魔法世界流浪伝




















第4話 流浪人VS騎士



あれから4年。
地球を去った光司は様々な世界を旅していた。
今更ではあるが、光司は魔導師だ。
魔導師とは、俗に言う魔法という物を使って戦う人間の事を指す。
世界を渡って旅ができるのも、その魔法の1種である転移魔法のおかげである。
ただし、光司自身魔導師であるにもかかわらず、あまり魔法に頼らない戦闘法を取る変り種だ。
だから、せいぜい使用するのはこういった移動法に使うのが主である。
無論、やむを得ない場合は魔法を使用する事も普通に行うのだが。
そして、現在登録してある世界座標からランダムに選択して違う世界からこの地へと渡ってきたところだった。

「夜か……」

光司が先の世界で転移した時は昼だったが、こちらは夜であった。
冷たい夜風が光司の体を撫でるように吹き付ける。

「……嫌な風だ」

そう呟くと、光司は転移したビルを飛び、次々と他のビルを飛んで渡って行った。
























「う、うわああああ!!!」

その夜に悲鳴が響き渡り、一人の男性が吹き飛んで壁に激突した。
激突した衝撃で、男性は意識が朦朧としていた。
その隣には先ほど吹き飛ばされた同僚が気を失って横たわっている。

「くっ……」

「……雑魚いな」

そして、彼らを数刻前に襲ってきた者からそう吐き捨てるように告げられた。
その者の出で立ちは、赤い髪の少女。
右手には槌を持ち、左手には分厚い本を抱えている。
そして、その少女の目は落胆した色を見せるものだった。

「……こんなんじゃ大した足しにはならないだろうけど」

「くっそ……!」

(ここまでか……!)

この状況に男性が諦めかけ、少女が本を出そうとした時だった。
頭上から黒い影が高速で飛び降りてくる。

「!」

それに、気づいた少女が視線を上げるが、その時には既に影は地面に降り立った後だった。
そして、すぐに2人の男性を担ぎ上げると一足飛びで少女から間合いを取る。

「何もんだ!てめえ!」

少女が声を荒げると、男性二人を抱えていた影が立ち上がり振り返った。
そう、2人を助けたのは金髪の青年、光司だった。






















悲鳴を聞き取った光司はすぐに駆けつけ、襲撃者と思われる少女と被害者の魔導師の間に身を躍らせたが、それは間違いではなかったようだ。
少女は、この男達に何かしらのトドメを刺そうとしていたからだ。
声を荒げた少女に対し、警戒しつつ答える。

「通りすがりの流浪人だ」

それだけ答えると、視線は少女に向けたまま声を抑えて光司は背後にいる男性に話しかける。

「大丈夫とは言えないようですが、動けますか?」

男性は痛みに顔を歪めながら、答える。

「っ……さすがにそれは難しいな。同僚は気を失っているし……」

「ならば、この場でじっとしていてください。下手に動かれると、襲撃者に仲間がいた場合、あなた達を守れない」

だが、光司の言葉に男性は驚き、目を見開く。

「っ…!しかし、相手は相当の使い手だ!君1人では!」

管理局に勤める魔導師として、男性は放っておく事などできず加勢しようと立ち上がろうとするが、激痛のせいで再び膝を付いてしまう。

「大丈夫です。僕の事なら、心配はいりませんから。今は、僕の心配よりもあなたの心配をしててください」

言うと、光司は一言発した。

「Get Set」

〈Set Up〉

デバイスが音声を発した瞬間、光司が光に包まれた。
だが、それも一瞬。
すぐに光は収まり、光司の服装は先ほどの黒い服からところどころ青く光る装飾の付いた白いコートに変化した。
そして、その右手には鞘に円輪の付いた刀を持っている。

「!てめえ、魔導師か!」

「……そうとも言うな」

「なら、てめえの魔力も頂いていく!」

その言葉を皮切りに戦闘が開始された。
しかし、先手を取ったのはなんと光司。
一瞬男性が消えたかと見紛う程の速さで少女の間合いを詰めた光司は、そのまま少女の頭を鷲掴みにすると、魔法を使わずにその跳躍力だけでこの場から敵の少 女と共に飛んで行った。
それを呆けた表情で見届けていた男性だったが、すぐに異常事態を知らせるため管理局に連絡を取るのだった。
























一方、頭を鷲掴みにされてその場から強制的に移動させられている少女「ヴィータ」は、驚きで頭が一杯になっていた。

(こいつ!魔法を使わずに脚力だけで!?)

