魔法少女リリカルなのは
                  Accel  Knight


















第11話 一時の休息と秘めた誓い





あれから俺となのは、ユーノはアースラに戻り、艦長であるリンディ直々のお叱りを受けていた。
ちなみに俺の場合は連行されたというのが正しい。
と言っても、俺はゲシュペンスト・サイクロンジョーカーの装甲のおかげで軽いとはいえ怪我をしていたので、医務室で検査と治療を受けた後に会議室に来てい る。

「指示や命令を守るのは個人のみならず集団を守るためのルールです。勝手な判断や行動があなた達だけでなく、周囲の人達をも危険に巻き込んだかもしれない ということ。……それはわかりますね?」

「「はい……」」

なのはとユーノは神妙な面持ちで返事をする。
対する俺はリンディの説教を初めから聞く気などなく、ぼーっとしていた。
ついでに眠くなってきたので、返事の代わりにふわぁと欠伸をしてしまう。

「君、艦長の話をちゃんと聞いているのか!?」

俺の行動を目ざとく見つけたクロノが注意をしてくる。
しかし、俺は態度を直す気などなく、そのままボケーっと突っ立っている。
明後日の方向を向いて。

「君という奴は……!君の勝手な行動でさらに大きな被害が出たかもしれないんだぞ!?」

ユーノが俺の態度に怒ったのか、そう叫んでくる。
俺の様子とクロノの様子をなのはとユーノはどこか慌てた様子で見ている。
おそらく俺の態度にひやひやしているのだろう。

「別に結果的にそんな事態にはならなかったんだからいいじゃねえか。怪我したのも俺だけだし。だいたい俺はちゃんと拒否権を行使して現場に行ったんだ。筋 は通してるんだから、今更組織のルールだかなんだかを聞かされたくないんだよ。だいたい俺には何で怒られなきゃいけないのか、そっちの方がわからないね」

言いたい事を言って態度を崩さない俺にクロノがさらに怒りかけたその時だった。

「貴様……!「待ちなさい、クロノ」しかし、艦長!」

クロノが止めに入ったリンディに意義を唱えたが、リンディは顔を左右に振った。
それで、クロノも一歩下がり、押し黙る。
リンディが再び口を開いた。

「本来なら厳罰と処すところですが……結果としていくつか得る事がありました。よって今回の事は不問と致します」

その言葉でなのはとユーノが顔を見合わせる。
と、そこへリンディが釘を刺した。

「ただし、二度目はありませんよ。いいですね?」

「はい……」

「すみませんでした」

そう言って、謝るなのはとユーノ。
対して俺は特に謝りもしなかった。
すると、ここでリンディが話題を変える。

「さて、問題はここからね。クロノ、事件の大元について何か心当たりは?」

すると、クロノには心当たりがあったようで、すぐに答えると同時に指示を出す。

「はい。エイミィ、モニターに」

「はいは〜い」

すると、会議室の机の中央にモニターが映し出される。
そこにある人物が映っていた。

(まあ当然だな……)

それを見たリンディが思わず声を挙げる。

「あら!」

「そう、僕らと同じミッドチルダ出身の魔導士、プレシア・テスタロッサ。専門は次元航行エネルギーの開発。偉大な魔導士でありながら、違法研究と事故に よって放逐された魔導士です。登録データとさっきの攻撃の魔力波動も一致しています。そして、あの少女フェイトはおそらく……」

「あ、そういえばフェイトちゃんあの時母さんって……」

なのはが先ほどの攻撃前の時にフェイトが呟いていたのを思い出す。

「…………」

「親子、ね」

リンディがそう呟いたが、ランは何だか違う気がした。
前に彼女と会った時もそうだが、実の親子には到底思えないのだ。

「そ、その…驚いてたというより怖がっている感じでした……」

(……おそらく、あれが原因だろう。無意識の内に体が恐怖を覚えるまでになってしまっているのかもしれないな……)

なのはの言葉に俺はそう思った。
あんな虐待をされていたら、誰だってその相手に恐怖を覚える。

「エイミィ!プレシア女史についてもう少し詳しいデータ出せる?放逐後の足取り、家族関係、その他何でも!」

「はいはい。すぐ探します」

(この人がフェイトちゃんのお母さん……)

