コードギアス反逆のルルーシュR2
Double Rebellion
TURN-9 崩月と神虎
ライはゼロが作戦を実行したのを見計らい予定通り崩月で式典会場の壁をぶち破る。
狙い通りゼロの前に出られた。
ゼロは銃を天子に突きつけているが、もちろん撃つ気はない。
「まさか花嫁強奪なんてする時が来るとは正直思わなかったな」
ライは会場の状況を見てそんな事を呟いた。
「ライ、シュナイゼルを!」
「わかった」
すぐにゼロから命令がきたので、ライは左側にラウンズに護衛されたシュナイゼル達に向く。
そして、行動に移そうと思った瞬間。
「!」
レーダーの警告音とほぼ同時に何か危険を感じたライは、右手に持っていた刀型MVS『蒼月』をくずした壁の方向に盾代わりにして向ける。
直後、飛んできた何かが刀身に弾かれ巻き戻って行く。
「スザクか!」
見上げると、もうスザクの乗るランスロットが迫ってきていた。
『殿下は渡さない!』
ライはゼロ達が巻き添えを喰わないように飛翔滑走翼を展開して、ランスロット目掛けて飛び立つ。
そして、そのまま刀を左薙ぎする。
ランスロットも左手に持ったMVSを振り下ろして崩月の刀を受け止めた。
ライはそのまま崩月のパワーでランスロットを押し上げて上空に戦場を変える。
一旦距離を離したライはすかさずランスロットの懐に飛び込む。
右切り上げの斬撃をランスロットは咄嗟に身を引いてかわす。
それを見て取ったライは器用に刀を手さばきで回して刀の柄を前にして逆手持ちにすると、柄からスラッシュハーケンを射出した。
ランスロットはそれをブレイズルミナスの盾で防ぐ。
スラッシュハーケンが巻き戻った瞬間にライは高度を上げる。
『よし!ここで!』
スザクが隙と取ったのか、右手に持ったヴァリスを発射する。
しかし、その弾丸は崩月の前方で赤い障壁によって遮られた。
「無駄だよ」
『くっ!』
ライはわざと隙を作って無駄だと言う事を悟らせたのだ。
もちろんラクシャータを信用しているからこそ、この行動が取れるのだが。
『しかし、これなら!』
ヴァリスに背部にある巨大なソケットが重なる。
ハドロンブラスターで撃ち破るつもりなのだろう。
「遅い」
しかし、ライはランスロットが構えた時には既に脇を通過している。
背後に出た崩月をランスロットが振り返って狙う。
「撃てるかな?その位置から」
『くっ…朱禁城を』
無形の位でランスロットの出方を窺うライだったが、どういう訳か乗るスザクの意識が一瞬こちらから逸れた。
その隙を逃さず、ライは一気に飛び上がる。
「月下…」
上空で振りかぶった崩月はそのまま刀をランスロット目掛けて振り下ろす。
それをランスロットは紙一重でかわした。
しかし、ライはそんな事想定済みだ。
「翔閃!」
ライは振り切りかけた刀をすかさず返して切り上げた。
ランスロットはそれに反応したが、避けきれずフロートユニットの右部分を切り飛ばされる。
『フロートぐらいで!』
スザクがすかさず反撃してくる。
ライは繰り出されるMVSを上体を下げてぎりぎりでかわすと、2撃目の左回し蹴りを左手で受け止める。
輻射波動をこの時使えれば、さらにダメージを与えられたのだが相手の攻撃の間隔が短かったのと、咄嗟の判断だったため使い損ねた。
受け止めたと思ったライはそこでランスロットの左足が光りつつあるのに気づいた。
「!」
ライはそれがブレイズルミナスの刃だと認識する前に受け止めていた左腕をずらして、上体をさらに下げてランスロットの左足を受け流す。
ランスロットの左足にブレイズルミナスの刃が形成される前に回避に成功したライは、すかさずランスロットに輻射波動の左手を突き出した。
『!!』
ランスロットは隠し武器がかわされた事に驚いたみたいだが、そんな動揺は一瞬で不利な体勢ながらもすかさずブレイズルミナスの盾を前方に展開する。
