コードギアス反逆のルルーシュR2
Double Rebellion
TURN-20 真実と現実
「さて、おまえをここで殺すのもいいが、時間だけはたっぷりある」
ルルーシュはギアスのある左目に特殊なコンタクトをはめながら、近くにあった散らばっている大きい瓦礫の上に腰かけた。
ライは神剣は閉まったものの、神刀は右手に持ったまま立っている。
それは、いつでもシャルルを殺せるという意思表示だった。
「答えてもらおうか、母さんを殺したのは誰だ?何故おまえは母さんを守らなかった?」
それでも殺さないのは、ルルーシュのここに来た目的を果たすためである。
そう、ルルーシュの母の死の真実を聞き出すという。
ルルーシュの問いに対して、シャルルは矢継ぎ早に言葉を返した。
「おかしなものよ。人には真実を求めるか。ここまで嘘ばかりついてきたおまえが」
「そうだな。俺は嘘をついていた。名前や経歴だけじゃない。本心すら全て隠して。しかし、当たり前の事だろう?他人に話を合わせる、場に溶け込む、それら
失くして国や民族、コミュニティというものは存在しない。誰もが嘘を使い分ける。家族の前、友人の前、社会を前にして……。皆違う顔をしている……。しか
し、それは罪だろうか?」
詐欺罪という罪はあるが、ルルーシュの言っている事自体に明確に「罪だ」と答えられる人はいないだろう。
ルルーシュの言うとおり、嘘があるからこそ、コミュニティが存在し、皆それぞれの顔があるのだ。
「素顔とは何だ?おまえだって皇帝という仮面を被っている。……もはや我々はペルソナなしでは歩めないのだ」
「違うな」
今まで黙って聞いていたシャルルは、ルルーシュの言葉を否定した。
すると、同時に周りも図書館のような空間に変化する。
そして、シャルルは後ろの本棚から一冊の本を取り出した。
本をめくりながら、シャルルは続ける。
「未来永劫に渡って嘘が無駄だと悟ったとき、ペルソナはなくなる。理解さえし合えれば、争いはなくなる」
「それは形而上学的な机上の空論じゃないのか?」
確かにシャルルの言っている事はわかるが、だからこそそこでライは言った。
シャルルの言っている事は今の世界では到底ありえない事なのだ。
「すぐ現実になる」
「何?」
シャルルの言葉にライとルルーシュは眉を顰めた。
そこで、シャルルがライとルルーシュに振り返った。
「それが我がラグナレクの接続。世界は欺瞞という仮面を脱ぎ捨て、真実をさらけ出す……」
「Cの世界?」
言葉を発したのはスザクだった。
あの後、気絶していたのだが、アーニャというかマリアンヌとC.C.に助けられたのだ。
そして、今こうして彼女達と遺跡の前に立っている。
ただ、その遺跡はルルーシュとライが爆破したので、ひどいくらいに崩壊しているが。
特に例の黄昏の間に繋がる扉周辺の崩壊が激しかった。
「既存の言葉で言うなら集合の意識、人の心と記憶の集合体、輪廻の海、大いなる意思、神と呼ぶものもいる」
「!…ナリタで君に会ったときの」
「あれは個人の意識との混在だ。と言っても、おまえが何を見たのかは知らないが」
「無責任だな」
「ピーピングされるのが趣味か?」
スザクはそれを言われて、黙った。
かまわずにチーズ君を胸に抱いているC.C.は淡々と続ける。
「人とは、集合無意識が付けた仮面……」
C.C.はやや遠い眼差しになった。
「心と記憶の海を開いた、人の心は……」
「だ〜め。こんなに壊れていたら」
不意にC.C.の言葉を遮ったのは、遺跡の扉を調べていたマリアンヌが発したものだった。
実はルルーシュとライはシャルルを閉じ込め、かつ自分達の退路を断つためにこの扉を爆破したが、正確には閉じ込めた事にはなっていなかった。
黄昏の間の出口は実はほかの場所にも繋がっているのだ。
ただ、マリアンヌ達が黄昏の間に行くためには今この遺跡の扉を使うしかなかったのだ。
しかし、どうやら普通に使う事はできないようだった。
「頼むわ、C.C.」
「本当に行くのか?」
C.C.の言葉を聞いたマリアンヌは呆れ顔に笑みを浮かべた。
「当たり前でしょ。シャルルは私達を待ってるのよ。あなたがコードを彼に渡していれば、簡単だったのに……」
「………」
「もう。先に行ってるから」
C.C.がため息をついて、マリアンヌの手を握る。
瞬間、事の成り行きを見守っていたスザクは見た。
アーニャの形をしたその人物の中から、まったく別の、黒髪の女性の影がふっと分かれるのを。
影はそのまま亀裂の入った扉に近づき、中に吸い込まれていく。
「何をしている!」
スザクがあわてて駆け寄る。
途端に、笑っていたアーニャの顔から笑みが消えた。
まぶたも閉じ、ぐらりと体が傾く。
崩れ落ちたアーニャをスザクは両手で抱きとめた。
死人のように目を閉じた少女。
その顔をのぞきこみ、そうして、スザクは険悪な表情でC.C.を睨んだ。
だが、C.C.はそれには応えず、代わりに淡々と言う。
「枢木スザク、似ているな。お前は私と、あの頃のあいつに……」
「似ている?」
あいつというのが、この時のスザクには誰の事かちっともわからなかった。
「死を望みながら、死ねないところがだ」
だからこそ、あいつらも……ライとルルーシュも私のことを放ってはおけなかったのだろうか……。
「馬鹿な……」
驚愕の眼差しでルルーシュとライはそれを凝視している。
「そ、そんな……」
そのライとルルーシュの目の前で、突如としてこの黄昏の間に現れた女性、ルルーシュの母親でもあるマリアンヌはくすりと笑ってみせた。
「大きくなったわね、ルルーシュ。それから初めまして、と言っておきましょうか。ライ君?」
「か、母さん……」
「………」
「来たか、マリアンヌ」
ルルーシュの叫びにかぶせるようにして低く呟いたのは皇帝シャルルだった。
それで呆然としていたルルーシュもハッと我に返った。
「これも幻想か!こんなことをして」
「うーん」
そこでマリアンヌが困ったような、それでいて幼子をあやすような声をあげた。
