる答えを言うと、星刻は再び背を向けて去って行った。





















その後、卜部さんのおかげで団員達の被害は軽いものだった。
怪我をしたものも、全て軽傷者ばかりだった。
応接室で治療を終えたライにゼロからの連絡があった。
ただし、ライ個人に対してだ。

『ライ、今いいか?』

「もちろん。むしろ待っていた方だ」

『時間がないから単刀直入に言う。おまえに頼みがある』

「何だ?それに頼みじゃなくてもゼロとして命令すれば僕は従うが」

『…あくまで俺はおまえには対等な立場として接したい。表向きは上下のある関係でもな』

「……わかった。それで頼みというのは?」

そして、ゼロ=ルルーシュの口からライにその内容が告げられた。

『それで月下の調子は?』

「大丈夫だ。戦闘には何の問題もない」

『わかった。では、予定通りに頼む』

通信を終えようとしたルルーシュにライは待ったをかけた。

「そういえば総領事館のことだが、中華連邦の武官について話したい事がある。時間がある時で構わない」

『ああ、わかった。くれぐれも無茶はするなよ』

ライは先ほどの事を思い出して苦笑したが、「わかった」と返事して通信を切った。
























そして翌日。
扇達の処刑の当日になった。
総領事館にいる黒の騎士団は既に救出の準備に入っていた。

「これはどう受け取ったらいいのかしら?」

愛機の紅蓮弐式を前にしてカレンは怪訝な表情で星刻に尋ねた。

「ゼロが現れたら動いてくれていい」

「我々なら例えブリタニアに発砲しても知らん顔を決め込めると?」

C.C.の問いに星刻は振り向きながら答える。

「悪い取引ではないはずだ」

「武官と聞いていたが、政治もできるようだな」

C.C.はそれを聞いて微笑んだ。
カレンは二人から視線をはずすと同じくパイロットスーツを着ている卜部に話しかける。

「あの、卜部さん。ライを見ませんでしたか?」

「…いや、俺は見てないな。そういえば彼の青い月下も見当たらないが」

「え!?そうなんですか!?」

「昨日の夜遅くに機体のチェックをしていたのを団員が見かけたらしいが、それ以降はぱったりと姿を消したらしい」

「ライ……」

もしかしてゼロからの命令で単独行動を取っているのかもしれない。
彼の事だから大丈夫だという事はわかっている。
でも、カレン達騎士団のメンバーはそれを気にしている様子だった。