かまわずライは容赦なくそこに輻射波動を叩き付けた。
『くうっ!』
普段なら受け止められるのだが、ランスロットのフロートは右部分が切り裂かれた事でほとんど機能していない。
ランスロットはそのまま輻射波動を受けた勢いで吹っ飛ばされた。
追撃しようとしたライだったが…。
『ライ、そこまででいい。ランスロットのフロートを破壊しただけで十分だ。私達を追う事はできなくなったのだからな』
「…わかった」
深追いは必要ないという事だろう。
時間をかけている余裕はない。
ライは落ちていくランスロットからきびすを返して千葉の暁、藤堂の斬月とカレンの紅蓮と合流しに行った。
千葉の暁が外で待機し、今は指定されたルートを走っているトレーラーのコンテナの中にゼロ達を乗せたコンテナをゆっくりと入れる。
そのまま千葉の暁は補給に入った。
そして、すぐに中華連邦の戦闘ヘリの部隊が追撃してきた。
藤堂の斬月が隠していた機銃でヘリを撃墜していく。
「カレン!」
『ええ!』
ライはカレンに呼びかけると、カレンもそれに応じる。
崩月と紅蓮の左手と右手が隣同士重なる。
拡散W輻射波動砲。
範囲を倍加させた輻射波動砲はヘリの大群を易々と飲み込んで行く。
ヘリの追撃部隊はそれで全滅した。
しばらくして、トレーラーの進路の先の橋が落ちており、トレーラーの進行が止まった。
それに合わせてライ達も止まる。
後方で追撃してきていた地上部隊は好機だと言わんばかりにこちらに接近してくる。
しかし、それもゼロの策にまんまとはまった事を意味する。
待機していた朝比奈、卜部、仙波が潜ませていた部隊の指揮を執る。
前方、左右に黒の騎士団の暁が展開する。
完全な待ち伏せだ。
それにまんまとはまった敵の部隊はあっという間に全滅した。
ライ達はその後、先で待機していた斑鳩と合流した。トレーラーとナイトメア部隊を収容した後、蓬莱島への進路をとる。
もちろん念のため斑鳩の周囲には護衛の暁を配置して随行させてある。
ライは補給とメンテを整備班にまかせると、ゼロとC.C.に合流した。
「予想以上にスムーズだったな。これも全て星刻達が仕掛けてくれたおかげだな」
合流すると、三人はエレベーターに向けて歩き出す。
「優秀だよ、あの男は」
「どうして彼らがクーデターを画策しているとわかった?」
三人はエレベーターに着くと、それに乗る。
「ゼロも同じ事をしようとしたからさ」
ライはこの事も司令補佐というゼロの左腕なので知っていた。
「ECMや伏兵もか?」
「ああ、想定ルートの一つに誰かが先回りして仕掛けを施そうとしていた」
「なるほど。その場にいた反乱兵に自白剤でも使ったか?」
「ギアスという名のな」
それを聞いたC.C.とライはフッと笑った。
その時エレベーターがブリッジに着いたので三人はエレベーターを下りる。
「蓬莱島の状況は?」
「インド軍は既に到着しております」
「後は帰って合流するだけだが……」
ディートハルトの報告に続いて扇が言いかけた時に前方が光ると同時に震動が起こった。
これは爆発だ。
「敵襲…!先行のナイトメアが破壊されていきます!」
警告音と共にオペレーターの日向が報告する。
レーダーで映っている前方のナイトメアが次々とLOSTしていく。
「止まれ!全軍停止だ!」
扇が命令したので、全軍進行を停止する。
しかし、おかしい。
敵軍と遭遇するにしてもゼロと話し合った結果、最低でも一時間はかかるはずだった。
つまり、こちらの動きを敵側の誰かが読んだという事だ。
「ナイトメア!?」
「ズームだ、早く!」
南がオペレーターにすばやく命じる。
前方のスクリーンに拡大画像が表示される。
煙から出てきたのは一機のナイトメアだった。
ライはそのナイトメアに見覚えがあった。
(あれは…!)