モニターを見ながらなのはは心の中でそう呟いていた。
すると、リンディがなのは達に言う。

「とりあえず、一旦なのはさんとユーノ君は休憩を取ってもらっていいわ。ただ、データが出次第、また呼び出すからそのつもりはしておいてね。後、ラン君は 残って」

「え…あ、はい……」

すると、なのはが俺を不安げに見つめる。
俺はなのはの不安を取り払うように笑顔で言った。

「心配すんな。大丈夫だよ」

「うん……」

なのははそれでも納得できないようだったが、俺が背中を押してやると後ろをたびたび振り返りながらも、ユーノと一緒に会議室を出て行った。
そして、2人が出て行ったのを確認すると、リンディが俺の方に視線を向ける。

「さて、先ほどの決定を取り消す気はありませんが、あなたにはもうちょっと反省してほしいところね」

やはり、予想通り先の件についてまだ言う事があったようだ。
俺は別に悪びれもなく答える。

「反省するぐらいなら拒否権なんて使わねえよ。あの時の行動に俺は一切後悔も反省もしてないし、するべきところもないからな」

その言葉にリンディはこれ以上説教じみた事は無駄だと悟ったのか、ため息を吐くと、話を変えてきた。

「それにあなたには説明してほしい事もあるわ。何故彼女、フェイトさんにジュエルシードを渡したのか。そして、あなたのその持っている力はどういう物なの か」

俺を追及するような物言いに俺は眉を顰めたが、とりあえず適当に話す事にした。

「なに、あの場を退かせるのにはそれが一番早いと思ったからだ。ほしい物を渡せば、素直に帰ってくれると思ってな。特にそれ以外の理由なんてない」

その俺の言葉に異議を唱えたのはクロノだった。

「ふざけるな!君は封印したロストロギアであるジュエルシードを敵である彼女に渡したんだぞ!?」

「別に俺はこの街を守れるならどっちがジュエルシードを取ろうが構わない。なのはに協力しているのはなのはもこの街の人間であり、かわいくて優しい女の子 だからだ。……勘違いしてもらっては困るが、俺は別に管理局に協力しているとは言っても、管理局の味方になった訳じゃない。単に利害がある程度一致してい るのと、なのはの意思があるから協力という形を取ってやっているだけだ」

鋭い視線を2人に向けてそう言うと、さすがのクロノも黙った。
その視線を受けたリンディは、息を吐くと俺に告げた。

「……わかりました。ですが、以後このような事がないようにしてね?あまり勝手な行動を取られるとさすがにこちらも困るから」

「……善処するよ」

俺がそれだけ答えると、リンディが二つ目の質問に入った。

「じゃあ先ほどの二つ目の質問。あなた、一体何者なの?魔力は持っていないのに、あの力。一体あなたとあなたの持っているその力はどういう物なの?」

「前の説明では足りなかったか?」

「ええ。あんなでたらめな力を発揮できるとは聞いてないわ」

リンディはそうきっぱりと言った。
確かに協力当初はとりあえず俺の力は簡単に説明しただけだった。
一応向こうの言い分は通っている。
もちろん全てを話す気など毛頭ないが、とりあえずカードの事を話せばいいだろうと思い、カードとバックルの関係だけ説明する事にした。

「まず、俺のこのGドライバー・ダブルは、メモリを最大2本まで同時に使用する事ができる」

「それが、あの時のサイクロンとジョーカーね」

俺は頷いた。

「ああ。ライトスロットに対応したサイクロンとレフトスロットに対応したジョーカーを同時に使う事で、機動性に超特化したゲシュペンスト・サイクロン ジョーカーになれる」

「……待って。じゃああの力は何なの?」

「…そうだ。もし、君の言う事が本当ならあの竜巻を鎮めた現象の説明がつかない」

リンディとクロノは俺の言葉でちゃんと気づいたようだ。
やはり艦長と執務官とやらの肩書きは伊達でないようだ。

「気づいたみたいだな。確かにサイクロンとジョーカーだけではあの竜巻は一度に全て鎮められない。二つ三つは一度にできるかもしれないが。そこで、それを 証明するのがこいつだ」

そう言って、俺はカードスロットから一枚のカードを取り出した。
それはあの時使ったスターダスト・ドラゴンのカード。

「それは?」

「これはスターダスト・ドラゴンっていうカードでな。俺はこいつの力と効果をカードローダーを通して使う事ができる。そして、こいつの効果はフィールド上 のカードを破壊する効果が発動した時にこいつをリリースする事で、その効果を無効にし、破壊する事ができる」