それだけではなかった。
一気に百数十m移動させられたヴィータは、次の瞬間光司に下へと投げ飛ばされる。
混乱したままの状況で、しかもかなりの力で投げ飛ばされたため、地面に激突して滑るヴィータ。
なんとか態勢を立て直したものの、既にヴィータは膝を付いていた。

「くっ……、あたしを力だけで……!」

すると、投げ飛ばした光司が数m放れた先に着地する。
ヴィータは油断した悔しさで光司を睨みつけようとしたが、光司を見た瞬間その感情は消え失せた。

ぞくっ…!

光司の先ほどまでとは全く違う、まるで殺気の塊のようなその瞳に一瞬であろうとも気圧されたからだ。

(っ……。何だ、こいつ……。このあたしが一瞬とはいえ、気圧された……?)

その事実にわずかながら寒気を覚えるヴィータ。
しかし、いつまでも仕掛けてこないヴィータを不審に思ったのだろう。
光司が口を開く。

「どうした?こないのか?」

だが、その挑発とも取れるその言葉でヴィータは我に返った。
それと同時に怒りが湧いてくる。

「っ…なめやがって!ぶっ潰す!」

瞬間ヴィータは飛び出した。
掲げた自身の槌「グラーフアイゼン」を勢いのまま光司に振り下ろす。
しかし、光司はそれを身をそらすだけで紙一重でかわす。

「くっ、なめんな!」

しかし、それを想定していたヴィータはすぐにグラーフアイゼンを返して横薙ぎに振るう。
光司はそれを今度は飛び上がる事で回避し、間合いをある程度離した。
その一連の行動で、さらにヴィータの頭の中に疑念と驚愕が生まれる。

(何だ、こいつ……。魔力はどう見てもBランク程度なのに……なんでこのあたしの一撃をこうも)

「容易く避けられるんだ、か?」

「!!」

思考の途中に考えていた事そっくりの言葉そのまま言われて、驚愕するヴィータ。
それに光司は愉悦する事もなく告げる。

「何故わかったみたいな顔をしているな。…簡単だ。おまえ、顔に出ているからな。読み易い」

その瞬間、ヴィータの中で何かが切れた。

「ふ、ふざけんなぁぁぁぁあああ!!!」

ヴィータが再び飛び出し、光司が刀を構える。
まだ戦いは始まったばかりだった。






















戦闘が始まって数分。
ヴィータは戦慄していた。
戦闘はやや空中戦に入っていた。
空中戦ならまだ自分にフィールドアドバンテージがある。
そう思い、ビルの屋上くらいの高さを飛んでいたのだがそれでも状況は好転しなかった。
ヴィータは4つの魔力球を前方に作り出す。

「シュワルベ・フリーゲン!!」

ヴィータが誘導性を持った4つの魔力球を打ち出し、それが光司に向けて襲い掛かる。
それを見た光司は空中から一気に高度を下げ、地上に着地。
そのまま速さを落とす事なく、地面を駆ける。
その後を鉄球が追う。
だが、その速さにヴィータは驚愕を隠せなかった。

(くっ!何だよ、あいつのあの速さは!魔法を使わないで、なんであんな速度が出せる!?)

そうヴィータが驚いているのは、光司が魔法を使わずに高速移動魔法並の移動速度を出せている事にあった。
そう、光司は今ただ走っているだけなのである。
しかし、それだけではない。
逃げに徹していたかと思われた光司だったが、次の瞬間いきなり身を翻したかと思うと、明らかに常人離れしたその速度と脚力で離れたビルを三角飛びの容量で 鋭角的に、そして3次元的に飛んで、ヴィータの鉄球を避けたのだ。
あまりにも鋭い動きに誘導弾が付いてこれず、地面や建物に当たって不発となる。

(くっ…またか!)

その先ほどから見せられているその見慣れない動きにヴィータは舌打ちする。
だが、先ほどから見せられているとはいえ、今までの常識を超えたその動きに反応が遅れる。
そう、その動きをしていた光司はビルの頂上近くの壁面を踏みつけたと同時に一気にヴィータとの距離を縮めていたのだから。
納刀された刀から抜刀術が繰り出される。

「くっ!」

ガキィン!!