実物ではないが、データで見た事がある。
その時、最前列にいた三機小隊が動いた。
可翔型でも一機なら倒せると思ったのだろう。
三方向から攻撃しようとするが、敵から発射されたスラッシュハーケンが暁の小型チェーンソーを絡め取る。
そしてそのまま敵はハーケンを発射した腕を振り上げると、暁ごと宙に上げてハーケンに電気パルスを走らせて撃破した。
残る二機の攻撃をいともたやすく避け、内一機にハーケンを打ち付けると、そのままなぎ払ってもう一機の暁に捕まえた暁をぶつけて二機同時に撃破した。
さらに攻撃しようとしていた千葉の暁に気づいたのか、凄まじいスピードでターンすると、ハーケンのロープを回転させる。
いや腕の一部が回転してハーケンを回転させているのだ。
それをそのまま千葉の暁に叩きつける。
千葉の暁はなんとか受け止めたが、かなりの勢いとパワーだったため吹っ飛ばされた。
(あのスピードとパワー、やはり……)
その時敵から外部スピーカーで声が入った。
『聞こえるか、ゼロ』
「まさか、星刻か!」
『ゼロ、ここは通さん!』
『さあ、天子様を返してもらおう』
敵は回転させていたハーケンを収納した。
『今なら命までは…』
黒の騎士団の主力ナイトメアのほとんどが補給中であるためまずいかと思われた瞬間、斑鳩から一機飛び出した。
『星刻ー!!』
飛び出したのはカレンの乗る紅蓮可翔式だった。
『紅蓮可翔式!紅月カレンか!』
言いながら星刻は左肩から剣を抜き放つと、それを突撃してくる紅蓮に向けて振り下ろした。
紅蓮は十手型MVSで受け止める。
『しかし、この神虎ならば!』
ライはカレンが戦闘をしている間に携帯端末で整備班を呼び出した。
「崩月の補給状況は?」
『それが今ユニットをはずして点検の真っ最中で……』
「わかった。できるだけ補給を急がせてくれ」
『了解しました』
ライはそう言って切ったが、どうも嫌な予感がした。
カレンは強い。
それはほかならぬ自分がよく知っている。
しかし、補給前に出撃したのだ。
相手を倒すまでにエナジーが持つかどうか……。
一方紅蓮と神虎の戦闘はまだ続いていた。
紅蓮のミサイルをかわした神虎。
紅蓮は次に輻射波動砲を撃とうとする。
それを見た神虎は何やら胸部のギミックを展開した。
「いけない!アレは!」
それを見たラクシャータと共に活動している科学者達が反応した。
「知っているのか?」
ゼロが尋ねると、科学者達は何か言いにくそうだった。
それを見たライは特に隠す事もないだろうと、代わりに口を開く。
「アレはラクシャータさんのチームが作ったナイトメアだよ。そうですよね?」
「ええ、そうよ」
ライがラクシャータに確認を取るとラクシャータは素直に認めた。
「ラクシャータが?」
「僕が見たのはデータだけだが、新型試験の時に見せてもらったんだ。確か紅蓮と同時期に開発されたんだが、ハイスペックの追及のしすぎで乗れるパイ
ロットがいなかったじゃじゃ馬ナイトメアだ。その時僕はパイロットに薦められたが、パイロット無視のリスクの高い機体だから断ったんだ。まあとは言っ
ても、崩月もそのスペック技術を使ってあるからあの機体にタメ張れるくらいの性能はあるんだけどね」
「じゃじゃ馬ナイトメアじゃなくて、孤高と言ってほしいわね〜」
「はは、すいません」
ラクシャータの訂正に苦笑するライだったが、表情をすぐに戻した。
「でも、確かにアレはまずいな……」
その時両者同時に砲撃した。
互いを狙った攻撃は途中でぶつかり合い、相殺される。