「本物なんだけどね。ま、このシステムの中でしか元の姿形はとれないけど」
言いながらマリアンヌはドレスの裾をつまんで足を上げ、くるりとその場で一回転してみせる。
それはまさしく、ルルーシュの記憶に残っているマリアンヌの姿そのものであった。
ブリタニアの后妃という立場にありながら自由奔放で何ものにも縛られず、強く優しかった母。
「ほ、本物……?」
そこに、シャルルの重々しい声が重なった。
「ルルーシュ、先ほどの問いに答えよう」
その言葉にルルーシュは背後にいるシャルルを睨む。
そして、これからマリアンヌの死の真相が明かされる。
「今より半世紀ほど前、わしと兄さんは地獄にいた。親族は全て帝位を争うライバル。暗殺が日常となった嘘による裏切りの日々……。皆、死んでいった。私の
母もその犠牲となった。わしと兄さんは世界を憎み、悲しみ、そして誓った。嘘のない世界を造ると」
続きをマリアンヌが引き継ぐ。
「私とC.C.もその誓いに同意したわ。でも、V.V.は……」
ー8年前ー
「何なの、急な用って。人払いはしておいたわ。コーネリアも下がらせたし」
「ごめんね。シャルルがいない時に」
マリアンヌが階段を下りながら、話しかけた相手はV.V.であった。
「アーカーシャの剣の件なら……」
「いや、シャルルの事なんだ。……君に出会ってからシャルルは変わってしまったよ。互いに理解しあっていくのが楽しくなってきたみたいだ。このままだと、
僕達の計画はなかった事になってしまう。僕だけ残されちゃう。神話の時代から男を惑わすのは女だって話」
「!」
それでマリアンヌがハッとする。
とそこで、マリアンヌは背後から声をかけられた。
「マリアンヌ様」
「!あなた達下がりなさいと……!」
マリアンヌは振り返って、背後にいた2人の黒服の警備兵達に出て行くように言おうとした。
その時だった。
V.V.が隠し持っていたマシンガンを引き抜く。
撃たれたいくつもの弾丸にマリアンヌの体は貫かれる。
階段を下りてきた男達もろとも。
そして、その場に立っているのはV.V.だけとなっていた。
本来であれば、彼らもマリアンヌの気をひくためにV.V.が用意した駒であったというのに、それもろともV.V.は撃った。
やがて、少年は小さく首をすくめて、懐から携帯の通信端末を取り出し耳に当てた。
「終わったよ。……うん、偽装を始めて。目撃者はナナリーにでもしておこうか。犯人はテロリストということにしなくっちゃね」
たったいま複数の人間を撃ち殺したというのに、V.V.の声には動揺も怯えもなかった。
ただ、ある意味では、その無駄な余裕こそが少年にとっては致命的なミスとも言えた。
そこには彼らだけでなく、もう一人怯えながら柱の影に隠れていた少女がいたのだ。
「アーニャ・アールストレイム。一週間前から行儀見習いで来ていた少女。……私のギアスは人の心を渡るギアスだったの。肉体が死を迎えた時初めて発動した
力」
マリアンヌは本来ギアス能力者としての資質は低かった。
ルルーシュやライのように自由に使える力でもない。
だが、王の血を受け継いでいないマリアンヌにとって、まさにその血を受け継いでいない肉体の制約が薄れた瞬間に発動できるものだったのだ。
「私はアーニャの中に潜んでV.V.をやりすごしたわ。そして、知ったわ。私の意識を表層に上げた時、C.C.と心で話す事ができるって。事実を知った
C.C.は
嚮団をV.V.に預けて私達の前から姿を消したの」
それで、ライは以前モルドレッドとの対戦中に違和感を感じた事や奇妙な事を思い出した。
「なら、あの時のアーニャは……」
「ええ、あれは私。あの時は楽しかったわよ、ライ君」
ふふっと笑うマリアンヌをライはただ見るだけだった。
だが、それであの時の事には合点がいった。
つまり、アーニャもライと同じように別人格に変わったから、いきなり動きが変わるような事があったのだ。
突然動きが変わったり、止まったりと。
まあ、ライの場合は若干違うかもしれないが、タイプとしては同じである。
再びシャルルが続きを言う。
「わしは兄さんと話した。しかし……」
ーマリアンヌ殺害から数日後ー
荒野のような場所に2人が立っている。
1人はシャルル、もう一人は彼の兄であるV.V.だった。
彼らの眼下には実験体であるたくさんの孤児達がいる。
「聞いたよ。残念だったね、マリアンヌのこと」
「…………」
シャルルは何も答えない。
その拳だけがぶるぶると震えていた。
「兄さんは嘘をついた!嘘のない世界を造ると誓ったのに」
それはマリアンヌの殺害した犯人がV.V.だったという真実だった。
ということは、既にルルーシュは知らず知らずのうちに母マリアンヌを殺した犯人に復讐を遂げている事になる。
いつの間にか周りの景色も元の黄昏の間に戻っていた。
「ふ、ふざけるな!死んだV.V.に全てを押し付けるつもりか。俺とナナリーを日本に人質として送ったくせに!」
小刻みに震えながら、ルルーシュが反論する。
しかし、シャルルが遮るように叫ぶ。
「必要があった」
「何の必要だ!親が子を遠ざけるなんて……」
言いかけた所でルルーシュはハッとした。
以前C.C.に言われた一言「本当に大切なものは遠ざけておくものだ」という言葉を思い出して。
ライは黙って見届けている。
「私はあいつと……ライを利用していた」
「ライを……?」
ここでライの名前が出た事にスザクは眉を顰めたが、C.C.は無視して続ける。
「全てを知っていながら、私自身の死という果実を得るために。あいつが生き残る事だけを優先して……。そのためにライも……」
「後悔は?」
そこでC.C.は初めて答えた。
「まさか。私は永遠の時を生きる魔女。捨てたんだ……人間らしさなんか」
それを聞いていたスザクの隣ではアーニャがすうすうと寝息を立てている。
マリアンヌが抜けた直後に青ざめていた顔は元に戻り、今は正常な状態だ。
スザクはそんな彼女をそっと下ろして、立ち上がる。