「あいつ、いやあいつらを信じろ。あの二人ならば必ず連中を救い出す」

穏やかな笑みを浮かべたC.C.にカレンは釈然としないものの頷いた。

「わかってる。信じるわ、ゼロとライを…」



そして時間がきた。

『さあ、いよいよ刑の執行時間です。黒の騎士団の残党に正義の裁きが下されます』

「ゼロ様!」

「お願いです!」

「どうか奇跡を!」

処刑台の周囲に集まったイレヴン達が口々に叫ぶ。
ゼロが起こす奇跡を信じて。
そんな彼らの希望を打ち砕くようにギルフォードが鋭い声を放った。

『イレヴン達よ。お前達の信じたゼロは現れなかった。すべてはまやかし。奴は私の求める正々堂々の勝負から逃げたのだ。……構え』

処刑台の前にいるサザーランドの対人用兵器の銃口が扇達、捕らえられた黒の騎士団のメンバーに向けられる。

「みんな……!」

紅蓮弐式に乗り込んでいたカレンは泣き出しそうな声を吐き出した。

『動くな。動いたらおまえも殺される』

いくら性能に優れている紅蓮でもあの数相手ではまず勝てない。
それに団員達救出の目的が果たせない。

「わかってる…!でも……!」

『落ち着け、紅月。俺だって本当は…!』

その時、カレン達が望んだ声が辺りに響いた。

『違うな。間違っているぞ、ギルフォード』

それはゼロの声だった。

「来てくれた!?でも…!」

『彼の、ライの姿がないな。一緒じゃないのか?』

『私達も手が出せない。どうする、たった一人で』

大多数のブリタニア軍に対してゼロの無頼一機。
まず勝機はない。
ライの月下がいれば、どうにかなるかもしれないが、ここにはいない。

『なるほど。後ろに回ったか、ゼロ!!』

言葉通りゼロはギルフォード達が立っている後ろにいた。
コクピットを開いて、ハッチの上に立っている。

『ギルフォードよ。貴公が処刑しようとしているのはテロリストではない。我が合衆国軍、黒の騎士団の兵士だ』

『国際法に乗っ取り、捕虜として認めよと?』

周囲がざわざわと騒ぐ中、ゼロはギルフォードに向けて進んでいく。

『お久しぶりです、ギルフォード卿。出てきて昔話でもいかがですか?』

『せっかくのお誘いだが遠慮しておこう。過去の因縁にはナイトメアでお答えしたいな』

「外に出てこないんじゃギアスが使えない」

果たしてルルーシュ=ゼロはどうするのだろうか?
そしてライは?
みんなが事態を見守る中、二人の会話は進んでいく。



「ふっ、君らしいな。ではルールを決めよう」

『ルール?』

はじめからこちらの提案に乗る事はないと想定していたルルーシュは既に別の手段を講じていた。
ゼロはコクピットに乗り込む。

「決闘のルールだよ。決着は一対一で付けるべきだ」

『いいだろう。ほかの者には手を出させない』

よほど自信があるのかすんなりと提案を受け入れるギルフォード。
確かにナイトメアの対決ではルルーシュはギルフォードの足元にも及ばない。
しかし、それはあくまでルルーシュがやるならの話だ。
ルルーシュは口元を吊り上げる。

「武器は一つだけ」

『よかろう』

ギルフォードは大型ランス以外の武器を取り外す。
そして、ランスの切っ先をこちらに向けた。

『私の武器はこれだ!』

「では、こちらの武器はーーーーーMVS」

『MVS?無頼にその装備は』

通常MVSは第五世代の中でも上位機をさらに改良して初めて使用できるものであって第四世代の改造機である無頼には使えない。
「ないだろう」と続けようとしたギルフォードの言葉を、ルルーシュは笑いを零しながら遮った。

「ああ、そうだ。肝心なルールを一つ忘れていた。ギルフォード卿、貴公は私に正々堂々と勝負しろと言ったな?」

『そうだ。私と貴様で』

「そして、貴公はコーネリアの騎士である。そうだな?」

『…何が言いたい?』

「簡単な事だ。貴公が騎士ならば、貴公の相手をするのは私の騎士というのが筋だろう?」

『貴様の騎士、だと?』

周囲の喧騒がいっそう大きくなった。
その原因は聞かずとも容易にわかる。

「私に騎士がいる事がそんなにおかしいか?」

『当然だ!皇族でもないテロリスト風情が何を馬鹿な事を!』

ルルーシュの余裕の態度に激怒するギルフォードの声にルルーシュの笑みは深くなる。

「確かにそれはブリタニアだけの制度だ。しかし私が個人的に騎士を選ぶのは私の勝手ではないのか?」

『黙れ!そもそも私は貴様と決着を付ける事に意味があるのだ!』

ルルーシュはわざとおどけてみせる。

「おやおや、まさかギルフォード卿は、私の騎士に勝てないとでも思っているのか?戦う前から怖気づくとはコーネリアの騎士の名が泣くな」

『っ!!』

「まあ、それはそれで仕方ない。何せ我が騎士は臆病風に吹かれる事のない、真の騎士だからな」

(さあ、乗って来い。ここまで愚弄されて黙っているはずないだろう…。ギルフォード)

ルルーシュの挑発に静かな声で『いいだろう』とギルフォードが応じる。
その声に怒りが篭っている事は明らかだ。

『ならば今すぐつれて来い』

「連れて来るまでもない。もう来ている」

『何っ!?』

ギルフォードの声とほぼ同時に、何かが上空から高速で飛び込んできた。
その何かはギルフォードのグロースターとゼロの無頼の間に降り立つ。
そして、ゼロを守るようにして刀型MVSを構える。
水色の髪が風にあおられて優雅になびく。