その際に凄まじい爆風と砂塵が巻き起こる。
「天愕覇王荷電粒子重砲。神虎の中でも最も強力で危ない武器だ。輻射波動砲弾と同じもしくはそれ以上の威力を誇る武器だよ。連射は効かないけどね」
「それが何故敵の手に渡っている!」
この状況で冷静に解説するライの隣でゼロがデスクを叩いた。
相当頭にきているらしい。
「インドも一枚岩ではない、という事でしょう」
「マハラジャのじじい……」
「弱点はないのか!?」
「ほかのシリーズとは別の概念だからね。輻射機構はないんだけど、後はパイロットがいなかったって事ぐらい?」
「強いて言うなら持久戦かな。パイロットの負担は機動速度を上げるほど強くなるから。……ただ今の紅蓮じゃそれは無理だ」
「そんな!」
そう言ってる間に紅蓮の足がついに神虎のハーケンに捕まった。
振り上げられた紅蓮は十手型MVSを取り落とす。
いや自分で手放したのだ。
紅蓮が空いた左手でハーケンのロープを掴む。
そうする事によって走ってきた電気パルスを輻射障壁で防いだ。
これでお互い逃げられない。
今にも紅蓮は輻射波動を叩き込もうとする。
神虎もそれを迎え討とうとする。
そして、紅蓮が右手を掲げて神虎に迫った時だった。
紅蓮の動きが急に止まる。
「カレン!」
「しまった!やはりエナジー切れに!」
さすがのライも声を上げた。
停止した紅蓮は神虎のハーケンにぐるぐる巻きに拘束されてしまう。
コクピットも巻かれて脱出すらできない状態だ。
斑鳩の護衛をしていた四聖剣が神虎を四方から攻撃しようとしたが、神虎は紅蓮を人質に取って刃を向ける。
『このような真似したくはないが、私には目的がある。天子様だ、天子様を』
そう言いかけた所で星刻の言葉が途切れた。
(何だ…?様子がおかしい…?)
ライはそれを敏感に感じ取っていた。
しかし、さすがに千葉や朝比奈達にはそれがわからない。
その時、仕掛けようと機を窺っていた千葉機にどこからかの砲撃が直撃した。
輻射障壁で防御したため、損害はない。
後方から中華連邦の大部隊がいつの間にか迫っていたのだ。
凄まじい砲撃が黒の騎士団に降りかかる。
そして、その弾幕を隠れ蓑にして神虎が中華連邦軍に合流しようとする。
四聖剣の人達が止めようとするが、激しい砲火の中神虎に近づく事すらできない。
これではカレンは……捕虜になってしまう。
「カレン!無線はまだ生きているか!」
それを悟ったゼロは通信を入れて声をあげた。
『す、すみません。失態を…』
「そんな事はどうでもいい!」
それにC.C.がゼロに振り向いた。
ライも彼を見ている。
「あきらめるな。必ず助けてやる!下手に動くな!」
『は、はい!わかっています!あきらめません!これ………』
カレンとの通信が途切れてしまった。
ライが苦虫を噛み潰したような苦しい顔つきになる。
砲弾が降り注ぐ中、扇が指示を出した。
「斑鳩を回頭させるんだ!いますぐ!」
「私は撤退を進言します」
そこにディートハルトが冷静に意見した。
もちろん扇がそれに反論する。
「何故です!?カレンを取り戻さないと!」
「紅月カレンは一兵卒にすぎません」
あくまで冷静なディートハルトにみんなぎょっとした。
「見捨てろというのか!」
「みなさん、これは選択です。中華連邦と一人の命、比べるまでもない。ここは兵力を温存し、インド軍との合流に備えるべきです。ゼロ、ご決断を!」
それに対してゼロは黙ったままだった。
「紅月隊長には先ほどおかけになった言葉で十分です。これ以上は弊害、贔屓と取られ、組織が崩れます」