「君と僕、そしてたぶんライの事なんだろうけど……、似てなんかいないよ」
「え?」
そこでC.C.が初めてスザクを見た。
「C.C.、僕を向こうの世界に送ってくれ。例え愚かだと言われても、立ち止まる事はできない」
「そう、兄さんの目から逃がすためにお前達を日本に送り込んだ。マリアンヌの遺体も密かに運び出させて」
つい先ほど気づいたルルーシュが、自分達を日本に送り込んだ理由をシャルルに問い詰めると、シャルルはそれを肯定した。
「体さえ残っていれば、私はまたそこに戻れる可能性がある」
確かにそれはありうる。
だからそんな事をしたのだろう。
「わしは全てを守るため、目撃者であるアーニャとナナリーの記憶を書き換えねばならなかった」
そこでルルーシュが気づいた。
「ナナリー!?目が見えなかったのは心の病ではなく」
「偽りの目撃者とはいえ、命を狙われる危険はあったわね」
「ナナリーを救うためには真実に近づけない証が必要だった。ナナリーが生きていても問題ない……兄さんにそう思わせるためにもだ。記憶を変え、光を奪い、
事件の起きたブリタニアの中枢から、わしのそばから離しておく。こうなれば、ナナリーが真相に辿り着く事などなく、その可能性も限りなく低い」
「そうV.V.に思い込ませる必要があったのよ」
「…………」
ルルーシュは強張った顔のまま、ただ言葉を失っている。
これがマリアンヌ殺害の事件とルルーシュとナナリーの日本行きの真相だった。
「ただ、今度は別の問題が発生してね。それが……C.C.の事」
「!」
それにはライが反応した。
「C.C.?」
ライが尋ねると、マリアンヌは小さく頷いた。
「元々のコードは一つでよかったの。でも研究が進むにつれてもうひとつのコード、つまりC.C.がいないと100%の保証はないとわかったわ」
「マリアンヌによるC.C.の説得が上手くいかぬ以上、もはや、おまえと狂王を使うしかない」
「………」
「じゃあ、俺は今まで何のために…?」
ライは黙って2人を見つめていたが、ルルーシュは少し混乱していた。
(この手を血で汚してきた?ユフィを殺し、ロロを犠牲にし、ナナリーも失った。さらにはそれをはるかに超える、踏みにじってきた人間の数々。ギアスの呪
い。殺して殺して、殺し続けてきた……)
「ラグナレクの接続がなされれば、そのような悲劇はなくなる」
そこで冷静に述べたのはシャルルであった。
まるで、ルルーシュの今の心の中を読んだかのように。
「仮面は消える。みんな、ありのままの『自分』でいいの」
マリアンヌがにこやかに諭した。
だが、それを向けられたルルーシュは。
「そうか……ブリタニアと黒の騎士団の戦いですら、C.C.を誘い出すための……。つまり、俺達は初めから世界のワルツで……。邪魔者で……」
「ルルーシュ……」
「クックック……傑作だ。なあ、どう思う。お前達は?」
不意にルルーシュとライは背後を振り返る。
そこには彼らとはまた違うもう一人の少年、枢木スザクと、そして、この計画の最後のカードとなる少女、C.C.の姿があった。
「気づいていたのか。私が現れると」
ルルーシュとライのもとにC.C.が近寄る。
スザクも無言でそれにならった。
ルルーシュは乾いた笑みを浮かべたまま、C.C.の言葉に頷いた。
「記憶が戻っている事もな。必要なんだろう?この計画に」
「その通り」
答えたのはC.C.ではなく、皇帝シャルルであった。
その鷹のような目を、現れたC.C.ではなく、スザクの方に向けて、
「ゆえに枢木よ。ここまで追ってきても意味はない」
「……でしょうね」
沈黙していたスザクが初めて口を開いた。
元々シャルルを暗殺するために、ここへ来たはずのスザクである。
だが、
「あなたはすでに不老不死であると聞きました」
無論、ライが実は殺せる手段を持っている事をスザクは知らない。
「だからこそ、確かめたい事があります。あなたが造ろうとしているこれは……?」
シャルルが優しげに微笑んでみせた。
「そう。ユフィもナナリーも望んでいた、優しい世界だ」
こちらを向いたルルーシュが微かに唇を噛む。
「そうか。やはり……」
シャルルが今度はその視線をスザクの隣にいるC.C.に向けた。
「C.C.、我らが揃った以上、これで計画は始められる。お前の願いはその後でかなえてやろう」
C.C.は何も答えなかった。
言いながらシャルルが手を掲げる。
その内側、手のひらに浮かんだのは赤いギアスのマーク。
手を向けられたC.C.の方にも変化がおきた。
宙にふわりと浮かぶ長い髪。
こちらは額にギアスのマークが浮かぶ。
瞬間、黄昏の間全体を巨大な震動が包み込む。
「っ!!?」
そして、ライにも異変が起きた。
直後、ライの頭の中に数々のイメージと衝動が流れ込んでくる。
あまりの膨大な量のイメージと衝動にライは頭を抱えて膝をついた。
同じ頃、だが、そことは違う外の世界。
「うお!」
「きゃあ!」
「地震か!?」
この星全体が震えている。
と同時に、世界中のあちこちで地中から奇妙な光が放たれていた。
ブリタニアの発祥の地ともいえる旧EUの島国で。
中央アジアの砂の大地で。
氷に覆い尽くされた永久凍土の地で。
全ては、神根島と同じ古代の遺跡が眠る土地。
人智を超えて張り巡らされたネットワーク。
世界が造り変えられようとしている。
周りの景色が崩れ去るかのように変わる。
「ああ……始まる。アーカーシャの剣が神を殺すの」
祭壇の中央に立ち、マリアンヌは恍惚とした表情で空に向かって腕を広げていた。
伸び続ける異様な柱。
その先にある天。
「おい、ライどうした!?しっかりしろ!」
一方、ルルーシュは頭を抱えながら片膝をついたライにそう呼びかける。
「だ、大丈夫だ……」
しかし、そう答えるライの声は弱々しかった。
地面に刺した刀を支えになんとか倒れる事だけは避けているが、今の状態を保つのが精一杯だ。
未だに膨大なイメージ量と衝動、加えて悲鳴のようなものまでライに流れ込んでいる。