「……つまり?」

クロノがもう少し説明を欲したので、俺は最後に付け加えた。

「つまり、俺がこのカードの効果を使うと、その効果をドライバーが独自に解釈して、こうなる。このカードの力を一時的に使用不能にする事で、自分のフィー ルドにある破壊現象や災害現象などを止める事ができる。だから、あの時竜巻を全て同時に鎮められたという訳さ」

俺が説明を終えると、リンディ達は驚いた。
無理もない。
スターダストのもたらす力は強力だからな。

「……随分と強力な代物なのね。あなたのメモリとそのカードは」

驚きから立ち直ったリンディが言ったのを見て、俺は最後に言っておく事にする。

「ロストロギアに指定でもする気か?」

「!」

その言葉にリンディが驚いた。
図星だったらしい。

「あいにく、おまえらの定義だとこれはロストロギアにはならないぞ。作ったのは、俺の親父だからな」

「あなたの、お父さん?」

「ああ。それに、強力だと言っても、このメモリとドライバーを使用できる人間は俺のような限られた人間だけだし、条件を満たさなければ使用すらできない。 加えて使用者の力量にも左右されるから、あんたらが思ってる程強力で危険な物じゃないさ。まあ、使っている人間が俺だからあそこまで強力なんだが」

俺は最後にそう言うと、口を閉じた。
リンディはそこまで聞くと、しばらく考え、口を開いた。

「……あなたの力についてはわかりました。疑問も解けた事だし、いいでしょう」

「なら、話はこれでいいか?」

「ええ、言いたい事はこれだけよ」

その時、エイミィがさらに詳しい情報を取り出せたようで、リンディに報告してくる。

「艦長、さらに詳細な情報が取れました」

「なら、なのはさんとユーノ君を呼び戻してくれる?皆で一緒に見た方がいいだろうから」

「はい」

指示を聞くと、エイミィはなのは達を呼び出した。

























アースラの会議室になのは達が戻ってきた。
なのはが心配げな視線を俺に向けたが、俺は笑顔を向ける事で大丈夫だという事をアピールした。
それを見て、なのはも安心したようだった。
すると、なのは達が入ってきた事を確認したところで、エイミィが閲覧した情報を読み上げる。

「プレシア・テスタロッサ……ミッドの歴史で26年前は中央技術局の第3局長でしたが、当時彼女個人が開発していた次元航行エネルギー駆動炉『ヒュード ラ』使用の際、違法な材料をもって実験を行い、失敗。結果的に中規模次元震を起こした事が元で中央を追われ、地方へと追いやられました。ずいぶんともめた みたいです。失敗は結果にすぎず、違法性はなかったと。辺境に移動後も数年間は技術開発に携わっていました。しばらくののうちに行方不明になってそれっき りですね」

俺はその報告を聞いていたが、その内容をどこかで見たような気がした。
ただ、内容が違っていたような気もするが……。

(確か……見覚えのないデータの中の一つにあったような……。まとまりがなかったから……もう一度ちゃんと目を通してみるか)

と考えつつ話を聞く。

「家族と行方不明になる前の行動は?」

リンディが家族構成と行方不明の足取りをエイミィに確認する。

「その辺のデータはきれいさっぱり抹消されちゃってます。今本局に問い合わせて調べてもらっていますので……」

「時間はどれくらい?」

「一両日中には…と」

(……どうもきな臭いな。なんというか、聞くだけだと別に何でもないが、違和感…みたいなのがあるな)

今の話で俺自身思うところがあった。
情報としては、別におかしいというか、それほど目立ったおかしな要素はない。
単にこれは事実を述べているだけだ。
ただ、自分も技術者のはしくれだから言える事なのだが、その過去の実験自体が結果を急ぎすぎている内容に思えるのだ。
急ぎすぎた研究や開発はろくなものを生まない。
もめた内容にしても、その言い訳にしか聞こえないのだ。
それをプレシアがやったというのか……?
少なくとも一度会った経験からすると、なんとなくだがそうは思えない。
確かに彼女は今はまともな人間とは言えないが、おそらく技術者としてそれなりの倫理観は持っているはずだ。
まあ、彼女が元から結果を急ぐ人間だったのなら話は別だが。
とにかく、今日中にエイダにキーワードでこの世界に来た当初からあった見慣れないデータ群にアクセスして調べてもらおうと改めて思った。
俺が考えている中、リンディは少し考える素振りをする。