「……しかし」
「情けと判断は分けるべきでは?大望を成す時には時に犠牲も必要です」
(ディートハルトの言い分はほぼ正しい。まあこの組織において間違っている部分もあるが…。どうするんだ?ルルーシュ)
ライ個人としては今すぐにでも助け出したい。
しかし、組織を統括しているのはゼロであり、その判断をくだすのもゼロだ。
ライはこの決断をゼロにまかせる事になってしまったが、どちらにしても受け入れるつもりだった。
しばらく黙っていたゼロだったが、決断した。
「決着をつける!全軍反転せよ!」
「何故です!?組織のためにも…!」
「インド軍が裏切っている可能性もある」
「それは……」
ディートハルトはそれで言葉を失くした。
それでほっとするC.C.をライは見ていた。
「四聖剣に各翼の陣を引かせろ。星刻に教えてやる、戦略と戦術の違いを!」
「あ、ああ!」
「ありがとう、ゼロ!」
それで皆慌しく持ち場に着く。
「ゼロ、僕も出る」
「ああ、頼む」
ライは自分のすべき事のため、ブリッジを出て格納庫に向かった。
既に夕刻となっていた。
黒の騎士団のナイトメア全機は全て配置に付いている。
『黒の騎士団、全軍戦闘準備!地形は高低差が少ない。地理的優位は望めない』
(加えてこっちは急ごしらえ。指揮系統はゼロに集中させるしかない。でもナイトメアの性能はこちらが上だ)
ライはゼロの指示に補足するように状況を整理する。
『となれば中華連邦軍の選択肢は、神虎を前面に押し立てての中央突破!』
ゼロがそう言った直後に中華連邦軍の旗艦から神虎が発進してきた。
「藤堂さん、神虎は僕が引き受けます。中央の指揮は頼みます」
『わかった』
軍の先頭に位置していたライは崩月を加速させ、飛び上がる。
突撃してきた神虎に刀を振り下ろす。
それを神虎は肩から抜き放った剣で受け止めた。
両者がじりじりと押し合う中、状況は進んで行く。
両軍のナイトメア部隊が激突した。
中華連邦のガン・ルゥ部隊が黒の騎士団の暁の中央部隊に喰いこむ。
しかし、そこは藤堂が指揮している。
そのままガン・ルゥを囲んで抑え込もうとする。
一方のライは神虎との戦闘に集中する。
ゼロからは神虎のエナジー切れを誘うように言われている。
しかし、かといってのんびりやる事はしない。
ライは機体のスピーカーで神虎に乗っている星刻と話す。
「やはり戦う事になりましたね、星刻さん」
『ふっ、そうだな。また君と戦うのは避けたい所だったが、今はそうも言ってられん。悪いが、天子様を返してもらうぞ』
「それは、させない!」
ライは言うと、神虎の剣を振り払った。
間合いを取った神虎がハーケンを発射する。
ライはそれを鋭角的な回避で避けると、神虎に肉薄する。
「弧月閃」
崩月が三日月を模るように刀を薙ぎ払う。
この間合いは崩月と思われたが、神虎は刀身を柄に移動させる事で崩月の一撃を防いだ。
崩月と神虎が戦う間にさらに状況は進んでいた。
中央に足止めを喰らった敵に対して四聖剣が指揮する左右の軍が攻撃。
中央の軍を潰しにかかる。
ライは横薙ぎに振るわれた神虎の剣を後退して回避し、一旦地上に着地する。
その時、足元に何かが流れてきた。
「水…?」
だが、ナイトメアを押し流すには量が圧倒的に足りない。
せいぜい膝から下がつかる程度だ。
(星刻さんの策だ……これは。でも、これだけだと、どう見ても無意味だ。しかし、彼は無意味な事はしないはず……。……まさか!)