「さて、我が騎士が来た所で始めましょうか。騎士と騎士、ゼロとコーネリア。果たしてどちらの騎士が強いのか、この場で決着をつけようじゃないか。もし我 が騎士が貴公に負けた場合は、私の首をお前にくれてやろう」

空から舞い降りたのはライの操る青い月下だった。

『よかろう。その言葉、後悔するがいい!』

ギルフォードの怒りの咆哮を合図にギルフォードのグロースターとライの月下改との決闘が始まった。
























二人の騎士の決闘が始まって数分。
ギルフォードは相手の技量に驚愕せざるを得なかった。
ランスを繰り出すが、刀で弾かれる。
そして、矢継ぎ早に反撃を繰り出してくる。
間合いを一旦取るが、すぐに敵機が背後に回りこんできた。
とっさにランスを振り返りながら振り上げて刀を受け止める。
まるで相手が目に止まらない高速で動いているかのようだ。
だが、それは少し違う。

(この月下のパイロット、この私の動きを先読みしている…!それにナイトメアの性能を十二分に引き出すこの技量…!)

ほとんど同じと言えた藤堂の月下でもこれほどのスピードはなかった。
まるで自分が遊ばれているような感覚さえ覚えるほどだ。
グロースターがランスを構えると、月下目掛けて突っ込む。
それに対して月下はいかにも突きますよという独特な構えをすると、グロースターに突っ込んでくる。

(あの構えは…!)

見覚えのある構えだった。
以前見た事がある突き。
しかもあの機体と姿が若干異なるが、以前戦った同じ青い月下が使った。
だが、それでも間違いなく勝ったと思った。
しかし、ランスと刀がぶつかり合った瞬間、両者とも弾かれた。

「何!?」

ギルフォードはその結果に、月下の出した突きの威力に驚愕するしかなかった。














ライは機体を立て直して距離を取った後、再び刀を構える。

(総合的な威力はほぼ互角か…)

通常であれば、勝つのはグロースターのランスだ。
突進スピードに加えてあのランスの重量だ。
いくら月下のパワーがグロースターより優れているとはいえ、普通なら確実に競り負ける。
突きで大事なのは重量だ。
ただ、ここで問題なのはライの放った突きだった。
ライは片手でギルフォードのグロースターと同等の突きを放ったのだ。
ライは自分が本来生きていた時代に母の故郷である日本から来ていた武術の師匠にある流派を教わっていた。
その中の技の一つ、突きの『月牙』を使ったのだ。
突きとしては最高レベルで壁だろうが、軽く貫ける程の技だ。
しかし、それはあくまで人体の話でナイトメアでは話が違ってくるように見える。
いや、実際違った。
それでライは目覚めた後、この動きを月下で再現できるように訓練を重ねた。
そして、半年の期間を経てようやく自分の技をナイトメア、つまり月下で再現できるようになった。
操作が若干特殊になるが、先ほどの高速(ライは神速と呼んでいる)を再現したのもその方法だ。
ただ全くのノーリスクではない。
もちろん本来の月下以上の動きを機体にさせる訳だから機体、特に駆動系に負担がかかる。
今のも右手にいくらかの負担はかかった。
動きの方はまだそれほど負担をかけていない。
実はライはギルフォードの動きを先読みして動いているため通常よりもギルフォードが速く感じているだけだ。
しかもその動きを読んでいる方法が驚きである。

ギルフォードがまた迫ってきた。
ライも刀を構えて突っ込む。
突き出されたランスを右にぎりぎりで避ける。
さらにはずしたランスが振るわれる。
それをかがんで避け、刀を下段から切り上げる。
上体に向けて振るわれた刀を機体を僅か後方に傾けて、かろうじて避けるグロースター。
そして間合いを取ったギルフォードを、ライは無理には追撃しなかった。

ライはギルフォードの攻撃を感情を読む事で先読みしていたのだ。
今ギルフォードは怒っているから読むのは容易かった。
と言っても最初はライができたのはあくまで人相手の場合だった。
それを先の操作を習得するのと同時に機械越しにでも感情を読めるようにしたのだ。
特に接近戦ではそれがわかりやすい。
ライはその先読みの方法としては最高峰の部類を出来るのだった。