咄嗟に掲げたグラーフアイゼンに、光司の振るわれた刀が激突する。
しかし、完全に威力が勝っていたのか勢いで防御したままの態勢からヴィータは吹き飛ばされる。
なんとか態勢を立て直したヴィータだったが、視線を上げるとそこには既に光司が迫っていた。

“光墜閃”

上段から振り下ろされた刀をかろうじてグラーフアイゼンで受け止めるヴィータだが、威力は殺しきれず地面へと吹き飛ばされた。

「ぐはっ!!」

地面に激突し投げ出されるが、すぐにヴィータは態勢を立て直し、着地した相手を睨みつける。
その光司は優位に立っているにも関わらず、先ほどと変わらない鋭い眼でヴィータを見ていた。

「先ほどから攻撃の度に排出される薬莢……おまえベルカの騎士か」

「だったら何だってんだよ」

油断なく構えるヴィータに光司は続ける。

「それに今は仕舞っているが、先ほどの本…それにおまえの戦術……おまえ、夜天の…いや、闇の書の騎士か」

「!?」

その言葉にヴィータは目を見開く。
それは、相手がたったこれだけの情報から自分の正体を見極められた事による物だったからだ。
そして、その態度は容易に光司に対して肯定だと知らせてしまう。

「そうか……。また、闇の書が活動を始めたのか……」

そう言うと、光司は刀を構える。

「なら、被害を増やさないためにも、おまえはここで倒して、管理局に引き渡す」

光司はそう言い放つが、もちろんそんな物ヴィータには到底受け入れられる物ではなかった。
断固としてヴィータは言い返す。

「そうはいくか!あたしには…帰る場所があるんだ!こんなとこで負けてられないんだよ!!」

「………?」

その言葉に光司は初めて眉をやや顰めた。

(……何だ、今までの守護騎士とは何か違う。以前のとはまるで違う……そう、あれは何が何でも誰かのために成し遂げようとする……光を宿した目だ)

以前遭遇した彼女達との相違点に光司は疑問を持ったが、それはすぐに捨てた。
どんな理由があろうとも彼女達が罪のない人々に危害をもたらすのなら、ここで倒すしかないのだ。

一方ヴィータはこれ以上時間をかけられない事がわかっていた。
時間的にもかなり経っているし、自身の押されている状況的にも好ましくなかったのだ。
これ以上時間をかければ、恐らく先ほど蒐集しそこなった魔導師の増援が現れるはずだ。
もし、続けたとしても自分は間違いなく今以上の傷を負うのは必至。
相手は魔力ランクB程度だが、それでも侮れない。
先ほどから彼は、移動と剣撃…いや、ほぼ移動に魔法を使うだけで自分を圧倒しているのだから。
恐らく経験と技術の差が大きすぎる。
ならば、相手がこちらを叩き潰す前に、こちらはそれ以上の一撃で一気に叩き潰す!
決断したヴィータは、グラーフアイゼンを構えた。
対する光司も刀を構える。

「グラーフアイゼン、カートリッジロード!」

〈Explosion〉

声に応じてデバイスから薬莢が排出される。

〈ラケーテンフォルム〉

瞬間デバイスの形が変化し、先端に突起物、そして反対側に噴射口が追加される。
それを見た光司は一言発した。

「クラッシュフォーム」

〈転換(コンバート)〉

瞬間、光司の刀が変化し、取ってが中央にある大型の棍になった。
大型打撃武器になったそれを光司は構える。
そして、ヴィータはグラーフアイゼンを持って回り始める。

「ラケーテン!」

それと同時に噴射口からバーニアが発せられ、さらに勢いを増す。
対する光司は棍を自分の後ろで構えて、大地を踏みしめる。
そして、力を溜めたヴィータは一気に光司に向けて突撃し、ハンマーを振り下ろす。

「ハンマー!!」

対する光司も体の捻りと上半身のバネを最大限に利用して、迎え撃つ。

“光剛槌(こんごうつい)”

ガキィィィン!!

横薙ぎに振るった棍棒と振り下ろした槌が互いに激突する。

「あああああっ!!」

「おおおおおお!!」

だが、現時点ではヴィータの方が勝ってきていた。
カートリッジシステムによる瞬間爆発。
それが、この時点で生きてきたのだ。
槌が棍棒を押し込んでいく。

(勝った!)

