冥王が悪いと誰が決めた。
死神に良心がないと、なぜ言いきる。

漢字二文字で物の全部を分かったことが言えるのか?
明日の世界を守るのは、魔王と呼ばれる者かも知れぬぞ。

そこに血反吐を吐きながら全然得にならない人助けをやっている海賊がいるとしよう
そいつらは英雄じゃないのか?

                                              ―魔術師A―




























−三条 縁−



「ようこそ、ダイアンシスへ。未来のACE
 僕が艦長の三条 縁だ。
 階級は無いよ、なんて言ってもここは海賊船だからね」

扉を開けると待ち構えていたように1人の男が立っていた。
腰まで届こうかと言う空色の髪。
温和な表情。
私と同じ統合軍の制服を着崩している。
歩きながら話そうと言うのか、彼―三条 縁が歩き出す。
私は小走りに彼を追いかけた。

「こんな若い男が艦長で驚いたって顔してるね?
 ここでは実力がすべてだ。
 これでもナデシコの艦長をやってた事もあるんだよ」
「ナデシコ?」
「『ナデシコ』と聞いて不思議そうな顔をしていると怪しまれるよ
 ヤガミに聞かなかった?
 ああ、あとでヤガミにきつく言っておこうか
 ナデシコって言うのは蜥蜴戦争でネルガルって言う企業が火星奪還のために作った負け知らずの戦艦の名前だ。
 今でも後継艦は作られていてその尽くが成果を上げている。
 僕が乗ったのはナデシコB艦だね。 そうABCDのB」
「ふーん」

Dを「でぃ」でなく「でー」と発音する仕方は技術屋さんが聞き違いを少なくする方法だったなぁ、じゃあこの艦長はテクノ出身かとかどうでもいい事を考え る。
あっ、前から走ってくる猫と挨拶をした。
すると驚くべき事にその猫は「エニシはいつも元気ネウ」なんて挨拶を返してきた。

「いま、猫がしゃべらなかった?」
「珍しいものじゃない。 最低接触戦争からこっち知類という言葉で認知されつつある。
 最近はだいぶ種類も増えてきたよ。
 猫耳娘に猫娘、チェスを打つ犬やらメイドロボとかなんとか
 もちろん反対もあるだろうけど…
 まぁなんだ、猫耳メイドとかには需要がある」
「オタク文化真っ盛りって訳? ただれた趣味だわ」

彼は真面目な顔で首を振って、そして答えた。

「彼女たちは最低接触戦争のために造られたんだ。
 動物の動体視力を併せ持つエースパイロット。
 レシオを稼ぐためだけに知能を与えられた動物。
 毒物なんかで艦内がやられても人間を癒しつづける医療ロボット。
 人間は自分勝手だ。
 人間たちが自分たちの都合で造った知類なのに自分たちの地位が脅かされると途端に排除に乗り出す。
 異質だから、気味が悪いから、人間が万物の霊長だから」

心底憎々しげにそう言った。
そして私をみすえて力強くこう続ける。

「だから、僕達は反逆する。 彼女たちはその象徴だ。
 悪魔だろうと犬猫だろうと宇宙人だろうと異世界からの訪問者だろうと、そこにいる者を兄弟と思う。
 それが絢爛世界(ゴージャスタイムズ)。 僕達の悲願。
 全部を肯定する、もうすぐやってくる、他のどの世界よりも優しくて、誉れ高い世界。
 この船はさしずめ新しい世界を呼ぶ"夜明けの船"だ」