「ん〜、プレシア女史もフェイトちゃんもあれだけの魔力を放出した直後ではそうそう動きは取れないでしょう。その間にアースラのシールド強化もしないとい けないし……」

そう呟いて、リンディは決断した。
椅子から立ち上がる。

「あなた達は一休みしておいた方がいいわね」

「え?でも……」

「いいのか?」

なのはが突然の休暇命令に戸惑っている。
俺もとりあえず確認をした。

「ええ。特になのはさんとラン君はあまり長く学校を休みっぱなしでも良くないでしょう。一時帰宅を許可します。ご家族と学校に少し顔を見せといた方がいい わ」

「はぁ……」

「はい……」

という事でいきなりの休暇が俺達に与えられた。
俺はともかく、なのはにとってはいい息抜きになるかもしれない。
























時の庭園


時の庭園に戻ったフェイトはまたプレシアによる虐待を受けていた。
だが、今はそれもようやく終わり、フェイトは床に倒れている。
それを見つけてアルフがフェイトに駆け寄った。

「フェイト、フェイト!」

駆け寄ったアルフは倒れたフェイトを抱き寄せる。

「フェイト、フェイト……」

アルフはフェイトを抱きしめた後、この仕打ちをした原因であるプレシアがいるであろう部屋の扉を顔を歪ませ、睨みつけた。














「…たった8つ。これでも次元震は起こせるけど、アルハザードには届かない。ゴホッ、ゴホッ」

プレシアの口から吐き出された血が近くの石像に飛び散る。
その間少しの間彼女はむせ続けていた。
いよいよ彼女の体は末期症状といえるところまで来ている。
そう、彼女は病を患っているのだ。

「もうあまり時間がないわ……。私にも、アリシアにも……!」

ドゴォン!!

その瞬間、この部屋への入り口である扉の砕け散る音がした。
プレシアが平静を装ってそちらを見ると、その視線の先にいたのはフェイトの使い魔であるアルフだった。
だが、それを見たプレシアは興味なさげに視線をそらす。
それにかまわず、しばらく歩いたアルフは突如プレシアに襲い掛かった。
だが、プレシアは特に動作も見せずに紫色の障壁を発生させ、アルフの進撃を拒んだ。
アルフが障壁に弾き飛ばされる。

「くぁ!」

後退したアルフにプレシアが冷たく笑う。
アルフはまた彼女に飛び掛った。

「うわぁぁ!」

だが、結果は同じ。
またも発生した障壁によって防がれる。
だが、あきらめずにアルフが強引にプレシアへ手を伸ばし続けると、障壁が破れた。
アルフはそのままプレシアの胸倉を掴む。

「あんたは母親で、あの子はあんたの娘だろ!?あんなに頑張ってる子に…あんな一生懸命な子に…何であんなひどい事ができるんだよ!」

アルフが必死に訴える様子を見て、プレシアは先に同じような事を赤毛の少年に言われた事を思い出した。

(ふっ……、あの子と同じ事を言うのね)

だが、何故だろうか。
言葉の伝わる重さが違う。
いや、どちらもフェイトを思いやっているという点では何ら変わりない。
ただ、アルフにはないものが、あの少年にはあった。
なんと言えばいいだろうか、そう、あれはまるでそれを自ら体験…もしくはしたような感じが含まれていたように思う。
だからこそ、あの少年の言葉は本当に真剣で、それでいて己の覚悟と闇が含まれているような重いものだった。
アルフのような純粋な思いやりとは違う、どこか自分に言い聞かせたような言葉だった。
だが、あくまでそれはプレシアが後でその事を考えたただの推測であり、その真意はあの少年に聞かなければわからない。
ただ、この場においてはそれはどうでもよかった。
プレシアは冷めた表情でアルフを見ると、アルフの顔色が変わった。
そして、プレシアはそのまま手をアルフの前に持っていくと、そこから魔力弾を放つ。
腹を撃ち抜かれたアルフはそのままの勢いで石柱を突き破って、壁に激突する。

「あの子は使い魔の作り方が下手ね……。余分な感情が多すぎるわ」

「フェイトは、あんたの娘は、あんたに笑ってほしくて、優しいあんたに戻ってほしくて、あんなに!!…うぅ!」

アルフが必死に叫ぶが、痛みを覚え、顔をしかめる。
アルフが痛みをこらえて見上げた瞬間、そこには既にプレシアがいた。
いつの間にか接近していた彼女は何もない手から杖型のデバイスを出現させる。