よって先ほどのランスと刀の激突は両手での突き&重量対パワー&突きの威力が互角だったため両者ともに弾けたのだ。
そして、今回の決闘はライの先読みと独特な操縦技術によってライが優位に立っていた。
刀とランスを交えながらライは考えを巡らす。

(あまり時間はかけられない。なら……次で決める)

ライは時間をかけられないのをわかっていたため、本気でギルフォードを相手していた。
手は一切抜いていない。
刀でランスを弾いて間合いを取ると、ライは左手を刀に添えてまた突きの構えを取った。

(さあ、どうする?)

以前は相手の焦りが重なっていたためこちらが勝てた。
しかし、今は違う。
相手がどう動くかによって手段が変わるが、どの手でも確実に仕留める手段を既に考えていた。
ぬかりはない。
ライの月下の構えを見てグロースターがランスを構える。
受けて立つ気のようだ。
矢のごときの速さで両機が突っ込む。

ガキィン!!!

両者のランスと刀がまた激突した。
一瞬の拮抗の後、また同じように弾かれる。
武器は一つだけなのでスラッシュハーケン等は使えない。
一見両者共に体勢が不安定で次の手がないように思えた。

「とっておきだ」

ライは呟くと、既に戻りかけていた刀を持った右腕を思いっきり突き出した。
それだけじゃない。
上半身のバネ、捻り、さらに弾かれた時の右手の伸びを最大限に利用して突きを放つ。

「月牙・零式」

密着状態であの月牙が放たれる。
重量級である大型ランスを使っている事がここで災いした。
未だに体勢を立て直せないグロースターの胴部に思いっきり突きが吸い込まれる。
突き刺されたグロースターは何かとてつもない衝撃を受けたかのように仰け反り、月下が刀を横に切り払い、離れた所で爆発した。
パイロットであるギルフォード卿は既に刺された時点で脱出している。
いい判断だ。
ライは血を払うように月下の刀を振るう。
決闘はライの勝ちだった。

























ルルーシュはライが勝ったのを見届けるとフッと笑った。

「どうやら私の騎士の方が強かったようだな、ギルフォード。さて、我々が勝った以上我々の同胞を返してもらおうか」

脱出していたギルフォードは悔しそうな表情で「……いいだろう」と承諾した。
純粋な決闘で敗れたのだ。
条件は飲むしかない。
それに破った場合ギルフォード卿のプライドが傷付く。
グラストンナイツもいるからその可能性は低いだろう。
処刑されようとしていた黒の騎士団の団員達が次々とカレン達の下に運ばれていく。
そして、全員が運ばれた事で異変が起きた。
ライの月下とゼロの無頼を囲み始めたのだ。

「どういうつもりですか、これは?」

ルルーシュはブリタニア軍に問うた。
ギルフォード卿は治療のためいない。
たぶんこのときを狙っていたのだ。

『テロリストをみすみす逃がす訳にはいかないだろう!』

「おや、こちらは決闘に勝ったはずだが?」

『そんなものは条件に入っていない!』

それは単なる屁理屈だ。
そもそもこちらは何の条件も言っていない。
負けた時ぐらいの事しか言っていなかった。
要するに強者が弱者に負ける事が許せないだけだろう。
例えメンバーを逃がしても、ここでゼロとその側近を討ち取れば、面目は立つ。
サザーランドの銃口がこちらに向けられる。
だが、ルルーシュはそんな事態にも動揺する事は微塵もなかった。
こんな事態は既に想定済みだ。

「では、お前達ブリタニア軍に質問しよう。正義で倒せない悪がいる時君達はどうする?悪に手を染めてでも悪を倒すか、それでも己が正義を貫き、悪に屈する をよしとするか」