「おい、これはどういうことだ!」
ルルーシュは振り返ってキッとシャルルを睨んだ。
「狂王は神刀、神剣の唯一の使い手。ゆえにアーカーシャの剣の影響をもろに受ける。コード保持者とは別の意味でCの世界に関わっておるからな。Cの世界の
影響も直接受ける事になる」
「何?」
ルルーシュは眉を顰める。
いまいち意味が掴みきれていない。
「狂王の持つ神刀と神剣はかつて神話の時代に作られたもの。そして、それはCの世界、正確にはその中に唯一いる個体の神に直接リンクする事で力を発揮する
武器
だ。ゆえに、我やC.C.をも断つ事ができる」
それを聞いてスザクがハッとして、ライを見た。
「だが、その神を我らが殺そうとしておるのだ。その影響を受ける事もまた当然」
「ライはどうなる?」
「さあ、それはわしにもわからん。全てはそ奴次第。神の悲鳴と痛みに押し潰されるか、それともそれを耐え切るか。二つに一つだが」
それでルルーシュはライを見る。
確かに今のライはひどく苦しそうだった。
既に額には汗が浮かび、ぎりぎりの状態にも見える。
だが、シャルルはそれ以上はどうでもいいようで、取り合わなかった。
「さあ、あとは我らの刻印を一つとすれば、新しき世界は始まる」
皇帝シャルルが歩き出した。
向かう先にいるのは息子のルルーシュでもスザクでもライでもない。
C.C.だ。
兄V.V.から受け継いだコードと同種の、しかし、質の違うコードを持つ存在。
「………」
C.C.は無言でそれを見つめている。
すでに髪の位置は元に戻っていた。
刻印を一つにする。
言ってみれば、C.C.のコードとシャルルのコードは陰と陽のようなものであった。
この二つが重なり合い、一つとなれば、それはあのCの世界、根源の渦にも匹敵する混沌となって、世界の核になりうる。
コードの持つ真の力、単に持ち主の肉体を不老不死にするだけでなく、おそらく一つでは不完全だったコードは本当の意味で完成する。
黄昏の間全体を揺るがす震動がさらに強さを増していた。
もちろん、ライの痛みも増してきている。
その中で次の言葉を発したのは、ここにいる者のうち、本来であれば、特に必要のない少年だった。
「ルルーシュ。君は何のために世界を手に入れようとした?」
呼びかけたのはスザクだった。
ルルーシュがそれに答える。
「くだらない質問をするな。俺はナナリーとライの」
「ナナリーとライを言い訳に使うのか」
「む」
ルルーシュの顔に不快げな表情がよぎった。
だが、それはすぐに消え、やや自嘲気味とも呼べる笑みが浮かんだ。
ルルーシュがスザクに振り返る。
「フン……そうだな。俺は俺が守りたいと思う全てのために戦ってきた」
「ライ、君は?」
スザクはライの状態をわかっていながらあえて聞いた。
「そうだな……。僕もルルーシュと同じだ。僕の色を取り戻してくれた……大切な人達のために…戦ってきた」
なんとかライはそう答える。
そこで初めて3人が顔を見合わせた。
「結果を求めるなら、何かを成さなければならない」
ルルーシュの顔から笑いが消える。
その瞳にはスザク以上に真剣なものが浮かぶ。
「その為の手段は、何かを否定することにも繋がる」
余人には3人の会話はまったく意味不明に聞こえたことだろう。
事実、シャルルもマリアンヌもその意味に気づいていない。
ただ、彼らの傍にいたC.C.だけは、おぼろげながら意図を察する事ができた。
それは確認であった。
互いの意思の。
今目の前で行われようとしていることへの。
この3人の間では、おそらく今の言葉だけで通じる。
スザクが続けて促した。
「だったら」
ルルーシュはそれを受け入れた。
「ああ。俺は……」
スザクのほうを向いていたルルーシュが前を向く。
足が動いた。
C.C.のもとへと近づいてくるシャルル。
その前に立ちふさがるようにして、ルルーシュはC.C.との間に割り込んだ。
逆にシャルルの足が止まる。
それに向けて、ルルーシュは低く告げた。
「俺は、お前を認めない」
すっとシャルルの眼光に冷たさが加わった。
「人は何故嘘をつくのか。それは何かと争うためだけじゃない。何かを求めるからだ」
ルルーシュが父と母を前に語る。
いつもの流れるような弁舌ではない。
ゆっくりとした口調。
一つ一つ自分が口にする言葉の意味を確かめるように。
それでいて、声音はある種の感情に震えていて。
「ありのままでいい世界とは変化がない。生きるとは言わない。思い出の世界に等しい。完結した閉じた世界。俺は、嫌だな」
「ルルーシュ。それは私も否定するということ?」
マリアンヌが呼びかける。
ルルーシュはやはりゆっくりとそちらへ目を向けた。
「母さんの願いは皇帝と同じなのですか?」
「バラバラだったみんながまた一つになるのは良いことだわ。死んだ人とも一つになれるのよ。ユーフェミアだって……」
その名を聞いた瞬間、ルルーシュの横にいたスザクがぎりっと奥歯を噛んだ。
「やはり、そうか……」
一度瞼を閉じ、ルルーシュは天を仰いだ。
「お前達はそれを良い事だと思っている。しかし、それは押し付けた善意だ。悪意と何ら変わりがない」
「皆、いずれわかるときが来る」
シャルルが淡々と述べた。
「そんなときは来ない!」
ルルーシュは断固として拒絶した。
目を開け、今度は下を向く。
肩が震えていた。
泣いているようでもあった。
「一つだけはっきりしている事がある……お前達は俺とナナリーに善意を施したつもりなのかもしれない。しかしっ!お前達は俺とナナリーを棄てたんだよ!」
「でも、それは守ろうとして」
「日本とブリタニアの戦争を止めなかったのは何故だ」
言いかけたマリアンヌを遮って、ルルーシュが鋭く問いかけた。
マリアンヌが沈黙する。
「計画を優先したお前達は、もう俺達が生きていようと死んでいようと関係がなかった。だから、棄てた。自己満足の言い訳だけ残して!」
「それは違うわっ」
「いいや、違わない」
そこでルルーシュより先にライが否定した。