「邪魔よ。消えなさい!」

狂気の走った目でプレシアが告げると同時に、杖に魔力が収束される。

「!」

それを見たアルフはすぐに足元に魔法陣を展開する。
次の瞬間、プレシアの杖から魔力弾が放たれた。
その衝撃で爆発が起こり、時の庭園のほんの一部が破壊される。
起きた爆煙の中から、アルフが下へと突き破って落ちていく。

(どこでもいい……。転移しなきゃ。きっと、ランのように助けてくれる子がいるはず……。ごめん、フェイト。少しだけ待ってて……)

オレンジ色の光に包まれ、落下していたアルフは次の瞬間転移した。
そして、プレシアはフェイトに再度ジュエルシードを集めるように命令した。
フェイトはそれをただ頷いて、受けるだけだった。























その頃、高町家では……。

「と、そんな感じの十日間だったんですよ!」

「あら〜、そうなんですか」

リンディが桃子とこれまでの十日間の事を話していた。
それはいい。
だが……。

[リンディさん…見事なごまかしというか…真っ赤な嘘というか]

[凄いね]

と念話で感嘆するなのはとユーノ。
俺は受信オンリーだからその念話を聞いて思う。

(ほんと、女狐だな。さすが、人生経験豊富な人だよ、全く)

俺はそれを見て、肩をすくめると、やれやれといった感じでなのはを見た。
俺の様子でなのはと同じような印象を持っているのに気づいたのか、なのはも苦笑する。
その時、リンディが念話で話してくる。

[本当のことは言えないんですから。ご家族にご心配をおかけお気遣いと言ってください]

(よく言うよ。娘達を利用してましたーなんてバレるのが怖いだけなんじゃないの?)

[何か言った?ラン君]

心の中で呟いただけで、聞こえないはずなのに、リンディが気づいたように言ってくる。
あれか、あんたはエスパーか。
俺は何でもないというように視線をそらす。
ちなみにランが念話だけ聞こえるというのは、協力すると言った最初の顔合わせの時に既に話している。
と、その間にもリンディは桃子と談笑を続けていた。
しかし、よくもまあお世辞というかでまかせというかそんな事がよくぺらぺらと言えるものだ。
俺は2人の会話を聞いて、そんな事を思っていたが、そこで美由紀が俺達に話しかけてきた。

「なのは、ラン君。……今日明日くらいは家にいられるんでしょ?」

「うん!」

「俺はアパートに戻りますけどね」

「あら、泊まっていけばいいじゃない。なのはも喜ぶよ?」

「……(///)」

何故そこで赤くなる、なのは。

「…まあ、気が向いたらそうさせてもらいます」

「そういえば、アリサちゃんとすずかちゃんも心配してたぞ?もう連絡はしたか?」

「うん、さっきメールを出しといた」

とそんな感じで俺と高町家の一日が過ぎていく……。












そして、その日いつものように車で帰路についていたアリサが狼姿のアルフを拾う事となる。
それは、アルフが怪我をしていたからであり、アリサが犬好きで優しい子だったからである。
アルフはその日手当てをされ、自分を助けてくれたのがなのはの友達で、以前会った子だという事を認識する事になる。

















そして、その翌日。
俺となのはは久しぶりに学校に登校した。
そして、その屋上で。

「なのはちゃん、ラン君!よかった!元気で!」

俺達を心配してくれていたすずかは開口一番そう言ってくれた。

「ありがとう、すずかちゃん」

「悪かったな、心配かけて」

そして、今度は素直でないアリサを見る。

「アリサちゃんもごめんね。心配かけて」

「まあ…良かったわ。元気で」

こちらを向かない辺り、相変わらず素直でないので、俺達はその様子を見てくすりと笑った。
そして、教室に戻った俺となのははアリサとすずかとこれからどうするのかで話をする事となった。