どちらにしろ悪は残る。
これは単なる言葉遊びだ。

『我々の正義は皇帝陛下の下に!』

「なるほど。私なら悪を成して巨悪を打つ!」

その時さらなる異変が起きた。
自分達のいる地面が競り上がっている。
地震かと思われたが、それは違う。
租界の耐震ブロックを利用した作戦だ。
以前ブラックリベリオンで使用されたものだが、今回はこのブロックだけに留めている。
そして完璧に盛り上がった地面が中華連邦の領内に向けて傾く。

『ゼロ!』

地面が浮き始めた所で浮き足立ったブリタニア軍の隙をつき、ライは近くのナイトポリスの持っていた暴動鎮圧用の盾を倒して奪った。
それをルルーシュの無頼に渡す。
ルルーシュ達のいるブロックが完全に傾いて隣の総領事館の領内に倒れこんだ。
対処に遅れたナイトメアが次々と落ちて機能を停止していく。
ライは月下を器用に操って飛び上がらせると、うまく領内に着地する。
ルルーシュの無頼は盾をボード代わりにしてなんとか踏ん張っていたグロースターを踏み台にすると、飛び上がってこちらも領内に着地した。

「黒の騎士団よ!卑劣にも決闘に勝った私達を討ち取ろうとしたブリタニア軍は我が領内に落ちた!領内に侵略したブリタニア軍を壊滅し、同胞を守るのだ!」

ブリタニア軍との第二幕が上がろうとしていた。


















かなり数が減ったブリタニア軍に対して黒の騎士団が攻撃を仕掛ける。
指揮系統が乱れてまともに動けないブリタニア軍は次々とやられていく。
黒の騎士団はたった今救出した仲間を守ろうとして、志気が高まっていた。
これならどちらが有利か言うまでもない。
ライはカレンとの絶妙なコンビネーションで次々とブリタニア軍のナイトメアを撃破していく。
W輻射波動でのコンビネーションはやはり凄まじい。
さすがかつて黒の騎士団の双璧と言われた二人だ。
それに卜部の月下の活躍も目覚しい。
その時、ライの方に一機のグロースターが向かってきた。
グラストンナイツの内の一機のようだ。

『イレヴン風情が!』

「ここは日本の領土だが」

『日本など存在しない!』

「そうか…」

放たれたミサイルを器用にかわして月下がグロースターの懐に飛び込む。
突き出されたランスを刀で弾く。

『終わりだ!イレヴンのエース!』

零距離でミサイルが発射される。
その前に月下は左手の輻射波動を前方に放射した。
ミサイルが輻射波動の盾にぶつかるが、すぐに爆発して霧散する。

『防いだ!?この距離で!?』

月下がグロースターの頭部を掴む。

「一つ言っておく。終わりっていうのは決めてからいうものだ!」

同時に輻射波動のボタンを押し込む。
瞬間、グロースターが膨張する。
そして、内部から破壊されたグロースターは爆散した。
ライはほかの敵を探ると、ゼロの無頼を追っている金色のヴィンセントに気づいた。
しかし、追いつかれるのも時間の問題だった。

『こっちは動けない。ライ!』

「わかった!」

ヴィンセントが瞬間移動して無頼に迫る。
しかし、ライはそれが何かもう知っている。

「これが人の体感時間を止めるギアスか!」

それは以前のライの予測が正しい事を裏付けていた。
明確なものは先のルルーシュの連絡で知っていたのだ。

(追いつけるか…!?)

そう思った瞬間、別方向からヴィンセントに向けて一発の弾丸が発射された。
待機していた狙撃部隊が発射したようだ。
いや、正確には無頼を狙ったのかもしれないが、うまい事にヴィンセントに当たるように弾丸が発射されていた。

(やったか?)