そう思った瞬間だった。

“光子加速”(フォトン・ブースト)

そう光司が唱えた瞬間、棍棒に込められていた魔力がいきなり跳ね上がった。
その瞬間、棍棒が押していた槌をどんどんと押し返していく。

「な!」

ヴィータが驚いた瞬間、一気に光司は棍棒を振りぬいた。
その瞬間、辺りは光に包まれた。

























光が治まった後、その場にいたのは光司だけだった。

「……逃げたか」

あの光の中、光司が見たのは棍棒を喰らいながらもその勢いで離脱し、転移魔法によって撤退するヴィータの姿だった。
振り切った直後では、光司もさすがに追えず彼女を逃がす形となってしまったのだ。

「僕の一撃を離脱に利用するとは……。さすがにできるか……」

そう言うと、光司はデバイスとバリアジャケットを解除。
探査魔法で助けた局員の魔力と生命反応が健在なのを確認した光司は、その場から消えるように立ち去っていった。
その後、管理局員が現場に駆けつけたが、そこには誰もおらず、あったのはまるで嵐が駆け抜けたかのような攻撃の痕だけだったという。




















一方、撤退し地球へと戻ったヴィータは棍棒を喰らった腹を抑えながら毒づいた。

「くそっ……あいつ……!」

失態だった。
今回も余裕と思えた蒐集が、あの1人の魔導師によって全て狂った。
見慣れない戦闘法。
まるで自分の心を見透かすような鋭い洞察力。
カートリッジを使わず魔力をブーストしたデバイスや魔法の形態。
しかも、もっと気に食わないのが光司の戦い方。

(あいつ、攻撃全部峰でやってやがった……!)

手加減とも取れる戦闘。
それらを思い出す度、苛立たしさと悔しさが募っていった。

「今度会ったら、絶対ぶっ倒してやる……!」

そう呟いて、ヴィータは光司へのリベンジをこの時誓うのだった。


















あとがき


やっと気力が戻り、調子がいいので、珍しく短期間での投稿です。
今回から新章に突入です。
と言っても、これと合わせてたった2話で終わる短いものですが(苦笑)

今回は、というか今回からA'sのところに突入です。
といっても、今回はたまたま蒐集に遭遇した主人公が蒐集をその時担当していたヴィータと戦うというお話ですが。
基本今回の章は、こういうスタンスですので、次回もこんな感じです。
ここから原作に関わるというのもありなんですけど、原作に関わらない外伝的な感じのストーリーで行きたいと思っています。
ですので、原作介入に期待している人は残念かとは思いますが、そこはご了承の程よろしくお願いします。
さて、今回は主人公VSヴィータの回だった訳だったので、あまり語る事は多くないのですが、主人公の戦闘スタイルについていくつか解説を。
主人公ですが、魔導師なのに基本魔法に頼らない戦闘法を取ります。
魔力はB程度しかないのも理由ですが、基本それ以外の物理的な手段で戦う事が多いからです。
私個人的には、魔力が多くなくても最強というのを目指したかったからというのもあるからですが。
という訳で基本主人公は攻撃魔法や防御魔法を用いず回避主体で、空戦よりも陸戦の方が得意です。
え?バリアジャケットとか防御魔法はどう破るのかって?
基本主人公はそれを技の威力で行います。
それに伴ってデバイスの強度や切れ味は正直信じられないくらい強力ですが。
デバイスの詳細などについては、まだまだこれから出てくる部分がいっぱいありますので、まだ控えておきますね。
後、主人公が何故わざわざ峰で攻撃するのか。
それも後に明らかになります。
まだまだ不可解な点が多く、解説にもなってはいないと思いますが、今回と次回は魔力とかで圧倒するのではなく戦闘技術や技量で押す、そんな戦いを書いてい きたいと思います。
今回はそのように書けていたのであれば、私としては満足です。

次回は目を付けられた主人公が誰かに襲撃されます。
果たして主人公は襲撃者を退けられるのか?
次回も読んでくださいね!

とりあえず良い調子が続く限り連投という形で投稿していきたいと思います。
では、今回の話を読んでくださってありがとうございました!
また次回でお会いしましょう!



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