「そっか、また行かないといけないんだ……」

「うん……」

「すまねえな。久しぶりに学校来たばかりだってのに」

残念そうなすずかに俺はとりあえず謝っておいた。
すずかはそれに首を振る。

「ううん、行かないといけないなら仕方ないよ。……でも、大変だね」

「そうでもないさ。まあ、大丈夫だから気にするな」

「うん……。あ、放課後は少しくらいなら遊べる?」

「うん、大丈夫」

「ラン君もいいよね?」

「おう」

俺が笑顔で快諾したので、すずかは嬉しそうだった。

「じゃあ、家に来る?新しいゲームもあるし」

そこで、なんとアリサが自分の家に誘ってきた。
別に珍しい事ではないのだが、そっぽ向きながら言ってる辺りは本当に素直じゃない。

「あ、ほんと?」

「あ、そういえばね。夕べ怪我をしている犬を拾ったの」

「犬?」

思い出したように言ったアリサにすずかが返すと、アリサは頷いた。

「うん、すごい大型でなんか毛並みがオレンジ色で、おでこにこう…赤い宝石が付いてるの」

アリサが外見的特徴を説明してくれたが、俺はそこでふとその外見に覚えがあった。

(あれ……?なんかそれどっかで見たような……)

しばらく記憶を探っていると、心当たりがあった。

(あ、アルフか……)

アルフの狼状態の時の外見がちょうどそれに一致する。
なのはをちらりと見ると、やはりなのはも気づいたようだ。

(何で怪我してアリサに拾われてるのかは知らないが……とりあえず本人に聞けばいいか)

こうして、俺達はアリサの家で遊ぶ事になった。





















そして、アリサの家に来てケージに入れられているその犬を見せてもらったのだが。
まあ、予想通りアルフだった。
とりあえずアルフに事情を聞くように、なのはとアイコンタクトを取る。
長い付き合いのおかげか、互いの意思がほぼ一致している場合に限ってこれだけで行動を促したりする事ができるようになった。

[アルフさん……]

[あんた達か……]

ちなみに俺は聞こえても、話す事はできないので、基本傍聴の立場を取る。

[その怪我どうしたんですか?…それに、フェイトちゃんは?]

その言葉を聞いたアルフは落ち込んだらしく、ケージの奥へと行ってしまった。

「あらら……元気なくなっちゃった。どうした?大丈夫?」

「傷が痛むのかも……」

その様子にアリサとすずかは心配する。
すると、俺以外のなのは達3人は立ち上がる。

「そっとしといてあげようか?」

「うん」

すると、アリサの腕の中にいたユーノがするりとそこから出てケージの前に降りた。

「ユーノ!こら、危ないよ!」

危ないと思ったアリサはユーノに注意をする。

「大丈夫だよ、ユーノ君は」

だが、なのはが笑って大丈夫だと言った。
まあ、俺もアルフから事情を聞いておきたいので、なのは達に振り返る。

「それでも心配なら俺がユーノを見てくるから、なのは達は先に行っててくれ」

「え、でも……」

折角遊びに来たというのに、一緒にできない事にすずかが残念そうに言うが。

「大丈夫、そんなに時間はかからないと思うからさ」

「うん……じゃあ、早く来てね」

「おう」

そう言って、俺は笑う。
それで、なのは達は行き始める。

「それじゃあお茶にしない?いいお茶菓子があるの」

「うん」

「楽しみ〜」

そんな声を背後に、3人が行ったのを確認すると、まず俺はユーノに言う。

「気をきかしてくれたところ悪いんだが、俺もちょっと参加させてもらうよ」

「でも、いいのかい?折角の休みなのに」

「別にいいさ。それに、アルフとはあの時に何度か話してるから俺がいた方がやりやすいだろ」

笑顔でそう言うと、俺は早速アルフに事情を聞く事にした。

「で、どうしたんだ?おまえらの間で何かあったのか?」

「……あんた達がここにいるって事は管理局の連中も見てるんだろうね」

「まあ、そうだな」

『時空管理局クロノ・ハラウオンだ。どうも事情が深そうだ。正直に話してくれれば、悪いようにはしない。君の事も、君の主……フェイト・テスタロッサのこ とも』

アースラのモニターで俺とアルフのやり取りを見ていたクロノが口を出してきた。
俺は別にちょうど良かったと思っているので、割り込みには特に気分を害していない。

「話すよ…全部」

そこで、アルフが俺達に振り返って強く言った。

「でも約束して。フェイトを助けるって。あの子は何も悪くないんだよ」

「……わかってるさ。クロノ、おまえも約束するって事でいいか?」

俺は視線をアルフから放さずに聞くと、クロノも承諾した。

『約束する。エイミィ、記録を』

『してるよ』

そして、アルフはあの時俺にも明かさなかった全ての事情を話し始めた。

「フェイトの母親…プレシア・テスタロッサが全ての始まりなんだ」


























そして、俺はアルフから彼女の知っているその全てを聞いた。
終わったところで、クロノがなのはに念話をする。

[なのは、聞いたかい?]