当たると思われた瞬間、ゼロの無頼がそれを庇った。
右手が吹っ飛ぶ。
両腕が破壊されて、バランスを崩して倒れこんだ無頼にグロースターからのランスが飛んでくる。
それをライの月下と何故かヴィンセントが受け止めた。

「ゼロ、無事か!?」

『ああ、それよりそっちの機体には攻撃しないでくれ』

「いいのか?」

『ああ、大丈夫だ』

ライはルルーシュの言葉に頷くと、ルルーシュの言うとおりにした。
そして、星刻の宣告によって第二幕は幕を閉じた。


















救出された団員達が抱き合ったり、嬉しそうに話し合っていた。
ライも機体を降りてそれを嬉しそうに見守っていたが、ふと声をかけられた。
声をかけたのは藤堂と四聖剣だった。

「今回の事では礼を言わせてもらう。君のおかげで我々はみんな命を救われた」

「いえ、助けたのは僕だけじゃありません」

ライが指したのはゼロの事だ。

「そうだな……。彼にも礼を言っておこう。だが、我々の救出に直接関わってくれたのは君だ、感謝する」

ライもそこまで言われると若干照れる。

「…ありがとうございます」

四聖剣の一人、仙波も話しかけてきた。

「君は黒の騎士団の司令補佐を務めておるそうだな」

「はい。彼がいない間は臨時司令もしていましたが。本来新参者である僕がやるべきではないのですが……」

「いや、黒の騎士団の皆は君を高く評価していたぞ。あの月下を操り、ギルフォードに勝つ程の技量と強さ、そしてゼロに勝るとも劣らぬ頭脳と機転。後者はわ からないが、前者は納得できる」

実力面ではいきなりアピールできたという事だ。
これからは藤堂さんたちともまたうまくやれたらいいと思う。

「これからよろしくお願いします」

そう言って礼をするライに対して藤堂さん達もそれぞれの返事で返してくれた。
これで黒の騎士団は復活した。























あとがき

えー、思ったより人気なこの作品の第四話をお送りしました!
アニメなら第三話、第四話に当たる所を書きました。
ぶっちゃけ今回の話のタイトルは適当です(汗)
いいのが浮かばなかったんで…。
そこはおおめに見てくださいね(苦笑)

今回の話の解説をしていきます。
今回はライが原作ではあまり映らなかった裏方で大活躍しました。
もちろん表でもですけどね。
ライと星刻には肉弾戦をしてもらった訳ですが、これは前から書きたかったんですよね。
クーデターでやられっぱなしもどうかと思ってライに人肌脱いでもらいました。
ライ君、星刻と張り合える程凄かったという事ですね。
さらにナイトメア戦ではギルフォード卿と決闘をしてもらいました。
ゲーム本編をご存知の方はわかってると思いますが、ライVSギルフォード第二ラウンドです。
前はライは記憶喪失、ギルフォードは焦りまくりで両者共本当の実力が出てなかった訳ですが、今回は本当に全力での決闘です。
ライの突き、凄いですね。
話の解説通りですけど、マジで凄い威力だと自分でも思います。
あえてこうしたんですけどね。
そもそもこの話を書いているのも武術が最も反映できそうなロボット作品だったというのがこの話を書いた動機の一つでもありますから。
この際とことんやってしまおうという訳でこうなりました。

とまあ解説になったかどうか怪しいですが、TURN-4を読んで頂いてどうでしたでしょうか?
ちょこっとしたハプニングを交えてのバリバリの戦闘ストーリーになってます。
今回もオリジナルの部分が多いという事で力が入ってます。
書きたかった話&今までで最長の話で、多少の自信があります。
また楽しんでもらえれば嬉しいです。

次回はライの懐かしの学園潜入です。
どうなるかは次回を見てね!

感想、WEB拍手して頂いた皆様ありがとうございました。
色々な感想もらえて嬉しいです!
正直自分本位ぎみで書いてるこの作品がこんなに見てもらえるなんて思ってませんでした。
嬉しい通り越してちょっと感動してます。
これからも良かったと思ってくれた方は感想をお願いします!

また次回の更新は未定ですが、これからも応援よろしくお願いします!











改訂にて

感想で指摘してくれた方ありがとうございました。
自分で工夫しようとして書いたのが、致命的なミスを犯していました。
まだまだ僕も未熟だという事ですね。
気づいた部分は一応訂正したので、もう大丈夫だと思います。
感想くれた方でライの技についての解説を望んでくれた方がいましたが、それは次回の作品でさせてもらいます。

訂正部分

月下対グロースターの戦闘シーンの一部
その他一部(追加)
ライのセリフ(追加)



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