驚いてルルーシュはライを見る。
「あなた達のそれは上っ面だ。本当はそんな事ほとんど思ってないくせに。でなければ、ナナリーの目を塞ぐ事やルルーシュとナナリーに“あんな事”は出来な
いはずだ!」
「だから、それは……」
「少なくとも、親が子を大切に思うならあんな事はしない。あなた達がそうしたのは、自分の手で守る気がなかったからだ。それに、あなたにとっては実験でも
あったからだろう?マリアンヌ后妃」
「!」
「
嚮団の当時の研究者の日記にあったよ。ルルーシュや世間の言うマリアンヌ后妃とは違ったので、驚いたが。直接会ってみて、それが確信に変わったよ。結局、
未来も生きている人も見ていないんだ!」
シャルルがまた冷静に口を挟む。
「未来はラグナレクの接続。その先にある。ナナリーが言った優しい世界が」
「違う!」
ルルーシュはついに叫んだ。
「お前達が言っているのは自分に優しい世界だ!でも、ナナリーが望んだのは、きっと他人に優しくなれる世界なんだっ!」
その通り。
ライは本当にそう思った。
一つの『自分』しか存在しない世界。
誰も『自分』を傷つけることは考えない世界。
しかし、ナナリーだけではなく、そんなものを望む者がいったいどれだけいるというのか。
分かり合いたい、理解し合いたいというのは、本質的には他者に向けられる願いだ。
一個の意識しか持たない人間同士が必然的に互いを守るのではなく、別々の意識を持つ人間同士が不確定ながらも理解も求めていく世界。
自分も含め、多くの人々の願いはまさにそこにあるのではないか。
夢幻のような世界だが、それでもいつか訪れると信じたい世界。
そして、ライの信じ、目指す世界もそこにある。
「だとしても、それが何だ?すでにラグナレクの接続は始まっている」
「どうかな」
顔を上げたルルーシュが自分の左目に手をあてた。
特殊なコンタクトで覆っていたその瞳が真の姿を現す。
「俺はゼロ。奇跡を起こす男だ」
宿っているのはギアスの輝き。
シャルルは今度こそ馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
「ギアスなどわしには効かぬ。他のものにしても」
シャルルの言葉をルルーシュは遮る。
「いいや、もう一人いるじゃないか」
「……!!」
それまで何事にも動じない巨岩のごとき威厳を見せ付けていたシャルルの姿勢が初めて崩れた。
わずかに目を見開く。
「そうだ。Cの世界は人類の意思。そして、人は平等ではない。共におまえの言葉だ。平等でないがゆえの俺の力を知っているな」
「愚かなり、ルルーシュ。『王』の力では神に勝てぬ」
「勝ち負けじゃない!これは願いだ!さあ、俺は今こそ自分を知った。神よっ!集合無意識よ!」
ルルーシュは天に向かって大きく両腕を開いた。
「時の歩みを止めないでくれ!!」
瞬間、それまでじっとしていたマリアンヌが舌打ちと共に走り出した。
「ルルーシュ!あなたって子は……」
だが、その体が近づくよりも先に、矢のように飛び込んできてマリアンヌを遮った者がいる。
「!」
手にした剣をかつての后妃に向けて構えたその男の名は枢木スザク。
同時に叫んだ。
「こんな事は誰も、ユフィも望んではいなかった!」
「っ。ユフィと話をさせてあげるために助けたのに!」
「それを押し付けと言うんだ!」
互いの動きを牽制しあい、言い争う2人の横で、シャルルもルルーシュもあいかわらず天を見上げたままだった。
「できるはずがない。神に、人類そのものに……」
「なら、これはどうだ?」
シャルルが否定したところで、言ったのはライだった。
頭の中に響く痛みや悲鳴に耐え、ゆらっと立ち上がる。
そして、ルルーシュの肩を掴む。
「ルルーシュ、君に本当はこんな事させたくなかったんだが、今は君に力を貸そう。僕、いや僕達の力を」
すると、ライが淡い青色の光を放ち始めた。
以前黄昏の間で発動したものと同じものだ。
「馬鹿な!まだそんな力が!」
「まだ、神は死んではいない。なら、まだこれくらいはできる……!」
ライはルルーシュを見て、それから天を見上げた。
ルルーシュにライと神刀の力が流れ込む。
「ルルーシュ、僕達の願いは……!」
「ああ、俺は、俺達はそれでも明日がほしい!!」
言葉の途中で、ルルーシュの瞳が変化した。
元々、ギアスの輝きが宿っていた左目ではない。
逆の右目だ。
それまで何の変哲もなかったそこに左目と同じように紅の光が生まれる。
同じギアスの模様が浮かぶ……ギアスの暴走、力のさらなる進行。
神刀の力を媒介として、さらにそれが進んだのだ。
しかし、その時。
「っ!」
天にギアスマークが映される。
天が割れた。
続いて、裂けた隙間から空間全体に響き渡ったのは、無数の人が叫ぶような重々しい叫び声だった。
「アアアアアァァァァァァァァ……」
叫びは空間を貫き、震わせ、さらにはそれを砕く。
自分達のいる天に向かって伸び続けていた、その巨大な柱を、粉々に。
「そんな!」
マリアンヌが悲鳴にも似た声を発した。
次々と空間が崩れ去っていく。
それと同時にライの受けていた痛みと悲鳴も消えていく。
「思考エレベーターが……わしとマリアンヌ、兄さんの夢が朽ちてゆく……」
シャルルも呆然としたように呟く。
C.C.はその場に腰を下ろした。
膝を抱え込み、顎を載せる。
……これ以上はもう聞いていられなかった。
だから、その言葉を口にした。
「……シャルル。もうやめよう。おこがましいことだったんだよ、これは」
「C.C.!まだ我らの刻印がある限りは……!?」
しかし、言いかけたところでシャルルはぎょっとした表情を浮かべ、自らの足元を見た。
いや、正確には見ようとした。
そこにはもう何もなかった。
シャルル・ジ・ブリタニアという1人の人間を作っていた形が失われつつある。
つま先からゆっくりと、まるで日に溶けていく蜃気楼のように。
ライとルルーシュが厳然と告げた。
「これで、終わりだ」
「そう、これは嘘ではない、現実の答えだ」