[うん。全部聞いた……]

[君達の話と現場の状況、そして彼女の使い魔アルフの証言と現状を見るに、話に嘘や矛盾はないみたいだ]

まあ、それは当然だろう。
実際に彼女と会った(もちろんクロノ達には話していない)俺でさえも、話された事に関して疑う余地は全くないのだから。

[どうなるのかな?]

[プレシア・テスタロッサを捕縛する!アースラを攻撃しただけでも、お釣りが来るからね。だから僕達は艦長の命令があり次第、プレシアの逮捕に任務を変 更する事になる。君達はどうする?高町なのは、北川乱]

その確認に、なのはは答える。

[私は……フェイトちゃんを助けたい!アルフさんの想いとそれから私の意志。フェイトちゃんの悲しい顔は私も何だか悲しいの。だから助けたいの!悲しい 事から]

そして、なのはは強くこう言った。

[それに、友達になりたいって伝えた、その返事を聞いてないしね!]

[ラン、君は?]

「そんな事決まってる。助けるさ。一方的かもしれないが、あの時誓った約束を果たす。その時が今だからな」

[約束?]

「……俺にしかわからないさ。した奴も何の事かわかってないだろうし」

俺達のやり取りをアルフは目に涙を浮かべながら聞いていた。

[…わかった。深くは聞かないでおくよ。それにこちらとしても、君達の力を借りられるのはありがたい。フェイト・テスタロッサについては、なのはとラ ン、君達にまかせる。それでいいか?]

そこで、クロノがアルフに確認する。
アルフはその言葉に頷いた。

[うん、ラン…それになのはだったね。頼めた義理じゃないけど、だけど……、お願い。フェイトを助けて。あの子……今ほんとに1人ぼっちなんだよ]

[うん、大丈夫まかせて]

「……ま、まかせろ。あの時みたく、助けてやるさ」

俺はアルフを安心させるように言うと、まだ聞いているであろうクロノに少し言う事があった。

「クロノ……もしかしたら、フェイトの事以外で頼む事があるかもしれない」

[頼む事?]

案の定聞いていたクロノが確認してくる。

「ああ……。すんなり終われば別にないんだが、もし終わらなかった場合は一つだけ俺の頼みを聞いて欲しい。内容については……その時に言う」

[そうか……。本来、君には色々と言いたい事があるし、頼みを聞く筋合いもないわけだが……それはその時に考えさせてもらう]

「悪いな……」

そう言って、言いたい事を言うと、なのは達のいる部屋に向かった。
幸い声が聞こえたので、場所については大丈夫だろう。
もし、わからなければ、執事の鮫島さんに聞けばいい。
そして、予定通りアースラへの帰還が明日の朝という事がクロノから告げられた。























そして、俺はあの後、ゲームをしているなのは達と合流し、皆で思いっきり楽しんだ。
今はそれも終えて、皆でお茶をしている。

「なかなか面白かったわ」

「やっぱりなのはちゃんとラン君がいた方が楽しいよ」

「ありがとう。たぶんもうすぐ全部終わるから、そしたらもう大丈夫だから」

そう言って、なのははジュースを飲む。
その様子を見てアリサがふと言う。

「なのは、何か少し吹っ切れた?」

「え?えっと、どうだろう?」

そう言って、なのはが俺の方に視線を向けてきたので、わかる範囲で答えておいた。

「言いたい事やしたい事をようやくできたからじゃないか」

「あ……そっか」

言われてなのはは気づいたようだ。
それを聞いたアリサは言う。

「心配してた……。てかあたしが怒ってたのは、なのはが隠し事をしてる事でも考え事をしてる事でもなくて、なのはが不安そうだったり迷ったりしてた事。そ れでときどきあたしたちのところへ帰ってこないんじゃないかなって思っちゃうような目をすること……」

「………」

「まあ、それはたまにランにも言える事だけど」

「………」

俺は正直その言葉に驚いた。
もちろん表面には出していないが、少なくとも心中ではそうだった。
アリサはアリサで俺達をよく見ていたって事だろう。
そんなアリサに俺は素直に驚いたのだ。
そして、なのははアリサの方をじっと見つめ、すずかはジュースのストローをくわえながらなのはとアリサを交互に見ていた。
すると、なのはは目をこすって立ち上がるとしっかりと答えた。