−ミカズチ カザマ−


「やぁ、新米パイロットさん。
 私はミカズチ カザマです。
 よろしくおねがいします」

なんて言うかいやに丁寧な口調で話す人だ。
こう言う人は嫌な奴に違いない。
無理して敬語で話す奴は嫌な奴だ。 よどみなく敬語を扱う奴は訓練された嫌な奴だ。

「良ければデッキを案内ますよ」
「ありがと」
「では中に入りましょうか」

先頭だってデッキに入っていくミカズチさんをこのまま見送って逃げてしまう事を思いつくが、あまり意味が無いのでやめた。

「これがあなたの機体『希望号改』。
 RB士翼号の正当なる後継機です。
 ………もしかしてラウンドバックラーを知らないんですか?
 RB…ラウンドバックラーって言うのはシールド(バックラー)を付けているシールドシップの小さい奴ですよ。
 シールドシップも知らないんですか?
 えーっ、シールドシップって言うのは絶対物理障壁を張る事で抵抗を消して速度を出せる戦艦の事ですよ。
 ダイアンシスもシールドシップですね。
 全長250m。ガラクタの寄せ集めみたいに偽装していますが最新鋭艦です。
 同時魚雷発射数64。同時運用RB16機。
 300名の知類で運営されています。
 でも大きいと小回りが効かないからRBがあるんです。
 シールドの拡張面積に応じて変形するために人型が採用された訳ですね」
「これに乗って戦うの?」
「そう。 早速動かしてみますか?
 ほら乗ってみて」

あつらえたような乗り心地…もしかしてシートにあわせて義体が作られているのかもしれない。
股の間からレーダーを兼任しているコントロールレバーが競り上がって来る。

「うちじゃ電子戦の対象になる事が問題になってIFSは採用していません。
 でもバイクより難しくありませんよ。
 フットバーを蹴って旋回。コントロールバーでスピード調節。手元のトリガーでアタックです。
 コンピューターは独立型だから乗っ取られる事は無い…代わりにコンバットリンクも使えないんですけどね。
 ま、そこは腕でカバーってやつです。
 それじゃあシュミュレーターを起動してみましょうか、なに2000時間も泳げば物に出来きますよ」

やっぱり私の持論は正しかった。



−テンカワ アキト−


ミカズ・チカザマ…あいつはサドだ。
初心者の私に手加減無しで追いまわしやがった。
いつか倒してやるとか考えながら食堂へと足を伸ばす。
ここは海賊船だと言うのにラインナップが無駄に豊富だ。
それにしても回らない寿司なんてメニューがあるのは笑った。
つまりこの世界でも回転寿司は盛況なのだろう。
私は撃墜ポイント(統合軍にいた時の分としてヤガミが入れていたらしい)を消費してお昼ご飯を買った。
買ったのは火星丼。
未来世界なのにタコ型にカットしてあるソーセージがありえなくって気に入った。
しかもこれが火星の郷土料理らしい。

「どうだった?」

食事を終えると黄色いジャケットを着た男の人がやってくる。
黄色い服は生活班の人の仕事着だ。
コックなのだろう。

「うーん、ちょっと薬味が足りてない気がする」
「ごめんね、実はまだ加減がわからないんだ。
 本当はちゃんと味覚に問題の無い人が作るべきなんだけどね」
「味覚が無いのにコックなんてやってるの?」
「昔、酔狂で料理当番をやってた兼業パイロットがいてね。
 そいつは色々在って船をおりちゃったけど
 そいつのおかげでみんなの舌が肥えちゃって…
 贅沢に慣れるのは早いけど、逆はそうじゃないって言う典型だね。
 そこで昔料理人を目指してた俺に白羽の矢が立ったって訳さ。
 …もう諦めていたんだけどね」

一瞬だけ懐かしむような遠い目をしたのに気がついた。

「………あの、あのさ。 つらくない?」
「なんで?」
「もう諦めた夢に無理やり向き合わされてるんでしょ?」
「たかが遺跡一個のために故郷を目の前で消し飛ばされれば誰だって牙をむく
 そして俺に出来る事はそう多くないからね。
 ここは、もう戦えなくなった俺のささやかな戦場って訳さ」