「あなたっ」
駆け寄ろうとしたマリアンヌも同じであった。
両足から失われてゆく形。
「馬鹿な……。わしは不老不死のはずなのに……飲み込まれる?Cの世界に?」
「でも、C.C.は?C.C.はどうして消えないの!この計画に賛成していたんじゃ」
C.C.はかぶりを振って言った。
「すまない……。気づいてしまったんだ。お前達は自分が好きなだけだと」
「違う!ルルーシュやナナリーの事だって」
だが、それに対してC.C.ではなく、ルルーシュが怒鳴りつけた。
「お前達は知っているのか!ナナリーの笑顔の意味を!」
「?笑顔?」
マリアンヌがいぶかしげな顔になる。
「わからないなら、それがあなたの心の真実だ。マリアンヌ后妃。あなたが好きなのは本当に自分だけなんだ」
「……何故わからないんだ…。ナナリーは目も見えず、歩く事もできなかった。だから、世の中には自分1人でできないこともあると知っていたんだよ。ナナ
リーは……ナナリーの笑顔はせめてもの感謝の気持ちなんだ」
そのマリアンヌを見るルルーシュの目からは涙が溢れつつあった。
無理もなかった。
否定したとはいえ、そこにいるのは自らがずっと憧れ、愛してきた母。
だが、その母は母ではなかった。
少なくとも、ルルーシュの概念においてはそう呼べるような存在ではなかった。
粉々に壊された理想。
たとえそれが子供の身勝手であろうと、どうしようもないやりきれなさがルルーシュの全身を貫いている。
「そんなまやかしこそ……」
「それを嘘だとは言わせない!い、言わせてなるものか!現実を見ることなく、高みに立って俺達を観察して……ふざけるなっ!事実は一つだけだ!お前達親は
俺とナナリーを棄てたんだよっ!!」
「このっ」
その声はシャルルであった。
のみならず、上半身だけと化したその体が宙を流星のように走る。
ルルーシュに迫る。
「賢しき愚か者がああああああああああっ!」
シャルルの右手がルルーシュの首を正面から締め上げた。
ライとスザクがすばやく駆け寄ろうとする。
だが、それに対してルルーシュは低い声で拒否した。
「手を出すな、ライ、スザク」
「わしを拒めば、その先にあるのはあやつの、シュナイゼルの世界だぞ!善意と悪意は所詮一枚のカードの裏表!それでも貴様は!」
「だとしても、俺はお前の世界を否定する」
眼前にいるシャルルの顔をルルーシュは炎を蘇らせた目で睨み返した。
「っ!」
「消え失せろ!!」
瞬間、シャルルの体が今度は逆に後方へ飛んだ。
いや、それは吸い込まれていったと言うべきであった。
人の根源たるCの世界へ。
マリアンヌと共に。
「ぬうううあああああああああっ!!!」
「キャアアアアアアアアアアッ!!!」
世界を造り変えようとしていた二人が、その世界そのものに呑み込まれていく。
あとに残ったのは、裂け目が閉じて再び輝きを取り戻した空と、海よりも深い静寂だけであった。
どれだけの時間が経過したのであろうか。
血を分けた親達が消えていった天を見つめていたルルーシュが、不意に同じ姿勢のままでこう言った。
「C.C.。お前も逝くのか?」
やはりルルーシュは鋭い。
C.C.はそう思った。
実際、たった今ルルーシュは証明してみせたのである。
Cの世界に対して、ルルーシュが己のギアスをもって働きかければ、コードを持ったシャルルですら消滅させられると。
つまり、同じコードの不死性によって生き続けているC.C.にも同種の作用を及ぼすことができるかもしれない。
C.C.の願い、死という作用も。
だが。
「死ぬときくらいは笑ってほしいんだろう?」
C.C.の言葉にフッとライが笑う。
これはライが言った言葉を指しているのだから、それを聞いて覚えていたのかという顔だった。
「お前達こそ、これからどうするんだ?」
「え?」
その言葉にルルーシュ達は視線をC.C.に向ける。
「シャルル達の計画を否定し、現実を、時の歩みを進めることを選んだ。だが……」
「ああ」
続くC.C.の言葉を騎士、枢木スザクが引き取った。
決して馴れ合いなど感じさせない、険しい声で。
「ルルーシュはユフィの仇だ」
剣を構えるスザク。
すると、ライがルルーシュの前に出て神刀を構える。
ルルーシュはライの後ろで声音に殺気をこめて問い返した。
「だから?」
「………」
再びの静寂が、もはや無意味となったこの空間を覆いつくす。
それから一ヵ月後
今日この日、シャルル皇帝から重大な発表があるという事で、国際生中継がされていた。
もちろん発信元は神聖ブリタニア帝国首都、皇宮ペンドラゴン。
謁見の間には多くの人々が集まっている。
思い思いに着飾り、天井の高い室内に集まった人間は、まさにブリタニアの中枢に座る者たちだった。
帝国第一皇子のオデュッセウスがいる。
長姉のギネヴィアがいる。
第五皇女のカリーヌもいる。
さらにはその他の貴族、ブリタニアでも有数の高級官僚たち、政府首脳。
豪華な装飾が施された広間に、人々のざわめきが満ちていた。
「陛下は行方不明とか言ってなかった?」
「報告してきたビスマルク本人がいないのでは……」
「そんなことより、シュナイゼル達は……」
「さあ?カンボジアに連絡でも」
やがて、皇帝直属の警護隊を務める衛士が声高に叫んだ。
「皇帝陛下、ご入来!」
それでざわめきもおさまった。
人々が神妙にかしこまり、その人物の登場を待つ。
壇上、玉座の背後にある通路から規則正しい足音が聞こえた。
だが。
「え?」
「なんで?」
続いて響いたのは、人々が同時に発した驚きの声。
無理もない。
彼らは当然、通路の置くからあのブリタニア皇帝シャルルがいつもの威圧感を伴って現れるものと予想していた。
しかし、そこに姿を見せたのはシャルルではなかった。
学生服のような衣服を身に纏った一人の少年。
つややかな黒髪をなびかせ、堂々とした態度で人前に出ると、そのまま玉座に腰を下ろす。
そして、不適さと威厳とを絶妙にブレンドさせた声で、少年はこう宣言した。