「行かないよ、どこにも。友達だもん。どこにも行かないよ!」

「ま、俺もそうかな。それにたとえどんな事があっても、俺がアリサやすずかの友達である事はずっと変わらない。それだけは言える」

俺もそう答えた。
だが、なのはに同意した部分は嘘である。
俺は元々異世界の人間であり、この世界にいつまでもいられるなんて保証はどこにもない。
ただ、それ以外の言葉は嘘ではない。
俺が、アリサやすずかが、互いに友達だと思っていてくれる限り、どんなに離れていても、たとえ俺がこの世界からいなくなったとしても、友達という関係だっ たという事は変わらないのだ。

「そっか」

「うん」

俺達の言葉にアリサとすずかが嬉しそうに頷いてくれた。
そして、楽しい時間は過ぎ、なのはと俺は帰宅する事になった。


玄関前でアリサちゃんたちが手を振ってくれる。
私もそれに応えて手を振った。

(うん、どこにも行かない。私はちゃんとここに帰ってくる。ラン君と一緒に……)

そして、私とラン君はアリサちゃん達と別れ、帰路につく。
ラン君も一度アパートに戻ると言って、途中で別れた。

(ただ少しだけ……いつもと違う時を過ごす事…それはこれから先自分らしくまっすぐいるため。後悔しないようにするための小さな旅……)

私は家に帰宅すると、久しぶりの家族とのほんの一時の生活を楽しみました。
そして、その夜、私は道場にある木刀をずっと眺めている。
その時、道場の扉の開く音がしたので、振り向くと、そこにはお父さんがいました。

「いい顔になったな」

「あ……」

「ラン君のおかげかな?」

「うん……たぶん」

「そうか。迷いは消えたのか?」

「お父さん…なのはが迷ってた事知ってたの?」

「そりゃあそうだ。お父さんはお父さんだからな」

私に近づいたお父さんはそう言う。
そして、かがんで私に視線を合わせる。

「明日はまた朝早くから出かけるんだろ?」

「うん……ご心配をおかけします」

すると、お父さんが私の頭を撫でてくれました。

「まあ、なのはは強い子だし、ラン君もついているから父さんはそれほど心配してないよ。頑張ってこい、しっかりな」

「うん!」

私はそれでお父さんに元気をもらった気がしました。

























翌日の早朝

なのはが家に出ると、既に家の前ではランが待っていた。

「ラン君!」

「行くか」

「うん!」

元気よくなのはが返事したところでなのはとランは走り出した。

「なのは!ラン!」

少し走ったところで、アルフが塀の上を走っていた。
アルフはそこから飛び降り、なのはやランと一緒に走る。













海鳴公園

俺達は走り続ける事しばらくして、公園に辿り着いていた。
なのはが荷物を降ろし、俺に確認を取ってくる。

「ここならいいよね?」

「ああ」

「出てきて、フェイトちゃん!」

俺達は辺りを見回す。
そして、俺は目的の人物を見つけた。

「いた!」

なのは達が俺の声を聞いて振り返る。
その先には公園の街灯の上に立っているフェイトがいた。

「Scythe Form」

フェイトは既にバルディッシュを鎌状の武器にして戦闘態勢に入っている。

「フェイト…もうやめようよ。あんな女の言う事もう聞いちゃダメだよ。フェイト…このまんまじゃ不幸になるばっかりじゃないか。だからフェイト!」

アルフは懇願したが、フェイトはかぶりを振った。

「だけど…それでも私はあの人の娘だから…」

なのははその言葉で覚悟を決めたように、レイジングハートを起動し、バリアジャケットを纏う。

「ただ捨てればいいって訳じゃないよね。逃げればいいって訳じゃもっとない。きっかけはきっとジュエルシード。…だから賭けよう。お互いが持ってる全部の ジュエルシード!」

「Put out」

レイジングハートからなのはと俺の今まで集めたジュエルシードが出され、なのはの周りを円状に囲む。

「Put out」

バルディッシュからも同じようにジュエルシードが出される。

「それからだよ、全部…それから」

なのはがレイジングハートをフェイトに向けて構える。
フェイトもバルディッシュを構える。

「私達の全てはまだ始まってもいない。……だから、本当の自分を始めるために。……始めよう。最初で最後の本気の勝負!」

なのはとフェイトの全てを賭けた戦いが今始まる。























あとがき

連続投稿&更新なので、12話にまとめてします。



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