彼の襟元に何かを表す徽章が誇らしげに輝いてる。

「紹介が遅れたね。
 俺、テンカワ=アキト。 ダイアンシスのコックをやってる」
「私、マイフミコ。 よろしく」

挿し伸ばされた手を握ろうとしたその時に照明がいきなり赤くなる。

【第一警戒態勢が発令されました】
【非戦闘員は食堂に集合】
【全員戦闘配置についてください】
【敵、地球軍討伐部隊】

「行っておいで」
「行ってきます」

手を握ってよろしくをやると、なんだか安心できる笑顔で送ってくれる。
きっとさぞかしモテるんだろうと考える。
私は食堂を後にした。


――― 一方その頃


主要クルーの集まったダイアンサスブリッジに緊張が走る。
ウインドウは相互にサウンドオンリー。

『停船せよ、停船せよ、貴船の船籍、および所属を伝えよ。 しからずば攻撃す! 繰り返す!
 停船せよ、停船せよ、貴船の船籍、および所属を伝えよ。 しからずば攻撃す! 』
「トシロー・スミス………住民虐殺の大悪党だね?
 初対面の手付代わりに答えてあげるよ。
 所属は火星解放戦線! 船の名前はダイアンシス!
 自らの枷を自らで決める、そんな自由を運ぶ船だ!
 これから来る新しい世を呼び込む夜明けの船だ!
 そしてボク達は弱者を守るために来た。
 『そこまでだ!』マイノリティが虐げられる、そんな世はもう終わる!
 右、魚雷戦用意!!
 1番から12番まで設定はアクティブホーミング!!
 魚雷斉射のあとRBで片をつける!」

艦長が右手を振って号令をかける。

「反転雷撃、ってぇー!!!」



−ヤガミ ソウイチロー−


火星の海は明度が高い。
だからと言って最高時速500km/hを超えるBRにはあまり十分だとは思えない視界の広さだ。
その視界も絶対物理防壁が光学、電波系、磁場系、重力系、音波系のセンスをシャットアウトするためあまり意味が無いかもしれない。
通信が開くとそこには黄色いジャンパーに(ただし私服)ふちのある眼鏡。

『だいぶミカズチに絞られたようだな』
「おかげさまで、動く分には問題ないわ」
『いいだろう。 では火星の海での戦い方を教える。
 感じているだろうその通り高速戦闘を行う火星の海では見てそれに対応して動いていたんじゃ間に合わない。
 そこでソナーで音を拾って未来予測で戦闘を行う。
 まず接敵したい相手と同じエリアに入る。そして相対速度を合わせて追いかける。最後に同じ機動を取る。
 相手との三要素の差はトポロジーレーダーによって表されている。
 意味がわからなければ機械的に三角形をあわせるように動いてみろ』

魚雷が飛んでくる。 その数15。

『魚雷から逃げるときは逆だ!
 機動か速度を変えろ!』
「いきなり出来るかー!!」

3発直撃。
もんどりうって吹き飛ばされる。
シールドが安定しない為か真っ直ぐ泳げなくなる。
安定させるためにシールドを切ってその場に止まる。
あれ? 沈んでるような?
重力の影響を受けるって事は機体の比重が釣り合ってないって言う事?
どんどん沈んでいく希望号改のなかで私は考えた。
重力の影響を受ける。 ミサイルが飛んでくる。 有利な機動の低機動を取り合う戦闘…。
つまり…つまりこれは……フライトシミュレーター?
意識が覚醒した。
それは確かなひらめき。




2252/06/03/8:15
マイフミコ 舞踏開始




『マイフミコ!!』
「シューティングゲーマーをなめるなぁーっ!!」

残りの魚雷は13。
職人芸レベルのドット避けを駆使してその合間を抜ける。
魚雷との距離は正確に5m。
全国レベルのランカーを舐めちゃいけない。
3 2 1 抜けた!
タイミングをみはからって45°ロール。
機動をやめて流れに乗り急上昇、運動エネルギーを位置エネルギーに変換する。
きっかり90°だけロールするとシールドを張って一気に飛び込む。
水より比重の重い機体を利用して今度は位置エネルギーを運動エネルギーに変えてゆく。
さらにシールドの位置を微妙にずらして水圧の抵抗を受けると縦方向のベクトルを感じた。
すれ違いざまに敵船艦に魚雷を打ち込んだ。 続けて3発。
私の背後で敵艦が沈んだ。

「楽勝♪」

何時の間にか隣に士翼号がやってきていた。
ウインドウが開く

「戦闘のコツは掴めたようだな
 本当の戦いはこれからだ。 この火星の海には、
 地球の艦船がウヨウヨしている。 俺達を追ってな…。
 直に宇宙人どもも絶好の介入の機会だとやってくるだろうな。


 …ああ、言い忘れていた。ようこそ、絢爛舞踏。
 ここが絢爛舞踏祭の舞台だ」



――― 一方その頃



「艦長、シルチスで連続爆破テロが起きています。
 火星政府はこれを独立軍の仕業だと断定しました」
「分かりました、これよりシルチスに向かいます。
 警戒態勢パターンBへ移行。
 ハーリー君。全艦に伝達、一斉転舵」

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