何かあると直感したライは咄嗟に崩月を飛び上がらせ、ゼロに通信を繋げる。
「ゼロ!今すぐ流域内にいる軍に後退を指示して!」
『何?』
怪訝に思ったゼロが声を発した時異常が起こった。
地上にいた黒の騎士団のナイトメアが沈み始めた。
足がある程度沈んだ程度だが、それでもナイトメアの動きを止めるには十分なものだった。
「そうか!地盤がゆるいのを狙って!」
つまり星刻が狙ったのはこちらを足止めしてこの地に留まらせておき、こちらが決戦を挑むのを見越して運河を決壊させ、こちらのナイトメアの動きを止めさせ
る。
実際にそれで黒の騎士団の動きは止まる。
もちろん地盤がゆるいのはゼロも知らないから取るに足らないと考える。
そこを上手く狙われた。
「くそっ、こちらの動きまで見込んでの策だったのか……!」
さすがは星刻さんだ、とライは心の中で賞賛した。
『我らに勝利をもたらすのはわが国の大地そのもの。ゼロ、おまえの負けだ!』
『星刻ー!!』
神虎が斑鳩に荷電粒子重砲を向ける。
ライはそれに怒りを覚えた。
「どこを見ている!」
神速で発射寸前の神虎に肉薄した崩月は渾身の一撃を神虎に叩き込んだ。
神虎はかろうじてその一撃を受け止めたが、衝撃で照準が完全にずれた。
発射されたビームは天を穿つ。
『さすがだな、ライ!しかし、敵の主力はここで止まった!全部隊進軍開始!』
星刻の指示で本陣で待機していた部隊がこちらに進軍してくる。
狙いはおそらく斑鳩だろう。
しかし、ライの相手は神虎だ。
ほかに気を配っている余裕はあまりない。
一旦間合いを取ると、肩部辺りに隠していたマシンキャノンを展開させると連射する。
それを神虎はハーケンを回転させて防ぎながら接近してきた。
「!」
神虎が剣を振りかぶる。
それをライは刀で受け止めた。
さらにそこに神虎の左手の拳打が飛んでくる。
それを崩月は紙一重で避ける。
「ふっ!」
すかさずカウンターで輻射波動の左手を突き出す。
頭部を捉えようとしたが、完全には捉えられなかった。
神虎の頭部を掠めるだけに留まる。
しかし、ライはそこで先ほど感じた違和感がまた出てきた。
(まただ、反応が若干遅い……)
そのままライは神虎の戦闘を続ける。
その時横を赤い光が通り過ぎた。
斑鳩が艦首のハドロン重砲を発射したのだ。
進軍してきていた敵軍のナイトメアが次々と薙ぎ払われていく。
ライは鍔迫り合いしていた神虎の剣を押し切って薙ぎ払った。
そこにゼロからの通信が入る。
『ライ、おまえは藤堂と共に残った部隊と再編の指揮を取れ。斑鳩は迂回しつつこのまま敵を引き付ける』
「了解」
ライはそう返事すると、藤堂と共に各部隊に指示を出しながら神虎との戦闘を続行した。
空は暗くなっていた。
黒の騎士団は当初の予定とは変えて天帝八十八凌に立て篭もる事となった。
しんがりを務めていたライの崩月と藤堂の斬月が最後に到着する。
その後、斑鳩が天帝八十八凌に入る。
インド軍からの援軍は期待できない。
つまり援軍なき篭城戦となってしまった。
しかも相手にはブリタニアのナイトオブラウンズまで加わってしまった。
状況的にはかなり絶望的だ。
そんな中、ライはゼロに通信を繋げた。
「ゼロ、どうする?」
『大宦官は私達だけでなく星刻もここで抹殺するつもりだな』
『心配ないライ。策はある。ディートハルト、仕掛けの準備は?』
『ここでですか!?』
『全て揃った。最高のステージじゃないか』
そう自信あり気に言うゼロにライは頼もしさを感じていた。
そう、勝ってみせる。
この絶望的な状況から。
あとがき
早くも第9話を投稿する事になりました。
最近自分でもわからないんですが、この投稿作品を作る事に関して驚くぐらい調子いいんです。
だから投稿も驚く程早く次に行く事ができました。
不定期更新だから遅くなる事もあれば早くなる事もある、という事ですね。
今回はアニメの第10話にあたる所です。
それではいつも通り解説をしていきます。
まずこの話で本来原作アニメでは藤堂さんが大活躍する訳ですが、この作品はライが主人公です!