「私が第99代ブリタニア皇帝、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだ」
数瞬の静寂が謁見の間を包み込む。
が、すぐにそれは蜂の巣をつついたような騒ぎに取って変わった。
真っ先に人々の列の先頭にいた第一皇女のギネヴィアが飛び出した。
「生きていた?」
「そうです。姉上」
玉座の少年は冷笑と共に答えた。
「地獄の底から舞い戻ってきました」
ギネヴィアの横から第一皇子のオデュッセウスも前に出た。
彼は戸惑いながらも、騒然とする周囲の人々と違って笑みを浮かべてみせた。
「良かったよ、ルルーシュ。ナナリーが見つかったときにもしかしたらと思ったけど……しかし、いささか冗談がすぎるんじゃないのか?そこは父上の」
言いかけたところで、少年がその兄にも冷然とした言葉を投げつけた。
「第98代皇帝シャルル・ジ・ブリタニアは私が殺した」
「は?」
オデュッセウスの顔にぽかんとした表情が浮かぶ。
少年はさらに言った。
「よって、次の皇帝には私がなる」
騒ぎがいっそう大きくなった。
第五皇女カリーヌが叫ぶ。
「何言ってんの!?ありえない!」
「あの痴れ者を排除しなさい!皇帝陛下を殺した大罪人です!」
ギネヴィアのヒステリックな声と共に、彼らの周囲にいた警備兵達が一斉に動いた。
玉座の少年に向かって走る。
だが、そこに。
「!」
謁見の間の天井から黒い影が落雷のように飛び降りてきた。
少年と同じく学生服のような服を着た影。
玉座に近づこうとした警備達数人を持っていた刀で瞬く間に吹き飛ばす。
瞬く間に全ての兵士を打ちのめした影は、寄り添うようにして玉座の横に立った。
玉座に座ったままだった少年が冷ややかに笑いながら告げる。
「紹介しよう、我が騎士、ライ・シュタイナー。彼にはラウンズを超えるラウンズとしてナイトオブゼロの称号を与える」
「い、いけないよ。ルルーシュ、そして君も。国際中継でこんな悪ふざけを……」
呆然としていたオデュッセウスがそれで我に返り、少年達の前に出た。
「そうですか?それではわかりやすくお話しましょう」
そう言って、少年が自らの両目に手を当てた。
はずされたのは二つのコンタクトレンズ。
そして、レンズのはずされたそこに現れたのは赤く輝いた瞳であった。
続けて、
「我を認めよ」
「だから、そんな冗談はもうやめないと……」
なおも言い募ろうとしたオデュッセウスの声が途切れる。
その目に少年の瞳から羽ばたいた紅の光が飛び込む。
いや、オデュッセウスだけではなかった。
その場にいた全ての者の目に、彼の光は、ギアスの輝きは侵入し。
「イエス・ユア・マジェスティ!」
真っ先に叫び、片手を胸の前に当てたのはオデュッセウスであった。
だが、それはもはやオデュッセウスだけではない。
少なくとも、オデュッセウスと名乗っていたときの人格も意思も何もない。
「「オール・ハイル・ルルーシュ!」」
「「「「「オール・ハイル・ルルーシュ!」」」」」
「「「「「オール・ハイル・ルルーシュ!」」」」」
「「「「「オール・ハイル・ルルーシュ!」」」」」
「「「「「オール・ハイル・ルルーシュ!」」」」」
奴隷達の讃歌が響き渡る。
熱狂的に、機械的に、声を合わせて……力ずくで命じられて。
カンボジア
「ありがとう。ルルーシュ。君が表に出てきてくれたのなら、もはや問題はない」
そう言ったのは、ブリタニア本土におらず、謁見の間にもいなかったシュナイゼルであった。
「しかし、あの者は……」
「おそらく、黒の騎士団の双璧で、ゼロの左腕だった男でしょう。黒の騎士団から消えたという連絡は受けていましたから」
「構わないさ。ともかく、ルルーシュに全て差し上げるとしよう。ブリタニアという国すらね。問題はその先にある……世界を見るのは、ルルーシュのギアス
か、それとも……」
片手にチェスのキングを持ったシュナイゼルがそう呟いた。
ここでも、次に向けての暗躍が進んでいる。
あとがき
ついに20話に到達!
この数字に感動と同時に驚きを覚えています!
ここまで順調に書けるなんて、思ってもいなかったので。
しかも、20話も書けたのも初めてです。
これも読者の方々の応援のおかげです。
そして、なんと一ヶ月もかからずに次話投稿してしまいました。
まさかの約10日ぶりですね。
予想外に早い更新になってしまったので、読者の方々には嬉しいかと思います。
という事で今回は二重の意味で嬉しい出来事が起こりました。
では、早速いつものようにいきましょう。
今回は原作通りルルーシュメインの展開でしたが、新たに新要素などが出てきたので、今回もそこを解説していきましょう。
まずは、前回言った通り、ライの神刀と神剣についてさらに詳しいものが出ました!
それは今回の本文で書いている通りなのですが、書いている内容としては神刀と神剣の原理とか作られた時がちょこっとですね。
まあ、個々の能力のお披露目とかは結局なかったんですけど。
代わりにライが以前使用したような力でルルーシュを助けました。
神刀や神剣には使用者が自分の意思で何らかの形で力を送り、ギアスの力を促進させたりする事ができる能力があるんですよ。
いわゆる力への干渉ですね。
これによって、Cの世界にルルーシュのギアスを届かせたというのが原作との違いにもなっています。
でも、これは結構考えるの大変で、今回の話を作る段階で相当苦労しました。
ちょっとCの世界にいる神の設定が特殊ですけど、ライは神刀と神剣をこういう風に扱ってるんだな、って納得してもらえるとありがたいです。
まあ、突っ込まれてもこれ以上捻りようもないので、困るだけですからやめてもらえるとありがたいです。
ちなみに天ノ羽々斬とフェニックスはリンクしている神がそれぞれ違うので、それはまた個々の能力を説明した時に一緒に言いますね。
そして、ルルーシュは原作通りブリタニア皇帝となる訳ですが……ライはその騎士であるナイトオブゼロになっちゃいました!