見てもらった通りこの作品の話では藤堂さんに代わってライが活躍しました。
藤堂ファンの方々には申し訳ないです。
さて、それで今回の話は戦闘中心の話で、しかも前回とは違いライが主体の話となっています。
それで最初はライが式典会場に突入して、その後スザクと戦闘を行うというものです。
タイマンでは初対決という事になりますね。
ぶっちゃけますと、アニメ原作の戦闘をライが行った感じになっています。
アニメ原作を見ててあの戦闘シーンは大好きだったのですが、やっぱこういうのにしてみたい!という事でライにああいう感じの戦闘を行ってもらいました。
もちろん、ライ自身の技を駆使した戦闘で、しかも刀の扱いが器用だという事を印象づけるものにもしてみました。
次はついに神虎が登場する所ですが、これはゼロにラクシャータが本来は解説するのですが、ライも神虎とは少なからず縁があるという事で一緒に解説をしても
らいました(TURN-1参照)。
もう少しこんな感じの解説なら神虎の特徴をよく表しているんじゃないかと思って付け加えた所もあります。
そして、今回の話のタイトルも崩月と神虎が実は兄弟機に近いような存在であったのでこのようなタイトルにしました。
今回の話はこの二機が主役ですので。
そして、カレンが捕まってしまう訳ですが、これは原作通りに行きました。
でないと紅蓮聖天八極式が出ないので。
最後はカレンを取り戻すために黒の騎士団が転進して、ライは星刻と一騎打ちです。
かつて戦った二人(TURN-4参照)が、今度は崩月と神虎という性質の違った互角の相棒と共にまた戦う。
ここではライと星刻の戦いの集大成となるような戦いとなっています。
と言っても内容的にはそれほど濃くはないのですが。
今回の解説はこれまでです。
思いっきりバリバリのナイトメア戦闘の話になりました。
戦闘系が好きな人に楽しめてもらえたら嬉しいです。
もちろんそうでない読者にも楽しめてもらえたのならもっと嬉しいです!
次回は、なんと!
作者である私が書きたかったBEST4に入る程の話!(って作者は関係ないな……)
ついにライの神速の真骨頂が見られます!!
詳しくは次回を見てね!
8話投稿の後、たくさんのWEB拍手ありがとうございました!
前よりも読んでくれている人が増えていて、凄く嬉しかったです。
アクセス数もいつの間にか2万を超えてますし。
さらには他サイトで紹介もいつの間にかされていましたし。
作品名だけですけど…。
こうやって読んで評価してくれる人が増えていってくれるのは本当に嬉しいです。
このモチベーションがいつまで続くかはわかりませんが、これからも頑張っていきたいと思います。
相変わらず不定期更新ですが、近い内は更新の間が短いかもしれません。
でも過度の期待はせずに、気長に待っていてくださいね。
では、今回はこの辺りで終わりにしたいと思います。
第9話を読んでくださった読者のみなさんありがとうございました!
また次回の作品も見てくださいね!
改訂版修正箇所
ライのセリフ
その他文一部
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
<<前話 目次 次話>>
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