黒の騎士団でもルルーシュの左腕、そして常に側近として動いていた訳ですから、この流れは必然だろうと思ってこうしました。
ぶっちゃけスザクがこの作品でナイトオブゼロになったら違和感ありますしね。
だから、スザクの出番は思いっきり減ります。
スザクファンの方には申し訳ありません(汗)
これが私の書くライなんです。
常にルルーシュの側近で、頼りになる親友って位置づけなんです。
という事で今回は重要な回であるにも関わらず、それほど解説する事がなかったような話でした。
まあ、前回に比べれば明らかに解説短いんですよね。
まあ、それでも私が解説する事はしましたので、大丈夫でしょう。
今回も楽しめて頂けたなら嬉しいです。
そして、次回はついに!
皆が気になっていたライの新型ナイトメアの登場だぁ〜!
どんな機体かは乞うご期待ください!
さらに原作では出なかったラウンズのナイトメアも出ますよ!
だが、ビスマルクとの決着は不満かもしれない……(汗)
ちなみに新型やラウンズのナイトメア案に協力頂いた方々、ありがとうございました。
この場でお礼とさせて頂きます。
こちらもどんなナイトメアになるかは次回に期待しておいてください。
という事で、次回は新要素満載に加えて気になる事がかなりある話です!
乞うご期待ください!
今回もたくさんのWEB拍手と感想をありがとうございました!
今回も早速、WEB拍手で名前を入れてくれた方々の返事のコメントをしたいと思います。
>> ファルーシュさん
前回に続いて真っ先に感想をしていただいてありがとうございます。
スザクの殴ったとこ気に入って頂いたようで、良かったです。
あれ実は私も気に入ってるワンシーンなんですよ。
ライとビスマルクの戦いがもっとあった方が良かったみたいですね。
私としても、もっと書きたかったのですが、最近ネタがなくて……(汗)
ネタがない状態でよく書けたよと思います。
ですので、その贅沢には応えられないのが私としては残念です。
今回はかなり早く投稿できたので、ファルーシュさんにとっては嬉しいかと思います。
>> レイさん
ありがとうございます。
今回は早く更新できたので、その上でさらに楽しめていただいたなら私としてはとても嬉しいです。
ライがギアスを使う予定は……ないですね、おそらく。
ギアスの意味があったのか、思うところですが、ちゃんと意味はありますので。
それも後々設定として解説していきたいと思います。
>> RRさん
ありがとうございます。
今回も楽しんで頂ければ、嬉しいです。
>> ランツクネヒトさん
確かに今更ですが、そうですね。
私も妙に納得してしまいました。
今回は早く投稿できたので、楽しんでもらえればありがたいです。
>> レイさん
二回目の感想ですね。
アーニャはおそらく探そうとはしたと思いますよ。
ただ、軍人では命令を守るのが大事なので、おそらくしたくてもあまりできなかったというのが本当の所でしょうけど。
描写はしていませんが、私としてはこう考えていますので、こんな感じだったと思って頂ければありがたいです。
>> YAMAさん
ありがとうございます。
シャーリーの電話シーンも良かったようで、考えた私としても嬉しいです。
ちなみにライのそのセリフは大した伏線ではありません。
その話限りの伏線ですね。
つまり、一回限りで通用する伏線。
話した内容は単純に神刀と神剣の事です。
ライはルルーシュにその事をほとんど話していませんでしたから。
だから、後でライが神刀と神剣を使うという流れになった訳です。
そうですね、やってみたかったナイトオブワンとの白兵戦。
とりあえず、スザクに言ってみたかった事とやってみたい事をやりたかった。
というのがそのシーンです。
気に入って頂けて、嬉しいです。
ちなみにビスマルクとの決着がどんな感じになるか楽しみにしている人にとっては、次回で着く決着には不満かもしれませんね。
まあ、私としても若干不満なのですが。
神刀と神剣に驚いていただいて、私としては嬉しいです。
で、何故2本あるかですが、これは作られた場所、製法、後、個々とリンクしている神が違うからですね。
ちなみにちょっとネタバレですが、神刀と神剣は本来その2本だけではないのですが、古すぎる時代からの物でほとんど紛失か損壊してしまっているので、今確
認されているのが2本という事になります。
もちろんいくつもあった訳ではありません。
こんな物いくつもあったら大変ですから(汗)
ちなみにその2本も本来はちゃんとした刀と剣だったのですが、保存状態とか荒い使用、さらに時の流れなどにより、刀身の失った状態で今あるという訳です。
その刀身を復元させているのは、ライが神刀と神剣に選ばれている事と関係あります。
ってえらいネタバレでしたね(苦笑)
とにかく、2本あるのはそういう理由です。
これで、わかって頂ければありがたいです。
>> スザクさん
こちらこそ、感想ありがとうございます。
今回も早い更新なので、スザクさんにとっては嬉しいかと思います。
神刀と神剣の名前、かっこいいですか!
嬉しいです!
まあ、フェニックスは自分で考えたのですが、神刀の方は元にした物がありますね。
どちらにしろ、私としては考えた甲斐があるというものです。
ちなみにライはこの刀と剣をまじで二刀流で使う事もします。
おそらく、以前書いているかと思いますが、元々ライが二刀流の型を我流で作ったのは、この刀と剣を同時に扱えるようにするためです(TURN-16参照)
ただ、この刀と剣は強すぎるので、期待と興奮しててくれているところ悪いのですが、次回からはあまり登場しなくなると思います(汗)
そこはすいませんね。
ただ、ウルフの出番はまだ残っているので、そこは楽しみにしていてください!
これでWEB拍手の返事は終わります。
もちろん、名前を書いてない方も感想ありがとうございました!
前回のも含めて御礼とさせてもらいますね。
今回は更新が早いのと前回が繋ぎの話だったという事で、感想は少なめでしたが、私としてはくれただけでも嬉しいので、これからもどしどし感想を書いて頂け
るとありがたいです。
今回は早かったですが、次回の投稿はどうなるかわからないので、気長に待っていてくださいね。
20話を突破して、後は10万アクセスと拍手3000回達成と完結を残すのみです。
完結まで、応援よろしくお願いします!
次回はあとがきの後にラウンズの機体設定を載せさせて頂きますね。
今回はこれで終わりにしたいと思います。
また次回でお会いしましょう!
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
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